説明

アルミン酸塩蛍光体及びその製造方法、並びに該蛍光体を用いた冷陰極蛍光ランプと照明用蛍光ランプ

【課題】 真空紫外線や紫外線励起下において、従来のものより高輝度の緑色の発光を呈し、しかも、従来品に対し近紫外領域に比べ可視光領域での発光強度が高くかつ水銀線の吸収にも優れたMn付活アルミン酸塩蛍光体、該蛍光体の製造方法、及びこの蛍光体を用いた冷陰極蛍光ランプや照明用蛍光ランプを提供する。
【解決手段】 一般式がCe23・x(Mn1-y,Mgy)O・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0.2≦x≦1.8、0≦y≦0.9、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体。このとき、式中のxが、0.3≦x≦1.2、nが、12≦n≦40であることが好ましい。
このようなアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜中に含む冷陰極蛍光ランプ及び照明用蛍光ランプ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線及び真空紫外線(特に180nm〜300nm)による励起下で、従来より2倍程度高輝度な緑色発光を呈し、しかも、その構造から、現在流通しているBAM:Eu,Mnに比べて寿命に優れたMn付活のアルミン酸塩蛍光体、及び該蛍光体の製造方法に関する。
また、本発明は、このようなアルミン酸塩蛍光体を用いた冷陰極蛍光ランプと照明用蛍光ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミン酸塩系の緑色発光蛍光体としては、Tb付活のセリウム・マグネシウム・アルミネイト蛍光体(以下、CAT蛍光体という)やEu・Mn共付活のバリウム・マグネシウム・アルミネイト蛍光体(以下、BAM蛍光体という)等が知られている。しかし、Tbは近年著しく価格が高騰している上、Tbのサブ光の発光による色純度の低下を逃れることが難しく、また、BAM蛍光体には寿命が悪い等の問題があった。
これらに対し、紫外線励起により高輝度の緑色発光を呈する、アルミン酸塩蛍光体として、例えば組成がCeMg0.75Mn0.25Al1119等のMn付活セリウム・マグネシウム・アルミネイト蛍光体(特許文献1)や、該蛍光体のMgの一部を他の2価金属元素で置換してなるアルミネイト蛍光体(例えば、特許文献2〜4)等が提案されてきている。
【0003】
しかし、市場では常に従来品よりも輝度の高い発光を呈する蛍光体の開発が望まれており、例えば、冷陰極蛍光ランプ(水銀の外にAr、Xe等の希ガスを管内に封入し、その放電により生じた紫外線や真空紫外線により蛍光体を励起するタイプのランプ)の蛍光膜用として用いられる緑色発光蛍光体についても、従来のものよりもより明るく高輝度な緑色発光を生じる蛍光体の開発が要望されている。
【0004】
ところで、上記のMn付活のセリウム・マグネシウム・アルミン酸塩系蛍光体は、もともとMnを付活しない場合にはCe由来の近紫外域(350nm付近)の発光をするが、これに、Mnを加えることでMnがCeからのエネルギーを受けとって励起され、2価のMn由来の緑色波長域(518nm付近)にピークを有する発光を呈する。そのため、このMn付活セリウム・マグネシウム・アルミン酸塩系蛍光体では、紫外線(特に180nm〜300nm)励起により高輝度の緑色発光を得るためには、3価のCeが吸収したエネルギーを効率よくMnに再吸収(即ちエネルギー伝達)させる必要がある。
したがって、このCe由来の近紫外域での発光は、CeからMnにエネルギーが伝達されなかった分の発光であり、肉眼で見えず、発光強度に寄与しないため、できる限り抑制し緑色光域での発光強度を高めたいという要望もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭49−77893号公報
【特許文献2】特許第2663306号公報
【特許文献3】特開平4−255790号公報
【特許文献4】特開2000−169844号公報
【0006】
【非特許文献1】J.Electrochem.Soc. SOLID-STATE SCIENCE AND TECHNOLOGY May 1976 Vol.123 No.5 P691
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、真空紫外線や紫外線励起下において、従来のものより高輝度の緑色の発光を呈し、しかも、従来品に対し近紫外領域に比べ可視光領域での発光強度が高くかつ水銀線の吸収にも優れたMn付活アルミン酸塩蛍光体、該蛍光体の製造方法、及びこの蛍光体を用いた冷陰極蛍光ランプと照明用蛍光ランプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、従来のMn付活セリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体の組成と輝度等の発光特性の関係について詳細に検討を重ねた結果、従来の同系のアルミン酸塩蛍光体の化学量論組成(以下、従来から知られているMn付活セリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体のCe:Mg+Mnがほぼ1:1になる組成を「化学量論組成」と略称する)からずれた組成とすることによって、驚くべきことに、水銀線のような励起光の吸収が2倍近く向上し、かつCeからMnへのエネルギー伝達の効率も向上した(Ce由来の350nm付近の発光とMn由来の517nm付近の発光の強度比が、Mnからの発光が大きくなる方向に変化した)結果、その緑色発光の輝度が著しく向上することを見出し、本発明に至った。
このように、本発明のMn付活アルミン酸塩系蛍光体(以下、単に本発明の「アルミン酸塩蛍光体」ともいう)は、該蛍光体を構成する各金属元素の含有比率が、化学量論組成からずれており、この化学量論組成からのずれ(不定比性)が該蛍光体の結晶構造の変化や光学的性質(発光特性)の変化をもたらし、優れた諸特性を有する蛍光体になり得るものと推測される。
【0009】
本発明は、このような知見の下でなし得たものであり、以下を要旨とする。
(1)一般式がCe23・x(Mn1-y,Mgy)O・nAl23(ただし、式中、x、y
及びnはそれぞれ、0.2≦x≦1.8、0≦y≦0.9、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体。
(2)前記一般式において、式中のxが、0.3≦x≦1.2であることを特徴とする前記(1)に記載のアルミン酸塩蛍光体。
(3)前記一般式において、式中のnが、12≦n≦40であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のアルミン酸塩蛍光体。
(4)波長254nmの紫外線で励起したときの、518nmの発光強度に対する350nmの発光強度の比が、15%未満であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のアルミン酸塩蛍光体。
【0010】
(5)Ce化合物、Mg化合物、Mn化合物、及びAl化合物を、化学量論的に組成式が前記(1)〜(3)のいずれかに記載の一般式となる割合で混合し、焼成することを特徴とするアルミン酸塩蛍光体の製造方法。
(6)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜中に含む冷陰極蛍光ランプ。
(7)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜中に含む照明用蛍光ランプ。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアルミン酸塩蛍光体は、母体を構成する各成分元素自体は従来のMn付活セリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体とは同じ構成成分からなるにもかかわらず、各成分元素の構成比率が従来の同系のものとは異なり、そのため、例えば母体構成成分のMgの一部を他の2価金属元素で置換することなく、従来のものよりもより高輝度の緑色発光を呈し、さらに、肉眼で見ることが出来ず、輝度に寄与しない紫外線領域の発光と比べて緑色領域の発光強度が高いものとすることができる。
【0012】
また、本発明の冷陰極蛍光ランプ及び照明用蛍光ランプでは、本発明のアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜として用いたので、より高光束で光束維持率の向上した緑色発光蛍光ランプとすることができる。
すなわち、本発明のアルミン酸塩蛍光体は、冷陰極蛍光ランプのみならず、通常の水銀ランプに好適に使用することができ、更には真空紫外域による励起を利用するプラズマディスプレイ等の真空紫外線発光素子に適用しても、その優れた特性が認められる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)は、一般式Ce23・x(Mn1-y,Mgy)O・nAl23で表されるアルミン酸塩蛍光体を波長254nmの紫外線で励起した際の、該一般式中のxと発光波長518nmの発光強度(◆)、及び発光波長350nmの発光強度(▲)との相関を示したグラフである。 (B)は、上記xと、発光波長518nmの発光強度に対する発光波長350nmの発光強度の比との相関を示したグラフである。
【図2】一般式Ce23・x(Mn1-y,Mgy)O・nAl23で表されるアルミン酸塩蛍光体における該一般式中のxと、172nmの励起スペクトル強度に対する254nmの励起スペクトル強度の比との相関を示したグラフである。
【図3】一般式Ce23・x(Mn1-y,Mgy)O・nAl23で表されるアルミン酸塩蛍光体における該一般式中のxと、発光輝度との相関を示したグラフである。
【図4】一般式Ce23・x(Mn1-y,Mgy)O・nAl23で表されるアルミン酸塩蛍光体における該一般式中のnと、発光輝度との相関を示したグラフである。
【図5】一般式Ce23・x(Mn1-y,Mgy)O・nAl23で表されるアルミン酸塩蛍光体における該一般式中のnと平均粒子径FSSSとの相関を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアルミン酸塩蛍光体は、一般式がCe23・x(Mn1-y,Mgy)O・nAl23で表され、該式中、x、y及びnはそれぞれ、0.2≦x≦1.8、0≦y≦0.9、7≦nの条件を満たす数であることを特徴とする。
すなわち、本発明のアルミン酸塩蛍光体は、従来のMn付活セリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体の化学量論組成から、マンガン、マグネシウム、及びアルミニウムの定比を、緑色発光の輝度や所望とする色度、近紫外域の発光と緑色域の発光との強度比等に応じて、上記一般式中のx、y及びnをこのような範囲内において調整することが重要である。
なお、従来のMn付活セリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体の化学量論組成(Ce:Mg+Mnがほぼ1:1)とは上記一般式におけるx値が2であり、yは任意の数であり、n値は11である。
【0015】
本発明のアルミン酸塩蛍光体は、前述の化学量論組成と比較して、Ceに対するマンガンとマグネシウムとの総和量が減少しているという特徴を有する。上記一般式中のx(蛍光体におけるマンガンとマグネシウムとの総和比)が、0.2未満であると、十分な発光が得られにくい。一方、1.8を超えると、従来の化学量論組成に近づくことになり、発光輝度の向上が達成できない。x値の好ましい範囲は、0.3≦x≦1.2であり、より好ましくは0.7≦x≦1.2である。
そして、上記一般式中のy(蛍光体中のMg+MnにおけるMgの比率)は、0≦y≦0.9の範囲内で適宜選択すればよいが、0.9を超えると、Mnが少なすぎて十分な発光が得られず、より強い発光を求めるならば0.8以下、特に好ましくは0.6以下が好ましい。一方、Mnが多い分には大きな問題にはなりにくい。しかしながら、色度としてより深い緑を求める場合(広い色再現範囲を求める場合)には、0.1以上が好ましく、また、色度はNTSC座標に合わせ高輝度を求める場合には、0.1以下が最も好ましい。
【0016】
また、本発明のアルミン酸塩蛍光体では、前記一般式中のnが7以上である。このn値(蛍光体におけるCe23に対するAl23の配合比)が、7未満であると、輝度特性が低下しやすい。
このように、本発明の蛍光体では、前述の特許文献1などに記載の公知組成と比較して、Al23の量を増加させることができる。
n値が12以上になると、蛍光体結晶の形状が平板形状から厚みを増したより球に近い形状に変化するため、ランプ等の蛍光膜を形成する場合などに、塗布媒体中の動きが他の蛍光体にあわせやすく、管端色差が出にくくなるうえ、充填性の面からも優位であり、ランプとしての十分な光量が得られやすい。一方、40を超えると、徐々に輝度が低下していくため、n値としては、12≦n≦40が好ましく、より好ましくは12≦n≦30、特に好ましいのは12≦n≦20である。
なお、本発明のアルミン酸塩蛍光体の組成に関しては、ICPにて組成を確認できる。
ちなみに、本発明のアルミン酸塩蛍光体の組成中のMgについては、本発明の効果を大きく阻害しない範囲で、Mgにイオン半径が近い例えばSrやBaのような二価金属によって少量置換されていても何ら差し支えなく、また、Ceは同様にY,Gd,La等により一部置換されていても何ら差し支えなく、Alの一部をGaおよび/またはScにより置き換えてもよい。
【0017】
本発明のアルミン酸塩蛍光体は、その組成が従来の化学量論組成のものと大きく異なるため、結晶構造の変化を生じていると推定されるが、その詳細は未だ明らかではない、しかしながら、予備的測定によれば、従来の化学量論組成のものに比べ、a軸方向が縮み、c軸方向が延伸しているようである。
すなわち、J.Electrochem.Soc. SOLID-STATE SCIENCE AND TECHNOLOGY May 1976 Vol.123 No.5 P691には、
CeMgAl1119(=Ce23・2(Mg)O・11Al23)のa軸は5.61nm、c軸は21.99nm、
CeMnAl1119(=Ce23・2(Mn)O・11Al23)のa軸は5.62nm、c軸は21.96nmとの記載があり、
c軸長さ/a軸長さが、3.92以下であるのに対し、
本発明のnが12以上の蛍光体の構造では、a軸が5.58nm以下、c軸が22.00nm以上、c軸長さ/a軸長さは、3.93以上、特に好ましくはc軸長さ/a軸長さは3.94以上になっているようである。
【0018】
本発明のアルミン酸塩蛍光体の特性面からみた態様として、518nmの発光強度に対する350nmの発光強度の比が、15%未満であることが好ましい。通常の化学量論組成の発光強度比は20%強であることから、本発明のアルミン酸塩蛍光体については、CeからMnへのエネルギー伝達が効率よく行われていることがわかる。
これをデータを用いて説明する。本発明のアルミン酸塩蛍光体において、表1に示すようにCe、Mn、及びAlを一定量に固定し、Mg量を変動させた場合における、波長254nmの紫外線で励起したときの、発光波長518nmの発光強度(◆)と発光波長350nmの発光強度(▲)の変化を図1(A)に示す。なお、表1中のx,yは、前記一般式Ce23・x(Mn1-y,Mgy)O・nAl23におけるx,yの値を表し、x,y以外の各数値は、各構成元素のモル数である。
【0019】
また、図1(A)のデータを基に作成した、Mg量の変動に伴う発光波長518nmの発光に対する発光波長350nmの発光の強度比を図1(B)に示す。
なお、図1(A),(B)の各グラフにおいて、x軸は前記一般式Ce23・x(Mn1-y,Mgy)O・nAl23におけるxの値を表している。よって、化学量論組成とは、Mg量が0.79mol《前記一般式において、x=2、y=0.79、n=11、すなわち、Ce23・2(Mn0.21,Mg0.79)O・11Al23なるアルミン酸塩蛍光体》をさす。
このように、図1(A),(B)から、化学量論組成(x=2.0)からxを減少する方向にずらした際に、Ce由来の近紫外域での発光強度に対するMn由来の緑色光領域での発光強度が著しく上昇することがわかる。
【0020】
【表1】

【0021】
また、本発明のアルミン酸塩蛍光体は、化学量論組成のものに対し、前述のCeからMnへのエネルギー伝達が改善されているだけでなく、水銀の発光に対する吸収も改善されている。
図2は、このことを示したものである。化学量論組成の従来の蛍光体が、VUV(172nm)の範囲でも、水銀線の発光(主に254nm)でも、ほぼ同じ程度の励起スペクトル強度を示すのに対し、化学量論組成(x=2.0)からxを減少する方向にずらした本発明の蛍光体では、水銀線での励起が、VUVでの励起の2倍近くに向上していることがわかる。
【0022】
本発明のアルミン酸塩蛍光体の製造方法は、Ce化合物、Mg化合物、Mn化合物、及びAl化合物を、化学量論的に組成式が一般式Ce23・x(Mn1-y,Mgy)O・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0.2≦x≦1.8、0≦y≦0.9、7≦nの条件を満たす数)となる割合で混合し、焼成することを特徴とする。
本発明で好ましく使用される蛍光体原料としては、加熱によりセリウム(Ce)の酸化物に変わりうるCe化合物、加熱によりマグネシウム(Mg)の酸化物に変わりうるMg化合物、加熱によりマンガン(Mn)の酸化物に変わりうるMn化合物、及び加熱によりアルミニウム(Al)の酸化物に変わりうるAl化合物であり、より好ましい原料としては、炭酸セリウム、酸化セリウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マンガン、酸化マンガン、アルミナなど、その他強熱することで容易に酸化物となる塩が挙げられる。
【0023】
本発明の製造方法は、例えば、以下のような手順で行うことができる。
1)上記のような原料を所定量秤量し、ボールミル、Vコンなどの混合手段により十分に混合する。
2)得られた混合物をアルミナ坩堝等の耐熱容器に充填して、還元雰囲気において1400〜1600℃で、高温炉中において炉の昇降温に要する時間も含めて10〜26時間焼成する。
3)得られた焼成物に、通常の蛍光体製造時に適用される後処理工程と同様の分散、洗浄、乾燥の諸処理を施す。
本発明では、焼成に供される蛍光体原料化合物の混合物中に、公知のアルミン酸塩蛍光体を得る場合と同様に、反応促進のためにフッ化アルミニウムなどのフッ化物またはホウ酸や酸化ホウ素等をフラックスとして添加してよい。
【0024】
本発明のアルミン酸塩蛍光体の粒径に関しては、特に限定されないが、本発明の冷陰極蛍光ランプや照明用蛍光ランプの蛍光膜などに適用する場合には、取り扱いや色の均一性の点から、FSSS粒度で1〜20程度の範囲から任意に選択すればよく、好ましくは2〜7である。
【0025】
本発明のアルミン酸塩蛍光体を照明用の蛍光ランプとして使用する場合には、通常、青と赤の蛍光体と混合し、白色発光させて使用する。
混合する青または赤の蛍光体としては、従来のLAP蛍光体と組み合わせて使用されているものを転用して使用することができる。
例えば、青色発光するものとしては、Eu付活のBAM又はSCA蛍光体が使用できる。照明用のランプとして使用する場合には、発光スペクトルの半値幅が広いものが好適に使用されるので、例えばBAMであれば、MnやSrを添加したものや、SCAであれば、Sr、Ba、Ca、Mg等の配合量を適宜変更したものが好適に使用される。
また、赤色発光するものとしては、Y23:EuやY(P,V)O4:Euなどが好適に用いられ、これに必要に応じ(例えば食肉用照明)、深い赤色蛍光体として3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn等を添加することも好ましい。
もちろん、本発明のアルミン酸塩蛍光体は、水銀励起ではなく希ガスランプとして使用してもよく、その場合、白色を作成するのに好適な組み合わせは、BAMとY(P,V)O4:Euなど、真空紫外線での発光が十分得られるものを適宜選択すればよい。
【0026】
一方、本発明のアルミン酸塩蛍光体を、CCFLのような、画像表示目的で使用されるランプに使用する場合、従来のLAP蛍光体に比べ、深い緑を表現することができるため、広色再現範囲用のランプとすることが好ましい。これにより、例えば森などを従来のLAPの、やや黄色い緑に比べ、よりリアルな緑として表現することができる。
このような場合に組み合わせる蛍光体としては、CCFL用としてEu、Mn共付活BAMと組み合わせて用いられる蛍光体が好適に使用でき、例えば青色蛍光体としては、y値が0.070より小さくなるBAM蛍光体、あるいは、y値が0.040より小さくなるSCAなどが好適に用いられ、赤色蛍光体としては、Y23:EuやY(P,V)4:Euなどが好適に用いられ、特に好ましくはYVO4:Euである。
【0027】
本発明の冷陰極蛍光ランプまたは照明用蛍光ランプは、前述のようにして得られた本発明のアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜中に含む以外は、従来の冷陰極蛍光ランプや照明用蛍光ランプと同様にして製造される。
すなわち、本発明のアルミン酸塩蛍光体を、例えば、低融点ガラス粉末、微粒子金属酸化物、あるいは微粒子金属硼酸塩または燐酸塩等の結着剤とともに水または酢酸ブチル、イソプロピルアルコール等有機溶媒の溶媒中に懸濁させて蛍光体塗布スラリーを調製し、これをガラス管内壁に塗布し乾燥させ蛍光膜を形成した後、これをベーキングしてから水銀封入、減圧、封止、電極装着すればよい。
なお、このようにして得られた蛍光ランプを画像表示用として使用する場合は、広色再現範囲を持ったバックライトユニットとすることができ、これを用いて広色再現範囲のディスプレイを作成することができる。
【実施例】
【0028】
〔x値およびy値の検討1:MnとAlを一定にした場合のMg量の定比変化〕
マンガンとアルミニウムを一定量とした場合にマグネシウム量を変化させて発光輝度の改良を検討した。
【0029】
実施例5
・Ce23:1.00mol
・MgCO3:0.47mol
・MnO2:0.42mol
・Al23(アルファタイプ):12.9mol
・AlF3:0.02mol
上記原料を十分に混合した後、坩堝に充填し、更に黒鉛の塊を蛍光体原料の上にのせ、蓋をして水蒸気を含んだ窒素雰囲気中で最高温度1550℃にて昇降温時間を含めて24時間かけて焼成した。
次いで、焼成粉について、分散、洗浄、乾燥、篩の処理を行い、その組成式がCe23・0.42MnO・0.47MgO・12.9Al23《すなわち、Ce23・0.89(Mn0.47,Mg0.53)O・12.9Al23》で表されるMn2+付活アルミン酸塩蛍光体を得た。なお、AlF3は蛍光体の製造に一般的に用いられるフラックスである。
【0030】
得られた蛍光体の発光の色度及び輝度について、表2に示す。なお、表2中、Al23のコラムがn値を、Mg+Mnのコラムがx値を、Mg/(Mg+Mn)のコラムがy値を、それぞれ表している。
また、色輝度の測定方法については、色彩輝度計(コニカミノルタ社製:CS200)を使用し、標準品として市販のテルビウム付活リン酸ランタン蛍光体(化成オプトニクス社製:蛍光体LP−G2)の輝度を100として、輝度を測定した。
【0031】
【表2】

【0032】
実施例1〜4,6〜12、比較例1〜5
表2に示した組成を用いた以外は、上記実施例5と同様にして、実施例1〜4,6〜12および比較例1〜5のMn2+付活アルミン酸塩蛍光体を得た。
得られた各蛍光体の色度および輝度について、表2に併せて示す。また、表2の結果を基にx値の変化に伴う輝度について、図3のグラフに示した。
【0033】
〔x値およびy値の検討2:MgとAlを一定にした場合のMn量の定比変化〕
マグネシウムとアルミニウムを一定量とした場合にマンガン量を変化させて発光輝度の改良を検討した。
【0034】
実施例14〜20
表2に示した組成を用いた以外は、上記実施例5と同様にして、実施例14〜20のMn2+付活アルミン酸塩蛍光体を得た。
得られた各蛍光体の色度および輝度について、表2に併せて示す。
【0035】
〔n値の検討:MnとMgを一定にした場合のAl量の定比変化〕
マンガンとマグネシウムを一定量とした場合にアルミニウム量を変化させて発光輝度の改良を検討した。
【0036】
実施例21〜29
表2に示した組成を用いた以外は、上記実施例5と同様にして、実施例21〜29のMn2+付活アルミン酸塩蛍光体を得た。
得られた各蛍光体の色度、輝度およびFSSS法により測定された平均粒子径について、表2に併せて示す。
また、表2の結果を基に、Al量の変化に伴う輝度について、図4のグラフに示した。図4では、横軸がn値(蛍光体中のアルミナ量)である。
さらに、実施例22〜28については、表2の結果を基に、Al量の変化に伴う粒子径について、図5のグラフに示した。図5では、横軸が蛍光体中のAl量(mol)である。
【0037】
〔Mg量の検討〕
実施例13
表2に示した組成を用いた以外は、上記実施例5と同様にして、実施例13のMn2+付活アルミン酸塩蛍光体を得た。
得られた蛍光体の色度、および輝度について、表2に併せて示す。
【0038】
以上のように、実施例1〜29は、いずれも、比較例1〜5よりも高い輝度の緑色発光を呈した。
また、実施例22〜28の結果から、Al23の量を増加させると、平均粒子径が小さくなる傾向があることがわかった。
【0039】
〔Ceの一部La置換の検討〕
実施例30,31
表3に示した組成を用いた以外は、上記実施例5と同様にして、実施例30,31のMn2+付活アルミン酸塩蛍光体を得た。
得られた蛍光体の色度、および輝度について、表3に併せて示す。
【0040】
【表3】

【0041】
以上のように、Ceの一部をLaに置き換えた実施例31では、Ceの一部をLaに置き換えていない実施例30とほぼ同等の色度、輝度が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のアルミン酸塩蛍光体は、従来公知のMn付活セリウム・マグネシウム・アルミン酸塩蛍光体よりもより高輝度の緑色の発光を呈し、しかも、従来品に対し近紫外領域に比べ可視光領域での発光強度が高くかつ水銀線の吸収にも優れたものとなり得る。
したがって、真空紫外域や紫外域の励起を利用する冷陰極蛍光ランプ、水銀ランプ、プラズマディスプレイなどの広範な分野に好適に使用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式がCe23・x(Mn1-y,Mgy)O・nAl23(ただし、式中、x、y及びnはそれぞれ、0.2≦x≦1.8、0≦y≦0.9、7≦nの条件を満たす数である)で表されるアルミン酸塩蛍光体。
【請求項2】
前記一般式において、式中のxが、0.3≦x≦1.2であることを特徴とする請求項1に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項3】
前記一般式において、式中のnが、12≦n≦40であることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項4】
波長254nmの紫外線で励起したときの、518nmの発光強度に対する350nmの発光強度の比が、15%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミン酸塩蛍光体。
【請求項5】
Ce化合物、Mg化合物、Mn化合物、及びAl化合物を、化学量論的に組成式が請求項1〜3のいずれか一項に記載の一般式となる割合で混合し、焼成することを特徴とするアルミン酸塩蛍光体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜中に含む冷陰極蛍光ランプ。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミン酸塩蛍光体を蛍光膜中に含む照明用蛍光ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−47753(P2010−47753A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173416(P2009−173416)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】