説明

アンテナ装置

【課題】誘電体基板の誘電率が固定の場合と比較して、広帯域で共振させることができるアンテナ装置を提供する。
【解決手段】アンテナ装置10は、予め定めた形状のアンテナ用導体12と、一方の面にアンテナ用導体12が形成され、アンテナ用導体12の一辺の長さW及びアンテナ用導体12に供給される信号の周波数を含む予め定めた共振条件を満たすように誘電率が変化する誘電体基板14と、誘電体基板14の他方の面に形成された接地用導体16と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基体と、前記基体に接する第1のアンテナ素子とを備えるアンテナにおいて、前記基体の比誘電率と前記基体の比透磁率との積が、前記第1のアンテナ素子から放射され又は前記第1のアンテナ素子によって受信される電波の周波数に対して負の傾きで変化することを特徴とするアンテナが開示されている。
【0003】
特許文献2には、絶縁性の基板又は絶縁層上に設けられた導電性の給電パターンと、前記給電パターンから延在した導電性のアンテナパターンとを備え、前記アンテナパターンは、前記給電パターンを基準にして非対称な形状を有してなることを特徴とする非対称平面アンテナが開示されている。
【0004】
非特許文献1には、メタマテリアルのフィルム材料を伝送線路上に配置することによって、伝送線路であるが故に周波数特性を持たない、すなわち高速電源に対応する電源用低インピーダンス伝送線路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−36618号公報
【特許文献2】特開2007−235450号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“電源用低インピーダンス伝送線路の開発”、橋本薫、秋山豊、川口利行、田原和時、大塚寛治、MES 2008 第18回マイクロエレクトロニクスシンポジウム論文集(2008),pp,.351-354
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、誘電体基板の誘電率が固定の場合と比較して、広帯域で共振させることができるアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、予め定めた形状のアンテナ用導体と、一方の面に前記アンテナ用導体が形成され、前記アンテナ用導体の少なくとも一部の長さ及び前記アンテナ用導体に供給される信号の周波数を含む予め定めた共振条件を満たすように誘電率が変化する誘電体基板と、前記誘電体基板の他方の面に形成された接地用導体と、を備える。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記誘電体基板は、負の誘電率及び負の透磁率を有するメタマテリアルを備える。
【0010】
請求項3記載の発明は、前記誘電体基板は、負の誘電率及び正の透磁率を有する誘電体と、正の誘電率及び正の透磁率を有し、前記誘電体を挟む一対の誘電膜と、を備える。
【0011】
請求項4記載の発明は、前記共振条件は、前記アンテナ用導体の少なくとも一部の長さが前記信号の波長のn/2倍(nは自然数)となる共振条件である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、誘電体基板の誘電率が固定の場合と比較して、広帯域で共振させることができる、という効果を有する。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、正の誘電率及び正の透磁率を有する通常の誘電体で誘電体基板を構成した場合と比較して、広帯域で共振させることができる、という効果を有する。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、正の誘電率及び正の透磁率を有する通常の誘電体で誘電体基板を構成した場合と比較して、広帯域で共振させることができる、という効果を有する。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、アンテナ用導体の少なくとも一部の長さが信号の波長のn/2倍でない場合と比較して、広帯域で共振させることができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】アンテナ装置を示す斜視図である。
【図2】周波数によらず1次の共振が生じる条件における周波数と誘電率との関係を示す線図である。
【図3】ドルーデ則における誘電率と周波数との関係を示す線図である。
【図4】変形例に係るアンテナ装置を示す斜視図である。
【図5】1次の共振が生じる条件における周波数と誘電率との関係をシミュレーションした結果を示す線図である。
【図6】本実施例に係るアンテナ装置及び従来例に係るアンテナ装置において一次の共振が生じる場合の周波数とリターンロスとの関係を示す線図である。
【図7】1次の共振が生じる条件における周波数と誘電率との関係をシミュレーションした結果を示す線図である。
【図8】本実施例に係るアンテナ装置及び従来例に係るアンテナ装置において一次の共振が生じる場合の周波数とリターンロスとの関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係るアンテナ装置10を示す斜視図である。同図に示すように、アンテナ装置10は、方形状のアンテナ用導体12と、表面にアンテナ用導体12が形成され、アンテナ用導体12の一辺の長さW及びアンテナ用導体12に供給される信号の周波数をパラメータとして含む予め定めた共振条件を満たすように誘電率が変化する誘電体基板14と、誘電体基板14の裏面に形成された接地用導体16と、を含んで構成されている。
【0019】
アンテナ用導体12及び接地用導体16には、信号出力源18が接続されている。信号出力源18は、アンテナ装置10が搭載される装置の用途に応じた周波数の信号をアンテナ用導体12に出力する。
【0020】
このような方形状のパッチアンテナとしてのアンテナ装置10の一次の共振周波数、すなわちアンテナ用導体12の一辺の長さWが波長λの1/2の場合の共振周波数fは、誘電体基板14の誘電率をε、光速をcとして、次式で示される。
【0021】
【数1】

【0022】
そして、誘電率εが周波数に依存する場合、上記(1)式より、次式が導かれる。
【0023】
【数2】

【0024】
上記(2)式は、図2に示すように、誘電率が周波数の二乗に反比例する関係となっている。
【0025】
ただし、上記の共振条件は、アンテナ装置10の周縁部からの放射等の影響を考慮しない理想の条件であり、実際には周縁部の影響を考慮する必要がある。従って、本実施形態では、上記(2)式に基づく式、すなわち、少なくとも周波数f、光速c、アンテナ用導体12の一辺の長さW、アンテナ用導体12に対して面積が広い接地用導体16の、平面視した場合におけるアンテナ用導体12が重ならない領域に対して、アンテナ用導体12の周縁部から結合する電界の広がりの影響を示すパラメータx等を含む次式で示す関数f(f、c、W、x、・・・)を満たす誘電率εの誘電体により、誘電体基板14を構成する。
【0026】
ε=f(f、c、W、x、・・・) ・・・(3)
【0027】
ここで、c、Wは固定であるので、εは周波数に応じて変化する。上記(3)式は、アンテナ装置10の前記パラメータxで表わされる前記電界の広がり等の影響を考慮しない理想の条件である上記(2)式に対して、アンテナ装置10の前記パラメータxで表わされる前記電界の広がり等の影響を考慮した式であるので、基本的には、誘電率が周波数の二乗に反比例するような関係となる。
【0028】
誘電体基板14は、上記(3)式を満たすような誘電体として、所謂ドルーデ則の周波数分散の式に従った負の誘電率を有する誘電体で構成される。本実施形態では、一例として負の誘電率及び負の透磁率を有する所謂メタマテリアルで構成されている。
【0029】
所謂ドルーデ則における誘電率関数の式は、任意の周波数ωにおける比誘電率をεω、誘電体基板14を構成するメタマテリアルの振動電場に対するプラズマ周波数をωepとして、次式で表わされる。
【0030】
【数3】

【0031】
ここで、ωepは、誘電体基板14を構成するメタマテリアルの自由電子密度をn、電子の電荷をe、真空中の誘電率をε、電子の質量をmとして、次式で表わされる。
【0032】
【数4】

【0033】
一方、ドルーデ則における透磁率関数の式は、任意の周波数ωにおける比透磁率をμω、誘電体基板14を構成するメタマテリアルの振動磁場に対するプラズマ周波数をωmpとして、次式で表わされる。
【0034】
【数5】

【0035】
ここで、ωmpは、誘電体基板14を構成するメタマテリアルの不対電子密度をn、不対電子のスピン帯磁率をχ、真空中の透磁率をμ、電子の質量をmとして、次式で表わされる。
【0036】
【数6】

【0037】
上記(4)式は、図3に示すようなグラフで表わされ、ωがωepより小さい場合(図中矢印方向の領域)に負の誘電率となる。透磁率においても同様であり、ωがωmpより小さい場合に負の透磁率となる。
【0038】
なお、誘電体基板14は、負の誘電率及び負の透磁率を有するメタマテリアルに限られるものではない。例えば、図4に示すように、負の誘電率及び正の透磁率を有する誘電体14Aを、通常の誘電体膜、すなわち、正の誘電率及び正の透磁率を有する誘電体膜14Bで挟んだ構成としてもよい。
【0039】
また、本実施形態では、アンテナ用導体12の形状を方形状とした場合について説明したが、形状はこれに限らず、長方形状等、上記で説明した共振条件で共振するものであれば、他の形状でもよい。
【0040】
(実施例)
【0041】
前述したように、上記(2)式で示した、周波数によらず1次の共振が生じる条件は、アンテナ装置10の周縁部の影響等を無視した理想計算であり、実際は周縁部による空気中への電界の広がりなどがあるため、解析的にその条件を求めることは困難である。このため、電磁界シミュレーションにより求めるか、もしくは複数の誘電率で同一構造をとるアンテナを作成して、実測による共振条件を補完するといった方法で求める必要がある。
【0042】
そこで、本発明者は、FDTD法(時間領域差分法)を用いたシミュレーションにより、信号の周波数によらずに共振する条件を満たす信号周波数と誘電率との関係を求めた。
【0043】
まず、一辺の長さが100mmの方形状の接地用導体16上に、厚さが5mmの誘電体基板14を積層し、その上に一辺の長さWが30mmの方形状のアンテナ用導体12を形成してパッチアンテナとしてのアンテナ装置10を構成し、周波数によらず1次の共振(アンテナ用導体12の一辺の長さWが、供給される信号の波長λの1/2)が生じる誘電率、すなわち周波数に応じた誘電率の変化を前記シミュレーションより求めた。その結果を図5に示す。
【0044】
そして、この誘電率の変化に基づくアンテナ装置10のリターンロスをシミュレーションにより求めた。その結果を図6に示す。
【0045】
図6に示すように、誘電率εr=4の誘電体基板を用いた従来構成のパッチアンテナの場合、2GHz近傍を中心として100MHz程度の狭帯域で半分以上のエネルギーが放射するのに対し、本実施形態に係るアンテナ装置10の場合、約1.3GHz〜3.5GHzまでの広帯域で半分以上のエネルギー(−6dB以下の領域)が放射し、誘電率が固定の従来構成の場合と比較して、約20倍の広帯域で半分以上のエネルギーが放射することが判る。
【0046】
次に、上記と同様に、一辺の長さが100mmの方形状の接地用導体16上に、厚さが5mmの誘電体基板14を積層し、その上に一辺の長さWが30mmの方形状のアンテナ用導体12を形成してパッチアンテナとしてのアンテナ装置10を構成し、周波数によらず2次の共振(アンテナ用導体12の一辺の長さWが、供給される信号の波長λ)が生じる誘電率、すなわち周波数に応じた誘電率の変化を前記シミュレーションより求めた。その結果を図7に示す。
【0047】
そして、この誘電率の変化に基づくアンテナ装置10のリターンロスをシミュレーションにより求めた。その結果を図8に示す。
【0048】
図8に示すように、誘電率εr=4の誘電体基板を用いた従来構成のパッチアンテナの場合、図6に示した1次の共振の場合と比較して、高次の共振を含めて複数の周波数でエネルギーが半分以上放射しているのが判るが、各々は狭帯域であるのに対し、本実施形態に係るアンテナ装置10の場合、約3GHz〜8GHzまでの広帯域で半分以上のエネルギーが放射することが判る。
【0049】
従って、n次(nは自然数)の共振(アンテナ用導体12の一辺の長さWが、供給される信号の波長λのn/2)が生じる条件で広帯域に半分以上のエネルギーを放射させられることが判った。
【符号の説明】
【0050】
10 アンテナ装置
12 アンテナ用導体
14 誘電体基板
16 接地用導体
18 信号出力源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定めた形状のアンテナ用導体と、
一方の面に前記アンテナ用導体が形成され、前記アンテナ用導体の少なくとも一部の長さ及び前記アンテナ用導体に供給される信号の周波数を含む予め定めた共振条件を満たすように誘電率が変化する誘電体基板と、
前記誘電体基板の他方の面に形成された接地用導体と、
を備えたアンテナ装置。
【請求項2】
前記誘電体基板は、負の誘電率及び負の透磁率を有するメタマテリアル
を備えた請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記誘電体基板は、負の誘電率及び正の透磁率を有する誘電体と、
正の誘電率及び正の透磁率を有し、前記誘電体を挟む一対の誘電膜と、
を備えた請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記共振条件は、前記アンテナ用導体の少なくとも一部の長さが前記信号の波長のn/2倍(nは自然数)となる共振条件である
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−147062(P2011−147062A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8061(P2010−8061)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】