説明

アレルギー性疾患検査方法

【課題】従来の全身系免疫の活性化に伴う抗体産生による一連のアレルギー診断法と異なり、苦痛を伴うことなく、アレルギー性疾患の罹患の有無や重症化の危険性を判断することができる検査方法の提供。
【解決手段】被験者から採便された糞便中の、バクテロイデス・エガーシー(Bacteroides eggerthii)および/またはバクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)の菌数を指標とし、アレルギー性疾患の罹患の有無または重症度を検査することを特徴とするアレルギー性疾患検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糞便を用いたアレルギー性疾患の罹患の有無または重症度を検査する方法、該方法に好適なアレルギー性疾患検査用キット、およびアレルギー性疾患治療用組成物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本におけるアレルギー性疾患の有病率は38%であり、最も頻度の高い生活習慣関連病と認識されている。
先進諸国を中心としたアレルギー性疾患の増加原因のひとつとして、1989年にイギリスのStrachan博士によって提唱された衛生仮説が挙げられる。これは、過度の衛生状態で育った子どもたちは、微生物による刺激を充分に受けていないため、免疫系が正常に発達せずにアレルギーを発症する、という説である。最近では、抗生物質の使用や食生活の変化に伴い腸内細菌叢が撹乱され、正常な免疫寛容が行われなくなるという「腸内細菌叢仮説」も提唱され、腸内細菌叢とアレルギー性疾患との関連性が示唆されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
例えば、本発明者らは、2年間に渡るスギ花粉シーズンにおいて、スギ花粉症患者および健常者の腸内細菌叢を解析し、バクテロイデス・フラギリスグループが花粉症飛散後に花粉症患者のみで増加することを見出している(例えば、非特許文献2参照。)。また、スギ花粉症以外にも、アトピー等の他のアレルギー性疾患との関与が疑われる腸内細菌について、属レベルでの報告がある(例えば、非特許文献3参照。)。
【0004】
また、IgE産生を抑制することにより、アレルギー性疾患の予防または治療を行い得ると考えられ、上記の腸内細菌叢仮説に基づき、IgE産生の抑制のために、腸内細菌を利用する様々な方法が開示されている。例えば、特定の菌種のビフィズス菌を有効成分とするIgE産生抑制剤(例えば、特許文献1参照。)、ビフィズス菌とアシドフィルス菌を育児用粉ミルクに混合させたアトピー性皮膚炎を防ぐ保険食品(例えば、特許文献2参照。)、特定の菌種のビフィズス菌を有効成分とするアレルギー予防および/または治療剤(例えば、特許文献3参照。)等が開示されている。その他、1−ケトースによるIgA抗体の産生増強作用、IgE抗体の産生抑制作用、および腸内のビフィズス菌の増殖活性作用を利用したアレルギー抑制組成物も開示されている(特許文献4参照。)。また特定の菌種のラクトバチルス属菌等と酵母を有効成分とする免疫促進用組成物も開示されている(特許文献5参照。)。但し、上記非特許文献3にも記載されているように、IgE産生を抑制し得るビフィズス菌等の菌数を測定した場合であっても、アレルギー性疾患の罹患の有無やアレルギー症状等を表す十分な指標にはならない場合がある。
【0005】
現在、アレルギー性疾患の診断においては、一般に、問診、家族歴、そして本人の既往症の確認が重要な要素となっている。また、アレルギーをより客観的な情報に基づいて診断するために、アレルゲンに対する患者の免疫学的な応答を観察する方法や、血液等の生体試料を用いる試験方法も実施されている。
【0006】
前者の例として、患者を実際にアレルゲンに接触させたときに観察される免疫応答をアレルギーの診断に役立てる方法等がある。プリック・テスト、スクラッチ・テスト、パッチ・テスト、皮内反応、または誘発試験等が、この種の試験に含まれる。これらの試験では、患者のアレルギー反応を直接診断することができる反面、実際に被検者をアレルゲンに曝露する侵襲性の高い検査である。
一方、後者の例として、アレルゲン特異的IgE測定、白血球ヒスタミン遊離試験、またはリンパ球幼若化試験等が挙げられる。アレルゲン特異的IgEの存在は、そのアレルゲンに対するアレルギー反応の証明であるが、患者によっては、必ずしもアレルゲン特異的なIgEを検出できるとは限らない場合もある。また、白血球ヒスタミン遊離試験やリンパ球幼若化試験は、免疫システムのアレルゲンに対する反応をin vitroで観察する方法であるが、これらの方法は、操作が煩雑である。
【0007】
また、アレルゲンに関わらず、アレルギー反応の関与を証明するための試験方法として血清IgE値の測定が挙げられる。ここで、血清IgE値は、アレルゲン特異IgEの総量に相当する情報であるため、IgEが関与するアレルギーすべてを含有した指標といえる。IgEが関与しているアレルギーとしては、例えば、食物アレルギー、気管支喘息、蕁麻疹、鼻炎、花粉症、アナフィラキシーショック等が挙げられる。例えば、血清IgE値が高値である場合、その患者にはアレルギー反応が起きていると推定することができる。
こうした抗体反応を利用した検査方法以外にも、例えば血液中の指標遺伝子発現を測定することで、アレルギー性疾患の検査を可能とする方法も公開されている(例えば、特許文献6参照。)。
【非特許文献1】M.C.ノヴェール(M.C. Noverr)、他1名、クリニカル・エクスペリメンタル・アレルギー(Clinical and Experimental Allergy)、第35巻、第1511〜1520ページ、2005年
【非特許文献2】小田巻 俊孝、他10名、ジャーナル・オブ・メディカル・マイクロバイオロジー(Journal of Medical Microbiology)、第56巻、第1301〜1308ページ、2007年
【非特許文献3】P.ソンジンダ(P. Songjinda)、他7名、バイオサイエンス・バイオテクノロジー・バイオケミストリー(Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry)、第35巻、第1511〜1520ページ、2005年
【特許文献1】特開2007−91704号公報
【特許文献2】特許第4010062号公報
【特許文献3】特開2006−273852号公報
【特許文献4】特開2006−321786号公報
【特許文献5】特開2005−68092号公報
【特許文献6】国際公開第2004/003198号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
患者のQOLを考えた場合、患者に苦痛を与えずにアレルギー治療に有効な情報を得ることが出来れば非常に有用である。しかしながら、これら従来の診断方法は、採血、皮内注射等の人体にとって苦痛を伴う処置を行わなければならない、という問題があり、患者のQOLの点からは好ましいものではなかった。
一方で、アレルギー性疾患患者において特異的に増減する腸内細菌をアレルギー性疾患マーカーとすることにより、糞便を用いて非侵襲的にアレルギー性疾患の診断を行うことができると考えられるが、上述したように、アレルギー性疾患との関連が疑われる腸内細菌については属レベルでの報告があるものの、調査した国や研究グループによって異なる結果が示される場合も多く、疾患に関連すると疑われる腸内細菌の菌種の特定には至っていない。例えば非特許文献2においても、バクテロイデス・フラギリスグループのうち、スギ花粉症に関連している特定の菌種は明らかにされてはいない。この理由の一つとして、腸内には数百種類、百兆以上の細菌が棲息しているうえ、毎年多くの新種が提唱されていることが考えられる。
しかしながら、良好な疾患マーカーとするためには、疾患に関連する腸内細菌を、属レベルではなく、菌種レベルで特定していることが好ましい。属レベルでの解析では、様々な菌種の複合系を検出ターゲットとするため、アレルギー性疾患との相関性が低く、アレルギー性疾患の指標としては不十分であるためである。実際に、非特許文献2においては、バクテロイデス・フラギリスグループに属する菌全体の菌数は、スギ花粉飛散前に採取された糞便中ではスギ花粉症との相関性が低いことが記載されており、バクテロイデス・フラギリスグループ全体ではスギ花粉症との相関性が低く、スギ花粉症の指標としては不十分であった。
【0009】
本発明は、従来の全身系免疫の活性化に伴う抗体産生による一連のアレルギー診断法と異なり、苦痛を伴うことなく、アレルギー性疾患の罹患の有無や重症化の危険性を判断することができる検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、菌種レベルに至るまでの詳細な腸内細菌叢解析から、アレルギー性疾患の自覚症状および血中マーカーを併せて解析・測定することにより、血液中の総IgE量と正または負の相関を示す菌種を新たに見出し、糞便中の該菌種の菌数を指標とし、アレルギー性疾患の罹患の有無や重症化の危険性を判断し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、被験者から採便された糞便中の、バクテロイデス・エガーシー(Bacteroides eggerthii)および/またはバクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)の菌数を指標とし、アレルギー性疾患の罹患の有無または重症度を検査することを特徴とするアレルギー性疾患検査方法を提供するものである。
また、本発明は、バクテロイデス・エガーシーの菌数が、糞便1g当たり100万未満である場合に、被験者がアレルギー性疾患に罹患していると判断することを特徴とする前記記載のアレルギー性疾患検査方法を提供するものである。
また、本発明は、クテロイデス・フラギリスの菌数が、糞便1g当たり100万以上である場合に、被験者がアレルギー性疾患に罹患していると判断することを特徴とする前記記載のアレルギー性疾患検査方法を提供するものである。
また、本発明は、糞便1g当たりにおいて、バクテロイデス・エガーシーの菌数が、バクテロイデス・フラギリスの菌数以下である場合には、被験者がアレルギー性疾患に罹患していると判断し、バクテロイデス・フラギリスの菌数よりも多い場合には、被験者がアレルギー性疾患に罹患していないと判断することを特徴とする前記記載のアレルギー性疾患検査方法を提供するものである。
また、本発明は、糞便中のバクテロイデス・エガーシーの菌数が、減少した場合にアレルギー性疾患の重症度が上がったと判断し、増大した場合にアレルギー性疾患の重症度が下がったと判断することを特徴とする前記記載のアレルギー性疾患検査方法を提供するものである。
また、本発明は、糞便中のバクテロイデス・フラギリスの菌数が、増大した場合にアレルギー性疾患の重症度が上がったと判断し、減少した場合にアレルギー性疾患の重症度が下がったと判断することを特徴とする前記記載のアレルギー性疾患検査方法を提供するものである。
また、本発明は、下記第1群〜第4群において、第1群、第2群、第3群、第4群の順にアレルギー性疾患の重症度が高いと判断することを特徴とする前記記載のアレルギー性疾患検査方法を提供するものである。
第1群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万未満であり、バクテロイデス・フラギリスが100万以上である。
第2群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万未満であり、バクテロイデス・フラギリスが100万未満である。
第3群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万以上であり、バクテロイデス・フラギリスが100万以上である。
第4群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万以上であり、バクテロイデス・フラギリスが100万未満である。
また、本発明は、糞便中の菌数の測定を、各菌種の遺伝子配列に対し特異的なプライマーを用いて行うことを特徴とする前記記載のアレルギー性疾患検査方法を提供するものである。
また、本発明は、前記記載のアレルギー性疾患検査方法に用いられる、下記(a)および/または(b)に記載のプライマーセットを有することを特徴とするアレルギー性疾患検査用キットを提供するものである。
(a)配列番号19の塩基配列を有するバクテロイデス・エガーシー特異的フォワードプライマーと配列番号20の塩基配列を有するバクテロイデス・エガーシー特異的リバースプライマーからなるプライマーセット。
(b)配列番号11の塩基配列を有するバクテロイデス・フラギリス特異的フォワードプライマーと配列番号12の塩基配列を有するバクテロイデス・フラギリス特異的リバースプライマーからなるプライマーセット。
また、本発明は、アレルギー性疾患に対する予防または治療効果を有するアレルギー性疾患治療用組成物のスクリーニング方法であって、被験物質の摂取により、糞便中の、バクテロイデス・エガーシーの菌数が増大した場合、および/またはバクテロイデス・フラギリスの菌数が減少した場合に、当該被験物質が、アレルギー性疾患に対する予防または治療効果を有すると判断することを特徴とするアレルギー性疾患治療用組成物のスクリーニング方法を提供するものである。
また、本発明は、前記被験物質が、医薬品または食品であることを特徴とする前記記載のアレルギー性疾患治療用組成物のスクリーニング方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアレルギー性疾患検査方法は、糞便中の腸内細菌のうち、検査対象であるアレルギー性疾患の症状に強い相関を示す特定の菌種の菌数を指標とする方法である。このため、本発明のアレルギー性疾患検査方法を用いることにより、従来の抗体産生に関する方法と異なり、患者に苦痛を与えることなく、簡便に、目的のアレルギー性疾患の罹患の有無や重症化の危険性を判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のアレルギー性疾患検査方法は、被験者から採便された糞便中の、バクテロイデス・エガーシーおよび/またはバクテロイデス・フラギリスの菌数を指標とし、アレルギー性疾患の罹患の有無または重症度を検査することを特徴とする。このように、バクテロイデス・フラギリスグループに属する腸内細菌のうち、アレルギー性疾患の症状と相関性の高い2種類の菌種の、被験者由来の糞便中の菌数を測定し、これらの菌数の多寡により、被験者のアレルギー性疾患の罹患の有無や、罹患している場合の重症度を判断し評価することができる。
【0014】
これらのアレルギー性疾患と相関性の高いバクテロイデス・フラギリスグループに属する菌種は、以下の手法により求めることができる。
1.バクテロイデス・フラギリスグループに属する菌種特異的プライマーの設計および合成
まず、ヒト糞便からの検出が報告されているバクテロイデス・フラギリスグループに属する菌種に関して、各菌種特異的なPCR(Polymerase Chain Reaction)用プライマーを設計し、合成した。具体的には、DDBJ(DNA Data Bank of Japan)、NCBI(National center for Biotechnology Information)のGenbank等の公知の国際的な塩基配列データベースにより得られた各細菌の16SrRNA遺伝子配列を基にして、公知の塩基配列解析ソフトであるCLUSTALW ver1.83を用いて、特異的配列部位を特定し、この部分をターゲットとして、各プライマーを設計した。このようにして設計した塩基配列に従い、DNA合成機を用いてプライマーを合成した。設計された各プライマーの塩基配列を表1に示す。表中のプライマー名のうち、「BaOVA−F」等の末尾が「F」のものはフォワードプライマーであり、「BaOVA−R」等の末尾が「R」のものはリバースプライマーである。また、「産物の長さ(bp)」とは、各フォワードプライマーとリバースプライマーを用いて、それが特異的に認識する菌種の16SrRNA遺伝子を鋳型としてPCRを行った場合に得られるPCR産物の塩基対長を示している。
【0015】
【表1】

【0016】
2.菌種特異的プライマーの特異性の確認
上記1で設計・合成したプライマーが、実際に各菌種の16SrRNA遺伝子に対して特異性を有しているかを確認するため、近縁種(標準株および基準株)由来遺伝子を鋳型とした場合のプライマー反応性を検討した。
まず、表2に示す4属18菌種の細菌を、GAM培地(Nissui社製)にて嫌気的に一晩純粋培養した。こうして得られた菌体各々から、Dneasy Blood&Tissue kit(QIAGEN社製)を用い、付属プロトコールに従ってDNAを抽出した。抽出したDNAは、200μLのキットに付属のElution bufferに溶かして濃度を測定し、10μg/mLの濃度に調製して鋳型DNA溶液とした。
次に、SYBR Premix Ex Taq (タカラ社製)を用いて、各菌種特異的プライマーセット(フォワードプライマーとリバースプライマーのセット)と、1μLの各鋳型DNA溶液(10ngの鋳型DNA)とを含む総液量を20μLのPCR反応液を調製した。これらのPCR反応液に対して、94℃10秒間の後、94℃5秒間、60℃30秒間を1サイクルとし、これを35サイクル行う反応条件によるPCRを行った。なお、PCRは、7500 Fast Real−Time PCR system(アプライド・バイオシステム社製)を用いて行った。その後、メルティングカーブをデフォルト条件で作成し、非特異的増幅の有無を確認した。
各PCRの結果を表3に示す。表中、「+」はPCR陽性、すなわちPCR産物が得られたことを、「−」はPCR陰性、すなわちPCR産物が得られなかったことを、それぞれ示している。この結果、上記1で得られたプライマーは、各菌種特異的にバンドを形成し、非特異的な増幅は認められなかった。
【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
3.自覚症状を有するアレルギー性疾患患者および自覚症状のない健常者におけるバクテロイデス菌数と血中総IgE量との相関解析
自覚症状を有するアレルギー性疾患患者33名、および自覚症状のない健常者14名を被験者とし、採取された糞便中のバクテロイデス・フラギリスグループに属する菌の菌種ごとの菌数と血中総IgE量との相関性を解析した。具体的には、以下のようにして行った。
(1) 糞便中の各菌種の菌数の測定
後記試験例2において各被験者の糞便から調製されたDNA溶液を鋳型DNA溶液とし、表1記載のプライマーセットを用いて、上記2と同様の反応条件でPCRを行った。得られたPCR産物量から、各DNA溶液中の各菌種の菌数を測定した。菌数の測定は、予め菌数を計数した基準株から同様に抽出したDNA溶液を用いてPCRを行うことにより作成した検量線を用いて行った。
【0020】
(2) 各菌種の菌数と血中総IgE量との相関解析
上記(1)で測定した菌数と、後記試験例1で得られた各被験者の血中総IgE量のデータに基づき、公知の統計解析ソフトSPSS ver14.0を用いて相関解析を行った。Spearman法にて相関係数を算出したところ、バクテロイデス・エガーシーおよびバクテロイデス・フラギリスにおいて、血中総IgE量と正または負の有意な相関を示すことが判明した。具体的には、表4に示すように、バクテロイデス・エガーシーは、血中総IgE量に対して強い負の相関を示した。また、バクテロイデス・フラギリスは、血中総IgE量に対して正の相関を示した。
【0021】
【表4】

【0022】
また、これらの2菌種を組み合わせた場合には、各菌種単独よりも、血中総IgE量に対してより強く、かつ有意な相関を示した。例えば、表4に示すように、血中総IgE量と正の相関を示したバクテロイデス・フラギリスの菌数を、血中総IgE量と負の相関を示したバクテロイデス・エガーシーの菌数で除した比率(表中、「バクテロイデス・フラギリス/バクテロイデス・エガーシー」)は、血中総IgE量に対して相関係数の絶対値が0.45以上、P値が0.01未満であり、血中総IgE量に対して、最も強くかつ有意な相関を示した。
【0023】
なお、上記2菌種の糞便中の菌数が血中総IgE量に相関することから、これらの菌種の腸内における増殖がアレルギー性疾患の有無や重症度に影響を受ける可能性に加えて、これらの菌種が、アレルギー性疾患の発症に深く関与している可能性もある。したがって、これらの2菌種は、アレルギー性疾患の診断マーカーとしてのみならず、アレルギー性症状のコントロールにおいても重要なターゲットとなる可能性がある。
【0024】
(3)各菌種の総菌数と血中総IgE量との相関解析
上記(1)で菌数を測定した18菌種のうち、バクテロイデス・フラギリスグループに属する14菌種の菌数を合計し、バクテロイデス・フラギリスグループの総菌数を算出した。得られた総菌数と、後記試験例1で得られた各被験者の血中総IgE量のデータに基づき、上記(2)と同様にして相関解析を行い、Spearman法にて相関係数を算出した。この結果、表4に示すように、バクテロイデス・フラギリスグループの総菌数は、血中総IgE量に対して有意な相関を示さなかった。以上の結果から、糞便中のバクテロイデス・フラギリスグループの総菌数は、アレルギー性疾患との相関性が低く、アレルギー性疾患の指標としては不十分であることが明らかである。
【0025】
本発明のアレルギー性疾患検査方法に適用可能なアレルギー性疾患は、過剰な抗原抗体反応により生ずる疾患であって、血中のIgE量が増大する疾患であれば、特に限定されるものではない。産生量が増大するIgEは、アレルゲン特異的IgEであってもよく、非特異的IgEであってもよい。このようなアレルギー性疾患として、例えば、花粉症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、蕁麻疹等がある。
【0026】
本発明のアレルギー性疾患検査方法に供される糞便は、被験者より採便されたものであれば、特に限定されるものではなく、採便直後のものであってもよく、採便後保存されたものであってもよい。糞便の保存は、臨床検査用検体等において通常行われている方法により行うことができる。例えば、室温保存でもよく、冷蔵保存でもよく、冷凍保存でもよい。糞便中の微生物量の変動を抑え、より信頼性の高い結果を得ることが期待できるため、採取直後の糞便であることが好ましく、保存後の糞便である場合には、冷蔵または冷凍保存されたものであることが好ましい。
【0027】
本発明において、糞便中の各菌種の菌数を測定する方法は、特に限定されるものではなく、糞便または糞便を常法により処理した試料中の特定の微生物の数や密度、濃度等を測定するために通常用いられている方法のいずれを用いて行ってもよい。例えば、上記3(1)において行ったように、糞便から常法により核酸を抽出し、該核酸を鋳型とし、各菌種の遺伝子を特異的に認識するプライマーを用いて、PCR等の核酸増幅反応を行い、得られた増幅産物量から菌数を算出することができる。該核酸増幅反応として、通常のPCRの他に、リアルタイムPCRを行ってもよく、RT−PCR(Reverse Transcriptase−Polymerase Chain Reaction)を行ってもよい。RT−PCRを行い、糞便から回収された核酸中のRNAをcDNAとして鋳型として用いることにより、1000倍程度検出感度をあげることが可能である。その他、各菌種の細菌自体を特異的に認識する抗体を用いて、希釈した糞便中の微生物数を直接計数してもよく、各菌種の遺伝子を特異的に認識するプローブを用いて、FISH(fluorescence in situ hybridization)法等を行うことにより菌数を測定することもできる。糞便中の細菌を高精度かつ高感度に検出し測定得るため、糞便中の菌数の測定は、各菌種の遺伝子配列に対し特異的なプライマー(菌種特異的プライマー)を用いて行うことが好ましく、PCR等の核酸増幅反応を行い、得られた増幅産物量から菌数を算出して行うことがより好ましい。
【0028】
ここで、菌種特異的プライマーは、各菌種の遺伝子配列を特異的に認識する塩基配列を有するオリゴヌクレオチドであれば、特に限定されるものではない。例えば、公知のプライマーを用いてもよく、新たに設計・合成したプライマーであってもよい。なお、菌種特異的プライマー等の設計や合成は、遺伝子解析等の分野で公知のいずれの方法を用いて行ってもよい。例えば、標的の菌種の遺伝子配列情報を用いて、CLUSTALWやPrimer3等の公知のプライマー設計ソフトを利用して設計することができる。各菌種の遺伝子配列情報は、公知の塩基配列解析法による解析や、DDBJ等の公知の塩基配列データベースより入手することもできる。
【0029】
本発明において、バクテロイデス・エガーシーやバクテロイデス・フラギリスの菌数の測定に用いられる菌種特異的プライマーとしては、表1記載の塩基配列を有するプライマーであることが好ましい。これらのプライマーを用いることにより、標的の菌種を、近縁種であるバクテロイデス・フラギリスグループの他の菌種と明確に識別して、検出することができるためである。なお、各菌種特異的プライマーは、標的の遺伝子に対する特異的な認識能を阻害しない限り、表1記載の塩基配列以外の付加的な塩基配列を有していてもよい。該付加的な配列として、例えば、制限酵素認識配列等がある。また、菌種特異的プライマーを、蛍光物質等により標識しておくことにより、得られた増幅産物の検出等を容易にすることもできる。なお、プライマーの標識は常法により行うことができる。
【0030】
その他、表1記載のバクテロイデス・エガーシー特異的プライマーセットとバクテロイデス・フラギリス特異的プライマーセットのうち、少なくとも1種を含むようにキット化することも好ましい。該キットを用いることにより、簡便にアレルギー性疾患の検査を行うことができるためである。該キットには、プライマーセットの他に、PCR用試薬等の、該プライマーセットを用いて菌数を測定する場合に用いられる試薬等を含めることができる。
【0031】
本発明のアレルギー性疾患検査方法においては、糞便中のバクテロイデス・エガーシーおよびバクテロイデス・フラギリスをアレルギー性疾患マーカーとするものであり、被験者由来の糞便中の、アレルギー性疾患マーカーである菌種の菌数を指標とし、アレルギー性疾患を検査する方法である。すなわち、糞便中の菌数が血中総IgE量と負の相関を有するバクテロイデス・エガーシーの菌数が多い場合や、糞便中の菌数が血中総IgE量と正の相関を有するバクテロイデス・フラギリスの菌数が少ない場合には、被験者がアレルギー性疾患に罹患している可能性が高い、と判断することができる。
【0032】
具体的には、糞便1g当たりのバクテロイデス・エガーシーの菌数が、アレルギー性疾患非罹患者由来の糞便1g当たりの菌数よりも少ない場合や、糞便1g当たりのバクテロイデス・フラギリスの菌数が、アレルギー性疾患非罹患者由来の糞便1g当たりの菌数よりも多い場合に、被験者がアレルギー性疾患に罹患していると判断することができる。
【0033】
また、バクテロイデス・エガーシーの菌数が、糞便1g当たり100万未満である場合や、バクテロイデス・フラギリスの菌数が、糞便1g当たり100万以上である場合に、被験者がアレルギー性疾患に罹患していると判断することができる。
【0034】
これら2菌種の菌数のデータを適宜組み合わせて、被験者のアレルギー性疾患の罹患の可能性や重症度を判断することができる。例えば、糞便1g当たりにおいて、バクテロイデス・エガーシーの菌数が、バクテロイデス・フラギリスの菌数以下である場合には、被験者がアレルギー性疾患に罹患していると判断し、バクテロイデス・フラギリスの菌数よりも多い場合には、被験者がアレルギー性疾患に罹患していないと判断することができる。
【0035】
また、これらの菌種の菌数のデータを用いて、アレルギー性疾患に罹患している場合の重症度を判断することもできる。例えば、糞便中のバクテロイデス・エガーシーの菌数が、減少した場合にアレルギー性疾患の重症度が上がったと判断し、増大した場合にアレルギー性疾患の重症度が下がったと判断することができる。同様に、糞便中のバクテロイデス・フラギリスの菌数が、増大した場合にアレルギー性疾患の重症度が上がったと判断し、減少した場合にアレルギー性疾患の重症度が下がったと判断することもできる。
【0036】
その他、下記第1群〜第4群において、第1群、第2群、第3群、第4群の順にアレルギー性疾患の重症度が高いと判断することもできる。
第1群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万未満であり、バクテロイデス・フラギリスが100万以上である。
第2群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万未満であり、バクテロイデス・フラギリスが100万未満である。
第3群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万以上であり、バクテロイデス・フラギリスが100万以上である。
第4群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万以上であり、バクテロイデス・フラギリスが100万未満である。
【0037】
このように、本発明のアレルギー性疾患検査方法を用いることにより、採血やアレルゲン感作といった侵襲敵な処置を要することなく、安全かつ簡便にアレルギー性疾患の罹患の有無や重症化の危険度等を検査することができる。また、本発明のアレルギー性疾患検査方法を継続的に行い、各検査時に得られた上記2菌種の菌数データを比較することにより、アレルギー性疾患の症状の重症化または緩解を、被験者に検査のためのアレルゲン感作という負担を強いることなく、安全に調べることができる。
【0038】
その他、本発明のアレルギー性疾患検査方法を利用することにより、アレルギー性疾患に対する予防または治療効果を有するアレルギー性疾患治療用組成物のスクリーニングを簡便かつ安全に行うことができる。具体的には、被験物質の摂取前と摂取後に採取した糞便に対して、上記2菌種のうちの少なくとも1以上の菌種の菌数を測定し、摂取前後により各菌種の菌数が変動するかどうかを調べることにより、アレルギー性疾患治療用組成物のスクリーニングを行うことができる。例えば、被験物質の摂取により、糞便中の、バクテロイデス・エガーシーの菌数が増大した場合、および/またはバクテロイデス・フラギリスの菌数が減少した場合に、摂取した被験物質が、アレルギー性疾患に対する予防または治療効果を有すると判断することができる。このような、スクリーニングの結果に得られたアレルギー性疾患治療用組成物は、医薬品や食品等の成分とすることができる。
【実施例】
【0039】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
[試験例1]血中総IgEレベルの測定
自覚症状を有するアレルギー性疾患患者33名、および自覚症状のない健常者14名から採血を行い、血中総IgEレベルを測定した。総IgE抗体量は、ELISA測定用プラスティック96穴プレートに、市販のIgE抗原(Diagnostics社製)をコートし、そこに被験者の血液を添加して洗浄後、HRP標識した抗ヒトIgE抗体(Diagnostics社製)を添加して反応させた後、さらに洗浄した。さらに、TMB試薬(Diagnostics社製)にて発色させた後、10%硫酸を加えて反応を停止させてから、プレートリーダーにて452〜595nmの吸光度を測定した。得られた測定値から、濃度既知の対照試料を用いて作成した検量線を用いて、各血液中の総IgE抗体量を算出した。
【0041】
[試験例2]糞便中からのDNA抽出
試験例1で示した被験者47名から採便を行い、糞便からフェノール・ビーズ法(非特許文献2参照。)によりDNAを抽出した。すなわち、20mgの糞便を1mLのPBSにて2回洗浄後、extraction buffer (100mM Tris−HCl, 40mM ethylenediaminetetraacetic acid,pH9.0) 450μL、10%SDS50μL、0.1mm径のグラスビーズ300mg、TE飽和フェノール500μLを加え、FastPrep FP100A(Bio101社製)を用いて、パワーレベル5で30秒間激しく振盪した。氷上で10分静置した後、14000×g、5分間の遠心で得られた上清に、フェノール・クロロホルムを400μL加えて、よく攪拌した。さらに氷上で10分静置した後、14000×g、5分間の遠心で得られた上清をイソプロパノールで沈殿させ、70%エタノールで洗浄した。その後、High Pure PCR Template Preparation kit (ロシュ社製)を用い、付属プロトコールに従ってDNAを精製した。最終的に200μLのTEバッファー(10mM Tris−HCl(pH8.0)/1mM EDTA)に溶かした溶液を、DNA溶液とした。
【0042】
[実施例1]
(1)自覚症状を有するアレルギー性疾患患者および自覚症状のない健常者における、バクテロイデス・エガーシーおよびバクテロイデス・フラギリスの定性分析
上記試験例2において各被験者の糞便から調製されたDNA溶液を鋳型DNA溶液とし、表1記載の、プライマーセットを用いてPCRを行い、各DNA溶液中にバクテロイデス・エガーシーおよびバクテロイデス・フラギリスが存在しているかどうかを分析した。
TaKaRa Ex Taq (タカラ社製)を用いて、各菌種特異的プライマーセット(フォワードプライマーとリバースプライマーのセット)と、1μLの各鋳型DNA溶液とを含む総液量を25μLのPCR反応液を調製した。これらのPCR反応液に対して、94℃20秒間、50℃20秒間、72℃30秒間を1サイクルとし、これを30サイクル行う反応条件によるPCRを行った。なお、PCRは、7500 Fast Real−Time PCR system(アプライド・バイオシステム社製)を用いて行った。その後、得られたPCR産物を電気泳動し、バンドの有無により、糞便中にバクテロイデス・フラギリスグループの各菌種が存在しているかどうかを判定した。具体的には、電気泳動は、1%アガロースゲル(Molecular Biology Certified Agarose;バイオラッド社製)を用いて、Mupid(コスモ・バイオ社製)により100V、30分間電気泳動し、エチジウムブロミド(0.5mg/mL)で染色後、UVランプ下でバンドを観察することにより行った。なお、該方法では、糞便1g当り100万以上の菌数がいる場合に、PCR後にバンドが検出される。
【0043】
(2)バクテロイデス・エガーシーおよびバクテロイデス・フラギリスの有無と血中総IgE量との群間解析
上記(1)で得られたバクテロイデス・エガーシーとバクテロイデス・フラギリスの有無の結果と、試験例1で得られた各被験者の血中総IgE量のデータに基づき、統計解析ソフトSPSS ver14.0を用いて群間解析を行った。Mann−Whitney Uテストを実施した結果を、表5および6に示した。表中、「PCR陽性被験者」とは、上記(1)においてバンドが検出され、標的の菌種が糞便1g当たり100万以上存在すると判定された糞便が採取された被験者を意味し、「PCR陰性被験者」とは、バンドが検出されず、標的の菌種が糞便1g当たり100万未満であると判定された糞便が採取された被験者を意味する。
【0044】
【表5】

【0045】
【表6】

【0046】
これらの結果から明らかであるように、バクテロイデス・エガーシーおよびバクテロイデス・フラギリスの有無により、血中総IgE量が有意に異なることが判明した。
また、下記のように4群に分類した場合に、第1群、第2群、第3群、第4群の順に血中総IgE量が高くなる傾向が観察された。また、各群は、第4群との比較において、いずれもP値が低く、この傾向の信頼性が高いことが明らかとなった。
第1群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万未満であり、バクテロイデス・フラギリスが100万以上である。
第2群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万未満であり、バクテロイデス・フラギリスが100万未満である。
第3群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万以上であり、バクテロイデス・フラギリスが100万以上である。
第4群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万以上であり、バクテロイデス・フラギリスが100万未満である。
以上の結果から、バクテロイデス・エガーシーとバクテロイデス・フラギリスが、アレルギー性疾患マーカーとして利用し得ることが明らかである。
【0047】
[実施例2]
上記3(1)において得られた各糞便中のバクテロイデス・エガーシーおよびバクテロイデス・フラギリスの菌数の結果と、試験例1で得られた各被験者の血中総IgE量のデータに基づき、統計解析ソフトSPSS ver14.0を用いて群間解析を行った。
バクテロイデス・フラギリスの菌数を糞便1g当たり1億以上である場合に、PCR陽性である(糞便中にバクテロイデス・フラギリスが存在する)と判断した場合に、Mann−Whitney Uテストを実施したところ、表7に示すように、バクテロイデス・フラギリスの有無により、血中総IgE量が有意に異なることが判明した。
一方、バクテロイデス・エガーシーの菌数がバクテロイデス・フラギリスの菌数以下である群と、バクテロイデス・エガーシーの菌数がバクテロイデス・フラギリスの菌数よりも多い群との2群に分類した場合に、Mann−Whitney Uテストを実施したところ、表8に示すように、該2群において血中総IgE量が有意に異なることが判明した。
以上の結果から、糞便中のバクテロイデス・フラギリスの菌数および/またはバクテロイデス・エガーシーの菌数が、血中総IgE量と強い相関を有していること、特に両者を組み合わせて用いることにより、被験者の血中総IgE量を、高精度に判断することができることが明らかである。
【0048】
【表7】

【0049】
【表8】

【0050】
同様に、該2群におけるアレルギー性疾患の罹患者数と非罹患者数を比較検討した。表9は、各群のアレルギー性疾患罹患者と非罹患者の人数を示したものである。
この結果、バクテロイデス・エガーシーの菌数がバクテロイデス・フラギリスの菌数以下である群では、約82%がアレルギー性疾患罹患者であり、糞便中のバクテロイデス・エガーシーの菌数とバクテロイデス・フラギリスの菌数を比較することにより、アレルギー性疾患の罹患の有無を80%以上の特異度で検査することが可能であることが示唆された。
【0051】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のアレルギー性疾患検査方法は、糞便中のバクテロイデス・エガーシーおよびバクテロイデス・フラギリスをアレルギー性疾患マーカーとし、非侵襲的かつ簡便にアレルギー性疾患の罹患の有無や重症化の危険性を判断することができるため、特にアレルギー性疾患の診断および治療の分野において利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採便された糞便中の、バクテロイデス・エガーシー(Bacteroides eggerthii)および/またはバクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)の菌数を指標とし、アレルギー性疾患の罹患の有無または重症度を検査することを特徴とするアレルギー性疾患検査方法。
【請求項2】
バクテロイデス・エガーシーの菌数が、糞便1g当たり100万未満である場合に、被験者がアレルギー性疾患に罹患していると判断することを特徴とする、請求項1記載のアレルギー性疾患検査方法。
【請求項3】
バクテロイデス・フラギリスの菌数が、糞便1g当たり100万以上である場合に、被験者がアレルギー性疾患に罹患していると判断することを特徴とする、請求項1記載のアレルギー性疾患検査方法。
【請求項4】
糞便1g当たりにおいて、バクテロイデス・エガーシーの菌数が、バクテロイデス・フラギリスの菌数以下である場合には、被験者がアレルギー性疾患に罹患していると判断し、バクテロイデス・フラギリスの菌数よりも多い場合には、被験者がアレルギー性疾患に罹患していないと判断することを特徴とする、請求項1記載のアレルギー性疾患検査方法。
【請求項5】
糞便中のバクテロイデス・エガーシーの菌数が、減少した場合にアレルギー性疾患の重症度が上がったと判断し、増大した場合にアレルギー性疾患の重症度が下がったと判断することを特徴とする、請求項1記載のアレルギー性疾患検査方法。
【請求項6】
糞便中のバクテロイデス・フラギリスの菌数が、増大した場合にアレルギー性疾患の重症度が上がったと判断し、減少した場合にアレルギー性疾患の重症度が下がったと判断することを特徴とする、請求項1記載のアレルギー性疾患検査方法。
【請求項7】
下記第1群〜第4群において、第1群、第2群、第3群、第4群の順にアレルギー性疾患の重症度が高いと判断することを特徴とする、請求項1記載のアレルギー性疾患検査方法。
第1群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万未満であり、バクテロイデス・フラギリスが100万以上である。
第2群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万未満であり、バクテロイデス・フラギリスが100万未満である。
第3群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万以上であり、バクテロイデス・フラギリスが100万以上である。
第4群:糞便1g当たりの菌数が、バクテロイデス・エガーシーが100万以上であり、バクテロイデス・フラギリスが100万未満である。
【請求項8】
糞便中の菌数の測定を、各菌種の遺伝子配列に対し特異的なプライマーを用いて行うことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか記載のアレルギー性疾患検査方法。
【請求項9】
請求項8記載のアレルギー性疾患検査方法に用いられる、下記(a)および/または(b)に記載のプライマーセットを有することを特徴とするアレルギー性疾患検査用キット。
(a)配列番号19の塩基配列を有するバクテロイデス・エガーシー特異的フォワードプライマーと配列番号20の塩基配列を有するバクテロイデス・エガーシー特異的リバースプライマーからなるプライマーセット。
(b)配列番号11の塩基配列を有するバクテロイデス・フラギリス特異的フォワードプライマーと配列番号12の塩基配列を有するバクテロイデス・フラギリス特異的リバースプライマーからなるプライマーセット。
【請求項10】
アレルギー性疾患に対する予防または治療効果を有するアレルギー性疾患治療用組成物のスクリーニング方法であって、
被験物質の摂取により、糞便中の、バクテロイデス・エガーシーの菌数が増大した場合、および/またはバクテロイデス・フラギリスの菌数が減少した場合に、当該被験物質が、アレルギー性疾患に対する予防または治療効果を有すると判断することを特徴とするアレルギー性疾患治療用組成物のスクリーニング方法。
【請求項11】
前記被験物質が、医薬品または食品であることを特徴とする、請求項10記載のアレルギー性疾患治療用組成物のスクリーニング方法。

【公開番号】特開2009−232690(P2009−232690A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79419(P2008−79419)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】