説明

アロフェン懸濁液の製造方法

【課題】アロフェンをナノコンポジットのフィラーとして使用可能な微粒子状に分散させたアロフェン懸濁液の製造方法を提供する。
【解決手段】アロフェンを極性溶媒に分散してアロフェン分散液を得る工程と、該分散液を超音波破砕する工程を含む、アロフェン懸濁液の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアロフェン懸濁液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アロフェンは天然に産出される資源であり、SiO2とAl23からなるアモルファス構造を有する無機物である。直径約5.0nmの中空構造の球状ナノ微粒子であり、外表面はアルミノール基(Al−OH)、中空構造の内表面にシラノール基(Si−OH)を有している。日本で産出される天然物であり、安価で入手しやすい物質であり、これまでにもアロフェンを活用する研究がなされてきた。
【0003】
特許文献1には、アロフェンを樹脂に混合して、調湿材料としての使用が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ウエットグリップ性能と耐摩耗性に優れ、かつ低燃費の空気入りタイヤを提供するため、アロフェンを含有するアルミニウム珪酸塩を含有するタイヤ用ゴム組成物が開示されている。
【0005】
しかしながら、アロフェンはナノ微粒子であるため表面積が大きく、通常大きな凝集塊として得られる。ナノコンポジットのフィラーとして用いるためには、一度分散してから用いる必要があるが、適当な分散方法がなかった。
【0006】
たとえば、ゴムとアロフェンをロールミルにより混練を行なった場合、ゴム練りの非常に強力な機械的圧力により、凝集塊が分解されるものの、それでも1μm以上の大きな塊が残ってしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2001−163658号公報
【特許文献2】特開2007−182520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであって、アロフェンをナノコンポジットのフィラーとして使用可能な微粒子状に分散させたアロフェン懸濁液の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アロフェンを極性溶媒に分散してアロフェン分散液を得る工程と、該分散液を超音波破砕する工程を含む、アロフェン懸濁液の製造方法である。
【0009】
前記極性溶媒がエチレングリコールまたはエチレングリコールと水の混合溶媒であることが好ましい。
【0010】
また、前記極性溶媒がpHが9以上または5以下に調整された水であることが好ましい。
【0011】
前記アロフェン分散液を得る工程において、以下の式1または式2に記載する官能基を含有する化合物を添加剤として使用することが好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アロフェンをナノコンポジットのフィラーとして使用可能な微粒子状に分散させたアロフェン懸濁液を得ることができる。該アロフェン懸濁液を用いることで、アロフェンをフィラーとした様々な樹脂、ゴム材料へ展開ができる。アロフェンが高度に微分散すると、凝集したままでは得られなかった、アロフェン本来の特徴を生かしたナノコンポジットの作製が可能で、その材料においては興味深い物性が期待できる。
【0015】
混合に関して、たとえば、ウェットブレンドにより混合物を容易に得ることができる。具体的には、超音波破砕によって得られたアロフェン懸濁液と、溶媒に溶かしたポリマーを混合し、均一に分散させる。その後、ポリマーを固化させるとアロフェン粒子がポリマーマトリックスに均一に分散したナノコンポジットが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係るアロフェン懸濁液の製造方法は、アロフェンを極性溶媒に分散してアロフェン分散液を得る工程と、該分散液を超音波破砕する工程を含む。
【0017】
<アロフェン>
本発明で使用するアロフェンは天然に存在し、珪素、アルミニウム、酸素、水素を主な構成元素とするアルミニウム珪酸塩からなる粘土鉱物であり、準結晶質構造を有する。アロフェンは一般に直径が5.0nm程度の中空の球殻を有する層状体として得られる。
【0018】
本発明において使用されるアロフェンは、天然では岩石、川床の沈殿物、土壌中等に産生するが、合成することも可能である。アロフェンを合成する方法としては従来公知の方法を採用することができ、具体的な方法については、たとえば「粘土科学」第25巻第2号第53〜60頁(1985年)等に記載がある。
【0019】
アロフェンの典型的な合成方法としては、たとえば、モノケイ酸水溶液とアルミニウム塩水溶液とを混合し、アロフェンの前駆体を生成した後、加熱してアロフェンを沈殿させる方法等が採用され得る。
【0020】
<極性溶媒>
従来より、超音波ホモジナイザーによる破砕が凝集塊に有効であることは知られていた。しかし、アロフェンは凝集力が非常に大きいため、溶媒や添加剤を工夫することが重要である。アロフェンは極性が高いため、極性溶媒が適している。
【0021】
極性溶媒としてはエチレングリコールを好適に使用することができる。エチレングリコールはアロフェンの分散能が高く、凝集塊を直径約100nmの微粒子まで細かくすることができる。
【0022】
極性溶媒として水を使用することもできる。この場合、エチレングリコールと比較すると分散能は低い。水を使用する場合は、アロフェン粒子の等電点を考慮する必要がある。アロフェン粒子の等電点は約pH7のため、水のpHが7付近の場合はアロフェン粒子の凝集力が大きくなるため、超音波破砕の効果が低下する。ここで水のpHを5以下にすると、アロフェン粒子は正に帯電し、粒子同士が互いに反発力を生ずるため、分散が容易になる。また、pH9以上の場合はアロフェン粒子は負に帯電し、粒子同士が互いに反発力を生ずるため、同様に分散が容易になる。
【0023】
さらに、極性溶媒としてエチレングリコールと水の混合溶媒を使用することができる。この場合、エチレングリコールと水は任意の割合で混合することが可能だが、エチレングリコールの体積比を大きくすることで、アロフェンの分散能を上げることができるため、エチレングリコールの体積比は大きい方が好ましい。
【0024】
<添加剤>
本発明に係るアロフェン懸濁液の製造方法において、式1または式2に記載する官能基を含有する化合物を添加剤として使用することで、アロフェンの凝集塊をさらに細かくすることができる。
【0025】
【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
添加剤として上記式1の官能基を含む化合物を使用することが有効である。これはアロフェンのアルミノール基(Al−OH)と上記式1の官能基が反応し、アロフェン粒子の表面を被覆することで、アロフェン同士の凝集力を弱めるためと予測されている。図1に模式図として、アロフェンの表面のアルミノール基と2−ヒドロキシエチルホスホン酸ジメチル(HEP)との反応を示す。
【0028】
また、添加剤として上記式2の官能基を含む化合物も有効である。これはアロフェンのアルミノール基(Al−OH)と上記式2の官能基が水素結合し、アロフェン粒子の表面を被覆することで、凝集力を弱めると推測されるためである。
【0029】
前記式1または式2の官能基を含む添加剤としては、リン酸(H3PO4)、リン酸水素二アンモニウム((NH42HPO4、P2N)、2−ヒドロキシエチルホスホン酸ジメチル(HEP)、トリエチルホスフェート(TEP)、トリブチルホスフィン酸(TPO)、などが挙げられる。
【0030】
<アロフェン分散液>
本発明においてアロフェン分散液とは、アロフェンを前記極性溶媒に分散させたものである。アロフェンは凝集力が非常に大きいため、通常だと大きな凝集塊を形成する。ここで、アロフェン自体が極性が高いことに着目し、極性溶媒を使用することで分散性を高めることができる。
【0031】
アロフェンの分散性を高めるためには、前記添加剤を使用することが好適である。アロフェン分散液に添加剤を添加する場合は、あらかじめアロフェンと添加剤を混合しておくことが好ましい。
【0032】
<アロフェン懸濁液>
アロフェン懸濁液は、前記アロフェン分散液をさらに超音波粉砕して得られる。
【0033】
超音波粉砕の条件は、アロフェン分散液中のアロフェン凝集塊の粒径を小さくできるものであれば特に限定されない。
【0034】
アロフェン懸濁液中のアロフェンの平均粒径は、ナノコンポジットのフィラーとして使用可能なために、1000nm以下、さらに100nm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0035】
(実施例1〜2、比較例1)
アロフェン0.10gに水60mLを加えて、0.1mol/L硫酸、あるいは0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを表1の通り調整した。pH調整後、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、Sonifier II model450D、以下同じ)で出力100W、3分間でアロフェンを分散させた。その後、粒度分布計(大塚電子(株)製、ELS−Z2、以下同じ)により粒径測定を行なった。
【0036】
(実施例3〜4)
アロフェン0.10gに表1に記載した添加剤を加えてよく混合し、これに水60mLを加えた。その後、超音波ホモジナイザーで出力100W、3分間でアロフェンを分散させた。その後、粒度分布計により粒径測定を行なった。
【0037】
(実施例5〜8)
アロフェン4gに表1に記載した添加剤を加えてよく混合し(実施例5は添加剤なし)、これにエチレングリコール30mLを加えた。その後、超音波ホモジナイザーで出力100W、1分間でアロフェンを分散させた。その後、粒度分布計により粒径測定を行なった。
【0038】
(実施例9〜12)
アロフェン4gに表1に記載した添加剤を加えてよく混合し(実施例9は添加剤なし)、これにエチレングリコール30mLおよび水30mLを加えた。その後、超音波ホモジナイザーで出力100W、1分間でアロフェンを分散させた。その後、粒度分布計により粒径測定を行なった。
【0039】
(評価結果)
実施例1〜12、比較例1の平均粒径は表1の通りである。
【0040】
【表1】

【0041】
アロフェン:P1(200メッシュ粉末)(品川化成(株)製)
リン酸:0.5mol/L リン酸水溶液(関東化学製)
P2N:リン酸水素二アンモニウム(関東化学製)
HEP:2−ヒドロキシエチルホスホン酸ジメチル(東京化成製)
TEP:トリエチルホスフェート(東京化成製)
TPO:トリブチルホスフィン酸(東京化成製)
(実施例1〜4:溶媒が純水の場合)
比較例1の平均粒径は約11μmであるが、pHを9または5に調整した実施例1、2では、平均粒径が2〜3μm程度であった。これより、溶媒のpHにより、アロフェンの表面電荷を負あるいは正に帯電させることで、大幅に平均粒径を小さくすることができることがわかる。
【0042】
さらに、リン酸またはリン酸水素二アンモニウムを用いた実施例3、4では、平均粒径が1μm程度になりさらに小さくなった。アロフェン表面にリン酸またはリン酸水素二アンモニウムが吸着し、アロフェンの親水性が高まったために分散しやすくなったものと推測される。
【0043】
(実施例5〜8:溶媒がエチレングリコールの場合)
水と比較すると実施例5のエチレングリコールはアロフェンの分散能が高く、平均粒径は115nmであった。さらに、添加剤を加えた実施例6〜8ではさらに平均粒径が小さくなり、添加剤が効果的に働いている。
【0044】
(実施例9〜12:溶媒がエチレングリコール/水混合溶媒の場合)
実施例9の混合溶媒では、平均粒径が約2μmであり、エチレングリコールより劣るが、水のみの場合よりも優れている混合溶媒に添加剤を加えた実施例10〜12では、添加剤なしの場合よりも大幅に平均粒径が小さくなり、分散性の大きな改善が見られる。
【0045】
実施例1、5、6および比較例1の粒度分布を図2〜5に示す。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によって作製されるアロフェン懸濁液を用いることで、アロフェンをフィラーとした様々な樹脂、ゴム材料へ展開ができる。さらに、アロフェンは調湿材料として建材などに使用されており、本発明はそれらへの転用も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】アロフェンの表面のアルミノール基と2−ヒドロキシエチルホスホン酸ジメチル(HEP)との反応を示す模式図である。
【図2】実施例1の粒度分布を示す図である。
【図3】実施例5の粒度分布を示す図である。
【図4】実施例6の粒度分布を示す図である。
【図5】比較例1の粒度分布を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アロフェンを極性溶媒に分散してアロフェン分散液を得る工程と、該分散液を超音波破砕する工程を含む、アロフェン懸濁液の製造方法。
【請求項2】
前記極性溶媒がエチレングリコールまたはエチレングリコールと水の混合溶媒である、請求項1記載のアロフェン懸濁液の製造方法。
【請求項3】
前記極性溶媒がpHが9以上または5以下に調整された水である、請求項1記載のアロフェン懸濁液の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載のアロフェン分散液を得る工程において、式1または式2に記載する官能基を含有する化合物を添加剤として使用した、請求項1〜3いずれか1つに記載のアロフェン懸濁液の製造方法。
【化1】

【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−42358(P2010−42358A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208425(P2008−208425)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】