説明

アレルギー性鼻炎治療薬

【課題】 遅発相反応の発症に関与するロイコトリエン(LTs)及びトロンボキサン(TX)等のケミカルメディエーターの産生細胞である好酸球浸潤を抑制することにより、アレルギー性鼻炎に対する治療、特に遅発相反応における鼻づまり症状の抑制に優れた効果を有し、鼻炎の慢性化をも防止する副作用の無いアレルギー性鼻炎治療薬を提供することである。
【解決手段】 ボクソク及びビンロウジから選ばれる1種又は2種を配合することを特徴とするアレルギー性鼻炎治療薬である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー性鼻炎等のI型アレルギー疾患の治療のため、詳しくは即時相反応(くしゃみ・鼻水・鼻づまり)及び遅発相反応(鼻づまり)を抑制する事に加え、鼻炎の慢性化防止に有用なアレルギー性鼻炎治療薬である。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性鼻炎は、くしゃみ、鼻水、鼻づまり(鼻閉)の3大症状を特徴とするI型アレルギー疾患であり、花粉等による抗原惹起直後にくしゃみ、鼻水、鼻づまりを誘発する即時相反応と惹起後4〜24時間に鼻づまりを誘発する遅発相反応の2相性反応を示すことが知られている。従来、アレルギー性鼻炎の治療には抗ヒスタミン作用を主作用とする抗アレルギー薬が投与されているが、即時相反応におけるくしゃみ、鼻水は強力に抑制するが、鼻づまり症状、特に遅発相反応における鼻づまり症状に対して効果が弱いとされている。遅発相反応における鼻づまり症状に対しては、デキサメタゾンなどのステロイド剤の投与が有効な治療であるが、ステロイド剤には副作用があり、副作用の無い治療薬が望まれている。
【0003】
また、遅発相反応の発症には、ロイコトリエン(LTs)及びトロンボキサン(TX)が関与することが知られている。LTsやTX等のケミカルメディエーターは、肥満細胞のみでなく、遅発相反応において局所に浸潤する好酸球により産生されている。従って、遅発相反応における鼻づまり抑制のターゲットとして好酸球浸潤抑制作用のある抗アレルギー薬の開発が望まれている。
【0004】
ボクソクは、ブナ科のクヌギ又はその他近縁植物の樹皮で、漢方方剤(十味敗毒湯など)の構成生薬であり、化膿性皮膚疾患、急性皮膚疾患、水虫等の皮膚疾患に用いられている。
【0005】
ビンロウジはヤシ科の種子で、漢方方剤(女神散など)の構成生薬であり、健胃・消化・駆虫薬等に用いられている(非特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、ボクソク及びビンロウジのアレルギー性鼻炎に対する治療効果、特に鼻づまり症状に対する治療効果及び鼻炎の慢性化を防止する作用は全く知られていない。
【非特許文献1】和漢薬百科図鑑(I),平成5年11月30日,保育社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、遅発相反応の発症に関与するロイコトリエン(LTs)及びトロンボキサン(TX)等のケミカルメディエーターにより浸潤する好酸球を抑制することにより、アレルギー性鼻炎に対する治療、特に遅発相反応における鼻づまり症状の抑制に優れた効果を有し、鼻炎の慢性化をも防止する副作用の無いアレルギー性鼻炎治療薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、かかる課題を解決するために鋭意研究した結果、ボクソク及びビンロウジが、アレルギー性鼻炎モデルにおける鼻腔内好酸球浸潤反応に対して強力な抑制作用を示し、アレルギー性鼻炎に対する治療、特に遅発相反応における鼻づまり症状の抑制及び鼻炎の慢性化防止に優れた効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ボクソク及びビンロウジから選ばれる1種又は2種を配合することを特徴とするアレルギー性鼻炎治療薬である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、特に遅発相反応における鼻づまり症状の抑制に優れた効果を有し、鼻炎の慢性化をも防止する副作用の無いアレルギー性鼻炎治療薬である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で、ボクソク及びビンロウジの有効量は、経口では原生薬換算量として、成人1日量あたり、0.01〜100g、好適には0.1〜10gがよい。これらの生薬は、実際には、生薬末、生薬エキス等の形で製剤に配合される。
【0012】
本発明のアレルギー性鼻炎治療薬は、経口又は非経口投与製剤に調整され、経口投与製剤としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、チュアブル錠などの固形製剤、シロップ剤、ドリンク剤などの液剤であり、慣用的な方法で製造される。固形製剤として調整する場合には、必要に応じて、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤等を使用することができる。液剤として調整する場合には、必要に応じて、界面活性剤、溶解補助剤、緩衝剤等を使用することができる。
【0013】
また、他に保存剤、香料、色素、甘味剤、嬌味剤、清涼化剤等を使用することができる。
【0014】
非経口投与製剤としては、粉末剤や液剤に調整し、スプレー剤等で鼻粘膜へ投与される。
【0015】
本発明のアレルギー性鼻炎治療薬は、1日1回又は2〜6回に分けて投与することができる。
【0016】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
ボクソクエキス末1500g、結晶セルロース150g、白糖75g、マンニトール31.5g、ヒドロキシプロピルセルロース300g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース450g、軽質無水ケイ酸45g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム135gを混合し、攪拌造粒機にて精製水で造粒し、流動層乾燥機にて乾燥し、ステアリン酸マグネシウム13.5gを加えて混合し、ロータリー打錠機により1錠300mgの錠剤を得た。
【実施例2】
【0018】
ボクソクエキス末1000g、結晶セルロース900g、白糖300g、マンニトール1110g、ヒドロキシプロピルセルロース900g、軽質無水ケイ酸90g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム155gを混合し、流動層造粒乾燥機にて水/エタノール混液(3:7)で造粒、乾燥し、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム45gを加えて混合し、1包1.5gの散剤を得た。
【実施例3】
【0019】
ボクソクエキス末1000g、リン酸水素カルシウム428g、バレイショデンプン360g、結晶セルロース360g、ヒドロキシプロピルセルロース120g、軽質無水ケイ酸36g、ステアリン酸マグネシウム24g、ケイ酸マグネシウム72gを混合し、乾式造粒機にて造粒し、1カプセル400mgのカプセル剤を得た。
【実施例4】
【0020】
ビンロウジエキス末1500g、結晶セルロース200g、白糖30g、マンニトール28g、ヒドロキシプロピルセルロース240g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース240g、軽質無水ケイ酸30g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム120gを混合し、攪拌造粒機にて精製水で造粒し、流動層乾燥機にて乾燥し、ステアリン酸マグネシウム12gを加えて混合し、ロータリー打錠機により1錠400mgの錠剤を得た。
【実施例5】
【0021】
ビンロウジエキス末1500g、結晶セルロース400g、白糖300g、マンニトール1110g、ヒドロキシプロピルセルロース900g、軽質無水ケイ酸90g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム155gを混合し、流動層造粒乾燥機にて水/エタノール混液(3:7)で造粒、乾燥し、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム45gを加えて混合し、1包1.5gの散剤を得た。
【実施例6】
【0022】
ビンロウジエキス末1500g、リン酸水素カルシウム128g、バレイショデンプン160g、結晶セルロース360g、ヒドロキシプロピルセルロース120g、軽質無水ケイ酸36g、ステアリン酸マグネシウム24g、ケイ酸マグネシウム72gを混合し、乾式造粒機にて造粒し、1カプセル400mgのカプセル剤を得た。
【0023】
試験例:OVA惹起マウス鼻腔内好酸球浸潤反応試験
1.動物
BALB/cマウス(雌、5week)を1週間の予備飼育後に実験に供した。
【0024】
2.試薬及び被験薬物
試薬として、Ovalbumin (OVA)、硫酸カリウム・アルミニウム、デキサメタゾン、被験薬物は、ボクソクエキス及びビンロウジエキスを使用した。
【0025】
3.抗原感作
3-1 Alumの作成
10%硫酸カリウムアルミニウム水溶液(ストック溶液)60.8mLを純水600mLに添加し、pH7.0に調製して水酸化アルミニウム懸濁液を作成した。この懸濁液をリン酸緩衝溶液(PBS)(大日本製薬)を使用し遠心操作(2000rpm, 10min)することで3回洗浄した。洗浄した水酸化アルミニウムの沈殿物をPBSにより最終200mLにメスアップし再懸濁する事でAlum溶液(5mg/ml)を作成した。
【0026】
3-2 感作
感作はBALB/cマウスにOVA-Alum溶液(OVA 5μg/Alum5mg/mL)を200μL腹腔内投与する事で行った。感作は初回感作(0day)及び追加感作(4,13,27day)の4回行った。
【0027】
4.抗原惹起、被験薬物の調整及び投与方法、及び評価
最終感作7日後より隔日に4回、OVA(25μg/ml,20μl)の点鼻惹起を行った。被験薬物として、ボクソクエキス500mg/kg(n=11)、ビンロウジエキス500mg/kg(n=10)を用いた。また、コントロール(n=14)として、0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)溶液、比較薬物として、強力な好酸球浸潤抑制作用を有するデキサメタゾン(Dex)を高容量:1mg/kg(n=9)を用いた。各被験薬物は、0.5%CMC溶液に溶解又は懸濁し、初回惹起1日前より最終惹起日まで1日1回、経口投与により、マウスに8日間連投した。なお、点鼻惹起当日の投与は、惹起の1時間前に行った。最終惹起6時間後に鼻腔組織を回収し、ホルマリン固定後、定法に従ってLuna染色した。各値は鼻腔組織Level2病理切片当たりの好酸球数をmean±seで示した。有意差検定は、コントロール群と比験薬物投与群間の2群間比較を行った(t-test)。結果を図1に示す。
【0028】
5.結果
ボクソク及びビンロウジは、鼻腔内好酸球浸潤反応をコントロールに対して有意に抑制した(t-test)。また、その抑制は、比較薬剤の高用量デキサメタゾン(Dex)には及ばないものの強力であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のボクソク及びビンロウジから選ばれる1種又は2種を配合することを特徴とするアレルギー性鼻炎治療薬は、強力な鼻腔内好酸球浸潤抑制作用を有し、アレルギー性鼻炎に対する治療薬として、また特に遅発相反応における鼻づまり症状の抑制及び鼻炎の慢性化防止するアレルギー性鼻炎に対する治療薬として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ボクソク及びビンロウジの鼻腔内好酸球浸潤抑制作用を示す図面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボクソク及びビンロウジから選ばれる1種又は2種を配合することを特徴とするアレルギー性鼻炎治療薬。

【図1】
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【公開番号】特開2006−169232(P2006−169232A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323089(P2005−323089)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】