説明

アンテナ測定装置、遅延広がり制御方法

【課題】露出面積を制御する面積制御器を備えることにより、遅延広がりを制御可能とし、これにより所望の遅延広がりにおける被測定機器のスループット測定を行うことができるアンテナ測定装置を提供する。
【解決手段】反響チェンバ10と、反響チェンバ10内に壁アンテナ11、12、13と、攪拌器14、15と、損失性媒質16と、回転台17と、被測定機器9と、面積制御器20とを備え、面積制御器20により損失性媒質16の露出面積を変化させることで、損失性媒質16による電波の減衰・吸収度合いを異ならせて、反響チェンバ10内の電波伝搬特性を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェージング環境における携帯無線機器などのアンテナの性能を測定するアンテナ測定装置、遅延広がり制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェージング環境における携帯無線機器などのアンテナの性能を測定する従来技術として特許文献1のアンテナ測定装置などが知られている。特許文献1のアンテナ測定装置は、電磁波を反射する反射壁で内部を囲んだ箱を備え、箱内部には電磁界を攪拌する攪拌器を備えている。また、箱の外部には対向装置が備えられている。測定の対象となる被測定機器は箱内部に配置される。反射壁にはアンテナが設けられており、対向装置は反射壁に備えられたアンテナを介して被測定機器と無線通信を行う。このアンテナ測定装置により、フェージング環境を模擬することができ、フェージング環境を考慮したアンテナの性能を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−529983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のアンテナ測定装置では、所望の遅延広がりの条件で被測定機器のスループットを測定することができなかった。本発明は遅延広がりを制御でき、所望の遅延広がりにおける被測定機器のスループット測定を行うことのできるアンテナ測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のアンテナ測定装置は、少なくとも反響チェンバと、反響チェンバ内に配置され、電磁波を減衰させる損失性媒質と、損失性媒質の露出面積(以下、単に「露出面積」という)を制御する面積制御器とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のアンテナ測定装置によれば、露出面積を制御する面積制御器を備えることにより、遅延広がりを制御可能とし、これにより所望の遅延広がりにおける被測定機器のスループット測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1に係るアンテナ測定装置を示す斜視図。
【図2】実施例2に係るアンテナ測定装置を示す斜視図。
【図3】実施例2に係るアンテナ測定装置の構成を示すブロック図。
【図4】実施例2に係るアンテナ測定装置の動作を示すフローチャート。
【図5】実施例3に係るアンテナ測定装置を示す斜視図。
【図6】実施例3に係るアンテナ測定装置の構成を示すブロック図。
【図7】実施例3に係るアンテナ測定装置の動作を示すフローチャート。
【図8】実施例4に係るアンテナ測定装置の構成を示すブロック図。
【図9】実施例4に係るアンテナ測定装置の露出面積計算部の構成を示すブロック図。
【図10】実施例4に係るアンテナ測定装置の近似式取得動作を示すフローチャート。
【図11】実施例4に係るアンテナ測定装置の面積変更動作を示すフローチャート。
【図12】遅延広がりとスループットの関係を示すグラフ。
【図13】露出面積と遅延広がりの関係を示すグラフ。
【図14】露出面積と伝搬損失の関係を示すグラフ。
【図15】遅延広がりと減衰量の関係を示すグラフ。
【図16】測定周波数と係数αの関係を示すグラフ。
【図17】実施例3と実施例4の手法において測定に要する時間を比較するグラフ。
【図18】測定周波数と交差偏波電力比の関係を示すグラフ。
【図19】損失性媒質の位置を反響チェンバ内で異ならせて測定周波数と交差偏波電力比の関係を比較して示すグラフ。
【図20】損失性媒質の形状・材質を異ならせて伝搬損失と遅延広がりの関係を比較して示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0009】
図1を参照して実施例1に係るアンテナ測定装置の詳細を説明する。図1は本実施例に係るアンテナ測定装置100を示す斜視図である。アンテナ測定装置100は、反響チェンバ10を備える。アンテナ測定装置100は、反響チェンバ10内に壁アンテナ11、12、13と、攪拌器14、15と、損失性媒質16と、回転台17と、被測定機器9と、面積制御器20とを備える。以下、反響チェンバ10の側壁、天井面、床面を「壁」ともいう。反響チェンバ10の内壁は反射壁により構成されている。反射壁は、例えば金属箔を張りつけた板又は金属板などにより実現され、電磁波を反射する。この反響チェンバ10により三次元的に一様な所望のフェージング環境を模擬することができる。フェージング環境として代表的なものに例えばレイリーフェージング環境がある。反響チェンバ10としては特許文献1記載のものを使用することができる。反響チェンバ10は、この例では全体として直方体の形状をしているが、他の形状をしていてもよい。図示していないが、反響チェンバ10には、被測定機器9などを出し入れするためのドアが設けられている。このドアの内面も電磁波を反射する反射壁により構成される。反響チェンバ10内の天井面中央(内面)には壁アンテナ12が、2つの内側壁の上方部には壁アンテナ11、13が備えられている。本実施例では壁アンテナを3つとしたがこれに限られず、壁アンテナの数は任意の数とすることができる。壁アンテナ11、12,13は印加された電気信号に対応する電磁波を反響チェンバ10内部に放射する。また、必要に応じて被測定機器9が放射した電磁波を受信する。攪拌器14、15は、反響チェンバ10の任意の内壁面上の任意の直線と平行な向きに内壁面に沿って動作可能な反射板により構成されている。例えば攪拌器14、15の反射板は反響チェンバ10の任意の内壁およびその内壁に対向する内壁に互いに平行となるように固着されたレール上をモータ駆動などによって移動する。反射板は反射壁と同様に例えば金属箔を張りつけた板又は金属板などにより実現される。本実施例では攪拌器14は、反響チェンバ10の内側壁に、鉛直方向と垂直な向きに取り付けられたレール(図1の破線)上を移動する。攪拌器15は、反響チェンバ10内側壁に鉛直方向に取り付けられたレール(図1の破線)上を移動する。このようにして攪拌器14、15は反響チェンバ10内の電磁界を攪拌する。本実施例では攪拌器を2つとしたがこれに限られず、攪拌器の数は任意の数とすることができる。攪拌器14、15は図示しない制御装置と接続されており、この制御装置によってその動作を制御可能であるものとする。損失性媒質16は、本実施例においては反響チェンバ10内床面に設置されている。損失性媒質16は、反響チェンバ10内部に放射された電磁波を減衰・吸収する。本実施例では損失性媒質16は板状の形状をしているがこれに限られず、任意の形状とすることができる。回転台17は反響チェンバ10の床面に設置されている。回転台17は載せられたものを回転台17の回転軸周りに回転させることができる。本実施例では回転台17上に被測定機器9が設置され、被測定機器9は回転台17の回転軸周りに回転する。回転台17は回転台17の制御に必要な制御線などが絡まることを防止するために右回転と左回転を交互に繰り返す。回転台17は図示しない制御装置と接続されており、この制御装置によってその動作を制御可能であるものとする。反響チェンバ10内の床面には、面積制御器20が設置されている。本実施例では、面積制御器20は、反響チェンバ10内の床面に設置された板状の損失性媒質16の一部もしくは全部を覆うように動作させることができる。面積制御器20は、例えばモータ駆動などにより床面と平行な方向に制御可能な金属板などにより実現される。面積制御器20は損失性媒質16の一部もしくは全部を覆うように制御可能な金属板を移動させることにより、損失性媒質16の露出面積(以下、単に露出面積ともいう)を制御可能である。面積制御器20により損失性媒質16の露出面積を変化させることで、損失性媒質16による電波の減衰・吸収度合いを異ならせることができるため、反響チェンバ10内の電波伝搬特性を変化させることが可能である。本実施例のアンテナ測定装置100によれば、露出面積と反響チェンバ10内の遅延広がりの関係を予め求めておくことで、面積制御器20の制御により、反響チェンバ10内の遅延広がりを自在に制御することができる。
【実施例2】
【0010】
実施例1のアンテナ測定装置100の面積制御器20は、別途接続した制御器によって所望の遅延広がりに応じてその動作を制御できるように構成することもできる。以下に、面積制御器20を別途接続した制御器によって所望の遅延広がりに応じてその動作を制御できるように構成した実施例2に係るアンテナ測定装置200について図2、図3、図4を参照して詳細に説明する。図2は本実施例に係るアンテナ測定装置200を示す斜視図である。図3は本実施例に係るアンテナ測定装置200の構成を示すブロック図である。図4は本実施例に係るアンテナ測定装置200の動作を示すフローチャートである。本実施例のアンテナ測定装置200は新たに遅延広がり制御器30を備える点で、実施例1のアンテナ測定装置100と相違する。遅延広がり制御器30は、反響チェンバ10の外部にある。遅延広がり制御器30は、面積制御器20と制御線(図2の一点鎖線)で接続されており、この制御線を介して面積制御器20の動作を制御することができる。遅延広がり制御器30は、周波数・遅延広がり入力部31と、露出面積計算部32と、近似式記憶部36とを備える。遅延広がり制御器30は所望の遅延広がりと現在の測定周波数を入力できるような機器である必要があり、例えば専用のアプリケーションをインストール済みのコンピュータなどで実現できる。周波数・遅延広がり入力部31は、測定周波数と、所望の遅延広がりとを取得する(S31)。測定周波数とは壁アンテナ11〜13から出力され、反響チェンバ10内を伝搬して被測定機器9で受信されるアンテナ評価用電波の周波数を意味する。この測定周波数が異なれば、所望の遅延広がりと損失性媒質の露出面積との関係も変化する。従って、周波数・遅延広がり入力部31は、アンテナを評価する評価者が現在の測定周波数と、所望の遅延広がりとを入力することができるようなユーザインターフェースであるものとする。露出面積計算部32は、測定周波数、遅延広がり、及び露出面積の間に成り立つ近似式を用いて、周波数・遅延広がり入力部31が取得した測定周波数と、所望の遅延広がりとに基づいて、測定周波数における所望の遅延広がりに対応する露出面積を計算して、面積制御器20に面積制御信号を出力する(S32)。測定周波数、遅延広がり、及び露出面積の間に成り立つ近似式は、近似式記憶部36に予め保存されているものとする。近似式記憶部36はハードディスクなどで構成される。面積制御信号は、現在の面積制御器20の可動方向軸の座標および目標座標から算出した金属板の遷移量に対応するモータの回転角度などの情報を伝達して、面積制御器20のモータなどを適切に制御可能であるものとする。面積制御器20は、露出面積計算部32が出力した面積制御信号を取得して、当該取得した面積制御信号に基づいてモータなどを駆動させ、露出面積を制御する(S20)。
【0011】
このように、本実施例のアンテナ測定装置200は、実施例1の効果に加えて、反響チェンバ10内の遅延広がりをアンテナ評価者が所望する遅延広がりに正確に自動制御することが可能であり、アンテナ評価者の負担が軽減する。
【実施例3】
【0012】
実施例2のアンテナ測定装置200を動作させるためには、遅延広がり制御器30の露出面積計算部32が用いる近似式は別途の測定により予め取得され、予め近似式記憶部36に記憶されている必要がある。以下に、遅延広がり制御器30の露出面積計算部32が用いる近似式を別途の測定により取得することができるように構成した実施例3に係るアンテナ測定装置300について図5、図6、図7を参照して詳細に説明する。図5は本実施例に係るアンテナ測定装置300を示す斜視図である。図6は本実施例に係るアンテナ測定装置300の構成を示すブロック図である。図7は本実施例に係るアンテナ測定装置300の動作を示すフローチャートである。本実施例のアンテナ測定装置300は散乱係数測定器40、および基準アンテナ41を備える点、および遅延広がり制御器30’が遅延広がり制御器30にない構成を備える点でアンテナ測定装置200と相違する。壁アンテナ11〜13、散乱測定器40、基準アンテナ41は図5に示す細破線のように信号線で接続されており、信号のやり取りをすることができる。反響チェンバ10内に基準アンテナ41を設置し、この基準アンテナ41と壁アンテナ11〜13を介して散乱係数測定装置40からの信号を入出力し、入出力された信号を遅延広がり制御器30’が観測することで、反響チェンバ10内の遅延広がりや伝搬損失を測定することができる。ここで、散乱係数測定装置40が反響チェンバ10内に入力する信号はその周波数を変更可能であるものとする。図5では、被測定機器9の代わりに基準アンテナ41が設けられているが、これは近似式を取得するための構成であり、近似式取得動作後には基準アンテナ41を被測定機器9に置き換えて、所望の遅延広がりにおける被測定機器9のスループットを測定することができる。以下、遅延広がり制御器30’を中心にアンテナ測定装置300の動作を説明する。
【0013】
遅延広がり制御器30’は実施例2におけるアンテナ測定装置200の遅延広がり制御器30にない新たな構成として、遅延広がり測定部33、面積変更部34、近似式計算部35とを備える。遅延広がり測定部33は、散乱係数測定器40から信号を取得して、当該取得した信号に基づいて遅延広がりを測定する(S33)。面積変更部34は、遅延広がり測定部33の遅延広がり測定が終了した場合に、露出面積を現在と異なるパターンとする面積制御信号を面積制御器20に出力する。面積制御器20は面積制御信号を取得し、当該取得した面積制御信号が示す面積パターンになるように露出面積を制御する(S34)。ステップS33、ステップS34が予め定めた面積パターン全てについて繰り返し実行される(S30b、S30c)。面積パターンとしては例えば露出面積を0.0m〜1.0mの範囲で均等に5パターンとすることも可能であるし、他のパターンでもかまわない。この場合は、ステップS33、ステップS34はそれぞれの面積パターンについて繰り返されるため、計5回実行されることになる。遅延広がり測定部33が、予め設定した露出面積パターン全ての遅延広がり測定を終了した場合に、近似式計算部35は、当該遅延広がりと露出面積との関係を近似する近似式を計算する(S35)。近似式記憶部36は近似式計算部35が計算した近似式を記憶する(S36)。ステップS33、S34、ループS30b、S30c、ステップS35、S36が1回実行されれば、1つの測定周波数に対する近似式の取得が終了する。この場合、散乱係数測定器40は、反響チェンバ10内への入力信号の周波数を変更し、遅延広がり制御器30’は、測定周波数が変更された新たな環境下でステップS33、S34、ループS30b、S30c、ステップS35、S36を再度実行する。このようにして、予め定めた測定周波数の数分だけ、ステップS33、S34、ループS30b、S30c、ステップS35、S36は繰り返し実行される(S30a、S30d)。このようにして予め定めた((露出面積の面積パターン)×(測定周波数の数))回の遅延広がり測定が行われ、各測定周波数について近似式を得ることができる。遅延広がりの測定結果を図13に示す。図13は露出面積と遅延広がりの関係を示すグラフであって、縦軸を遅延広がり(μs)、横軸を露出面積(m)とし、周波数ごとに記号を分けて表示してある。図13では周波数6000、3000、1500、800MHzについて表示したが、測定周波数はこれに限られず、任意である。また、図13の例では、露出面積の面積パターンは0.0m〜0.9mの間の10パターンとした。図13より、800MHzから6000MHzの各周波数帯において損失性媒質16の露出面積の拡大に伴い、遅延広がりが低下する様子がわかる。
【0014】
遅延広がり測定部33が遅延広がりと露出面積との関係(図13)を測定し、近似式計算部35が当該測定されたデータを用いて遅延広がりと露出面積の間に成り立つ近似式を測定周波数ごとに計算し、近似式記憶部36が計算された近似式を測定周波数ごとに記憶しておくことで、遅延広がり制御に必要な近似式を自動で取得することができる。これにより、反響チェンバ10や損失性媒質16の材質、容量などが変更され、電波伝搬特性が変化した場合にも、新しい測定環境における遅延広がり制御を簡単に実現することができ、アンテナ評価者の利便性が向上する。
【実施例4】
【0015】
実施例3における遅延広がり制御器30’の遅延広がり測定部33が行う遅延広がり測定は、遅延ひろがりという物理量の特性上、1回の測定に時間がかかるという難点がある。さらに遅延広がりは測定周波数ごとにその測定を行わなくてはならず、これも測定時間の長大化につながる要因となる。一方、実施例3における散乱係数測定器40が入出力した信号を遅延広がり制御器30’が観測することで、遅延広がりだけでなく伝搬損失を測定することもできる。この伝搬損失は遅延広がりよりも1回の計測が短時間ですむことが特長である。また、伝搬損失については、全周波数帯域における伝搬損失測定を1回の測定で実現可能である、したがって、測定周波数毎に新たな測定を要する遅延広がりと比較して測定回数も少なくて済む。従って、遅延広がりを測定する代わりに伝搬損失の測定を行い、遅延広がりと伝搬損失との間に予め成り立つ関係を用いて、間接的に遅延広がりと露出面積の間に成り立つ関係を求めることが可能であれば近似式を取得するのに要する時間を大幅に削減することができる。以下に、遅延広がりを測定する代わりに伝搬損失の測定を行う実施例4に係るアンテナ測定装置400について図5、図8、図9、図10、図11を用いて詳細に説明する。図5は本実施例に係るアンテナ測定装置400を示す斜視図である。図8は本実施例に係るアンテナ測定装置400の構成を示すブロック図である。図9は本実施例に係るアンテナ測定装置400の露出面積計算部32’の構成を示すブロック図である。図10は本実施例に係るアンテナ測定装置400の近似式取得動作を示すフローチャートである。図11は本実施例に係るアンテナ測定装置400の面積変更動作を示すフローチャートである。ここで、図5は実施例3の説明に用いた図ではあるが、本実施例は実施例3とほぼ同じ構成であるので、図5については、アンテナ測定装置300の符号をカッコ内の数字400に、遅延広がり制御器30’の符号をカッコ内の数字30’’に読み替えて流用する。本実施例のアンテナ測定装置400は遅延広がり制御器30’’が実施例3の遅延広がり制御器30’にない構成を備える点でアンテナ測定装置300と相違する。遅延広がり制御器30’’は実施例3におけるアンテナ測定装置300の遅延広がり制御器30’にない新たな構成として、伝搬損失測定部37を備える。伝搬損失測定部37は実施例3における遅延広がり測定部33の代わりに備えられている。また遅延広がり制御器30’’は実施例3における露出面積計算部32と異なる機能を有する露出面積計算部32’を備える。露出面積計算部32’は、減衰量計算手段321と、面積計算手段322とを備える。以下、遅延広がり制御器30’’を中心にアンテナ測定装置400の動作を説明する。
【0016】
伝搬損失測定部37は、散乱係数測定器40から信号を取得して、当該取得した信号に基づいて伝搬損失を測定する(S37)。面積変更部34は、伝搬損失測定部37の伝搬損失測定が終了した場合に、露出面積を現在と異なるパターンとする面積制御信号を面積制御器20に出力する。面積制御器20は面積制御信号を取得し、当該取得した面積制御信号が示す面積パターンになるように露出面積を制御する(S34)。ステップS33、ステップS34が予め定めた面積パターン全てについて繰り返し実行される(S30b、S30c)。面積パターンは実施例3と同様に任意とすることができる。伝搬損失測定部37が、予め設定した露出面積パターン全ての伝搬損失測定を終了した場合に、近似式計算部35は、当該遅延広がりと露出面積との関係を近似する近似式を計算する(S35)。近似式記憶部36は近似式計算部35が計算した近似式を記憶する(S36)。ステップS37、S34、ループS30b、S30c、ステップS35、S36が1回実行されれば、全ての測定周波数に対する近似式の取得が終了する。このように、測定周波数を複数設定した場合でも測定回数が1回で済むことが、伝搬損失を測定対象とした場合の利点である。伝搬損失の測定結果を図14に示す。図14は露出面積と伝搬損失の関係を示すグラフであって、縦軸を伝搬損失(dB)、横軸を露出面積(m)とし、周波数ごとに記号を分けて表示してある。図14では周波数800、1500、3000、6000MHzについて表示したが、測定周波数はこれに限られず、任意である。また、図14の例では、露出面積の面積パターンは0.0m〜0.9mの間の10パターンとした。図14より、800MHzから6000MHzの各周波数帯において損失性媒質の露出面積の拡大に伴い、伝搬損失が増加(縦軸負方向の変化)、つまり基準アンテナ41での受信信号強度は低下する様子がわかる。従って、図13と図14の関係から遅延広がりと伝搬損失の間には相関があることが分かる。このように伝搬損失測定部37が伝搬損失と露出面積との関係(図14)を測定し、近似式計算部35が当該測定されたデータを用いて伝搬損失と露出面積の間に成り立つ近似式を測定周波数ごとに計算し、近似式記憶部36が計算された近似式を測定周波数ごとに記憶しておくことで、遅延広がり制御に必要な近似式を自動で取得することができる。
【0017】
以下に、周波数・遅延広がり入力部31に所望の遅延広がりと現在の測定周波数とが入力された後の露出面積計算部32’の動作を詳細に説明する。前述したように露出面積計算部32’は減衰量計算手段321と面積計算手段322とを備える。減衰量計算手段321は、損失性媒質が存在しないときの伝搬損失を1として測定周波数ごとに正規化した正規化伝搬損失(以下、「減衰量」という)を用いることを特徴とする。具体的には、減衰量計算手段321は、この減衰量と測定周波数と遅延広がりとの間に成り立つ近似式を用いる。図15に減衰量と遅延広がりの間に成り立つ関係について測定した結果を示す。図15は遅延広がりと減衰量の関係を示すグラフであって、縦軸を減衰量、横軸を遅延広がり(μs)とし、周波数ごとに記号を分けて表示してある。図15より、減衰量と遅延広がりには相関があることが分かる。減衰量と遅延広がりの間に成り立つ近似式は原点を通る1次式y=αxにて記述できる。図15では周波数800、2000、3000MHzのみを表示したが、図示していない他の測定周波数についても、減衰量と遅延広がりの間に成り立つ近似式はいずれも原点を通る1次式y=αxとなる。また近似式y=αxの傾きαについては、測定周波数と相関がある。近似式の傾きαと測定周波数との関係について測定した結果を図16に示す。図16は測定周波数と係数αの関係を示すグラフであって、縦軸を近似式の係数α、横軸を測定周波数(MHz)として表示している。図16からも明らかなように測定周波数と係数αの関係は次のような近似式で記述できる。
y=Ax+Bx+C
ただし、A=2.0×10−7、B=−0.0022、C=7.6052
従って、レベル表現とした減衰量(Lpath)と、測定周波数(f)と、遅延広がり(DS)との間に成り立つ近似式は、
path=10log(DS(Af+Bf+C))
で定められる。
【0018】
減衰量計算手段321は、周波数・遅延広がり入力部31が取得した測定周波数と、所望の遅延広がりとに基づいて、図15で示した減衰量と遅延広がりの間に成り立つ近似式により、測定周波数における所望の遅延広がりに対応する減衰量を計算する(S321)。例えば、周波数3000(MHz)のとき、所望の遅延広がりが0.2(μs)であれば、減衰量は図15の関係から約0.5であることが分かる。図15に表記されていない測定周波数についても近似式の係数αを図16の関係から求めることにより、対応する減衰量を求めることができる。次に、面積計算手段322は、減衰量計算手段321が計算した減衰量と、近似式記憶部36に記憶された近似式(具体的には、図14で説明した露出面積と伝搬損失との関係)とを用いて、測定周波数における所望の遅延広がりに対応する露出面積を計算して、面積制御器20に面積制御信号を出力する(S322)。
【0019】
このように、減衰量計算手段321が、図15の関係から所望の遅延広がりに対応する減衰量を計算し、求められた減衰量を介して、面積計算手段322が図14の関係から露出面積を求めることにより、測定に時間を要する露出面積と遅延広がりとの関係を直接測定することなく、測定に時間のかからない伝搬損失と露出面積との関係から、間接的に露出面積と遅延広がりとの関係を求めることができるため、遅延広がりに必要な近似式を短時間かつ自動で取得することができる。
【0020】
本実施例による測定時間の短縮効果を示す。図17は実施例3と実施例4の手法において測定に要する時間を比較するグラフである。図17は縦軸に実施例3、実施例4の二つを、横軸にそれぞれの測定時間(分)を表示している。実施例3では任意の周波数における露出面積と遅延広がりとの関係を測定するため約5分を要する。よって測定周波数の数がNの場合には5×N分を要することになる。一方、実施例4では全周波数帯域における伝搬損失が1回の測定で行われる。また、1回の測定に要する時間も1分程度である。従って、実施例3の測定時間と比較して、実施例4の測定時間は大幅に短縮される。
【0021】
<遅延広がりに対するスループット>
図12に遅延広がり(μs)とスループット(Mbps)との関係を測定した例を示す。図12は縦軸をスループット(Mbps)、横軸を遅延広がり(μs)としてプロットしたグラフである。この例では損失性媒質16の露出面積を変化させることで遅延広がりを変化させながら、MIMO対応無線LANの親機と子機の間のスループットを測定した。図12より、遅延広がりの拡大に伴いスループットが低下する様子が分かる。ここで、最大スループットが得られる遅延広がりに着目すると、遅延広がりを0.1(μs)以下とする必要があることが分かる。
【0022】
<損失性媒質16の配置による反響チェンバ10内到来波交差偏波電力比の変化>
反響チェンバ10は、被測定端末9の周辺に三次元一様分布するレイリーフェージング環境を生成する。到来波の偏波特性に着目した場合、到来波の交差偏波電力比(垂直偏波成分と水平偏波成分の比)は1となることが望ましい。ここで、図18に損失性媒質を配置したことによる交差偏波電力比への影響を示す。図18は測定周波数と交差偏波電力比の関係を示すグラフであって、縦軸を交差偏波電力比(dB)、横軸を測定周波数(MHz)として表示している。測定周波数の周波数帯は、交差偏波電力比の偏りが生じやすい800MHz帯とした。図18より、損失性媒質を配置した場合にも交差偏波電力比に偏りは生じず、概ね1(0dB)となることがわかる。つまり、高いスループットを得るために損失性媒質を配置した場合にも、反響チェンバ内の理想フェージング環境は維持されることが確認出来る。
【0023】
<損失性媒質16の位置>
実施例1〜実施例4では、反響チェンバ10内の回転台17横に損失性媒質16を配置した。しかしながら、損失性媒質16の位置を変えることが出来れば測定の自由度は向上する。そこで、損失性媒質16の位置を変更した場合の特性について検証を行なった。図19にその結果を示す。図19は損失性媒質16の位置を反響チェンバ10内で異ならせて測定周波数と交差偏波電力比の関係を比較して示すグラフである。図19は、図18と同様、縦軸を交差偏波電力比(dB)、横軸を測定周波数(MHz)として表示している。図19より、被測定機器9に対して見通し外となる回転台17下に被損失性媒質16を配置した場合にも、被測定機器9に対して見通しとなる回転台17横に配置した場合と同様、交差偏波電力比は概ね1(0dB)となることがわかる。つまり、損失性媒質16は反響チェンバ10内の任意の場所に配置できる。
【0024】
<損失性媒質16の形状・材質>
実施例1〜実施例4では、損失性媒質16の形状を板状とした。しかしながら、様々な形状の損失性媒質16を用いることができれば、測定の自由度は向上する。そこで、損失性媒質16の形状・材質を変えた場合の遅延広がりの変化について検証を行った。図20に結果を示す。図20は損失性媒質16の形状・材質を異ならせて伝搬損失と遅延広がりの関係を比較して示すグラフである。図20は、縦軸を遅延広がり(μs)、横軸を伝搬損失(dB)として表示している。図20より、損失性媒質16として立体形状を有するウレタン素材電波吸収体や擬似人体頭部を用いた場合にも、板状の損失性媒質16と同様の伝搬損失対遅延広がり特性が得られることがわかる。つまり、損失性媒質16には任意形状・材質を用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反響チェンバと、
前記反響チェンバ内に配置され、電磁波を減衰させる損失性媒質と、
前記損失性媒質の露出面積(以下、単に「露出面積」という)を制御する面積制御器と、
を備えることを特徴とするアンテナ測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアンテナ測定装置が、
遅延広がり制御器をさらに備え、
前記遅延広がり制御器が、
測定周波数と、所望の遅延広がりとを取得する周波数・遅延広がり入力部と、
前記測定周波数、前記遅延広がり、及び前記露出面積の間に成り立つ近似式を用いて、前記周波数・遅延広がり入力部が取得した測定周波数と、所望の遅延広がりとに基づいて、前記測定周波数における所望の遅延広がりに対応する露出面積を計算して、前記面積制御器に面積制御信号を出力する露出面積計算部とを備え、
前記面積制御器が、前記面積制御信号を取得して、当該取得した面積制御信号に基づいて、前記露出面積を制御すること
を特徴とするアンテナ測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載のアンテナ測定装置が、
遅延広がり制御器と、散乱係数測定器とをさらに備え、
前記遅延広がり制御器が、
前記散乱係数測定器から信号を取得して、当該取得した信号に基づいて伝搬損失を測定する伝搬損失測定部と、
前記伝搬損失測定部の伝搬損失測定が終了した場合に、前記露出面積を現在と異なるパターンとする面積制御信号を出力する面積変更部と、
前記伝搬損失測定部が、予め設定した露出面積パターン全ての伝搬損失測定を終了した場合に、当該伝搬損失と露出面積との関係を近似する近似式を測定周波数ごとに計算する近似式計算部と、
前記近似式計算部が計算した近似式を前記測定周波数ごとに記憶する近似式記憶部と
測定周波数と、所望の遅延広がりとを取得する周波数・遅延広がり入力部と、
露出面積計算部とを備え、前期露出面積計算部は、
前記損失性媒質が存在しないときの伝搬損失を1として前記測定周波数ごとに正規化した正規化伝搬損失(以下、「減衰量」という)と測定周波数と遅延広がりとの間に成り立つ近似式を用いて、前記周波数・遅延広がり入力部が取得した測定周波数と、所望の遅延広がりとに基づいて、前記測定周波数における所望の遅延広がりに対応する減衰量を計算する減衰量計算手段と、
前記減衰量計算手段が計算した減衰量と、前記近似式記憶部に記憶された近似式とを用いて、前記測定周波数における所望の遅延広がりに対応する露出面積を計算して、前記面積制御器に面積制御信号を出力する面積計算手段とを備えること
を特徴とするアンテナ測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載のアンテナ測定装置であって、
レベル表現とした減衰量(Lpath)と、前記測定周波数(f)と、前記遅延広がり(DS)との間に成り立つ近似式が、A、B、Cを任意の実数として
path=10log(DS(Af+Bf+C))
で定められること
を特徴とするアンテナ測定装置。
【請求項5】
請求項1に記載のアンテナ測定装置を用いた遅延広がり制御方法であって、
前記面積制御器を用いて前記露出面積を制御するステップを備えること
を特徴とする遅延広がり制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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