説明

アンカー杭

【課題】 構造が単純で製造コストが低いにもかかわらず、引抜き力の高いアンカー杭を提供する。
【解決手段】 平面部2及びその両側端から略垂直に立ち上がる縦壁部3を持つ抵抗板1と、当該抵抗板1の平面部縦壁部側中央に先端が固着され、他端に根がらみ固定部5が形成された本体棒4からなるアンカー杭。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニールハウス等のように地表に直接設置する構造物を地表に固定するために地中に埋め込んで使用するアンカー杭に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニールハウス等を地表に固定するアンカー杭としては、例えば特許文献1に見られるようならせん杭や特許文献2に見られるようなスクリューアンカー等が一般的である。ビニールハウス等を移動するような場合にあっても抜き取りやすいために使い勝手が良いとされている。
しかし、スクリューアンカーは、羽根が比較的小さく、またねじ込み深さも浅いため、引抜き力はさほど高くない。らせん杭は、抵抗面が狭いため、スクリューアンカーよりもさらに引抜き力は低くなる。
【0003】
引抜き力を高くするために、スクリューアンカーの羽根を大きく、さらに全体として長くすることも試みられているが、このようなスクリューアンカーも基本的にはねじ込むものであるために、羽根を大きくするとねじ込み難くなって、かえって作業性を低下させることになる。このため、羽根を大きくしたスクリューアンカーの場合には、ねじ込みではなく掘削した穴に埋め込んで設置することも行われている。
引抜き力を高くするために、棒状体の先端部にアンカー羽根を、打ち込み時に閉じ、引抜き作用時に開となるように回動自在に取り付けたアンカー杭も、例えば特許文献3,4,5で提案されている。
【特許文献1】特開2003−169548号公報
【特許文献2】特開平4−343984号公報
【特許文献3】特開平7−305350号公報
【特許文献4】特開2003−306935号公報
【特許文献5】特開平9−13371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで特許文献1,2で提案されているようなねじ込み式のアンカー杭は、前記したように引抜き力が弱い。
また特許文献3〜5で提案されているような、開閉式の羽根を有するアンカー杭は、打ち込むだけで引抜き力の高いアンカーとなるため、構造物を長期にわたって、或いは強風下でも安定的に固定できると言う観点からは優れたものである。しかしながら、構造が複雑であるためにコストが非常に高くなり、実際のビニールハウス等の構築には使い難い。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、構造が単純で製造コストが低いにもかかわらず、引抜き力の高いアンカー杭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のアンカー杭は、その目的を達成するため、平面部及びその両側端から略垂直に立ち上がる縦壁部を持つ抵抗板と、当該抵抗板の平面部縦壁部側中央に先端が固着され、他端に根がらみ固定部が形成された本体棒からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のアンカー杭は、断面樋型の抵抗板と、その中央部に固着された本体棒からなっている。このため、所定のサイズに掘られた穴に挿入して埋め戻せば、強固な固定アンカーとなる。
構造も単なる断面樋型の溝形鋼と丸棒から形作られる形状になっているために、低コストで製造できるばかりでなく、縦壁部を有する抵抗板の土に対する抵抗が大きくなるので引抜き力の高いアンカー杭となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明アンカー杭の構造を図1に基づいて説明する。
本発明アンカー杭10は、抵抗板1と本体棒4とで構成されている。
抵抗板1は、断面樋型で平面部2とその両側端から略垂直に立ち上がる縦壁部3を有している。本体棒4は、その先端部が前記抵抗板1の平面部2の縦壁部側中央に固着され、また他端にはビニールハウス等の構築物を構成する根がらみパイプを固定する根がらみ固定部5が形成されている。
【0008】
抵抗板1には、市販の溝形鋼を単に切断するのみでそのまま用いることができる。強度の高いアンカー杭とするためには、板厚の厚い溝形鋼を用いることが好ましい。本体棒4を強固に固着するためには、平面部の中央に本体棒4を挿通することが可能な径の貫通孔を設けることが好ましい。
本体棒4にも、市販の丸棒を用いることができる。一端を曲げて根がらみ固定部5を形作る。先端を前記抵抗板1の平面部2中央に固着するが、固着方法は特に制限されない。単に先端部と平面部を溶接接合しただけでも良いが、固着強度を高めるためには、抵抗板1の平面部2中央に設けた貫通孔に本体棒4の先端を挿通させ、挿通部を溶接で固着したり、本体棒の先端に雄ネジを彫ってナットで固定したりしても良い。
製造コストと製品の強度の兼合いを考慮すると、本体棒の先端を抵抗板の平面部中央の貫通孔に挿通した後、抵抗板の両面から溶接して両者を固着することが好ましい。
【0009】
次に、本発明アンカー杭10の設置方法について説明する。
図2に示すように、設置するビニールハウス等の構造物のサイズや設置場所に応じて、アンカー杭埋め込み位置を設定する。この埋め込み位置に、アンカー杭10の抵抗板の大きさ及び本体棒の長さに応じた穴を、抱きスコップ等を用いて人力で、或いはアースオーガー等を用いて機械的に掘る。作業性を考慮すると、アースオーガーを用いることが好ましい。
なお、図2中、11は根がらみ,12は主アーチ,13は肩用直管,14は外母屋,15は補助アーチである。
【0010】
この穴の底面に、本発明アンカー杭を立て、掘削した土を埋め戻す。アンカー杭の引抜き力を高くするためには、埋め戻しの際に、埋め戻した土を締め固める必要がある。
締め固め力を高めるためには、埋め戻しを数回に分割し、その都度、角材やランマー等を用いて突き固めたり、例えば図3に示すような専用の突き固め治具を用いて図4のように突き固めたりすることが好ましい。
図中、20が突き固め治具,30が埋め戻しの土で、16は突き固め治具の重り、17は同柄である。
【0011】
以上に説明した通り、本発明によるアンカー杭は、構造が極めて簡素である。このため、前記特許文献3〜5で提案したアンカー杭と比べて格段に低コストで製造できる。
また、本発明アンカー杭の抵抗板は、引抜き方向に直行する面体を主構成材料としている。このため、引抜き抵抗を高めることができる。さらに、抵抗板を構成する平面部の両側端に縦壁部を備えているために、抵抗板の剛性が高くなり、強い力で引抜いても抵抗板の変形は少なく、結果として剛性の高いアンカー杭を提供することができる。
【実施例】
【0012】
次に、実際にアンカー杭を試作し、土に埋め込んだときの引抜き耐力試験を行って、本発明アンカー杭の有用性を確認した。
抵抗板には、[‐150×50×3.2の構造用溝形鋼を220mmの長さに切断して用いた。そしてその中央にφ13.2mmの孔を穿った。また、本体棒には、φ13mmの構造用棒鋼を用いた。棒鋼の一端を曲げて根がらみ固定部を形作った後、他端を前記抵抗板の孔に挿し込み、両面からアーク溶接して、全体長さ815mmのアンカー杭を作製した。
【0013】
上記で作製したアンカー杭を砂質の土に710mmの深さで埋め込んで引抜き耐力試験を行った。
なお、埋め込み方法として次の3種の方法を採用した。
(1)重機で周辺を掘削し、4分割で埋め戻し、その都度角材で突き固めた。
(2)抵抗板よりひと回り大きい穴を抱きスコップで掘削し、4分割で埋め戻し、その都度角材で突き固めた。
(3)抵抗板が納まる程度の矩形穴を抱きスコップで掘削し、4分割で埋め戻し、その都度角材で突き固めた。
【0014】
引抜き耐力試験は、支持設備に2トン用のチェーンブロックと2トン用の吊りはかりを吊り下げたものを用い、チェーンブロックを手動で巻き上げてアンカー杭を引抜いた。抜けたときの荷重を測定して実測最大荷重とするとともに、アンカー杭を引抜いた後の穴の状態及び杭の抵抗板に付着した土の状態を観察した。
その結果を表1に示す。
【0015】

【0016】
なお、地中押込み式パイプハウス安全構造指針の許容引抜き耐力の決定方式に準拠すると、引抜き耐力は実測最大荷重の2/3になる。この方式に従うと、前記試験での引抜き耐力は、(1)で953kg,(2)で1113kg,(3)で1167kgとなり、重機による掘削以外では引抜き耐力は1000kgを超えている。
ちなみに、先端に大きさが100mmの羽根が一重に溶接接合された埋め込み深さ400mmの現行スクリューアンカーの引抜き耐力が200kg程度であることを考えると、サイズの効果を考慮しても、本発明アンカー杭が優れた引抜き耐力を有していることがわかる。
【0017】
ところで、上記(1)〜(3)は、アンカー杭を埋め込む穴の大きさと埋め戻しの態様、すなわち埋め戻された土の締め固め状態を異にするものである。
そして、アンカー杭の引抜き抵抗は、締め固められた土の土圧による摩擦力と剪断面の表面積の積により求められる。上記(2)と(3)は締め固められた土の土圧は同じであるから、剪断面の表面積の違いによりアンカー杭の引抜き抵抗が変わることになる。上記引抜き試験結果での引抜き穴を引抜きの際の剪断面と仮定すると、その剪断面の表面積は、それぞれの地面盛り上がり範囲の外周長、すなわち(2)での約235.2cm、(3)での約248.4cmに比例しているので、(2)の態様に比べ(3)の態様の方が引抜き抵抗が高いことになる。上記表1中で、引抜き荷重が(3)の方が高かった結果と整合している。逆に(1)は、掘削範囲が広いばかりでなく、埋め戻しの際、土の締め固めが不十分であるために、引抜き抵抗が小さくなっている。
このように、アンカー杭を埋める穴は抵抗板が納まる程度の大きさのものとし、埋め戻しの際、極力強く締め固めることが有効である。
【0018】
さらに、引抜き後、付着した土を除去して抵抗板の変形状態を観察した。本体棒と抵抗板の溶接部には全く異常はなかった。ただし、抵抗板の両側縦壁部が150mmから152〜153mmに僅かに広がっていた。この程度の変形であれば、何の問題もなく、再びアンカー杭として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明アンカー杭の形状を示す図
【図2】アンカー杭を用いてビニールハウスを固定する態様を説明する図
【図3】埋め戻しの際に使用する突き固め治具の形状を説明する図
【図4】突き固め治具を用いて埋め戻し及び突き固め態様を説明する図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面部及びその両側端から略垂直に立ち上がる縦壁部を持つ抵抗板と、当該抵抗板の平面部縦壁部側中央に先端が固着され、他端に根がらみ固定部が形成された本体棒からなることを特徴とするアンカー杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−161442(P2006−161442A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355753(P2004−355753)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(397072695)平林物産株式会社 (9)
【出願人】(592260572)日新鋼管株式会社 (26)
【Fターム(参考)】