説明

アレルギー抑制剤、食品、それを用いたアレルギーの抑制方法、免疫抑制動物及びその作製方法

【課題】 生体内におけるIgE産生を抑制し、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患の発症を予防し、改善できる安全で摂取しやすいIgE抗体抑制剤及び食品素材等を提供する。
【解決手段】 多糖類の微細粉末を含有することを特徴とし、該多糖類の微細粉末は平均粒子径が50μm以下のキトサン又はキサンタンガムであることが好ましい。形態としては、粉末、カプセル製剤、錠剤、または顆粒剤が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgE抗体抑制、特にI型アレルギー疾患発症防止ならびに抗炎症などの作用が期待できる、アレルギー抑制剤及び食品素材の提供に関するものである。更に、本発明は該アレルギー抑制剤が投与された免疫抑制動物及びその作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アレルギー疾患の罹患率および死亡率は、食生活や居住環境の変化などに伴い、ここ10年間で世界的にも増加傾向にある。民間調査(新薬開発の現状と将来展望 91年度版、(株)シードプランニング)によると、現在、我国で3人に1人は、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などの典型的なI型アレルギー疾患の症状を示しており、このデータは、厚生省保健福祉動向調査(1991年)でも裏付けられている。アレルギー疾患は、直接生命に関わることがない反面、ごく若い世代に突然現れ、早い時期での自然治癒はまず期待できず慢性に経過することによって、本人や家族の負担は勿論のこと、長期に亘って社会的活動にも大きな影響を及ぼしていると考えられる。
【0003】
I型アレルギー疾患は、室内塵、ダニ、花粉類、真菌類などの抗原を吸入することで感作、発症し、次のような機序が考えられている。感作は、Th2型のサイトカインを生産するCD4陽性T細胞によってメディエートされ、一般的免疫反応を経由し、B細胞が遊離したIgE抗体がそのFc部分で肥満細胞上のレセプターと結合することにより成立する。再侵入抗原がIgEのFab部分を架橋するとヒスタミン、ロイコトリエンなどのケミカルメディエータが遊離され、これらの物質が、組織の炎症、血管透過性亢進、平滑筋収縮、粘液分泌亢進などに働き、アレルギー疾患の病像を引き起こす。
【0004】
アレルギー疾患の治療に最も有効な方法は、抗原との接触を避けることであるが、居住環境の至る所に遊離して存在する抗原で感作発症している患者では、抗ヒスタミン剤などの副作用もある、対症療法剤を用いた一般的な解決策に依存せざるを得ないのが実状である。このため、薬剤を飲み続けるあるいは塗布し続けない限り発症を繰り返すことになり、財政的にも、肉体的にも大きな負担を強いられ、使用を中止するとリバウンドによる症状の悪化も懸念されるという問題を抱えている。
【0005】
なお、特許文献1には、こんにゃく精粉から得られた精製グルコマンナン(食物繊維含量90%以上)を、粉砕処理を施すことによって平均粒子径を100μm以下にしたものが、こんにゃく精粉の場合に比べ著しく高いIgE抗体抑制能を持ち、アレルギー抑制作用があることが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−55233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のような従来技術に鑑み、本発明は生体内におけるIgE産生を抑制し、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患の発症を予防し、改善できる安全で摂取しやすいアレルギー抑制剤及び食品素材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、こんにゃく精粉から得られた精製グルコマンナン(食物繊維含量90%以上)を、粉砕処理を施すことによって平均粒子径を100μm以下にしたものが、こんにゃく精粉の場合に比べ著しく高いIgE抗体抑制能を持ち、アレルギー抑制作用があることを見出している(特開2003−55233)。本発明者等は、その他のIgE抗体抑制剤についても鋭意研究を続け、その後の研究において、微細化処理を施した多糖類の影響を幅広く調査した結果、キトサンおよびキサンタンガムの微細粉末においても類似の抗アレルギー作用ならびに抗炎症作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、上記の目的を達成するために下記の構成からなるものである。
【0009】
(1)多糖類の微細粉末を含有することを特徴とするアレルギー抑制剤。
(2)前記多糖類の微細粉末が、平均粒子径が50μm以下のキトサンであることを特徴とする前記(1)記載のアレルギー抑制剤。
(3)前記多糖類の微細粉末が、平均粒子径が50μm以下のキサンタンガムであることを特徴とする前記(1)記載のアレルギー抑制剤。
(4)粉末、カプセル製剤、錠剤、または顆粒剤の形態であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のアレルギー抑制剤。
【0010】
(5)多糖類の微細粉末を含有することを特徴とするアレルギー抑制食品。
(6)前記多糖類の微細粉末が、平均粒子径が50μm以下のキトサンであることを特徴とする前記(5)記載のアレルギー抑制食品。
(7)前記多糖類の微細粉末が、平均粒子径が50μm以下のキトサンであることを特徴とする前記(5)記載のアレルギー抑制食品。
(8)粉末、カプセル製剤、錠剤、または顆粒剤の形態であることを特徴とする前記(5)〜(7)のいずれかに記載のアレルギー抑制食品。
【0011】
(9)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のアレルギー抑制剤を経口投与することを特徴とするアレルギーの抑制方法。
(10)前記(5)〜(8)のいずれかに記載のアレルギー抑制食品を経口投与することを特徴とするアレルギーの抑制方法。
【0012】
(11)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のアレルギー抑制剤を動物に投与したことを特徴とする免疫抑制動物。
(12)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のアレルギー抑制剤を動物に投与することを特徴とする工程を含む免疫抑制動物の作製方法。
(13)前記(5)〜(8)のいずれかに記載のアレルギー抑制食品を動物に投与したことを特徴とする免疫抑制動物。
(14)前記(5)〜(8)のいずれかに記載のアレルギー抑制食品を動物に投与する工程を含むことを特徴とする免疫抑制動物の作製方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多糖類の微細粉末を含有するアレルギー抑制剤を継続的に経口投与することによって、生体内におけるIgE抗体の高産生を抑制し、アレルギー疾患を防止することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明におけるI型アレルギーの抑制方法は、平均粒子径を50μm以下に加工処理を施したキトサン、またはキサンタンガムの微細粉末を継続的に経口投与することを特徴とするものである。
本発明で使用する多糖類の原料であるキトサンまたはキサンタンガムは、それぞれ食品素材、食品添加物として永年の使用実績もあり、安全性が高く、継続的な服用によって、過剰なIgE抗体の産生を抑制し、アレルギー疾患を防止することができる。
【0015】
本発明は、微細化処理を施した多糖類の粉末の特定の用途に関するものである。本発明で使用する多糖類は、それ自身公知であり、その物理化学的特性などについては、例えば、辻 啓介・森 文平編著「食物繊維の科学 1997年刊」や、國崎直道・佐野征男編著「食品多糖類−乳化・増粘・ゲル化の知識 2001年刊」などに記載されている。
【0016】
本発明で使用する多糖類の微細粉末は、それ自身の粉末、またはカプセル製剤あるいは打錠製剤として具体化されるばかりでなく、それを食品に含有させた形態、すなわちアレルギー抑制食品の形態としても具体化される。また、アレルギー疾患が複雑な免疫系のバランス破綻(過剰なIgE抗体産生)から炎症を生じるものであることからすれば、本発明で使用するアレルギー抑制剤は、免疫調節剤(IgE抗体抑制剤)もしくは抗炎症剤として考えることもできる。
【0017】
IgE抗体抑制剤の摂取量は、通常、経口にて1〜50g/60kg体重・日で有効である。
過剰なIgE抗体産生によるアレルギー疾患については、本発明によるIgE抗体抑制剤はアレルギー疾患防止剤またはアレルギー疾患予防剤として用いることもできる。
【0018】
本発明のアレルギー抑制剤は、平均粒子径を50μm以下に加工処理したキトサンまたはキサンタンガムの微細粉末であるが、抑制剤としての機能を損なわない限り補助成分を含んでいてもよい。
【0019】
本発明において含有しても良いその他の補助成分としては、人体に無害なものであればあらゆるものが使用できる。また、本発明の抑制剤の形態はあらゆるものが考えられ、例えば、粉末そのもの、ゼラチンカプセルなどによるカプセル製剤、錠剤および顆粒剤としても良く、また通常の食品に混入させても良いことは言うまでもない。
【0020】
本発明に用いるアレルギー抑制食品を得るには、キトサンまたはキサンタンガムの微細粉末を食品の性状に合せて、例えばビスケット様の食品には、粉末状で配合すればよい。本発明において、それぞれの効果が発現する食品中の最低濃度は、通常、多糖類の微細粉末量として1重量%以上である。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
実施例1 アレルギー疾患モデルマウスの病状変化の観察
<実験方法>
供試動物として、自然発症アトピー性皮膚炎モデル動物であるNC/Ngaマウス[Matsuda H、et al;Int.Immunol 9、461(1997)]を用いた。NC/Ngaマウスは、4週齢の雄性を日本SLC株式会社より購入した。基礎飼料は、オリエンタル酵母工業株式会社製の飼育用MF(固形飼料)を用いた。試験飼料は、基礎飼料に5重量%の微細化多糖粉末1〜3をそれぞれ添加した固形飼料を用いた。
【0022】
それぞれの飼料に添加する微細多糖粉末1〜3は以下のものを用いた。
試験飼料1;こんにゃくグルコマンナン(平均粒子径:17μm)
試験飼料2;キトサン(平均粒子径:10μm)
試験飼料3;キサンタンガム(平均粒子径:46μm)
【0023】
NC/Ngaマウス5匹を1群とし、各供試動物群に基礎飼料、各試験飼料を8週間自由給餌させた。2週間ごとに皮膚病変の状態を目視で観察し、症状をスコア化した。皮膚炎症状は、痒み(掻痒行動)、出血・紅斑、浮腫、擦過傷、乾燥の程度をそれぞれスコア化した。スコアは、0;無症状、1;軽度、2;中程度、3;強度とし、皮膚炎症状は、その合計値で示した。
【0024】
また、掻痒行動については、12週齢において各群ごとにビデオ撮影を30分間行い、20分間あたりにマウスが後足で、耳介、背部、腹部、顔面を引っ掻く回数を測定した。
【0025】
<実験結果>
上記実施例1において、マウスの皮膚炎症状をスコア化によって評価した結果を、図1に示す。12週齢における皮膚病変の外観写真を図2に示す。図2において、Aは基礎飼料投与群、Bは試験飼料1投与群、Cは試験飼料2投与群、Dは試験飼料3投与群を示す。また、12週齢において、マウスの掻痒行動に及ぼす影響を評価した結果を図3に示す。
【0026】
上記実施例1において、基礎飼料投与群では、9週齢頃から頭部、頸部および耳介部に脱毛、出血が観られ、皮膚炎スコアは顕著に上昇した(図1参照)。しかしながら、試験飼料2の微粒子キトサン投与群および試験飼料3の微粒子キサンタンガム投与群では、試験飼料1のグルコマンナン群と同様にそれらの病変の著明な緩和が観られ、スコアを有意に抑制した。図3からも明らかなように、12週齢において基礎飼料投与群では、痒みによって誘発される引っ掻き行動が頻繁に観られたが、試験飼料1〜3の微粒子多糖投与群で著しい抑制が観察された。
【0027】
実施例2 血清中の抗体量および急性期蛋白量の分析
<実験方法>
実施例1で用いた各供試動物群から、2週間ごとに採血を行い、この血液を1800rpm、10分間、遠心分離し、血清を得た。血清中の総IgE量をサンドイッチELISA法により分析した。また、12週齢における総IgG1量を同様にサンドイッチELISA法によって分析した。さらに、12週齢において、炎症状態で血中濃度に上昇がみられる血清アミロイドA蛋白(SAA)量を、競合的ELISA法によって分析した。
【0028】
<実験結果>
上記実施例2において、2週間ごとにNC/Ngaマウスから採血を行い、血清中の総IgE量を分析した結果を図4に示す。図4からも明らかなように、基礎飼料投与群では12週齢までの間にIgEの顕著な上昇が確認された。本発明による微細化キトサンおよびキサンタンガム粉末を投与した群では、試験飼料1の微粒子グルコマンナン投与群と同様に、著しく高いIgE抗体抑制能が認められた。
【0029】
12週齢において、血清中の総IgG1量について分析した結果を図5に示す。また、SAA量を分析した結果を図6に示す。
【0030】
基礎飼料投与群と比較して、微細化キトサンおよびキサンタンガム粉末を投与した群では、試験飼料1の微粒子グルコマンナン投与群と同様に、血清中の総IgG1量が減少していることが明らかになった。また、図6に示したように、炎症マーカーであるSAA量が試験飼料1〜3の微粒子多糖投与群で著しく抑制されることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1において、アトピー性皮膚炎モデルマウスNC/Ngaの皮膚炎症状をスコア化によって評価した結果を示す図である。
【図2】実施例1において、アトピー性皮膚炎モデルマウスNC/Ngaの12週齢における皮膚炎(皮膚病変)症状を示す外観写真である。
【図3】実施例1において、12週齢におけるマウスの掻痒行動を調査した結果を示す図である。
【図4】実施例2において、血清中の総IgE量を分析した結果を示す図である。
【図5】実施例2において、血清中の総IgGl量を分析した結果を示す図である。
【図6】実施例2において、血清アミロイドA蛋白(SAA)量を分析した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類の微細粉末を含有することを特徴とするアレルギー抑制剤。
【請求項2】
前記多糖類の微細粉末が、平均粒子径が50μm以下のキトサンであることを特徴とする請求項1記載のアレルギー抑制剤。
【請求項3】
前記多糖類の微細粉末が、平均粒子径が50μm以下のキサンタンガムであることを特徴とする請求項1記載のアレルギー抑制剤。
【請求項4】
粉末、カプセル製剤、錠剤、または顆粒剤の形態であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアレルギー抑制剤。
【請求項5】
多糖類の微細粉末を含有することを特徴とするアレルギー抑制食品。
【請求項6】
前記多糖類の微細粉末が、平均粒子径が50μm以下のキトサンであることを特徴とする請求項5記載のアレルギー抑制食品。
【請求項7】
前記多糖類の微細粉末が、平均粒子径が50μm以下のキトサンであることを特徴とする請求項5記載のアレルギー抑制食品。
【請求項8】
粉末、カプセル製剤、錠剤、または顆粒剤の形態であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のアレルギー抑制食品。
【請求項9】
前記請求項1〜4のいずれかに記載のアレルギー抑制剤を経口投与することを特徴とするアレルギーの抑制方法。
【請求項10】
前記請求項5〜8のいずれかに記載のアレルギー抑制食品を経口投与することを特徴とするアレルギーの抑制方法。
【請求項11】
前記請求項1〜4のいずれかに記載のアレルギー抑制剤を動物に投与したことを特徴とする免疫抑制動物。
【請求項12】
前記請求項1〜4のいずれかに記載のアレルギー抑制剤を動物に投与することを特徴とする工程を含む免疫抑制動物の作製方法。
【請求項13】
前記請求項5〜8のいずれかに記載のアレルギー抑制食品を動物に投与したことを特徴とする免疫抑制動物。
【請求項14】
前記請求項5〜8のいずれかに記載のアレルギー抑制食品を動物に投与する工程を含むことを特徴とする免疫抑制動物の作製方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−160672(P2006−160672A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355090(P2004−355090)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000196107)西川ゴム工業株式会社 (454)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(591050822)清水化学株式会社 (10)
【Fターム(参考)】