アンテナ
【課題】 平面かつ薄型の構造により既存設備表面への設置を容易にし、かつ電力放射分布が交差2偏波で無指向性となるアンテナを提供すること。
【課題手段】 平面状の導体からなるアンテナであって、グランド部と、第1のアンテナ素子と、前記グランド部と前記第1のアンテナ素子との間に形成された給電点と、前記第1のアンテナ素子に連結部を介して接続され、前記連結部から2つに分岐して形成された第2のアンテナ素子と第3のアンテナ素子と、を有し、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性を有することを特徴とするアンテナ。
【課題手段】 平面状の導体からなるアンテナであって、グランド部と、第1のアンテナ素子と、前記グランド部と前記第1のアンテナ素子との間に形成された給電点と、前記第1のアンテナ素子に連結部を介して接続され、前記連結部から2つに分岐して形成された第2のアンテナ素子と第3のアンテナ素子と、を有し、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性を有することを特徴とするアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放送免許不要の微弱電力通信等の近距離通信で電波を送受信するアンテナに関して、アンテナから全方向に効率良く電波を送受信可能なアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電気機器や情報端末機器間のデータ等情報授受を無線通信で行うことが盛んになっている。この無線通信の方法としては、様々な方式が提案されており、各機器を近接もしくは接触させ通信を行うものや、使用電波の周波数における波長の数倍程度の近距離で通信を行うもの(以下、近距離通信と略す)などがある。特にこの近距離通信を日本国内で実施する場合、電波法規により電波送信免許の不要な送信電力が規定されているため、通信可能な距離(以下、通信距離と略す)が限定される。
【0003】
これまで近距離通信で使用されてきたアンテナは、導体構造のロッドアンテナやモノポールアンテナ、さらにダイポールアンテナなどの既知のアンテナが殆どである。しかし、これらアンテナの電力放射分布特性は、1つの偏波成分による構造特有の指向性が存在する。しかし、たとえ近距離通信であっても、これらアンテナと電波送受信の対象となる一方のアンテナが、この1つの偏波成分に対応して設置もしくは位置しない限り、効率の良い通信は実現できない。すなわち、1つの偏波による無指向性だけではなく、最低でも直交する2つの偏波で無指向性を実現する必要がある。このため、これまで近距離通信で使用されてきたアンテナでは、アンテナを中心とし、通信距離を半径とした通信エリア全体で効率の良い通信の実現が困難となる。
【0004】
さらに、通信状態を維持するため、アンテナ自体の設置の方法や場所の自由度に制限が生じ、設置場所によっては、人為的な接触等の予期せぬトラブルでアンテナ自体の故障なども起こり得る。このため、この近距離通信で使用するアンテナは、テーブルや壁などの既存設備表面への設置が容易で無突出の平面的な構造であって、かつ電力放射分布特性が直交する2つの偏波成分(以下、交差2偏波と略す)を使用した無指向性であることが望ましい。
【0005】
例えば、特許文献1、2には、平面かつ薄型の代表的なアンテナが記載されている。特許文献1、2のアンテナは、その平面かつ薄型の構造により既存設備表面に容易に設置可能であり、安価かつ汎用性に優れたアンテナの供給を可能にするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3830358号公報
【特許文献2】特開2001−344883号公報
【特許文献3】特開2004−305874号公報
【特許文献4】特開2005−132328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2のアンテナは、電力放射分布特性において、交差2偏波で無指向性を実現していない。このため、偏波成分を考慮した設置条件(例えば、アンテナの方向や取付け高さなど)に関しては、モノポールやダイポール等の従来使用のアンテナと同様となる。また、特許文献1、2のアンテナは、平面かつ薄型の構造により既存設備表面へのアンテナ設置を容易にするものの電力放射分布特性が交差2偏波の無指向性でないため、従来の既知アンテナ同様に近距離通信に適用しても通信エリア全体での効率の良い通信の実現が困難になる可能性があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、近距離通信で使用するアンテナに関して、平面かつ薄型の構造により既存設備表面への設置を容易にし、かつ電力放射分布が交差2偏波で無指向性となるアンテナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のアンテナは、平面状の導体からなるアンテナであって、グランド部と、第1のアンテナ素子と、前記グランド部と前記第1のアンテナ素子との間に形成された給電点と、前記第1のアンテナ素子に連結部を介して接続され、前記連結部から2つに分岐して形成された第2のアンテナ素子と第3のアンテナ素子と、を有し、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性を有するものである。
【0010】
アンテナの外形は、一辺の長さが動作周波数の波長の1/2より短い矩形に収まる大きさであるとよい。
【0011】
前記第2のアンテナ素子と前記第3のアンテナ素子は、その長さで動作周波数帯域を制御可能であるとよい。
【0012】
前記給電点に接続された同軸ケーブルを有し、前記同軸ケーブルは、前記第1乃至第3のアンテナ素子と交差しないように配置されるとよい。
【0013】
前記グランド部に接続された第4のアンテナ素子を有し、前記第3のアンテナ素子の先端は、前記第4のアンテナ素子の先端と導体がない空間を挟んで対向しているとよい。
【0014】
前記グランド部、前記給電点、および第1乃至第3のアンテナ素子は、誘電体基板の一方の面に形成されているとよい。
【0015】
前記誘電体基板は、その他方の面に導体面が形成され、前記他方の面の導体面は、前記第1乃至第3のアンテナ素子が位置する部分に相対する部分の導体が除去されているとよい。
【発明の効果】
【0016】
(1)交差2偏波の無指向性で効率の良い電波送受信を行う近距離通信用のアンテナが実現可能である。
【0017】
(2)平面かつ薄型の構造で設置が容易な近距離通信用のアンテナが実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のアンテナの設計方法を説明する図である。
【図2】本発明のアンテナの設計方法の計算フローチャートである。
【図3】本発明のアンテナの設計方法を説明する図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの構造と正方形の微小セグメントで離散化した導体平板との位置関係を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの構造の電流分布を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図13】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図14】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図15】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図16】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図17】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図18】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図19】本発明の第2の実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。
【図20】本発明の第2の実施形態に係るアンテナの構造と正方形の微小セグメントで離散化した導体平板との位置関係を示す図である。
【図21】本発明の第2の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図22】本発明の第2の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図23】本発明の第2の実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。
【図24】本発明の第2の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図25】本発明の第2の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図26】本発明の第3の実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。
【図27】本発明の第3の実施形態に係るアンテナの構造と正方形の微小セグメントで離散化した導体平板との位置関係を示す図である。
【図28】本発明の第3の実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。
【図29】本発明の第3の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図30】本発明の第3の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図31】本発明の第3の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図32】本発明の第3の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図33】本発明の第3の実施形態が適用される放送システムの例を示す図である。
【図34】本発明の第4の実施形態に係る構造を示す図である。
【図35】本発明の第5の実施形態に係る構造を示す図である。
【図36】本発明の第6の実施形態に係る設置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のアンテナは、アンテナの導体表面の電流分布を最適に配置することで、近距離通信において、電流分布に伴う交差2偏波による無指向性の電力放射特性を実現するものである。すなわち本発明のアンテナは、主に動作周波数を制御する複数のアンテナ素子と主に動作周波数帯域を制御する複数のアンテナ素子とグランド部とを平面で配置した構造を用いて、平面かつ薄型であって、かつ電力放射分布特性が交差2偏波で無指向性となるアンテナ構造を実現するものである。したがって、本発明のアンテナは、近距離通信において、設置の方法や場所の自由度を広くし、かつ効率の良い電波の送受信を実現することができる。
【0020】
また、本発明のアンテナの設計方法は、特許文献3、4記載のアンテナ構造自動探索法に基づき考案されたものである。
【0021】
上記の交差2偏波とは、一般的な水平偏波と垂直偏波の様に、直交の位置関係にある2つの偏波を指す。
【0022】
本発明のアンテナは、動作周波数を制御する複数のアンテナ素子と動作周波数帯域を制御する複数のアンテナ素子を有する構造である。したがって、これらのアンテナ素子の長さ・サイズを変更することで、動作周波数及びその帯域を容易に変更または調整することができる。
【0023】
また、本発明のアンテナは、設置の方法の自由度を広くするため、アンテナ単体で独自にグランド部を具備したものである。すなわち、一般的にアンテナは、その特性を向上もしくは維持するために、アンテナ素子よりもはるかに広い面積(容積)のグランド部が必要となる。例えば、建物や壁、電気機器類などにアンテナ(素子)を設置する場合、これら設置場所に既存の導体をグランドにする方法が良く取られる。しかし、この場合は別途工事や加工が必要になる。これに対し、本発明のアンテナは、アンテナ単体で独自にグランド部を具備しているため、この煩わしさがないと共に、広い面積(容積)のグランドを使用しなくても良い。
【0024】
また、本発明のアンテナは、独自のグランド部を具備することにより、そのグランド部に出力調整や受信感度補正の回路を具備することを可能にしている。
【0025】
まず、本発明アンテナの設計方法に関し、図1から図3に基づいて説明する。本発明のアンテナの設計方法は、特許文献3、4記載のアンテナ解析に幅広く使用されているモーメント法を応用し考案されたものである。
【0026】
図1は、本発明のアンテナの設計方法(構造自動探索法)で取り扱う離散化された導体平板1を示している。アンテナを構成する導体平板1の縦横サイズ(L、W)を定義し、この定義された導体平板1の領域の全てを一辺Aの正方形の微小セグメント2で離散化している。そしてモーメント法の解法に基づき、全ての微小セグメント2の結合辺上に電流点(図示せず)を定義している。さらに、モーメント法の解法による電気的特性を算出するため、これら正方形の微小セグメント2の任意の結合辺上に給電点3を定義している。本発明のアンテナの設計方法(構造自動探索法)は、これら微小セグメント2の有無による構造組合せを連続的に計算し、これら組合せ毎の電気的な特性を評価することで、所望とする特性を有する構造を自動的に算出し、導体平板構造41、42の様な構造を得るものである。
【0027】
図2は、本発明の設計に用いた本発明のアンテナの設計方法の計算フローチャートを示す。
【0028】
まず、ステップS1で導体平板の縦横サイズ(L、W)とこの平板導体を離散化するための正方形微小セグメントの一辺のサイズAの設定を読み込む。このとき、導体平板サイズLとWは、微小セグメント一辺のサイズAの倍数としている。次にステップS2で導体平板を正方形微小セグメントで離散化し、導体平板内に形成される微小セグメントの総数Nallを決定する。次にステップS3で全てのセグメントに番号を定義し、この情報を配列データSallに保存する。なお、この配列データSallは、サイズNallの1次元配列であり、予め定義しておく。次にステップS4でアンテナのグランド部とする微小セグメントの固定領域の設定を読み込み、固定される微小セグメントの総数Nfixを決定する。
【0029】
次に配列データSallの情報に従い、ステップS5で固定される微小セグメントの番号情報を配列データSfixに保存する。なお、この配列データSfixは、最低サイズNfixの1次元配列である。次にステップS6でアンテナのグランド部とする固定領域外にある微小セグメント有無の組合せを変化させるセグメント領域の設定を読込み、対象となるセグメントの総数Ncalを決定する。次に配列データSallの情報に従い、ステップS7でセグメント有無組合せを変化させる領域に存在するセグメントの番号情報を配列データScalに保存する。なお、この配列データScalは、最低サイズNcalの1次元配列である。次にステップS8で給電点位置の設定を読込み、給電点が設置される隣接する2つのセグメントを決定する。
【0030】
以上の図2に関する説明の状態を図3に示す。図3より、導体平板1を20×20個(Nall=400)の1辺Aの正方形微小セグメント2で離散化し、アンテナのグランドとする固定領域5を太枠で示し、この固定領域5内の14×14個(Nfix=196)のセグメント2全てを固定し、固定領域5外の全てのセグメント2(Ncal=204)を、セグメント有無組合せを変化させる対象にし、そして固定領域5の境界に位置する任意の2つのセグメント2の結合辺上に給電点3を設置している。
【0031】
図2の説明に戻り、ステップS9で設計において所望とする特性の初期値(最低条件値)R0を読込む。本発明では、この初期値R0は、アンテナの電気的特性である電力放射特性における交差する各偏波の電力最大値と最小値との差や平均値、また設計中心周波数のVSWR(電圧定在波比)などを使用している。
【0032】
以上のステップS9までの設定を用いて、総数204(=Ncal)の全セグメント有無組合せ毎で構成される各構造の電気的特性を自動的に算出する計算フローがステップS10以降である。なおステップS10からS15は、計算回数を1から2のNcal乗とする計算ループ内で行われる。ここで最大の計算回数が2のNcal乗となるのは、有無組合せの対象となるセグメントの総数がNcalより、最大の計算回数分の異なる構造が存在するためである。
【0033】
まずステップS10で配列データScalを使用し、セグメント有無の組合せを変化させ、存在する(有の状態の)セグメントの番号情報を配列データSvarに代入する。次にステップS11で配列データSvarとアンテナのグランドとして固定された全セグメントの番号情報を保存した配列データSfixで形成される導体構造上の電流分布をモーメント法の計算定義に従い計算する。モーメント法の計算定義は、諸文献に開示されている方法を用いることができる。
【0034】
次にステップS12で算出された電流分布を使用し、計算に使用した導体構造における電気的特性R1を算出する。次にステップS13でR1の比較対象となる特性値R0を比較し、もしR0がR1より良好であれば、そのまま次の異なる導体構造に関する計算に移る。一方R1がR0より良好であれば、より特性の良い構造を選択するため、ステップS14に移動し、R0にR1を代入し、次の異なる導体構造における電気的特性の比較対象値R0を更新し、さらにステップS14への移動を可能にした導体構造(ステップS10で導出)を形成する全セグメントの番号情報を配列データSに保存し(ステップS15)、次の異なる導体構造に関する計算に移る。このステップS10からステップS15を最大2のNcal乗回繰り返し、これが終了後、ステップS16で最良の電気的特性値R0とこの特性を実現する導体構造を形成する全セグメントの番号情報を保存した配列データSを出力し、全ての計算が終了する。
【0035】
以上の構造自動探索法に基づく計算により、構造を自動的に算出および評価して本発明のアンテナ構造を決定することが可能である。
【0036】
[第1の実施形態]
以上の設計方法により実現した本発明の第1の実施形態に係るアンテナについて、添付図面の図4から図10に基づいて説明する。
【0037】
図4は、本発明の第1の実施形態に係るアンテナ61の構造を示す。また、図5は、図4の本発明のアンテナ61の構造(サイズ)と自動構造探索法で使用した一辺Aの正方形の微小セグメント2で離散化した導体平板との位置関係を示す。ここでは微小セグメント2の一辺Aは4.5mmとしている。また、この構造での設計周波数は、700MHzとしている。図示のように、アンテナ61の構造は、各微小セグメント2の配置に従い決定されている。
【0038】
本実施形態のアンテナ61は、銅板からなる導体平板で構成され、主に動作周波数を制御するアンテナ素子71、72と、主に動作周波数帯域を制御するアンテナ素子81、82と、アンテナのグランド部9とからなる。給電点3は、図示した位置(グランド部9とアンテナ素子82との間)としている。
【0039】
グランド部9は、アンテナ61の設計時に設定した固定領域5内の196(14×14)個の微小セグメント2と固定領域5の左右両側に接続された複数の微小セグメント2とから構成されている。固定領域5の左側には7個の微小セグメント2が接続され、固定領域5の右側には8個の微小セグメント2が接続されている。
【0040】
アンテナ素子81は、複数の微小セグメント2が一列に接続された形状をしている。アンテナ素子81は、グランド部9の右下部に接続され、導体平板の右下の角部から上方に一直線状に伸びるように形成されている。一方、アンテナ素子82は、複数の微小セグメント2の集合からなり、グランド部9の左上部に接続されている。グランド部9とアンテナ素子82との間には、給電点3が形成されている。なお、アンテナ素子82には、構造自動探索法による計算に伴い、微小セグメント2が除去された矩形穴10が2つ存在する。このようなアンテナ素子82の構造から分かるように、本実施形態のアンテナ61は、人為的に設計することが容易ではない複雑な構造となっている。
【0041】
アンテナ素子71、72は、アンテナ素子82の上部に連結部を介して接続され、当該連結部からT字状に2つに分岐して形成されている。すなわち、アンテナ素子82の上部に連結部の一端が接続され、連結部の他端に2つのアンテナ素子71、72接続され、連結部と2つのアンテナ素子71、72とがT字状をなしている。連結部の他端における分岐部から図示左側をアンテナ素子71とし、右側をアンテナ素子72とする。
【0042】
アンテナ素子71、72は、それぞれ複数の微小セグメント2が一列に接続された形状をしている。アンテナ素子71は、上記の分岐部から導体平板の左上の角部まで一直線状に伸びると共に、この左上の角部から導体平板の左下の角部まで一直線状に伸びている。一方、アンテナ素子72は、上記の分岐部から導体平板の右上の角部まで一直線状に伸びると共に、この右上の角部から下方に一直線状に伸びるように形成されている。アンテナ素子72の先端は、1個分の微小セグメント2無しの空間を挟んでアンテナ素子81の先端と対向している。
【0043】
図6(a)は、図4の本発明のアンテナ61の表面上の電流分布11の連続性を破線で示し、図6(b)は、図6(a)の電流分布11の強度を白黒の濃淡で示す。なお、図6(b)は電流分布における最大値で正規化して図示している。
【0044】
図6より、主に動作周波数を制御するアンテナ素子71、72上、動作周波数帯域を制御するアンテナ素子81、82上、そしてアンテナ61のグランド部9の導体縁付近に給電点3から連続した電流分布11が存在している。この連続した電流分布11は、主に動作周波数を制御するアンテナ素子71の屈曲部(導体平板の左上の角部)周辺で最も強度の大きい分布となり、他の部分はほぼ均等の強度となっている。このように、本発明のアンテナ61は、構造全体に電流分布11を持つ構造となっている。
【0045】
図7は、図4のアンテナ61をポリエステル製のラミネート材12で覆ったときのアンテナ62の外観を示している。図4のアンテナ61は、動作周波数帯域を制御するアンテナ素子81以外のアンテナ素子71、72、82は、アンテナのグランド部9と分離した構造となっている。このため、アンテナの構造を保持するために、アンテナの全体もしくは一部分を絶縁体で覆っても良く、図7では絶縁体としてのラミネート材12でアンテナ61全体を覆った場合を示している。なお、絶縁体として紙を用いることも可能である。
【0046】
図8は、アンテナ62の給電線として同軸ケーブル13を使用した場合を示している。給電点3に相当する位置の導体平板は除去され、グランド部9とアンテナ素子82は離間している。同軸ケーブル13の内導体141は、動作周波数帯域を制御するアンテナ素子の1つであるアンテナ素子82に半田材15を用いて接続されている。また、同軸ケーブル13の外導体142は、アンテナのグランド部9に半田材15を用いて接続されている。なお、同軸ケーブル13の内導体141と外導体142を半田材15で接続する部分のラミネート材は、除去されている。
【0047】
図9と図10は、本発明のアンテナの特性を示している。なお、以下に示す本発明のアンテナに関する特性説明は、実際の測定作業の都合上、図8のアンテナ62のようにポリエステル製のラミネート材でアンテナ全体を覆い構造を固定し、同軸ケーブルを給電線とした場合を用いて示す。ただし便宜上、ラミネート材の図示は省略する。なお、ポリエステル製のラミネート材12の誘電率の影響により、動作(中心)周波数は、設計周波数より約2%程度低い数値となる。また同軸ケーブルの径は1.1mm、同軸ケーブルの長さは500mmで統一している。
【0048】
図9は、図8のアンテナ62の周波数共振特性を示し、横軸は周波数、縦軸はVSWR(電圧定在波比)を示している。図9より、動作(中心)周波数は、ラミネート材の誘電率の影響により、設計周波数700MHzより約2%程度低い685MHzとなっている。そしてVSWRが2以下の比帯域は、約5%となっている。
【0049】
図10は、図8のアンテナ62の電力放射分布特性の測定結果を示す。電力放射分布特性は、ZX面とYZ面のそれぞれに関して測定した。ZX面とYZ面の定義は、図内の座標系(X,Y,Z)と回転角(θ)に従い、測定周波数は685MHzとし、観測点距離は、アンテナ平面の中心より測定周波数の波長(λ≒438mm)の1.0倍とし、図中の実線は垂直偏波、破線は水平偏波をそれぞれ示している。図10より、ZX面とYZ面のそれぞれの垂直偏波で良好な無指向性が得られている。なおZX面とYZ面は、互いに直交する平面であり、これら垂直偏波も互いに直交する。これより、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性となっている。
【0050】
以上の図4から図10に示す構造と結果の通り、本発明によると、アンテナの導体表面の電流分布を最適に配置する構造により、平面かつ薄型で、かつ電力放射分布特性が交差2偏波で無指向性となるアンテナを実現可能である。
【0051】
なお、上記のような交差2偏波による無指向性の電力放射特性を実現し得る他の構造として、共通の給電点を中心に2つのダイポールアンテナを直交させる構造などが想像できる。しかし、図4から図10の説明に示す本発明のアンテナの設計周波数700MHzの場合、ダイポールアンテナ単体のサイズは、700MHzにおける波長約430mmの半分である約215mmであり、これを2つ平面上で直交させると最低でも215mm×215mmのサイズとなり、本発明のアンテナ(90mm×90mm)より、明らかに大型な構造となる。これに対し、本発明のアンテナは、交差2偏波による無指向性の電力放射特性を実現するアンテナであって、小型化かつ薄型化をも実現することができる。
【0052】
次に、本発明のアンテナを構成する各アンテナ素子の特性について図11から図18に基づいて説明する。
【0053】
図11は、図8に示すアンテナ62と比較して、動作周波数を制御するアンテナ素子71の先端を長さLだけ短くしたアンテナ621を示す(給電用の同軸ケーブルは図示せず)。図12は、この長さLを20mmとした場合の周波数共振特性を示す。図12の横軸は周波数、縦軸はVSWRを示す。なお図12には、素子長を変化させない場合(L=0。すなわち、図9の結果と同じ)の周波数共振特性を破線で示している。図12より、素子長の変化に伴い、動作周波数が大幅に変化していることが判る。これより、アンテナ素子71は、その長さで主に動作周波数を制御(決定)していることが明らかである。
【0054】
図13は、図8に示すアンテナ62と比較して、動作周波数を制御するアンテナ素子72の先端を長さLだけ短くしたアンテナ622を示す(給電用の同軸ケーブルは図示せず)。図14は、この長さLを20mmとした場合の周波数共振特性を示す。図14の横軸は周波数、縦軸はVSWRを示す。なお図14には、素子長を変化させない場合(L=0。すなわち、図9の結果と同じ)を破線で示している。図14より、素子長の変化に伴い、動作周波数が大幅に変化していることが判る。これより、アンテナ素子72は、その長さで主に動作周波数を制御(決定)していることが明らかである。
【0055】
図15は、図8に示すアンテナ62と比較して、動作周波数帯域を制御するアンテナ素子81の先端を長さLだけ短くしたアンテナ623を示す(給電用の同軸ケーブルは図示せず)。図16は、この長さLを20mmとした場合の周波数共振特性を示す。図16の横軸は周波数、縦軸はVSWRを示す。なお図16には、素子長を変化させない場合(L=0。すなわち、図9の結果と同じ)を破線で示している。図16より、アンテナ素子71、72の素子長を変化させた場合と比較して、素子長の変化に伴う動作周波数の変化は大きくないことが分かる。一方、VSWR≦2の周波数帯域幅は大きく変化していることが判る。したがって、アンテナ素子81は、その長さで主に動作周波数帯域を制御(決定)していることが明らかである。
【0056】
図17は、図8に示すアンテナ62と比較して、動作周波数帯域を制御するアンテナ素子82の矩形穴10が存在する方向の長さをLだけ短くしたアンテナ624を示す(給電用の同軸ケーブルは図示せず)。図18は、この長さLを20mmとした場合の周波数共振特性を示す。図18の横軸は周波数、縦軸はVSWRを示す。なお、図18には、素子長を変化させない場合(L=0。すなわち、図9の結果と同じ)を破線で示している。図18より、アンテナ素子71、72の素子長を変化させた場合と比較して、素子長の変化に伴う動作周波数の変化は大きくいことが分かる。一方、VSWR≦2の周波数帯域幅は変化していることが判る。これより、アンテナ素子82は、その長さで主に動作周波数帯域を制御(決定)していることが明らかである。
【0057】
以上の図11から図18に示す結果の通り、本発明のアンテナは、動作周波数を制御するアンテナ素子と動作周波数帯域を制御するアンテナ素子とにより、アンテナ自体の動作周波数とその帯域の各特性を実現している。
【0058】
以上の特性を利用して実現した本発明のアンテナの他の実施形態を、添付図面の図19から図25に基づいて説明する。
【0059】
[第2の実施形態]
図19は、本発明のアンテナの第2の実施形態を示す。アンテナ63は、図4に示すアンテナ62において、動作周波数帯域を制御するアンテナ素子81、82とグランド部9の各構造と給電点3の位置は固定し、動作周波数を制御するアンテナ素子71、72のそれぞれの長さを変更し、動作周波数を変化させた構造を有する。なお、このときの動作周波数は、900MHzとしている。
【0060】
図20に、図19のアンテナ63の構造(サイズ)と自動構造探索法で使用した一辺Aの正方形の微小セグメント2で離散化した導体平板との位置関係を示す。微小セグメント2の一辺Aは4.5mmとしている。図20の各微小セグメント2の配置に従い、アンテナ63の構造が決定されている。なお、以下に示す図19の本発明のアンテナ63に関する特性説明は、図8のアンテナの構造説明に関する記述同様に、ポリエステル製のラミネート材でアンテナ全体を覆い構造を固定し、同軸ケーブルを給電線としている。さらにポリエステル製のラミネート材による特性への影響と使用した同軸ケーブルの径と長さも同じである。
【0061】
図21に、図19のアンテナ63の周波数共振特性を示す。横軸は周波数、縦軸はVSWR(電圧定在波比)を示す。動作(中心)周波数は、ラミネート材の誘電率の影響により、設計周波数900MHzより約2%程度低い885MHzとなっている。そしてVSWRが2以下の比帯域は、約4%の特性となっている。なお、図19の構造では、動作周波数を制御する2つのアンテナ素子の長さを変更したことにより、設計周波数に対して約200MHz高い周波数帯にもう1つの動作周波数帯も存在しているが、この動作周波数帯では、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性を実現できないことが確認された。
【0062】
図22は、図19のアンテナ63の電力放射分布特性の測定結果を示す。電力放射分布特性は、ZX面とYZ面のそれぞれに関して測定した。ZX面とYZ面の定義は、図10同様で、測定周波数は880MHzとし、測定距離は、アンテナ平面の中心より測定周波数の波長(λ≒340mm)の約1.3倍とした。また、図中の実線は垂直偏波、破線は水平偏波をそれぞれ示す。図22より、ZX面とYZ面のそれぞれの垂直偏波で良好な無指向性が得られ、図10の結果同様に、近距離通信において、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性となっている。
【0063】
図23に、図19のアンテナ63を誘電体(プラスティック)製ケース16に内蔵したアンテナ631を示す。誘電体製ケース16は、2つの誘電体(プラスティック)製の平板161、162からなり、アンテナ631は、2つの誘電体製の平板161、162でアンテナ63を挟むように形成されている。誘電体(プラスティック)の材質はPC−ABSとし、ケースのサイズは幅と長さ共に125mm、厚さ7mmとしている。また、アンテナ63全体は接着テープで固定され、給電線として使用される同軸ケーブル13の内導体と外導体は、半田材15を用いて給電点でアンテナ63に接続されている。ケース16内側には、同軸ケーブル13とアンテナ63の給電点とを半田材15により接続している部分がケースと接触せず、かつ同軸ケーブル13自体を直線的に納める溝(図示せず)が設けられている。さらに、ケース16側面には、同軸ケーブルの通し穴17が設けられ、同軸ケーブル13がケース16の外側に延ばされている。
【0064】
本発明のアンテナ63は、平面かつ薄型であるため、誘電体製(プラスティック等)のケース16への内蔵が容易である。これにより、人為的な接触等の予期せぬトラブルによるアンテナ自体の故障の回避を容易にすることができる。
【0065】
また、本発明のアンテナ63では、給電線としての同軸ケーブル13は、アンテナ63の各アンテナ素子71、72、81、82と交差しない位置と方向に延ばして配置されるので、アンテナ素子の電波送受信特性に影響を与えない。これにより、アンテナ設置時の給電線の配置を容易にすることができる。
【0066】
図24は、図23のアンテナ631の周波数共振特性を示す。横軸は周波数、縦軸はVSWR(電圧定在波比)を示す。図24より、ケース16の誘電率に伴い、動作(中心)周波数は、内蔵前の885MHzから705MHzに変化し、VSWRが2以下の比帯域は、約5%の特性となっている。なお図21の説明で示した設計周波数よりも高い周波数での動作(中心)周波数もケース16の誘電率に伴い、1070MHzから840MHzに変化している。
【0067】
図25は、図23のアンテナ631の電力放射分布特性を示す。電力放射分布特性は、ZX面とYZ面のそれぞれに関して測定した。ZX面とYZ面の定義は、図内の座標系(X,Y,Z)と回転角(θ)に従い、測定周波数は705MHzとし、測定距離は、アンテナ平面の中心より測定周波数の波長(λ≒426mm)の約1.03倍とし、図中の実線は垂直偏波、破線は水平偏波をそれぞれ示す。図より、ZX面とYZ面のそれぞれの垂直偏波で良好な無指向性が得られ、図22同様に、近距離通信において、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性となっている。
【0068】
[第3の実施形態]
次に本発明のアンテナの第3の実施形態を、添付図面の図26から図32に基づいて説明する。なおこの実施形態は、構造自動探索法による設計において、図23に示す誘電体(プラスティック)製のケースにアンテナを内蔵したとき、700MHzを中心に広帯域に渡り、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性が実現することを所望の特性として算出した構造の1つである。
【0069】
図26は、本実施形態のアンテナ64の構造を示す。アンテナ64は、図4に示す構造において、2つ存在する動作周波数帯域を制御するアンテナ素子の内、アンテナのグランド部9に接続された一方(アンテナ素子81)を削除し、もう一方のアンテナ素子82とアンテナのグランド部9の構造と給電点3の位置は固定し、さらに2つ存在する動作周波数を制御するアンテナ素子71、72の内、一方の長さを変更した構造である。
【0070】
図27は、図26のアンテナ64の構造(サイズ)と自動構造探索法で使用した一辺Aの正方形の微小セグメント2で離散化した導体平板との位置関係を示す。微小セグメント2の一辺Aは3.35mmとしている。図27より、各微小セグメント2の配置に従い、アンテナ64の構造が決定されている。
【0071】
図28は、図26のアンテナ64を、図8のアンテナの構造説明に関する記述同様に、ポリエステル製のラミネート材でアンテナ全体を覆い構造を固定し、径と長さも同じ同軸ケーブルを給電線とし、図23と同様な方法により誘電体(プラスティック)製ケース16に内蔵したアンテナ641を示す。誘電体(プラスティック)の材質はPC−ABSとし、ケースのサイズは幅と長さ共に100mm、厚さ7mmとしている。
【0072】
図29に、図28のアンテナ641の周波数共振特性を示す。横軸は周波数、縦軸はVSWR(電圧定在波比)を示す。図29より、目的とした700MHz近辺ではVSWR≒4となり、周波数共振特性は劣化した特性となっている。
【0073】
図30から図32に、図28のアンテナ641の電力放射分布特性の測定結果を示す。電力放射分布特性は、ZX面とYZ面のそれぞれに関して測定した。ZX面とYZ面の定義は、図25同様である。また、図30の測定周波数は、695MHz、図31の測定周波数は、710MHz、そして図32の測定周波数は、740MHzである。また、図30から図32の測定距離は、アンテナ平面の中心より各測定周波数の波長と同等とし、図中の実線は垂直偏波、破線は水平偏波をそれぞれ示す。図より、695MHzから740MHzの広帯域において、ZX面とYZ面のそれぞれの垂直偏波で良好な無指向性が得られ、図10、図22、図25同様に、近距離通信において、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性となっている。
【0074】
なお、図29から図32の結果のように、広帯域において電力放射分布特性が良好であっても、VSWRが劣化している構造の場合、アンテナとして不良と判断されるのが一般的である。しかしながら、使用形態においては、有用なアンテナとなり得る。その使用形態例を次に示す。
【0075】
図33に、電波法規により規定された電波送信免許不要の送信電力に従い、通信距離を限定した放送システムの一例を示す。図33は、ローカル無線放送の放送エリア(通信距離)限定を目的とした構成で、放送信号発生器(Broadcast Signal Output Unit)181と放送用アンテナ183との間に出力調整器(Power Control Unit)182を設置し、それぞれをケーブル184で接続している。放送エリアを限定する場合、放送用アンテナ183のVSWRと電力放射分布特性を考慮し、放送用アンテナ183に入力する放送信号電力を出力調整器182で調整するのが一般的な方法であり、この出力調整器182の使用により、放送エリア限定が容易に実現できる。したがって、図33に示すシステム例では、図29から図32の諸特性を有する図27のアンテナ641は、放送用アンテナ183として好適であり、有用なアンテナとなり得る。
【0076】
[第4の実施形態]
次に本発明の第4の実施形態を図34に基づいて説明する。
【0077】
図34は、図4に示すアンテナ61の構造を片面が導体面の回路基板(誘電体基板)19で構成したアンテナ65の外観を示す。このアンテナ65は、給電に同軸ケーブル13が使用されている。同軸ケーブル13とアンテナ65の接続には、半田材15が使用され、同軸ケーブル内導体141と外導体142とがアンテナ65の給電部に接続されている。なお、この接続方法は、専用コネクタを使用するなどの他の方法でも良く、接続工程の容易さ、接続部の強度保持などの目的に応じ、選択することができる。また、回路基板は、導体面が両面の基板を使用することもできる。ただし、導体面が両面の基板を使用する場合、一方の面に構成した動作周波数を制御するアンテナ素子71、72および動作周波数帯域を制御するアンテナ素子81、82が位置する部分に相対するもう一方の面の導体部は電力放射分布特性の劣化を避けるため削除することが望ましい。
【0078】
[第5の実施形態]
次に、本発明の第5の実施形態を図35に基づいて説明する。
【0079】
図35は、図34に示すアンテナ61のアンテナのグランド部9上に回路部20を具備したアンテナ66の外観を示す。回路部20としては、例えば、放射電力出力調整用や受信電力の損失補正用の増幅回路などを用いることができ、用途に応じて選択することができる。図35では、アンテナの給電は、回路部20より伸ばした給電線路21で行っている。また、回路部20への信号入力は、同軸ケーブル13を使用し、回路部20が動作するための電力は、同軸ケーブル13に重畳している。なお、回路部20が動作するための電力供給は、同軸ケーブル13への電力重畳ではなく、他の同軸ケーブルの使用、他の複数の単線ケーブルの使用、他のフラットケーブルの使用など、接続工程の容易さ、接続部の強度保持などの目的に応じ、選択することができる。
【0080】
[第6の実施形態]
次に、本発明の第6の実施形態を図36に基づいて説明する。
【0081】
図36は、誘電体(プラスティック)製ケースを使用したアンテナ67をテーブル22の天板23裏面(下面)側に固定した設置例を示す。アンテナ67の固定は、アンテナの諸特性に影響を与えないケース各角に設けたネジ穴にネジを通して固定、または粘着テープで固定、さらにネジと粘着テープの両者の併用など、工程の容易さ、強度保持などの目的に応じて選択することができる。なお、図36のような設置状態において、テーブル22の天板23の表面(上面)側で電波の送受信を行う場合には、アンテナを固定する天板23内には、補強用鉄板を使用していないことが必須である。
【0082】
図36の設置例では、アンテナ67をテーブル22の天板23の裏面側に固定したが、例えば、鉄筋が位置しない部分の壁面に固定することもできる。
【0083】
以上のように本発明では、アンテナの導体表面の電流分布を最適に配置する設計方法を用いて決定した動作周波数を制御するアンテナ素子と動作周波数帯域を制御するアンテナ素子を用いて、これら素子の長さやサイズを変更することでアンテナ特性の調整を可能にし、さらにアンテナ独自のグランド部を用いることにより、アンテナの導体表面の電流分布に伴う交差2偏波による無指向性の電力放射特性に優れた近距離通信用のアンテナを実現できる。
【0084】
また、本発明によれば、アンテナ自体は簡単な構造であるので、本発明のアンテナの製作は簡単であり、既存の製造技術および設備を利用できることから、生産性に優れ、かつ安価で取扱いが容易な近距離通信用のアンテナを提供できる。
【0085】
以上、本発明の実施形態を図示し説明してきたが、当業者であれば、本発明の技術思想、技術的範囲から逸脱することなく種々の変更及び修正が可能であることは明らかである。例えば、上記実施形態では、導体平板として銅板を用いてアンテナを形成したが、銅板よりもばね性のある金属(例えば、リン青銅)を使用してもよい。銅板は、加工作業の際に多少の応力で曲がってしまうことがあるが、ばね性のあるリン青銅は、そのばね性により上記のような事は起こりにくい。
【0086】
また、上記アンテナは、軟性導体シート(フィルム)を用いて構成してもよく、軟性導体シート(フィルム)は、銅箔またはアルミ箔を使用してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1:導体平板
2:微小セグメント
3:給電点
41、42:導体平板構造
5:固定領域
61〜67、621〜624、631、641:アンテナ
71:(第2の)アンテナ素子
72:(第3の)アンテナ素子
81:(第4の)アンテナ素子
82:(第1の)アンテナ素子
9:グランド部
10:矩形穴
11:電流分布
12:ラミネート材
13:同軸ケーブル
141:同軸ケーブルの内導体
142:同軸ケーブルの外導体
15:半田材
16:誘電体(プラスティック)製ケース
161、162:誘電体(プラスティック)製平板
17:通し穴
181:放送信号発生器
182:出力調整器
183:放送用アンテナ
184:ケーブル
19:回路基板
20:回路部
21:給電線路
22:テーブル
23:天板
【技術分野】
【0001】
本発明は、放送免許不要の微弱電力通信等の近距離通信で電波を送受信するアンテナに関して、アンテナから全方向に効率良く電波を送受信可能なアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電気機器や情報端末機器間のデータ等情報授受を無線通信で行うことが盛んになっている。この無線通信の方法としては、様々な方式が提案されており、各機器を近接もしくは接触させ通信を行うものや、使用電波の周波数における波長の数倍程度の近距離で通信を行うもの(以下、近距離通信と略す)などがある。特にこの近距離通信を日本国内で実施する場合、電波法規により電波送信免許の不要な送信電力が規定されているため、通信可能な距離(以下、通信距離と略す)が限定される。
【0003】
これまで近距離通信で使用されてきたアンテナは、導体構造のロッドアンテナやモノポールアンテナ、さらにダイポールアンテナなどの既知のアンテナが殆どである。しかし、これらアンテナの電力放射分布特性は、1つの偏波成分による構造特有の指向性が存在する。しかし、たとえ近距離通信であっても、これらアンテナと電波送受信の対象となる一方のアンテナが、この1つの偏波成分に対応して設置もしくは位置しない限り、効率の良い通信は実現できない。すなわち、1つの偏波による無指向性だけではなく、最低でも直交する2つの偏波で無指向性を実現する必要がある。このため、これまで近距離通信で使用されてきたアンテナでは、アンテナを中心とし、通信距離を半径とした通信エリア全体で効率の良い通信の実現が困難となる。
【0004】
さらに、通信状態を維持するため、アンテナ自体の設置の方法や場所の自由度に制限が生じ、設置場所によっては、人為的な接触等の予期せぬトラブルでアンテナ自体の故障なども起こり得る。このため、この近距離通信で使用するアンテナは、テーブルや壁などの既存設備表面への設置が容易で無突出の平面的な構造であって、かつ電力放射分布特性が直交する2つの偏波成分(以下、交差2偏波と略す)を使用した無指向性であることが望ましい。
【0005】
例えば、特許文献1、2には、平面かつ薄型の代表的なアンテナが記載されている。特許文献1、2のアンテナは、その平面かつ薄型の構造により既存設備表面に容易に設置可能であり、安価かつ汎用性に優れたアンテナの供給を可能にするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3830358号公報
【特許文献2】特開2001−344883号公報
【特許文献3】特開2004−305874号公報
【特許文献4】特開2005−132328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2のアンテナは、電力放射分布特性において、交差2偏波で無指向性を実現していない。このため、偏波成分を考慮した設置条件(例えば、アンテナの方向や取付け高さなど)に関しては、モノポールやダイポール等の従来使用のアンテナと同様となる。また、特許文献1、2のアンテナは、平面かつ薄型の構造により既存設備表面へのアンテナ設置を容易にするものの電力放射分布特性が交差2偏波の無指向性でないため、従来の既知アンテナ同様に近距離通信に適用しても通信エリア全体での効率の良い通信の実現が困難になる可能性があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、近距離通信で使用するアンテナに関して、平面かつ薄型の構造により既存設備表面への設置を容易にし、かつ電力放射分布が交差2偏波で無指向性となるアンテナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のアンテナは、平面状の導体からなるアンテナであって、グランド部と、第1のアンテナ素子と、前記グランド部と前記第1のアンテナ素子との間に形成された給電点と、前記第1のアンテナ素子に連結部を介して接続され、前記連結部から2つに分岐して形成された第2のアンテナ素子と第3のアンテナ素子と、を有し、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性を有するものである。
【0010】
アンテナの外形は、一辺の長さが動作周波数の波長の1/2より短い矩形に収まる大きさであるとよい。
【0011】
前記第2のアンテナ素子と前記第3のアンテナ素子は、その長さで動作周波数帯域を制御可能であるとよい。
【0012】
前記給電点に接続された同軸ケーブルを有し、前記同軸ケーブルは、前記第1乃至第3のアンテナ素子と交差しないように配置されるとよい。
【0013】
前記グランド部に接続された第4のアンテナ素子を有し、前記第3のアンテナ素子の先端は、前記第4のアンテナ素子の先端と導体がない空間を挟んで対向しているとよい。
【0014】
前記グランド部、前記給電点、および第1乃至第3のアンテナ素子は、誘電体基板の一方の面に形成されているとよい。
【0015】
前記誘電体基板は、その他方の面に導体面が形成され、前記他方の面の導体面は、前記第1乃至第3のアンテナ素子が位置する部分に相対する部分の導体が除去されているとよい。
【発明の効果】
【0016】
(1)交差2偏波の無指向性で効率の良い電波送受信を行う近距離通信用のアンテナが実現可能である。
【0017】
(2)平面かつ薄型の構造で設置が容易な近距離通信用のアンテナが実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のアンテナの設計方法を説明する図である。
【図2】本発明のアンテナの設計方法の計算フローチャートである。
【図3】本発明のアンテナの設計方法を説明する図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの構造と正方形の微小セグメントで離散化した導体平板との位置関係を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの構造の電流分布を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図13】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図14】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図15】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図16】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図17】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図18】本発明の第1の実施形態に係るアンテナの特性を説明する図である。
【図19】本発明の第2の実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。
【図20】本発明の第2の実施形態に係るアンテナの構造と正方形の微小セグメントで離散化した導体平板との位置関係を示す図である。
【図21】本発明の第2の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図22】本発明の第2の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図23】本発明の第2の実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。
【図24】本発明の第2の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図25】本発明の第2の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図26】本発明の第3の実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。
【図27】本発明の第3の実施形態に係るアンテナの構造と正方形の微小セグメントで離散化した導体平板との位置関係を示す図である。
【図28】本発明の第3の実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。
【図29】本発明の第3の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図30】本発明の第3の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図31】本発明の第3の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図32】本発明の第3の実施形態に係るアンテナの特性を示す図である。
【図33】本発明の第3の実施形態が適用される放送システムの例を示す図である。
【図34】本発明の第4の実施形態に係る構造を示す図である。
【図35】本発明の第5の実施形態に係る構造を示す図である。
【図36】本発明の第6の実施形態に係る設置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のアンテナは、アンテナの導体表面の電流分布を最適に配置することで、近距離通信において、電流分布に伴う交差2偏波による無指向性の電力放射特性を実現するものである。すなわち本発明のアンテナは、主に動作周波数を制御する複数のアンテナ素子と主に動作周波数帯域を制御する複数のアンテナ素子とグランド部とを平面で配置した構造を用いて、平面かつ薄型であって、かつ電力放射分布特性が交差2偏波で無指向性となるアンテナ構造を実現するものである。したがって、本発明のアンテナは、近距離通信において、設置の方法や場所の自由度を広くし、かつ効率の良い電波の送受信を実現することができる。
【0020】
また、本発明のアンテナの設計方法は、特許文献3、4記載のアンテナ構造自動探索法に基づき考案されたものである。
【0021】
上記の交差2偏波とは、一般的な水平偏波と垂直偏波の様に、直交の位置関係にある2つの偏波を指す。
【0022】
本発明のアンテナは、動作周波数を制御する複数のアンテナ素子と動作周波数帯域を制御する複数のアンテナ素子を有する構造である。したがって、これらのアンテナ素子の長さ・サイズを変更することで、動作周波数及びその帯域を容易に変更または調整することができる。
【0023】
また、本発明のアンテナは、設置の方法の自由度を広くするため、アンテナ単体で独自にグランド部を具備したものである。すなわち、一般的にアンテナは、その特性を向上もしくは維持するために、アンテナ素子よりもはるかに広い面積(容積)のグランド部が必要となる。例えば、建物や壁、電気機器類などにアンテナ(素子)を設置する場合、これら設置場所に既存の導体をグランドにする方法が良く取られる。しかし、この場合は別途工事や加工が必要になる。これに対し、本発明のアンテナは、アンテナ単体で独自にグランド部を具備しているため、この煩わしさがないと共に、広い面積(容積)のグランドを使用しなくても良い。
【0024】
また、本発明のアンテナは、独自のグランド部を具備することにより、そのグランド部に出力調整や受信感度補正の回路を具備することを可能にしている。
【0025】
まず、本発明アンテナの設計方法に関し、図1から図3に基づいて説明する。本発明のアンテナの設計方法は、特許文献3、4記載のアンテナ解析に幅広く使用されているモーメント法を応用し考案されたものである。
【0026】
図1は、本発明のアンテナの設計方法(構造自動探索法)で取り扱う離散化された導体平板1を示している。アンテナを構成する導体平板1の縦横サイズ(L、W)を定義し、この定義された導体平板1の領域の全てを一辺Aの正方形の微小セグメント2で離散化している。そしてモーメント法の解法に基づき、全ての微小セグメント2の結合辺上に電流点(図示せず)を定義している。さらに、モーメント法の解法による電気的特性を算出するため、これら正方形の微小セグメント2の任意の結合辺上に給電点3を定義している。本発明のアンテナの設計方法(構造自動探索法)は、これら微小セグメント2の有無による構造組合せを連続的に計算し、これら組合せ毎の電気的な特性を評価することで、所望とする特性を有する構造を自動的に算出し、導体平板構造41、42の様な構造を得るものである。
【0027】
図2は、本発明の設計に用いた本発明のアンテナの設計方法の計算フローチャートを示す。
【0028】
まず、ステップS1で導体平板の縦横サイズ(L、W)とこの平板導体を離散化するための正方形微小セグメントの一辺のサイズAの設定を読み込む。このとき、導体平板サイズLとWは、微小セグメント一辺のサイズAの倍数としている。次にステップS2で導体平板を正方形微小セグメントで離散化し、導体平板内に形成される微小セグメントの総数Nallを決定する。次にステップS3で全てのセグメントに番号を定義し、この情報を配列データSallに保存する。なお、この配列データSallは、サイズNallの1次元配列であり、予め定義しておく。次にステップS4でアンテナのグランド部とする微小セグメントの固定領域の設定を読み込み、固定される微小セグメントの総数Nfixを決定する。
【0029】
次に配列データSallの情報に従い、ステップS5で固定される微小セグメントの番号情報を配列データSfixに保存する。なお、この配列データSfixは、最低サイズNfixの1次元配列である。次にステップS6でアンテナのグランド部とする固定領域外にある微小セグメント有無の組合せを変化させるセグメント領域の設定を読込み、対象となるセグメントの総数Ncalを決定する。次に配列データSallの情報に従い、ステップS7でセグメント有無組合せを変化させる領域に存在するセグメントの番号情報を配列データScalに保存する。なお、この配列データScalは、最低サイズNcalの1次元配列である。次にステップS8で給電点位置の設定を読込み、給電点が設置される隣接する2つのセグメントを決定する。
【0030】
以上の図2に関する説明の状態を図3に示す。図3より、導体平板1を20×20個(Nall=400)の1辺Aの正方形微小セグメント2で離散化し、アンテナのグランドとする固定領域5を太枠で示し、この固定領域5内の14×14個(Nfix=196)のセグメント2全てを固定し、固定領域5外の全てのセグメント2(Ncal=204)を、セグメント有無組合せを変化させる対象にし、そして固定領域5の境界に位置する任意の2つのセグメント2の結合辺上に給電点3を設置している。
【0031】
図2の説明に戻り、ステップS9で設計において所望とする特性の初期値(最低条件値)R0を読込む。本発明では、この初期値R0は、アンテナの電気的特性である電力放射特性における交差する各偏波の電力最大値と最小値との差や平均値、また設計中心周波数のVSWR(電圧定在波比)などを使用している。
【0032】
以上のステップS9までの設定を用いて、総数204(=Ncal)の全セグメント有無組合せ毎で構成される各構造の電気的特性を自動的に算出する計算フローがステップS10以降である。なおステップS10からS15は、計算回数を1から2のNcal乗とする計算ループ内で行われる。ここで最大の計算回数が2のNcal乗となるのは、有無組合せの対象となるセグメントの総数がNcalより、最大の計算回数分の異なる構造が存在するためである。
【0033】
まずステップS10で配列データScalを使用し、セグメント有無の組合せを変化させ、存在する(有の状態の)セグメントの番号情報を配列データSvarに代入する。次にステップS11で配列データSvarとアンテナのグランドとして固定された全セグメントの番号情報を保存した配列データSfixで形成される導体構造上の電流分布をモーメント法の計算定義に従い計算する。モーメント法の計算定義は、諸文献に開示されている方法を用いることができる。
【0034】
次にステップS12で算出された電流分布を使用し、計算に使用した導体構造における電気的特性R1を算出する。次にステップS13でR1の比較対象となる特性値R0を比較し、もしR0がR1より良好であれば、そのまま次の異なる導体構造に関する計算に移る。一方R1がR0より良好であれば、より特性の良い構造を選択するため、ステップS14に移動し、R0にR1を代入し、次の異なる導体構造における電気的特性の比較対象値R0を更新し、さらにステップS14への移動を可能にした導体構造(ステップS10で導出)を形成する全セグメントの番号情報を配列データSに保存し(ステップS15)、次の異なる導体構造に関する計算に移る。このステップS10からステップS15を最大2のNcal乗回繰り返し、これが終了後、ステップS16で最良の電気的特性値R0とこの特性を実現する導体構造を形成する全セグメントの番号情報を保存した配列データSを出力し、全ての計算が終了する。
【0035】
以上の構造自動探索法に基づく計算により、構造を自動的に算出および評価して本発明のアンテナ構造を決定することが可能である。
【0036】
[第1の実施形態]
以上の設計方法により実現した本発明の第1の実施形態に係るアンテナについて、添付図面の図4から図10に基づいて説明する。
【0037】
図4は、本発明の第1の実施形態に係るアンテナ61の構造を示す。また、図5は、図4の本発明のアンテナ61の構造(サイズ)と自動構造探索法で使用した一辺Aの正方形の微小セグメント2で離散化した導体平板との位置関係を示す。ここでは微小セグメント2の一辺Aは4.5mmとしている。また、この構造での設計周波数は、700MHzとしている。図示のように、アンテナ61の構造は、各微小セグメント2の配置に従い決定されている。
【0038】
本実施形態のアンテナ61は、銅板からなる導体平板で構成され、主に動作周波数を制御するアンテナ素子71、72と、主に動作周波数帯域を制御するアンテナ素子81、82と、アンテナのグランド部9とからなる。給電点3は、図示した位置(グランド部9とアンテナ素子82との間)としている。
【0039】
グランド部9は、アンテナ61の設計時に設定した固定領域5内の196(14×14)個の微小セグメント2と固定領域5の左右両側に接続された複数の微小セグメント2とから構成されている。固定領域5の左側には7個の微小セグメント2が接続され、固定領域5の右側には8個の微小セグメント2が接続されている。
【0040】
アンテナ素子81は、複数の微小セグメント2が一列に接続された形状をしている。アンテナ素子81は、グランド部9の右下部に接続され、導体平板の右下の角部から上方に一直線状に伸びるように形成されている。一方、アンテナ素子82は、複数の微小セグメント2の集合からなり、グランド部9の左上部に接続されている。グランド部9とアンテナ素子82との間には、給電点3が形成されている。なお、アンテナ素子82には、構造自動探索法による計算に伴い、微小セグメント2が除去された矩形穴10が2つ存在する。このようなアンテナ素子82の構造から分かるように、本実施形態のアンテナ61は、人為的に設計することが容易ではない複雑な構造となっている。
【0041】
アンテナ素子71、72は、アンテナ素子82の上部に連結部を介して接続され、当該連結部からT字状に2つに分岐して形成されている。すなわち、アンテナ素子82の上部に連結部の一端が接続され、連結部の他端に2つのアンテナ素子71、72接続され、連結部と2つのアンテナ素子71、72とがT字状をなしている。連結部の他端における分岐部から図示左側をアンテナ素子71とし、右側をアンテナ素子72とする。
【0042】
アンテナ素子71、72は、それぞれ複数の微小セグメント2が一列に接続された形状をしている。アンテナ素子71は、上記の分岐部から導体平板の左上の角部まで一直線状に伸びると共に、この左上の角部から導体平板の左下の角部まで一直線状に伸びている。一方、アンテナ素子72は、上記の分岐部から導体平板の右上の角部まで一直線状に伸びると共に、この右上の角部から下方に一直線状に伸びるように形成されている。アンテナ素子72の先端は、1個分の微小セグメント2無しの空間を挟んでアンテナ素子81の先端と対向している。
【0043】
図6(a)は、図4の本発明のアンテナ61の表面上の電流分布11の連続性を破線で示し、図6(b)は、図6(a)の電流分布11の強度を白黒の濃淡で示す。なお、図6(b)は電流分布における最大値で正規化して図示している。
【0044】
図6より、主に動作周波数を制御するアンテナ素子71、72上、動作周波数帯域を制御するアンテナ素子81、82上、そしてアンテナ61のグランド部9の導体縁付近に給電点3から連続した電流分布11が存在している。この連続した電流分布11は、主に動作周波数を制御するアンテナ素子71の屈曲部(導体平板の左上の角部)周辺で最も強度の大きい分布となり、他の部分はほぼ均等の強度となっている。このように、本発明のアンテナ61は、構造全体に電流分布11を持つ構造となっている。
【0045】
図7は、図4のアンテナ61をポリエステル製のラミネート材12で覆ったときのアンテナ62の外観を示している。図4のアンテナ61は、動作周波数帯域を制御するアンテナ素子81以外のアンテナ素子71、72、82は、アンテナのグランド部9と分離した構造となっている。このため、アンテナの構造を保持するために、アンテナの全体もしくは一部分を絶縁体で覆っても良く、図7では絶縁体としてのラミネート材12でアンテナ61全体を覆った場合を示している。なお、絶縁体として紙を用いることも可能である。
【0046】
図8は、アンテナ62の給電線として同軸ケーブル13を使用した場合を示している。給電点3に相当する位置の導体平板は除去され、グランド部9とアンテナ素子82は離間している。同軸ケーブル13の内導体141は、動作周波数帯域を制御するアンテナ素子の1つであるアンテナ素子82に半田材15を用いて接続されている。また、同軸ケーブル13の外導体142は、アンテナのグランド部9に半田材15を用いて接続されている。なお、同軸ケーブル13の内導体141と外導体142を半田材15で接続する部分のラミネート材は、除去されている。
【0047】
図9と図10は、本発明のアンテナの特性を示している。なお、以下に示す本発明のアンテナに関する特性説明は、実際の測定作業の都合上、図8のアンテナ62のようにポリエステル製のラミネート材でアンテナ全体を覆い構造を固定し、同軸ケーブルを給電線とした場合を用いて示す。ただし便宜上、ラミネート材の図示は省略する。なお、ポリエステル製のラミネート材12の誘電率の影響により、動作(中心)周波数は、設計周波数より約2%程度低い数値となる。また同軸ケーブルの径は1.1mm、同軸ケーブルの長さは500mmで統一している。
【0048】
図9は、図8のアンテナ62の周波数共振特性を示し、横軸は周波数、縦軸はVSWR(電圧定在波比)を示している。図9より、動作(中心)周波数は、ラミネート材の誘電率の影響により、設計周波数700MHzより約2%程度低い685MHzとなっている。そしてVSWRが2以下の比帯域は、約5%となっている。
【0049】
図10は、図8のアンテナ62の電力放射分布特性の測定結果を示す。電力放射分布特性は、ZX面とYZ面のそれぞれに関して測定した。ZX面とYZ面の定義は、図内の座標系(X,Y,Z)と回転角(θ)に従い、測定周波数は685MHzとし、観測点距離は、アンテナ平面の中心より測定周波数の波長(λ≒438mm)の1.0倍とし、図中の実線は垂直偏波、破線は水平偏波をそれぞれ示している。図10より、ZX面とYZ面のそれぞれの垂直偏波で良好な無指向性が得られている。なおZX面とYZ面は、互いに直交する平面であり、これら垂直偏波も互いに直交する。これより、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性となっている。
【0050】
以上の図4から図10に示す構造と結果の通り、本発明によると、アンテナの導体表面の電流分布を最適に配置する構造により、平面かつ薄型で、かつ電力放射分布特性が交差2偏波で無指向性となるアンテナを実現可能である。
【0051】
なお、上記のような交差2偏波による無指向性の電力放射特性を実現し得る他の構造として、共通の給電点を中心に2つのダイポールアンテナを直交させる構造などが想像できる。しかし、図4から図10の説明に示す本発明のアンテナの設計周波数700MHzの場合、ダイポールアンテナ単体のサイズは、700MHzにおける波長約430mmの半分である約215mmであり、これを2つ平面上で直交させると最低でも215mm×215mmのサイズとなり、本発明のアンテナ(90mm×90mm)より、明らかに大型な構造となる。これに対し、本発明のアンテナは、交差2偏波による無指向性の電力放射特性を実現するアンテナであって、小型化かつ薄型化をも実現することができる。
【0052】
次に、本発明のアンテナを構成する各アンテナ素子の特性について図11から図18に基づいて説明する。
【0053】
図11は、図8に示すアンテナ62と比較して、動作周波数を制御するアンテナ素子71の先端を長さLだけ短くしたアンテナ621を示す(給電用の同軸ケーブルは図示せず)。図12は、この長さLを20mmとした場合の周波数共振特性を示す。図12の横軸は周波数、縦軸はVSWRを示す。なお図12には、素子長を変化させない場合(L=0。すなわち、図9の結果と同じ)の周波数共振特性を破線で示している。図12より、素子長の変化に伴い、動作周波数が大幅に変化していることが判る。これより、アンテナ素子71は、その長さで主に動作周波数を制御(決定)していることが明らかである。
【0054】
図13は、図8に示すアンテナ62と比較して、動作周波数を制御するアンテナ素子72の先端を長さLだけ短くしたアンテナ622を示す(給電用の同軸ケーブルは図示せず)。図14は、この長さLを20mmとした場合の周波数共振特性を示す。図14の横軸は周波数、縦軸はVSWRを示す。なお図14には、素子長を変化させない場合(L=0。すなわち、図9の結果と同じ)を破線で示している。図14より、素子長の変化に伴い、動作周波数が大幅に変化していることが判る。これより、アンテナ素子72は、その長さで主に動作周波数を制御(決定)していることが明らかである。
【0055】
図15は、図8に示すアンテナ62と比較して、動作周波数帯域を制御するアンテナ素子81の先端を長さLだけ短くしたアンテナ623を示す(給電用の同軸ケーブルは図示せず)。図16は、この長さLを20mmとした場合の周波数共振特性を示す。図16の横軸は周波数、縦軸はVSWRを示す。なお図16には、素子長を変化させない場合(L=0。すなわち、図9の結果と同じ)を破線で示している。図16より、アンテナ素子71、72の素子長を変化させた場合と比較して、素子長の変化に伴う動作周波数の変化は大きくないことが分かる。一方、VSWR≦2の周波数帯域幅は大きく変化していることが判る。したがって、アンテナ素子81は、その長さで主に動作周波数帯域を制御(決定)していることが明らかである。
【0056】
図17は、図8に示すアンテナ62と比較して、動作周波数帯域を制御するアンテナ素子82の矩形穴10が存在する方向の長さをLだけ短くしたアンテナ624を示す(給電用の同軸ケーブルは図示せず)。図18は、この長さLを20mmとした場合の周波数共振特性を示す。図18の横軸は周波数、縦軸はVSWRを示す。なお、図18には、素子長を変化させない場合(L=0。すなわち、図9の結果と同じ)を破線で示している。図18より、アンテナ素子71、72の素子長を変化させた場合と比較して、素子長の変化に伴う動作周波数の変化は大きくいことが分かる。一方、VSWR≦2の周波数帯域幅は変化していることが判る。これより、アンテナ素子82は、その長さで主に動作周波数帯域を制御(決定)していることが明らかである。
【0057】
以上の図11から図18に示す結果の通り、本発明のアンテナは、動作周波数を制御するアンテナ素子と動作周波数帯域を制御するアンテナ素子とにより、アンテナ自体の動作周波数とその帯域の各特性を実現している。
【0058】
以上の特性を利用して実現した本発明のアンテナの他の実施形態を、添付図面の図19から図25に基づいて説明する。
【0059】
[第2の実施形態]
図19は、本発明のアンテナの第2の実施形態を示す。アンテナ63は、図4に示すアンテナ62において、動作周波数帯域を制御するアンテナ素子81、82とグランド部9の各構造と給電点3の位置は固定し、動作周波数を制御するアンテナ素子71、72のそれぞれの長さを変更し、動作周波数を変化させた構造を有する。なお、このときの動作周波数は、900MHzとしている。
【0060】
図20に、図19のアンテナ63の構造(サイズ)と自動構造探索法で使用した一辺Aの正方形の微小セグメント2で離散化した導体平板との位置関係を示す。微小セグメント2の一辺Aは4.5mmとしている。図20の各微小セグメント2の配置に従い、アンテナ63の構造が決定されている。なお、以下に示す図19の本発明のアンテナ63に関する特性説明は、図8のアンテナの構造説明に関する記述同様に、ポリエステル製のラミネート材でアンテナ全体を覆い構造を固定し、同軸ケーブルを給電線としている。さらにポリエステル製のラミネート材による特性への影響と使用した同軸ケーブルの径と長さも同じである。
【0061】
図21に、図19のアンテナ63の周波数共振特性を示す。横軸は周波数、縦軸はVSWR(電圧定在波比)を示す。動作(中心)周波数は、ラミネート材の誘電率の影響により、設計周波数900MHzより約2%程度低い885MHzとなっている。そしてVSWRが2以下の比帯域は、約4%の特性となっている。なお、図19の構造では、動作周波数を制御する2つのアンテナ素子の長さを変更したことにより、設計周波数に対して約200MHz高い周波数帯にもう1つの動作周波数帯も存在しているが、この動作周波数帯では、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性を実現できないことが確認された。
【0062】
図22は、図19のアンテナ63の電力放射分布特性の測定結果を示す。電力放射分布特性は、ZX面とYZ面のそれぞれに関して測定した。ZX面とYZ面の定義は、図10同様で、測定周波数は880MHzとし、測定距離は、アンテナ平面の中心より測定周波数の波長(λ≒340mm)の約1.3倍とした。また、図中の実線は垂直偏波、破線は水平偏波をそれぞれ示す。図22より、ZX面とYZ面のそれぞれの垂直偏波で良好な無指向性が得られ、図10の結果同様に、近距離通信において、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性となっている。
【0063】
図23に、図19のアンテナ63を誘電体(プラスティック)製ケース16に内蔵したアンテナ631を示す。誘電体製ケース16は、2つの誘電体(プラスティック)製の平板161、162からなり、アンテナ631は、2つの誘電体製の平板161、162でアンテナ63を挟むように形成されている。誘電体(プラスティック)の材質はPC−ABSとし、ケースのサイズは幅と長さ共に125mm、厚さ7mmとしている。また、アンテナ63全体は接着テープで固定され、給電線として使用される同軸ケーブル13の内導体と外導体は、半田材15を用いて給電点でアンテナ63に接続されている。ケース16内側には、同軸ケーブル13とアンテナ63の給電点とを半田材15により接続している部分がケースと接触せず、かつ同軸ケーブル13自体を直線的に納める溝(図示せず)が設けられている。さらに、ケース16側面には、同軸ケーブルの通し穴17が設けられ、同軸ケーブル13がケース16の外側に延ばされている。
【0064】
本発明のアンテナ63は、平面かつ薄型であるため、誘電体製(プラスティック等)のケース16への内蔵が容易である。これにより、人為的な接触等の予期せぬトラブルによるアンテナ自体の故障の回避を容易にすることができる。
【0065】
また、本発明のアンテナ63では、給電線としての同軸ケーブル13は、アンテナ63の各アンテナ素子71、72、81、82と交差しない位置と方向に延ばして配置されるので、アンテナ素子の電波送受信特性に影響を与えない。これにより、アンテナ設置時の給電線の配置を容易にすることができる。
【0066】
図24は、図23のアンテナ631の周波数共振特性を示す。横軸は周波数、縦軸はVSWR(電圧定在波比)を示す。図24より、ケース16の誘電率に伴い、動作(中心)周波数は、内蔵前の885MHzから705MHzに変化し、VSWRが2以下の比帯域は、約5%の特性となっている。なお図21の説明で示した設計周波数よりも高い周波数での動作(中心)周波数もケース16の誘電率に伴い、1070MHzから840MHzに変化している。
【0067】
図25は、図23のアンテナ631の電力放射分布特性を示す。電力放射分布特性は、ZX面とYZ面のそれぞれに関して測定した。ZX面とYZ面の定義は、図内の座標系(X,Y,Z)と回転角(θ)に従い、測定周波数は705MHzとし、測定距離は、アンテナ平面の中心より測定周波数の波長(λ≒426mm)の約1.03倍とし、図中の実線は垂直偏波、破線は水平偏波をそれぞれ示す。図より、ZX面とYZ面のそれぞれの垂直偏波で良好な無指向性が得られ、図22同様に、近距離通信において、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性となっている。
【0068】
[第3の実施形態]
次に本発明のアンテナの第3の実施形態を、添付図面の図26から図32に基づいて説明する。なおこの実施形態は、構造自動探索法による設計において、図23に示す誘電体(プラスティック)製のケースにアンテナを内蔵したとき、700MHzを中心に広帯域に渡り、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性が実現することを所望の特性として算出した構造の1つである。
【0069】
図26は、本実施形態のアンテナ64の構造を示す。アンテナ64は、図4に示す構造において、2つ存在する動作周波数帯域を制御するアンテナ素子の内、アンテナのグランド部9に接続された一方(アンテナ素子81)を削除し、もう一方のアンテナ素子82とアンテナのグランド部9の構造と給電点3の位置は固定し、さらに2つ存在する動作周波数を制御するアンテナ素子71、72の内、一方の長さを変更した構造である。
【0070】
図27は、図26のアンテナ64の構造(サイズ)と自動構造探索法で使用した一辺Aの正方形の微小セグメント2で離散化した導体平板との位置関係を示す。微小セグメント2の一辺Aは3.35mmとしている。図27より、各微小セグメント2の配置に従い、アンテナ64の構造が決定されている。
【0071】
図28は、図26のアンテナ64を、図8のアンテナの構造説明に関する記述同様に、ポリエステル製のラミネート材でアンテナ全体を覆い構造を固定し、径と長さも同じ同軸ケーブルを給電線とし、図23と同様な方法により誘電体(プラスティック)製ケース16に内蔵したアンテナ641を示す。誘電体(プラスティック)の材質はPC−ABSとし、ケースのサイズは幅と長さ共に100mm、厚さ7mmとしている。
【0072】
図29に、図28のアンテナ641の周波数共振特性を示す。横軸は周波数、縦軸はVSWR(電圧定在波比)を示す。図29より、目的とした700MHz近辺ではVSWR≒4となり、周波数共振特性は劣化した特性となっている。
【0073】
図30から図32に、図28のアンテナ641の電力放射分布特性の測定結果を示す。電力放射分布特性は、ZX面とYZ面のそれぞれに関して測定した。ZX面とYZ面の定義は、図25同様である。また、図30の測定周波数は、695MHz、図31の測定周波数は、710MHz、そして図32の測定周波数は、740MHzである。また、図30から図32の測定距離は、アンテナ平面の中心より各測定周波数の波長と同等とし、図中の実線は垂直偏波、破線は水平偏波をそれぞれ示す。図より、695MHzから740MHzの広帯域において、ZX面とYZ面のそれぞれの垂直偏波で良好な無指向性が得られ、図10、図22、図25同様に、近距離通信において、交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性となっている。
【0074】
なお、図29から図32の結果のように、広帯域において電力放射分布特性が良好であっても、VSWRが劣化している構造の場合、アンテナとして不良と判断されるのが一般的である。しかしながら、使用形態においては、有用なアンテナとなり得る。その使用形態例を次に示す。
【0075】
図33に、電波法規により規定された電波送信免許不要の送信電力に従い、通信距離を限定した放送システムの一例を示す。図33は、ローカル無線放送の放送エリア(通信距離)限定を目的とした構成で、放送信号発生器(Broadcast Signal Output Unit)181と放送用アンテナ183との間に出力調整器(Power Control Unit)182を設置し、それぞれをケーブル184で接続している。放送エリアを限定する場合、放送用アンテナ183のVSWRと電力放射分布特性を考慮し、放送用アンテナ183に入力する放送信号電力を出力調整器182で調整するのが一般的な方法であり、この出力調整器182の使用により、放送エリア限定が容易に実現できる。したがって、図33に示すシステム例では、図29から図32の諸特性を有する図27のアンテナ641は、放送用アンテナ183として好適であり、有用なアンテナとなり得る。
【0076】
[第4の実施形態]
次に本発明の第4の実施形態を図34に基づいて説明する。
【0077】
図34は、図4に示すアンテナ61の構造を片面が導体面の回路基板(誘電体基板)19で構成したアンテナ65の外観を示す。このアンテナ65は、給電に同軸ケーブル13が使用されている。同軸ケーブル13とアンテナ65の接続には、半田材15が使用され、同軸ケーブル内導体141と外導体142とがアンテナ65の給電部に接続されている。なお、この接続方法は、専用コネクタを使用するなどの他の方法でも良く、接続工程の容易さ、接続部の強度保持などの目的に応じ、選択することができる。また、回路基板は、導体面が両面の基板を使用することもできる。ただし、導体面が両面の基板を使用する場合、一方の面に構成した動作周波数を制御するアンテナ素子71、72および動作周波数帯域を制御するアンテナ素子81、82が位置する部分に相対するもう一方の面の導体部は電力放射分布特性の劣化を避けるため削除することが望ましい。
【0078】
[第5の実施形態]
次に、本発明の第5の実施形態を図35に基づいて説明する。
【0079】
図35は、図34に示すアンテナ61のアンテナのグランド部9上に回路部20を具備したアンテナ66の外観を示す。回路部20としては、例えば、放射電力出力調整用や受信電力の損失補正用の増幅回路などを用いることができ、用途に応じて選択することができる。図35では、アンテナの給電は、回路部20より伸ばした給電線路21で行っている。また、回路部20への信号入力は、同軸ケーブル13を使用し、回路部20が動作するための電力は、同軸ケーブル13に重畳している。なお、回路部20が動作するための電力供給は、同軸ケーブル13への電力重畳ではなく、他の同軸ケーブルの使用、他の複数の単線ケーブルの使用、他のフラットケーブルの使用など、接続工程の容易さ、接続部の強度保持などの目的に応じ、選択することができる。
【0080】
[第6の実施形態]
次に、本発明の第6の実施形態を図36に基づいて説明する。
【0081】
図36は、誘電体(プラスティック)製ケースを使用したアンテナ67をテーブル22の天板23裏面(下面)側に固定した設置例を示す。アンテナ67の固定は、アンテナの諸特性に影響を与えないケース各角に設けたネジ穴にネジを通して固定、または粘着テープで固定、さらにネジと粘着テープの両者の併用など、工程の容易さ、強度保持などの目的に応じて選択することができる。なお、図36のような設置状態において、テーブル22の天板23の表面(上面)側で電波の送受信を行う場合には、アンテナを固定する天板23内には、補強用鉄板を使用していないことが必須である。
【0082】
図36の設置例では、アンテナ67をテーブル22の天板23の裏面側に固定したが、例えば、鉄筋が位置しない部分の壁面に固定することもできる。
【0083】
以上のように本発明では、アンテナの導体表面の電流分布を最適に配置する設計方法を用いて決定した動作周波数を制御するアンテナ素子と動作周波数帯域を制御するアンテナ素子を用いて、これら素子の長さやサイズを変更することでアンテナ特性の調整を可能にし、さらにアンテナ独自のグランド部を用いることにより、アンテナの導体表面の電流分布に伴う交差2偏波による無指向性の電力放射特性に優れた近距離通信用のアンテナを実現できる。
【0084】
また、本発明によれば、アンテナ自体は簡単な構造であるので、本発明のアンテナの製作は簡単であり、既存の製造技術および設備を利用できることから、生産性に優れ、かつ安価で取扱いが容易な近距離通信用のアンテナを提供できる。
【0085】
以上、本発明の実施形態を図示し説明してきたが、当業者であれば、本発明の技術思想、技術的範囲から逸脱することなく種々の変更及び修正が可能であることは明らかである。例えば、上記実施形態では、導体平板として銅板を用いてアンテナを形成したが、銅板よりもばね性のある金属(例えば、リン青銅)を使用してもよい。銅板は、加工作業の際に多少の応力で曲がってしまうことがあるが、ばね性のあるリン青銅は、そのばね性により上記のような事は起こりにくい。
【0086】
また、上記アンテナは、軟性導体シート(フィルム)を用いて構成してもよく、軟性導体シート(フィルム)は、銅箔またはアルミ箔を使用してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1:導体平板
2:微小セグメント
3:給電点
41、42:導体平板構造
5:固定領域
61〜67、621〜624、631、641:アンテナ
71:(第2の)アンテナ素子
72:(第3の)アンテナ素子
81:(第4の)アンテナ素子
82:(第1の)アンテナ素子
9:グランド部
10:矩形穴
11:電流分布
12:ラミネート材
13:同軸ケーブル
141:同軸ケーブルの内導体
142:同軸ケーブルの外導体
15:半田材
16:誘電体(プラスティック)製ケース
161、162:誘電体(プラスティック)製平板
17:通し穴
181:放送信号発生器
182:出力調整器
183:放送用アンテナ
184:ケーブル
19:回路基板
20:回路部
21:給電線路
22:テーブル
23:天板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状の導体からなるアンテナであって、
グランド部と、
第1のアンテナ素子と、
前記グランド部と前記第1のアンテナ素子との間に形成された給電点と、
前記第1のアンテナ素子に連結部を介して接続され、前記連結部から2つに分岐して形成された第2のアンテナ素子と第3のアンテナ素子と、を有し、
交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性を有することを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
アンテナの外形は、一辺の長さが動作周波数の波長の1/2より短い矩形に収まる大きさであることを特徴とする請求項1記載のアンテナ。
【請求項3】
前記第2のアンテナ素子と前記第3のアンテナ素子は、その長さで動作周波数帯域を制御可能であることを特徴とする請求項1または2記載のアンテナ。
【請求項4】
前記給電点に接続された同軸ケーブルを有し、
前記同軸ケーブルは、前記第1乃至第3のアンテナ素子と交差しないように配置されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のアンテナ。
【請求項5】
前記グランド部に接続された第4のアンテナ素子を有し、
前記第3のアンテナ素子の先端は、前記第4のアンテナ素子の先端と導体がない空間を挟んで対向していることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のアンテナ。
【請求項6】
前記グランド部、前記給電点、および第1乃至第3のアンテナ素子は、誘電体基板の一方の面に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のアンテナ。
【請求項7】
前記誘電体基板は、その他方の面に導体面が形成され、
前記他方の面の導体面は、前記第1乃至第3のアンテナ素子が位置する部分に相対する部分の導体が除去されていることを特徴とする請求項6記載のアンテナ。
【請求項1】
平面状の導体からなるアンテナであって、
グランド部と、
第1のアンテナ素子と、
前記グランド部と前記第1のアンテナ素子との間に形成された給電点と、
前記第1のアンテナ素子に連結部を介して接続され、前記連結部から2つに分岐して形成された第2のアンテナ素子と第3のアンテナ素子と、を有し、
交差2偏波で無指向性の電力放射分布特性を有することを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
アンテナの外形は、一辺の長さが動作周波数の波長の1/2より短い矩形に収まる大きさであることを特徴とする請求項1記載のアンテナ。
【請求項3】
前記第2のアンテナ素子と前記第3のアンテナ素子は、その長さで動作周波数帯域を制御可能であることを特徴とする請求項1または2記載のアンテナ。
【請求項4】
前記給電点に接続された同軸ケーブルを有し、
前記同軸ケーブルは、前記第1乃至第3のアンテナ素子と交差しないように配置されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のアンテナ。
【請求項5】
前記グランド部に接続された第4のアンテナ素子を有し、
前記第3のアンテナ素子の先端は、前記第4のアンテナ素子の先端と導体がない空間を挟んで対向していることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のアンテナ。
【請求項6】
前記グランド部、前記給電点、および第1乃至第3のアンテナ素子は、誘電体基板の一方の面に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のアンテナ。
【請求項7】
前記誘電体基板は、その他方の面に導体面が形成され、
前記他方の面の導体面は、前記第1乃至第3のアンテナ素子が位置する部分に相対する部分の導体が除去されていることを特徴とする請求項6記載のアンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【公開番号】特開2013−90027(P2013−90027A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226549(P2011−226549)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
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