説明

アレルギー感作の防止

本発明は、エンテロウイルス・ワクチンを使って、アレルギー感作およびそれに伴う疾患を予防および治療することに関する。エンテロウイルスは、ウイルスゲノムに組み込まれかつアレルギー感作を誘導するアレルゲンをコードする外因性核酸配列を含まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、アレルギー感作、特にIgE媒介感作の危険性を減少させることに関し、また、アレルギー感作の臨床的疾患への進行の危険性を減少させることにより喘息、湿疹、アレルギー性鼻炎や結膜炎のようなアレルギー性疾患が予防または治療されることに関する。より正確には、本願は、アレルギー感作を伴う疾患を予防または治療する医薬組成物を製造するための特定のウイルスの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
最近数十年間、アレルギー性疾患の有病率は先進国で常に増加している。新生児の免疫系は未熟で、新生児期から幼児期にわたって発達する。健常児は生活環境の中の病原菌に対して免疫応答を発達させるが、その一方、生活環境の中の無害因子に対してアレルギー反応をおこし、アレルギー性疾患に至る子供の割合が増加している。
【0003】
アレルギー性疾患発症を予防するために、いくつかの試みがなされてきた。何年もの間、母乳のみを与えることや幼少期に猫や犬のようなアレルギーを誘発する原因と考えられるものとの接触を避けることがアレルギー性疾患の危険性を減少させる手段とされてきた。しかし、結果は納得のいくようなものではなかった。
【0004】
アレルギー性疾患の原因に対する最近の仮説は「衛生仮説」と呼ばれるもので、それは、アレルギー性疾患の有病率は、衛生基準の低い国よりも生活および衛生基準の高い豊かな国で著しく高いという事実に基づいている。さらに、兄弟数とアレルギー性疾患との逆相関関係が、疫学調査において証明されている(非特許文献1,2)。農場で育つことで、アレルギー性鼻炎や感作有病率がより低くなることと関連があると考えられる(非特許文献3,4,5)。農場に住んではいないが定期的に家畜と接触をもつ子供もまたアレルギー感作有病率は低かった(非特許文献4)。
【0005】
これらの関連性の根底にある理由はほとんど分かっていないが、「衛生仮説」では、小児期に様々な病原菌にさらされることが、免疫系の成熟を促し、アレルギー性疾患から保護するとする説明が与えられる(非特許文献2,6)。アレルギーへの取り組みとして考えられる1つの取り組みは、プロバイオティクス細菌、特に、乳酸菌の投与であり、それらの菌は寛容原性免疫応答を促進することが示されている。
【0006】
いくつかの研究が、喘息およびアレルギーの発症におけるTh2極性CD4およびT細胞の役割を提示してきたが(非特許文献7〜9)、アレルギー感作を調節する正確な免疫機序は知られていない。
TM偏向免疫応答は、Th2細胞の影響を下方調節し(非特許文献7)、または、制御性T細胞はTh1およびTh2細胞両方の機能を制御するとともに、Th1/Th2バランスを制御する(非特許文献8,9)。
【0007】
矛盾する報告もあるが、A型肝炎ウイルス(HAV)(非特許文献10〜13)、トキソプラズマ原虫(非特許文献12,13)およびヘリコバクター・ピロリ(非特許文献12〜14)のような感染症、および細菌成分(非特許文献15〜17)は、アレルギー性疾患の危険性低下と関連があるとする疫学的な裏付けがあり、そのことより、微生物負荷は小児期におけるアレルギー発症から保護する重要な環境因子であるとする仮説を裏付ける。
さらに、英国において、5歳までの胃腸感染症数とアトピーの危険性とに逆相関が単独に見られた(非特許文献19)。ヒトヘルペスウイルス6型(HHV−6)に幼少期に感染すると、幼児のIgE感作、アトピー性疾患およびアレルギー発症を防ぐことも報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2006/031195号公報
【特許文献2】WO93/11251号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】カルマウス・ダブリュ(Karmaus W)、ボテザン・シー(Botezan C)著、「兄弟の数が多いほど、アレルギーや喘息を防ぐ?レビュー(Does a higher number of siblings protect against the development of allergy and asthma? A review.)」、「ジェイ・エピデミオル・コミュニティ・ヘルス(J Epidemiol Community Health)」、2002年、第56号、第209〜217頁
【0010】
【非特許文献2】ストラッチャン・ディーピー(Strachan DP)著、「ファミリーサイズ、感染症およびアトピー:“衛生仮説”の最初の10年(Family size, infection and atopy: The first decade of the “hygiene hypothesis”)」、ソラックス(Thorax)、2000年、補遺55−1号、S2−10
【0011】
【非特許文献3】フォン・ハーツェン・エル(von Hertzen L)、マケラ・エム(Makela M)、ペテイズ・ティ(Petays T)等著、「フィンランド人とロシア人との間で広がるアトピーにおける格差:2つの発生地域の比較(Growing disparities in atopy between the Finns and the Russians: A comparison of 2 generations)」、「ジェイ・アレルギー・クリン・イミュノル(J Allergy Clin Immunol)」2006年、第117号、第151〜157頁
【0012】
【非特許文献4】リードラー・ジェイ(Riedler J)、エダー・ダブリュ(Eder W)、オベルフェルド・ジー(Oberfeld G)、シュレウアー・エム(Schreuer M)著、「農場に住むオーストリア人の子供は花粉症、喘息、アレルギー感作が少ない(Austrian children living on a farm have less hay fever, asthma and allergic sensitization.)クリン・エクスポ・アレルギー(Clin Exp Allergy)、2000年、第30号、第194〜200頁
【0013】
【非特許文献5】キルペレイネン・エム(Kilpelainen M)、テルホ・イーオー(Terho EO)、ヘレニウス・エイチ(Helenius H)、コスケンヴオ・エム(Koskenvuo M)著、「子供時代の農場環境はアレルギーの発症を予防する(Farm environment in childhood prevents the development of allergies)」、「クリン・エクスポ・アレルギー(Clin Exp Allergy)」、2000年、第30号、第201〜208頁
【0014】
【非特許文献6】ストラッチャン・ディーピー(Strachan DP)著、「花粉症、衛生、家庭サイズ」、「ビーエムジェイ(BMJ)」、1989年、第299号、第1259〜60頁
【0015】
【非特許文献7】モスマン・ティーアール(Mosmann TR)、サド・エス(Sad S)著、「T細胞サブセット:Th1、Th2他の膨張宇宙(The expanding universe of T−cell subsets:Th1 , Th2 and more)」、「イミュノル・トゥディ(Immunol Today)」、1996年、第17号、第138〜146頁
【0016】
【非特許文献8】ウメツ・ディーティ(Umetsu DT)、アクバリ(Akbari O)、デクライフ・アールエイチ(Dekruyff RH)著、「制御性T細胞はアレルギー性疾患および喘息の発症を制御する(Regulatory T cells control the development of allergic disease and asthma)」、 「ジェイ・アレルギー・クリン・イミュノル(J Allergy Clin Immunol)」、2003年、第112号、第480〜487頁
【0017】
【非特許文献9】クロット・ド・ラファイル・エムエー(Curotto de Lafaille MA)、ラファイル・ジェイジェイ(Lafaille JJ)著、「自己免疫およびアレルギーにおけるCD4(+)制御性T細胞(CD4(+) regulatory T cells in autoimmunity and allergy)」、「カー・オピン・イミュノル(Curr Opin Immunol)」、2002年、第14号、第771〜778頁
【0018】
【非特許文献10】マッキンター・ジェイジェイ(McIntire JJ)、ウメツ・エスイー(Umetsu SE)、マカウバス・シー(Macaubas C)等著、「免疫学:A型肝炎ウイルスはアトピー性疾患に関連する(Immunology: Hepatitis A virus link to atopic disease)、「ネイチャー(Nature)」、2003年、第425号、第576頁
【0019】
【非特許文献11】マトリカルディ・ピーエム(Matricardi PM)、ロスミニ・エフ(Rosmini F)、フェリングノ・エル(Ferrigno L)等著、「A型肝炎ウイルスに対する抗体を有するイタリア軍事学校生徒のアトピー有病率の断面遡及的研究(Cross sectional retrospective study of prevalence of atopy among Italian military students with antibodies against hepatitis A virus)」、「ビーエムジェイ(BMJ)」、1997年、第314号、第999〜1003頁
【0020】
【非特許文献12】マトリカルディ・ピーエム(Matricardi PM)、ロスミニ・エフ(Rosmini F)、リオンディーノ・エス(Riondino S)等著、「アトピーおよびアレルギー性喘息の観点における、食物媒介および糞口病原菌への曝露対空気中の浮遊ウイルスへの曝露:疫学的研究」、「ビーエムジェイ(BMJ)」、2000年、第320号、第412〜417頁
【0021】
【非特許文献13】リンネバーグ・エー(Linneberg A)、オスターガード・シー(Ostergaard C)、トゥヴェーデ・エム(Tvede M)等著、「デンマーク人成人の微生物およびアトピー性疾患に対するIgG抗体:コペンハーゲン・アレルギー研究(IgG antibodies against microorganisms and atopic disease in Danish adults: The Copenhagen allergy study)」、「ジェイ・アレルギー・クリン・イミュノル(J Allergy Clin Immunol)」、2003年、第111号、第847〜853頁
【0022】
【非特許文献14】コスネン・ティーユー(Kosunen TU)、フック・ニカネ・ジェイ(Hook−Nikanne J)、サロマ・エー(Salomaa A)、サルナ・エス(Sarna S)、アロマ・エー(Aromaa A)、ハーテラ・ティ(Haahtela T)著、「1973年から1994年までのフィンランド住民のアレルゲン特異性免疫グロブリン抗体の増加およびヘリコバクター・ピロリ感染症との考えられる関係(Increase of allergen−specific immunoglobulin E antibodies from 1973 to 1994 in a Finnish population and a possible relationship to helicobacter pylori infections)」、「クリン・エクスポ・アレルギー(Clin Exp Allergy)」、2002年、第32号、第373〜378頁
【0023】
【非特許文献15】ジェレーダ・ジェイイー(Gereda JE)、レン・ディーワイ(Leung DY)、リウ・エーエイチ(Liu AH)著、「環境的エンドトキシンのレベルおよびアトピー性疾患の流行(Levels of environmental endotoxin and prevalence of atopic disease)」、「ジェイエーエムエー(JAMA)」、2000年、第284号、第1652〜1653頁
【0024】
【非特許文献16】ジェレーダ・ジェイイー(Gereda JE)、レオン・ディーワイ(Leung DY)、サタヤキコム・エー(Thatayatikom A)等著、「喘息の高い危険性を持つ乳児における、ハウスダスト・エンドトキシン曝露、T細胞1型発達、およびアレルギー感作の関係(Relation between house−dust endotoxin exposure, type 1 T−cell development, and allergen sensitisation in infants at high risk of asthma)」、「ランセット(Lancet)、2000年、第355号、第1680〜1683頁
【0025】
【非特許文献17】フォン・ムチュス・イー(von Mutius E)、ブラウン−ファーランダー・シー(Braun−Fahrlander C)、シエール・アール(Schierl R)等著、「エンドトキシンまたは他の病原菌への曝露はアトピーの発症を防ぐかもしれない(Exposure to endotoxin or other bacterial components might protect against the development of atopy」、「クリン・エクスポ・アレルギー(Clin Exp Allergy)」、2000年、第30号、第1230〜1234頁
【0026】
【非特許文献18】マトリカルディ・ピーエム(Matricardi PM)、ロンチェッティ・アール(Ronchetti R)著、「感染症はアトピーから防ぐ?(Are infections protecting from atopy?)」、「カー・オピン・アレルギー・クリン・イミュノル(Curr Opin Allergy Clin Immunol)、2001年、第1号、第413〜419頁
【0027】
【非特許文献19】カリナン・ピー(Cullinan P)、ハリス・ジェイエム(Harris JM)、ニューマン・テイラー・エージェイ(Newman Taylor AJ)等著、「早期感染は成人アトピーにおける兄弟の影響を説明できるか?(Can early infection explain the sibling effect in adult atopy?)」、「ユウ・レスピア・ジェイ(Eur Respir J)」、2003年、第22号、第956〜961頁
【0028】
【非特許文献20】ベン・シーエス(Benn CS)、メルバイ・エム(Melbye M)、ウォルファート・ジェイ(Wohlfahrt J)、ビヨルクステン・ビー(Bjorksten B)、アービー・ピー(Aaby P)、「生後18ヶ月間の兄弟効果、感染性疾患、およびアトピー性皮膚炎のコホート研究(Cohort study of sibling effect, infectious diseases, and risk of atopic dermatitis during first 18 months of life)」、「ビーエムジェイ(BMJ)」、2004年、第328号、第1223頁
【0029】
【非特許文献21】バゲル・ピー(Bager P)、ウエステルガルド・ティ(Westergaard T)、ロストガルド・ケイ(Rostgaard K)、ヒャルグリム・エイチ(Hjalgrim H)、メルバイ・エム(Melbye M)、「子供時代の感染性とアトピーの危険性(Age at childhood infections and risk of atopy)」、「ソラックス(Thorax)」、2002年、第57号、第379〜382頁
【0030】
【非特許文献22】コンドラショワ・エー(Kondrashova A)、ロマノフ・エー(Romanov A)、ルーナネン・エー(Reunanen A)等著、「フィンランド東部境界の1型糖尿病の発生率における6倍勾配−疾患原因における環境の重要な役割の証拠(A six−fold gradient in the incidence of type 1 diabetes at the eastern border of Finland − evidence of a critical role of environment in the disease pathogenesis)」、「アン・メッド(Ann Med)」、2005年、第37号、第67〜72頁
【0031】
【非特許文献23】マキ・エム(Maki M)、ムスタラフティ・ケイ(Mustalahti K)、コッコネン・ジェイ(Kokkonen J)等著、「フィンランドの子供のセリアック病有病率(Prevalence of celiac disease among children in Finland)」、「エヌ・イングル・ジェイ・メッド(N Engl J Med)」、2003年、第348号、第2517〜2524頁
【0032】
【非特許文献24】ヴァルチアイネン・イー(Vartiainen E)、ペテイズ・ティ(Petays T)、ハーテラ・ティ(Haahtela T)、ジョーシラティ・ピー(Jousilahti P)、ペッカネン・ジェイ(Pekkanen J)著、「フィンランド北カレリアおよびロシア・カレリア共和国におけるアレルギー性疾患、皮膚プリックテスト応答およびIgEレベル(Allergic diseases, skin prick test responses, and IgE levels in North Karelia, Finland, and the Republic of Karelia, Russia)」、「ジェイ・アレルギー・クリン・イミュノル(J Allergy Clin Immunol)」、2002年、第109号、第643〜648頁
【0033】
【非特許文献25】サルミネン・ケイ(Salminen K)、サデハリュ・ケイ(Sadeharju K)、ロンロット・エム(Lonnrot M)等著、「出産予定コホート研究において、エンテロウイルス感染はベータ細胞自己免疫の誘導に関連する(Enterovirus infections are associated with the induction of beta−cell autoimmunity in a prospective birth cohort study)」、「ジェイ・メッド・ヴィロール(J Med Virol)」、2003年、第69号、第91〜98頁
【0034】
【非特許文献26】ロイヴァイネン・エム(Roivainen M)、ニップ・エム(Knip M)、ヒョティ・エイチ(Hyoty H)等著、「数種の異なるエンテロウイルス血清型は、前糖尿病自己免疫発現および顕性IDDMの発症に関連することが可能である(Several different enterovirus serotypes can be associated with prediabetic autoimmune episodes and onset of overt IDDM)」、「フィンランドにおける小児性糖尿病(DiMe)研究グループ (Childhood Diabetes in Finland (DiMe) Study Group)」、「ジェイ・メッド・ヴィロール(J Med Virol)」1998年、第56号、第74〜8頁
【0035】
【非特許文献27】イソマキ・ピー(Isomaki P)等著、「SOCSの発現は 関節リュウマチにおいて変化する(The expression of SOCS is altered in rheumatoid arthritis)」、「リュウマチ学(Rheumatology)」、2007年、第46号、第1538〜46頁
【0036】
【非特許文献28】プァッフル・エムダブリュ(Pfaffl M W)、「リアルタイムRT−PCRにおける相対的定量化のための新しい数学的モデル(A new mathematical model for relative quantification in real−time RT−PCR)、「核酸研究(Nucleic Acids Research)」、2001年、第29号、第2002〜2007頁
【0037】
【非特許文献29】オルトマン・ディ(Altman D)、オルトマン・ディ・ジー(Altman DG)、ブライアント・ティ(Bryant T)、ガードナー・エム(Gardner M)、 ガードナー・エム・ジェイ(Gardner MJ)、マーチン・ディ(Machin D)著、「確信のある統計:ロンドン(Statistics with Confidence:London)」、ビーエムジェイ・ブックス(BMJ Books)、2000年
【0038】
【非特許文献30】ウー・ケイ(Wu K)、ビ・ワイ(Bi Y)、スン・ケイ(Sun K)、ワン・シー(Wang C)、「IL−10産生する制御性T細胞1型およびアレルギー(IL−10−producing type 1 regulatory T cells and allergy)」、「セル・モル・イミュノル(Cell Mol Immunol)」 2007年、第4号、第269〜75頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
しかし、全ての細菌感染がアトピー性疾患の有病率に保護的効果を持つとは限らない。例えば、クロストリジウム・ディフィシレ、キャンピロバクター・ジェジュニ、および腸炎エルシニアのような腸内細菌に対する血清反応陽性は、成人デンマーク人のアトピーの高い有病率と関連があることが分かった(非特許文献13)。最近、ベン氏らは、生後6ヶ月間の感染症(大概は上気道感染)がアトピーの危険性を増すことを報告し(非特許文献20)、ベーガー氏と共同研究者は、1歳前に空中浮遊菌(麻疹、風疹、流行性耳下腺炎および水痘)に起因する感染数が増加するのに伴いアトピーの危険性も上昇することを観察した(非特許文献21)。
【0040】
アレルギー感作の危険性を減少させ、それによりアレルギー感作を伴う疾患の予防または治療を防ぐ効果的な手段が明らかに必要である。特に、喘息、湿疹、アレルギー性鼻炎および結膜炎のようなアレルギー性疾患、および食物が引き起こすアレルギーの発症を防止することが必要である。本発明はこれらの必要性を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0041】
本発明は、アレルギー感作を伴う疾患を予防または治療するためのエンテロウイルスの使用を基本とする。より詳しくは、本発明は、アレルギー感作を伴う疾患を予防または治療する医薬組成物の製造におけるエンテロウイルスの使用であって、そのエンテロウイルスは、ウイルスゲノムに組み込まれる外因性核酸配列でありかつアレルギー感作を誘導するアレルゲンをコードする外因性核酸配列を含まない。本発明では、アレルギー感作を伴う疾患を予防または治療する方法も開示される。この方法では、エンテロウイルスを含有する医薬組成物の有効量が、それを必要とするヒトに投与され、そのエンテロウイルスは、ウイルスゲノムに組み込まれてアレルギー感作を誘導するアレルゲンをコードする外因性核酸配列を含まない。
発明の詳細な意味は従属項において定義される。他の目的、詳細、効果は以下に示す詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】異なるエンテロウイルス血清型に対する血清反応陽性による、ロシア・カレリア人小児のアレルゲン特異的IgEの有病率を示す図である。
【図2】感染性エンテロウイルス(CBV4)、熱処理された精製エンテロウイルス(CBV4)、異なるTLRアゴニスト(ポリ(I:C)、LPS、レジキモド)および多クローン性のT型刺激細胞(抗CD3および抗CD28)に刺激される、末梢血単核細胞培養におけるFoxP3mRNAの誘導を示す図である。細胞は24時間培養後に集菌された。結果は、媒体処理された細胞に対するFoxP3 mRNAの相対発現量として示される。EVはエンテロウイルスである。
【図3】感染性エンテロウイルス(CBV4)、熱処理された精製エンテロウイルス(CBV4)、異なるTLRアゴニスト(ポリ(I:C)、LPS、レジキモド)および多クローン性のT型刺激細胞(抗CD3および抗CD28)に刺激される、末梢血単核細胞培養におけるIL−10mRNAの誘導を示す図である。細胞は24時間培養後に集菌された。結果は、媒体処理された細胞に対するIL−10 mRNAの相対発現量として示される。EVはエンテロウイルスである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、アレルギー感作およびそれに伴う疾患が、エンテロウイルスを免疫活性材料として含む組成物を用い予防接種することで防げることを発見したことに基づく。
外因性核酸配列を含む組み換えウイルス(その外因性核酸配列はウイルスゲノムに組み込まれ、アレルゲンのエピトープおよび理論上存在するタンパク質分解的切断部位をコードするものである)は、アレルギーに対する効果を証明する例は何もないにもかかわらず、アレルギーに対するワクチンとしてこれまでに提案されていた(特許文献2)。
【0044】
このアプローチは、本発明とは全く違う。それは、このウイルスは、ウイルスゲノムに組み込まれ、抗原をコードする外因性核酸配列(これは、抗原に対して望ましい免疫応答を導くと信じられている)に対する受動的「担体」または運搬手段として機能するが、本発明はエンテロウイルス自体によって誘導される免疫調節性効果に基づくからである。
【0045】
したがって、本発明のエンテロウイルスは活性成分であり、予防または治療すべきアレルギー感作を誘導するアレルゲンをコードする組み込まれた外因性核酸配列を含まない。しかし、本発明で使用されるエンテロウイルスは、ウイルスゲノムに組み込まれる非コード外因性核酸配列を含んでもよいし、ウイルスゲノムに組み込まれないコードまたは非コード外因性核酸配列を含んでもよい。本発明で使用されるエンテロウイルスは、外因性タンパク質も含んでよい。本発明の実施形態では、エンテロウイルスは外因性タンパク質をコードする外因性核酸を含まず、特に外因性タンパク質をコードする組み込まれた外因性核酸を含まない。
【0046】
本発明において、「アレルゲン」とは、アレルギー性免疫応答を誘導する化合物であり、タンパク質全体または免疫活性のある断片(例えば、エピトープ)だけであってもよい。核酸はこのことから明らかにアレルゲンとは考えられない。
エンテロウイルス群には100を超える異なった血清型がある。エンテロウイルス感染は通常無症状であるが、各種の疾患を引き起こすこともある。ポリオウイルス、コクサッキーウイルスB群、コクサッキーウイルスA群、エコーウイルスおよび番号をふられたエンテロウイルスは、各種疾患の発症に関係するとして知られているエンテロウイルスである。エンテロウイルス感染は糞口感染経路で拡がり、粘膜および腸管関連の免疫系を通して宿主感染させる。エンテロウイルス感染は、免疫系の強力な活性剤であり、免疫系に激しい変化をもたらす。
【0047】
本発明において、「エンテロウイルス」は、エンテロウイルス全体および、その成分またはその組み合わせを含む。エンテロウイルスは、弱毒化または非弱毒化された生エンテロウイルス株、遺伝子組み換えされた株、またはエンテロウイルス株由来の成分(例えばサブユニットまたはペプチド)、構造タンパク質成分またはそれらの組み合わせ(例えば粒子状のウイルス)、またはゲノムまたはゲノム断片(例えば、免疫学的に活性なウイルスタンパク質をコードするRNAまたはcDNA)であってもよい。エンテロウイルスは、死滅した、つまり、不活化エンテロウイルス株であってもよい。
【0048】
アレルギー感作の予防および治療において特に有用なエンテロウイルスは、免疫調節性経路を誘導またはTh2型免疫応答を下方調節する性能により特定可能である。このようなエンテロウイルスは、制御性T細胞、および/またはTh1/Th2バランス、および/または免疫調節性サイトカイン(例えば、異なるエンテロウイルスを有する抹消血白血球の生体外刺激する際、または、エンテロウイルス感染している小児の生体内におけるかいずれかのIL−10)の産生への効果を分析することによって特定される。このようなエンテロウイルスは、通常、PoxP3陽性制御性T細胞、またはIL−10や他の免疫調節性サイトカインを産生する制御性T細胞を活性化させるべきである。このようなエンテロウイルスは、例えば、IL−4または他のTh2型サイトカインの産生の減少、および/またはそれに平行したTh1型細胞の活性増加およびインターフェロン・ガンマまたは他のTh1型サイトカインの増加産生を反映してTh2型細胞の活性を低下させることもある。
【0049】
本発明で特に有用なエンテロウイルスは、疫学調査における保護的効果によっても特定可能である。このようなエンテロウイルスは、通常、アレルギー感作またはアレルギー症状を発症した人に比べて、アレルギー感作またはアレルギー症状を発症していない個人により頻繁に見受けられるはずであった。これらのウイルスは、血液から血清型特異的抗体を測定することや、この種の疫学調査で検出されるウイルスの抗原性または遺伝子的特性を分析することによって特定可能である。
【0050】
弱毒化されたウイルスとは、その毒性を低下させたウイルスのことである。これは、細胞培養におけるウイルスの連続継代、化学処置による抗原修飾、組み換えまたはキメラウイルスの構築、ウイルスゲノムの突然変異、特定遺伝子領域の削除または挿入、温度感性突然変異体の選択、または照射などの異なる方法により行なわれる。あるいは、エンテロウイルスは、弱毒化された自然ウイルス分離株であってもよいし、または臨床疾患を引き起こす能力が低下した感染ウイルスcDNAまたはRNAであってもよい。
【0051】
弱毒化または非弱毒化された生エンテロウイルスは、便宜上、経口投与される。一回の予防摂取量は、感染または自然また獲得免疫系を活性化し、または、ヒトに制御性T細胞または制御性サイトカインを誘導する力価の感染ウイルス、または感染RNAまたはcDNAを含む。この一回分投与量は、弱毒化されたセービン型生ポリオウイルス株で、最低でもポリオウイルス1型を105.5〜10TCID50、ポリオウイルス2型を10TCID50、ポリオウイルス3型を105.5〜105.8TCID50を含む従来のセービン型経口生ポリオウイルスワクチンに使用される一回分投与量に相当する。この投与量は、安全で感染性があり、または自然また獲得免疫系を活性化させることができることが確認されたなら、他の投与量であってもよい。(TCIDは組織培養感染量;TCID50は50%の組織培養に感染させる量を示す。)
【0052】
あるいは、エンテロウイルスには、感染性が不活化されたウイルス全体、または、ウイルスの特定の抗原構造、タンパク質またはペプチドを含むサブユニットワクチン、またはそれらの組み合わせ(例えば粒子状ウイルス)、またはウイルス全体または個別のウイルス性タンパク質をコードするウイルス性RNAまたはcDNAの断片、または不活化状態のウイルスが含まれる。
【0053】
不活化ワクチンは細胞培養でウイルスを増殖させ、サッカロースまたは他の高密度媒体により形成される密度勾配で、そのウイルスを感染細胞および培養媒体から高速遠心分離により精製することによって産生される。あるいは、ウイルスはクロマトグラフィにより精製される。精製されたウイルスの感染性は、そのウイルスを化学処置(例えば、IPVを産生するのに使用されるようなホルマリン不活化)、照射または熱処理により不活化することで破壊される。サブユニットワクチンは、精製されたウイルス性タンパク質または組み替えウイルス性タンパク質、ウイルス性抗原エピトープに対応する合成ペプチド、粒子状ウイルスまたは空のウイルスカプシド(感染中に産生されるが、ウイルスゲノムを欠く)からなる。これらのサブユニットワクチンはそのまま、又はハプテンまたは担体(例えば、ISCOM粒子、キトサン、TLRアゴニスト、生分解性微粒子)に抱合されて投与される。
【0054】
上述したエンテロウイルスは、注射により非経口で、経口で、皮内に、経皮に、舌下に、吸入として、または経直腸的に与えられる。
一回分投与量は、ヒトに適切な免疫応答を誘導することが可能な力価のウイルス構造を含む。この投与量は、一回分投与量につきウイルス性タンパク質を1.8〜2μg、ポリオウイルス1型の抗原性Dユニットを20〜40、ポリオウイルス2型の抗原性Dユニットを4〜8、およびポリオウイルス3型の抗原性Dユニットを16〜32含むソーク型不活化ポリオウイルスワクチンに使用される量に相当する。この投与量は、安全で感染性があり、または自然また獲得免疫系を刺激、または制御性T細胞または制御性サイトカインを誘導させることができることが確認されたなら、他の投与量であってもよい。
【0055】
エンテロウイルスは、同時にまたは連続的に与えられる1以上のエンテロウイルス血清型を含む異なる組み合わせで与えられる。
異なるエンテロウイルスが同時に与えられる場合は、医薬組成物は異なるエンテロウイルスの混合物の形態をとりうる。エンテロウイルスは、アレルゲンに対して寛容原性応答を促進するために、少なくとも1つのアレルゲン(例えば、アレルゲン全体またはその免疫学的に活性なサブユニット)と組み合わせて与えられる。本発明の一実施形態としては、ワクチンは唯一の免疫活性材料としてエンテロウイルスを含有するものとされ、また別の実施形態においては、エンテロウイルスと1以上の外因性アレルゲンとの混合物を含有するものとすることができる。
【0056】
エンテロウイルスは医薬組成物に調製され、この医薬組成物は免疫刺激を引き起こす活性材料に加えて、薬剤的に許容できる賦形剤、担体、ハプテン、アジュバントを含みうる。
賦形剤、担体、ハプテン、アジュバントは、例えば、フェノキシエタノール、塩化マグネシウム、サッカロース、チオマーサル、ホルムアルデヒド、フェノール、抗生物質(防腐剤)またはアルミニウム塩、ポリマー微粒子、ISCOM微粒子、担体タンパク質(例えば、コレラ毒素)、リポソーム、タンパク質ミセル(ハプテン/アジュバント)、またはTLRアゴニストを含む。
医薬組成物は、好ましくは、生後5年以内の小児に投与され、より好ましくは、3年以内、特に2年以内で、最も好ましくは、生後1年以内で投与され、後年追加免疫を行い、アレルギー感作を防ぐ。既に感作された人は、疾患の症状の有無にかかわらず、何歳でも医薬組成物を投与されてよい。
【0057】
医薬組成物の「有効量」とは、中和抗体または細胞媒介応答のいずれか、または両方を導くことによって、免疫を誘導しウイルスに対して受容者を保護可能な獲得または自然免疫応答のいずれかを導くことができる量である。あるいは、医薬組成物の「有効量」としては、ウイルスに対する保護的免疫が誘導されなかったとしても、制御性サイトカイン(例えば、IL−10)または活性制御性T細胞(Treg)の産生を誘導することができるか、または、Th1/Th2細胞バランスの好適なシフトを誘導することができる量としても良い。
制御性サイトカイン、細胞、Th1/Th2のシフトの誘導は、ウイルス特異的免疫応答またはアレルゲン特異的免疫応答、または両方において起こり得る。また、異なる抗原またはアレルゲン特異性を有する広範囲の免疫応答に影響する、免疫系へのより汎用的な効果でもありうる。このような汎用的な効果は、一般に、IL−10のような溶解性の免疫調節性サイトカインによってもたらされる。
【0058】
免疫系が病原体を含む生活環境中の異質成分にさらされると、免疫応答が誘導される。その免疫応答はTh1型またはTh2型反応のいずれかで占められる。両反応は感染と戦っているが、Th2細胞はアレルギーも促進している。Th1/Th2型細胞の適切なバランスは、適切な反応に不可欠である。しかし、アレルギー疾患に感染しやすい対象者では、Th2型反応が支配的である。さらに、これらの人たちは制御性T細胞および免疫調節の他の成分の異常機能を有する場合もある。
【0059】
「アレルギー感作」とは、多くは無害の各種生活環境抗原に対してのアレルゲン特異的IgEの産生を導くTh2型優位免疫応答をもたらすことを指す。アレルゲン特異的IgEはアレルギー疾患の症状を誘発する過敏性反応を引き起こす。この種の免疫応答は、例えば、血液サンプルからアレルゲン特異的IgEを分析することにより測られる。アレルゲン特異的IgEのレベルが上昇すると、ある特定のアレルゲンに対するアレルギー感作を示す。さらに、総IgE免疫グロブリンが高レベルにあることはアレルギー感作を示す。皮膚プリックテストも、アレルギー疾患を診断するのに用いられる。エンテロウイルスを含有する医薬組成物は、アレルギー感作を伴ういかなる疾患も予防または治療できるワクチンである。
【0060】
IgE媒介アレルギー感作は、アレルギー性湿疹、アレルギー性喘息、IgE媒介食物または薬品アレルギー、アレルギー性結膜炎または鼻炎のような各種アレルギー疾患を引き起こす。エンテロウイルス・ワクチンはIgE媒介感作の危険性を減らすことができ、それにより、アレルギー性鼻炎や喘息のようなIgE感作により誘発される疾患を予防することができる。
エンテロウイルス・ワクチンは、アレルギー感作を予防するために、出生コホート全体、または、少なくとも家族の一員がアレルギー反応または疾患と診断された家族の子供のような、人口のうちの選ばれたグループに投与される。
さらに、エンテロウイルス・ワクチンは、無症状のアレルギー感作(症状のない、アレルゲン特異的IgE濃度の増加)を有する人に、臨床症状を発症しないように使用されることもできる。つまり、エンテロウイルス・ワクチンは、アレルギー症状や疾患を軽減するのに用いられることもできる。
フィンランドおよびロシアの小児における細菌感染およびアレルギー感作の有病率におけるばらつきや関連性が、地理的には隣接する地域であるが、社会経済学的および文化的に著しく異なる2つの地域という独特の疫学的設定で研究された。
【0061】
[方法]
[対象者]
ロシア・カレリア人研究コホートは、266人の学童を含み、フィンランド人コホートも同様に266人の学童を含んだ。学童は、健常児を表し、アレルギーまたは他の疾患の可能性に応じて選ばれなかった。カレリア共和国の全ての子供は、フィンランド民族かカレリア民族いずれか一方の両親を持ち、このことはフィンランドの子供たちの民族的背景に近いものとなる(非特許文献22)。研究コホートは、各国より114人の男児と152人の女児を含んだ。サンプリングの平均年齢は、両コホートで11.4歳(7から15歳の範囲)であった。
【0062】
血液サンプルは、カレリア人の無作為に選ばれた学童、総計で1988人から採られた。母親および父親の民族的背景が記録され、両親がフィンランド民族かカレリア民族のいずれか一方である子供は全て本研究に含まれた(N=266)。このカレリア人の子供に対して、フィンランド人の子供のコホートを、年齢、性、サンプリング時期により対応させた。このサンプリング時期は1ヶ月も離れていず、このことにより細菌やアレルゲンへの曝露に関して季節の影響を最小にした。フィンランド人コホートはカレリア人コホートと同様にして集められ、フィンランドのオウル地区に住む3654人の学童を当初含んだ(非特許文献23)。血液サンプルはそれぞれの子供より採られた。
【0063】
[IgEおよびウイルス抗体]
アレルゲン特異的IgEのレベルは、Uni−CAP(登録商標)フルオロ酵素免疫測定法(ファーマシア・ダイアグノスティックス、ウプサラ、スウェーデン)を使用し測定された。2つの一般的な吸入アレルゲン(樺と猫)および卵アルブミンに対する特異的IgEが製造者の指示により分析された。これらのアレルゲンへの曝露は両集団で極めて類似すると思われることから、これらのアレルゲンが選ばれた。アレルゲン特異的IgEとして、0.35IU/I以上の値は陽性であると考えられた。過去の研究では、100IU/Iを超える総IgE値はアトピー素因のマーカーとして考えられてきた(非特許文献24)。
【0064】
集団反応性エンテロウイルス抗体は、酵素免疫測定法(EIA)および前述のように抗原として熱処理されたコクサッキーウイルスB4(CBV4)を使い分析された[25]。この方法によると、血清型に特異的ではないが、いくつかのエンテロウイルス血清型に交差反応性がある抗体を検出する。熱処理がウイルスの隠された交差反応性を顕在化させるので、いくつかの血清型に対して交差反応性がある抗体を検出するこの方法の性能は、ウイルス抗原を熱処理することで高められる。
【0065】
抗体(所定の血清型に特異なもの)は前述の血小板中和分析を用い測定された(非特許文献26)。この方法は、分析で使用される血清型に特異である中和抗体を測定する。2種類のコクサッキーウイルスB血清型(CBV4およびCBV5)および2種類のエコーウイルス血清型(エコーウイルス9および同11)に対する抗体を、ATCC標識ウイルス株を使って調べた。
IgGクラスA型肝炎ウイルス(HAV)抗体を、製造業者(デイドベーリング株式会社、マーバーグ、ドイツ)の指示に従い、エンザイグノスト(登録商標)抗HAV市販EIAキットを使い測定した。ベーリング・ElisaプロセッサIIIが、テストの処理をさらに進めるためと抗体レベルの演算のために使用された。
【0066】
[免疫調節経路の誘導]
免疫調節経路へのエンテロウイルスの効果が、単核細胞培養物をエンテロウイルスで刺激することにより分析された。健康な検査技師から採取した末梢血単核細胞が、製造業者の指示に従い、BDバキュテナー(登録商標)CPT(商標)チューブ(BD、フランクリン・レイクス、NJ、USA)を用い精製された。単核細胞はRPMI1640(ギブコ、インビトロジェン、カールスバッド、CA、USA)で2回洗浄され、丸底マイクロタイタープレートウェル(コスター96ウェル細胞培養ダスター、コーニング社、コーニング、NY、USA)で、ウェルにつき100μl当たり200,000の細胞を用いて、+37℃(5%CO)で48時間培養された。培地は、RPMI1640中に10%ヒト血清、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシンおよび1%L−グルタミンと以下の刺激薬のうちの1つを含有した。培地(制御)、感染性エンテロウイルス(コクサッキーウイルスB4)(3PFU/細胞)、1.0μg/ml濃度の高純度熱処理CBV4、5μg/ml濃度のdsRNA類似体(TLR−3アゴニスト)ポリ(I:C)(アレキス・バイオケミカルズ、サンディエゴ、CA、USA)、5μg/ml濃度のTLR7/8アゴニスト・レジキモド(アレキス・バイオケミカルズ)、100μg/ml濃度のTLR4アゴニストとして大腸菌血清型J5からのLPS(Rc)および多クローン性T細胞活性化因子として溶解性抗CD3および抗CD28抗体の組み合わせ(R&Dシステムズ、ミネアポリス、MN、USA)。
【0067】
制御性T細胞へのウイルスの効果が、FoxP3および1L−10特異的mRNAの発現を測定することによって分析された。分析はRT−PCRおよび7900HTファスト・リアルタイムPCRシステム(アプライド・バイオシステムズ、フォスターシティ、CA、USA)を用いなされた。
RNAは、製造業者の指示に従い、RNイージー・ミニ・キットで抽出された。RNA抽出中、オンカラムDNase消化法が、RNase−フリーDNaseセット(キアゲン、ヒルデン、ドイツ)を用い行なわれた。RNAは、M−MLV逆転写酵素および緩衝剤(プロメガ、マディソン、WI、USA)およびランダム6量体プライマーを用い逆転写された。
【0068】
リアルタイムPCR分析のために、FoxP3およびIL−10用カスタムプライマーが設計された。一方、ハウスキーピング遺伝子TATAボックス結合タンパク質(TBP)用のプライマーは、順方向プライマーに若干修飾した前述の公表(非特許文献27)のものであった。各プライマーはエクソン−エクソン境界を架橋する1つのプライマーを有する。
プライマー配列は以下の通りであった。FoxP3順方向5’−ACA GCA CAT TCC CAG AGT TCC−3’、逆方向5’−GAA CTC CAG CTC ATC CAC G−3’、IL−10順方向5’−CAG TTT TAC CTG GAG GAG GTG−3’、逆方向5’−AGA TGC CTT TCT CTT GGA GCT TAT−3’、TBP順方向5’−CGA ATA TAA TCC CAA GCG GTT−3’、および逆方向5’−ACT TCA CAT CAC AGC TCC CC−3’。
【0069】
合成cDNAはDyNAmo Flash SYBR Green qPCRキット(フィンズィムズ、エスポー、フィンランド)で増殖された。熱サイクル条件は、95℃で7分、95℃で10秒、600℃で30秒、78℃で30秒を40サイクル(プライマー二量体除去のため)、次に、600℃で1分間の最後の延長を行なった。60℃から95℃の温度範囲の解離曲線工程が実行毎に最後に付け加えられた。データ解析のために、FOXP3およびIL−10の閾値サイクル(Ct)の値は、内因性制御遺伝子TBPのCt値に正規化された。相対発現量値は前述のようにプァッフル(Pfaffl)法を用い演算された(非特許文献28)。
【0070】
[統計的方法]
統計的分析は、SPSSプログラム・バージョン12.0(SPSS社、シカゴ、IL、USA)および信頼性区間解析(CIA)を用い行なわれた(非特許文献29)。
特異的IgEの有病率、高い値(>100IU/l)の総IgEおよび細菌抗体は、マクネマー・テストを用い、2つの対のコホートで比較された。対のコホートでの総IgEレベル(傾斜分布する連続型変数)の比較は、ウィルコクソン・サインド・ランク・テスト(Wilcoxon Signed Ranks test)を用いて行なわれた。
【0071】
ロシア・カレリアおよびフィンランドのウイルス抗体、総IgEの高値、および特異的IgEの関係の分析にはクロス集計およびカイ二乗検定またはフィッシャーの直接確率検定が利用された。総IgEレベルと特異的IgE(陽性または陰性と分類される)との関係が分析される際、および、CBV4IgGレベルと特異的IgEとの関係分析には、マンホイットニーU検定が利用された。多変量解析法として、必要に応じてロジスティック回帰が各パラメータの単独作用を特定するために適用された。
モデルは、前進ステップワイズ手順に基づき選択された。項目の入力および削除の限界値は0.10に等しかった。結果は、オッズ比(OR)および95%信頼区間(Cl)の評価に支持されている。欠落または無関係な値があった場合、そのケースはその特定のパラメータに関する分析に含まれなかった。そのようなケースの数は少なく、例えば、ロシア・カレリア人の子供の細菌血清学では、分析された細菌ごとの欠落ケースは0〜2であった。全ての分析は両側検定であった。統計的有意なP値(<0.05)が与えられる。
【0072】
[結果]
アレルゲン特異的IgEの有病率は、フィンランドの子供よりもロシア・カレリアの子供のほうが著しく低かった(表1)。
エンテロウイルスおよびA型肝炎ウイルス抗体の有病率は、フィンランドの子供よりもロシア・カレリアの子供のほうが著しく高かった(表2)。
さらに、ロシア・カレリアでは、アレルギー感作はエンテロウイルス抗体を保有する子供のほうにおいて稀であった。一方、そのような影響はA型肝炎抗体に関しては見られなかった(表3)。
要するに、エンテロウイルス血清反応陽性である子供の場合は5%だったのに比べて、エンテロウイルス血清反応陰性の子供の22%が、少なくとも1つの陽性特異的IgE結果を保有した。少なくとも1つのアレルゲン特異的IgE(P=0.048)を保有する子供では49EILJ(範囲:0〜154)であったのに比べて、エンテロウイルス抗体レベルの中央値は、特異的IgEを保有しない子供では74酵素免疫測定単位(EIU)(範囲:0〜224)であった。
【0073】
フィンランドでは、HAV血清反応陽性の子供の数はとても少なく(表2)、そのことでHAV血清反応陽性の子供とアレルゲン特異的IgEとの関連を分析するのが難しくなった。しかし、フィンランドの子供にはエンテロウイルス抗体は頻繁に見受けられるが、ロシア・カレリアの子供とは対照的に、エンテロウイルス抗体はアレルゲン特異的IgE応答との関連性を示さなかった(エンテロウイルス血清反応陽性である子供の場合は23%だったのに比べて、エンテロウイルス血清反応陰性の子供の18%も、少なくとも1つの陽性特異的IgE結果を保有した)。
感染とアトピーの有病率の関係がロシア・カレリアの子供のみに観察され、フィンランドの子供には観察されなかったという事実は、フィンランドではエンテロウイルスや他の病原菌の広がりが著しく低いので、フィンランドの子供は大きくなってから感染しているという仮説により説明可能である。
衛生仮説によると、生後最初の数ヶ月にかかる感染は、腸管関連の免疫系の成熟と発達中の調節経路およびTh1/Th2バランスに著しい影響を持つので、最も重要なものである。
【0074】
異なる血清型でエンテロウイルスの保護的効果が違うかどうかを調べるために、我々は、総計244人のロシア・カレリア人の子供を、アレルゲン特異的IgEおよび4つの異なるエンテロウイルス血清型(CBV4、CBV5、エコーウイルス9およびエコーウイルス11)に対する中和抗体に関して分析した。
中和抗体は、何十年も上昇したままなので、これらの抗体の存在は、分析で使用される血清型に過去において感染していたことを示す。
エコーウイルス11は、アレルギー感作に対する強い保護と関連があった(図1)。つまり、エコーウイルス11血清反応陰性の子供は31.8%が表1に示される3つのアレルゲンの少なくとも1つに対してアレルゲン特異的IgEを保有していたのに対し、エコーウイルス11血清反応陽性の子供(P<0.001)はたったの13.2%であった。多重ロジスティック回帰分析において、エコーウイルス11血清反応陽性は、アレルゲン特異的IgEに対して明白な単独作用を有した(P<0.001;OR3.2[95%Cl1.7〜6.2])。アレルギー感作に対するエンテロウイルスの保護的効果はウイルスの血清型に依存するということをこの結果は示す。
【0075】
アレルギー感作に対するエンテロウイルスの保護的効果は、免疫系にエンテロウイルスが作用することによりもたらされる。アレルギー感作の発達は異常な免疫調節に関係があると、一般には信じられている。制御性T細胞は免疫調節において主要な役割を果たす。ウイルスが観察された抗アレルギー効果を生起可能なものとして考えられる仕組みの一つは、これらの細胞がウイルスによって活性化されることである。制御性T細胞は、具体的には、転写因子FoxP3(自然制御性T細胞)を発現し、IL−10(Tr1制御性細胞)のような免疫調節性サイトカインを分泌する。特に、Tr1細胞によるIL−10の分泌は、アレルギー反応の下方調節において重要である(非特許文献30)。
末梢血単核細胞を感染エンテロウイルスまたは体外で熱処理され精製されたエンテロウイルスに曝露することにより制御性細胞を刺激することができるかどうか分析した。ウイルスにより誘導された応答が、TLRアゴニスト(ポリ(I:C)、レジキモド、大腸菌、LPS)および多クローン性のT型刺激細胞(単クローン性抗CD3および抗CD28抗体の混合物)を用い得られた応答と比較された。
【0076】
単核細胞の感染性CBV4への曝露の結果、FoxP3特異的mRNAの発現において明らかな増加(3.3倍)(図2)、および、モック処理された培養物に比べてIL−10特異的mRNAにおいて3.6倍の増加となった(図3)。同様に、熱処理されたCBV4は、FoxP3 mRNAにおいて1.9倍の増加、およびIL−10mRNAにおいて3〜4倍の増加という結果になった。ポリ(I:C)はFoxP3もIL−10mRNAも誘導しなかった。一方、抗CD3/抗CD28の組み合わせは、FoxP3およびIL−10の両方の発現を誘導した(それぞれ8.1倍、2.6倍の増加)。レジキモドおよびLPSは、FoxP3発現を誘導しなかった(図2)が、IL−10発現の明白な増加となった。
これらの結果は、エンテロウイルスは制御性T細胞を活性化させることができることを示す。エンテロウイルスにより誘導された活性化は、強力な単核T細胞活性化因子(抗CD3/抗CD28の混合物)を用いて得られるものに匹敵し、この現象の生物学的関連性を支持する結果となった。さらに、エンテロウイルスは、3つの古典的TLRアゴニストより強いFoxP3発現、および、TLR4およびTLR7/8アゴニスト(それぞれLPSおよびレジキモド)と同様の強さのIL−10発現を誘導することができた。
【0077】
このように、これらの結果から、エンテロウイルスに感染することはアレルギー感作の危険性が減少することと関連があり、免疫調節性経路を刺激し、それによりアレルギー疾患を防ぐように免疫系を調節することができることが示される。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

166人のフィンランド児童のみがA型肝炎ウイルス抗体について調べられた。
この分析で用いられるエンテロウイルス抗原は、高純度のコクサッキーウイルスB4であって、異なるエンテロウイルス血清型に対する抗体と幅広く反応するように熱処理された。
【0080】
【表3】

NSは有意でないことを示す。前進ステップワイズモデル(入力および削除のためのP値は0.10)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルギー感作を伴う疾患を予防または治療するための医薬組成物の製造におけるエンテロウイルスの使用であって、前記エンテロウイルスは、ウイルスゲノムに組み込まれて前記アレルギー感作を誘導するアレルゲンをコードする外因性核酸配列を含まないことを特徴とする使用。
【請求項2】
請求項1に記載の使用において、前記医薬組成物は、生エンテロウイルス株、遺伝子組み換えされたエンテロウイルス株、不活性化エンテロウイルス株、エンテロウイルス株由来の構造的成分、または微粒子状のウイルスのような、それらの組み合わせを含むことを特徴とする使用。
【請求項3】
請求項1に記載の使用において、前記医薬組成物は、前記ゲノムまたはエンテロウイルス株由来のゲノム断片を含むことを特徴とする使用。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の使用であって、前記医薬組成物は、経口的に、皮内に、経皮的に、舌下に、鼻腔内に、吸入として、経直腸的に、または注射により非経口で与えられるものであることを特徴とする使用。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の使用であって、前記医薬組成物は、喘息、IgE媒介感作、アレルギー性湿疹、食物または薬品アレルギー、または、アレルギー性鼻炎または結膜炎を予防または治療するため使用されるものであることを特徴とする使用。
【請求項6】
請求項1に記載の使用であって、前記医薬組成物は生後2年以内の小児に投与されるものであることを特徴とする使用。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の使用であって、異なるエンテロウイルス血清型を含有する医薬組成物が、同時にまたは連続的に投与されるものであることを特徴とする使用。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の使用であって、前記医薬組成物は、感作されたヒトのアレルギー症状を予防する、または、感作されたヒトのアレルギー症状を軽減するために用いられるものであることを特徴とする使用。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の使用であって、エンテロウイルスを含有する前記医薬組成物が、アレルゲンと組み合わせて投与されるものであることを特徴とする使用。
【請求項10】
アレルギー感作を伴う疾患を予防または治療する方法であって、エンテロウイルスを含有する医薬組成物の有効量が前記医薬組成物を必要とするヒトに投与され、また、前記エンテロウイルスは、ウイルスゲノムに組み込まれ、かつ前記アレルギー感作を誘導するアレルゲンをコードする外因性核酸配列を含まないことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−517982(P2010−517982A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547721(P2009−547721)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050032
【国際公開番号】WO2008/092996
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(509217839)
【氏名又は名称原語表記】VACTECH OY
【住所又は居所原語表記】Biokatu 8, FI−33520 Tampere (FI)
【Fターム(参考)】