説明

アルミ系金属条の巻取用スプール及びスリッティング装置

【課題】輸送中にコイル中心からずれたり脱落したりすることがなく、かつ、より廉価で提供することができるアルミ系金属条の巻取用スプールを提供すること。
【解決手段】
アルミ系金属条の巻取用スプールは、外周面が平滑なリング状であって、アルミニウム合金を用いたダイカストにより製造されていることを特徴とする。このスプールを、コイル状に巻かれたアルミニウム又はアルミニウム合金よりなる金属帯板を繰り出しながら幅の狭い複数の金属条にスリットし、スリットした複数の金属条をコイル状に巻き取るスリッティング装置の巻軸に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミ系金属条(アルミニウム又はアルミニウム合金の金属条を言う。)の巻取用スプール(巻芯)、及びそれを使用したアルミ系金属帯板のスリッティング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車に搭載されるラジエータのフィン材料に使用されるアルミ系金属条は、スリッタラインのスリッティング装置において、コイル状に巻かれた幅広のアルミニウム又はアルミニウム合金よりなる金属帯板(箔)を繰り出しながら幅の狭い多数の金属条にスリットして得られる。
これらの金属条はスリッティング装置の巻取軸(マンドレル)に取り付けられた各スプールへ巻き取られ(巻径1500mm以上)、スプールとともに巻取軸から取り外したコイルの状態で出荷される。
【0003】
前記のようなスリッティング装置における金属条の巻取用スプールには、従来紙管(後記特許文献1)やプラスチック(後記特許文献2)が使用されるほか、強度を要する場合には鉄のリングが使用されていた。
鉄製のスプールは、外径320〜330mm,内径300mm程度の鉄管を所定幅(長さ)に切断し、切断した両端面を研磨して平滑に仕上げた後、表面に防食皮膜を施して製造される。
前記のようにラジエータのフィン材料に使用されるアルミ系金属条は例えば0.04〜0.1mm程度の極薄材であり、このような極薄材を前記のような外径のスプールへ巻き径が1500mm以上になるように巻き取った場合、スプール強度が不足すると、スプールが輸送中に潰れたりコイルから脱落したりするので、多くの場合鉄製のスプールが使用される。
【0004】
ところで、前記のような極薄条のコイルを輸出する場合、木箱へ重ねて詰めた複数のコイルを船倉へ横積みした状態で輸送されるが、船倉の温度は輸送中大きく変化(例えば最高80℃程度になる。)する。そして、鉄製スプールはアルミ系金属条コイルとは熱膨張率が異なり(鉄製スプールの方が大きい)、低温時における収縮率は鉄製スプールの方が大きいため、スプールが金属条コイルから脱落しないまでも輸送中にずれることがあり、例えばラジエータのフィンを加工するため金属条コイルを巻き戻す際に正確に巻き戻せなくなるおそれ(形態品質の低下)があった。
また、鉄製のスプールは、前記のように鉄管を切断したものの表面を研磨しさらに防食加工を施して仕上げるので製造コストが嵩み、特に輸出する場合はスプールの回収が困難なので、その製造コストが金属条コイルの価格へ反映されて製品が高価になるという問題があった。
【特許文献1】特開2003−040528号公報
【特許文献2】特開2006−175558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、輸送中におけるアルミ系金属条コイルの形態品質の保持とコストの低減にあり、その目的は、輸送中にコイル中心からずれたり脱落したりすることがなく、かつ、より廉価で提供することができるアルミ系金属条の巻取用スプールを提供することにある。
本発明の他の目的は、前記目的を達成できるスプールを使用することにより、形態品質が変化しないアルミ系金属条コイルを製造することができるスリッティング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るアルミ系金属条の巻取用スプールは、前記課題を解決するため、外周面が平滑なリング状であって、アルミニウム合金を用いたダイカストにより製造されていることを特徴としている。
【0007】
本発明に係るスリッティング装置は、コイル状に巻かれたアルミニウム又はアルミニウム合金よりなる金属帯板を繰り出しながら幅の狭い複数の金属条にスリットし、スリットした複数の金属条をコイル状に巻き取るスリッティング装置であって、前記金属条を巻き取るために請求項1に記載のアルミ系金属条の巻取用スプールが用いられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るアルミ系金属条の巻取用スプールによれば、スプールとそれに巻き取られているアルミ系金属条との熱膨張率が近似しているので、輸送中等の温度変化が大きくてもスプールがアルミ系金属条コイル中心からずれたり脱落するのが防止される。
また、ダイカストにより製造され仕上げのための機械加工や防食加工を必要としないので、アルミ系金属条コイルのコストアップを防止することができる。
【0009】
本発明に係るスリッティング装置によれば、前記本発明に係るスプールを使用しているので、輸送中に形態品質が損なわれないアルミ系金属条コイルをより安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明に係るスプールが使用されたアルミ系金属帯板のスリッティング装置の一形態を示す概略側面図であり、図2は本発明に係るアルミ系金属条の巻取用スプールの一形態を示す半裁断面図である。
図1において、アンコイラ1に巻かれたコイル状のアルミ系の金属帯板aは、ピンチロール3によってカッタースタンド2aの方向へ繰り出され、当該カッタースタンド2aに設置されている厚みが小さく上下交互に配置された多数の円板状カッターからなるスリッタ2により、幅の狭い多数の金属条bにスリットされる。
金属帯板aの幅方向両側の耳部分はトリムフィーダ5に受け取られ、当該トリムフィーダ5でスクラップされた後スクラップピット6に回収される。
【0011】
前記のようにスリットされた各金属条bは、カッタースタンド2aの後方のピンチロール4によりループピット7に送られ、セパレータ8、押えロール9を経てテンションパット10で所定の張力が付与され、S字配置ロール11,11を経て押えロール12で押えられながら、巻軸13に取り付けられている各スプール14へ巻き取られる。
金属帯板aは圧延時のクラウンにより幅方向における各部の厚みが若干異なっており(一般に中央部が厚く両側部が薄い)、したがって、スリットされた多数の金属条bはそれらの板厚の相違により同一の巻軸の各スプール14により巻き取ると、それぞれ巻き径が異なってきて巻けなくなるので、それを前記ループピット7で吸収ないし調整している。
【0012】
各スプール14は、図2で示すように外周面が平滑なリング状であって内周両縁及び外周両縁は面取り状に形成され、例えばJIS:ADC12その他のダイカスト用アルミニウム合金を材質として、例えばコールドチャンバーダイカストマシンにより鋳造されている。
各スプール14は、原則としてダイカスト鋳造のみで製造され、機械的及びその他の仕上げ加工は施さない。
【0013】
図2のように、リングの幅wは巻き取る金属条bの幅よりも1mm程度小さいものが使用され、外径=320〜330mm、リングの肉厚t=10〜15mm程度である。
この実施形態のスプール14は、例えば厚み0.04〜0.1mm程度の薄い金属条bを巻き取るのに適しており、対象とする金属条bの幅は14〜70mm程度である。
金属条bの板厚によるが、通常一つのスプール14に巻き取られる金属条bの長さは20,000m以上、巻き径は1.5m以上である。
【0014】
前記実施形態のスプールによれば、それに巻き取られているアルミ系金属条と同質性があって熱膨張率が近似しているので、輸送中等の温度変化が大きくてもスプールがアルミ系金属条コイル中心からずれたり脱落するのが防止される。
また、ダイカストにより鋳造されていて、仕上げのための機械加工や防食加工を必要としないので、アルミ系金属条コイルのコストアップを防止することができる。
前記実施形態のスリッティング装置によれば、前記実施形態のスプールを使用しているので、輸送中に形態品質が損なわれないアルミ系金属条コイルをより安価に製造することができる。
【0015】
その他の実施形態
なお、図1のスリッティング装置の実施形態では、各金属条bの板厚の僅かな相違から次第に各スプール14の巻き径の相違が大きくなるのを吸収ないし調整するため、スリッタ2の下流位置にループピット7を設けているが、巻軸13をフリクション構造とすることにより前記ループピット7を省略することができる。
フリクション構造の巻軸は、巻軸13と各スプール14とがばね等により所定の制動力をもって摩擦するように構成されており(巻軸13とスプール14とが摩擦クラッチの関係にある)、巻き取り中の金属条bに所定値以上の張力が加わると、巻軸13に対してスプール14がスリップするように構成されている。このように巻軸がフリクション構造になっていると、同じ巻軸13に多数のスプール14が取り付けられていても、スプール14相互の巻き径の変化は巻軸13に対するスプール14のスリップにより吸収される。
【0016】
スリッティング装置が前記のようにループピット7を設けない形態である場合には、スリッタ2の円板状のカッターは上下交互に配置した形態でなく、円板状カッターを左右交互に配置した形態を採用することができる。
この場合には、金属帯板aはピンチロール2により垂直方向へ方向を転換して繰り出される構成になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るスプールが使用されたアルミ系金属帯板のスリッティング装置の一形態を示す概略側面図である。
【図2】本発明に係るアルミ系金属条の巻取用スプールの一形態を示す半裁断面図である。
【符号の説明】
【0018】
a 金属帯板
b 金属条
1 アンコイラ
2 スリッタ
2a カッタースタンド
3,4 ピンチロール
5 トリムフィーダ
6 スクラップピット
7 ループピット
8 セパレータ
9,12 押えロール
11 S字配置ロール
13 巻軸
14 スプール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面が平滑なリング状であって、アルミニウム合金を用いたダイカストにより製造されていることを特徴とする、アルミ系金属条の巻取用スプール。
【請求項2】
コイル状に巻かれたアルミニウム又はアルミニウム合金よりなる金属帯板を繰り出しながら幅の狭い複数の金属条にスリットし、スリットした複数の金属条をコイル状に巻き取るスリッティング装置であって、前記金属条を巻き取るために請求項1に記載のアルミ系金属条の巻取用スプールが用いられていることを特徴とするスリッティング装置。
【請求項3】
前記金属条の幅が14〜70mmである、請求項2に記載のスリッティング装置。
【請求項4】
前記金属条の厚さが0.04〜0.1mmである、請求項2又は3に記載のスリッティング装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−290158(P2008−290158A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135361(P2007−135361)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】