説明

アンテナ装置

【課題】 共振周波数のずれによる性能劣化を低減することができる、広範囲での安定した通信が可能なアンテナ装置を提供する。
【解決手段】 通信ライン3に並列に接続され、通信ライン3を介してそれぞれに電力が供給されるアンテナ12、14と、アンテナ12のインダクタンスと共振を持つように構成された直列共振回路11と、アンテナ14のインダクタンスを通信ライン3のインピーダンスと整合させるためのインピーダンス整合回路13とを有する。アンテナ12、14は、ターン方向が同一のループアンテナよりなり、該ループアンテナの中心位置が同一軸上にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触ICカードリーダライタのアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カードにICチップを埋め込んだ非接触ICカード(以下、単にICカードと呼ぶ。)との間で電波を用いて電力および信号をやり取りする非接触ICカードリーダライタ(以下、単にリーダライタと呼ぶ。)が知られている。最近では、このICカードおよびリーダライタを利用した様々なシステムが提案され実用化されている。その代表的なものに、認証システムや自動改札機などがある。
【0003】
リーダライタは、本体装置とこれに接続されるアンテナ装置とからなる。アンテナ装置には、ループアンテナが用いられる(特許文献1参照)。図6に、ループアンテナの一例を示す。図6を参照すると、ループアンテナは、プリント基板上にループ状の配線を形成してなるコイル100と、抵抗およびコンデンサから構成される同調回路(共振回路)200とからなる。コイル100の両端は、同調回路(共振回路)200を介して本体装置側の電力増幅回路に接続されている。電力増幅回路からコイル100に電力が供給されることで、ループアンテナから電波が放射される。
【特許文献1】特開2002−353725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したリーダライタにおいて、ICカードとの間で安定した広範囲の通信を実現するためには、空中線出力をできるだけ大きくして通信距離を長くする必要がある。ループアンテナのコイルに供給される電力を大きくすることで、空中線出力を大きくすることができるが、この場合は、電波障害等の問題が懸念される。特に、リーダライタには、電波法により規定される微弱無線局や高周波利用設備(具体的には誘導式読み書き通信設備)が適用されることから、電界強度がその規定範囲を超えることは許されない。
【0005】
通信距離を長くするという観点からすれば、比較的に通信距離の長い、直列共振による駆動方式のアンテナを用いることが望ましい。しかしながら、このようなループアンテナにおいては、共振時には磁界強度が最大となって遠方まで通信を行うことができるが、アンテナ近傍に金属があると、その金属の影響によりアンテナの共振周波数がずれてしまい、その結果、磁界強度が低下してアンテナ性能が劣化する、という問題がある。金属の他、ICカードによっても共振周波数のずれが生じる。すなわち、ICカードは、リーダライタ側のアンテナ装置からの電波を受信するためのアンテナを備えているため、このICカードをリーダライタのアンテナ装置に近づけると、相互インダクタンスによりアンテナの共振周波数がずれることになる。この場合も、磁界強度が低下してアンテナ性能が劣化する。
【0006】
電力供給回路の出力インピーダンスとアンテナのインピーダンスとの整合をとることで、ICカードや金属による影響を受け難いアンテナとすることができる。しかし、このようなインピーダンス整合をとるアンテナの場合は、上記直列共振による駆動方式のアンテナと比べて、アンテナからの磁界強度が小さいため、どうしても通信距離が短くなる、という問題がある。
【0007】
本発明の目的は、上記問題を解決し、共振周波数のずれによるアンテナ性能の劣化を低減することができる、広範囲での安定した通信が可能なアンテナ装置およびそれを備える非接触ICカード用リーダライタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のアンテナ装置は、通信ラインに並列に接続され、該通信ラインを介してそれぞれに電力が供給される第1および第2のアンテナと、前記第1のアンテナのインダクタンスと共振を持つように構成された直列共振回路と、前記第2のアンテナのインダクタンスを前記通信ラインのインピーダンスと整合させるためのインピーダンス整合回路とを有し、前記第1および第2のアンテナは、ターン方向が同一のループアンテナよりなり、該ループアンテナの中心位置が同一軸上にあることを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、第1および第2のアンテナは、ターン方向が同一のループアンテナよりなり、該ループアンテナの中心位置が同一軸上にあるように構成されているので、アンテナ装置全体において発生する磁界は、第1および第2のアンテナから発生した磁界を加算したものとなる。このため、1つのアンテナより構成されるものと比較して、より大きな発生磁界を得られ、通信距離をより長いものとすることが可能である。
【0010】
また、金属やICカードが近くにない場合は、直列共振回路を備える第1のアンテナにおいて、共振周波数にずれを生じることなく通信を行うことができる。よって、第1のアンテナによる広範囲での通信が可能である。
【0011】
一方、金属やICカードが近くにある場合は、共振周波数のずれにより、上記のような第1のアンテナによる通信距離の拡大は見込めないものの、第2のアンテナによる安定した通信が可能である。すなわち、第2のアンテナにおいては、インピーダンス整合回路によって通信ラインのインピーダンスとの整合がとられているので、金属やICカードが近くにあってもその影響を受け難い。
【0012】
本発明の非接触ICカードリーダライタは、上記のアンテナ装置と、通信ラインを介して前記アンテナ装置に電力を供給する送信回路とを有し、前記送信回路の出力インピーダンスが前記通信ラインのインピーダンスと整合するように構成されていることを特徴とする。この構成においても、上記アンテナ装置と同様の作用を奏し、ICカードとの間で広範囲での安定した通信が可能となっている。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、直列共振で駆動される第1のアンテナおよびインピーダンス整合が取られた第2のアンテナのそれぞれ利点を活かすことで、通信距離を長くすることができるとともに、金属やICカードが近くにある場合でも、安定した通信を行うことができる。よって、従来に比べて、より広範囲で、安定した通信を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態であるアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。このアンテナ装置は、非接触ICカードリーダライタに適用されるものであって、リーダライタ本体に設けられた制御部2に特定のインピーダンス(高周波の場合は50Ω)の通信ライン3を介して接続されたアンテナ部1よりなる。
【0016】
アンテナ部1は、アンテナ12が接続された直列共振回路11と、アンテナ14が接続されたインピーダンス整合回路13とを通信ライン3に並列に接続したものである。制御部2は、アンテナ12、14における電波の送受信を制御する部分であって、通信ライン3に並列に接続された送信回路11および受信回路12を有する。送信回路11は、通信ライン3を介してアンテナ12、14のそれぞれに電力を供給して、予め設定された搬送波周波数での信号の送信を行う。受信回路12は、ICカードからの信号をアンテナ12、14にて受信するための処理を行う。送信回路21の出力インピーダンスは、通信ライン3のインピーダンスに一致するように設定されている。
【0017】
アンテナ12、14は、左回りまたは右回りに巻かれたループアンテナであり、それぞれのループアンテナのターン方向(左回りまたは右回り)は同一とされている。また、アンテナ12、14のループ中心位置は同一軸上にある(またはループアンテナ12、14の中心軸が同一とされている。)。
【0018】
図2に、アンテナ12、14の一例を示す。図2を参照すると、アンテナ12、14はともに内側から外側に向かって左回りに巻かれたループコイルよりなり、それぞれのループ中心位置12a、14aは同一の直線A上に位置する(互いのコイルの中心軸が直線となるように配置されている)。アンテナ12、14のループコイルの巻き数(ターン数)およびアンテナサイズ(ループコイルの直径または半径もしくは面積)は、同じであっても、異なっていてもよい。このようなアンテナ12、14は、ループ状の導体よりなる通常のループアンテナの他、プリント基板上にループ状の導線を形成してなるループアンテナにより構成することができる。
【0019】
直列共振回路11は、アンテナ12のインダクタンスと共振を持つように構成されている。インピーダンス整合回路13は、アンテナ14のインダクタンスを通信ライン3のインピーダンスと整合させるためのものである。図3に、直列共振回路11およびインピーダンス整合回路13の回路構成を具体的に示す。
【0020】
図3を参照すると、直列共振回路11は、ダンピング抵抗R1と、コイルL1(インダクタンス)で表わされるアンテナ12を直列共振させるためのコンデンサC1とを直列に接続した回路である。この直列共振回路11の共振周波数(fr)は、以下の式で求められる。
【0021】
fr=1/{2π(C1×L1)1/2
例えば、搬送波周波数を13.56MHzとした場合、共振周波数frが13.56MHzとなるように直列共振回路11を決定する。このときのインピーダンス特性を図4に示す。図4から分かるように、共振時(13.56MHz時)は、インピーダンスがダンピング抵抗R1の最小値となって、コイルL1に流れる電流が最大となる。その結果、アンテナ11から発生する磁界強度が最大となる。
【0022】
インピーダンス整合回路13は、アンテナ14のインダクタンス(コイルL2)と通信ライン3のインピーダンスZ0の整合を取るものであって、通信ライン3とコイルL2とを接続するラインに対して、コンデンサC2を直列接続し、コンデンサC3を並列接続した回路よりなる。これらコンデンサC2、C3の回路により、インピーダンスが通信ライン3と同一となるように整合させている。このようにインピーダンス整合回路13により、通信ライン3のインピーダンスZ0とアンテナ14側のインピーダンスZ2の整合を取ることで、送信回路21の出力が最も効率良くアンテナ14へ伝送されることになる。
【0023】
上述のように構成した本実施形態のアンテナ装置では、直列共振回路11を備えたアンテナ12と、インピーダンス整合回路13を備えたアンテナ14とを併用することで、広範囲での安定した通信が可能である。以下に、その理由を具体的に説明する。
【0024】
通信ライン3に接続されるアンテナ部1のインピーダンスZ3(通信ライン3側からみたアンテナ部1の入力インピーダンス)は、以下のように与えられる。
【0025】
Z3=(Z1×Z2)/(Z1+Z2)
Z1:アンテナ12側のインピーダンス
Z2:アンテナ14側のインピーダンス
アンテナ12、14からの発生磁界は、それぞれのインピーダンスZ1、Z2によって決まる。また、アンテナ12、14は、互いのターン方向が同一で、ループ中心位置も同じであることから、アンテナ部1全体で発生する磁界は、それぞれのアンテナ12、14から発生した磁界を加算したものとなる。
【0026】
通常の通信条件(金属やICカードによる影響のない状態)の場合は、直列共振回路11によってアンテナ12からの発生磁界を大きく取ることができるので、アンテナ部1とICカードとの間の通信距離を長くすることができる。
【0027】
一方、アンテナ部1の周囲に金属やICカードがある場合は、直列共振回路11において、その共振周波数がずれる現象が発生する。例えば、アンテナ部1にICカードを近づけた場合は、アンテナ12のインダクタンス(コイルL1)とICカード側のアンテナ(コイル)との相互インダクタンスの影響で、インダクタンス(コイルL1)が見た目に大きくなり、その結果、図5に示すような共振周波数のずれ(共振周波数が13.56MHzからずれる現象)が発生する。このため、アンテナ12側での通信距離の拡大は期待することはできない。このような場合においては、アンテナ12に代わってアンテナ14による通信が有効に作用する。すなわち、アンテナ14のインピーダンスZ2と通信ライン3のインピーダンスZ0との整合が取れているため、このアンテナ14では、金属やICカードが近くにあってもその影響を受け難いので、ICカードとの安定した通信を提供することができる。
【0028】
以上説明した本実施形態のアンテナ装置は一例であって、その構成は発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更することができる。例えば、直列共振回路11を備えるアンテナ12を複数設けてもよいし、インピーダンス整合回路13を備えるアンテナ14を複数設けてもよい。
【0029】
また、アンテナ12、14のアンテナサイズは同じであっても、異なっていてもよい。アンテナ12の直列共振によって通信距離を伸ばしたい場合は、アンテナ12のサイズを大きくすることが有効である。この場合は、アンテナ12のサイズをアンテナ14より大きくすることで、より通信距離の長いアンテナ装置を実現することができる。
【0030】
アンテナ12、14は、同一プリント基板の表面および裏面に別々に形成されてもよいし、同一プリント基板の一方の面に一緒に形成されてもよい。アンテナ12、14を同一プリント基板の一方の面に形成する場合は、アンテナ12、14を1つの処理で同時に形成することができるので、その分だけ処理時間が短くなり、コストも削減される。
【0031】
さらに、アンテナ12、14のループ形状は、図2に示したような円状のもの他、四辺形など、種々のループ形状のものを適用することができる。
【0032】
以上の本発明のアンテナ装置は、認証システムや自動改札機などのシステムですでに使用されている汎用の非接触ICカードリーダライタに容易に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態であるアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すアンテナの一例を示す模式図である。
【図3】図1に示す直列共振回路およびインピーダンス整合回路の構成を具体的に示す回路図である。
【図4】図3に示す直列共振回路のインピーダンス特性を示す特性図である。
【図5】図3に示す直列共振回路の共振周波数のずれを説明するための図である。
【図6】従来のアンテナ装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0034】
1 アンテナ部
2 制御部
3 通信ライン
11 直列共振回路
12、14 アンテナ
13 インピーダンス整合回路
21 送信回路
22 受信回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信ラインに並列に接続され、該通信ラインを介してそれぞれに電力が供給される第1および第2のアンテナと、
前記第1のアンテナのインダクタンスと共振を持つように構成された直列共振回路と、
前記第2のアンテナのインダクタンスを前記通信ラインのインピーダンスと整合させるためのインピーダンス整合回路とを有し、
前記第1および第2のアンテナは、ターン方向が同一のループアンテナよりなり、該ループアンテナの中心位置が同一軸上にあることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記第1および第2のアンテナはアンテナのサイズが異なる、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記第1のアンテナのサイズが前記第2のアンテナより大きい、請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記第1および第2のアンテナは、同一プリント基板の表面および裏面に別々に形成されている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記第1および第2のアンテナは、同一プリント基板の一方の面に形成されている、請求項2または3に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアンテナ装置と、
通信ラインを介して前記アンテナ装置に電力を供給する送信回路とを有し、
前記送信回路の出力インピーダンスが前記通信ラインのインピーダンスと整合するように構成されている、非接触ICカードリーダライタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−20207(P2006−20207A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197934(P2004−197934)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000227205)NECインフロンティア株式会社 (1,047)
【Fターム(参考)】