アンテナを備えた暖簾及びそれを用いた移動情報処理システム
【課題】本発明は、無線IDタグの所持者が通過する際に正確にIDデータを読み取ることができるアンテナを備えた暖簾及びそれを用いた移動情報処理システムを提供することを目的とするものである。
【解決手段】暖簾1は、人が通過するスリットSが形成された布体2を備え、布体2には複数のアンテナ線3がスリットSに沿って所定間隔を空けて密着保持されている。各アンテナ線3は、配線コード4を介して読取装置5に接続されている。そして、アンテナ線3で受信された無線IDタグからの信号は読取装置5に入力されてIDデータが読み取られる。読み取られたIDデータは、読取位置情報とともに読取装置5から情報処理装置6に無線通信により送信される。情報処理装置6では、後述するように、送信されたIDデータ及び読取位置情報を格納するとともに最新位置情報及び入退室情報を作成する。
【解決手段】暖簾1は、人が通過するスリットSが形成された布体2を備え、布体2には複数のアンテナ線3がスリットSに沿って所定間隔を空けて密着保持されている。各アンテナ線3は、配線コード4を介して読取装置5に接続されている。そして、アンテナ線3で受信された無線IDタグからの信号は読取装置5に入力されてIDデータが読み取られる。読み取られたIDデータは、読取位置情報とともに読取装置5から情報処理装置6に無線通信により送信される。情報処理装置6では、後述するように、送信されたIDデータ及び読取位置情報を格納するとともに最新位置情報及び入退室情報を作成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFID等の無線IDタグを検知するアンテナを備えた布製の暖簾及びそれを用いた移動情報処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年RFID等の無線IDタグの小型化が進み、無線IDタグを様々な移動体に取り付けて識別するシステムが開発されている。無線IDタグを認識するためには、無線IDタグとの間で情報を送受信するためのアンテナが必要となる。
【0003】
無線IDタグの小型化により移動体に対する取付位置の制約が少なくなり、例えば人間に取り付ける場合でも衣服、身の回り品、所持品といった既存の身に付ける物に無線IDタグを取り付けて人間の識別や位置認識が可能となっている。そのため、無線IDタグと送受信するアンテナについても人間が移動する際に無線IDタグに近接する様々な既存の物品に取り付けて、人間の移動を制約することなく自然な動作の中で識別や位置認識を行うことが望まれている。
【0004】
無線IDタグを用いた管理手法としては、例えば、特許文献1及び2では、入退室を検知する出入口にRFID受信用アンテナ及び赤外線検知装置を設け、赤外線検知装置により人体の通過を検知するとともに所持されたRFIDタグにより通過した保持者を特定して入退室を把握するようにした管理システムが記載されている。
【0005】
また、物品の識別管理手法としては、例えば、特許文献3及び4では、アンテナを備えた暖簾状のシート体に、IDタグを取り付けた物品を接触するように通過させることでIDタグをアンテナにより読み取るようにした点が記載されている。
【0006】
また、アンテナを備えた布地としては、例えば、特許文献5では、経糸として、ポリエステル繊維等からなる非電気的伝導性の糸を用い、緯糸として、金属繊維等からなる電気的伝導性の糸を用いて織成された織物アンテナが記載されている。また、特許文献6では、少なくとも一部又は全部に導電性を示す導電部を有する金銀糸と絶縁性を示す絹糸とによって構成した織物に、導電部の配置パターンにより形成される導電性領域及び絶縁性を有するスロットを具備するアンテナが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−028090号公報
【特許文献2】特開2003−021679号公報
【特許文献3】特開平11−301843号公報
【特許文献4】特開2009−290512号公報
【特許文献5】特開2008−546209号公報
【特許文献6】特開2009−044439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2に記載されているように、従来の入退室管理システムでは、RFIDタグの所持者を赤外線検知装置で通過検知する必要があり、また所持者から離れた位置に取り付けられたRFID受信用アンテナで検知するため、複数の所持者が近接した状態で通過する場合正確に所持者を特定できないおそれがある。
【0009】
特許文献3及び4に記載されているように、暖簾状のシート体にIDタグを取り付けた物品を接触するように通過させる場合には、物品が順次接触することで物品を正確に特定して読み取ることができるが、IDタグの所持者の通過を想定したものではない。
【0010】
また、特許文献5では金属繊維を用いているが、金属繊維は伸縮性に乏しく、合成繊維と組み合わせて織物にすると、合成繊維の伸縮に追随せずに断線したり、撓んでしまうといった欠点があり、アンテナの素材としてはそのまま用いることは難しい。特許文献6では、PETからなる基材にアルミニウムを蒸着した金銀糸を導電性糸に用いているが、金銀糸は断線しやすく電気抵抗が高いといった欠点がある。そして、金銀糸を捻れた状態で使用すると、捻れた部分では所定の方向からみて導電性を有する部分が不均一となるためアンテナ特性が一定しないといった問題がある。いずれにしても、RFID等の無線通信用のアンテナとして十分な性能を備えた布地とはいえない。
【0011】
そこで、本発明は、無線IDタグの所持者が通過する際に正確にIDデータを読み取ることができるアンテナを備えた暖簾及びそれを用いた移動情報処理システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る暖簾は、比誘電率が4以下の地糸により組織されるとともに人の通過するスリットが形成された布体と、芯糸に金属繊維をカバーリング加工した抵抗が5Ω/m〜15Ω/mの導電糸からなるとともに前記スリットに沿って所定間隔を空けて配列されて前記布体に密着保持された複数のアンテナ線とを備えていることを特徴とする。さらに、前記芯糸は、前記地糸と同一の糸を用いていることを特徴とする。さらに、前記アンテナ線は、前記布体の経糸方向及び/又は緯糸方向に挿入されて交差する地糸により保持されていることを特徴とする。さらに、前記アンテナ線は、当該アンテナ線に交差するように前記布体に縫い込まれた縫糸により保持されていることを特徴とする。さらに、前記アンテナ線は、前記スリットの形成方向と直交する方向に配置されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る移動情報処理システムは、建物内の複数箇所に取り付けられた請求項1から5のいずれかに記載の暖簾と、前記暖簾に保持された前記アンテナ線で受信した無線IDタグからの信号に基づいてIDデータを読み取る情報読取部と、読み取られた前記IDデータ及び読取位置情報に基づいてIDデータ別の移動情報を作成する情報処理部とを備えていることを特徴とする。さらに、前記情報処理部は、前記IDデータ及び読取位置情報に基づいてIDデータ別の入退室情報を作成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る暖簾は、上記のような構成を有することで、人の通過するスリットが形成された布体に対してスリットに沿って所定間隔を空けて配列して複数のアンテナ線を密着保持しているので、スリットの両側の布部分をかき分けるように無線IDタグの所持者が通過する際にスリットに沿う複数のアンテナ線が無線IDタグに近接するようになり、無線IDタグとアンテナ線の間で確実に無線通信を行うことができる。
【0015】
すなわち、人が暖簾をくぐる際にスリットの両側の布部分が人の両肩に掛かりながら滑るように接触するようになるが、アンテナ線をスリットに沿って複数配列した布部分が人の両肩に接触しながら滑るように移動するようになり、配列された複数のアンテナ線が順次人の前面部分及び肩部分に近接していくようになっていずれかのアンテナ線で受信することができる。
【0016】
また、スリットに沿ってアンテナ線が複数配列されているので、通過する人の身長に高低差がある場合でもアンテナ線を確実に無線IDタグに近接させることができる。
【0017】
また、比誘電率が4以下の地糸により組織される布体に対して抵抗が5Ω/m〜15Ω/mの導電糸からなるアンテナ線を密着保持させているので、絶縁体の地組織に低抵抗のアンテナ線を用いることで感度のよいアンテナとして使用することができる。
【0018】
また、アンテナ線として芯糸に金属繊維をカバーリング加工した導電糸を用いているので、アンテナ線が柔軟性及び伸縮性に優れたものとなり、地組織に密着保持させた状態で地組織が湾曲変形した場合でも地組織の変形に追従することができる。そして、金属線が芯糸に巻き付くようにカバーリング加工されているので、合成繊維からなる糸と同様の力学特性を有しており、アンテナ線が湾曲した場合でも断線することがなく、かつ金属繊維が撓むこともない。
【0019】
また、導電糸の芯糸を布体の地糸と同一の糸を用いることで、導電糸を地糸と同様の柔軟性及び伸縮性を持たせることができ、布体にアンテナ線を密着保持した状態で両者がずれることなく同じように変形させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る実施形態に関する斜視図である。
【図2】アンテナ線が配列された布地部分に関する部分拡大図である。
【図3】導電糸に関する一部拡大図である。
【図4】アンテナ線が織り込まれた場合に関する部分拡大図である。
【図5】アンテナ線が縫製された場合に関する部分拡大図である。
【図6】布体の別の作製方法に関する説明図である。
【図7】無線IDタグの所持者が暖簾を通過する場合の説明図である。
【図8】無線IDタグの所持者に関する正面図である。
【図9】移動情報処理システムに関するブロック構成図である。
【図10】移動情報に関する処理フローである。
【図11】移動情報をリスト表示した場合の表示例である。
【図12】移動情報をマップ表示した場合の表示例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0022】
図1は、本発明に係る実施形態に関する斜視図である。暖簾1は、人が通過するスリットSが形成された布体2を備えており、布体2には複数のアンテナ線3がスリットSに沿って所定間隔を空けて密着保持されている。各アンテナ線3は、配線コード4を介して読取装置5に接続されている。そして、アンテナ線3に無線IDタグが近接することで無線IDタグからアンテナ線3に受信された信号は読取装置5に入力され、受信したIDデータが読取装置5で読み取られる。読み取られたIDデータは、読取位置情報とともに読取装置5から情報処理装置6に無線通信により送信される。情報処理装置6では、後述するように、送信されたIDデータ及び読取位置情報を格納するとともに最新位置情報及び入退室情報を作成する。
【0023】
布体2は、図1では、スリットSだけ隙間を空けた2枚の布地の組合せで構成されているが、1枚の布地を下端から上部に向かって切り込みを入れることでスリットSを形成するようにしてもよい。
【0024】
布体2としては、通常の暖簾に使用される織物又は編物なる布地を用いればよく、布地を組織する地糸は、比誘電率が4以下の電気的に絶縁性のものが好ましい。具体的には、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)又はPBT(ポリブチレンテレフタレート)等のポリエステル系繊維、ナイロン(ポリアミド繊維)、アラミド(芳香族ポリアミド繊維)、ポリプロピレン又はポリエチレン等のポリオレフイン系繊維、アクリル等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の化学繊維、綿、麻、ウール又は絹等の天然繊維が挙げられる。また、これらの繊維を複数種類混合した複合繊維を用いてもよい。
【0025】
図2は、アンテナ線3がスリットSに沿って配列された布地部分に関する部分拡大図である。アンテナ線3は、スリットの形成方向と直交する方向に沿って直線状に配列された一対の導電糸3a及び3bを組み合せたダイポールアンテナ形状に設定されている。アンテナ線3を構成する導電糸3a及び3bの近接する端部は所定の間隔が空けられており、導電糸3a及び3bの離間する端部の間の間隔に基づいてアンテナの周波数特性が決定される。また、導電糸の対向する端部には直交する方向に別の導電糸が配列されて配線コード4の接続線3cとなっている。この例では、一方の接続線3cが導電糸3bに接続されずにそれに沿って平行に配列されている。接続線3cと導電糸3aとの間を電気的に接続する位置は、実際にアンテナ線3の特性を測定して最適位置を探索して決定する。なお、上述した導電糸の端部間の間隔は、導電糸の実際の長さではなく平面視での端部の間の直線距離である。
【0026】
アンテナ線3に用いる導電糸は、銅繊維、錫青銅繊維、ステンレス繊維等の金属繊維を芯糸の周囲にカバーリング加工したものである。芯糸としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)又はPBT(ポリブチレンテレフタレート)等のポリエステル系繊維、ナイロン(ポリアミド繊維)、アラミド(芳香族ポリアミド繊維)、ポリプロピレン又はポリエチレン等のポリオレフイン系繊維、アクリル等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の化学繊維、綿、麻、ウール又は絹等の天然繊維といった繊維からなる糸を用いるとよく、これらの繊維を複数種類混合した複合繊維からなる糸を用いてもよい。
【0027】
カバーリング加工としては、シングルカバーリング加工及びダブルカバーリング加工があり、図3には、芯糸30の周囲に金属繊維31を2重に巻き付けたダブルカバーリング加工を施した導電糸を示している。
【0028】
導電糸は、電気的に低抵抗のものが望ましく、電気抵抗が5Ω/m〜15Ω/mに設定するとよい。電気抵抗が15Ω/mを超えると、アンテナとしての感度が悪化する。
【0029】
導電糸の力学特性は、カバーリング加工する金属繊維の撚り数が3000T/m以上になると、芯糸とほぼ同じ特性を有するようになる。芯糸に金属繊維をカバーリング加工した導電糸をアンテナ線に用いることで、柔軟性及び伸縮性を有するアンテナ線3を得ることができ、布体2にアンテナ線3を密着保持した場合に布体2が湾曲又は伸縮しても、アンテナ線3が断線したりずれることなく布体2の変形に追従することが可能となる。
【0030】
図4は、二重織により織成された布体2にアンテナ線3を密着保持した場合の布地部分の拡大図である。アンテナ線3は、二重に織成された織地の上面側の織地に密着保持されている。アンテナ線3である導電糸が緯糸2aの間に配列されており、経糸2bが導電糸の上下に交互に交差して緯糸2aと同様に挟持されている。そのため、アンテナ線3が布体2に密着保持されて抜け落ちることはない。また、導電糸が柔軟性及び伸縮性を有しているため、布体2が変形してもそれに追従して変形することができ、断線等のトラブルが生じることはない。導電糸の芯糸として緯糸2aと同じものを使用すれば、導電糸の力学特性を経糸とほぼ同様に設定することができ、布体2の変形に対して導電糸がよりスムーズに追従することが可能となる。
【0031】
また、導電糸に対して経糸2bがほぼ等間隔で交差するため、交差する経糸2bの本数に基づいて密着保持する導電糸の長さを設定することが可能となる。したがって、布体2を織成する際に緯糸として導電糸を所定本数の経糸分だけ挿入して織成し、布体2の織成後に経糸により保持された分だけ残して導電糸を切断し、アンテナ線として用いるようにすることもできる。このようにアンテナ線を形成することで、導電糸の端部間の間隔を精度よく設定することができ、アンテナの感度を向上させることが可能となる。
【0032】
この例では、布体2が二重織により織成されているので、アンテナ線3の下面に電気的な絶縁性を有する織地が配設される構成となっており、アンテナ線3が導電体に接触することを防止するようになっている。
【0033】
なお、上述した例では、導電糸を緯糸方向に配列しているが、経糸方向に配列して保持することもでき、接続線3cのように経糸方向に配列して緯糸により保持するようにしてもよい。
【0034】
図5は、平織りにより織成された布体2に縫糸7によりアンテナ線3を密着保持した場合の布地部分の拡大図である。この場合には、布体2の表面にアンテナ線3を直線状に配置して接着剤等により固定し、ミシン等の縫製機を用いて縫糸7でアンテナ線3の両側に交互に縫い付けていき、アンテナ線3を布体2に密着保持するようにしている。
【0035】
アンテナ線3を縫製により固定する場合には、布体2として織物又は編物のいずれを用いてもよい。また、布体2に後付けでアンテナ線3を取り付けるので、縫い付けた導電糸の長さを測定しながらアンテナ線3の設定どおりの間隔となっているかチェックして取り付けることができ、アンテナ線3を布体2に対して精度よく固定することができる。なお、縫糸7の縫付間隔が等間隔に設定できる場合には、布体2に対する縫付回数に基づいてアンテナ線3の長さを設定することもできる。
【0036】
図6は、布体2の別の作製方法に関する説明図である。この例では、布体2となる布地20の片面側において、布地20の中心線Tで2つの半分の領域を画定して一方の領域のみに複数のアンテナ線3を所定間隔空けて配列して密着保持し、各アンテナ線3に接続する配線コード4を一方の領域に配置する(図6(a))。そして、中心線Tに沿って布地20を折り曲げて、アンテナ線3が設けられていない他方の領域の布地部分を一方の領域に重ね合わせてアンテナ線3及び配線コード4を布地20で覆うように設定して、布地20の周縁部を縫製して布体2を作製する。このようにアンテナ線3が布体2内部に密着保持されることで、アンテナ線3が不用意に導電体に接触することが防止され、アンテナ線3は無線IDタグとの間で確実に送受信を行うことができる。
【0037】
図7は、無線IDタグの所持者Mが暖簾1を通過する場合の説明図である。所持者Mは、図8に示すように、両肩部分に無線IDタグを取り付けたパッドM1及びM2を装着している。パッドM1及びM2には、複数の短冊状のRFIDタグが所定間隔を空けて配設されており、その長手方向が肩のラインに沿うように配列されて装着した状態ではできるだけ水平方向となるように設定されている。
【0038】
布体2を吊り下げた状態では、スリットSが垂直方向に設定されるためスリットSと直交するアンテナ線3はほぼ水平方向に設定されるようになる(図7(a))。そして、スリットSに向かって所持者Mが前進し、スリットSの両側の布地部分をかき分けるようにして暖簾1をくぐると、両側の布地部分が所持者Mの両肩部分に接触した状態となる(図7(b))。そのため、パッドM1及びM2に配設されたRFIDタグが接触する布地部分のアンテナ線3と近接した状態となる。そして、パッドM1及びM2に接触した布地部分は、所持者Mが前進するにつれてパッドM1及びM2に接触した状態で滑るように相対移動するようになり、アンテナ線3が順次パッドM1及びM2に配設されたRFIDタグに近接した状態に設定されるようになる。
【0039】
所持者Mによって身長の高低差があり、暖簾1の通り抜け動作についても各人各様であるが、スリットSに沿って複数のアンテナ線3を所定間隔を空けて配列しておくことで、通り抜け動作の際にいずれかのアンテナ線3がパッドM1及びM2のRFIDタグと受信可能な近接した状態に設定されて確実にRFIDタグからIDデータを読み取ることができるようになる。
【0040】
図9は、上述した暖簾を用いた移動情報処理システムに関するブロック構成図である。この例では、建物内の複数箇所に暖簾1及び読取装置5をn個設置している。例えば、介護施設の場合には、建物内の介護者の居室、トイレ、廊下、外部への出入り口等に設置する。
【0041】
読取装置51〜5nは、それぞれ読取部501〜50n及び送受信部511〜51nを備えており、各読取部50は、アンテナ線31〜3nで受信した信号からIDデータを読み取り、各送受信部51は、読取部50で読み取ったIDデータを読取位置情報とともに情報処理装置6に送信する。読取部50では、布体2に配列された複数のアンテナ線3に対して順次読み取り処理を行うスキャン方式によりIDデータを読み取る。なお、1回のスキャン中に同じIDデータを複数のアンテナ線3で読み取った場合には、1つのIDデータを読み取ったものとしてそのIDデータを情報処理装置6に送信すればよい。
【0042】
情報処理装置6は、情報処理部100、記憶部101及び表示部102を備えている。情報処理部100は、読取装置5から送信されるIDデータ及び読取位置情報を受信する送受信部100a、受信したIDデータ及び読取位置情報に基づいて移動情報を作成する移動情報処理部100b、及び、作成した移動情報を表示部102に表示するための処理を行う表示処理部100cを備えている。また、記憶部101は、受信したIDデータ及び読取位置情報、履歴情報、作成された移動情報等の情報処理に必要な情報を記憶する。表示部102では、移動情報のリスト表示、マップ表示等を行う。
【0043】
図10は、移動情報に関する処理フローである。この例では、移動情報として、最新位置情報及び入退室情報を作成する。まず、読取装置5からの受信データがあるかチェックし(S100)、受信データがある場合には、受信データに含まれるIDデータ及び読取位置情報を抽出して記憶部101に格納する(S101)。読取位置情報としては、例えば、読取装置5から送信される識別コードをそのまま格納してもよいし、読取装置5の識別コード及びそれに対応する位置データを予め記憶しておき、受信した識別コードに基づいて位置データを読取位置情報として格納するようにしてもよい。
【0044】
次に、受信したIDデータに対応する最新位置情報を記憶部101から読み出し(S102)、読み出した最新位置情報及び受信した読取位置情報から入退室情報を作成する(S103)。読み出した最新位置情報は、前回受信した読取位置情報であるので、前回の読取位置情報及び今回の読取位置情報を関連付けることで入退室情報を作成することができる。例えば、前回の読取位置情報の位置が居室で今回の読取位置がトイレの場合には、トイレの入室情報とすることができる。
【0045】
入退室情報を作成後最新位置情報を読取位置情報に更新する(S104)。なお、受信した読取位置情報は、IDデータ別に履歴情報として受信時刻とともに記憶しておく。
【0046】
そして、最新位置情報、入退室情報、履歴情報等に基づいて表示情報を作成する(S105)。例えば、図11に示すように、IDデータ別に時系列で入退室情報をリスト表示したり、図12に示すように、入退室情報に基づいて建物内部のレイアウトとともに移動した軌跡をマップ表示するようにしてもよい。また、各IDデータの最新位置情報を一覧表示するようにしてもよい。
【0047】
以上のように移動情報を表示することで、無線IDタグの所持者の現在位置、移動経路等を把握することができる。また、入退室に関しては、出入り口に一対の暖簾を通行方向に所定間隔を空けて吊り下げておき、各暖簾で読み取られたIDデータの時間差に応じて通行方向を決定することで入退室情報を作成するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る暖簾は、通常の暖簾と同様に柔軟性のある布体で組織されるとともに糸状のアンテナ線を布体に密着保持するようにしているので、通常の暖簾と遜色のない肌触り及びデザインを実現することができ、建物内の出入り口や廊下に吊り下げてもインテリア製品として違和感なく取り付けることが可能となる。
【0049】
また、読取装置及び暖簾をセットで簡単に取り付けることができるため、既存の建物内の必要な個所に取り付けて無線通信により容易に移動情報を管理することが可能となる。例えば、介護施設に設置して、認知症の被介護者に対する位置情報の確認及び入退室管理を行う上で好適である。
【符号の説明】
【0050】
S スリット
1 暖簾
2 布体
2a 経糸
2b 緯糸
20 布地
3 アンテナ線
30 芯糸
31 導電糸
4 配線コード
5 読取装置
6 情報処理装置
7 縫糸
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFID等の無線IDタグを検知するアンテナを備えた布製の暖簾及びそれを用いた移動情報処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年RFID等の無線IDタグの小型化が進み、無線IDタグを様々な移動体に取り付けて識別するシステムが開発されている。無線IDタグを認識するためには、無線IDタグとの間で情報を送受信するためのアンテナが必要となる。
【0003】
無線IDタグの小型化により移動体に対する取付位置の制約が少なくなり、例えば人間に取り付ける場合でも衣服、身の回り品、所持品といった既存の身に付ける物に無線IDタグを取り付けて人間の識別や位置認識が可能となっている。そのため、無線IDタグと送受信するアンテナについても人間が移動する際に無線IDタグに近接する様々な既存の物品に取り付けて、人間の移動を制約することなく自然な動作の中で識別や位置認識を行うことが望まれている。
【0004】
無線IDタグを用いた管理手法としては、例えば、特許文献1及び2では、入退室を検知する出入口にRFID受信用アンテナ及び赤外線検知装置を設け、赤外線検知装置により人体の通過を検知するとともに所持されたRFIDタグにより通過した保持者を特定して入退室を把握するようにした管理システムが記載されている。
【0005】
また、物品の識別管理手法としては、例えば、特許文献3及び4では、アンテナを備えた暖簾状のシート体に、IDタグを取り付けた物品を接触するように通過させることでIDタグをアンテナにより読み取るようにした点が記載されている。
【0006】
また、アンテナを備えた布地としては、例えば、特許文献5では、経糸として、ポリエステル繊維等からなる非電気的伝導性の糸を用い、緯糸として、金属繊維等からなる電気的伝導性の糸を用いて織成された織物アンテナが記載されている。また、特許文献6では、少なくとも一部又は全部に導電性を示す導電部を有する金銀糸と絶縁性を示す絹糸とによって構成した織物に、導電部の配置パターンにより形成される導電性領域及び絶縁性を有するスロットを具備するアンテナが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−028090号公報
【特許文献2】特開2003−021679号公報
【特許文献3】特開平11−301843号公報
【特許文献4】特開2009−290512号公報
【特許文献5】特開2008−546209号公報
【特許文献6】特開2009−044439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2に記載されているように、従来の入退室管理システムでは、RFIDタグの所持者を赤外線検知装置で通過検知する必要があり、また所持者から離れた位置に取り付けられたRFID受信用アンテナで検知するため、複数の所持者が近接した状態で通過する場合正確に所持者を特定できないおそれがある。
【0009】
特許文献3及び4に記載されているように、暖簾状のシート体にIDタグを取り付けた物品を接触するように通過させる場合には、物品が順次接触することで物品を正確に特定して読み取ることができるが、IDタグの所持者の通過を想定したものではない。
【0010】
また、特許文献5では金属繊維を用いているが、金属繊維は伸縮性に乏しく、合成繊維と組み合わせて織物にすると、合成繊維の伸縮に追随せずに断線したり、撓んでしまうといった欠点があり、アンテナの素材としてはそのまま用いることは難しい。特許文献6では、PETからなる基材にアルミニウムを蒸着した金銀糸を導電性糸に用いているが、金銀糸は断線しやすく電気抵抗が高いといった欠点がある。そして、金銀糸を捻れた状態で使用すると、捻れた部分では所定の方向からみて導電性を有する部分が不均一となるためアンテナ特性が一定しないといった問題がある。いずれにしても、RFID等の無線通信用のアンテナとして十分な性能を備えた布地とはいえない。
【0011】
そこで、本発明は、無線IDタグの所持者が通過する際に正確にIDデータを読み取ることができるアンテナを備えた暖簾及びそれを用いた移動情報処理システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る暖簾は、比誘電率が4以下の地糸により組織されるとともに人の通過するスリットが形成された布体と、芯糸に金属繊維をカバーリング加工した抵抗が5Ω/m〜15Ω/mの導電糸からなるとともに前記スリットに沿って所定間隔を空けて配列されて前記布体に密着保持された複数のアンテナ線とを備えていることを特徴とする。さらに、前記芯糸は、前記地糸と同一の糸を用いていることを特徴とする。さらに、前記アンテナ線は、前記布体の経糸方向及び/又は緯糸方向に挿入されて交差する地糸により保持されていることを特徴とする。さらに、前記アンテナ線は、当該アンテナ線に交差するように前記布体に縫い込まれた縫糸により保持されていることを特徴とする。さらに、前記アンテナ線は、前記スリットの形成方向と直交する方向に配置されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る移動情報処理システムは、建物内の複数箇所に取り付けられた請求項1から5のいずれかに記載の暖簾と、前記暖簾に保持された前記アンテナ線で受信した無線IDタグからの信号に基づいてIDデータを読み取る情報読取部と、読み取られた前記IDデータ及び読取位置情報に基づいてIDデータ別の移動情報を作成する情報処理部とを備えていることを特徴とする。さらに、前記情報処理部は、前記IDデータ及び読取位置情報に基づいてIDデータ別の入退室情報を作成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る暖簾は、上記のような構成を有することで、人の通過するスリットが形成された布体に対してスリットに沿って所定間隔を空けて配列して複数のアンテナ線を密着保持しているので、スリットの両側の布部分をかき分けるように無線IDタグの所持者が通過する際にスリットに沿う複数のアンテナ線が無線IDタグに近接するようになり、無線IDタグとアンテナ線の間で確実に無線通信を行うことができる。
【0015】
すなわち、人が暖簾をくぐる際にスリットの両側の布部分が人の両肩に掛かりながら滑るように接触するようになるが、アンテナ線をスリットに沿って複数配列した布部分が人の両肩に接触しながら滑るように移動するようになり、配列された複数のアンテナ線が順次人の前面部分及び肩部分に近接していくようになっていずれかのアンテナ線で受信することができる。
【0016】
また、スリットに沿ってアンテナ線が複数配列されているので、通過する人の身長に高低差がある場合でもアンテナ線を確実に無線IDタグに近接させることができる。
【0017】
また、比誘電率が4以下の地糸により組織される布体に対して抵抗が5Ω/m〜15Ω/mの導電糸からなるアンテナ線を密着保持させているので、絶縁体の地組織に低抵抗のアンテナ線を用いることで感度のよいアンテナとして使用することができる。
【0018】
また、アンテナ線として芯糸に金属繊維をカバーリング加工した導電糸を用いているので、アンテナ線が柔軟性及び伸縮性に優れたものとなり、地組織に密着保持させた状態で地組織が湾曲変形した場合でも地組織の変形に追従することができる。そして、金属線が芯糸に巻き付くようにカバーリング加工されているので、合成繊維からなる糸と同様の力学特性を有しており、アンテナ線が湾曲した場合でも断線することがなく、かつ金属繊維が撓むこともない。
【0019】
また、導電糸の芯糸を布体の地糸と同一の糸を用いることで、導電糸を地糸と同様の柔軟性及び伸縮性を持たせることができ、布体にアンテナ線を密着保持した状態で両者がずれることなく同じように変形させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る実施形態に関する斜視図である。
【図2】アンテナ線が配列された布地部分に関する部分拡大図である。
【図3】導電糸に関する一部拡大図である。
【図4】アンテナ線が織り込まれた場合に関する部分拡大図である。
【図5】アンテナ線が縫製された場合に関する部分拡大図である。
【図6】布体の別の作製方法に関する説明図である。
【図7】無線IDタグの所持者が暖簾を通過する場合の説明図である。
【図8】無線IDタグの所持者に関する正面図である。
【図9】移動情報処理システムに関するブロック構成図である。
【図10】移動情報に関する処理フローである。
【図11】移動情報をリスト表示した場合の表示例である。
【図12】移動情報をマップ表示した場合の表示例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0022】
図1は、本発明に係る実施形態に関する斜視図である。暖簾1は、人が通過するスリットSが形成された布体2を備えており、布体2には複数のアンテナ線3がスリットSに沿って所定間隔を空けて密着保持されている。各アンテナ線3は、配線コード4を介して読取装置5に接続されている。そして、アンテナ線3に無線IDタグが近接することで無線IDタグからアンテナ線3に受信された信号は読取装置5に入力され、受信したIDデータが読取装置5で読み取られる。読み取られたIDデータは、読取位置情報とともに読取装置5から情報処理装置6に無線通信により送信される。情報処理装置6では、後述するように、送信されたIDデータ及び読取位置情報を格納するとともに最新位置情報及び入退室情報を作成する。
【0023】
布体2は、図1では、スリットSだけ隙間を空けた2枚の布地の組合せで構成されているが、1枚の布地を下端から上部に向かって切り込みを入れることでスリットSを形成するようにしてもよい。
【0024】
布体2としては、通常の暖簾に使用される織物又は編物なる布地を用いればよく、布地を組織する地糸は、比誘電率が4以下の電気的に絶縁性のものが好ましい。具体的には、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)又はPBT(ポリブチレンテレフタレート)等のポリエステル系繊維、ナイロン(ポリアミド繊維)、アラミド(芳香族ポリアミド繊維)、ポリプロピレン又はポリエチレン等のポリオレフイン系繊維、アクリル等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の化学繊維、綿、麻、ウール又は絹等の天然繊維が挙げられる。また、これらの繊維を複数種類混合した複合繊維を用いてもよい。
【0025】
図2は、アンテナ線3がスリットSに沿って配列された布地部分に関する部分拡大図である。アンテナ線3は、スリットの形成方向と直交する方向に沿って直線状に配列された一対の導電糸3a及び3bを組み合せたダイポールアンテナ形状に設定されている。アンテナ線3を構成する導電糸3a及び3bの近接する端部は所定の間隔が空けられており、導電糸3a及び3bの離間する端部の間の間隔に基づいてアンテナの周波数特性が決定される。また、導電糸の対向する端部には直交する方向に別の導電糸が配列されて配線コード4の接続線3cとなっている。この例では、一方の接続線3cが導電糸3bに接続されずにそれに沿って平行に配列されている。接続線3cと導電糸3aとの間を電気的に接続する位置は、実際にアンテナ線3の特性を測定して最適位置を探索して決定する。なお、上述した導電糸の端部間の間隔は、導電糸の実際の長さではなく平面視での端部の間の直線距離である。
【0026】
アンテナ線3に用いる導電糸は、銅繊維、錫青銅繊維、ステンレス繊維等の金属繊維を芯糸の周囲にカバーリング加工したものである。芯糸としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)又はPBT(ポリブチレンテレフタレート)等のポリエステル系繊維、ナイロン(ポリアミド繊維)、アラミド(芳香族ポリアミド繊維)、ポリプロピレン又はポリエチレン等のポリオレフイン系繊維、アクリル等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の化学繊維、綿、麻、ウール又は絹等の天然繊維といった繊維からなる糸を用いるとよく、これらの繊維を複数種類混合した複合繊維からなる糸を用いてもよい。
【0027】
カバーリング加工としては、シングルカバーリング加工及びダブルカバーリング加工があり、図3には、芯糸30の周囲に金属繊維31を2重に巻き付けたダブルカバーリング加工を施した導電糸を示している。
【0028】
導電糸は、電気的に低抵抗のものが望ましく、電気抵抗が5Ω/m〜15Ω/mに設定するとよい。電気抵抗が15Ω/mを超えると、アンテナとしての感度が悪化する。
【0029】
導電糸の力学特性は、カバーリング加工する金属繊維の撚り数が3000T/m以上になると、芯糸とほぼ同じ特性を有するようになる。芯糸に金属繊維をカバーリング加工した導電糸をアンテナ線に用いることで、柔軟性及び伸縮性を有するアンテナ線3を得ることができ、布体2にアンテナ線3を密着保持した場合に布体2が湾曲又は伸縮しても、アンテナ線3が断線したりずれることなく布体2の変形に追従することが可能となる。
【0030】
図4は、二重織により織成された布体2にアンテナ線3を密着保持した場合の布地部分の拡大図である。アンテナ線3は、二重に織成された織地の上面側の織地に密着保持されている。アンテナ線3である導電糸が緯糸2aの間に配列されており、経糸2bが導電糸の上下に交互に交差して緯糸2aと同様に挟持されている。そのため、アンテナ線3が布体2に密着保持されて抜け落ちることはない。また、導電糸が柔軟性及び伸縮性を有しているため、布体2が変形してもそれに追従して変形することができ、断線等のトラブルが生じることはない。導電糸の芯糸として緯糸2aと同じものを使用すれば、導電糸の力学特性を経糸とほぼ同様に設定することができ、布体2の変形に対して導電糸がよりスムーズに追従することが可能となる。
【0031】
また、導電糸に対して経糸2bがほぼ等間隔で交差するため、交差する経糸2bの本数に基づいて密着保持する導電糸の長さを設定することが可能となる。したがって、布体2を織成する際に緯糸として導電糸を所定本数の経糸分だけ挿入して織成し、布体2の織成後に経糸により保持された分だけ残して導電糸を切断し、アンテナ線として用いるようにすることもできる。このようにアンテナ線を形成することで、導電糸の端部間の間隔を精度よく設定することができ、アンテナの感度を向上させることが可能となる。
【0032】
この例では、布体2が二重織により織成されているので、アンテナ線3の下面に電気的な絶縁性を有する織地が配設される構成となっており、アンテナ線3が導電体に接触することを防止するようになっている。
【0033】
なお、上述した例では、導電糸を緯糸方向に配列しているが、経糸方向に配列して保持することもでき、接続線3cのように経糸方向に配列して緯糸により保持するようにしてもよい。
【0034】
図5は、平織りにより織成された布体2に縫糸7によりアンテナ線3を密着保持した場合の布地部分の拡大図である。この場合には、布体2の表面にアンテナ線3を直線状に配置して接着剤等により固定し、ミシン等の縫製機を用いて縫糸7でアンテナ線3の両側に交互に縫い付けていき、アンテナ線3を布体2に密着保持するようにしている。
【0035】
アンテナ線3を縫製により固定する場合には、布体2として織物又は編物のいずれを用いてもよい。また、布体2に後付けでアンテナ線3を取り付けるので、縫い付けた導電糸の長さを測定しながらアンテナ線3の設定どおりの間隔となっているかチェックして取り付けることができ、アンテナ線3を布体2に対して精度よく固定することができる。なお、縫糸7の縫付間隔が等間隔に設定できる場合には、布体2に対する縫付回数に基づいてアンテナ線3の長さを設定することもできる。
【0036】
図6は、布体2の別の作製方法に関する説明図である。この例では、布体2となる布地20の片面側において、布地20の中心線Tで2つの半分の領域を画定して一方の領域のみに複数のアンテナ線3を所定間隔空けて配列して密着保持し、各アンテナ線3に接続する配線コード4を一方の領域に配置する(図6(a))。そして、中心線Tに沿って布地20を折り曲げて、アンテナ線3が設けられていない他方の領域の布地部分を一方の領域に重ね合わせてアンテナ線3及び配線コード4を布地20で覆うように設定して、布地20の周縁部を縫製して布体2を作製する。このようにアンテナ線3が布体2内部に密着保持されることで、アンテナ線3が不用意に導電体に接触することが防止され、アンテナ線3は無線IDタグとの間で確実に送受信を行うことができる。
【0037】
図7は、無線IDタグの所持者Mが暖簾1を通過する場合の説明図である。所持者Mは、図8に示すように、両肩部分に無線IDタグを取り付けたパッドM1及びM2を装着している。パッドM1及びM2には、複数の短冊状のRFIDタグが所定間隔を空けて配設されており、その長手方向が肩のラインに沿うように配列されて装着した状態ではできるだけ水平方向となるように設定されている。
【0038】
布体2を吊り下げた状態では、スリットSが垂直方向に設定されるためスリットSと直交するアンテナ線3はほぼ水平方向に設定されるようになる(図7(a))。そして、スリットSに向かって所持者Mが前進し、スリットSの両側の布地部分をかき分けるようにして暖簾1をくぐると、両側の布地部分が所持者Mの両肩部分に接触した状態となる(図7(b))。そのため、パッドM1及びM2に配設されたRFIDタグが接触する布地部分のアンテナ線3と近接した状態となる。そして、パッドM1及びM2に接触した布地部分は、所持者Mが前進するにつれてパッドM1及びM2に接触した状態で滑るように相対移動するようになり、アンテナ線3が順次パッドM1及びM2に配設されたRFIDタグに近接した状態に設定されるようになる。
【0039】
所持者Mによって身長の高低差があり、暖簾1の通り抜け動作についても各人各様であるが、スリットSに沿って複数のアンテナ線3を所定間隔を空けて配列しておくことで、通り抜け動作の際にいずれかのアンテナ線3がパッドM1及びM2のRFIDタグと受信可能な近接した状態に設定されて確実にRFIDタグからIDデータを読み取ることができるようになる。
【0040】
図9は、上述した暖簾を用いた移動情報処理システムに関するブロック構成図である。この例では、建物内の複数箇所に暖簾1及び読取装置5をn個設置している。例えば、介護施設の場合には、建物内の介護者の居室、トイレ、廊下、外部への出入り口等に設置する。
【0041】
読取装置51〜5nは、それぞれ読取部501〜50n及び送受信部511〜51nを備えており、各読取部50は、アンテナ線31〜3nで受信した信号からIDデータを読み取り、各送受信部51は、読取部50で読み取ったIDデータを読取位置情報とともに情報処理装置6に送信する。読取部50では、布体2に配列された複数のアンテナ線3に対して順次読み取り処理を行うスキャン方式によりIDデータを読み取る。なお、1回のスキャン中に同じIDデータを複数のアンテナ線3で読み取った場合には、1つのIDデータを読み取ったものとしてそのIDデータを情報処理装置6に送信すればよい。
【0042】
情報処理装置6は、情報処理部100、記憶部101及び表示部102を備えている。情報処理部100は、読取装置5から送信されるIDデータ及び読取位置情報を受信する送受信部100a、受信したIDデータ及び読取位置情報に基づいて移動情報を作成する移動情報処理部100b、及び、作成した移動情報を表示部102に表示するための処理を行う表示処理部100cを備えている。また、記憶部101は、受信したIDデータ及び読取位置情報、履歴情報、作成された移動情報等の情報処理に必要な情報を記憶する。表示部102では、移動情報のリスト表示、マップ表示等を行う。
【0043】
図10は、移動情報に関する処理フローである。この例では、移動情報として、最新位置情報及び入退室情報を作成する。まず、読取装置5からの受信データがあるかチェックし(S100)、受信データがある場合には、受信データに含まれるIDデータ及び読取位置情報を抽出して記憶部101に格納する(S101)。読取位置情報としては、例えば、読取装置5から送信される識別コードをそのまま格納してもよいし、読取装置5の識別コード及びそれに対応する位置データを予め記憶しておき、受信した識別コードに基づいて位置データを読取位置情報として格納するようにしてもよい。
【0044】
次に、受信したIDデータに対応する最新位置情報を記憶部101から読み出し(S102)、読み出した最新位置情報及び受信した読取位置情報から入退室情報を作成する(S103)。読み出した最新位置情報は、前回受信した読取位置情報であるので、前回の読取位置情報及び今回の読取位置情報を関連付けることで入退室情報を作成することができる。例えば、前回の読取位置情報の位置が居室で今回の読取位置がトイレの場合には、トイレの入室情報とすることができる。
【0045】
入退室情報を作成後最新位置情報を読取位置情報に更新する(S104)。なお、受信した読取位置情報は、IDデータ別に履歴情報として受信時刻とともに記憶しておく。
【0046】
そして、最新位置情報、入退室情報、履歴情報等に基づいて表示情報を作成する(S105)。例えば、図11に示すように、IDデータ別に時系列で入退室情報をリスト表示したり、図12に示すように、入退室情報に基づいて建物内部のレイアウトとともに移動した軌跡をマップ表示するようにしてもよい。また、各IDデータの最新位置情報を一覧表示するようにしてもよい。
【0047】
以上のように移動情報を表示することで、無線IDタグの所持者の現在位置、移動経路等を把握することができる。また、入退室に関しては、出入り口に一対の暖簾を通行方向に所定間隔を空けて吊り下げておき、各暖簾で読み取られたIDデータの時間差に応じて通行方向を決定することで入退室情報を作成するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る暖簾は、通常の暖簾と同様に柔軟性のある布体で組織されるとともに糸状のアンテナ線を布体に密着保持するようにしているので、通常の暖簾と遜色のない肌触り及びデザインを実現することができ、建物内の出入り口や廊下に吊り下げてもインテリア製品として違和感なく取り付けることが可能となる。
【0049】
また、読取装置及び暖簾をセットで簡単に取り付けることができるため、既存の建物内の必要な個所に取り付けて無線通信により容易に移動情報を管理することが可能となる。例えば、介護施設に設置して、認知症の被介護者に対する位置情報の確認及び入退室管理を行う上で好適である。
【符号の説明】
【0050】
S スリット
1 暖簾
2 布体
2a 経糸
2b 緯糸
20 布地
3 アンテナ線
30 芯糸
31 導電糸
4 配線コード
5 読取装置
6 情報処理装置
7 縫糸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比誘電率が4以下の地糸により組織されるとともに人の通過するスリットが形成された布体と、芯糸に金属繊維をカバーリング加工した抵抗が5Ω/m〜15Ω/mの導電糸からなるとともに前記スリットに沿って所定間隔を空けて配列されて前記布体に密着保持された複数のアンテナ線とを備えていることを特徴とする暖簾。
【請求項2】
前記芯糸は、前記地糸と同一の糸を用いていることを特徴とする請求項1に記載の暖簾。
【請求項3】
前記アンテナ線は、前記布体の経糸方向及び/又は緯糸方向に挿入されて交差する地糸により保持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の暖簾。
【請求項4】
前記アンテナ線は、当該アンテナ線に交差するように前記布体に縫い込まれた縫糸により保持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の暖簾。
【請求項5】
前記アンテナ線は、前記スリットの形成方向と直交する方向に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の暖簾。
【請求項6】
建物内の複数箇所に取り付けられた請求項1から5のいずれかに記載の暖簾と、前記暖簾に保持された前記アンテナ線で受信した無線IDタグからの信号に基づいてIDデータを読み取る情報読取部と、読み取られた前記IDデータ及び読取位置情報に基づいてIDデータ別の移動情報を作成する情報処理部とを備えていることを特徴とする移動情報処理システム。
【請求項7】
前記情報処理部は、前記IDデータ及び読取位置情報に基づいてIDデータ別の入退室情報を作成することを特徴とする請求項6に記載の移動情報処理システム。
【請求項1】
比誘電率が4以下の地糸により組織されるとともに人の通過するスリットが形成された布体と、芯糸に金属繊維をカバーリング加工した抵抗が5Ω/m〜15Ω/mの導電糸からなるとともに前記スリットに沿って所定間隔を空けて配列されて前記布体に密着保持された複数のアンテナ線とを備えていることを特徴とする暖簾。
【請求項2】
前記芯糸は、前記地糸と同一の糸を用いていることを特徴とする請求項1に記載の暖簾。
【請求項3】
前記アンテナ線は、前記布体の経糸方向及び/又は緯糸方向に挿入されて交差する地糸により保持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の暖簾。
【請求項4】
前記アンテナ線は、当該アンテナ線に交差するように前記布体に縫い込まれた縫糸により保持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の暖簾。
【請求項5】
前記アンテナ線は、前記スリットの形成方向と直交する方向に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の暖簾。
【請求項6】
建物内の複数箇所に取り付けられた請求項1から5のいずれかに記載の暖簾と、前記暖簾に保持された前記アンテナ線で受信した無線IDタグからの信号に基づいてIDデータを読み取る情報読取部と、読み取られた前記IDデータ及び読取位置情報に基づいてIDデータ別の移動情報を作成する情報処理部とを備えていることを特徴とする移動情報処理システム。
【請求項7】
前記情報処理部は、前記IDデータ及び読取位置情報に基づいてIDデータ別の入退室情報を作成することを特徴とする請求項6に記載の移動情報処理システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−37990(P2012−37990A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175847(P2010−175847)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省、平成21年度地域イノベーション創出研究開発事業「ポータブル位置検出システム用RFIDテキスタイルの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(501262329)株式会社ユティック (6)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省、平成21年度地域イノベーション創出研究開発事業「ポータブル位置検出システム用RFIDテキスタイルの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(501262329)株式会社ユティック (6)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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