説明

アンテナ付射出成形同時加飾品およびその製造方法、ならびにアンテナ付筐体の給電構造

【課題】小型携帯機器などのように通信機能のためのアンテナが設けられた射出成形同時加飾品において、その外観意匠の品質を向上させる。
【解決手段】アンテナ付射出成形同時加飾品において、射出成形品と、射出成形品の外表面の少なくとも一部を被覆して加飾する加飾フィルムと、射出成形品と加飾フィルムとの間に配置される平面アンテナと、平面アンテナ全体を覆うように平面アンテナと射出成形品との間に配置され、平面アンテナの厚みを吸収する厚み吸収用シートとを備えさせ、加飾フィルム、平面アンテナ、および厚み吸収用シートが、射出成形同時加飾により一体的に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナが設けられた射出成形同時加飾品およびその製造方法に関するものであり、特に、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistance)、携帯音楽プレイヤー、またはノート型パーソナルコンピュータ(ノートPC)などの小型携帯機器のように、通信機能のためのアンテナが設けられた射出成形同時加飾品およびその製造方法、ならびにアンテナへ給電を行うための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、PDA、携帯音楽プレイヤー、またはノートPCなどの小型携帯機器に無線通信機能を付与するにはアンテナを必要とする。また、このような小型携帯機器の筐体は、例えば樹脂などの材料を用いて射出成形により形成されるとともに、この射出成形において加飾フィルムが用いられて筐体の外表面が装飾される。
【0003】
このように加飾フィルムと平面アンテナとを用いて、射出成形同時加飾を行うことにより、アンテナとその意匠とが一体的に形成されたアンテナ付射出成形同時加飾品が製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような従来のアンテナ付射出成形同時加飾品(すなわち、アンテナ付筐体)の構造について、図6および図7の模式図を用いて説明する。
【0005】
図6は、アンテナ付筐体50に用いられる加飾フィルム52と平面アンテナ56とを示す模式図である。図6に示すように、加飾フィルム52は、透明樹脂材料からなる加飾フィルム基材53と、その図示下面に印刷された加飾パターン54とを備えている。平面アンテナ56は、アンテナ用フィルム基材57と、アンテナ用フィルム基材57の図示下面に配置され、例えば銅などの導電材料により形成されたアンテナパターン58とを備えている。また、加飾フィルム52と平面アンテナ56とは、接着層55を介して互いに接着されており、一体的な積層シート51として形成されている。
【0006】
このような構造の積層シート51を、金型の内表面に配置して型締めを行った後、金型内に成形樹脂を注入することで、積層シート51と成形樹脂とが一体的な状態とされたアンテナ付筐体50が製造される。
【0007】
図7に示すように、アンテナ付筐体50は、外表面上には、アンテナパターン58、アンテナ用フィルム基材57、接着層55、加飾パターン54、加飾フィルム基材53の順序で積層シート51が配置されるとともに、この積層シート51が成形品60と一体的な状態とされている。なお、このような製造方法は、IMD:成型同時加飾転写システムあるいはIML:成型同時加飾インサートシステムと呼ばれている。
【0008】
また、このようなアンテナ付筐体50では、成形品60を介してアンテナパターン58と対向するように、給電部62が設けられており、この給電部62より平面アンテナ56に対する非接触状態での給電が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2007−094494号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このような構造のアンテナ付筐体50では、樹脂材料に比して硬い金属材料にて形成されたアンテナパターン58の凹凸が加飾フィルム52の表面に浮き出て見える場合があり、筐体50における意匠が損なわれるという課題がある。例えば、厚さ20μmのアンテナパターン58を用いた場合に、加飾フィルム52の表面では、3〜4μm程度の凹凸が生じる場合があり、この凹凸の寸法以上に見た目では、アンテナパターン58が浮き上がって見えることがある。
【0011】
また、成型時の熱・圧力を受けて、アンテナパターン58が損傷する場合があるという課題もある。
【0012】
さらに、このような小型携帯機器では、筐体50の小型化に伴って、平面アンテナ56のアンテナパターン58を小型化することも望まれている。
【0013】
従って、本発明の目的は、上記課題を解決することにあって、小型携帯機器などのように通信機能のためのアンテナが設けられた射出成形同時加飾品において、その外観意匠の品質が向上されたアンテナ付射出成形同時加飾品およびその製造方法、ならびにアンテナ付筐体の給電構造を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、このようなアンテナ付射出成形同時加飾品において、アンテナの小型化を含めてアンテナ機能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0015】
本発明の第1態様によれば、射出成形品と、射出成形品の外表面の少なくとも一部を被覆して加飾する加飾フィルムと、射出成形品と加飾フィルムとの間に配置される平面アンテナと、平面アンテナ全体を覆うように平面アンテナと射出成形品との間に配置され、平面アンテナの厚みを吸収する厚み吸収用シートとを備え、加飾フィルム、平面アンテナ、および厚み吸収用シートが、射出成形同時加飾により一体的に形成されている、アンテナ付射出成形同時加飾品を提供する。
【0016】
本発明の第2態様によれば、厚み吸収用シートは強誘電体シートである、第1態様に記載のアンテナ付射出成形同時加飾品を提供する。
【0017】
本発明の第3態様によれば、加飾フィルムと射出成形品との間に、磁性体シートが配置されている、第1態様または第2態様に記載のアンテナ付射出成形同時加飾品を提供する。
【0018】
本発明の第4態様によれば、磁性体シートが、加飾フィルムと平面アンテナとの間に配置されている、第3態様に記載のアンテナ付射出成形同時加飾品を提供する。
【0019】
本発明の第5態様によれば、平面アンテナは、フィルム基材と、フィルム基材の表面に配置されアンテナパターンを形成する導電層とを備え、厚み吸収用シートは、フィルム基材の表面において、導電層の形成の有無により生じる凹凸を吸収する、第1態様から第4態様のいずれか1つに記載のアンテナ付射出成形同時加飾品を提供する。
【0020】
本発明の第6態様によれば、平面アンテナと射出成形品とがインサート成形によって一体化されている、第1態様から第5態様のいずれか1つに記載のアンテナ付射出成形同時加飾品を提供する。
【0021】
本発明の第7態様によれば、加飾フィルム、平面アンテナ、および平面アンテナの厚みを吸収する厚み吸収用シートが積層された射出成形同時加飾用の積層シートを、加飾フィルム側が金型内面に配置されるように開放状態の金型内に配置し、金型を実質的に閉止状態とした後、金型内に樹脂を射出して、平面アンテナと射出成形樹脂とを厚み吸収用シートを介して一体化するとともに、射出成形樹脂の外表面の少なくとも一部を加飾する、アンテナ付射出成形同時加飾成形品の製造方法を提供する。
【0022】
本発明の第8態様によれば、射出成形同時加飾用の積層シートを金型内に配置する際に、厚み吸収用シートとして強誘電体シートを用いる、第7態様に記載のアンテナ付射出成形同時加飾成形品の製造方法を提供する。
【0023】
本発明の第9態様によれば、射出成形同時加飾用の積層シートを金型内に配置する際に、加飾フィルムと平面アンテナとの間に磁性体シートがさらに配置された積層シートを用いる、第7態様または第8態様に記載のアンテナ付射出成形同時加飾成形品の製造方法を提供する。
【0024】
本発明の第10態様によれば、射出成形により形成された筐体と、筐体の外表面の少なくとも一部を被覆して加飾する加飾フィルムと、筐体と加飾フィルムとの間に配置される平面アンテナと、平面アンテナ全体を覆うように平面アンテナと筐体との間に配置された強誘電体シートと、筐体および強誘電体シートを介在させて平面アンテナと対向するように、筐体の上記外表面の裏面に配置され、平面アンテナに対して非接触で電力および信号伝送を行う非接触給電部とを備える、アンテナ付筐体の給電構造を提供する。
【0025】
本発明の第11態様によれば、加飾フィルムと平面アンテナとの間に磁性体シートがさらに配置されている、第10態様に記載のアンテナ付筐体の給電構造を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、平面アンテナ全体を覆うように、平面アンテナと射出成形品との間に配置された厚み吸収用シートが、平面アンテナの厚み(すなわち、アンテナパターンの凹凸)を吸収するため、加飾フィルムの表面にアンテナパターンの凹凸が浮き出ることを防止できる。したがって、アンテナ付射出成形同時加飾品における外観意匠の品質を向上させることができる。
【0027】
また、厚み吸収用シートが、平面アンテナと射出成形品との間に配置されていることにより、射出成形時に射出成形樹脂より平面アンテナに対して伝達される熱・圧力などの影響を厚み吸収用シートにて低減させることができ、平面アンテナの損傷を防止できる。
【0028】
さらに、厚み吸収用シートとして、強誘電体シートを採用する構成では、平面アンテナの小型化を図ることができる。
【0029】
また、加飾フィルムと射出成形品との間に磁性体シートをさらに配置した構成では、磁性体シートを外表面に露出させることなく外観意匠の品質を保ちながら、アンテナの感度を高めることができ、アンテナ機能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一の実施形態にかかるアンテナ付筐体の模式図
【図2】本実施形態のアンテナ付筐体を射出成形同時加飾により製造している状態の模式図
【図3】本実施形態のアンテナ付筐体の外観の模式図
【図4】本実施形態のアンテナ付筐体に用いられる積層シートの模式図(断面)
【図5】本実施形態のアンテナ付筐体の模式図(断面)
【図6】従来のアンテナ付筐体に用いられる積層シートの模式図(断面)
【図7】従来のアンテナ付筐体の模式図(断面)
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明にかかる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0032】
本発明の一の実施形態にかかるアンテナ付射出成形同時加飾品の一例であるアンテナ付筐体10の構成を示す模式図を図1に示す。なお、図1では、各種シートなどの構成を理解し易いように、それぞれの構成部材などを分解した状態を示している。
【0033】
図1に示すように、アンテナ付筐体10は、その筐体本体部分である射出成形品12と、この射出成形品12の外表面上に配置された積層シート20とを備えており、射出成形品12と積層シート20とは、射出成形同時加飾を行うことにより一体的な状態とされている。
【0034】
積層シート20は、射出成形品12の外表面を外観意匠として加飾する加飾フィルム21と、磁性体材料によりシート状に形成された磁性体シート25と、通信機能を実現するためのシート状の平面アンテナ27と、強誘電体材料によりシート状に形成された強誘電体シート31とが積層されることにより構成されている。また、加飾フィルム21、磁性体シート25、平面アンテナ27、および強誘電体シート31の間には、接着層24、26、30(図1では図示省略、図4参照)が配置されて互いに接合されている。
【0035】
図2に示すように、このような構成の積層シート20の加飾フィルム21側を、金型開放状態の金型2の内表面に配置した状態にて金型2を型締めし、その後、金型2内に形成される空間に、溶融状態の樹脂を射出することで、図3に示すように、射出成形品12と積層シート20とが一体化されたアンテナ付筐体10を製造することができる。
【0036】
次に、図4および図5に示す模式図を用いて、アンテナ付筐体10の構造について、さらに詳細に説明する。
【0037】
まず、射出成形品12は、金型を用いて予め設計された外形形状に成形されたものである。その材質は機器(小型携帯機器など)の使用目的や、成形方法などによって選定される。例えば、メタクリル樹脂(PMMA)、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS)、セルロースプロピオネート樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリエステル樹脂、若しくは、ポリエチレン樹脂などを用いることができる。
【0038】
加飾フィルム21は、射出成形品12を装飾してその外観意匠を形成するためのものである。このような加飾フィルム21としては、一般的には、透明樹脂材料により形成された加飾フィルム基材22の一方の面(図4では下面)に、加飾パターン23が形成されたものが用いられる。
【0039】
加飾フィルム基材22の材質としては、例えば、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリエーテルケトン系のエンジニアリングプラスチックや、アクリル系、ポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系の樹脂フィルムなどを用いることができる。
【0040】
加飾パターン23は、例えば、着色インキ層により構成され、ウレタン樹脂、PC樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂などを使用することができ、特に、ウレタン系樹脂、さらにはそのエラストマーをバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いることが好ましい。
【0041】
また、加飾パターン23は、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法や、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を用いて、加飾フィルム基材22の表面に形成することができる。
【0042】
また、射出成形品12の外表面全体を覆うように加飾フィルム21を配置して、加飾パターン23により射出成形品12の外表面全体を加飾しても良く、あるいは射出成形品12の外表面の一部については加飾せず、透明な加飾フィルム基材22をそのまま使用した透明窓部にすることもできる。
【0043】
また、加飾パターン23は、加飾フィルム基材22のいずれの面にも形成することができるが、加飾パターン23を摩耗などから保護するという観点からは、加飾フィルム基材22の射出成形品12側に加飾パターン23を形成することが望ましい。
【0044】
磁性体シート25は、磁性体材料によりシート状に形成されている。この磁性体シート25は、透磁率が高く、アンテナ付筐体10の外部より受ける磁場を効率良く平面アンテナ27に取り込むことができるように、平面アンテナ27の受信感度を高める機能を有している。
【0045】
また、磁性体シート25は、アンテナ付筐体10の外部の発信器(図示せず)により近い位置に配置させることが好ましいが、加飾フィルム21による外観意匠を損なわないように、加飾フィルム21と射出成形品12との間に配置される。
【0046】
平面アンテナ27は、アンテナ用フィルム基材28と、アンテナ用フィルム基材28の一方の面(図4では下面)に銅などの導電材料により形成されたアンテナパターン29(導電層)とを備えている。
【0047】
アンテナ用フィルム基材28は、アンテナパターン29の支持部材として機能するものであれば材料は特に限定されず、例えば、加飾フィルム基材22と同様に、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリエーテルケトン系のエンジニアリングプラスチックや、アクリル系、ポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系の樹脂フィルムなどを用いることができる。
【0048】
アンテナパターン29を構成する導電材料としては、アンテナ機能を得ることができるものであれば特に制限はない。このような導電材料としては、例えば、金属であれば金、白金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、鉛等がある。また、導電性高分子等の導電性を有する高分子化合物を用いることもできる。
【0049】
平面アンテナ27のアンテナパターン29は、使用する周波数帯や用途により適宜選択され、例えば、無線LAN、Bluetooth、RFID(Radio Frequency Identification)、GPS(Global Positioning System)、ETC(Electronic Toll Collection System)、通信等で用いられる各種のアンテナパターンを選択することができる。
【0050】
また、アンテナパターン29は、導電材料がペースト状のものを用いる場合にはスクリーン印刷法によって形成することができ、また、導電材料が箔、メッキ等によるものを用いる場合には印刷レジスト、感光性レジストを用いたエッチング法などを用いて形成することができる。
【0051】
強誘電体シート31は、強誘電体材料によりシート状に形成される。一般に強誘電体とは、外部電場を印加しない状態でも自発分極を持ち、その分極の向きを外部電場の印加だけで変えることができるものである。このような強誘電体シート31を配置させることで、平面アンテナ27のアンテナパターン29の平面的なサイズを小型化することが可能となる。また、アンテナパターン29の小型化を図るという観点からは、アンテナパターン29により近い位置に強誘電体シート31が配置されていることが好ましい。
【0052】
加飾フィルム21、磁性体シート25、平面アンテナ27、強誘電体シート31のそれぞれの間には、例えば接着性を有する樹脂材料により形成された接着層24、26、30が配置されており、それぞれのシート状の部材が互いに接合されることにより、積層シート20が構成されている。
【0053】
なお、積層シート20を構成するそれぞれの部材の厚み寸法の一例は次の通りである。
加飾フィルム基材22: 125μm
加飾パターン23: 10μm
接着層24: 25〜50μm
磁性体シート25: 100μm
接着層26: 25〜50μm
アンテナ用フィルム基材28: 125μm
アンテナパターン29: 20μm
接着層30: 25〜50μm
強誘電体シート31: 100μm
【0054】
このような構成の積層シート20を用いて、射出成形同時加飾を行うことにより、図5に示すようなアンテナ付筐体10が形成される。
【0055】
図5に示すように、積層シート20は射出成形品12と一体化された状態にあり、射出成形品12の外表面が加飾パターン23により装飾されるとともに、平面アンテナ27が内蔵された状態とされている。
【0056】
射出成形品12における積層シート20の配置面とは反対側の表面には、平面アンテナ27のアンテナパターン29に対して非接触状態にて電力および信号伝送を行う非接触給電部14が設けられている。この非接触給電部14に図示しない電源より電力を供給することで、アンテナパターン29に電力を供給して、アンテナとしての通信機能を実現することができる。
【0057】
本実施形態のアンテナ付筐体10によれば、次のような種々の効果を得ることができる。
【0058】
まず、積層シート20において、平面アンテナ27と射出成形品12との間に強誘電体シート31が配置された構成が採用されているため、強誘電体シート31が厚み方向に変形することで、平面アンテナ27のアンテナパターン29の凹凸形状を吸収することができる。すなわち、図7に示す従来の構造では、射出成形が行われる際にアンテナ用フィルム基材57が図示下面側より圧力を受けた場合に、アンテナパターン58が形成されている部分は、形成されていない部分に比してより強い力で押し出されることになり、その結果、加飾フィルム52の図示上面において、アンテナパターン58の形状が浮き出し、外観意匠が損なわれるという課題があった。これに対して、本実施形態では、アンテナパターン29の厚さ寸法に対して十分に厚い厚さ寸法を有する強誘電体シート31が新たに配置されていることにより、強誘電体シート31にてアンテナパターン29の厚み(すなわち、凹凸)を吸収することができる。したがって、平面アンテナ27が内蔵されるような構成を採用しながら、加飾フィルム21を用いたその外観意匠において、アンテナパターン29が浮き出ることを防止して、外観意匠の品質を向上させることができる。
【0059】
また、積層シート20において、強誘電体シート31に加えて磁性体シート25がさらに備えられていることにより、アンテナパターン29の厚みを吸収する効果をさらに高めることができる。このようにアンテナパターン29の厚みを吸収するという機能に着目すれば、強誘電体シート31および磁性体シート25は、厚み吸収用シートと称することができる。また、より効果的に厚みを吸収させるようにするためには、このような厚み吸収用シートは、アンテナパターン29を構成する導電材料よりも柔軟な材料により形成されることが好ましい。
【0060】
また、強誘電体シート31が平面アンテナ27と射出成形品12との間に配置されていることにより、射出成形時に平面アンテナ27に対して付与される熱・圧力を、強誘電体シート31により低減させることができる。したがって、射出成形時に平面アンテナ27に対して付与される熱・圧力によりアンテナパターン29が損傷することを防止できる。
【0061】
また、積層シート20において、強誘電体シート31が備えられていることにより、その強誘電体としての特性を利用してアンテナパターン29の平面的なサイズを小型化することができる。特に、このようなアンテナパターン29の小型化を図ることで、アンテナ付筐体10の小型携帯機器への適用性を高めることができる。
【0062】
また、積層シート20において、磁性体シート25が備えられていることにより、平面アンテナ27の受信感度を向上させることができる。特に、磁性体シート25が、加飾フィルム21と平面アンテナ27との間に配置されていることにより、加飾フィルム21により外観意匠を損なうことなく、平面アンテナ27の受信感度を効果的に高めることができる。また、このような磁性体シート25を他の部材の間に配置させることで、経年により生じる磁性体シート25の剥がれも防止できる
【0063】
また、射出成形品12における積層シート20の配置面とは反対側の表面に非接触給電部14が設けられていることより、平面アンテナ27のアンテナパターン29に対して非接触状態にて電力および信号伝送を確実に行うことができる。また、平面アンテナ27と非接触給電部14との間には、強誘電体シート31が配置されていることにより、このような非接触給電を小型化された平面アンテナ27に対して効果的に行うことができる。
【0064】
なお、厚み吸収用シートとしては、磁性体シートや強誘電体シートの他に例えば、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリエーテルケトン系のエンジニアリングプラスチックや、アクリル系、ポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系の樹脂フィルムなどを用いることもできる。
【0065】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【0066】
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
【符号の説明】
【0067】
2 金型
10 アンテナ付筐体
12 射出成形品
14 非接触給電部
20 積層シート
21 加飾フィルム
22 加飾フィルム基材
23 加飾パターン
24 接着層
25 磁性体シート
26 接着層
27 平面アンテナ
28 アンテナ用フィルム基材
29 アンテナパターン
30 接着層
31 強誘電体シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形品と、
射出成形品の外表面の少なくとも一部を被覆して加飾する加飾フィルムと、
射出成形品と加飾フィルムとの間に配置される平面アンテナと、
平面アンテナ全体を覆うように平面アンテナと射出成形品との間に配置され、平面アンテナの厚みを吸収する厚み吸収用シートとを備え、
加飾フィルム、平面アンテナ、および厚み吸収用シートが、射出成形同時加飾により一体的に形成されている、アンテナ付射出成形同時加飾品。
【請求項2】
厚み吸収用シートは強誘電体シートである、請求項1に記載のアンテナ付射出成形同時加飾品。
【請求項3】
加飾フィルムと射出成形品との間に、磁性体シートが配置されている、請求項1または2に記載のアンテナ付射出成形同時加飾品。
【請求項4】
磁性体シートが、加飾フィルムと平面アンテナとの間に配置されている、請求項3に記載のアンテナ付射出成形同時加飾品。
【請求項5】
平面アンテナは、フィルム基材と、フィルム基材の表面に配置されアンテナパターンを形成する導電層とを備え、
厚み吸収用シートは、フィルム基材の表面において、導電層の形成の有無により生じる凹凸を吸収する、請求項1から4のいずれか1つに記載のアンテナ付射出成形同時加飾品。
【請求項6】
平面アンテナと射出成形品とがインサート成形によって一体化されている、請求項1から5のいずれか1つに記載のアンテナ付射出成形同時加飾品。
【請求項7】
加飾フィルム、平面アンテナ、および平面アンテナの厚みを吸収する厚み吸収用シートが積層された射出成形同時加飾用の積層シートを、加飾フィルム側が金型内面に配置されるように開放状態の金型内に配置し、
金型を実質的に閉止状態とした後、金型内に樹脂を射出して、平面アンテナと射出成形樹脂とを厚み吸収用シートを介して一体化するとともに、射出成形樹脂の外表面の少なくとも一部を加飾する、アンテナ付射出成形同時加飾成形品の製造方法。
【請求項8】
射出成形同時加飾用の積層シートを金型内に配置する際に、厚み吸収用シートとして、強誘電体シートを用いる、請求項7に記載のアンテナ付射出成形同時加飾成形品の製造方法。
【請求項9】
射出成形同時加飾用の積層シートを金型内に配置する際に、加飾フィルムと平面アンテナとの間に磁性体シートがさらに配置された積層シートを用いる、請求項7または8に記載のアンテナ付射出成形同時加飾成形品の製造方法。
【請求項10】
射出成形により形成された筐体と、
筐体の外表面の少なくとも一部を被覆して加飾する加飾フィルムと、
筐体と加飾フィルムとの間に配置される平面アンテナと、
平面アンテナ全体を覆うように平面アンテナと筐体との間に配置された強誘電体シートと、
筐体および強誘電体シートを介在させて平面アンテナと対向するように、筐体の上記外表面の裏面に配置され、平面アンテナに対して非接触で電力および信号伝送を行う非接触給電部とを備える、アンテナ付筐体の給電構造。
【請求項11】
加飾フィルムと平面アンテナとの間に磁性体シートがさらに配置されている、請求項10に記載のアンテナ付筐体の給電構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−152669(P2011−152669A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14367(P2010−14367)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】