説明

アンテナ装置、通信装置

【課題】通信特性を維持しつつ、電子機器に組み込んだ際に電子機器の筐体の小型化を図ることが可能な通信装置を提供する。
【解決手段】 携帯電話機130のリーダライタ120に対向する筐体131面の外周部134にコイル線が巻回されたアンテナコイル11aと、磁性シート13とを備え、筐体131面の中心側では磁性シート13がアンテナコイル11aよりもリーダライタ120側に位置し、筐体131面の外周部134側ではアンテナコイル11aが磁性シート13よりもリーダライタ120側に位置するように配置して、アンテナコイル11aと磁性シート13とが互いに重畳され、アンテナコイル11aは、外周部134に沿った方向の両端部14a、14bのうち、少なくとも一方の端部14a、14bが折り返されて、筐体131面の垂直方向にコイル線が重畳するコイル線重畳部15a、15bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に組み込まれ、発信器から発信される磁界を受けて通信可能となるアンテナ装置及び通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの電子機器において、近距離非接触通信の機能を搭載するため、RFID(Radio Frequency Identification)用のアンテナモジュールが用いられている。
【0003】
このアンテナモジュールは、リーダライタなどの発信器に搭載されたアンテナコイルと誘導結合を利用して通信を行っている。すなわち、このアンテナモジュールは、リーダライタからの磁界をアンテナコイルが受けることによって、それを電力に変換して通信処理部として機能するICを駆動させることができる。
【0004】
アンテナモジュールは、確実に通信を行うため、リーダライタからのある値以上の磁束をアンテナコイルで受ける必要がある。そのために、従来例に係るアンテナモジュールでは、携帯電話機の筐体にループコイルを設け、このコイルでリーダライタからの磁束を受けている。
【0005】
ところが、携帯電話機などの電子機器に組み込まれたアンテナモジュールは、機器内部の基板やバッテリーパックなどの金属が、リーダライタからの磁界を受けることによって発生する渦電流のために、リーダライタからの磁束が跳ね返されてしまうため、ループコイルに届く磁束が少なくなってしまった。このようにしてループコイルに届く磁束が少なくなってしまうため、アンテナモジュールは、必要な磁束を集めるためにある程度の大きさのループコイルが必要となり、さらに、磁性シートを用いて磁束を増やすことも必要となる。
【0006】
上述したように、携帯電話機などの電子機器の基板に流れる渦電流によってリーダライタからの磁束が跳ね返されるが、電子機器の筐体表面には、基板の面方向に向いている磁界の成分があり、この成分を受けることによってアンテナとして機能するというものが特許文献1において提案されている。具体的に、特許文献1では、コイルの占有面積を少なくするため、フェライトコアにコイルを巻いたアンテナ構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−35464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、携帯電話機などの電子機器は基板などの比較的電気をよく流すものが使われているので、磁界を受けた基板に渦電流が発生することにより、磁界を跳ね返してしまう。例えば、携帯電話機の筐体表面で考えると、リーダライタからくる磁界は、筐体表面の外周部分が強くなり、筐体表面の真ん中付近が弱くなる傾向にある。
【0009】
通常のループコイルを用いるアンテナの場合、ループコイルは、その開口部が、上述した筐体表面の外周部分を通過する磁界をあまり受けることができない携帯電話機の中央部分に位置している。このため、通常のループコイルを用いるアンテナでは、磁界を受ける効率が悪くなっている。
【0010】
また、特許文献1に記載されたフェライトコアにコイルを巻いて、そのコイルを携帯電話機に組み込んだアンテナ構造では、フェライトコアの断面が磁束を集める面積になるので、フェライトコアの厚みが例えば1mm以上必要になり、携帯電話機の筐体が比較的厚い構造となってしまう。このため、比較的薄型の携帯電話機では、その内部に実装するのが難しい構造である。また、折りたたみ式の携帯電話機に搭載された液晶ディスプレイの裏側に、このアンテナモジュールを組み込む場合には、やはり薄いことが必要となるので、特許文献1に記載のアンテナ構造ではスペースを確保するのが難しい。
【0011】
RFID(Radio Frequency Identification)用のアンテナは、様々なものがある。携帯電話機に組み込まれるアンテナにおいても、電池パック外周に設置したもの、またカメラ周りや液晶の裏面側に配置したタイプなどがある。最近の携帯電話機は、スマートフォンに移行しているところであるが、さらにアンテナの小型化を要求されてきている。そのため、アンテナの小型化として筐体の金属を利用することによりアンテナの小型化を図っている。例えば上記特許文献1に記載されたアンテナは、アンテナコイルに磁性材を貫通した配置をとったものであるが、さらに小型化を実現することが望まれている。
【0012】
アンテナの通信特性は、一般的にアンテナとリーダライタ間の結合係数Kが大きいほうが上がることがわかっているが、アンテナサイズを小さくすると結合係数が低下して、結果として、通信特性が落ちる。そのため、アンテナのサイズを小さくすることは、通信特性を維持する観点から難しい。さらに、アンテナを携帯電話機内で電気的接続を行うためには、接続用のランドを設ける必要があるが、接続方法は携帯電話機の機構によって決まっており、例えば4mm□×2程度の面積をアンテナ上に儲けなくてはならいが、このこともアンテナの小型化を制約する要因となっている。
【0013】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、通信特性を維持しつつ、電子機器に組み込んだ際に電子機器の筐体の小型化を図ることが可能なアンテナ装置、及び、通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するため、本発明は、電子機器に組み込まれ、発信器から発信される磁界を受けて通信可能となるアンテナ装置であって、電子機器の発信器に対向する筐体面の外周部に配置され、発信器と誘導結合されるコイル線が巻回されたアンテナコイルと、アンテナコイルに発信器から発信される磁界を引き込む磁性シートとを備え、筐体面の中心側では磁性シートがアンテナコイルよりも発信器側に位置し、筐体面の外周側ではアンテナコイルが磁性シートよりも発信器側に位置するように配置して、アンテナコイルと磁性シートとが互いに重畳され、アンテナコイルは、外周部に沿った方向の両端部のうち、少なくとも一方の端部が折り返され、筐体面の垂直方向にコイル線の一部が少なくとも重畳するコイル線重畳部が形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、電子機器に組み込まれ、発信器から発信される磁界を受けて通信可能となる通信装置であって、電子機器の発信器に対向する筐体面の外周部に配置され、発信器と誘導結合されるコイル線が巻回されたアンテナコイルと、アンテナコイルに発信器から発信される磁界を引き込む磁性シートと、アンテナコイルに流れる電流により駆動し、発信器との間で通信を行う通信処理部とを備え、筐体面の中心側では磁性シートがアンテナコイルよりも発信器側に位置し、筐体面の外周側ではアンテナコイルが磁性シートよりも発信器側に位置するように配置して、アンテナコイルと磁性シートとが互いに重畳され、アンテナコイルは、外周部に沿った方向の両端部のうち、少なくとも一方の端部が折り返され、筐体面の垂直方向にコイル線の一部が少なくとも重畳するコイル線重畳部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、筐体面の中心側では磁性シートがアンテナコイルよりも発信器側に位置し、筐体面の外周側ではアンテナコイルが磁性シートよりも発信器側に位置するように配置して、アンテナコイルと磁性シートとが互いに重畳される。また、本発明は、アンテナコイルが、外周部に沿った方向の両端部のうち、少なくとも一方の端部が折り返され、筐体面の垂直方向にコイル線の一部が少なくとも重畳するコイル線重畳部が形成されている。
【0017】
このようにして、本発明は、外周部に沿ったアンテナコイルの幅を小さくしつつ、発信器と対向した電子機器の筐体面の外周部に生じる磁束を効率よくアンテナコイルに引き込むことができる。すなわち、本発明は、通信特性を維持しつつ、電子機器に組み込んだ際に電子機器の筐体の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明が適用された通信装置が組み込まれた無線通信システムの構成について説明するための図である。
【図2】図2は、携帯電話機の筐体内部に配置される通信装置の構成について説明するための図である。
【図3】図3は、本発明が適用された通信装置に係るアンテナ基板の断面図である。
【図4】図4(A)及び図4(B)は、実施例に係る通信装置のアンテナ基板の構造を説明するための図である。
【図5】図5は、比較例に係る通信装置のアンテナ基板の構造を説明するための図である。
【図6】図6(A)は、縦軸を通信距離とし横軸を実施例1及び比較例2としたグラフを示す図である。図6(B)は、縦軸を結合係数とし横軸をリーダライタとアンテナ基板との離間距離としたグラフを示す図である。
【図7】図7は、縦軸をQ値とし、横軸をコイル線重畳部の合計の幅としたグラフを示す図である。
【図8】図8(A)、図8(B)、図8(C)は、本発明が適用された通信装置に係るアンテナ基板の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0020】
本発明が適用された通信装置は、電子機器に組み込まれ、発信器から発信される磁界を受けて通信可能となる装置であって、例えば図1に示すようなRFID(Radio Frequency Identification)用の無線通信システム100に組み込まれて用いられる。
【0021】
無線通信システム100は、本発明が適用された通信装置1と、通信装置1に対するアクセスを行うリーダライタ120とから構成される。ここで、通信装置1とリーダライタ120とは、三次元直交座標系xyzのxy平面において互いに対向するように配置されているものとする。
【0022】
リーダライタ120は、xy平面において互いに対向する通信装置1に対して、+z軸方向に磁界を発信する発信器として機能し、具体的には、通信装置1に向けて磁界を発振するアンテナ121と、アンテナ121を介して誘導結合された通信装置1と通信を行う制御基板122とを備える。
【0023】
すなわち、リーダライタ120は、アンテナ121と電気的に接続された制御基板122が配設されている。この制御基板122には、一又は複数の集積回路チップ等の電子部品からなる制御回路が実装されている。この制御回路は、通信装置1から受信したデータに基づいて、各種の処理を実行する。例えば、制御回路は、通信装置1に対してデータを送信する場合、データを符号化し、符号化したデータに基づいて、所定の周波数(例えば、13.56MHz)の搬送波を変調し、変調した変調信号を増幅し、増幅した変調信号でアンテナ121を駆動する。また、制御回路は、通信装置1からデータを読み出す場合、アンテナ121で受信したデータの変調信号を増幅し、増幅したデータの変調信号を復調し、復調したデータを復号する。なお、制御回路では、一般的なリーダライタで用いられる符号化方式及び変調方式が用いられ、例えば、マンチェスタ符号化方式やASK(Amplitude Shift Keying)変調方式が用いられている。
【0024】
通信装置1は、例えばリーダライタ120とxy平面において対向するように配置される携帯電話機130の筐体131の内部に組み込まれ、誘導結合されたリーダライタ120との間で通信可能となるアンテナコイル11aが実装されたアンテナ基板11と、アンテナコイル11aに流れる電流により駆動し、リーダライタ120との間で通信を行う通信処理部12とを備える。
【0025】
アンテナ基板11には、例えばフレキシブルプリント基板などの可撓性の導線をパターンニング処理などをすることによって形成されるアンテナコイル11aと、アンテナコイル11aと通信処理部12とを電気的に接続する端子部11bとが実装されている。
【0026】
アンテナコイル11aは、リーダライタ120から発振される磁界を受けると、リーダライタ120と誘導結合によって磁気的に結合され、変調された電磁波を受信して、端子部11bを介して受信信号を通信処理部12に供給する。
【0027】
通信処理部12は、アンテナコイル11aに流れる電流により駆動し、リーダライタ120との間で通信を行う。具体的に、通信処理部12は、受信された変調信号を復調し、復調したデータを復号して、復号したデータを、当該通信処理部12が有する内部メモリに書き込む。また、通信処理部12は、リーダライタ120に送信するデータを内部メモリから読み出し、読み出したデータを符号化し、符号化したデータに基づいて搬送波を変調し、誘導結合によって磁気的に結合されたアンテナコイル11aを介して変調された電波をリーダライタ120に送信する。
【0028】
なお、本実施の形態では、無線通信を行う電磁波の周波数の具体例として、一般的な電磁誘導方式のRFIDの技術分野で用いられている13.56MHzを用いるものとする。
【0029】
<実施形態>
以上のような構成からなる無線通信システム100において、通信装置1の構成について説明する。
【0030】
通信装置1は、リーダライタ120と間の通信特性を維持しつつ、携帯電話機130などの電子機器に組み込んだ際に当該電子機器の小型化を実現する観点から、例えば、図2に示すような三次元直交座標系xyzのxy平面上であって、携帯電話機130の筐体131内の基板132上に配置される。図2では、携帯電話機130の筐体131内の基板132の一部の領域に、携帯電話機130を駆動するための電池パックを覆うための磁性シート133が配置されているものとする。
【0031】
通信装置1のアンテナコイル11aは、リーダライタ120との通信特性を維持するため、リーダライタ120からの磁界の強度が強いところに配置されることが好ましい。ここで、携帯電話機130の基板132は、電気を比較的よく流すので、外部から交流磁界が加わると渦電流が発生し、磁界を跳ね返してしまう。このような外部から交流磁界が加わるときの磁界分布を調べると、リーダライタ120と対向するように配置される携帯電話機130の筐体131の面における外周辺である4つの外周辺130a、130b、130c、130dの磁界が強い。
【0032】
このような携帯電話機130の筐体131内部の磁界強度の特性を利用して、通信装置1は、図2に示すように、上述した磁界が強い外周辺130a、130b、130c、130dのうち、例えば図2に示すように、外周辺130d側の外周部134に配置される。このようにして、通信装置1は、携帯電話機130の基板132上の磁界強度が比較的強い部位に配置することができる。
【0033】
通信装置1が配置される外周部134の磁界は、基板132の面方向、具体的には、基板132の中央部132aから外周辺130dへのy軸方向に向いている。通信装置1は、このような基板132の中央部132aから外周辺130dへの成分を効率よくアンテナコイル11aに引き込ませるため、図3に示すようにして配置され、アンテナコイル11aに重畳される磁性シート13を備える。
【0034】
ここで、図3は、xy平面上において磁性シート13が差し込まれたアンテナ基板11の断面図である。
【0035】
図3に示すように、通信装置1では、基板132の中央部132a側では磁性シート13がアンテナコイル11aよりもリーダライタ120側に位置するように配置され、基板132の外周辺130d側ではアンテナコイル11aが磁性シート13よりもリーダライタ120側に位置するように配置されるように、アンテナ基板11上に形成されたアンテナコイル11aの中央部分11cに差し込まれる。
【0036】
ここで、アンテナ基板11は、上述したようにフレキシブルプリント基板やリジットプリント基板などが用いられるが、特にフレキシブルプリント基板を用いることで、アンテナコイル11aの中央部分11cに切れ込み部を容易に形成することができ、この切れ込み部に磁性シート13を容易に差し込めることができる。このようにして、通信装置1は、容易に磁性シート13をアンテナ基板11に差し込むという観点から、フレキシブルプリント基板を用いてアンテナ基板11とすることが好ましい。すなわち、フレキシブルプリント基板を用いることで、当該通信装置1を容易に製造することができる。
【0037】
このようにして、通信装置1は、基板132の中央部132a側では、磁性シート13がアンテナコイル11aよりもリーダライタ120側に位置するように配置され、基板132の外周辺130d側ではアンテナコイル11aがリーダライタ120側に位置するように配置されることで、外周部134に生じる磁界を効率よくアンテナコイル11aに引き込ませることができる。
【0038】
さらに、通信装置1は、図4に示すように、通信特性を維持して、アンテナ基板11の小型化を実現するため、外周辺130dに沿った方向でのアンテナ基板11の端部14a、14bが折り返された形状となっている。
【0039】
ここで、図4(A)は、上記のような配置条件を満たして、磁性シート13をアンテナ基板11に差し込んだときの+z軸方向から見たxy平面の図である。また、図4(B)は、アンテナ基板11の2つの端部14a、14bを+z軸側に折り返したときの+z軸から−z軸への方向で見たxy平面の図である。
【0040】
すなわち、図4(B)に示すように、アンテナ基板11において、アンテナコイル11aは、外周辺130dに沿った方向の両方の端部14a、14bが+z軸側に折り返されて、z軸方向にコイル線が重畳するコイル線重畳部15a、15bが形成されている。
【0041】
なお、本発明が適用された通信装置は、上述したように、アンテナ基板11の両方の端部14a、14bを+z軸側に折り返す場合に限定されず、これらの端部14a、14bを−z軸側に折り返してコイル線重畳部を形成してもよい。特に、本発明が適用された通信装置は、端部14a、14bを+z軸側に折り返す、すなわち、コイル線重畳部が、発信器側と反対側に折り返されることで形成される方が次の点から好ましい。まず、筐体131においては、上述したように、通信装置1が配置される外周部134の磁界は、リーダライタ120により+z軸方向から受けて、その後、基板132の中央部132aから外周辺130dへの+y軸方向に向きが変えられた成分が大きい。このような磁束の強さを考慮すると、コイル線重畳部15a、15bのうち、中心側の磁性シート部分13aが、リーダライタ側からみて塞がれていない構造となっている方が、効率よくアンテナコイル11aに磁束を引き込む観点から望ましいからである。
【0042】
このように、通信装置1は、そのアンテナコイル11aにコイル線重畳部15a、15bが形成されているので、外周部134に沿った幅、例えば外周辺130dに沿ったアンテナコイル11aの幅を小さくしつつ、リーダライタ120と対向した基板132の外周部134に生じる磁束を効率よくアンテナコイル11aに引き込むことができる。
【0043】
<実施例1>
良好な通信特性を実現する点について、次の実施例1を用いて説明する。すなわち、実施例1に係る通信装置1は、図4(B)に示すような、アンテナコイル11aにコイル線重畳部15a、15bが形成されたものである。また、実施例1に係る通信装置1は、アンテナコイル11aを折り曲げる前の状態で、図4(A)に示すx軸方向に規定される幅d1を50mmとし、アンテナコイル11aの両端部14a、14bをそれぞれx軸方向に5mmずつ折り曲げてコイル線重畳部15a、15bを形成し、図4(B)に示すx軸方向に規定される幅d2を40mmとしたものである。なお、折り曲げ後の形状を考慮して、実施例1に係る通信装置1は、磁性シート13のx軸方向で規定される幅を40mmとした。
【0044】
これに対して、比較例1に係る通信装置200は、図5に示すように、アンテナ基板211上に形成されたアンテナコイル211aに磁性シート213を単に差し込んだ構造を有し、アンテナコイル211aのx軸方向に規定される幅d3を40mmとしたものである。
【0045】
このように実施例1と比較例1では、アンテナコイル11a、211aのx軸方向の幅が同一のものである。また、アンテナコイル11a、211aは、導線部として幅が35μmのCuと、絶縁部として幅が25μmのPIとから構成されるフレキシブルプリント基板に、巻線数が2として実装されるものとする。また、磁性シート13、213は、複素透磁率μ'=110、厚みt=200μmのフェライトを用いるものとする。
【0046】
以上のような条件の下、実施例1及び比較例1に係るアンテナコイル11a、211aの特性を次のように測定した。
【0047】
アンテナコイルの静特性として、信号周波数が13.56MHzのときの、インダクタンスと抵抗とを、Agilent4294Aにより測定した。また、通信特性を評価するため、リーダライタ120としてソニー社製のS−RC461Cを、通信装置1、200の通信処理部としてソニー社製IMA03を、それぞれ用いて通信可能距離を測定した。また、実際に携帯電話機130などの電子機器に通信装置1、200が組み込まれることを考慮するため、アンテナ基板11、211に対して、ステンレス(SUSともいう。)板を、厚み方向、すなわち+z軸方向に2mm離れた位置に配置した。
【0048】
測定結果を、下記の表1に示す。また、縦軸を通信可能距離とし横軸を実施例1及び比較例2としたグラフを図6(A)に示す。さらに、縦軸を結合係数とし横軸をリーダライタ120とアンテナ基板との離間距離としたグラフを図6(B)に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1中で、Q値とは、周波数に対応する角速度をωとしたとき(ωL)/Rで表される値である。具体的には、通信特性は、Q値と結合係数Kとの積で評価することができる。
【0051】
表1及び図6から明らかなように、実施例1に係る通信装置1は、略同一の寸法を有する比較例1に係る通信装置200に比べて通信特性が良い。このように、実施例1に係る通信装置1が、比較例1に係る通信装置200に比べて良好な通信特性を実現できるのは、コイル線重畳部15a、15bが形成されているからである。
【0052】
まず、結合係数Kについては、図6(B)に示すように、実施例1のアンテナコイル11aの方が、比較例1のアンテナコイル211aよりも値が高い。これは、アンテナコイル11aの方がアンテナコイル211aよりもコイル線の全長が長く、実施例1の方が比較例1に比べて、磁束が通過するアンテナコイルの面積が大きいからである。また、コイル線重畳部15a、14bのうち、基板132の中央部132a側の部分が磁性シート13を挟んでコイル線がz軸方向に重畳されていることに起因して、インダクタンスLについて、比較例1に比べて実施例1の方が高いからである。結果として、実施例1の方が比較例1に比べて結合係数が高い。
【0053】
また、Q値については、実施例1のアンテナコイル11aと、比較例1のアンテナコイル211aとでは略同等の値となる。これは、コイル線重畳部15a、15bのうち、基板132の外周辺130d側の部分が磁性シート13を介することなくコイル線がz軸方向に重畳されていることに起因して、抵抗値Rについて、比較例1に比べて実施例1の方が高くなるが、上述したように、インダクタンスLについて、比較例1に比べて実施例1の方が高い。この結果として、Q値については、実施例1のアンテナコイル11aと、比較例1のアンテナコイル211aとでは略同等の値となる。
【0054】
<実施例2>
上記の実施例1と比較例1とでは、両方ともアンテナコイル11a、211aの巻線数を2としたが、本発明が適用された通信装置1は、巻線数に拘わらず、コイル線重畳部15a、15bを有さない略同一の寸法の比較例に係る通信装置と比べて、良好な通信特性を実現することができる。
【0055】
すなわち、実施例2に係る通信装置1は、図4(B)に示すような、アンテナコイル11aにコイル線重畳部15a、15bが形成されたものである。また、実施例2に係る通信装置1は、アンテナコイル11aを折り曲げる前の状態で、図4(A)に示すx軸方向に規定される幅d1を40mmとし、アンテナコイル11aの両端部14a、14bをそれぞれx軸方向に5mmずつ折り曲げてコイル線重畳部15a、15bを形成し、図4(B)に示すx軸方向に規定される幅d2を30mmとしたものである。なお、折り曲げ後の形状を考慮して、実施例2に係る通信装置1は、磁性シート13のx軸方向で規定される幅を30mmとした。
【0056】
これに対して、比較例2に係る通信装置200は、図5に示すように、アンテナ基板211上に形成されたアンテナコイル211aに磁性シート213を単に差し込んだ構造を有し、アンテナコイル211aのx軸方向に規定される幅d3を30mmとしたものである。
【0057】
このように実施例2と比較例2とでは、アンテナコイル11a、211aのx軸方向の幅が同一のものである。また、アンテナコイル11a、211aは、導線部として幅が35μmのCuと、絶縁部として幅が25μmのPIとから構成されるフレキシブルプリント基板に、巻線数が実施例2で5、比較例2で6としてアンテナコイルのインダクタンスをほぼ同等にして実装されるものとする。また、磁性シート13、213は、複素透磁率μ'=110、厚みt=200μmのフェライトを用いるものとする。
【0058】
以上のような条件の下、実施例2及び比較例2に係るアンテナコイル11a、211aの特性を次のように測定した。
【0059】
アンテナコイルの静特性として、信号周波数が13.56MHzのときの、インダクタンスと抵抗とを、Agilent4294Aにより測定した。また、通信特性を評価するため、リーダライタ120としてソニー社製のS−RC461Cを、通信装置1、200の通信処理部としてソニー社製IMA03を、それぞれ用いて通信可能距離を測定した。また、実際に携帯電話機130などの電子機器に通信装置1、200が組み込まれることを考慮するため、アンテナ基板11、211に対して、ステンレス(SUSともいう。)板を、厚み方向、すなわち+z軸方向に2mm離れた位置に配置した。
【0060】
測定結果を、下記の表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
上記の表2から明らかなように、実施例2に係る通信装置1は、略同一の寸法を有する比較例2に係る通信装置200に比べて通信特性が良い。このように、実施例2に係る通信装置1が、比較例2に係る通信装置200に比べて良好な通信特性を実現できるのは、コイル線重畳部15a、15bが形成されているためである。ここで、アンテナコイルの巻線数の違いに起因して実施例2の方が比較例2に比べてQ値の値が低い。しかしながら、実施例2の方が比較例2に比べて磁束が通過するアンテナコイルの面積が大きいため、結合係数は、実施例2のアンテナコイル11aの方が、比較例2のアンテナコイル211aよりも値が高い。このようなQ値と結合係数との関係から、結果として、実施例2に係る通信装置1が、比較例2に係る通信装置200に比べて良好な通信特性を実現できる。
【0063】
以上のように、実施例1、2の測定値から明らかなように、本発明が適用された通信装置1は、外周部に沿ったアンテナコイル11aの幅、換言すれば、アンテナ基板11の幅を小さくしつつ、リーダライタ120と対向した電子機器である携帯電話機130の筐体131の面の外周部134に生じる磁束を効率よくアンテナコイル11aに引き込むことができる。
【0064】
<実施例3>
次に、アンテナコイル11aの折り曲げ幅を変化させたときの通信特性の変化について説明する。ここで、アンテナコイル11aの折り曲げ幅とは、具体的に、コイル線重畳部15a、15bの合計の幅である。具体的に、図4(A)に示すような、端部を折り返さない状態のアンテナコイル11a全体の幅d1に対するコイル線重畳部15a、15bの合計の幅の比を変化させたときの通信特性について評価する。
【0065】
アンテナコイル11aを折り曲げる前の形状において、図4(A)に示すx軸方向に規定される幅d1を50mmとする。そして、アンテナコイル11aの両端部14a、14bをそれぞれx軸方向に合計5mm、10mm、15mm、20mm折り曲げてコイル線重畳部15a、15bをそれぞれ形成したものを実施例31、32、33、34とする。なお、折り曲げ後の形状を考慮して、実施例31、32、33、34に係る通信装置1では、磁性シート13のx軸方向で規定される幅をそれぞれ45mm、40mm、35mm、30mmとした。
【0066】
これに対して、比較例3に係る通信装置200は、図5に示すように、アンテナ基板211上に形成されたアンテナコイル211aに磁性シート213を単に差し込んだ構造、すなわち折り曲げ幅が0mmである構造を有し、アンテナコイル211aのx軸方向に規定される幅d3を40mmとしたものである。
【0067】
このように実施例31、32、33、34及び比較例3では、アンテナコイル11a、211aのx軸方向の幅が同一のものである。また、アンテナコイル11a、211aは、導線部として幅が35μmのCuと、絶縁部として幅が25μmのPIとから構成されるフレキシブルプリント基板に、巻線数が3として実装されるものとする。また、磁性シート13、213は、複素透磁率μ'=110、厚みt=200μmのフェライトを用いるものとする。
【0068】
以上のような条件の下、実施例31、32、33、34及び比較例3に係るアンテナコイル11a、211aの特性を次のように測定した。
【0069】
アンテナコイルの静特性として、信号周波数が13.56MHzのときの、インダクタンスと抵抗とを、Agilent4294Aにより測定した。また、通信特性を評価するため、リーダライタ120としてソニー社製のS−RC461Cを、通信装置1、200の通信処理部としてソニー社製IMA03を、それぞれ用いて通信可能距離を測定した。また、実際に携帯電話機130などの電子機器に通信装置1、200が組み込まれることを考慮するため、アンテナ基板11、211に対して、ステンレス(SUSともいう。)板を、厚み方向、すなわち+z軸方向に2mm離れた位置に配置した。
【0070】
測定結果を、下記の表3に示す。また、縦軸をQ値とし、横軸をコイル線重畳部15a、15bの合計の幅としたグラフを図7に示す。表3には、比較例3に係るアンテナコイルの特性を示している。
【0071】
【表3】

【0072】
上記の表3と、図7から明らかなように、実施例32、すなわち折り曲げ幅が10mmの場合が、もっともQ値が大きく、この折り曲げ幅から離れるのに伴ってQ値の値が単調に減少するので、結果として実施例32がもっとも良好な通信特性を実現できることがわかる。また、より小型化を実現する観点から、折り曲げ幅がより大きい方が好ましい。表3の結果から明らかなように、例えば、コイル線重畳部を有さないアンテナコイルと比べてQ値が高いという点において、より良い通信特性を実現するには、端部を折り返さない状態のアンテナコイル11a全体の幅d1に対するコイル線重畳部15a、15bの合計の幅の比が略0.3以下であることが好ましい。
【0073】
また、本発明が適用された通信装置は、必ずしもアンテナコイルの両方の端部を折り返して、コイル線重畳部を形成するものに限定されない。すなわち、コイル線重畳部は、少なくとも一方の端部が折り返されて、筐体面の垂直方向にコイル線の一部が少なくとも重畳していればよい。例えば、図8(A)〜図8(C)に示す変形例のように、アンテナコイル11aの端部14a、14bのうち、例えば一方の端部14aのみを折り曲げてコイル線重畳部15aを形成し、他方の端部14bに、通信処理部12とを電気的に接続する端子部11bを設けるようにしてもよい。ここで、例えば、図8(A)は端部14bのy軸方向直下に端子部11bを設けた構造を示している。図8(B)は端部14bのy軸方向直下にコイル線を引き出し、更にx軸方向にコイル線を引き出して端子部11bを設けた構造を示している。図8(C)は、x軸方向に対して対称となるように端部14bからコイル線を引き出して、それぞれ端子部11bを構成する2つの端子11b1、11b2を設けた構造を示している。
【0074】
このように、通信装置1は、外周部134に沿った方向の両端部14a、14bのうち、一方の端部14aにコイル線重畳部15aを形成し、他方の端部に接続用の端子部11bを形成した構造を採用することで、両方の端部にコイル線重畳部を形成した構造に比べて、アンテナ基板11と通信処理部12とを容易に接続することができる点で特に好ましい。
【符号の説明】
【0075】
1、200 通信装置、11 アンテナ基板、11a、211a アンテナコイル、11b 端子部、11b1、11b2 端子11c 中央部分、12 通信処理部、13、133、213 磁性シート、14a、14b 端部、15a、15b コイル線重畳部、100 無線通信システム、120 リーダライタ、121 アンテナ、122 制御基板、130 携帯電話機、130a−130d 外周辺、131 筐体、132 基板、132a 中央部、134 外周部、 アンテナコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器に組み込まれ、発信器から発信される磁界を受けて通信可能となるアンテナ装置において、
上記電子機器の上記発信器に対向する筐体面の外周部に配置され、該発信器と誘導結合されるコイル線が巻回されたアンテナコイルと、
上記アンテナコイルに上記発信器から発信される磁界を引き込む磁性シートとを備え、
上記筐体面の中心側では上記磁性シートが上記アンテナコイルよりも上記発信器側に位置し、該筐体面の外周側では該アンテナコイルが該磁性シートよりも該発信器側に位置するように配置して、該アンテナコイルと該磁性シートとが互いに重畳され、
上記アンテナコイルは、上記外周部に沿った方向の両端部のうち、少なくとも一方の端部が折り返されて、上記筐体面の垂直方向に上記コイル線の一部が少なくとも重畳するコイル線重畳部が形成されていることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
上記アンテナコイルは、上記外周部に沿った方向の両端部のうち、一方の端部に上記コイル線重畳部が形成され、他方の端部に当該アンテナ装置の接続端子部が形成されていることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
上記コイル線重畳部は、上記発信器側と反対側に折り返されていることを特徴とする請求項2記載のアンテナ装置。
【請求項4】
上記アンテナコイルは、上記外周部に沿った方向を基準としたとき、上記端部を折り返さない状態の当該アンテナコイル全体の幅に対する上記コイル線重畳部の合計の幅の比が、略0.3以下であることを特徴とする請求項3記載のアンテナ装置。
【請求項5】
電子機器に組み込まれ、発信器から発信される磁界を受けて通信可能となる通信装置において、
上記電子機器の上記発信器に対向する筐体面の外周部に配置され、該発信器と誘導結合されるコイル線が巻回されたアンテナコイルと、
上記アンテナコイルに上記発信器から発信される磁界を引き込む磁性シートと、
上記アンテナコイルに流れる電流により駆動し、上記発信器との間で通信を行う通信処理部とを備え、
上記筐体面の中心側では上記磁性シートが上記アンテナコイルよりも上記発信器側に位置し、該筐体面の外周側では該アンテナコイルが該磁性シートよりも該発信器側に位置するように配置して、該アンテナコイルと該磁性シートとが互いに重畳され、
上記アンテナコイルは、上記外周部に沿った方向の両端部のうち、少なくとも一方の端部が折り返され、上記筐体面の垂直方向に上記コイル線が重畳するコイル線重畳部が形成されていることを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−77967(P2013−77967A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216454(P2011−216454)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000108410)デクセリアルズ株式会社 (595)
【Fターム(参考)】