説明

アルミ押出材のマット処理方法、該処理方法によるアルミ押出材及び有価スラッジ

【課題】 毒性の強いアンモニア化合物のスラッジを生成することなく、アルミ押出材の表面をマット化できるアルミ押出材のマット処理方法を提供する。
【解決手段】 フッ化カリウム及びフッ酸濃度をそれぞれ0.15〜0.3mol/L、浴温を50〜70℃とする加温処理浴に、脱脂処理したアルミ押出材を浸漬処理して、フッ酸のアルミ溶解反応及び溶解アルミとフッ化カリウムによるカリウム氷晶石生成反応を施すことによって、アルミ押出材のマット処理とする。アルミ押出材のダイスマークの消去と表面粗さをRa0.9〜1.1とする微細にして美麗なマット化表面を得られる。生成する副産物のスラッジはカリウム氷晶石であり、回収してアルミ精錬等のフラックス剤として再利用できる。スラッジが抱える環境への悪影響のない好ましいマット処理方法とすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ押出材の表面をマット化し且つマット化によって有価スラッジを生成するようにしたアルミ押出材のマット処理方法に関し、該処理方法でマット処理したアルミ押出材に関し、また、上記処理方法で生成した有価スラッジに関する。
【背景技術】
【0002】
押出成形によって表出するアルミ押出材表面のダイスマークの抑制乃至消去と表面を全面に亘って艶消し状とするマット化のために、陽極酸化処理、二次電解処理、電着塗装処理等の表面性能確保のための所定の表面処理に先立ち、脱脂処理したアルミ押出材のマット処理を施すことが行われており、下記特許文献1は、フッ化アンモニウム及び硫酸を含有する処理浴に順次アルミ押出材を2回浸漬することにより、上記硫酸とフッ化アンモニウムのアルミ溶解反応、溶解アルミとフッ化アルミニウムの生成反応を施すものとされ、また、特許文献2は、Cu化合物及び/又はAg化合物及びフッ化水素アンモニウムを含有する処理浴にアルミ押出材を浸漬し又は無機塩類及びフッ化水素アンモニウムを含有する処理浴にアルミ押出材を浸漬することにより、上記フッ化水素アンモニウムのアルミ溶解反応、溶解アルミとフッ化水素アンモニウムのフッ化アルミニウムの生成反応を施すものとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−144195号公報
【特許文献2】特開2002−256490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら特許文献1及び特許文献2は、処理浴へのアルミ押出材の浸漬によって、それぞれアルミ押出材表面のダイスマークを抑制乃至消去して全面に亘る艶消し状のマット化をなし得るが、いずれもフッ化アンモニウム又はフッ化水素アンモニウムを処理浴に含有することから、マット化の副産物、即ち、スラッジとして生成するものがアンモニア化合物であるために、該スラッジは、これを、産業廃棄物として廃棄処理することが必要となるが、産業廃棄物業者もアンモニアを含んでいるものは好まず、従って、廃棄処理をなし得ない状況に至る可能性もあり、このような事態となると、アルミ押出材を用いた商品の生産を中止せざるを得ない結果に至るという企業リスクが残る。従って、アルミ押出材の処理を業とする関係メーカーとしては、環境の保全、廃棄処理のコスト、生産中止の企業リスク等の面から、アンモニア化合物のスラッジを副産物とすることなく又は可能であれば副産物として不可避的に生成されるスラッジを有価のものとして再利用し得るようにしつつ、ダイスマークの抑制乃至消去とマット化処理を可能とする新規なアルミ押出材のマット処理技術を確立し、可及的速やかにこれに移行することが求められる。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、その解決課題とするところは、アルミ押出材のダイスマークの抑制乃至消去と可及的美麗なマット化をなし得るとともに生成する副産物を再利用可能な有価のスラッジとし得るアルミ押出材のマット処理方法を提供するにあり、また、該処理方法によって得られるマット化表面を有するアルミ押出材及びその有価のスラッジを提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に沿って鋭意研究を行った結果、本発明者らは、フッ化カリウム及びフッ酸を含有する加温処理浴にアルミ押出材を浸漬することによって、フッ酸のアルミ溶解反応を施すとともに溶解アルミとフッ化カリウムのカリウム氷晶石生成反応を施すアルミ押出材のマット処理を行うようにすることによって、アルミ押出材のダイスマークの抑制乃至消去と可及的美麗なマット化表面を得られる上、生成した副産物のカリウム氷晶石は、例えば、アルミ精錬やアルミ鋳造に有効なフラックス剤として再利用可能であることから、該副産物のスラッジを有価のものとし得るとの知見を得るに至った。
【0007】
本発明はかかる知見に基づいてなされたもので、請求項1に記載の発明を、アルミ押出材表面をマット化するとともに該マット化により有価スラッジを生成する表面処理方法であって、フッ化カリウム及びフッ酸を含有する加温処理浴にアルミ押出材を浸漬することにより、フッ酸のアルミ溶解反応、溶解アルミとフッ化カリウムのカリウム氷晶石生成反応を施すことを特徴とするアルミ押出材のマット処理方法としたものである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、上記に加えて、上記加温処理浴におけるフッ化カリウム及びフッ酸の濃度を所定範囲のものとすることが、有効且つ確実に可及的美麗なマット化表面を有するアルミ押出材とし得ることから、これを、上記加温処理浴におけるフッ化カリウム及びフッ酸濃度をそれぞれ0.15〜0.3mol/Lの範囲とすることを特徴とする請求項1に記載のアルミ押出材のマット処理方法としたものである。
【0009】
請求項3に記載の発明は、同じく上記に加えて、フッ化カリウム及びフッ酸を含有する加温処理浴の浴温を所定範囲のものとすることが、同じく有効且つ確実に可及的美麗なマット化表面を有するアルミ押出材とし得ることから、これを、上記加温処理浴における浴温を50〜70℃とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミ押出材のマット処理方法としたものである。
【0010】
請求項4に記載の発明は、上記マット化処理方法で処理して、微細にして光の乱反射を有効且つ確実に行うに好適な表面粗さを有することによって可及的美麗なマット化表面のアルミ押出材を提供するように、これを、請求項1乃至3のいずれかによって形成したマット化表面を有するアルミ押出材であって、そのマット化による表面粗さをRa0.9〜1.1としてなることを特徴とするマット処理のアルミ押出材としたものである。
【0011】
請求項5に記載の発明は、上記マット化処理方法で処理したスラッジを回収して得られる有価のスラッジを提供するように、これを、請求項1乃至3のいずれかによって生成したカリウム氷晶石を回収することによって構成してなることを特徴とする有価スラッジとしたものである。
【0012】
請求項6に記載の発明は、該有価のスラッジを、カリウム氷晶石の用途として、アルミ精錬やアルミ鋳造のフラックス用として再利用可能とするように、これを、上記カリウム氷晶石をアルミ精錬やアルミ鋳造のフラックス用としてなることを特徴とする請求項5に記載の有価スラッジとしたものである。
【0013】
本発明はこれらをそれぞれ発明の要旨として、上記課題解決の手段としたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のとおりに構成したから、請求項1に記載の発明は、フッ化カリウム及びフッ酸を含有する加温処理浴にアルミ押出材を浸漬することによって、フッ酸のアルミ溶解反応を施すとともに溶解アルミとフッ化カリウムのカリウム氷晶石生成反応を施すアルミ押出材のマット処理を行うようにして、アルミ押出材のダイスマークの抑制乃至消去と可及的美麗なマット化表面を得る一方、生成した副産物のカリウム氷晶石を、例えば、アルミ精錬やアルミ鋳造に有効なフラックス剤として再利用可能とすることによって、副産物のスラッジを有価のものとし得るアルミ押出材のマット処理方法を提供することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、上記に加えて、上記加温処理浴におけるフッ化カリウム及びフッ酸の濃度を所定範囲のものとすることにより、有効且つ確実に可及的美麗なマット化表面を有するアルミ押出材とすることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、同じく上記に加えて、フッ化カリウム及びフッ酸を含有する加温処理浴の浴温を所定範囲のものとすることにより、同じく有効且つ確実に可及的美麗なマット化表面を有するアルミ押出材とすることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、上記マット化処理方法で処理して、微細にして光の乱反射を有効且つ確実に行うに好適な表面粗さを有することによって可及的美麗なマット化表面のアルミ押出材を提供することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、上記マット化処理方法で処理したスラッジを回収して得られる有価のスラッジを提供することができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、該有価のスラッジを、カリウム氷晶石の用途として、アルミ精錬やアルミ鋳造のフラックス用として再使用可能なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】マット化のメカニズムを示す説明図である。
【図2】アルミ押出材へのフッ化カリウムの吸着メカニズムを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明を更に具体的に説明すれば、本発明のアルミ押出材のマット化処理方法は、アルミ押出材表面をマット化するとともに該マット化により有価スラッジを生成するものとして、フッ化カリウム及びフッ酸を含有する加温処理浴にアルミ押出材を浸漬することにより、フッ酸のアルミ溶解反応、溶解アルミとフッ化カリウムのカリウム氷晶石生成反応を施す方法としてある。
【0022】
本例のアルミ押出材は、例えばJIS規定の6063S−T5材のバー材やパネル材であり、事前処理として脱脂処理を施し、また事後に陽極酸化処理、必要に応じて二次電解処理、電着塗装等の事後処理を施すことによって、一般に開口部材、壁面部材、エクステリア部材等の各種建築材料として使用するものとしてある。
【0023】
該アルミ押出材、即ち、一般に事前の脱脂処理を施したアルミ押出材を浸漬する加温処理浴は、フッ化カリウムとフッ酸を含有するものとしてあり、該加温処理浴にアルミ押出材を浸漬することにより、該加温処理浴中でフッ酸によるアルミの溶解、溶解したアルミとフッ化カリウムのカリウム氷晶石の生成の反応を生じさせて、上記アルミ押出材に押出成形によって不可避的に形成されるダイスマークを抑制乃至消去するとともに該アルミ押出材を可及的美麗なマット化表面を有するものとすることができ、上記事後処理を施すことによって光の乱反射による艶消し状のマット面を有する各種建築材料に好適な商品を得ることができる。
【0024】
これを図面によって反応メカニズムを説明すれば、加温処理浴への浸漬によって、図1に示すように、フッ酸(HF)によるアルミ溶解反応、即ち、6HF+2Al→2Al3++3H↑+6Fのアルミの溶解反応を生じるとともにフッ化カリウム(KF)がアルミをマスキングして、アルミ押出材の表面にカリウム氷晶石生成反応、即ち、6KF+2Al3++6F→2KAlFのカリウム氷晶石生成反応を生じる一方、フッ酸が、アルミ押出材の表面に生成したカリウム氷晶石を避けて、上記と同じアルミの溶解反応を継続し、この反応を繰り返すことによって、アルミ押出材の表面を凹凸面、即ち、溶解によりダイスマークを抑制乃至消去するとともに全面をマット化するに至るものと推認される。
【0025】
このとき、上記フッ化カリウムによるアルミのマスキングは、図2に示すように、アルミ押出材の表面に、上記カリウム氷晶石生成反応と並行して、フッ化カリウムが吸着して該フッ化カリウムによる不活性層を形成するために、フッ酸のアルミの溶解反応を阻害しつつ、カリウム氷晶石生成反応を生じるものと見られる。
【0026】
フッ化カリウムとフッ酸は、HF:KF=1:1又はこれを幾分変化した濃度の濃度比率としたときに、アルミの溶解とカリウム氷晶石生成の反応が進行する一方、該濃度比率においてフッ酸濃度を高くすると、該フッ酸によるアルミの溶解が進んで、アルミ押出材の表面は、ピットを生じた全面腐食状の反応を招来し、また、フッ化カリウム濃度を高くすると、上記マスキングの作用によるアルミ押出材の不活性層の形成のために、フッ酸の溶解反応が阻害されて、ダイスマークの抑制乃至消去とマット化が不充分となるに至る。
【0027】
実験によると、加温処理浴におけるフッ化カリウムとフッ酸は、その濃度をそれぞれ0.2〜0.25Mol/Lの範囲とすること、また、該加温処理浴における浴温は、これを50〜70℃とすることによって、上記ダイスマークの抑制乃至消去とマット化を有効に行うことができる。
【0028】
即ち、フッ化カリウム及びフッ酸の濃度を0.05mol/L毎に変化し、それぞれ0.10〜0.35mol/Lの間で各濃度を組合せて、浴温を50℃、60℃、70℃とした各36通りの加温処理浴を形成し、該各加温処理浴に、脱脂処理、水洗処理を施して乾燥して形成した各試験体のアルミ押出材をそれぞれ20分間浸漬して、肉視により外観及びムラの有無を判定し且つ必要に応じて表面粗さ計で表面粗さを測定した。
【0029】
表1は、この評価結果を示すもので、表中の○は、マット面が微細で均一にしてムラがなく、外観良好にして且つダイスマークの消去が完全であり、このとき、マット化の表面粗さがRa0.9〜1.1の範囲内であったものを示し、△は、マット面が微細で均一にしてムラがなく、外観良好であるが、ダイスマークの抑制効果が認められるも該ダイスマークが幾分肉視されるものを示し、×は、マット面が不均一にしてムラが残り、外観不良が認められるとともにダイスマークの抑制効果が低く、残存したダイスマークが目立ったものを示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1によれば、浴温50℃のとき、フッ化カリウム及びフッ酸の濃度を、濃度比率1:1にして、それぞれ0.20mol/L、0.25mol/Lとしたとき、評価は△であるも、その余、即ち、フッ化カリウム又はフッ酸の濃度を0.20mol/L、0.25mol/Lとするも、濃度比率を1:1以外としたもの、また、フッ化カリウム又はフッ酸の濃度が0.15mol/L以下とし、0.30mol/L以上としたとき、いずれも評価は×であった。
【0032】
浴温60℃のとき、フッ化カリウム及びフッ酸の濃度を、濃度比率1:1にして、それぞれ0.20mol/L、0.25mol/Lとしたとき、また、濃度比率を1:1から幾分異なるものとするも、フッ化カリウム及びフッ酸の一方の濃度を0.20mol/Lとし、他方の濃度を0.25mol/Lとしたとき、評価は○であった。同様に濃度比1:1にして、それぞれ0.15mol/L、0.30mol/Lとしたとき及び濃度比率を1:1から幾分変化したものとするも、一方のフッ化カリウム濃度を0.15mol/Lとし、他方のフッ酸濃度を0.20又は0.25mol/Lとしたとき、一方のフッ化カリウム濃度を0.20mol/Lとし、他方のフッ酸濃度を0.15又は0.30mol/Lとしたとき、一方のフッ化カリウム濃度を0.25mol/Lとし、他方のフッ酸濃度を0.30mol/Lとしたとき、一方のフッ化カリウム濃度を0.30mol/Lとし、他方のフッ酸濃度を0.20、0.25mol/L、0.30としたとき、評価は△であった。その余、即ち、一方のフッ化カリウム濃度を0.15mol/Lとし、他方のフッ酸濃度を0.30とし、一方のフッ化カリウム濃度を0.25又は0.30mol/Lとし、他方のフッ酸濃度を0.15としたとき、更にフッ化カリウム又はフッ酸の濃度を0.10mol/Lとし、0.35mol/L以上としたとき、いずれも評価は×であった。
【0033】
浴温70℃のとき、フッ化カリウム及びフッ酸の濃度を、濃度比率1:1にして、それぞれ0.20mol/L、0.25mol/Lとしたとき、また、濃度比率を1:1から幾分変化したものとするも、フッ化カリウム及びフッ酸の一方の濃度を0.20mol/Lとし、他方の濃度を0.25mol/Lとしたとき、評価は○であった。同様に濃度比1:1にして、それぞれ0.15mol/L、0.30mol/Lとしたとき及び濃度比率を1:1から幾分異なるものとするも、一方のフッ化カリウム濃度を0.15mol/Lとし、他方のフッ酸濃度を0.20又は0.25mol/Lとしたとき、一方のフッ化カリウム濃度を0.20mol/Lとし、他方のフッ酸濃度を0.15としたとき、一方のフッ化カリウム濃度を0.25mol/Lとし、他方のフッ酸濃度を0.30molとしたとき、一方のフッ化カリウム濃度を0.30mol/Lとし、他方のフッ酸濃度を0.20mol/L又は0.25mol/Lとしたとき、それぞれ評価は△であった。その余、即ち、一方のフッ化カリウム濃度を0.15mol/Lとし、他方のフッ酸濃度を0.30とし、一方のフッ化カリウム濃度を0.20mol/Lとし、他方のフッ酸濃度を0.30mol/Lとしたとき、一方のフッ化カリウム濃度を0.25mol/L又は0.30mol/Lとし、他方のフッ酸濃度を0.15mol/Lとしたとき、更にフッ化カリウム又はフッ酸の濃度を0.10mol/Lとし、0.35mol/Lとしたとき、いずれも評価は×であった。
【0034】
以上の結果から、フッ化カリウムとフッ酸の濃度は、これを0.15〜0.3mol/Lとすること、このときフッ化カリウムとフッ酸の濃度比率は、これを1:1とし又は概ね1:1とすること、また、加温処理浴の浴温は、これを50〜70℃とすることで、ダイスマークが幾分肉視されるも、これを抑制するとともに外観及びムラのないマット面とするアルミ押出材のマット処理を行うことが可能となる。また、フッ化カリウムとフッ酸の濃度は、これを0.20〜0.25mol/L程度の範囲のものとすること、即ち、加温処理浴を0.20〜0.25mol/LのHF+0.20〜0.25mol/LのKFの液組成とすること、加温処理浴の浴温は、これを、60〜70℃とすることが好ましく、これによってダイスマークの消去が完全で、外観良好にしてムラのない美麗なマット面とすることが可能となることが判明する。
【0035】
上記加温処理浴へのアルミ押出材の浸漬時間は、5〜30分とすることで上記マット処理を行うことができるが、浸漬時間が短いとダイスマークが肉視される抑制効果が不足する傾向を招き、浸漬時間が長いとダイスマークは消去し得るも、マット面の表面粗さが大きくなる傾向を招くので、該浸漬時間は、ダイスマークを完全に消去し、外観良好にしてムラのない美麗なマット面とする上で、10〜25分とするのが好ましい。
【0036】
このとき評価○のマット化表面を有するアルミ押出材の表面粗さを測定したところ、そのマット化による表面粗さは、いずれもRa0.9〜1.1の範囲であり、光の乱反射を有効且つ適切に行う微細なマット面であり、開口部材等のアルミ建材に用いるアルミ形材のマット面として極めて美麗なものであった。従って、該マット化表面を有するアルミ押出材は、そのマット化による表面粗さをRa0.9〜1.1とすることにより、各種アルミ建材に好適に使用することが可能となり、また、該アルミ建材への使用に際しては、常法に従って、表面処理性能を確保するために、事後処理として、陽極酸化処理又は該陽極酸化処理及び二次電解処理、更に電着塗装処理を施すことが好ましい。
【0037】
更に、上記実験の結果、加温処理浴中に沈殿残存したスラッジを回収し、該スラッジの定性分析を、XRD(X線回折)によって行った結果、該スラッジの主成分がカリウム氷晶石であることを検出確認した。そこで、更に該スラッジのフッ素含有比率を硫酸蒸留法を用いて分析した結果、該カリウム氷晶石を主成分とするスラッジにおけるフッ素含有率は44%であった。この結果から推認すると、該スラッジは100%乃至これに近いカリウム氷晶石であることが判明した。
【0038】
カリウム氷晶石は、例えば、アルミ精錬やアルミ鋳造のフラックスとして用いることが可能である。即ち、酸化アルミの融点が非常に高いために、酸化アルミを単独で融解するには困難を伴うところ、該酸化アルミはカリウム氷晶石に融け込み易い性質を示すことから、カリウム氷晶石をフラックス(融剤)として使用し、共有結合性の高い酸化アルミの3次元網目構造に、一本の結合手を持つカリウム氷晶石のフッ素原子を入り込ませるようにすれば、その融点を、工業的に可能な800℃前後まで降下し得るためである。
【0039】
従って、アルミ押出材のマット処理によって副産物として生成するカリウム氷晶石のスラッジは、従来の副産物であるアンモニア化合物が産業廃棄物として処理されることを要し、産業廃棄物処理業者もその取り扱いを好まないのと異なり、環境面に対して悪影響を与える可能性がなく、経済価値を有する有価スラッジとして、コストを掛けて廃棄処理を行う必要もなく、例えば、アルミ精錬やアルミ鋳造のフラックス用とすることによって、その有効な再利用を図ることが可能となる。
【0040】
以上のとおり、フッ化カリウム及びフッ酸を含有する加温処理浴を、アルミ押出材を浸漬する処理浴とし、その濃度乃至浴温を所定範囲のものとすることによって、アルミ押出材のダイスマークを抑制乃至消去して、全面に亘って均一なマット面を付与することができるとともにスラッジとしてカリウム氷晶石を副産物とすることによって、環境面及び再利用面から好ましいものとすることができる。
【0041】
本発明の説明は以上のとおりとしたが、上記フッ化カリウム及びフッ酸を含有する加温処理浴に、界面活性剤、例えばアニオン系の界面活性剤を少量添加(例えば、1〜数g/L)すると、フッ化カリウム及びフッ酸の濃度範囲を幾分拡大するように作用する傾向が見られることから、上記加温処理浴に対して該界面活性剤を少量添加するようにすることを含めて、本発明の実施に当って、加温処理浴、フッ化カリウム、フッ酸、アルミ溶解反応、カリウム氷晶石生成反応、これらによるアルミ押出材のマット処理方法の具体的工程、条件、これらに対する付加、これらによって得られるマット化表面を有するアルミ押出材、有価スラッジとしてのカリウム氷晶石等の具体的形態、用途等は、上記発明の要旨に反しない限り様々な形態のものとすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ押出材表面をマット化するとともに該マット化により有価スラッジを生成する表面処理方法であって、フッ化カリウム及びフッ酸を含有する加温処理浴にアルミ押出材を浸漬することにより、フッ酸のアルミ溶解反応、溶解アルミとフッ化カリウムのカリウム氷晶石生成反応を施すことを特徴とするアルミ押出材のマット処理方法。
【請求項2】
上記加温処理浴におけるフッ化カリウム及びフッ酸濃度をそれぞれ0.15〜0.3mol/Lの範囲とすることを特徴とする請求項1に記載のアルミ押出材のマット処理方法。
【請求項3】
上記加温処理浴における浴温を50〜70℃とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミ押出材のマット処理方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかによって形成したマット化表面を有するアルミ押出材であって、そのマット化による表面粗さをRa0.9〜1.1としてなることを特徴とするマット処理のアルミ押出材。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかによって生成したカリウム氷晶石を回収することによって構成してなることを特徴とする有価スラッジ。
【請求項6】
上記カリウム氷晶石をアルミ精錬やアルミ鋳造のフラックス用としてなることを特徴とする請求項5に記載の有価スラッジ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−112011(P2012−112011A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263315(P2010−263315)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】