アレルギー予防剤及びそれを含む食品
【課題】より効率的に免疫寛容を誘導するアレルギー予防剤を提供すること。
【解決手段】抗原と抗体とを化学的に結合させて得られる複合体を含む、アレルギー予防剤。より具体的には、前記抗体に対する前記抗原のモル比が1〜5となるように前記抗原と前記抗体とが結合していて、前記抗原がスギ花粉に含まれるタンパク質、あるいは卵白に含まれるタンパク質であるところのオボアルブミンであるアレルギー予防剤、また前記抗体がIgAであるアレルギー予防剤。
【解決手段】抗原と抗体とを化学的に結合させて得られる複合体を含む、アレルギー予防剤。より具体的には、前記抗体に対する前記抗原のモル比が1〜5となるように前記抗原と前記抗体とが結合していて、前記抗原がスギ花粉に含まれるタンパク質、あるいは卵白に含まれるタンパク質であるところのオボアルブミンであるアレルギー予防剤、また前記抗体がIgAであるアレルギー予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー予防剤及びそれを含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アレルギー疾患は、非自己の抗原に対し特異的に過剰の免疫応答を起こすために生じると考えられている。抗原刺激を加えても、その抗原に対応する免疫応答が起こらない現象を免疫寛容という。従来、このような免疫寛容を誘導することにより、アレルギー疾患の発症を予防する試みがなされている。
【0003】
免疫寛容を誘導する方法としては、微量な抗原を長期間連続的に投与する方法が知られている。また、免疫寛容誘導剤として、抗原の代わりにビフィズス菌(特許文献1)、クラブシェラ属細菌(特許文献2)、特定構造を有する化合物(特許文献3)、形質転換植物(特許文献4)、特定のアミノ酸配列を有するペプチド組成物(特許文献5)等を用いて免疫寛容を誘導する方法も開示されている。
【0004】
しかしながら、抗原を投与する方法は、アナフィラキシーショックなどの副作用が生じる可能性がある点で問題であった。また、上記従来の免疫寛容誘導剤の効果は必ずしも十分とはいえず、更なる改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−309178号公報
【特許文献2】特開2000−143522号公報
【特許文献3】特開2001−294527号公報
【特許文献4】特開2002−85068号公報
【特許文献5】特開2008−195618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、より効率的に免疫寛容を誘導するアレルギー予防剤及びそれを含む食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、抗原と抗体とを化学的に結合させて得られる複合体が、抗原のみよりも効率的に免疫寛容を誘導し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、抗原と抗体とを化学的に結合させて得られる複合体を含む、アレルギー予防剤に関する。本発明のアレルギー予防剤によれば、より効率的に免疫寛容を誘導することが可能となる。特に、本発明のアレルギー予防剤は、上記複合体を構成する抗原に対して特異的に免疫寛容を誘導することができる。
【0009】
上記複合体においては、抗体に対する抗原のモル比が1〜5となるように抗原と抗体とが結合していることが好ましい。特に、上記モル比は5であることが好ましい。
【0010】
抗原としてはタンパク質が挙げられ、中でも、スギ花粉に含まれるタンパク質(スギ花粉抗原)であるcryj1や、卵白に含まれるタンパク質であるオボアルブミンが挙げられる。
【0011】
抗体としてはIgAが挙げられる。上記抗体は、抗原に対する特異的結合性を有しないものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、上記アレルギー予防剤を含む食品に関する。本発明の食品を摂取することにより、簡易且つ効率的に免疫寛容を誘導することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より効率的に免疫寛容を誘導するアレルギー予防剤及びそれを含む食品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】対照群及び試験群の血清中のcryj1特異的IgG1濃度(μg/ml)を示すグラフである。
【図2】OVA対照群、1:1試験群及び1:5試験群の血清中のOVA特異的IgG濃度(μg/ml)を示すグラフである。
【図3】OVA対照群、1:1試験群及び1:5試験群の血清中のOM特異的IgG濃度(μg/ml)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態に係るアレルギー予防剤は、抗原と抗体とを化学的に結合させて得られる複合体を含む。
【0017】
上記複合体は、例えば、抗原と抗体とをリンカーを介して共有結合させることにより得られる。リンカーとしては、Sulfo−LC−SPDP試薬(Thermo Fisher社製)等が挙げられる。
【0018】
上記複合体においては、抗体に対する抗原のモル比が1〜5となるように抗原と抗体とが結合していることが好ましい。特に、抗体:抗原のモル比が1:5であると免疫寛容誘導効果が優れるため好ましい。
【0019】
上記複合体を構成する抗原としては、特に制限されないが、スギ花粉抗原や食物成分に含まれる抗原が挙げられる。スギ花粉抗原を上記抗原として用いることにより、スギ花粉による花粉症を予防するのに好適なアレルギー予防剤が得られる。また、食物成分に含まれる抗原を上記抗原として用いることにより、食物アレルギーの発症を予防するのに好適なアレルギー予防剤が得られる。食物成分としては、植物性食物又は動物性食物に由来する食物成分が挙げられる。植物性食物としては、小麦、ライ麦、大麦、オート麦、トウモロコシ、米、ソバ、キビ、アワ、ヒエなどの穀類、アーモンド、ココナッツ、ピーナッツ、大豆、エンドウ、インゲン、ハシバミ、ブラジルナッツなどの豆あるいはナッツ類、イチゴ、オレンジ、キウイ、ジャガイモ、セロリ、タマネギ、トマト、パセリ、ニンジン、ニンニク、マンゴ、メロン、リンゴ、カボチャ、グレープフルーツ、サクランボ、ナシ、サツマイモ、タケノコ、ホウレンソウなどの果物・野菜類、その他ゴマ、マスタードなどが例示できる。また、その他の植物由来のアレルゲンとして、ゴムラテックスなどを例示できる。動物性食物としては、豚肉、鶏肉、羊肉などの肉類、タラ、カニ、エビ、マグロ、サケ、ムラサキガイ、ロブスター、サバ、アジ、イワシ、イカ、タコなどの魚介類、その他、卵白、卵黄、牛乳、チーズ等が例示できる。
【0020】
中でも、上記抗原としては、卵、小麦等に含まれるタンパク質が挙げられる。卵に含まれるタンパク質としては、卵白に含まれるタンパク質であるオボアルブミン(OVA:Ovalbumin)やオボムコイド(OM:Ovomucoid)が挙げられる。小麦に含まれるタンパク質としてはグルテンが挙げられる。
【0021】
上記複合体を構成する抗体としては、特に制限されないが、IgA、IgG等が挙げられ、IgAが好ましい。上記抗体は、抗原に対する特異的結合性を有しないものであることが好ましい。上記抗体が抗原に対する特異的結合性を有するものであると、抗原と抗体とを化学的に結合させる際に、抗原抗体反応により通常の免疫複合体が生じてしまうため、抗原と抗体とを化学的に結合させた複合体(偽免疫複合体)が得られにくくなる。
【0022】
本実施形態に係るアレルギー予防剤は、常法に従って種々の形態で投与される。その投与形態としては例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤等の形態が好ましく、これらの形態によって経口的に安全に投与することができる。これらの各種製剤は常法に従って、主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤、潤滑剤、安定剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、希釈剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。また、上記アレルギー予防剤を含む食品を摂取することにより経口投与することも可能である。その食品としては例えば、乳飲料、発酵乳、コーヒー・紅茶などの嗜好飲料、スープ類・シチュー類・缶詰類などの加工食品、アイスクリーム・ラクトアイス・アイスミルク・氷菓・ゼリーなどの冷菓類、カスタードクリーム・バタークリームなどの各種クリームを使用したデザート類、チョコレート・キャンディー・タブレット・クッキー・ビスケット・チューインガムなどの菓子類、牛乳羹・錦玉などの和菓子類等が挙げられる。
【0023】
上記アレルギー予防剤の投与量は、上記複合体を構成する抗原に特異的な免疫寛容を誘導するために必要な量であって、かつ薬理学的に問題の生じない量であればよい。好ましくは、患者(体重70kg)一人あたり10μg〜10mg、更に好ましくは0.1mg〜0.5mgの投与量単位で投与することができる。
【0024】
投与回数は特に制限されず、好ましくは一日あたり1回〜5回、更に好ましくは1日あたり1回〜3回である。投与方法は特に制限されず、現在までに公知の、または将来開発される投与方法を適宜採用することができる。例えば経口投与、腹腔内投与、静脈内投与、経皮的投与、吸入投与などが挙げられるが、経口投与が好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
(実験1)スギ花粉抗原に対する免疫寛容
[偽免疫複合体(pIC:Pseudo immune complex)の作製]
特異性不明なIgA産生ハイブリドーマを培養し、その培養上清からモノクローナルIgAをprotein Lを用いてアフィニティークロマトグラフィーより精製した。精製したIgAが、スギ花粉抗原(cryj1)に対する特異的結合性を有しないことを確認した。
【0027】
Sulfo−LC−SPDP試薬(Thermo Fisher社製)を用いて、精製したIgAとcryj1とを結合させ、pICを作製した。その際、IgA:cryj1のモル比が1:1となるように結合させた。その後、protein Lを用いてpICを精製した。
【0028】
[マウスを用いた経口免疫寛容試験]
(試験群)
5匹のBalb/cマウス(「試験群」とする。)に、精製したpIC(IgA:cryj1のモル比が1:1)をIgA等量として100ngずつ、6日間連続で経口投与した。
(対照群)
さらに、別の5匹のBalb/cマウス(「対照群」とする。)に、0.47μgのcryj1及び1.5μgのIgAからなる混合物を、6日間連続で経口投与した。
【0029】
その後、試験群及び対照群のそれぞれに対し、スギ花粉10μgを水酸化アルミニウムとともに腹腔内投与し、その14日後にスギ花粉10μgを水酸化アルミニウムとともに再度腹腔内投与した。その後、各群について、血清中のcryj1特異的IgG1の濃度(μg/ml)をELISA法により定量した。結果を図1に示す。
【0030】
図1は、対照群及び試験群の血清中のcryj1特異的IgG1濃度(μg/ml)を示すグラフである。図1に示すように、cryj1及びIgAからなる混合物を経口投与した対照群と比べて、cryj1とIgAとを化学的に結合させて得たpICを経口投与した試験群では、血清中のcryj1特異的IgG1濃度が顕著に低かった。すなわち、対照群と比べて試験群ではcryj1特異的IgG1の産生(スギ花粉抗原に対する免疫応答)が抑制された。
【0031】
以上の結果から、スギ花粉抗原とIgAとを化学的に結合させて得たpICは、当該スギ花粉抗原特異的に経口免疫寛容を誘導し得ることが判明した。
【0032】
(実験2)OVA抗原に対する免疫寛容
[偽免疫複合体(pIC:Pseudo immune complex)の作製]
特異性不明なIgA産生ハイブリドーマを培養し、その培養上清からモノクローナルIgAをprotein Lを用いてアフィニティークロマトグラフィーより精製した。精製したIgAが、オボアルブミン(OVA:Ovalbumin)に対する特異的結合性を有しないことを確認した。
【0033】
Sulfo−LC−SPDP試薬(Thermo Fisher社製)を用いて、精製したIgAとOVAとを結合させ、pICを作製した。その際、IgA:OVAのモル比が1:1又は1:5となるように結合させた。その後、protein Lを用いてpICを精製した。
【0034】
[マウスを用いた経口免疫寛容試験]
(1:1試験群)
5匹のBalb/cマウス(「1:1試験群」とする。)に、精製したpIC(IgA:OVAのモル比が1:1)をIgA等量として100ngずつ、6日間連続で経口投与した。
(1:5試験群)
別の5匹のBalb/cマウス(「1:5試験群」とする。)に、精製したpIC(上記モル比が1:5)をIgA等量として100ngずつ、6日間連続で経口投与した。
(OVA対照群)
さらに、別の5匹のBalb/cマウス(「OVA対照群」とする。)に、OVAを175ngずつ、6日間連続で経口投与した。なお、OVA対照群におけるOVA投与量(175ng)は、IgA:OVAのモル比が1:5であるpICにおいて、IgA100ngに対して結合し得るOVAの最大量である。
【0035】
その後、1:1試験群、1:5試験群及びOVA対照群のそれぞれに対し、卵白タンパク質50μgをフロイント完全アジュバントとともに腹腔内投与し、その14日後に卵白タンパク質50μgをフロイント不完全アジュバントとともに再度腹腔内投与した。その後、各群について、血清中のOVA特異的IgG及びオボムコイド(OM:Ovomucoid)特異的IgGの濃度(μg/ml)をELISA法により定量した。結果を図2及び図3に示す。
【0036】
図2は、OVA対照群、1:1試験群及び1:5試験群の血清中のOVA特異的IgG濃度(μg/ml)を示すグラフである。図2に示すように、OVAを単独で経口投与した対照群と比べて、OVAとIgAとを化学的に結合させて得たpICを経口投与した試験群では、血清中のOVA特異的IgG濃度が顕著に低かった。すなわち、対照群と比べて試験群ではOVA特異的IgGの産生(OVA抗原に対する免疫応答)が抑制された。
【0037】
図3は、OVA対照群、1:1試験群及び1:5試験群の血清中のOM特異的IgG濃度(μg/ml)を示すグラフである。図3に示すように、OM特異的IgG濃度については、対照群と試験群との間に顕著な差は見られなかった。
【0038】
以上の結果から、OVAとIgAとを化学的に結合させて得たpICは、OVA特異的に経口免疫寛容を誘導し得ることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のアレルギー予防剤は、スギ花粉抗原や、卵白、小麦等の食品アレルゲンに対し、安全に効率よく経口免疫寛容を誘導し得るアレルギー予防剤として好適に用いられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー予防剤及びそれを含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アレルギー疾患は、非自己の抗原に対し特異的に過剰の免疫応答を起こすために生じると考えられている。抗原刺激を加えても、その抗原に対応する免疫応答が起こらない現象を免疫寛容という。従来、このような免疫寛容を誘導することにより、アレルギー疾患の発症を予防する試みがなされている。
【0003】
免疫寛容を誘導する方法としては、微量な抗原を長期間連続的に投与する方法が知られている。また、免疫寛容誘導剤として、抗原の代わりにビフィズス菌(特許文献1)、クラブシェラ属細菌(特許文献2)、特定構造を有する化合物(特許文献3)、形質転換植物(特許文献4)、特定のアミノ酸配列を有するペプチド組成物(特許文献5)等を用いて免疫寛容を誘導する方法も開示されている。
【0004】
しかしながら、抗原を投与する方法は、アナフィラキシーショックなどの副作用が生じる可能性がある点で問題であった。また、上記従来の免疫寛容誘導剤の効果は必ずしも十分とはいえず、更なる改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−309178号公報
【特許文献2】特開2000−143522号公報
【特許文献3】特開2001−294527号公報
【特許文献4】特開2002−85068号公報
【特許文献5】特開2008−195618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、より効率的に免疫寛容を誘導するアレルギー予防剤及びそれを含む食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、抗原と抗体とを化学的に結合させて得られる複合体が、抗原のみよりも効率的に免疫寛容を誘導し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、抗原と抗体とを化学的に結合させて得られる複合体を含む、アレルギー予防剤に関する。本発明のアレルギー予防剤によれば、より効率的に免疫寛容を誘導することが可能となる。特に、本発明のアレルギー予防剤は、上記複合体を構成する抗原に対して特異的に免疫寛容を誘導することができる。
【0009】
上記複合体においては、抗体に対する抗原のモル比が1〜5となるように抗原と抗体とが結合していることが好ましい。特に、上記モル比は5であることが好ましい。
【0010】
抗原としてはタンパク質が挙げられ、中でも、スギ花粉に含まれるタンパク質(スギ花粉抗原)であるcryj1や、卵白に含まれるタンパク質であるオボアルブミンが挙げられる。
【0011】
抗体としてはIgAが挙げられる。上記抗体は、抗原に対する特異的結合性を有しないものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、上記アレルギー予防剤を含む食品に関する。本発明の食品を摂取することにより、簡易且つ効率的に免疫寛容を誘導することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より効率的に免疫寛容を誘導するアレルギー予防剤及びそれを含む食品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】対照群及び試験群の血清中のcryj1特異的IgG1濃度(μg/ml)を示すグラフである。
【図2】OVA対照群、1:1試験群及び1:5試験群の血清中のOVA特異的IgG濃度(μg/ml)を示すグラフである。
【図3】OVA対照群、1:1試験群及び1:5試験群の血清中のOM特異的IgG濃度(μg/ml)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態に係るアレルギー予防剤は、抗原と抗体とを化学的に結合させて得られる複合体を含む。
【0017】
上記複合体は、例えば、抗原と抗体とをリンカーを介して共有結合させることにより得られる。リンカーとしては、Sulfo−LC−SPDP試薬(Thermo Fisher社製)等が挙げられる。
【0018】
上記複合体においては、抗体に対する抗原のモル比が1〜5となるように抗原と抗体とが結合していることが好ましい。特に、抗体:抗原のモル比が1:5であると免疫寛容誘導効果が優れるため好ましい。
【0019】
上記複合体を構成する抗原としては、特に制限されないが、スギ花粉抗原や食物成分に含まれる抗原が挙げられる。スギ花粉抗原を上記抗原として用いることにより、スギ花粉による花粉症を予防するのに好適なアレルギー予防剤が得られる。また、食物成分に含まれる抗原を上記抗原として用いることにより、食物アレルギーの発症を予防するのに好適なアレルギー予防剤が得られる。食物成分としては、植物性食物又は動物性食物に由来する食物成分が挙げられる。植物性食物としては、小麦、ライ麦、大麦、オート麦、トウモロコシ、米、ソバ、キビ、アワ、ヒエなどの穀類、アーモンド、ココナッツ、ピーナッツ、大豆、エンドウ、インゲン、ハシバミ、ブラジルナッツなどの豆あるいはナッツ類、イチゴ、オレンジ、キウイ、ジャガイモ、セロリ、タマネギ、トマト、パセリ、ニンジン、ニンニク、マンゴ、メロン、リンゴ、カボチャ、グレープフルーツ、サクランボ、ナシ、サツマイモ、タケノコ、ホウレンソウなどの果物・野菜類、その他ゴマ、マスタードなどが例示できる。また、その他の植物由来のアレルゲンとして、ゴムラテックスなどを例示できる。動物性食物としては、豚肉、鶏肉、羊肉などの肉類、タラ、カニ、エビ、マグロ、サケ、ムラサキガイ、ロブスター、サバ、アジ、イワシ、イカ、タコなどの魚介類、その他、卵白、卵黄、牛乳、チーズ等が例示できる。
【0020】
中でも、上記抗原としては、卵、小麦等に含まれるタンパク質が挙げられる。卵に含まれるタンパク質としては、卵白に含まれるタンパク質であるオボアルブミン(OVA:Ovalbumin)やオボムコイド(OM:Ovomucoid)が挙げられる。小麦に含まれるタンパク質としてはグルテンが挙げられる。
【0021】
上記複合体を構成する抗体としては、特に制限されないが、IgA、IgG等が挙げられ、IgAが好ましい。上記抗体は、抗原に対する特異的結合性を有しないものであることが好ましい。上記抗体が抗原に対する特異的結合性を有するものであると、抗原と抗体とを化学的に結合させる際に、抗原抗体反応により通常の免疫複合体が生じてしまうため、抗原と抗体とを化学的に結合させた複合体(偽免疫複合体)が得られにくくなる。
【0022】
本実施形態に係るアレルギー予防剤は、常法に従って種々の形態で投与される。その投与形態としては例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤等の形態が好ましく、これらの形態によって経口的に安全に投与することができる。これらの各種製剤は常法に従って、主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤、潤滑剤、安定剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、希釈剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。また、上記アレルギー予防剤を含む食品を摂取することにより経口投与することも可能である。その食品としては例えば、乳飲料、発酵乳、コーヒー・紅茶などの嗜好飲料、スープ類・シチュー類・缶詰類などの加工食品、アイスクリーム・ラクトアイス・アイスミルク・氷菓・ゼリーなどの冷菓類、カスタードクリーム・バタークリームなどの各種クリームを使用したデザート類、チョコレート・キャンディー・タブレット・クッキー・ビスケット・チューインガムなどの菓子類、牛乳羹・錦玉などの和菓子類等が挙げられる。
【0023】
上記アレルギー予防剤の投与量は、上記複合体を構成する抗原に特異的な免疫寛容を誘導するために必要な量であって、かつ薬理学的に問題の生じない量であればよい。好ましくは、患者(体重70kg)一人あたり10μg〜10mg、更に好ましくは0.1mg〜0.5mgの投与量単位で投与することができる。
【0024】
投与回数は特に制限されず、好ましくは一日あたり1回〜5回、更に好ましくは1日あたり1回〜3回である。投与方法は特に制限されず、現在までに公知の、または将来開発される投与方法を適宜採用することができる。例えば経口投与、腹腔内投与、静脈内投与、経皮的投与、吸入投与などが挙げられるが、経口投与が好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
(実験1)スギ花粉抗原に対する免疫寛容
[偽免疫複合体(pIC:Pseudo immune complex)の作製]
特異性不明なIgA産生ハイブリドーマを培養し、その培養上清からモノクローナルIgAをprotein Lを用いてアフィニティークロマトグラフィーより精製した。精製したIgAが、スギ花粉抗原(cryj1)に対する特異的結合性を有しないことを確認した。
【0027】
Sulfo−LC−SPDP試薬(Thermo Fisher社製)を用いて、精製したIgAとcryj1とを結合させ、pICを作製した。その際、IgA:cryj1のモル比が1:1となるように結合させた。その後、protein Lを用いてpICを精製した。
【0028】
[マウスを用いた経口免疫寛容試験]
(試験群)
5匹のBalb/cマウス(「試験群」とする。)に、精製したpIC(IgA:cryj1のモル比が1:1)をIgA等量として100ngずつ、6日間連続で経口投与した。
(対照群)
さらに、別の5匹のBalb/cマウス(「対照群」とする。)に、0.47μgのcryj1及び1.5μgのIgAからなる混合物を、6日間連続で経口投与した。
【0029】
その後、試験群及び対照群のそれぞれに対し、スギ花粉10μgを水酸化アルミニウムとともに腹腔内投与し、その14日後にスギ花粉10μgを水酸化アルミニウムとともに再度腹腔内投与した。その後、各群について、血清中のcryj1特異的IgG1の濃度(μg/ml)をELISA法により定量した。結果を図1に示す。
【0030】
図1は、対照群及び試験群の血清中のcryj1特異的IgG1濃度(μg/ml)を示すグラフである。図1に示すように、cryj1及びIgAからなる混合物を経口投与した対照群と比べて、cryj1とIgAとを化学的に結合させて得たpICを経口投与した試験群では、血清中のcryj1特異的IgG1濃度が顕著に低かった。すなわち、対照群と比べて試験群ではcryj1特異的IgG1の産生(スギ花粉抗原に対する免疫応答)が抑制された。
【0031】
以上の結果から、スギ花粉抗原とIgAとを化学的に結合させて得たpICは、当該スギ花粉抗原特異的に経口免疫寛容を誘導し得ることが判明した。
【0032】
(実験2)OVA抗原に対する免疫寛容
[偽免疫複合体(pIC:Pseudo immune complex)の作製]
特異性不明なIgA産生ハイブリドーマを培養し、その培養上清からモノクローナルIgAをprotein Lを用いてアフィニティークロマトグラフィーより精製した。精製したIgAが、オボアルブミン(OVA:Ovalbumin)に対する特異的結合性を有しないことを確認した。
【0033】
Sulfo−LC−SPDP試薬(Thermo Fisher社製)を用いて、精製したIgAとOVAとを結合させ、pICを作製した。その際、IgA:OVAのモル比が1:1又は1:5となるように結合させた。その後、protein Lを用いてpICを精製した。
【0034】
[マウスを用いた経口免疫寛容試験]
(1:1試験群)
5匹のBalb/cマウス(「1:1試験群」とする。)に、精製したpIC(IgA:OVAのモル比が1:1)をIgA等量として100ngずつ、6日間連続で経口投与した。
(1:5試験群)
別の5匹のBalb/cマウス(「1:5試験群」とする。)に、精製したpIC(上記モル比が1:5)をIgA等量として100ngずつ、6日間連続で経口投与した。
(OVA対照群)
さらに、別の5匹のBalb/cマウス(「OVA対照群」とする。)に、OVAを175ngずつ、6日間連続で経口投与した。なお、OVA対照群におけるOVA投与量(175ng)は、IgA:OVAのモル比が1:5であるpICにおいて、IgA100ngに対して結合し得るOVAの最大量である。
【0035】
その後、1:1試験群、1:5試験群及びOVA対照群のそれぞれに対し、卵白タンパク質50μgをフロイント完全アジュバントとともに腹腔内投与し、その14日後に卵白タンパク質50μgをフロイント不完全アジュバントとともに再度腹腔内投与した。その後、各群について、血清中のOVA特異的IgG及びオボムコイド(OM:Ovomucoid)特異的IgGの濃度(μg/ml)をELISA法により定量した。結果を図2及び図3に示す。
【0036】
図2は、OVA対照群、1:1試験群及び1:5試験群の血清中のOVA特異的IgG濃度(μg/ml)を示すグラフである。図2に示すように、OVAを単独で経口投与した対照群と比べて、OVAとIgAとを化学的に結合させて得たpICを経口投与した試験群では、血清中のOVA特異的IgG濃度が顕著に低かった。すなわち、対照群と比べて試験群ではOVA特異的IgGの産生(OVA抗原に対する免疫応答)が抑制された。
【0037】
図3は、OVA対照群、1:1試験群及び1:5試験群の血清中のOM特異的IgG濃度(μg/ml)を示すグラフである。図3に示すように、OM特異的IgG濃度については、対照群と試験群との間に顕著な差は見られなかった。
【0038】
以上の結果から、OVAとIgAとを化学的に結合させて得たpICは、OVA特異的に経口免疫寛容を誘導し得ることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のアレルギー予防剤は、スギ花粉抗原や、卵白、小麦等の食品アレルゲンに対し、安全に効率よく経口免疫寛容を誘導し得るアレルギー予防剤として好適に用いられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原と抗体とを化学的に結合させて得られる複合体を含む、アレルギー予防剤。
【請求項2】
前記抗体に対する前記抗原のモル比が1〜5となるように前記抗原と前記抗体とが結合している、請求項1記載のアレルギー予防剤。
【請求項3】
前記抗体に対する前記抗原のモル比が5である、請求項2記載のアレルギー予防剤。
【請求項4】
前記抗原がタンパク質である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアレルギー予防剤。
【請求項5】
前記抗原がスギ花粉に含まれるタンパク質である、請求項4記載のアレルギー予防剤。
【請求項6】
前記抗原が卵白に含まれるタンパク質である、請求項4記載のアレルギー予防剤。
【請求項7】
前記抗原がオボアルブミンである、請求項6記載のアレルギー予防剤。
【請求項8】
前記抗体がIgAである、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアレルギー予防剤。
【請求項9】
前記抗体が、前記抗原に対する特異的結合性を有しない、請求項1〜8のいずれか一項に記載のアレルギー予防剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のアレルギー予防剤を含む食品。
【請求項1】
抗原と抗体とを化学的に結合させて得られる複合体を含む、アレルギー予防剤。
【請求項2】
前記抗体に対する前記抗原のモル比が1〜5となるように前記抗原と前記抗体とが結合している、請求項1記載のアレルギー予防剤。
【請求項3】
前記抗体に対する前記抗原のモル比が5である、請求項2記載のアレルギー予防剤。
【請求項4】
前記抗原がタンパク質である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアレルギー予防剤。
【請求項5】
前記抗原がスギ花粉に含まれるタンパク質である、請求項4記載のアレルギー予防剤。
【請求項6】
前記抗原が卵白に含まれるタンパク質である、請求項4記載のアレルギー予防剤。
【請求項7】
前記抗原がオボアルブミンである、請求項6記載のアレルギー予防剤。
【請求項8】
前記抗体がIgAである、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアレルギー予防剤。
【請求項9】
前記抗体が、前記抗原に対する特異的結合性を有しない、請求項1〜8のいずれか一項に記載のアレルギー予防剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のアレルギー予防剤を含む食品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2011−178717(P2011−178717A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44468(P2010−44468)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人 日本アレルギー学会 刊行物名 第59回 日本アレルギー学会秋季学術大会号 Vol. 58 No. 8・9 2009 発行日 2009年9月30日
【出願人】(390001270)グリコ乳業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人 日本アレルギー学会 刊行物名 第59回 日本アレルギー学会秋季学術大会号 Vol. 58 No. 8・9 2009 発行日 2009年9月30日
【出願人】(390001270)グリコ乳業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
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