説明

アンテイソ脂肪族アルデヒドの製造方法およびこれを含有する香料組成物

【課題】好収率かつ高純度でラセミ体または光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドを得る方法の提供およびその利用。
【解決手段】
1−ハロゲノ−2−メチルブタンとマグネシウムを反応させグリニャール試薬とし、次にω−ハロゲノアルカンニトリルと反応させてアンテイソ脂肪族ニトリルを得た後、還元することにより下記式(1)
【化1】


[式中、nは1〜7の範囲の整数を示す]
で表されるアンテイソ脂肪族アルデヒドを製造する。また、得られた光学異性体アンテイソ脂肪族アルデヒドを香料組成物に利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料として有用なアンテイソ脂肪族アルデヒドの製造方法およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
アンテイソ脂肪族アルデヒド類(直鎖のアルデヒドのメチル末端から数えて3番目の炭素にメチル基が結合した化合物)はユズ果皮油から発見されており、ユズの香気に重要な寄与をしているとされている(特許文献1、非特許文献1)。しかしながら、それらの合成法に関しては、工業的には実施困難な合成法しか知られていなかった。例えば、2−メチルブタナールとω−ブロモアルカン酸エステルから合成する方法は、発火しやすい水素化アルミニウムリチウムを使用し、有毒性の高いPCCを使用するなど危険性、安全性に問題があり工業的製造に向かないこと、および、反応の際の塩基性条件では2−メチルブタナールが容易にラセミ化してしまうため、光学活性体の合成はこの方法では困難であった(特許文献1)。また、4−メチルペンチルアルコールから光学活性な6−メチルオクタナールを合成する場合には、発火しやすいsec−ブチルリチウムを使用しており、やはり工業的製造には問題があった(非特許文献2)。また、5−メチル1−ヘプテンのヒドロホルミル化による合成の場合には、5−メチル−1−へプテンは入手が容易でないという問題が工業的製造の妨げとなっていた(非特許文献3)。
【0003】
一方、光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドは昆虫フェロモンの合成中間体や関連物質として、合成されている公知化合物である(非特許文献2、非特許文献4)。しかしながら、これらの研究を含め、光学活性体アンテイソ脂肪族アルデヒド類の香気についての報告はなかった。
【0004】
【特許文献1】特許第2604630号
【非特許文献1】J. Agric. Food Chem. 38,1544(1990)
【非特許文献2】Tetrahedron 45,2649(1989)
【非特許文献3】Chimica e l’Industria 55,262(1973)
【非特許文献4】Agric. Biol. Chem. 47,869(1983
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
香料としての有用性が知られているアンテイソ脂肪族アルデヒドは今までに知られている合成法では工業的な生産が困難であった。そのため、工業的製造に適用が可能なアンテイソ脂肪族アルデヒドの合成法の開発、および光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドの合成法の開発が課題とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、1−ハロゲノ−2−メチルブタンとマグネシウムを反応させてグリニャール試薬とし、これを銅塩触媒の存在下にω−ハロゲノアルカンニトリルと反応させることによりアンテイソ脂肪族ニトリルとし、さらにこれを還元することによりアンテイソ脂肪族アルデヒドを容易に合成できることを見出すとともに、光学活性1−ハロゲノ−2−メチルブタンを用いることでラセミ化を起こすことなく、光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドを容易に合成できることをも見出した。また、こうして得られた光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドは優れた香気特性を有し、香料組成物として利用出来ることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
かくして本発明は下記式(5)
【0008】
【化1】

【0009】
[式中、Xはハロゲン原子を示す]
で表される1−ハロゲノ−2−メチルブタンとマグネシウムを反応させて下記式(4)
【0010】
【化2】

【0011】
[式中、Xはハロゲン原子を示す]
で表されるグリニャール試薬を得、これを銅塩触媒の存在下、下記式(3)
【0012】
【化3】

【0013】
[式中、Xはハロゲン原子を示し、nは1〜7の範囲の整数を示す]
で表されるω−ハロゲノアルカンニトリルと反応させることにより下記式(2)
【0014】
【化4】

【0015】
[式中、nは1〜7の範囲の整数を示す]
で表されるアンテイソ脂肪族ニトリルを得、次いで還元することを特徴とする下記式(1)
【0016】
【化5】

【0017】
[式中、nは1〜7の範囲の整数を示す]
で表されるアンテイソ脂肪族アルデヒドの製造方法を提供するものである。
【0018】
本発明はまた、下記式(5’)
【0019】
【化6】

【0020】
[式中、*は*が付された炭素の立体配置がRまたはSであることを示し、Xはハロゲン原子を示す]
で表される光学活性1−ハロゲノ−2−メチルブタンとマグネシウムを反応させて下記式(4’)
【0021】
【化7】

【0022】
[式中、*は*が付された炭素の立体配置がRまたはSであることを示し、Xはハロゲン原子を示す]
で表されるグリニャール試薬とし、これを銅塩触媒の存在下、下記式(3)
【0023】
【化8】

【0024】
[式中、Xはハロゲン原子を示し、nは1〜7の範囲の整数を示す]
で表されるω−ハロゲノアルカンニトリルと反応させることにより下記式(2’)
【0025】
【化9】

【0026】
[式中、*は*が付された炭素の立体配置がRまたはSであることを示し、nは1〜7の範囲の整数を示す]
で表される光学活性アンテイソ脂肪族ニトリルを得、次いで還元することを特徴とする下記式(1’)
【0027】
【化10】

【0028】
[式中、*は*が付された炭素の立体配置がRまたはSであることを示し、nは1〜7の範囲の整数を示す]
で表される光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドの製造方法を提供するものである。
【0029】
本発明はまた、前記式(1’)で表される光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドが光学活性6−メチルオクタナールまたは光学活性8−メチルデカナールである前記の光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドの製造方法を提供するものである。
【0030】
本発明はまた、光学活性6−メチルオクタナールおよび/または光学活性8−メチルデカナールを有効成分として含有することを特徴とする香料組成物を提供するものである。
【0031】
本発明はまた、光学活性6−メチルオクタナールおよび光学活性8−メチルデカナールのエナンチオマー過剰率が60%ee以上である前記の香料組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明により提供される製造方法により、製造の際の危険性、毒性が低く、かつ安価な原料を使用し短工程でアンテイソ脂肪族アルデヒドを得ることができ、工業的製法として用いることにより大量生産が可能である。また、光学活性1−ブロモ−2−メチルブタンを原料として使用することにより、ラセミ化を起こすことなく、光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドを好収率で得ることができる。また、得られた光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドは、優れた香気特性を有し、香料組成物として広く、使用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明について更に詳細に述べる。
【0034】
本発明に従うアンテイソ脂肪族アルデヒドの合成工程を示せば下記反応式Aの通りである。
【0035】
【化11】

【0036】
[Xはハロゲン原子を示し、nは1〜7の範囲の整数の整数を示し、THFはテトラヒドロフランを示し、NMPはN−メチルピロリドンを示し、DIBALは水素化ジイソブチルアルミニウムを示す]
(第一工程)
式(4)のグリニャール試薬は反応式Aに従い、式(5)の1−ハロゲノ−2−メチルブタンとマグネシウムを反応させることにより容易に合成することができる。出発物質である式(5)の1−ハロゲノ−2−メチルブタンは市販品として容易に入手することが出来る。また、2−メチル−1−ブタノールをハロゲン化する公知の方法により容易に合成することもできる。式(5)の1−ハロゲノ−2−メチルブタンの具体例としては、例えば、1−ブロモー2−メチルブタン、1−クロロー2−メチルブタンなどを挙げることができる。
【0037】
グリニャール試薬調製の際のマグネシウムの使用量は、式(5)の1−ハロゲノ−2−メチルブタンに1モル対して、通常、1〜3モル、好ましくは1.1〜1.3モルの範囲内であることができる。反応はエーテル系溶媒中で行うことができ、使用するエーテル系溶媒としてはジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテルなどが挙げられる。その使用量は式(5)の1−ハロゲノ−2−メチルブタンに対して、通常、3〜30倍量であることができる。また、この際、反応温度は0℃〜60℃の範囲、好ましくは20℃〜40℃の範囲で、60分〜180分程度攪拌することにより行なう。
【0038】
(第二工程)
第一工程で得られる式(4)のグリニャール試薬と式(3)のハロゲン化ニトリルを反応させて式(2)のアンテイソ脂肪族ニトリルを得る工程が第二工程であるが、まず銅塩と式(3)のハロゲン化ニトリルを溶媒に溶解して冷却し、そこに第一工程で得た式(4)のグリニャール試薬の溶液を滴下することにより行なわれる。
【0039】
使用する銅塩としては、例えば、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、塩化銅(II)−塩化リチウム複塩などを挙げることができる。その使用量は式(3)のハロゲン化ニトリル1モルに対して、通常、0.01〜0.1モル、好ましくは0.03〜0.05モルの範囲内であることができる。
【0040】
また、使用する式(3)のハロゲン化ニトリルは、2−ブロモエタンニトリル、3−ブロモプロパンニトリル、4−ブロモブタンニトリル、5−ブロモペンタンニトリル、6−ブロモヘキサンニトリル、7−ブロモヘプタンニトリル、8−ブロモオクタンニトリルであるが市販品として購入することが出来る。
【0041】
また、使用する溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル系溶媒が挙げられるが、より好ましくはこれにN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどを補助溶媒として添加したものを挙げることができる。その使用量は式(3)のハロゲン化ニトリルに対して、通常、30〜50倍量であることができる。
【0042】
反応温度は−50℃〜20℃の範囲で行なうことができるが、−30℃〜0℃の範囲で行なうのが好ましい。
【0043】
上記反応を行うことにより、4−メチルヘキサンニトリル、5−メチルヘプタンニトリル、6−メチルオクタンニトリル、7−メチルノナンニトリル、8−メチルデカンニトリル、9−メチルウンデカンニトリル、10−メチルドデカンニトリルなどの式(2)のアンテイソ脂肪族ニトリルを得ることができる。 得られた式(2)のアンテイソ脂肪族ニトリルは、そのまま粗製として次工程で使用することも出来るが、それ自体既知の方法、例えば、減圧蒸留、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどにより、反応混合物から分離し、精製することができる。
【0044】
(第三工程)
次に、第二工程で得られた式(2)のアンテイソ脂肪族ニトリルを還元し、式(1)のアンテイソ脂肪族アルデヒドを得る工程が第三工程である。還元は、例えば、水素化ジイソブチルアルミニウムを還元剤として行なうことができる。反応は炭化水素系溶媒に第二工程で得られた式(2)のアンテイソ脂肪族ニトリルを溶解し、そこに水素化ジイソブチルアルミニウムを炭化水素系溶媒に溶解した溶液を滴下することにより行なうことができる。
【0045】
炭化水素系溶媒としては、例えば、ヘキサンやトルエンが挙げられる。その使用量は式(2)のアンテイソ脂肪族ニトリルに対して、通常、3〜30倍量であることができる。また、水素化ジイソブチルアルミニウムの使用量は式(2)のアンテイソ脂肪族ニトリルに対して、通常、1〜2モル、好ましくは1.1〜1.3モルの範囲内であり、通常、5〜10倍量の炭化水素系溶媒に溶解して使用する。
【0046】
反応温度は−80℃〜0℃の範囲で行なうことができるが、−30℃〜−10℃の範囲で行なうことが好ましい。次いで、得られた反応液を公知の方法、例えば、希塩酸、希硫酸、クエン酸水溶液、酒石酸水溶液、酢酸水溶液などを加えることにより加水分解することで4−メチルヘキサナール、5−メチルヘプタナール、6−メチルオクタナール、7−メチルノナナール,8−メチルデカナール、9−メチルウンデカナールおよび10−メチルドデカナールなどのアンテイソ脂肪族アルデヒドを得ることができる。
【0047】
得られた式(1)のアンテイソ脂肪族アルデヒドは、それ自体既知の方法、例えば、減圧蒸留、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどにより、反応混合物から分離し、精製することができる。
【0048】
次に、本発明に従う光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドの合成工程を示せば下記反応式Bの通りである。
【0049】
【化12】

【0050】
[Xはハロゲン原子を示し、nは1〜7の範囲の整数の整数を示し、THFはテトラヒドロフランを示し、NMPはN−メチルピロリドンを示し、DIBALは水素化ジイソブチルアルミニウムを示す]
(第一工程)
式(4’)のグリニャール試薬は反応式Bに従い、式(5’)の光学活性1−ハロゲノ−2−メチルブタンとマグネシウムを反応させることにより容易に合成することができる。出発物質である式(5’)の光学活性1−ハロゲノ−2−メチルブタンは市販品として容易に入手することが出来る。また、光学活性2−メチル−1−ブタノールをハロゲン化する公知の方法により容易に合成することもできる。式(5)の光学活性1−ハロゲノ−2−メチルブタンの具体例としては、例えば、(S)−1−ブロモ−2−メチルブタン、(R)−1−ブロモ−2−メチルブタン、(S)−1−クロロ−2−メチルブタン、(R)−1−クロロ−2−メチルブタンなどを挙げることができる。
【0051】
グリニャール試薬調製の際のマグネシウムの使用量は、式(5’)の光学活性1−ハロゲノ−2−メチルブタン1モルに対して、通常、1〜3モル、好ましくは1.1〜1.3モルの範囲内であることができる。反応はエーテル系溶媒中で行うことができ、使用するエーテル系溶媒としてはジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテルなどが挙げられる。その使用量は式(5’)の光学活性1−ハロゲノ−2−メチルブタンに対して、通常、3〜30倍量であることができる。また、この際、反応温度は0℃〜60℃の範囲、好ましくは20℃〜40℃の範囲で、60分〜180分程度攪拌することにより行なう。
【0052】
(第二工程)
第一工程で得られる式(4’)の光学活性グリニャール試薬と式(3)のハロゲン化ニトリルを反応させて式(2’)の光学活性アンテイソ脂肪族ニトリルを得る工程が第二工程であるが、まず銅塩と式(3)のハロゲン化ニトリルを溶媒に溶解して冷却し、そこに第一工程で得た式(4’)のグリニャール試薬の溶液を滴下することで行なわれる。
【0053】
使用する銅塩としては、例えば、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、塩化銅(II)−塩化リチウム複塩などを挙げることができる。その使用量は式(3)のハロゲン化ニトリル1モルに対して、通常、0.01〜0.1モル、好ましくは0.03〜0.05モルの範囲内であることができる。
【0054】
また、使用する式(3)のハロゲン化ニトリルは、2−ブロモエタンニトリル、3−ブロモプロパンニトリル、4−ブロモブタンニトリル、5−ブロモペンタンニトリル、6−ブロモヘキサンニトリル、7−ブロモヘプタンニトリルおよび8−ブロモオクタンニトリルの各光学活性体であるが市販品として購入することが出来る。
【0055】
また、使用する溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル系溶媒が挙げられるが、より好ましくはこれにN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどを補助溶媒として添加したものを挙げることができる。
【0056】
その使用量は式(3)のハロゲン化ニトリルに対して、通常、5〜30倍量であることができる。反応温度は−50℃〜20℃の範囲で行なうことができるが、−30℃〜0℃の範囲で行なうのが好ましい。
【0057】
上記反応を行うことにより、(S)−4−メチルヘキサンニトリル、(R)−4−メチルヘキサンニトリル、(S)−5−メチルヘプタンニトリル、(R)−5−メチルヘプタンニトリル、(S)−6−メチルオクタンニトリル、(R)−6−メチルオクタンニトリル、(S)−7−メチルノナンニトリル、(R)−7−メチルノナンニトリル、(S)−8−メチルデカンニトリル、(R)−8−メチルデカンニトリル、(S)−9−メチルウンデカンニトリル、(R)−9−メチルウンデカンニトリル、(S)−10−メチルドデカンニトリル、(R)−10−メチルドデカンニトリルの式(2)の光学活性アンテイソ脂肪族ニトリルを得ることができる。得られた式(2)の光学活性アンテイソ脂肪族ニトリルはそれ自体既知の方法、例えば、減圧蒸留、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどにより、反応混合物から分離し、精製することができる。
【0058】
(第三工程)
次に、第二工程で得られた式(2’)の光学活性アンテイソ脂肪族ニトリルを還元し、式(1’)の光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドを得る工程が第三工程である。還元は、例えば、水素化ジイソブチルアルミニウムを還元剤として行なうことができる。反応は炭化水素系溶媒に第二工程で得られた式(2’)のアンテイソ脂肪族ニトリルを溶解し、そこに水素化ジイソブチルアルミニウムを炭化水素系溶媒に溶解した溶液を滴下することにより行なうことができる。 炭化水素系溶媒としては、例えば、ヘキサンやトルエンが挙げられる。その使用量は式(2’)の光学活性アンテイソ脂肪族ニトリルに対して、通常、3〜30倍量であることができる。また、水素化ジイソブチルアルミニウムの使用量は式(2’)の光学活性アンテイソ脂肪族ニトリルに対して、通常、1〜2モル、好ましくは1.1〜1.3モルの範囲内であり、通常、5〜10倍量の炭化水素系溶媒に溶解して使用する。
【0059】
反応温度は−80℃〜0℃の範囲で行なうことができるが、−30℃〜−10℃の範囲で行なうことが好ましい。
【0060】
次いで、得られた反応液を公知の方法、例えば、希塩酸、希硫酸、クエン酸水溶液、酒石酸水溶液、酢酸水溶液などを加えることにより加水分解することで(S)−4−メチルヘキサナール、(R)−4−メチルヘキサナール、(S)−5−メチルヘプタナール、(R)−5−メチルヘプタナール、(S)−6−メチルオクタナール、(R)−6−メチルオクタナール、(S)−7−メチルノナナール、(R)−7−メチルノナナール、(S)−8−メチルデカナール、(R)−8−メチルデカナール、(S)−9−メチルウンデカナール、(R)−9−メチルウンデカナール、(S)−10−メチルドデカナール、(R)−10−メチルドデカナールの光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドを得ることができる。 得られた式(1)の光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドは、それ自体既知の方法、例えば、減圧蒸留、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどにより、反応混合物から分離し、精製することができる。
【0061】
このようにして得られる光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドのうち、光学活性6−メチルオクタナールおよび光学活性8−メチルデカナールは従来にないユニークな香気特性を有しており、その香気特性を示せば下記表1のとおりである。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示したとおり、本発明の(S)−6−メチルオクタナールはフレッシュで甘いグリーン、シトラスの特徴的香気を有し、(R)−6−メチルオクタナールは油脂様の特徴的香気を有する。また(S)−8−メチルデカナールはフレッシュな苦味のあるシトラスの特徴的香気を有し、(R)−8−メチルデカナールはグリーン、フレッシュな油脂様の特徴的香気を有する。したがって、光学活性体はそれぞれが有する特徴的な香気特性により、香料組成物の香気に強さとバリエーションを与える香料素材として用いることができる。
【0064】
一方、公知のラセミ体6−メチルオクタナールは油脂様およびシトラス、グリーンの両方の香気を有するものの(S)体、(R)体のような顕著な特徴はなく、香気全体がぼやけており、香料素材としては劣っている。ラセミ体8−メチルデカナールも油脂様および甘いシトラスの両方の香気を有するものの、(S)体、(R)体のような顕著な特徴はなく、香気全体がぼやけており、やはり香料素材としては劣っている。
【0065】
本発明の式(1’)で表される光学活性6−メチルオクタナールおよび光学活性8−メチルデカナールは、上記のとおりそれ自体で特徴的な香気を有し、香料物質として使用することができるが、他の芳香成分なる香料組成物に添加することにより、該香料組成物との調和を保ちながら、香気の改善および増強に極めて優れた効果を奏する。しかして、本発明によれば、また、本発明の光学活性6−メチルオクタナールおよび/または光学活性8−メチルデカナールを有効成分として含有することを特徴とする香料組成物が提供される。
【0066】
本発明の香料組成物に使用される光学活性6−メチルオクタナールおよび光学活性8−メチルデカナールのエナンチオマー過剰率は香気の観点から60%ee以上、好ましくは80%ee以上、より好ましくは90%ee以上が好ましい。
【0067】
例えば、98%eeの(S)−6−メチルオクタナールは極めて顕著にフレッシュで甘いグリーン、シトラスの香気を有し、80%eeの(S)−6−メチルオクタナールも顕著にフレッシュで甘いグリーン、シトラスの香気を有し、60%eeの(S)−6−メチルオクタナールはややフレッシュで甘いグリーン、シトラスの香気を有するが、40%eeの(S)−6−メチルオクタナールは油脂様およびシトラス、グリーンの両方の香気を有するものの顕著な特徴はなく、香気全体がぼやけている。
【0068】
また、98%eeの(R)−6−メチルオクタナールは極めて顕著に油脂様の香気を有し、80%eeの(R)−6−メチルオクタナールは顕著に油脂様の香気を有し、60%eeの(R)−6−メチルオクタナールはやや油脂様の香気を有するが、40%eeの(R)−6−メチルオクタナールは油脂様およびシトラス、グリーンの両方の香気を有するものの顕著な特徴はなく、香気全体がぼやけている。
【0069】
一方、98%eeの(S)−8−メチルデカナールは極めて顕著にフレッシュな苦味のあるシトラスの香気を有し、80%eeの(S)−8−メチルデカナールは顕著にフレッシュな苦味のあるシトラスの香気を有し、60%eeの(S)−8−メチルデカナールはややフレッシュな苦味のあるシトラスの香気を有するが、40%eeの(S)−8−メチルデカナールは油脂様および甘いシトラスの両方の香気を有するものの顕著な特徴はなく、香気全体がぼやけている。
【0070】
また、98%eeの(R)−8−メチルデカナールは極めて顕著にグリーン、フレッシュな油脂様の特徴的香気を有し、80%eeの(R)−8−メチルデカナールは顕著にグリーン、フレッシュな油脂様の特徴的香気を有し、60%eeの(R)−8−メチルデカナールはややグリーン、フレッシュな油脂様の特徴的香気を有するが、40%eeの(R)−8−メチルデカナールは油脂様および甘いシトラスの両方の香気を有するものの顕著な特徴はなく、香気全体がぼやけている。
【0071】
本発明の香料組成物に使用される光学活性6−メチルオクタナールおよび光学活性8−メチルデカナールを用いて香料組成物を調製する際に使用しうる他の香料素材としては香料化学総覧1,2,3(奥田治著、廣川書店出版)、合成香料(印藤元一著、化学工業日報社出版)などに記載の合成香料、天然香料を挙げることができる。
【0072】
また、前記のようにして調製された本発明の香料組成物は食品、飼料、化粧品、トイレタリー製品、工業用製品などに添加することにより、特徴的な香気香味を製品に付与し、多様化する消費者のニーズをも満足させるユニークな商品を提供することができる。
【0073】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0074】
実施例1
(±)−6−メチルオクタンニトリルの合成
温度計、滴下漏斗、ジムロート冷却管を装着した200mL四つ口フラスコに削り屑状マグネシウム(2.9g,0.12mol)を仕込み、系内をアルゴン置換した。そこに少量のヨウ素と乾燥THF(20g)を加えて撹拌した。そこに(±)−1−ブロモ−2−メチルブタン(15.1g,0.10mol)の乾燥THF(70g)溶液の一部を滴下漏斗より加えて40℃に加熱し、グリニャール試薬の生成を開始させた。グリニャール試薬の生成開始が確認できたら反応液を氷冷して20℃まで冷却し、残りの(S)−1−ブロモ−2−メチルブタンの溶液を内温20℃程度を保つスピードで滴下した。滴下終了後、そのまま1時間撹拌した。
【0075】
別の温度計、滴下漏斗を装着した200mL四つ口フラスコに臭化銅(I)(0.72g,5.0mmol)を仕込み、系内をアルゴン置換した。そこに乾燥N−メチルピロリドン(33.7g,0.34mol)、乾燥THF(60g)、4−ブロモブチロニトリル(12.6g,85mmol)を仕込み、ドライアイス/メタノール浴で−20℃に冷却した。滴下漏斗に先ほど調製したグリニャール試薬のTHF溶液をグラスウールでマグネシウム屑が入らないように濾過しながら仕込んだ。滴下漏斗よりグリニャール試薬を内温−5℃を超えないスピードで滴下した。滴下終了後、そのままの温度を保って2時間撹拌した。その後、反応液を20%塩化アンモニウム水溶液(200g)に注入し、室温まで昇温した。有機相を分離した後、水相をヘキサン(50g)で抽出した。合わせた有機相を飽和食塩水(100g)で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターで溶媒を留去した。これを減圧蒸留で精製し(沸点81℃/1.1kPa)、(±)−6−メチルオクタンニトリル(10.5g、収率88%、GLC純度91%)を得た。
【0076】
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ 0.85(t,3H,J=7.3Hz),0.85(d,3H,J=6.4Hz),1.13(m,2H),1.26−1.52(m,5H),1.64(m,2H),2.33(t,2H,J=7.1Hz)
13C−NMR(100MHz,CDCl3):δ 11.39,17.21,19.13,25.75,26.27,29.39,34.21,35.70,119.91
MS:138(2),124(32),110(94),96(29),83(48),69(43),57(49),54(100),41(75),29(23)
【0077】
実施例2
(±)−6−メチルオクタナールの合成
セプタムラバー付き滴下漏斗、アルゴン風船を装着した200mL四つ口フラスコに(±)−6−メチルオクタンニトリル(4.2g,30mmol)、トルエン(30g)を仕込みドライアイス/メタノール浴で−20℃に冷却した。DIBALの0.97Mヘキサン溶液(34mL,33mmol)を滴下漏斗にシリンジで移し、そこからゆっくりと滴下した。滴下終了後、そのまま2時間撹拌した後、ドライアイスを追加して−60℃まで冷却した。滴下漏斗にメタノール(10g)を仕込み、そこからゆっくりと滴下した。その後、反応液を20%クエン酸水溶液(200g)へ注入し、ゲル状の沈殿が溶解するまで激しく撹拌した。有機相を分離した後、水相をヘキサン(20g)で抽出し、合わせた有機相を5%炭酸水素ナトリウム水溶液(30g)、飽和食塩水(30g)で洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターで溶媒を留去した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、(±)−6−メチルオクタナール(1.3g、収率31%、GLC純度95%)を得た。
【0078】
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ 0.83(d,3H,J=6.3Hz),0.84(t,3H,J=7.4Hz),1.11(m,2H),1.22−1.37(m,5H),1.60(m,2H),2.41(dt,2H,J=1.8,7.3Hz),9.75(t,1H,J=1.8Hz)
13C−NMR(100MHz,CDCl3):δ 11.42,19.18,22.47,26.72,29.47,34.27,36.34,44.02,203.02
MS:124(2),113(7),109(7),95(61),83(11),69(37),57(100),43(30),41(65),29(29)
【0079】
実施例3
(S)−6−メチルオクタンニトリルの合成
温度計、滴下漏斗、ジムロート冷却管を装着した200mL四つ口フラスコに削り屑状マグネシウム(2.9g,0.12mol)を仕込み、系内をアルゴン置換した。そこに少量のヨウ素と乾燥THF(20g)を加えて撹拌した。そこに(S)−1−ブロモ−2−メチルブタン(15.1g,0.10mol)の乾燥THF(70g)溶液の一部を滴下漏斗より加えて40℃に加熱し、グリニャール試薬の生成を開始させた。グリニャール試薬の生成開始が確認できたら反応液を氷冷して20℃まで冷却し、残りの(S)−1−ブロモ−2−メチルブタンの溶液を内温20℃程度を保つスピードで滴下した。滴下終了後、そのまま1時間撹拌した。
【0080】
別の温度計、滴下漏斗を装着した200mL四つ口フラスコに臭化銅(I)(0.72g,5.0mmol)を仕込み、系内をアルゴン置換した。そこに乾燥N−メチルピロリドン(33.7g,0.34mol)、乾燥THF(60g)、4−ブロモブチロニトリル(12.6g,85mmol)を仕込み、ドライアイス/メタノール浴で−20℃に冷却した。滴下漏斗に先ほど調製したグリニャール試薬のTHF溶液をグラスウールでマグネシウム屑が入らないように濾過しながら仕込んだ。滴下漏斗よりグリニャール試薬を内温−5℃を超えないスピードで滴下した。滴下終了後、そのままの温度を保って2時間撹拌した。その後、反応液を20%塩化アンモニウム水溶液(200g)に注入し、室温まで昇温した。有機相を分離した後、水相をヘキサン(50g)で抽出した。合わせた有機相を飽和食塩水(100g)で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターで溶媒を留去した。これを減圧蒸留で精製し(沸点98℃/2.0kPa)、(S)−6−メチルオクタンニトリル(9.0g、収率76%、GLC純度97%)を得た。
【0081】
1H−NMR、13C−NMR、MSは(±)−6−メチルオクタンニトリルと一致した。
[α](20℃,D線,c=1.20,クロロホルム):+9.46°
【0082】
実施例4
(S)−6−メチルオクタナールの合成
セプタムラバー付き滴下漏斗、アルゴン風船を装着した200mL四つ口フラスコに(S)−6−メチルオクタンニトリル(7.0g,50mmol)、ヘキサン(25g)を仕込みドライアイス/メタノール浴で−30℃に冷却した。DIBALの0.97Mヘキサン溶液(57mL,55mmol)を滴下漏斗にシリンジで移し、そこからゆっくりと滴下した。滴下終了後、そのまま2時間撹拌した後、ドライアイスを追加して−60℃まで冷却した。滴下漏斗にメタノール(10g)を仕込み、そこからゆっくりと滴下した。その後、反応液を20%酒石酸ナトリウムカリウム水溶液(200g)へ注入し、ゲル状の沈殿が溶解するまで激しく撹拌した。有機相を分離した後、水相をヘキサン(20g)で抽出し、合わせた有機相を20%酒石酸水溶液(30g)、5%炭酸水素ナトリウム水溶液(30g)、飽和食塩水(30g)で洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターで溶媒を留去した。これを減圧蒸留で精製し(沸点76℃/2.0kPa)、(S)−6−メチルオクタナール(2.9g、収率40%、GLC純度95%)を得た。
【0083】
1H−NMR、13C−NMR、MSは(±)−6−メチルオクタナールと一致した。
[α](20℃,D線,c=1.32,クロロホルム):+9.36°
【0084】
実施例5
(±)−8−メチルデカンニトリルの合成
温度計、滴下漏斗、ジムロート冷却管を装着した200mL四つ口フラスコに削り屑状マグネシウム(2.9g,0.12mol)を仕込み、系内をアルゴン置換した。そこに少量のヨウ素と乾燥THF(20g)を加えて撹拌した。そこに(±)−1−ブロモ−2−メチルブタン(15.1g,0.10mol)の乾燥THF(70g)溶液の一部を滴下漏斗より加えて40℃に加熱し、グリニャール試薬の生成を開始させた。グリニャール試薬の生成開始が確認できたら反応液を氷冷して20℃まで冷却し、残りの(S)−1−ブロモ−2−メチルブタンの溶液を内温20℃程度を保つスピードで滴下した。滴下終了後、そのまま1時間撹拌した。
【0085】
別の温度計、滴下漏斗を装着した200mL四つ口フラスコに臭化銅(I)(0.72g,5.0mmol)を仕込み、系内をアルゴン置換した。そこに乾燥N−メチルピロリドン(33.7g,0.34mol)、乾燥THF(60g)、6−ブロモヘキサンニトリル(15.0g,85mmol)を仕込み、ドライアイス/メタノール浴で−20℃に冷却した。滴下漏斗に先ほど調製したグリニャール試薬のTHF溶液をグラスウールでマグネシウム屑が入らないように濾過しながら仕込んだ。滴下漏斗よりグリニャール試薬を内温−5℃を超えないスピードで滴下した。滴下終了後、そのままの温度を保って2時間撹拌した。その後、反応液を20%塩化アンモニウム水溶液(200g)に注入し、室温まで昇温した。有機相を分離した後、水相をヘキサン(50g)で抽出した。合わせた有機相を飽和食塩水(100g)で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターで溶媒を留去した。これを減圧蒸留で精製し(沸点69℃/0.3kPa)、(±)−8−メチルデカンニトリル(12.8g、収率90%、GLC純度87%)を得た。
【0086】
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ 0.83(d,3H,J=6.4Hz),0.85(t,3H,J=7.3Hz),1.10(m,2H),1.21−1.36(m,7H),1.44(m,2H),1.65(quint,2H,J=7.4Hz),2.33(t,2H,J=7.1Hz)
13C−NMR(100MHz,CDCl3):δ 11.46,17.20,19.23,25.44,26.81,28.76,29.17,29.51,34.39,36.49,119.94
MS:166(1),152(15),138(87),124(14),110(54),96(72),82(69),69(31),57(72),55(72),43(39),41(100),29(34)
【0087】
実施例6
(±)−8−メチルデカナールの合成
セプタムラバー付き滴下漏斗、アルゴン風船を装着した200mL四つ口フラスコに(±)−6−メチルオクタンニトリル(1.7g,30mmol)、トルエン(20g)を仕込みドライアイス/メタノール浴で−78℃に冷却した。DIBALの0.94Mヘキサン溶液(10.6mL,30mmol)を滴下漏斗にシリンジで移し、そこからゆっくりと滴下した。滴下終了後、そのまま2時間撹拌した後、滴下漏斗にメタノール(6g)を仕込み、そこからゆっくりと滴下した。その後、反応液を20%酒石酸ナトリウムカリウム水溶液(100g)へ注入し、ゲル状の沈殿が溶解するまで激しく撹拌した。有機相を分離した後、水相をヘキサン(20g)で抽出し、合わせた有機相に10%酢酸水溶液(50g)を加えて2時間撹拌した。有機相を分離し、5%炭酸水素ナトリウム水溶液(30g)、飽和食塩水(30g)で洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターで溶媒を留去した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、(±)−8−メチルデカナール(1.5g、収率88%、GLC純度94%)を得た。
【0088】
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ 0.83(d,3H,J=6.4Hz)0.84(t,3H,J=7.3Hz),1.09(m,2H),1.20−1.36(m,9H),1.62(quint,2H,J=7.2Hz),2.41(dt,2H,J=1.9,7.3Hz),9.75(t,1H,J=1.9Hz)
13C−NMR(100MHz,CDCl3):δ 11.46,19.25,22.17,26.93,29.27,29.53,29.76,34.42,36.58,43.99,203.06
MS:141(3),123(34),109(5),95(31),81(56),70(49),67(34),57(100),55(92),43(50),41(84),29(37)
【0089】
実施例7
(S)−8−メチルデカンニトリルの合成
温度計、滴下漏斗、ジムロート冷却管を装着した200mL四つ口フラスコに削り屑状マグネシウム(2.9g,0.12mol)を仕込み、系内をアルゴン置換した。そこに少量のヨウ素と乾燥THF(20g)を加えて撹拌した。そこに(S)−1−ブロモ−2−メチルブタン(15.1g,0.10mol)の乾燥THF(70g)溶液の一部を滴下漏斗より加えて40℃に加熱し、グリニャール試薬の生成を開始させた。グリニャール試薬の生成開始が確認できたら反応液を氷冷して20℃まで冷却し、残りの(S)−1−ブロモ−2−メチルブタンの溶液を内温20℃程度を保つスピードで滴下した。滴下終了後、そのまま1時間撹拌した。
【0090】
別の温度計、滴下漏斗を装着した200mL四つ口フラスコに臭化銅(I)(0.72g,5.0mmol)を仕込み、系内をアルゴン置換した。そこに乾燥N−メチルピロリドン(33.7g,0.34mol)、乾燥THF(60g)、6−ブロモヘキサンニトリル(15.0g,85mmol)を仕込み、ドライアイス/メタノール浴で−20℃に冷却した。滴下漏斗に先ほど調製したグリニャール試薬のTHF溶液をグラスウールでマグネシウム屑が入らないように濾過しながら仕込んだ。滴下漏斗よりグリニャール試薬を内温−5℃を超えないスピードで滴下した。滴下終了後、そのままの温度を保って2時間撹拌した。その後、反応液を20%塩化アンモニウム水溶液(200g)に注入し、室温まで昇温した。有機相を分離した後、水相をヘキサン(50g)で抽出した。合わせた有機相を飽和食塩水(100g)で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターで溶媒を留去した。これを減圧蒸留で精製し(沸点74℃/0.3kPa)、(S)−8−メチルデカンニトリル(10.5g、収率74%、GLC純度96%)を得た。
【0091】
1H−NMR、13C−NMR、MSは(±)−8−メチルデカンニトリルと一致した。
[α](20℃,D線,c=1.51,クロロホルム):+8.38°
【0092】
実施例8
(S)−8−メチルデカナールの合成
セプタムラバー付き滴下漏斗、アルゴン風船を装着した200mL四つ口フラスコに(S)−6−メチルオクタンニトリル(5.0g,30mmol)、ヘキサン(15g)を仕込みドライアイス/メタノール浴で−30℃に冷却した。DIBALの0.97Mヘキサン溶液(34mL,33mmol)を滴下漏斗にシリンジで移し、そこからゆっくりと滴下した。滴下終了後、そのまま2時間撹拌した後、ドライアイスを追加して−60℃まで冷却した。滴下漏斗にメタノール(6g)を仕込み、そこからゆっくりと滴下した。その後、反応液を20%酒石酸ナトリウムカリウム水溶液(100g)へ注入し、ゲル状の沈殿が溶解するまで激しく撹拌した。有機相を分離した後、水相をヘキサン(20g)で抽出し、合わせた有機相に10%酢酸水溶液(50g)を加えて2時間撹拌した。有機相を分離し、5%炭酸水素ナトリウム水溶液(30g)、飽和食塩水(30g)で洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、エバポレーターで溶媒を留去した。これを減圧蒸留で精製し(沸点61℃/0.3kPa)、(S)−8−メチルデカナール(3.4g、収率67%、GLC純度96%)を得た。
【0093】
1H−NMR、13C−NMR、MSは(±)−8−メチルデカナールと一致した。
[α](20℃,D線,c=1.39,クロロホルム):+8.09°
【0094】
実施例9
オレンジ香料基本調合組成物として表2の各成分(重量部)を混合した。
【0095】
【表2】

【0096】
この基本調合組成物に表3の割合で合成した6−メチルオクタナールおよび8−メチルデカナールを添加し、香料組成物AからFまでを調合した。
【0097】
【表3】

【0098】
これらの香料組成物をそれぞれ60%エタノール水溶液995重量部に対して5重量部添加し、その香味について専門パネラーが官能評価を行なった。その結果は表4の通りであった。
【0099】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(5)
【化1】

[式中、Xはハロゲン原子を示す]
で表される1−ハロゲノ−2−メチルブタンとマグネシウムを反応させて下記式(4)
【化2】

[式中、Xはハロゲン原子を示す]
で表されるグリニャール試薬を得、これを銅塩触媒の存在下、下記式(3)
【化3】

[式中、Xはハロゲン原子を示し、nは1〜7の範囲の整数を示す]
で表されるω−ハロゲノアルカンニトリルと反応させることにより下記式(2)
【化4】

[式中、nは1〜7の範囲の整数を示す]
で表されるアンテイソ脂肪族ニトリルを得、次いで還元することを特徴とする下記式(1)
【化5】

[式中、nは1〜7の範囲の整数を示す]
で表されるアンテイソ脂肪族アルデヒドの製造方法。
【請求項2】
下記式(5’)
【化6】

[式中、*は*が付された炭素の立体配置がRまたはSであることを示し、Xはハロゲン原子を示す]
で表される光学活性1−ハロゲノ−2−メチルブタンとマグネシウムを反応させて下記式(4’)
【化7】

[式中、*は*が付された炭素の立体配置がRまたはSであることを示し、Xはハロゲン原子を示す]
で表されるグリニャール試薬を得、これを銅塩触媒の存在下、下記式(3)
【化8】

[式中、Xはハロゲン原子を示し、nは1〜7の範囲の整数を示す]
で表されるω−ハロゲノアルカンニトリルと反応させることにより下記式(2’)
【化9】

[式中、*は*が付された炭素の立体配置がRまたはSであることを示し、nは1〜7の範囲の整数を示す]
で表される光学活性アンテイソ脂肪族ニトリルを得、次いで還元することを特徴とする下記式(1’)
【化10】

[式中、*は*が付された炭素の立体配置がRまたはSであることを示し、nは1〜7の範囲の整数を示す]
で表される光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドの製造方法。
【請求項3】
前記式(1’)で表される光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドが光学活性6−メチルオクタナールまたは光学活性8−メチルデカナールである請求項2に記載の光学活性アンテイソ脂肪族アルデヒドの製造方法。
【請求項4】
光学活性6−メチルオクタナールおよび/または光学活性8−メチルデカナールを有効成分として含有することを特徴とする香料組成物。
【請求項5】
光学活性6−メチルオクタナールおよび光学活性8−メチルデカナールのエナンチオマー過剰率が60%ee以上である請求項4に記載の香料組成物。

【公開番号】特開2008−100960(P2008−100960A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286135(P2006−286135)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】