説明

アレルギー性疾患予防・治療剤のスクリーニング方法

【課題】 T細胞へ直接作用せず、抗原提示した抗原提示細胞に作用してIL-4および/またはIL-5の産生を抑制する物質のスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】 抗原提示細胞およびスタフィロコッカスエンテロトキシンBの存在下で、IL-4およびIL-5を産生するT細胞。さらに、このT細胞、抗原提示細胞、スタフィロコッカスエンテロトキシンB、および被験物質の共存培養下でIL-4および/またはIL-5濃度を測定し、被験物質の非存在下でのIL-4および/またはIL-5濃度の測定値と比較して、被験物質を選択することからなる、IL-4および/またはIL-5の産生を抑制する物質のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原提示細胞およびスタフィロコッカスエンテロトキシンBの存在下で、IL-4(インターロイキン−4)およびIL-5(インターロイキン−5)を産生するT細胞、IL-4および/またはIL-5の産生を抑制する物質のスクリーニング方法、およびアレルギー性疾患予防および/または治療に効果のある物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性疾患は、IgEの関与する即時型アレルギーとT細胞の反応による遅延型アレルギーとが複雑に影響して引き起こされる。この内、IgEの産生はIL-4産生により引き起こされ、IL-4産生はIFN-γの減少やIL-5産生により増強される。IL-4およびIL-5は抗原特異的なタイプ2のヘルパーT細胞(Th2細胞)から産生されることが知られており、IL-4およびIL-5産生を抑制し、かつ人体にとって安全である物質は、各種アレルギー性疾患(気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、薬物アレルギー、好酸球性肺炎等の好酸球増多症)の予防や治療に有効であると考えられる。
【0003】
ところで、種々のアレルギー性疾患にはステロイド性抗炎症剤が用いられ、その劇的な治療効果が認められてきた。しかし、ステロイド剤は多くの臓器が標的となり、紅斑の発生、色素沈着、発育不全等の重篤な副作用が問題になっており、使用を中止すると、症状が再発・増悪するという問題も挙げられている。
【0004】
そこで、多くの非ステロイド性抗炎症剤および抗アレルギー剤が開発されてきたが、これら非ステロイド性薬剤の内、気管支喘息やアトピー性皮膚炎等に著効するものはほとんど存在しない。また、これら薬剤の効果の多くが、非選択的な抗体産生細胞の増殖抑制効果、起炎物質の遊離阻害、起炎物質の競合拮抗阻害等であり、発症後の症状緩和には好適であっても、発症の予防のために日常的に用いるには効果や安全性の観点から問題があった。また、アレルギー性疾患の治療に用いられる現在の医薬品は、副作用、離脱の困難性から必ずしも安心して用いられるものではなく、投与を中止すると再発する薬剤が多いことから、アレルギー性疾患の予防・改善に寄与する安全な、飲食品、化粧品、医薬品等で日常的に使用できる物質が望まれている。
【0005】
一方、アレルギー性疾患の予防や改善に寄与するIL-4やIL-5の産生を抑制する物質のスクリーニング方法としては、マウス等の試験動物に抗原を感作させた後、脾臓を摘出し、脾臓単核細胞と被験物質を培養して、培養上清中のIL-4、IL-5を測定する方法が用いられてきた(特許文献1、2)。また、in vitroの方法としては、被験化合物としてアレルゲンを構成する糖鎖構造を含む糖鎖と、アレルゲンをT細胞に接触させ、Th2細胞のサイトカイン(IL-4、IL-5、IL-10)産生を抑制する化合物をスクリーニングする方法(特許文献3)、IL-4やIL-5のレセプターを用いてIL-4、IL-5の産生抑制能を有する物質をスクリーニングする方法(特許文献4、5)、T細胞からのIL-5遺伝子発現を指標として、IL-5の産生抑制能を有する物質をスクリーニングする方法(特許文献6)、NKT細胞のT細胞レセプターを認識する抗体と被験物質との結合性の阻害度を指標として、Th2細胞由来のサイトカイン産生調節能を有する物質をスクリーニングする方法(特許文献7)等が知られている。
【0006】
しかし、マウス等の試験動物を用いる方法は、抗原感作から脾臓摘出まで数週間かかる非常に時間を要するものであった。一方、上記の特許文献3〜7に提案されているin vitroの方法は、抗原提示細胞による抗原提示を介したT細胞からのIL-4やIL-5の産生抑制能をみているものではなく、T細胞に直接作用してIL-4やIL-5の産生を抑制する物質をスクリーニングする方法であるため、T細胞への細胞毒性を有する、つまりT細胞の機能を停止させる物質も選択されてしまうという問題があった。特許文献3の方法は、糖鎖を有する抗原のみに適用できる汎用性が低い方法で、T細胞に直接作用する物質をスクリーニングする方法である。また、特許文献7には、被験物質を抗原提示細胞に提示させ、NKT細胞と作用させるスクリーニング方法が記載されているが、該NKT細胞は限られたレパートリーのT細胞抗原レセプターを有することから被験物質が糖脂質に限定され、これも該NKT細胞に作用する物質をスクリーニングする方法である。生体の安全性にとっては、T細胞へ直接作用せず、抗原提示した抗原提示細胞に作用してアレルゲン特異的なIL-4やIL-5の産生を抑制する物質が望ましく、これらの物質をin vitroで短期間にスクリーニングでき、かつ様々な被験物質に適用できる汎用性が高い方法の開発が待ち望まれていた。
【特許文献1】特許第3494845号公報
【特許文献2】特開2001−233777号公報
【特許文献3】特開2004−168765号公報
【特許文献4】特表平4−504061号公報
【特許文献5】特許第2554418号公報
【特許文献6】国際公開第96/06162号パンフレット
【特許文献7】特開2003−199587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、T細胞へ直接作用せず、抗原提示した抗原提示細胞に作用してIL-4および/またはIL-5の産生を抑制する物質、及びアレルギー性疾患予防および/または治療剤のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる実情に鑑み、本発明者らは鋭意研究を行なった結果、抗原提示細胞およびスタフィロコッカスエンテロトキシンBの存在下でIL-4およびIL-5を産生するT細胞株を見出し、該細胞株を樹立することによって、IL-4および/またはIL-5の産生抑制物質、アレルギー性疾患予防および/または治療剤をスクリーニングする方法を構築して、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、抗原提示細胞およびスタフィロコッカスエンテロトキシンBの存在下で、IL-4およびIL-5を産生するT細胞を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、抗原提示細胞、スタフィロコッカスエンテロトキシンB、請求項1に記載のT細胞および被験物質の共存培養下でIL-4および/またはIL-5濃度を測定し、被験物質の非存在下でのIL-4および/またはIL-5濃度の測定値と比較して、被験物質を選択することを特徴とする、IL-4および/またはIL-5の産生を抑制する物質のスクリーニング方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、抗原提示細胞、スタフィロコッカスエンテロトキシンB、請求項1に記載のT細胞および被験物質の共存培養下でIL-4および/またはIL-5濃度を測定し、被験物質の非存在下でのIL-4および/またはIL-5濃度の測定値と比較して、被験物質を選択することを特徴とする、アレルギー性疾患予防および/または治療剤のスクリーニング方法を提供するものである。
【0012】
さらに、本発明は、抗原提示細胞、スタフィロコッカスエンテロトキシンB、請求項1に記載のT細胞および被験物質の共存培養下でIL-4および/またはIL-5濃度を測定し、被験物質の非存在下でのIL-4および/またはIL-5濃度の測定値と比較し、さらに、請求項1に記載のT細胞、該T細胞に直接作用する抗体および被験物質の共存培養下でのIL-4および/またはIL-5濃度を測定し、被験物質の非存在下でのIL-4および/またはIL-5濃度の測定値と比較して、被験物質を選択することを特徴とする、アレルギー性疾患予防および/または治療剤のスクリーニング方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、抗原提示細胞およびスタフィロコッカスエンテロトキシンBの存在下で、IL-4およびIL-5を産生するT細胞が提供される。また、該T細胞を利用することにより、抗原提示した抗原提示細胞に作用してIL-4および/またはIL-5の産生を抑制する物質及びアレルギー性疾患予防および/または治療剤を、in vitroで短期間に、かつ様々な被験物質に適用できる汎用性が高いスクリーニング方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、発明の内容を詳細に説明する。
(1) T細胞株の取得
本発明のT細胞株は、抗原提示細胞およびスタフィロコッカスエンテロトキシンB(SEB)の存在下で、IL-4およびIL-5を産生することを特徴とする。ここでSEBは、MHCクラスII分子に直接結合し、特定のTCR Vβ鎖を有するT細胞を選択的に活性化する細菌性スーパー抗原として公知の物質である(White J. et al., Cell, 56, 27-35 (1989)参照)。T細胞株の選抜に使用するT細胞群としては、マウスの脾臓やリンパ節、ヒトの末梢血由来のT細胞が挙げられるが、サイトカイン産生能が高いT細胞群が好ましく、BALB/cマウスの脾臓細胞由来のT細胞群が好適である。
【0015】
上記の雑多なT細胞群より限界希釈法を行ってSEB応答性のT細胞株を選抜し、さらに抗原提示細胞とSEBの存在下でのみ、IL-4およびIL-5を産生するT細胞株を選抜することで、本発明のT細胞株を得ることができる。すなわち、マウス脾臓細胞を、1μg/mlのSEBを添加した10%FCS/5×10-5 M β-メルカプトエタノール/RPMI 1640培地(FCS/ME/RPMI)で継代維持した後、限界希釈法を行ってクローン化したSEB応答性のT細胞株を、抗原提示細胞とSEBで共存培養して培養上清中のIL-4およびIL-5濃度を測定し、IL-4およびIL-5産生能を有するT細胞株を選抜することで、本発明のT細胞株が得られる。使用する抗原提示細胞は、脾臓やリンパ節の抗原提示細胞や株化細胞等が挙げられるが、新鮮分離した抗原提示細胞が好ましく、BALB/cマウスの脾臓細胞から磁気ビーズ法等によりT細胞を除去して得られる抗原提示細胞が好適である。より具体的には、抗原提示細胞としては、樹状細胞、マクロファージ、B細胞が挙げられる。
【0016】
なお、選抜に当たっては、T細胞抗原レセプターを介して抗原提示細胞表面に保持されたSEBを認識してIL-4およびIL-5が産生されることを、FK506等の添加による阻害実験により確認する必要がある。これは、SEBで刺激された抗原提示細胞が産生する増殖因子、例えばIL-10等に応答してIL-4およびIL-5を産生するT細胞株では、T細胞抗原レセプターを介したIL-4およびIL-5産生誘導に作用する物質のスクリーニングに適さないためである。このようにして得られたT細胞株は、再クローニング等の方法により細胞株として樹立し、必要に応じて適宜利用できる形態とすることが好ましい。また、樹立したT細胞株については、5,000 RadのX線で照射した抗原提示細胞と1 μg/ml のSEB共存下で培養することにより継代維持することができる。
【0017】
(2) IL-4および/またはIL-5の産生を抑制する物質のスクリーニング
本発明のT細胞株は、抗原提示細胞、SEBおよび被験物質の共存培養下で、培養上清中のIL-4および/またはIL-5濃度を測定することにより、IL-4および/またはIL-5の産生を抑制する物質のスクリーニングに用いることができる。被験物質としては、特に限定なく、動植物組織抽出物、細胞抽出物、発酵生産物、菌体成分、合成化合物等が挙げられ、これらの物質は新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。
【0018】
被験物質が、動植物組織抽出物や細胞抽出物である場合、使用する部位に特に制限はなく、すべての部位から抽出して得られた抽出物を使用することができる。上記の動植物組織や細胞は、そのまま、粉砕物(生もしくは乾燥)、それら自身を圧搾抽出することにより得られる搾汁、粗抽出物、粗抽出物の精製物等のすべてを含む。これらは単独で用いてもよく、または二種類以上混合して用いてもよい。抽出物を得るために使用する抽出溶媒としては、水、熱水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール;酢酸エチル等のエステル;エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレンアルコール、グリセリン等のグリコール類;ジエチルエーテル、石油エーテル等のエーテル類;アセトン、酢酸等の極性溶媒;ベンゼン、ヘキサン、キシレン等の炭化水素等を挙げることができ、これら溶媒は、単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
抽出方法としては、一般的な方法を使用することができ、例えば、溶媒に動植物組織や細胞またはこれらの粉砕物を浸漬する方法、加温下(常温〜溶媒の沸点の範囲)攪拌する方法等を挙げることができる。抽出の際の動植物組織等と溶媒との比率は動植物組織等に対して溶媒1〜100重量倍、特に2〜40重量倍が好ましい。また抽出時間は、抽出温度によっても異なるが、水を用いた場合は1〜120分の範囲とすることが好ましく、特に5〜60分が好ましい。一方、低級アルコールを用いた場合は1時間〜7日間の範囲とすることが好ましく、特に1時間〜48時間が好ましい。得られた抽出物は、必要に応じて濾過又は遠心分離によって固形物を除いた後、そのまま用いるかまたは溶媒を濃縮もしくは乾燥して用いてもよいが、溶媒抽出物を減圧乾燥、真空凍結乾燥等の手段によって乾燥して、粗乾燥物として使用してもよい。
【0020】
また、前記の方法で得られる粗抽出物は、公知の化合物の分離や精製に用いる方法で精製してもよい。このような方法としては、例えば、活性炭、シリカゲル、ポリマー系担体等を用いた吸脱着、カラムクロマトグラフィー、液−液抽出、分別沈殿等の方法を挙げることができる。
【0021】
本発明のT細胞株、抗原提示細胞、SEBおよび被験物質の共存培養は、適当な培地中で適当時間培養することにより行うことができる。具体的には、抗原提示細胞を1×104〜1×105個/well、SEBを1〜2.5μg/ml、T細胞株を1×104〜8×104個/well、被験物質を0〜100μg/mlとなるように96穴U底マイクロタイタープレートに添加し、37℃で48時間培養する方法を挙げることができる。ウエルでの培地容積は0.2mlが適当である。この場合、培養48時間後の上清を回収してサンドイッチELISA法等によりIL-4、IL-5濃度を測定することができる。かくして測定される濃度と、被験物質の非存在下、すなわち、被験物質を共存させない他は当該条件と共通の条件下でのIL-4、IL-5濃度とを比較して、被験物質存在下での濃度が低い被験物質を選択することにより、IL-4および/またはIL-5の産生を抑制する物質のスクリーニングを行うことができる。その濃度差が大きければ大きいほどIL-4、IL-5産生抑制効果が高く、アレルギー性疾患予防および/または治療剤としての効果が大きい。
【0022】
さらに、アレルギー性疾患予防および/または治療剤としての被検物質の選択に際しては、上記に加え、本発明のT細胞株、該T細胞株に直接作用する抗体および被験物質の共存培養下での被験物質のIL-4および/またはIL-5産生抑制能を調べることがより好ましい。該T細胞株に直接作用する抗体としては、抗CD3抗体、抗TCRβ抗体等を挙げることができる。かような共存培養は、適当な培地中で適当時間培養することにより行うことができる。具体的には、該T細胞株に直接作用する抗体を96穴U底マイクロタイタープレートのウエルにコーティング(10μg/mlの抗体溶液をウエル当たり30μl加え37℃で90分、または4℃で一晩放置後、PBSで5回洗浄)した後、T細胞株を1×104〜8×104個/well、被験物質を0〜100μg/mlとなるように96穴U底マイクロタイタープレートに添加し、37℃で48時間培養する方法を挙げることができる。ウエルでの培地容積は0.2 mlが適当である。この場合、培養48時間後の上清を回収してサンドイッチELISA法等によりIL-4、IL-5濃度を測定することができる。かくして測定される濃度と、被験物質の非存在下、すなわち被験物質を共存させない他は当該条件と共通の条件下でのIL-4、IL-5濃度とを比べ、両者の濃度に顕著な差があるものを除くことにより、より好適なアレルギー性疾患予防および/または治療剤のスクリーニングを行うことができる。T細胞株、抗原提示細胞、SEBおよび被験物質の共存培養下でIL-4および/またはIL-5産生抑制能を有し、かつ、T細胞株、該T細胞株に直接作用する抗体および被験物質の共存培養下でIL-4および/またはIL-5産生抑制能を有さない物質は、T細胞には作用せず抗原提示した抗原提示細胞のみに作用してIL-4および/またはIL-5産生を抑制する物質であることから、極めて安全性が高い。
【0023】
以下、実施例によって本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕T細胞株の取得
・マウス脾臓細胞からのT細胞群の分画
BALB/cマウス(雌、8〜16週齢)の脾臓を摘出し、Hank's balanced salt solution中で単細胞浮遊液を調製した。溶血処理後、遠心洗浄し、10%FCS/5×10-5M β-mercaptoethanol/RPMI 1640培地(FCS/ME/RPMI)に浮遊させ、SEBを1μg/mlの濃度で加えて37℃、5% CO2/95% airの条件で培養した。増殖してきた細胞にX線(5,000 Rad)で照射した脾臓細胞を加え、1μg/mlのSEBを添加したFCS/ME/RPMIで数回(週1回ずつ合計4回)植え継いだ。
【0024】
・限界希釈法によるT細胞群からのSEB応答性T細胞株の選抜
上記培養により増殖してきた細胞を回収し、計数した。X線(5,000 Rad)で照射した脾臓細胞を抗原提示細胞とし、2.5μg/mlのSEBを添加したFCS/ME/RPMIで増殖してきたSEB応答性T細胞を96穴U底マイクロタイタープレートのウエルあたり1個となるように加えて培養した(限界希釈法)。増殖してきたT細胞株を10% ConA SN(10μg/mlのConAで刺激したマウス脾臓細胞の培養上清)を添加したFCS/ME/RPMIにて培養し、細胞数を増やした。磁気ビーズ法(細胞浮遊液にビオチン化抗体を加えて処理した後ストレプトアビジンマイクロビーズを加え、外部から磁石を当てて抗体の付着した細胞と付着していない細胞を分ける方法)を用いてT細胞を除去した後、X線(3,000 Rad)で照射した脾臓細胞を抗原提示細胞とし、2.5μg/mlのSEBを添加したFCS/ME/RPMIで培養した時に多量のIL-4を産生するT細胞株を選抜し、T細胞株#15を取得した。
【0025】
・T細胞株♯15の表面抗原とサイトカイン産生パターン
フローサイトメトリー法により分析した結果、T細胞株#15はT細胞抗原レセプターαβを保持し、Thy-1、CD4、CD44、CD69を発現するヘルパーT細胞であった。96穴U底マイクロタイタープレートを用いて、T細胞株#15の数をウエル当たり8×102〜1×105個、抗原提示細胞(T細胞を除去した後X線(3,000Rad)照射した脾臓細胞)を無添加または5×105 個/well添加、SEBを無添加または2.5 μg/ml添加して、37℃、5% CO2/95% airの条件で48時間培養した。培地容積は0.2 mlとした。培養上清のIFN-γおよびIL-4濃度はサンドイッチELISA法で測定した。その結果、T細胞株#15は抗原提示細胞とSEBの両者が存在する場合にIL-4を産生したが、IFN-γを産生しないことから、Th2細胞と考えられた(図1)。また、抗原提示細胞とSEBで刺激する際に100nMのFK506(T細胞抗原レセプターからのシグナル伝達を特異的に阻害する物質)を加えると、増殖応答は90%抑えられ、IL-4産生やIL-5産生は完全に阻害された(図2)。図2は、T細胞株#15(2 x 104 個/well)を培地のみ(None)、抗原提示細胞のみ(APC;1 x 105 個/well)、SEBのみ(1μg/ml)、APC+SEB、rIL-2(25U/ml)、または固相化抗CD3抗体(αCD3)の存在下で48時間培養したものについて、増殖応答(0.5μCiの3H-thymidineで8時間パルスし、DNAへの取り込みを測定)およびIL-4/IL-5産生能(培養上清中のIL-4/IL-5濃度をサンドイッチELISA法で測定)を調べた結果である。なお、T細胞抗原レセプターを介することなくT細胞株#15の増殖を刺激するコントロールとして、rIL-2を加えた。
【0026】
・継代維持した♯15と凍結保存した♯15のサイトカイン産生能の比較
T細胞株#15を2つに分け、一方は、上記「マウス脾臓細胞からのT細胞群の分画」で示した植え継ぎ条件により継代培養を続け、他方は20%FCS/12%DMSO/RPMI 1640に浮遊させ、クライオチューブに入れて(5×106 個/1ml/tube)、液体窒素で一定期間凍結保存した。凍結後融解したT細胞株#15と、継代培養を続けたT細胞株#15のIL-4産生量を比較したところ、両者に差はみられなかった。
・まとめ
T細胞株♯15を細胞株として樹立し、♯15はT細胞抗原レセプターを介して抗原提示細胞表面に結合したSEBを認識しIL-4およびIL-5を産生することを確認した。また、継代維持した♯15と凍結保存した♯15のサイトカイン産生能は同等であることから、♯15は継代維持しても、凍結保存しても使用することができる。
【0027】
〔実施例2〕T細胞株♯15を用いたスクリーニング方法の構築
・T細胞株♯15のサイトカイン産生条件の検討
多くの被験物質のIL-4およびIL-5産生抑制効果をスクリーニングするため、T細胞株#15の培養条件を検討した。すなわち、96穴U底マイクロタイタープレートを用いて、T細胞株#15を2 x 104個/well添加すると、抗原提示細胞(5 x 105 個/well)とSEB(2.5μg/ml)に依存して充分な量のIL-4を産生した(図1)。次に、T細胞株#15の数を2×104 個/wellとし、抗原提示細胞(T細胞を除去した後X線(3,000 Rad)照射した脾臓細胞。B/c-Sp-APC;BALB/cマウスの脾臓細胞から調製した。)の数を1×104〜8×104 個/well加え、SEBを0、1、または2.5 μg/ml添加して、37℃、5% CO2/95% airの条件で48時間培養した。ウエル当たりの培地容積は0.2 mlとした。培養上清中に分泌されたIL-4の量をサンドイッチELISA法で検討した結果、8×104 個/wellの抗原提示細胞存在下、1および2.5μg/mlのSEB添加により充分な量のIL-4産生を誘導した(図3)。これらの結果を総合し、多数の被験物質をスクリーニングする条件として、T細胞株#15の細胞数を2×104 個/well、抗原提示細胞の細胞数を1×105 個/well、SEBの添加量を1μg/mlとした。
【0028】
〔実施例3〕IL-4および/またはIL-5の産生を抑制する物質のスクリーニング
・被験物質の調製
さまざまな植物の花、葉、茎、根、果実、種子等を乾燥し、そのままもしくは粉砕し、重量あたり20倍量のイオン交換水を添加した。加熱し沸騰状態で30分間抽出を行った。十分に冷却した後、4重のガーゼでろ過し、得られたろ液を凍結乾燥して熱水抽出物乾燥粉末とし、試験に供した。これらの成分を秤量し、PBSに溶解した後、0.22 μmのメンブレンフィルターでろ過滅菌するか、あるいは10,000RadのX線照射で殺菌した。
・試験方法1(T細胞株♯15、抗原提示細胞、SEBおよび被験物質の共存培養下でのIL-4、IL-5の産生抑制能の検証)
実施例2の培養条件に被験物質を1〜100μg/ml添加して48時間培養し、培養上清中のIL-4、IL-5濃度を特異抗体を用いたサンドイッチELISA法で測定した。IL-4、IL-5の産生抑制能は、被験物質を加えない場合のIL-4またはIL-5の濃度をA、被験物質を加えた場合のIL-4またはIL-5の濃度をBとし、(A-B)/A×100(%)により算出した。
・試験方法2(T細胞株♯15、抗CD3抗体および被験物質の共存培養下でのIL-4の産生抑制能の検証)
96穴U底マイクロタイタープレートのウエルに抗マウスCD3抗体をコーティング(10μg/mlの抗体溶液をウエル当たり30μl加え37℃で90分、または4℃で一晩放置後、PBSで5回洗浄)した後、T細胞株#15(2×104 個/well)および被験物質を10〜100μg/ml加え、48時間培養した。培養上清中のIL-4濃度を特異抗体を用いたサンドイッチELISA法で測定した。IL-4の産生抑制能は、被験物質を加えない場合のIL-4の濃度をA、被験物質を加えた場合のIL-4の濃度をBとし、(A-B)/A×100(%)により算出した。
【0029】
・結果
878種の被験物質を試験した。33μg/mlの添加濃度でIL-4の産生を80%以上抑制する被験物質は、98種(11.2%)であった。次に、878種の被験物質から無作為に選んだ131種の被験物質についてIL-4とIL-5の産生抑制能を調べたところ、33μg/mlの添加濃度でIL-4とIL-5の産生を抑制する物質が13種(9.9%)、IL-4産生のみ抑制する物質が11種(8.4%)、IL-5産生のみ抑制する物質が1種(0.8%)あった。
これまでにアレルギー抑制効果を有することが知られていない植物から調製した被験物質の内、表1に示した物質1〜14について、IL-4の産生抑制、もしくはIL-4およびIL-5の産生抑制が認められ、アレルギーの抑制効果を有することが新たに見出された。IL-4およびIL-5の産生抑制が認められなかった被験物質(比較例1〜4)、すでにアレルギーの抑制効果を有することが報告されている植物から調製した被験物質(比較例5〜9)の結果も併せて表1に示す。表1は、試験方法1で被験物質を最終濃度33μg/mlで添加して48時間培養し、培養上清中のIL-4とIL-5の濃度をサンドイッチELISA法で測定した結果である。
【0030】
【表1】

【0031】
また、抗原提示細胞+SEBで刺激した場合(試験方法1)と固相化抗CD3抗体で刺激した場合(試験方法2)のIL-4産生抑制能を比較すると、被験物質は4つのタイプに分類された(表2):タイプ1、いずれの条件でも同様な抑制を示すもの(試験方法1のIC50≒試験方法2のIC50);タイプ2、抗原提示細胞+SEBで刺激した場合の抑制率が固相化抗CD3抗体で刺激した場合の抑制率を上回るもの(試験方法1のIC50<試験方法2のIC50);タイプ3、固相化抗CD3抗体で刺激した場合の抑制率が抗原提示細胞+SEBで刺激した場合の抑制率を上回るもの(試験方法1のIC50>試験方法2のIC50);タイプ4、いずれの条件でもほとんど抑制を示さないもの(試験方法1および2のIC50が大きい)。ここで、IC50とは、IL-4産生量を50%抑制するのに必要であった被験物質の濃度である。
タイプ2に属する代表的な物質として、ベンゾイン、オリバナーム、ジョニパーベリー、フェネグリークが見出され、物質13〜16として表2に示した。この内、ジョニパーベリーとフェネグリークはアレルギーの抑制効果を有することが報告されているが、ベンゾインとオリバナームはこれまでにアレルギー抑制効果が知られていない。タイプ1、3、4に属する代表的な物質も併せて表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
このように、試験方法1と試験方法2を用いることにより、IL-4産生抑制を示す被験物質を分類することが可能になり、タイプ2に属する被験物質を選抜することにより、T細胞には作用せず抗原提示細胞のみに作用し、アレルギー性疾患予防・治療に有用で安全な物質をスクリーニングできると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】T細胞株#15によるサイトカイン産生を示すグラフである。
【図2】T細胞株#15の増殖応答およびサイトカイン産生におよぼすFK506の影響を示すグラフである。
【図3】T細胞株#15によるIL-4産生量と、SEB量、抗原提示細胞数との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原提示細胞およびスタフィロコッカスエンテロトキシンBの存在下で、IL-4およびIL-5を産生するT細胞。
【請求項2】
抗原提示細胞、スタフィロコッカスエンテロトキシンB、請求項1に記載のT細胞および被験物質の共存培養下でIL-4および/またはIL-5濃度を測定し、被験物質の非存在下でのIL-4および/またはIL-5濃度の測定値と比較して、被験物質を選択することを特徴とする、IL-4および/またはIL-5の産生を抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項3】
抗原提示細胞、スタフィロコッカスエンテロトキシンB、請求項1に記載のT細胞および被験物質の共存培養下でIL-4および/またはIL-5濃度を測定し、被験物質の非存在下でのIL-4および/またはIL-5濃度の測定値と比較して、被験物質を選択することを特徴とする、アレルギー性疾患予防および/または治療剤のスクリーニング方法。
【請求項4】
抗原提示細胞、スタフィロコッカスエンテロトキシンB、請求項1に記載のT細胞および被験物質の共存培養下でIL-4および/またはIL-5濃度を測定し、被験物質の非存在下でのIL-4および/またはIL-5濃度の測定値と比較し、さらに、請求項1に記載のT細胞、該T細胞に直接作用する抗体および被験物質の共存培養下でIL-4および/またはIL-5濃度を測定し、被験物質の非存在下でのIL-4および/またはIL-5濃度の測定値と比較して、被験物質を選択することを特徴とする、アレルギー性疾患予防および/または治療剤のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−340636(P2006−340636A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−167810(P2005−167810)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】