説明

アンテナの偏波表示方法及び装置

本発明は、アンテナの偏波表示の方法及び装置を開示する。アンテナの偏波表示方法は、アンテナの放射方向から複数の所定放射方向を選択する選択手段と、これら複数の所定放射方向を座標図中にマッピングするマッピング手段と、上記複数の所定放射方向におけるアンテナの放射データを取得する取得手段と、これらの放射データに応じて、上記複数の所定放射方向におけるアンテナの偏波パターンを上記座標図上にプロットするプロット手段とを具えている。本発明の方法及び装置により、各放射方向におけるアンテナのすべての偏波情報を1つの図のみで提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は一般にアンテナ技術に関するものであり、特にアンテナの偏波表示方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
アンテナは主に通信分野で用いられる無線装置であり、空中の電磁波の送信及び受信を実現する機能を有する。アンテナによって送信されるあらゆる電磁波が電界ベクトル及び磁界ベクトルから成り、これらのベクトルは常に互いに直交し、そして遠距離電磁界の放射では電磁波の放射方向に直交する。アンテナが電磁波を放射する際に、電界ベクトル及び磁界ベクトルの向きは各放射方向において時間と共に周期的に変化し、このことは一般にアンテナ偏波と称される。
【0003】
アンテナの放射特性が種々の要求を満足するか否かをテストするために、アンテナの開発及び設計中に、一般に観測用の球(極)座標系内にアンテナを配置することによって、アンテナの偏波を調査する必要がある。図1に、図示を簡単にするために球座標系を示し、ここでZ軸は紙面内に位置して縦方向に伸び、Y軸はZ軸に直交して紙面内の右向きに伸び、そしてX軸は紙面に垂直である。アンテナの任意の放射方向(θ,φ)について、θは、球座標系において放射方向とZ軸の正方向とがなす角度を表し、φは、球座標系においてX軸の正方向と、放射方向のX−Y平面上への射影とがなす角度を表す。
【0004】
遠距離電磁界放射における電磁波の電界ベクトルは2つの直線偏波成分Eθ及びEφから成り、これらは互いに直交する。Eθの方向を縦軸にとり、Eφの方向を横軸にとることによって、局所平面の直交座標系が形成される。この座標面は放射方向(θ,φ)に直交する。1つの時間サイクル中の任意の瞬時にEθ及びEφの変化に応じて電界ベクトルが局所平面の直交座標系内にマッピング(写像)される場合には、この電界ベクトルの終点は時間と共に変化し、この局所平面の直交座標系の原点の周りを回転する。従って、その回転軌跡(トレース)は閉じたパターンを描き、このパターンが方向(θ,φ)におけるアンテナの偏波特性を表す。このパターンをアンテナの偏波パターンと称する。この回転は左向きと右向きとに分類され、偏波も左と右とに分類される。
【0005】
通常、アンテナの偏波パターンは楕円形であり、これに対応してその偏波を楕円偏波と称する。楕円偏波は、電界ベクトルの終点の軌跡の回転方向に応じて左楕円偏波及び右楕円偏波とすることができる。楕円は長軸及び短軸を有する。その軸比(AR:Axis Ratio)は一般に長軸と短軸との比率として定義され、異なる形状を有する楕円偏波は異なるAR値を有する。これらの長軸及び短軸は一般に、上記局所平面の直交座標系上に置かれない。この場合には、楕円の長軸と局所平面の直交座標系における縦軸Eθの正方向との間の内角を、上記放射方向における楕円偏波の傾斜(チルト)角と称する。
【0006】
電界ベクトルの2つの直線成分EθとEφとが同じ振幅であるが+90°または-90°の位相差を有する際には、アンテナの偏波パターンは円形であり、対応する偏波を円偏波と称する。円偏波は左円偏波及び右円偏波とすることができる。円の長軸と短軸とは等しいので、円偏波のAR値は1または0dBである。
【0007】
電界の2つの直線成分Eθ及びEφが0の振幅を有するか、これら2つの線分が等しい位相を有する際には、アンテナの偏波パターンは線分であり、対応する偏波は直線偏波である。線分の短軸は0であるので、直線偏波のAR値は無限大である。この線分と局所平面の直交座標系の縦軸Eθの正方向との間の内角が、上記放射方向における直線偏波の傾斜角である。傾斜角が0°である際には、対応する偏波は水平直線偏波である。
【0008】
アンテナの偏波特性を調査する際には、観測する放射方向についての偏波の種類(楕円、円、または直線偏波)を知る必要がある。楕円偏波を判定した際には、その回転方向(左偏波または右偏波)、傾斜角、及びAR値をさらに知る必要がある。円偏波を判定した際には、円偏波の回転方向(左偏波または右偏波)をさらに知る必要がある。直線偏波の際にも、直線偏波の傾斜角をさらに知る必要がある。一般的に言えば、上記放射方向におけるアンテナの偏波状態は、観測した放射方向における上述した偏波情報をもとに知ることができる。
【0009】
【非特許文献1】Wolfgang-Martin Boerner, Wei-Ling Yan, An-Qing Xi and Yoshio Yamaguchi: “On the basic principles of radar polarimetry the target characteristic polarization state theory of Kennaugh, Huynen’s polarization fork concept, and its extension to the partially polarized case”, Proceeding of the IEEE Vol. 79, No. 10, 1991年10月
【非特許文献2】Harry Mieras: “Optimal polarizations of simple compound targets”, IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Vol. 31, No. 6, 1983年11月, 996〜999ページ
【非特許文献3】Georges A. Deschamps and P. Edward Mast: “Poincare sphere representation of partially polarized field”, IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Vol. 21, No. 4, 1973年7月, 474〜778ページ
【非特許文献4】George H. Knittle: “The polarization sphere as graphical aid in determining the polarization of an antenna by amplitude measurements only”, IEEE Transactions on Antenna and Propagation, Vol. 15, No. 2, 1967年3月, 217〜221ページ
【0010】
従来技術では、所定放射方向におけるアンテナの偏波情報を記録するために、ポアンカレ球がしばしば用いられている。ポアンカレ球は、異なる傾斜角及びAR値を有する偏波状態を区別することはできるが、アンテナの偏波特性が放射方向と共に変化する様子を反映した情報は表現することができない。Wolfgang-Martin Boerner、Wei-Ling Yan、An-Qing Xi、及びYoshio Yamaguchiが“On the basic principles of radar polarimetry the target characteristic polarization state theory of Kennaugh, Huynen’s polarization fork concept, and its extension to the partially polarized case”, Proceeding of the IEEE Vol. 79, No. 10, 1991年10月において提案する方法によれば、ポアンカレ球の表面を複素平面上に投影し、これにより球面全体を平面上に表示しマッピングすることができる。Harry Mierasが“Optimal polarizations of simple compound targets”, IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Vol. 31, No. 6, 1983年11月, 996〜999ページにおいて提案する他の方法によれば、ポアンカレ球の等面積射影を用いて偏波を表示している。Georges A. Deschamps及びP. Edward Mastは、球内部の複数の点を導入して部分偏波状態を表現することによってポアンカレ球の表現を改良し、これについては“Poincare sphere representation of partially polarized field”, IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Vol. 21, No. 4, 1973年7月, 474〜778ページに記載されている。George H. Knittleが“The polarization sphere as graphical aid in determining the polarization of an antenna by amplitude measurements only”, IEEE Transactions on Antenna and Propagation, Vol. 15, No. 2, 1967年3月, 217〜221ページにおいて提案する方法によれば、複数の偏波図を導入し、これらの図はポアンカレ球の立体投影である。
【0011】
上述した方法はポアンカレ球の表現能力を拡張及び改善し、ポアンカレ球の表現能力を実験方法及び測定方法に組み入れることを可能にしたが、これらの方法は完全な偏波情報を提供することができず、これらの表示方法の一部は、結果を印刷媒体上に明快に1つの図で表現することを不便にする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、各放射方向におけるアンテナの完全な偏波情報を提供することを可能にする、アンテナの偏波表示の方法及び装置を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、各放射方向におけるアンテナの完全な偏波情報を1つの図のみで提供することを可能にする、アンテナの偏波表示の方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的を達成するために、本発明によれば、アンテナの偏波表示方法が提供され、この方法は次のステップを具えている:
(a) アンテナの放射方向から複数の所定放射方向を選択するステップ;
(b) 前記複数の所定放射方向を座標図中にマッピングするステップ;
(c) 前記複数の所定放射方向における前記アンテナの放射データを取得するステップ;
(d) 前記放射データに応じて、前記複数の所定放射方向における前記アンテナの偏波パターンを前記座標図上にプロットするステップ。
【0015】
上述した本発明の目的を果たすために、本発明によれば、アンテナの偏波表示装置が提供され、この装置は:
アンテナの放射方向から複数の所定放射方向を選択する選択手段と;
前記複数の所定放射方向を座標図中にマッピングするマッピング手段と;
前記複数の所定放射方向における前記アンテナの放射データを取得する取得手段と;
前記放射データに応じて、前記複数の所定放射方向における前記アンテナの偏波パターンを前記座標図上にプロットするプロット手段と
を具えている。
【0016】
以下の図面を参照した説明及び請求項の記載を参照することによって、本発明の他の目的が明らかになると共に、本発明をより完全に理解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
すべての図面を通して、同じ参照番号は同様または対応する特徴または機能を参照する。
【0018】
(実施例の詳細な説明)
本発明が提案するアンテナの偏波表示方法によれば、アンテナの放射方向から複数の放射方向をサンプル方向として選択し、これらのサンプル方向毎に遠距離電界のデータを取得する。そして、選択したサンプル方向を、二次元平面直角図または球面図上の対応する複数のマップ点にマッピングする。その後に、各サンプル方向における遠距離電界に応じて、各サンプル方向に放射される遠距離電界の偏波パターンを、上記二次元平面直角図または球面図内の対応するマップ点を中心としてプロットすることができる。本発明によるアンテナの偏波表示方法は、コンピュータのソフトウェアプログラムのみによって実行することができ、あるいは、従来のアンテナのシミュレーションテスト・ソフトウェアに組み込むことができる。
【0019】
以下、本発明によるアンテナの偏波表示方法について、図2及び図3を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
発明の背景において示したように、放射方向(θ,φ)におけるアンテナの電界は、互いに直交する2つの直線偏波成分Eθ及びEφから成る。1つの時間サイクル中の、これら2つの成分によって合成されるベクトルの終点の軌跡が、この放射方向におけるアンテナの偏波パターンである。
【0021】
図2に、特定放射方向(θ,φ)におけるアンテナの偏波成分Eθ及びEφ、及びこれに対応する偏波パターンを示す。図2では、aは偏波楕円の半長軸(長軸の半分)を表し、bは偏波楕円の半短軸(短軸の半分)を表し、a/bは偏波楕円の軸比を表し、そして偏波楕円の軌跡が太線から細線に変わる向きが電界ベクトルの回転方向を表す。
【0022】
図2を参照すれば、偏波パターンの形状が楕円形であるか、円形であるか、あるいは線分であるかに応じて、放射方向(θ,φ)においてアンテナが楕円偏波するか、円偏波するか、あるいは直線偏波するかを判定することができる。さらに、偏波楕円の軌跡が太線から細線に変わる向きが時計回りであるか反時計回りであるかにより、放射方向(θ,φ)におけるアンテナの偏波方向が左向きであるか右向きであるかを判定することができる。半長軸aと縦軸の正方向(Eθの正方向)との間の内角により、放射方向(θ,φ)におけるアンテナの偏波の傾斜角を測定することができる。偏波パターンのサイズにより、放射方向(θ,φ)におけるアンテナの放射電界強度を測定することができる。さらに、放射方向(θ,φ)におけるアンテナの放射電界強度が弱く、偏波の種類を区別するためには偏波パターンが小さ過ぎる際には、AR値の表示を利用して偏波の種類を判定することができる。以上の説明より、あらゆる放射方向におけるアンテナの完全な偏波情報を、偏波パターンから、そして必要な際にAR値を利用して得ることができることがわかる。
【0023】
すべての放射方向におけるアンテナの完全な偏波情報を得る必要がある際には、アンテナのすべての放射方向から複数の放射方向をサンプル方向として選択する。そして、これらのサンプル方向におけるEθ及びEφ成分の絶対値及び位相のような遠距離電界データを、例えばシミュレーションソフトウェアを用いてアンテナのシミュレーションを行うことによって取得する。これらのサンプル方向を、二次元平面直角図または球面図上の対応する点にマッピングする。最後に、各サンプル方向において取得した遠距離電界データに応じて、偏波パターンを、二次元平面直角図または球面図中の上記対応する点を中心とした局所平面の直交座標系内にプロットする。
【0024】
図3に、本発明による、アンテナの偏波特性を表現するための二次元平面直角図を示し、縦軸は0°から180°までの範囲のθ軸であり、横軸は0°から360°までのφ軸である。
【0025】
サンプル方向の選択は、実際に必要な表示解像度に応じて行うことができ、例えば10°おきのθ及びφを有する放射方向をサンプル方向として選択することができる。より鮮明な表示の必要がある際には、放射方向は5°おきにサンプル方向として選択することができる。
【0026】
本発明によるアンテナの偏波表示方法を用いて、各サンプル方向におけるアンテナの偏波パターンを二次元平面直角図または球面図上にプロットした後に、関心のある放射方向においてアンテナが示している偏波の種類(楕円、円、または直線偏波)を観測を通して直接判定することが、技術者にとって役に立つ。関心のある放射方向においてアンテナが楕円または円偏波を示す際には、偏波の軌跡が太線から細線へと次第に変化する向きにより、関心のある放射方向におけるアンテナの偏波の向きが左向きであるか右向きであるかを、さらに判定することができる。アンテナが直線偏波を示す際には、偏波の線分と座標軸との位置関係に応じて、関心のある方向におけるアンテナの偏波が水平偏波であるか垂直偏波であるかを判定することができる。アンテナが楕円偏波または直線偏波である際には、偏波パターンの長軸と座標軸との間の内角により、関心のある放射方向におけるアンテナの偏波の傾斜角を測定することができる。さらに、関心のある放射方向におけるアンテナの放射電界強度を、偏波パターンの異なるサイズにより測定することができる。
【0027】
以上の説明より、本発明は、偏波パターンを通して、1つの図、即ち二次元平面直角図または球面図のみで、あらゆる放射方向におけるアンテナの完全な偏波情報を提供することができる。従って、本発明によるアンテナの偏波表示方法は種々の印刷媒体に適している。
【0028】
以下、本発明による、アンテナの偏波を二次元平面に表示する方法の詳細な説明を、3つの周知のアンテナ構造を例として取り上げることによって、図4〜12を参照しながら説明する。
【0029】
I.直線偏波を有するダイポールアンテナ
図4に、直線偏波特性を有するダイポールアンテナを示す。図4に示すように、このダイポールアンテナは半波長ダイポールであり、150nmの長さ及び1mmの半径を有する。このダイポールアンテナは幅2mmのギャップをその中心に有し、信号はこのギャップを通してダイポールアンテナに供給される。このアンテナの共振周波数は927MHzである。このダイポールアンテナの中心は球面座標系の原点に位置し、ダイポールアンテナと座標系の3つの座標軸x、y及びzとの間の内角は45°である。
【0030】
図5に、既存のアンテナ・シミュレーションソフトウェアを用いることによって得られた、上記ダイポールアンテナの三次元放射パターンを示す。図5に示すように、上記ダイポールアンテナは通常のダイポールの典型的なドーナツ形放射パターンを示し、即ち、ダイポールアンテナの長手方向の2端に沿った放射方向が最も弱い電界強度を有し、アンテナに直交する放射方向が最強の電界強度を有する。
【0031】
図6に、いくつかのサンプル方向における上記ダイポールアンテナの偏波パターンを、上述した本発明の方法による二次元平面直角図中に示し、この二次元平面直角図の縦軸は軸θであり、横軸は軸φである。偏波パターンのプロットはコンピュータを利用して行うことができる。
【0032】
図6に示す偏波パターンを得た後に、当業者は容易に、上記ダイポールアンテナが直線偏波することを判定することができる、というのは、すべての放射方向におけるこのダイポールアンテナの偏波パターンはおよそ線分に近いからである。さらに、図6から、(θ,φ)が(45°,45°)及び(135°,230°)である2つの点に近い領域内では、即ち、ダイポールアンテナの上記2端に沿った放射方向付近では、上記線分が小さいサイズを有することがわかる。他の領域内の線分は大きいサイズを有し、従って、ダイポールアンテナの長手方向の2端に沿った放射方向ではダイポールアンテナが弱い放射電界強度を有し、他の方向では強い放射電界強度を有し、このことは図5のドーナツ形パターンによって示されるアンテナの放射特性によるものである。図6に示す各線分と座標軸との位置関係より、各放射方向におけるアンテナの直線偏波の傾斜角を測定することができる。図6は、13.7019dBの最小AR値及び57.3308dBの最大AR値を有する2つの放射方向も示す。これら2つの放射方向のAR値を参照して、すべての放射方向における上記ダイポールアンテナのAR値の分布をおよそ推定することができる。
【0033】
以上の説明より、図6に示す二次元平面直角図中の偏波パターンは、技術者が各放射方向におけるダイポールアンテナの偏波の種類、偏波の傾斜角、及びAR値を容易に得ることに役立つことができることがわかる。
【0034】
II.円偏波を有するパッチアンテナ
図7に、円偏波を有する一般的なパッチアンテナを示し、このパッチアンテナは、座標系の原点を中心とする球面座標系のZ−Y平面内に位置する。
【0035】
図8に、既存のアンテナ・シミュレーションソフトウェアを用いることによって得られたパッチアンテナの三次元放射パターンを示す。図8より、上記パッチアンテナは、パッチの前方の放射方向ではより強い放射電界強度を有し、パッチの後方の放射方向では非常に弱い放射電界強度を有することがわかる。
【0036】
図9に、いくつかのサンプル方向におけるパッチアンテナの偏波パターンを、本発明のアンテナの偏波表示方法による二次元平面直角図中にプロットして示し、二次元平面直角図の縦軸は軸θであり、横軸は軸φである。偏波パターンのプロットはコンピュータを利用して実行することができる。
【0037】
図9の偏波パターンを得た後に、上記パッチアンテナが各放射方向において円に近い偏波パターンを有することがわかり、これにより、技術者はこのアンテナが円偏波であることがわかる。図9によれば、これらの円はパッチアンテナのパッチの後方の放射方向において、即ち、(θ,φ)が(90°,180°)である点付近の領域内で小さいサイズを有することがわかる。他の領域内では、特にパッチアンテナのパッチ前方の放射方向では、これらの円は大きいサイズを有する。このことに基づいて、上記パッチアンテナが、そのパッチの前方の放射方向では強い放射電界強度を有し、そのパッチの後方の放射方向では弱い電界強度を有することがわかり、このことは、図8の三次元放射パターンに示すアンテナの放射特性によるものである。図9より、円毎の軌跡は反時計回りに太線から細線へと次第に変化していることがわかる。こうして、上記パッチアンテナはすべての放射方向において右円偏波を有することを判定することができる。図9はさらに、0.094717dBの最小AR値及び19.2891dBの最大AR値を有する2つの放射方向を示す。これら2つの放射方向のAR値を参照して、各放射方向におけるアンテナのAR値の分布をおよそ推定することができる。
【0038】
以上の説明によれば、図9に示す二次元平面直角図中の偏波パターンは、各放射方向におけるパッチアンテナの偏波の種類、偏波の向き、及びAR値を容易に得ることに役立つことができることがわかる。
【0039】
III.複雑な偏波を有するPIFA
一般的な直線偏波及び円偏波のアンテナの他に、大部分のアンテナは一般に複雑な偏波特性を有する。
【0040】
【非特許文献5】Huynh, M.-C.; Stutzman, W.: “Ground plane effects on planar inverted-F antenna (PIFA) performance”, Microwaves, Antennas and Propagation, IEEE Proceedings-, Vol. 150, No. 4, 2003年8月8日, 209〜213ページ
【0041】
図10に、複雑な偏波特性を有するPIFA(Planar Inverted-F Antenna:板状逆Fアンテナ)の構造を示す。図10に示すように、このPIFAは、100mm×100mmの接地面の中心に実装された20mm×20mmのプレート(平板)を有する。プレートと接地面との間の垂直距離は10mmである。このPIFAは、Huynh, M.-C.; Stutzman, W.が“Ground plane effects on planar inverted-F antenna (PIFA) performance”, Microwaves, Antennas and Propagation, IEEE Proceedings-, Vol. 150, No. 4, 2003年8月8日, 209〜213ページに記載したアンテナモデルと同様の構造を有する。
【0042】
図11に、既存のアンテナ・シミュレーションソフトウェアを用いることによって得られたPIFAの放射パターンを示す。図11より、このPIFAの各放射方向における放射電界強度の分布がわかる。
【0043】
図12に、複数のサンプル方向における上記PIFAの偏波パターンを、上述した本発明のアンテナの偏波表示方法による二次元平面直角図にプロットして示し、二次元平面直角図の縦軸は軸θであり、横軸は軸φである。偏波パターンのプロットはコンピュータを利用して実行することができる。
【0044】
図12の偏波パターンを得た後に、上記PIFAの偏波パターンは、円に近いパターン、直線に近いパターン、及び楕円パターンを含むことがわかる。従って、技術者は、このPIFAが複雑な偏波特性を有することを判定することができる。図12に示すように、この偏波パターンは、(θ,φ)が(90°,180°)及び(90°,0°)である方向に近い領域内では小さいサイズを有し、他の方向では大きいサイズを有する。このことに基づき、このPIFAはこれら2つの放射方向では弱い放射電界強度を有し、他の放射方向では強い放射電界強度を有することを判定することができ、このことは図11の放射パターンによるものである。図12に示すように、10°<φ<120°の放射方向では、上記PIFAの偏波パターンは主に円形及び楕円形として示され、これらの円形及び楕円形の軌跡は時計回りに太線から細線へと次第に変化していることがわかる。240°<φ<350°の放射方向でも、上記PIFAの偏波パターンは主に円形及び楕円形として示され、これらの円形及び楕円形の軌跡は反時計回りに太線から細線へと次第に変化していることがわかる。このことに基づき、上記PIFAは左円偏波及び左楕円偏波、並びに右円偏波及び右楕円偏波を有することを判定することができる。図12に示す各楕円の向きにより、アンテナの楕円偏波毎の傾斜角を測定することができる。図12より、上記PIFAの偏波パターンは、120°<φ<240°の放射方向では主に線分として示され、従って、アンテナの各直線偏波の傾斜角は、座標軸に対する各線分の配置により測定することができる。図12はさらに、0.15dBの最小AR値及び38.82dBの最大AR値を有する2つの放射方向を示す。これら2つの放射方向のAR値を参照して、各放射方向におけるアンテナのAR値の分布をおよそ推定することができる。
【0045】
以上の説明に基づき、図12に示す二次元平面直角図中の偏波パターンは、技術者が各放射方向におけるPIFAアンテナの偏波の種類、偏波の向き、偏波の傾斜角、及びAR値を容易に得ることに役立つことができることがわかる。
【0046】
以下、本発明による、アンテナの偏波を球面図に表示する方法の詳細な説明を、3つの周知のアンテナ構造を例として取り上げることによって、図13〜15を参照しながら説明する。
【0047】
I.直線偏波を有するダイポールアンテナ
図13に、本発明の他の実施例による、ダイポールアンテナのすべての偏波特性の球面図上への表示結果を示し、このダイポールアンテナは、球座標系の原点を中心として、球座標系のZ軸に沿って配置されている。
【0048】
図13の偏波パターンを得た後に、技術者は上記ダイポールアンテナが直線偏波のアンテナであることを判定することができる、というのは、すべての放射方向における上記ダイポールアンテナの偏波パターンがおよそ線分として示されているからである。すべての線分が球の経線に平行であるので、上記ダイポールアンテナの放射電界は垂直偏波として示されている。さらに、図13より、これらの線分は、θが90°に等しい球の赤道付近で最長であることがわかる。このことに基づき、上記ダイポールアンテナは球の赤道付近の放射方向において最強の放射電界強度を有することを判定することができ、このことは、このアンテナのドーナツ形放射パターンの特徴である。図13はさらに、球の極点における2.91dBのAR値、及び赤道とX軸との交点における22.7dBのAR値を示している。これら2つのAR値を参照して、各放射方向におけるこのダイポールアンテナのAR値の分布をおよそ推定することができる。
【0049】
以上の説明より、図13に示す球面図中の偏波パターンは、技術者が各放射方向におけるダイポールアンテナのすべての偏波情報を容易に得ることに役立つことができることがわかる。
【0050】
II.円偏波を有するパッチアンテナ
図14に、本発明の他の実施例による、パッチアンテナのすべての偏波特性の球面図上への表示結果を示し、このパッチアンテナの配置及びその三次元パターンは、それぞれ図7及び図8を参照することができる。
【0051】
図14の偏波パターンを得た後に、各放射方向における上記パッチアンテナの偏波パターンは円形として示されていることがわかり、これにより、技術者は上記パッチアンテナが円偏波のアンテナであることを判定することができる。図14では、円毎の軌跡が半時計回りに太線から細線へと次第に変化していることがわかり、従って、上記パッチアンテナが右円偏波のアンテナであることを判定することができる。さらに、図14より、球座標系のX軸の正方向ではこれらの円が大きいサイズを有することがわかり、従って、上記パッチアンテナはX軸に沿って強い放射電界強度を有することを判定することができ、このことは、図8の三次元放射パターンが示すアンテナ特性によるものである。図14はさらに、球の極点における0.104dBのAR値、及び赤道上のX軸付近の2.51dBのAR値を示している。これら2つのAR値を参照して、各放射方向における上記パッチアンテナのAR値の分布をおよそ推定することができる。
【0052】
以上の説明より、図14に示す球面図中の偏波パターンは、技術者が各放射方向におけるパッチアンテナのすべての偏波情報を容易に得ることに役立つことができることがわかる。
【0053】
III.複雑な偏波を有するPIFA
図15に、本発明の他の実施例による、PIFAのすべての偏波特性の球面図上への表示結果を示す。
【0054】
図15の偏波パターンを得た後に、上記PIFAの偏波パターンは、円に近いパターン、直線に近いパターン、及び楕円パターンを含むことがわかる。これにより、技術者は上記PIFAが、純粋な円偏波、直線偏波、または楕円偏波ではない複雑な偏波特性を有することを判定することができる。さらに、図15より、上記PIFAアンテナは、球座標系のX−Y平面の放射方向では非常に高いAR値を有する垂直直線偏波を有し、上記PIFAアンテナの偏波は、球座標系のX−Z平面の放射方向では水平偏波の傾向があることがわかる。さらに、図15より、上記PIFAは、球座標系のX−Z面のX軸付近の放射方向において最強の放射電界強度を有することを判定することができる。図15はさらに、球の極点における24.59dBのAR値、X軸付近の28.29dBのAR値、及びY軸における7.10dBのAR値を示している。これら3つのAR値を参照して、各放射方向におけるこのPIFAアンテナのAR値の分布をおよそ推定することができる。
【0055】
以上の説明より、図15に示す球面図中の偏波パターンは、技術者が各放射方向におけるPIFAアンテナのすべての偏波情報を容易に得ることに役立つことができることがわかる。
【0056】
上述した本発明によるアンテナの偏波表示方法は、ソフトウェア、またはハードウェア、あるいは両者の組合せで実現することができる。この方法は、印刷媒体または印刷工程に応用することができ、あるいはまた、ソフトウェアを用いることによってコンピュータ上で実現し表示することができる。
【0057】
図16に、本発明によるアンテナの偏波表示方法をハードウェアで実現する際の、対応する機能モジュールを示す。選択ユニット11は、アンテナの放射方向から複数のサンプル方向を表示解像度の要求に応じて選択して、マッピングユニット12及びデータ取得ユニット13に報告するように動作する。マッピングユニット12は、上記複数のサンプル方向を、二次元平面直角図または球面図中の対応する点にマッピングする。データ取得ユニット13は、既存のシミュレーションソフトウェアを用いることによって、上記複数のサンプル方向におけるアンテナの遠距離電界データを取得し、プロット手段14は、データ取得ユニット13から送信される上記遠距離電界データに基づいて、上記複数のサンプル方向におけるアンテナの偏波パターンを二次元平面直角図または球面図上にプロットする。
【0058】
本発明の実施例についての図面を参照した詳細な説明より、上記偏波パターンは、各放射方向におけるアンテナの偏波の種類、偏波の向き、偏波の傾斜角、及びAR値を提供することができることがわかる。従って、従来技術に比べれば、本発明によるアンテナの偏波表示方法は、各放射方向におけるアンテナのすべての偏波情報を提供することができる。
【0059】
さらに、本発明によるアンテナの偏波表示方法では、アンテナのすべての放射方向から複数の放射方向をサンプル方向として選択し、各サンプル方向における遠距離電界データを取得し、各サンプル方向を、二次元平面直角図または球面図中の対応する点にマッピングし、そして、各サンプル方向における遠距離電界データに基づいて、各サンプル方向における偏波パターンを、上記二次元平面直角図または球面図中の対応するマッピング点を中心としてプロットする。従来技術に比べれば、本発明によるアンテナの偏波表示方法は1つの図、即ち1つの二次元平面直角図または球面図のみを用いて、各放射方向におけるアンテナのすべての偏波情報を提供する。
【0060】
請求項にその範囲を規定する本発明の原理から逸脱することなしに、本発明に開示したアンテナの偏波表示方法及び装置に種々の改良及び変形を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】球座標系における放射方向(θ,φ)の位置関係を示す図である。
【図2】所定放射方向(θ,φ)におけるアンテナの2つの電界線分Eθ及びEφについての、対応する偏波パターンの時間領域波形を示す図である。
【図3】本発明による、アンテナの完全な偏波情報を表現するための二次元平面直角図である。
【図4】直線偏波特性を有するダイポールアンテナの構造を示す図である。
【図5】図4に示すダイポールアンテナの三次元放射パターンを示す図である。
【図6】本発明による二次元平面直角図における、図4のダイポールアンテナの完全な偏波特性の表示結果を示す図である。
【図7】円偏波特性を有するパッチアンテナの構造を示す図である。
【図8】図7のパッチアンテナの三次元放射パターンを示す図である。
【図9】本発明による二次元平面直角図における、図7のパッチアンテナの完全な偏波特性の表示結果を示す図である。
【図10】複雑な偏波特性を有する板状逆Fアンテナ(PIFA)の構造を示す図である。
【図11】図10のPIFAの三次元放射パターンを示す図である。
【図12】本発明による二次元平面直角図における、図10のPIFAの完全な偏波特性の表示結果を示す図である
【図13】本発明の他の実施例による球面図上の、ダイポールアンテナの完全な偏波特性の表示結果を示す図である。
【図14】本発明の他の実施例による球面図上の、パッチアンテナの完全な偏波特性の表示結果を示す図である。
【図15】本発明の他の実施例による球面図上の、PIFAの完全な偏波特性の表示結果を示す図である。
【図16】本発明によるアンテナの偏波表示方法に対応する機能モジュールを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) アンテナの放射方向から複数の所定放射方向を選択するステップと;
(b) 前記複数の所定放射方向を座標図中にマッピングするステップと;
(c) 前記複数の所定放射方向における前記アンテナの放射データを取得するステップと;
(d) 前記放射データに応じて、前記複数の所定放射方向における前記アンテナの偏波パターンを前記座標図上にプロットするステップと
を具えていることを特徴とするアンテナの偏波表示方法。
【請求項2】
さらに、
前記複数の所定放射方向の1つにおいて、前記アンテナが楕円偏波または円偏波する場合に、当該放射方向における前記偏波パターンの軌跡を、当該放射方向における前記アンテナの電界ベクトルの回転方向に沿って太線から細線へと次第に変化するようにプロットするステップを具えていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナの偏波表示方法。
【請求項3】
前記座標図が平面座標図であり、前記複数の所定放射方向を、前記平面座標図上の対応する複数の点にマッピングすることを特徴とする請求項2に記載のアンテナの偏波表示方法。
【請求項4】
ステップ(b)において、前記座標図が球座標図であり、前記複数の所定放射方向を、前記球座標図上の対応する複数の点にマッピングすることを特徴とする請求項2に記載のアンテナの偏波表示方法。
【請求項5】
ステップ(d)において、前記対応する複数の点の各々を中心にとることによって、前記偏波パターンをプロットすることを特徴とする請求項3または4に記載のアンテナの偏波表示方法。
【請求項6】
ステップ(c)において、前記放射データが、電界成分の絶対値及び位相から成ることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアンテナの偏波表示方法。
【請求項7】
アンテナの放射方向から複数の所定放射方向を選択する選択手段と;
前記複数の所定放射方向を座標図中にマッピングするマッピング手段と;
前記複数の所定放射方向における前記アンテナの放射データを取得する取得手段と;
前記放射データに応じて、前記複数の所定放射方向における前記アンテナの偏波パターンを前記座標図上にプロットするプロット手段と
を具えていることを特徴とするアンテナの偏波表示装置。
【請求項8】
前記複数の所定放射方向の1つにおいて、前記アンテナが楕円偏波または円偏波する際に、前記プロット手段が、当該放射方向における前記偏波パターンの軌跡を、当該放射方向における前記アンテナの電界ベクトルの回転方向に沿って太線から細線へと次第に変化するようにプロットすることを特徴とする請求項7に記載のアンテナの偏波表示装置。
【請求項9】
前記座標図が平面座標図であり、前記マッピング手段が、前記複数の所定放射方向を、前記平面座標図上の対応する複数の点にマッピングすることを特徴とする請求項8に記載のアンテナの偏波表示装置。
【請求項10】
前記座標図が球座標図であり、前記マッピング手段が、前記複数の所定放射方向を、前記球座標図上の対応する複数の点にマッピングすることを特徴とする請求項8に記載のアンテナの偏波表示装置。
【請求項11】
前記プロット手段が、前記対応する複数の点の各々を中心にとることによって、前記偏波パターンをプロットすることを特徴とする請求項9または10に記載のアンテナの偏波表示装置。
【請求項12】
前記放射データが、電界成分の絶対値及び位相から成ることを特徴とする請求項7に記載のアンテナの偏波表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2009−509157(P2009−509157A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531838(P2008−531838)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際出願番号】PCT/IB2006/053272
【国際公開番号】WO2007/034380
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(507219491)エヌエックスピー ビー ヴィ (657)
【Fターム(参考)】