説明

アンテナ構造体およびアレイアンテナ

【課題】アンテナ構造体から放射または受信される電磁波の損失を低減すること。
【解決手段】アンテナ構造体は、誘電体基板1と、表面導体層2と、複数のビア導体3と、給電スロット層4と、給電線路5とを含んでいる。表面導体層2は、電磁波が放射または入射される開口部21を有している。複数のビア導体3は、平面透視において環状に配置されている。給電スロット層4は、表面導体層2との間に複数のビア導体3が介在するように設けられており、平面透視において複数のビア導体によって囲まれた共振領域31に重なるように設けられたスロット41を有している。給電線路5は、共振領域31との間にスロット41が設けられるように誘電体基板1の下面または内部に設けられている。表面導体層2の開口部21の縁21aは、平面透視において、複数のビア導体3のうち隣り合うビア導体3のそれぞれの中心部を結ぶ線3aに沿って設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を放射または受信するアンテナ構造体、および複数のアンテナ構造体を有するアレイアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば移動体通信または車載レーダ等の分野において、電磁波を放射または受信するアンテナ構造体について開発が進められている。アンテナ構造体は、誘電体基板と、その誘電体基板の表面に形成されており開口部を有している表面導体層と、誘電体基板の内部に設けられており実質的に導体壁となる複数のビア導体とを含んでいる。電磁波は、複数のビア導体に囲まれた共振領域を伝送されて表面導体層の開口部から放射されるか、または、表面導体層の開口部に入射されて共振領域を伝送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−239017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アンテナ構造体における放射特性または受信特性を向上させるためには、表面導体層の開口部から放射される電磁波の損失または開口部に入射される電磁波の損失を低減させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一つの態様によれば、アンテナ構造体は、誘電体基板と、誘電体基板の上面に設けられた表面導体層と、誘電体基板の内部において上下方向に設けられた複数のビア導体と、誘電体基板の内部に設けられた給電スロット層と、誘電体基板の下面または内部に設けられた給電線路とを含んでいる。表面導体層は、電磁波が放射または入射される開口部を有している。複数のビア導体は、平面透視において環状に配置されており、表面導体層に電気的に接続されている。給電スロット層は、表面導体層との間に複数のビア導体が介在するように誘電体基板の内部に設けられており、複数のビア導体に電気的に接続されている。給電スロット層は、平面透視において複数のビア導体によって囲まれた共振領域に重なるように設けられたスロットを有している。給電線路は、共振領域との間にスロットが設けられるように誘電体基板の下面または内部に設けられており、スロットと電磁気的に結合されている。表面導体層の開口部の縁は、平面透視において、複数のビア導体のうち隣り合うビア導体のそれぞれの中心部を結ぶ線に沿って設けられている。
【0006】
本発明の他の態様によれば、アレイアンテナは、上記のアンテナ構造体を複数有しており、複数のアンテナ構造体がアレイ状に配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一つの態様によるアンテナ構造体において、表面導体層の開口部の縁は、平面透視において、複数のビア導体のうち隣り合うビア導体のそれぞれの中心部を結ぶ線に沿って設けられていることによって、表面導体層の開口部から放射される電磁波の損失または開口部に入射される電磁波の損失を低減させることができる。
【0008】
本発明の他の態様によるアレイアンテナは、上記のアンテナ構造体を複数有しており、複数のアンテナ構造体がアレイ状に配置されていることによって、複数のアンテナ構造体
における電磁波の損失を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態におけるアンテナ構造体を示す平面透視図であり、(b)は(a)に示されたアンテナ構造体のA−Aにおける縦断面図である。
【図2】(a)は本発明の第2の実施形態におけるアンテナ構造体を示す平面透視図であり、(b)は(a)に示されたアンテナ構造体のA−Aにおける縦断面図である。
【図3】本発明の実施例におけるアンテナ構造体を示す平面透視図である。
【図4】比較例におけるアンテナ構造体を示す平面透視図である。
【図5】(a)は本発明の実施例におけるアンテナ構造体の反射係数および周波数の関係を示しており、(b)は比較例におけるアンテナ構造体の反射係数および周波数の関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のいくつかの例示的な実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1(a)および(b)に示されているように、本発明の第1の実施形態におけるアンテナ構造体は、誘電体基板1と、誘電体基板1の上面に設けられた表面導体層2と、誘電体基板1の内部に設けられた複数のビア導体3および給電スロット層4と、誘電体基板1の下面または内部に設けられた給電線路5とを含んでいる。図1(a)および(b)に示された構造において、給電線路5は、誘電体基板1の下面に設けられている。図1(a)において、表面導体層2および複数のビア導体3が、それぞれドット模様によって示されている。複数のビア導体3のそれぞれにおいて表面導体層2によって隠れている部分が、破線によって示されている。給電スロット層4および給電線路5が、誘電体基板1等を透視した状態で破線によって示されている。
【0012】
誘電体基板1は、複数の誘電体層から成り、誘電体層を形成する誘電体材料は、例えば酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素またはムライト等を主成分とするセラミック材料である。
【0013】
表面導体層2は、電磁波が放射または入射される開口部21を有しており、全体的に環状形状を有している。図1(a)に示された構造において、表面導体層2は、矩形状の外形を有している。
【0014】
複数のビア導体3は、誘電体基板1の内部において上下方向に設けられており、平面透視において環状に配置されている。図1(a)に示された構造において、複数のビア導体3は、矩形状に配置されている。複数のビア導体3は、表面導体層2に接合されており、表面導体層2に電気的に接続されている。複数のビア導体3は、所定の間隔を空けて設けられている。複数のビア導体3の間隔は、共振する高周波信号が漏れないように、共振する高周波信号の実効波長の1/2未満とし、好ましくは実効波長の1/4以下とする。
【0015】
給電スロット層4は、表面導体層2との間に複数のビア導体3が介在するように誘電体基板1の内部に設けられている。給電スロット層4は、複数のビア導体3に接合されており、複数のビア導体3に電気的に接続されている。給電スロット層4は、平面透視において複数のビア導体3によって囲まれた共振領域31に重なるように設けられたスロット41を有している。
【0016】
給電線路5は、共振領域31との間にスロット41が設けられるように誘電体基板1の下面または内部に設けられており、スロット41と電磁気的に結合されている。図1(a)およ
び(b)に示された構造において、給電線路5は、誘電体基板1の下面に設けられている。
【0017】
再び表面導体層2について説明する。表面導体層2の開口部21の縁21aは、平面透視において、複数のビア導体3のうち隣り合うビア導体3のそれぞれの中心部を結ぶ線3aに沿って設けられている。図1(a)の部分拡大図において、中心部を結ぶ線3aが、二点鎖線によって仮想的に示されている。中心部を結ぶ線3aは直線であり、図1(a)に示された構造において、開口部21は矩形状を有しており、開口部21の縁21aは隣り合うビア導体3の中心部を結ぶ線3aに重なっている。
【0018】
アンテナ構造体における電磁波の放射は、例えば高周波用半導体素子から出力された高周波信号が給電線路5を伝搬し、給電スロット層4に設けられたスロット41を介して、高周波信号が電磁波として共振領域31を伝送されて表面導体層2の開口部21から放射されることによって行なわれる。アンテナ構造体における電磁波の受信は、表面導体層2の開口部21に入射された電磁波が共振領域31を伝送されて、給電スロット層4に設けられたスロット41を介して、給電線路5を伝搬することによって行なわれる。
【0019】
平面透視において複数のビア導体3の中心部を結ぶ線3aで示される部分が電磁波を閉じ込める実質的な導体壁となるため、複数のビア導体3によって囲まれた共振領域31において、電磁波の伝送特性は、複数のビア導体3の中心部を結ぶ線3aによって囲まれた領域の形状および大きさと誘電体基板1の誘電率とによって規定される。
【0020】
本実施形態のアンテナ構造体において、表面導体層2の開口部21の縁21aが、平面透視において、複数のビア導体3のうち隣り合うビア導体3のそれぞれの中心部を結ぶ線3aに沿って設けられていることによって、共振領域31の実質的な導体壁と表面導体層2の開口部21の形状とが一致して、共振領域31に伝送された電磁波をスムーズに空間に放射でき、または、空間から表面導体層2の開口部21に入射される電磁波を共振領域31にスムーズに伝送することができる。このように、本実施形態におけるアンテナ構造体は、表面導体層2の開口部21から放射される電磁波の損失または開口部21に入射される電磁波の損失を低減させることができる。
【0021】
本実施形態におけるアレイアンテナは、上述のアンテナ構造体を複数有しており、これら複数のアンテナ構造体がアレイ状に配置されていることによって、複数のアンテナ構造体における電磁波の損失を低減させることができる。
【0022】
(第2の実施形態)
図2(a)および(b)を参照して本発明の第2の実施形態におけるアンテナ構造体について説明する。第2の実施形態のアンテナ構造体において、第1の実施形態におけるアンテナ構造体と異なる構造は、表面導体層2の開口部21の縁21bの形状である。その他の構造は、第1の実施形態におけるアンテナ構造体と同様である。
【0023】
開口部21の縁21bは、第1の実施形態における縁21aと同様に平面透視において複数のビア導体3のうち隣り合うビア導体3のそれぞれの中心部を結ぶ線3aに沿って設けられており、さらに、平面透視において部分的に複数のビア導体3の形状に沿った形状を有している。図2(a)の部分拡大図に示されているように、開口部21の縁21bは、複数のビア導体3に対応する部分21cにおいてビア導体3の形状に沿った形状を有している。平面透視において、ビア導体3が円形状を有している場合、縁21bはビア導体3の形状に沿って部分的に半円の形状を有している。本実施形態において、縁21bが中心部を結ぶ線3aに沿っている構造とは、隣り合うビア導体3の間においては中心部を結ぶ線3aに重なっており、複数のビア導体3のそれぞれに対応する部分21cにおいてのみビア導体3の上面
の縁に重なっている構造を含むものである。
【0024】
本実施形態におけるアンテナ構造体は、上述の第1の実施形態におけるアンテナ構造体と同様に、表面導体層2の開口部21の縁21bが、平面透視において、複数のビア導体3のうち隣り合うビア導体3のそれぞれの中心部を結ぶ線3aに沿って設けられていることによって、共振領域31の実質的な導体壁と表面導体層2の開口部21の形状とが一致して、共振領域31に伝送された電磁波を表面導体層2の開口部21から空間へスムーズに放射でき、または、空間から表面導体層2の開口部21に入射される電磁波を共振領域31にスムーズに伝送することができる。このように、本実施形態におけるアンテナ構造体は、表面導体層2の開口部21から放射される電磁波の損失または開口部21に入射される電磁波の損失を低減させることができる。
【0025】
本実施形態のアンテナ構造体において、開口部21の縁21bが、平面透視において、複数のビア導体3に対応する部分21cにおいてビア導体3の形状に沿った形状を有していることによって、本実施形態におけるアンテナ構造体は、表面導体層2と複数のビア導体3との接合状態に関して向上されている。
【0026】
本実施形態におけるアレイアンテナは、上述のアンテナ構造体を複数有しており、これら複数のアンテナ構造体がアレイ状に配置されていることによって、複数のアンテナ構造体における電磁波の損失を低減させることができる。
【実施例】
【0027】
上述の第1および第2の実施形態におけるアンテナ構造体のアンテナ特性を、シミュレーションによって得られた反射係数S11および周波数の関係を示すグラフに基づいて評価した。シミュレーションに用いたアンテナ構造体のモデルは、以下の通りである。第1および第2の実施形態におけるアンテナ構造体は同様のアンテナ特性が得られるため、ここでは、第2の実施形態のアンテナ構造体における実施例のシミュレーション結果について説明する。
【0028】
本発明の実施例において、誘電体基板1は、材質をアルミナと想定し、比誘電率を約6とした。誘電体基板1の厚みのうち給電スロット層4および給電線路5の間の誘電体層の厚みを約0.1mmとして、表面導体層2および給電スロット層4の間の誘電体層の厚みを
約0.5mmとした。各導体材料は、材質をタングステン合金と想定し、導電率を約10×10
[S/m]とした。図3に示されているように、表面導体層2の外形寸法は、横方向の長さ2L1を1.8mm、縦方向の長さ2L2を2.7mmとし、開口部21の開口寸法は、横方向の長さ21L1を1.5mm、縦方向の長さ21L2を2.4mmとした。給電スロット層4のスロット41は、横方向の長さ41L1を0.2mm、縦方向の長さ41L2を1.7mmとし、貫通導体3の直径は0.1mmとした。給電線路5は、線幅5W1を0.13mmとした。表面導体層2
、共振領域31およびスロット4のそれぞれの中心点が一致しており、給電線路5は、スロット4の中心点に重なりかつスロット4に直交するように配置されている。スロット4の中心点から給電線路5の先端までの長さ5L1は0.6mmである。伝送される高周波信号
は、周波数が61.5GHzである。
【0029】
図4に比較例におけるアンテナ構造体を示している。比較例において、表面導体層2の開口部21の縁は、平面透視において、複数のビア導体3のうち隣り合うビア導体3のそれぞれの中心部を結ぶ線よりも内側に設けられている。比較例において、開口部21の開口寸法は、横方向の長さ21L3を1.34mm、縦方向の長さ21L4を2.24mmとした。比較例におけるその他の構成は、本発明における実施例と同様である。
【0030】
図5は、シミュレーションによって得られた反射係数S11および周波数の関係を示すグ
ラフである。図5(a)は、図3に示された本発明の実施例におけるアンテナ構造体のシミュレーション結果を示しており、図5(b)は、図4に示された比較例におけるアンテナ構造体のシミュレーション結果を示している。図5(a)および図5(b)において、縦軸が反射係数S11[dB]を示しており、横軸が周波数[GHz]を示している。図5(a)に示されているように、本発明の実施例において、反射係数S11が−10dB以下における帯域幅BWは、21.4GHzである。これに対して、図5(b)に示されているように、比較例において、反射係数S11が−10dB以下における帯域幅BWは、20.7GHzである。このように、本発明の実施例は、比較例に比べて、反射係数S11が−10dB以下における帯域幅BWが広く、放射または受信される電磁波の損失が低減されている。
【符号の説明】
【0031】
1 誘電体基板
2 表面導体層
21 開口部
3 ビア導体
31 共振領域
4 給電スロット層
41 スロット
5 給電線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、
該誘電体基板の上面に設けられており、電磁波が放射または入射される開口部を有している表面導体層と、
前記誘電体基板の内部において上下方向に設けられており、平面透視において環状に配置されており、前記表面導体層に電気的に接続されている複数のビア導体と、
前記表面導体層との間に前記複数のビア導体が介在するように前記誘電体基板の内部に設けられており、前記複数のビア導体に電気的に接続されており、平面透視において前記複数のビア導体によって囲まれた共振領域に重なるように設けられたスロットを有している給電スロット層と、
前記共振領域との間に前記スロットが設けられるように前記誘電体基板の下面または内部に設けられており、前記スロットと電磁気的に結合されている給電線路とを備えており、前記表面導体層の前記開口部の縁が、平面透視において、前記複数のビア導体のうち隣り合うビア導体のそれぞれの中心部を結ぶ線に沿って設けられていることを特徴とするアンテナ構造体。
【請求項2】
前記開口部の前記縁が、平面透視において、前記複数のビア導体に対応する部分において前記ビア導体の形状に沿った形状を有していることを特徴とする請求項1記載のアンテナ構造体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたアンテナ構造体を複数有しており、前記複数のアンテナ構造体がアレイ状に配置されていることを特徴とするアレイアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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