説明

アントラセン誘導体

【課題】有機電界発光素子の有機層に用いることで、有機電界発光素子の発光効率を高めるとともに、発光寿命を長くすることが可能なアントラセン誘導体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるアントラセン誘導体。
【化1】


[ただし、一般式(1)中において、
Ar1は、炭素数30以下の置換もしくは無置換のアリール基、または炭素数30以下の置換もしくは無置換の複素環基を表し、
Ar2は、炭素数30以下の置換もしくは無置換のアリーレン基、または炭素数30以下の置換もしくは無置換の2価複素環基を表す。
また、mは0または1を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラセン誘導体に関し、特に、有機電界発光素子(いわゆる有機EL素子)用の有機材料として好適に用いられるアントラセン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電力が小さく、応答速度が高速であり視野角依存性の無いフラットパネルディスプレイとして、有機電界発光素子を用いた表示装置が注目されている。
【0003】
一般的に有機電界発光素子は、陰極と陽極との間に有機層を挟持してなり、陽極および陰極からそれぞれ注入された正孔(ホール)と電子とが有機層中において再結合することにより発光する。有機層としては、例えば、正孔輸送層、発光材料を含む発光層および電子輸送層を陽極側から順に積層させた構成や、さらに電子輸送層中に発光材料を含ませて電子輸送性の発光層とした構成が開発されている。
【0004】
上述したような有機電界発光素子は、自発光素子であり、この有機電界発光素子を用いて表示装置を構成する場合、有機電界発光素子の長寿命化および信頼性の確保が最も重要な課題の1つとなる。このため、有機電界発光素子を構成する有機材料に関する研究が取り進められている。
【0005】
中でも発光を司る発光材料については、三原色に対応する赤、緑、そして、青色の発光材料についての様々な検討がなされている。発光材料に求められる物性には耐熱性や蛍光量子収率などの化合物特有の指標の他に、デバイスにおける色純度や輝度、さらには発光寿命といった素子特性を解決する材料が求められている。
【0006】
そして、特に青色発光材料については、過去から勢力的に開発が進められており、例えばスチリルアレンもしくはアントラセン誘導体といった材料が知られている。その代表的なアントラセン誘導体としては、9,10位にフェニル基を有する9,10−ジフェニルアントラセンがある。そして、この9,10−ジフェニルアントラセンにおけるフェニル基に置換基を導入することにより分子量を増大させ、熱的な安定化を図る構成が開示されている(下記特許文献1参照)。
【0007】
また、9,10位をナフチル基に置換した9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(ADN)は良好な青色発光材料として知られている。
【0008】
ただし、以上のような構成のアントラセン誘導体は、単独で発光層として使用した場合の電流効率が2cd/A以下と低いため、主に発光層のホスト材料として用いることにより、電流効率の向上を図ることも検討されている(下記非特許文献1参照)。
【0009】
また、アントラセン誘導体を、発光層のゲスト材料として用いる構成も検討されている。そして、特に、アントラセン核を有する青色発色のゲスト材料として、N,N’−ジ―(アントラセン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−4,4’−ベンジジン(K−1)が示されている。このような構成のアントラセン誘導体(K−1)は、アントラセン核に直接アミノ基を結合してなり、アミン化合物としたことによって、より発光効率の高い素子となることが示されている(下記特許文献2参照)。
【0010】
【非特許文献1】Applied Physics Letters(米)2002年,第80巻,17号,p.3201−3203
【特許文献1】特開平11−323323号公報
【特許文献2】特開平8−199162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した何れの発光材料を用いた有機電界発光素子であっても、発光効率や発光寿命は十分ではなかった。
【0012】
また、上述した材料は、青色発色の発光材料として、色相の点でも十分な色純度のものを得られていない。例えば特許文献1には、アントラセン誘導体で示された上記K−1で青色発光が観測されると記されている。しかしながら、一般にアントラセン核に直接アミノ基が結合する骨格として、例えば最も単純なジフェニルアミノアントラセンにおいては、その発光波長は480nm前後となるため、K−1の発光においても青色というよりもむしろ青緑に近くなることが、Synthetic Metals (米)2000年、第111−112巻、p.25−29に示されている。
【0013】
本発明は、有機電界発光素子の有機層に用いることで、有機電界発光素子の発光効率を高めるとともに、発光寿命を長くすることが可能なアントラセン誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するための本発明のアントラセン誘導体は、下記式一般式(1)で示される。
【化2】

【0015】
この一般式(1)中において、Ar1は、炭素数30以下の置換もしくは無置換のアリール基、または炭素数30以下の置換もしくは無置換の複素環基を表す。
【0016】
また、Ar2は、炭素数30以下の置換もしくは無置換のアリーレン基、または炭素数30以下の置換もしくは無置換の2価複素環基を表す。
【0017】
さらに、mは0または1を示す。
【0018】
このようなアントラセン誘導体は、アミン化合物であり、正孔輸送性に優れていることから、このアントラセン誘導体を有機電界発光素子の有機層に用いることで、有機電界発光素子の発光効率が高くなる。また、環の大きいアントラセン核を有することで、分子全体の化学的な安定化が図られることから、有機層の劣化が抑制される。さらに、上記一般式(1)中のmが0または1を示すことで、2つ以上のアントラセン核を有することから耐熱性を十分に保持できる分子量を有するため、このアントラセン誘導体を用いて構成される有機層の耐久性が向上する。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の一般式(1)に示したアントラセン誘導体を用いて、有機電界発光素子の有機層を構成することにより、高い発光効率を得ることができる。また、有機層の劣化が抑制されるとともに有機層の耐久性が向上するため、有機電界発光素子における発光寿命の向上を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
<アントラセン誘導体>
下記一般式(1)で示される本発明のアントラセン誘導体のさらに具体的な例を説明する。
【化3】

【0022】
上記一般式(1)のアントラセン誘導体は、窒素原子(N)の置換部位がAr1、またはAr2を介在したアントラセン核で置換された第3級アミン化合物である。
【0023】
一般式(1)中におけるAr1は、炭素数30以下の置換もしくは無置換のアリール基、または炭素数30以下の置換もしくは無置換の複素環基を示す。
【0024】
また、一般式(1)中におけるAr2は、アントラセン核と窒素原子(N)との連結基である。Ar2は、炭素数30以下の置換もしくは無置換のアリーレン基、または炭素数30以下の置換もしくは無置換の2価複素環基を示す。
【0025】
さらに、一般式(1)中のmは0または1を示す。
【0026】
上述したような構造のうち可視光域に発光帯を有するものは、有機電界発光素子における発光材料として好適に用いられる。次に、一般式(1)中のAr1、Ar2、アントラセン核について、それぞれ詳細に説明する。
【0027】
上記Ar1が示す炭素数30以下の置換もしくは無置換のアリール基は、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、フルオレニル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基、1−ナフタセニル基、2−ナフタセニル基、9−ナフタセニル基、1−ピレニル基、2−ピレニル基、4−ピレニル基、1−クリセニル基、6−クリセニル基、2−フルオランテニル基,3−フルオランテニル基、2−ビフェニルイル基、3−ビフェニルイル基、4−ビフェニルイル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、p−t−ブチルフェニル基等が挙げられる。
【0028】
また、Ar1が示す炭素数30以下の置換もしくは無置換の複素環基の例としては、1−ピロリル基、2−ピロリル基、3−ピロリル基、ピラジニル基、2−ピリジニル基、3−ピリジニル基、4−ピリジニル基、1−インドリル基、2−インドリル基、3−インドリル基、4−インドリル基、5−インドリル基、6−インドリル基、7−インドリル基、1−イソインドリル基、2−イソインドリル基、3−イソインドリル基、4−イソインドリル基、5−イソインドリル基、6−イソインドリル基、7−イソインドリル基、2−フリル基、3−フリル基、2−ベンゾフラニル基、3−ベンゾフラニル基、4−ベンゾフラニル基、5−ベンゾフラニル基、6−ベンゾフラニル基、7−ベンゾフラニル基、1−イソベンゾフラニル基、3−イソベンゾフラニル基、4−イソベンゾフラニル基、5−イソベンゾフラニル基、6−イソベンゾフラニル基、7−イソベンゾフラニル基、キノリル基、3−キノリル基、4−キノリル基、5−キノリル基、6−キノリル基、7−キノリル基、8−キノリル基、1−イソキノリル基、3−イソキノリル基、4−イソキノリル基、5−イソキノリル基、6−イソキノリル基、7−イソキノリル基、8−イソキノリル基、2−キノキサリニル基、5−キノキサリニル基、6−キノキサリニル基、1−カルバゾリル基、2−カルバゾリル基、3−カルバゾリル基、4−カルバゾリル基、9−カルバゾリル基、1−フェナンスリジニル基、2−フェナンスリジニル基、3−フェナンスリジニル基、4−フェナンスリジニル基、6−フェナンスリジニル基、7−フェナンスリジニル基、8−フェナンスリジニル基、9−フェナンスリジニル基、10−フェナンスリジニル基、1−アクリジニル基、2−アクリジニル基、3−アクリジニル基、4−アクリジニル基、9−アクリジニル基、などが挙げられる。
【0029】
また、上記Ar2が示す炭素数30以下の置換もしくは無置換のアリーレン基は、上記に例示したAr1を構成するアリール基から導出されたアリーレン基を例示できる。また、Ar2が示す炭素数30以下の置換もしくは無置換の2価複素環基は、上記に例示したAr1を構成する複素環基から導出された2価複素環基を例示できる。尚、上述したアリーレン基、複素環基には、炭素数30以下で複数の縮合環が連結した構造(例えばビフェニレン基)も含まれることとする。
【0030】
Ar2をフェニレン基、フルオレン基またはフェナントレン基で構成することにより、一般式(1)に示すアントラセン誘導体を、有機電界発光素子における青色の発光材料として好適に用いることができ、特に、Ar2をフェニレン基で構成することが好ましい。これは、電子の有効共役長が長いほど発光波長は長波長側へシフトするが、Ar2がフェニレン基で構成されることで、フェニレン基とアントラセン核の間またはフェニレン基と窒素原子の間にねじれが生じ、電子の有効共役長が断絶されるためと考えられる。また、上記フェニレン基は、パラ位で上記アントラセン核と窒素原子(N)とを連結することが、分子間の立体障害性を緩和させる観点で、好ましい。
【0031】
ここで、上述したAr1、Ar2の置換基として示された基のうち、さらに置換基を有する場合の置換基としては、ハロゲン、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、シリル基、アルキルシリル基、アミノ基またはアルキルアミノ基を挙げることができる。
【0032】
また、上記のカルボニル基は、アルデヒド基、ケトン基およびカルボキシル基を含む。また、上記のアルキル基は、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基を含む。
【0033】
さらに、Ar2を介在して窒素原子(N)と結合しているアントラセン核は、置換基を有していても無置換であってもよい。また、アントラセン核におけるAr2との結合部位は、特に限定されるものではない。分子量の大きいアントラセン核を有することで、誘導体の分子全体が化学的に安定化される。
【0034】
アントラセン核の置換基としては、ハロゲン、ヒドロキシル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換もしくは無置換の複素環基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基またはシリル基などが挙げられる。ただし、このアントラセン誘導体を青色の発光材料として用いる場合には、アミノ基が直接アントレセン核に結合することで色相が緑領域にシフトするため、アミノ基以外の置換基でアントラセン核を置換することが好ましい。
【0035】
また、アントラセン核の置換基として示された基のうち、さらに置換基を有してもよい基に対する置換基としては、ハロゲン、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、シリル基、アルキルシリル基、アミノ基、またはアルキルアミノ基を挙げることができる。
【0036】
ここで、上記のさらに置換基を有してもよい基とは、すなわち、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、シリル基である。
【0037】
また、上記のカルボニル基は、アルデヒド基、ケトン基およびカルボキシル基を含む。また、上記のアルキル基は、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基を含む。
【0038】
さらに、上述したように、一般式(1)中のmは0または1を示す。ここで、一般式(1)で示されるアントラセン誘導体の代表的な構造を構造式(1)、(2)として示す。
【0039】
構造式(1)は、m=0の例であり、この場合には、窒素原子(N)の3つの置換部位の全てが、それぞれ同じAr2を介在してアントラセン核と結合した構造となる。この場合には、発色団であるアントラセン核を3つ有した構造となるため、構造式(2)のアントラセン誘導体よりも発光効率が高くなる。
【化4】

【0040】
また、構造式(2)は、m=1の例であり、この場合の構造式は、窒素原子(N)の2つの置換部位がそれぞれ同じAr2を介在してアントラセン核と結合しており、1つの置換部位には上記置換基Ar1が結合した構造となる。この場合には、構造式(1)のアントラセン誘導体よりも発光寿命が長くなる。
【化5】

【0041】
以下に、構造式(1)、(2)のアントラセン誘導体の一例を示す。尚、本発明のアントラセン誘導体は、上述した範囲に含まれればよく、ここに例示した構造に限定されるものではない
【0042】
例えば、上記構造式(1)で示した例として、下記表1−a〜1−bに示す構造式(1)−1〜(1)−20の化合物が挙げられる。
【0043】
【表1−a】

【表1−b】

【0044】
また、上記構造式(2)で示した例として、下記表2−a〜2−fに示す構造式(2)−1〜(2)−52の化合物が挙げられる。
【0045】
【表2−a】

【表2−b】

【表2−c】

【表2−d】

【表2−e】

【表2−f】

【0046】
以上で一例を示した本発明の有機発光材料は、種々の方法によって合成が可能であり、例えば次のa)〜c)の方法が例示される。
a)ハロゲン化されたアントラセンを、マグネシウムを用いたグリニヤー反応によってカップリングさせる合成方法。
b)ボロン酸、もしくはボロン酸エステル化されたアントラセンとハロゲン化されたアントラセンとを、パラジウムに代表される遷移金属触媒によってカップリングさせる(いわゆる鈴木カップリング反応)合成方法。
【0047】
尚、本発明のアントラセン誘導体は、有機電界発光素子の有機層を構成する材料として用いられるものであり、有機電界発光素子の製造プロセスに供する前に純度を高めておくことが好ましく、該純度が95%以上、より好ましくは99%以上とするのがよい。かかる高純度の有機化合物を得る方法としては有機化合物の合成後の精製である再結晶法、再沈殿法、もしくはシリカやアルミナを用いたカラム精製のほかに、昇華精製やゾーンメルト法による公知の高純度化方法を用いることができる。
【0048】
また、これらの精製方法を繰り返し行うことや異なる精製法を組み合わせて行うことで、本発明におけるアントラセン誘導体中の未反応物、反応副生成物、触媒残渣、もしくは残存溶媒などの混合物を低減させ、よりデバイス特性の優れた有機電界発光素子を得ることが可能となる。
【0049】
さらに本化合物は、光や酸素といった外因から以下に掲げるa)〜c)の保管方法をとることによって、その酸化、分解からの劣化反応を抑制し、特にこの有機発光材料(アントラセン誘導体)を用いて構成される有機電界発光素子において、より優れた発光特性をもたらすことだけでなく、製造装置の負荷の軽減などに効果を発揮する。
【0050】
a)有機発光材料を合成した後、速やかに冷所に静置させる。その保管温度は−100℃から100℃の範囲が好ましく、より好ましくは−50℃から50℃の温度範囲で保管させる。
b)有機発光材料を合成した後、速やかに遮光性を有する容器に保管する。
c)有機発光材料を合成した後、合成した有機発光材料を窒素、二酸化炭素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で保管する。
【0051】
<有機電界発光素子>
次に、上述した有機発光材料を用いた有機電界発光素子(有機EL素子)の構成の一例について説明する。
【0052】
図1に示す有機電界発光素子11は、基板12上に、陽極13、有機層14および陰極15を順次積層してなり、陰極15側から発光を取り出す上面発光型の素子である。ここで、この有機電界発光素子11を用いた表示装置は、アクティブマトリックス方式で駆動されることとする。
【0053】
例えばガラスからなる基板12上に、各画素に応じてTFT(thin film transistor)が配列形成されており、これらTFTを覆う層間絶縁膜上に、例えばクロム(Cr)からなる陽極13が設けられている。この陽極13は、各画素に対応させてパターン形成され、同様に各画素に設けられたTFTに対し、上記層間絶縁膜に形成されたコンタクトホール(図示省略)を介してそれぞれが接続される状態で形成されることとする。
【0054】
一方、陽極13上に有機層14を介して設けられる陰極15は、例えばマグネシウム(Mg)と銀(Ag)の合金からなり、基板12上の全域を覆う状態で成膜されたベタ膜状に形成され、各画素に共通の電極として用いられることとする。
【0055】
そして、上述した下部電極13および上部電極15に狭持される有機層14は、陽極13側から順に、正孔輸送層14a、発光層14b、電子輸送層14cを積層してなる。
【0056】
さらに、正孔輸送層14aとしては、例えばα−NPD(N,N'-Di(naphthalen-1-yl)-N,N'diphenyl-benzidine)を用いることとする。
【0057】
そして、本発明の上記一般式[1]で示されるアントラセン誘導体を、例えば正孔輸送層14a上に設けられる発光層14bに、ゲスト材料として含有することとする。これにより、このアントラセン誘導体は化学的安定性を有していることから、発光層14bの劣化が抑制され、有機層14の劣化が抑制される。また、上記一般式[1]で示されるアントラセン誘導体は、2つ以上のアントラセン核を有することから、耐熱性に優れるため、長時間駆動における有機層14の耐久性が向上する。尚、発光層14bには、上述したアントラセン誘導体とともに、例えばADNなどの公知の材料がホスト材料として含有されていることとする。
【0058】
また、上記アントラセン誘導体は高い正孔輸送性を有するため、発光層14bに用いることで、有機電界発光素子11の発光効率が向上する。
【0059】
特に、この有機電界発光素子3が青色発光素子である場合、発光層503にゲスト材料として導入されるアントラセン誘導体が、上記一般式[1]中のAr2がフェニレン基で構成されることで、色純度が向上するため、好ましい。
【0060】
尚、ここでは、ゲスト材料として上記アントラセン誘導体を用いることとしたが、ホスト材料として用いてもよい。
【0061】
そして、発光層14b上に設けられる電子輸送層14cは、例えばAlq3(Tris-(8-hydroxy-Quinolinato)-aluminium)で構成されることとする。
【0062】
以上説明したような構成の一般式(1)および構造式で例示された本発明のアントラセン誘導体は、アミン化合物であるため、このアントラセン誘導体を有機電界発光素子11の有機層14に用いることで、高い正孔輸送性を有する。これにより、有機電界発光素子の発光効率を高くすることができる。
【0063】
また、このアントラセン誘導体は、アントラセン核を有しているため、化学的安定性に優れていることから、有機層14の劣化を抑制することができる。さらに、耐熱性を十分に保持できる分子量を有することから、有機層14の耐久性を向上させることができる。以上のことから、有機電界発光素子11の発光寿命を長くすることが可能である。
【0064】
さらに、上記一般式(1)中のAr2をフェニレン基で構成することで、上記アントラセン誘導体を青色の発光材料として用いた場合の有機電界発光素子11の色純度を向上させることができる。
【実施例】
【0065】
本発明のアントラセン誘導体の合成例、およびこのアントラセン誘導体を用いた有機電界発光素子の実施例について具体的に説明する。尚、ここでは先ず、本発明のアントラセン誘導体の合成例1および2を説明する。
【0066】
<アントラセン誘導体の合成例1>
下記反応式1から反応式2に示される鈴木カップリング反応を行い、表1−aの構造式(1)−2で示したアントラセン誘導体を得た。
【0067】
【化6】

【0068】
まず、上記反応式1を参照し、メカニカルスターラーを装着させた1000mlの三口フラスコを窒素で十分に置換した後に、溶媒として300mlのDMSOを加え、メカニカルスターラーを装着させた1000mlの三口フラスコを窒素で十分に置換した後に、溶媒として300mlのDMSOを加え、続いて2−ブロモアントラセン(25g、100mmol)、ビスピナコレートジボロン(30g、120mmol)、酢酸カリウム(CH3COOK)(20g、200mmol)、およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh34](1.16g、1mmol)を順次溶媒に加えた。攪拌しながら温度を90℃まで昇温させ、定常状態になってから4時間反応させた。
【0069】
反応終了後、溶媒のDMSOを真空条件下で蒸留にて除去、その後にトルエンで再溶解させ、水で洗浄した。続いてトルエン層側を硫酸ナトリウムで乾燥させた後に濃縮し、ヘキサン:トルエンの混合溶媒にてシリカカラムを通し、ボロン酸エステル化したアントラセン(C1)を得た.C1の収率は68%であった。
【0070】
【化7】

【0071】
続いて、上記反応式2を参照し、メカニカルスターラーを装着させた500mlの三口フラスコを窒素で十分に置換した後に、上記で合成した(C1)(7.3g、24mmol)、4,4',4”−トリヨードトリフェニルアミン(3.2g、8mmol)を順次加え、100mlのトルエンを注ぎいれた。攪拌しながら、2.0mol/lのNa2CO3水溶液を100ml添加し、その混合溶液を窒素にて10分間バブリングを行い溶液中の溶存酸素を十分に排気させた。続いて、パラジウム触媒成分としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh34](290mg、250μmol)を加えてから昇温を開始し還流温度で8時間反応させた。
【0072】
反応終了後に室温まで冷却し、有機層を分離させ、析出した固体をろ集し、その固体をエタノールおよびアセトンで十分に洗浄させた。続いて熱クロロホルムで洗浄を繰り返すことで純度99.1%(HPLC)の黄色固体3.8g(収率63%)を得た。
【0073】
得られた固体をFD−MSにて測定した結果、m/z=774で目的物を支持した。また、図2に示すように、1H−NMRを測定したところ,化学シフト(単位,ppm,TMS基準)が8.53(3H,s),8.47(3H,s),8.31(3H,s),8.11(3H,d),8.02〜8.01(3H×2,d),7.85(3H,d),7.84(6H,d),7.45〜7.43(3H×2,t),7.36(6H,d)の位置にそれぞれピークが観測された。
【0074】
また、1,4−ジオキサン中で発光スペクトルを測定すると、青色発光域である波長461nmに発光極大ピークを有することが確認された。
【0075】
<アントラセン誘導体の合成例2>
上記反応式1に示した反応の後に、下記反応式3に示す反応を行い、表2−aに構造式(2)−2で示したアントラセン誘導体を得た。
【0076】
【化8】

【0077】
上記反応式3に基づき、メカニカルスターラーを装着させた500mlの三口フラスコを窒素で十分に置換した後に、合成例2の中間体として得られたC1(7.3g、24mmol)、4,4’-ジブロモトリフェニルアミン(4.8g、12mmol)を順次加え、100mLのトルエンを注ぎいれた。攪拌しながら、2.0mol/リットルのNa2CO3水溶液を100mL添加し、その混合溶液を窒素にて10分間バブリングを行い溶液中の溶存酸素を十分に排気させた。続いて、パラジウム触媒成分としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh34](290mg、250μmol)を加えてから昇温を開始し還流温度で8時間反応させた。
【0078】
反応終了後に室温まで冷却し、有機層を分離させ、析出した固体をろ集し、その固体をエタノールおよびアセトンで十分に洗浄させた。続いて熱クロロホルムで洗浄を繰り返すことで純度99.0%(HPLC)の黄色固体5.2g(収率72%)を得た。
【0079】
得られた固体をFD−MSにて測定した結果、m/z=598で目的物を支持した。また、図3に示すように、1H−NMRを測定したところ、化学シフト(単位,ppm,TMS基準)が8.46(2H,s),8.43(2H,s),8.19(2H,s),8.07(2H,d),8.00〜8.02(2H×2,d),7.77(2H,d),7.71(4H,d),7.47〜7.45(2H×2,t),7.36〜7.29(9H,t)の位置にそれぞれピークが観測された。
【0080】
また、1,4−ジオキサン中で発光スペクトルを測定すると、青色発光域である波長462nmに発光極大ピークを有することが確認された。
【0081】
<実施例1>
先ず、30mm×30mmのガラス板からなる基板12上に、下部電極(陽極)4としてクロム(Cr)よりなる膜(膜厚約100nm)を形成し、さらに、ここでの図示を省略した二酸化ケイ素(SiO2)を蒸着させることにより、有機電界発光素子用基板を作製した。そして、この基板にUV/オゾン処理を10分間行った。次いで、この基板を蒸着装置の基板ホルダーに固定した後、蒸着槽を1.4×10-4Paに減圧した。
【0082】
次に、真空蒸着法により、下部電極13上に、α−NPDを蒸着速度0.2nm/secで24nmの膜厚に蒸着し、正孔輸送層14aを形成した。この正孔輸送層14aは、正孔注入層も兼ねた正孔注入輸送層である。
【0083】
次に、正孔輸送層14a上に、ADNをホストとし、合成例1で合成したアントラセン誘導体[構造式(1)−2]をゲストとして、それぞれ異なる蒸着源から蒸着速度約0.2nm/secで26nmの膜厚に共蒸着し、ゲスト濃度が2.5体積%の発光層14bを形成した。
【0084】
次いで、発光層14b上に、Alq3を蒸着速度0.2nm/secで10nmの膜厚に蒸着し、電子輸送層14cを形成した。
【0085】
以上のようにして、正孔輸送層14a、発光層14b、および電子輸送層14cを順次積層してなる有機層14を形成した後、電子輸送層14c上にフッ化リチウム(LiF)を0.1nmの厚さに蒸着し、電子注入層(図示省略)を形成した。次いで、マグネシウム(Mg)と銀(Ag)とを蒸着速度約0.4nm/secで共蒸着(原子比95:5)して、上部電極(陰極)15を形成した。以上のようにして、上面発光型の有機電界発光素子11を作製した。
【0086】
<実施例2>
上述した実施例1の有機電界発光素子の作製手順において、発光層14b中におけるゲスト材料として、構造式(1)−2のアントラセン誘導体の代わりに、表2−a構造式(2)−2に示すアントラセン誘導体を、同濃度で用いたこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0087】
<比較例1>
図1の発光層14bのゲスト材料として、構造式(1)−2の代わりに、下記に示す2−ジフェニルアミノアントラセンを用いた以外は、実施例1と全く同様に有機電界発光素子を作製した。
【化9】

【0088】
こうして作製した実施例1、2および比較例1の有機電界発光素子を直流電圧駆動し、発光輝度、外部量子効率、色座標を測定した結果を表3に示す。尚、外部量子効率は、発光色に依存しない光子の生成率を規定するものであり、発光効率に相当する。
【0089】
【表3】

【0090】
この表に示すように、実施例1の有機電界発光素子は、青色の発色を呈し、発光輝度は電圧5.3Vで1100cd/m2であった。また、この発光輝度における外部量子効率は4.3%で、半減寿命は920時間、色座標は(0.13,0.13)であった。また、実施例2の有機電界発光素子は、青色の発色を確認し、発光輝度は電圧5.4Vで680cd/m2であった。また、この発光輝度における外部量子効率は3.3%で、半減寿命は1510時間、色座標は(0.14,0.10)であった。
【0091】
一方、比較例1の有機電界発光素子11を直流電圧駆動したところ、発光輝度は電圧5.6Vで910cd/m2であった。外部量子効率は2.9%で、半減寿命は770時間、色座標は(0.13,0.18)であった。尚、比較例1の発光輝度が比較的高いのは、色相が視認度の高い緑に近いことによるものと考えられる。
【0092】
以上の表3に示した結果から、実施例1,2の有機電界発光素子は、比較例1の有機電界発光素子と比較して、発光効率が高く、発光寿命が長いことが確認された。また、実施例1,2は、比較例1と比較して、色座標のY値の値が低く、比較例1の有機電界発光素子が青緑を示すのに対して、実施例1,2の有機電界発光素子は純度の高い青色を示すことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明のアントラセン誘導体を用いた有機電界発光素子の一例を説明するため断面構成図である
【図2】本発明のアントラセン誘導体のNMRを示すグラフである
【図3】本発明のアントラセン誘導体のNMRを示すグラフである。
【符号の説明】
【0094】
11…有機電界発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるアントラセン誘導体。
【化1】

[ただし、一般式(1)中において、
Ar1は、炭素数30以下の置換もしくは無置換のアリール基、または炭素数30以下の置換もしくは無置換の複素環基を表し、
Ar2は、炭素数30以下の置換もしくは無置換のアリーレン基、または炭素数30以下の置換もしくは無置換の2価複素環基を表す。
また、mは0または1を示す。]
【請求項2】
請求項1記載のアントラセン誘導体において、
前記一般式(1)のAr2は、フェニレン基、フルオレン基、またはフェナントレン基で構成されていることを特徴とするアントラセン誘導体。
【請求項3】
請求項1記載のアントラセン誘導体において、
前記一般式(1)のAr2は、フェニレン基で構成されている
ことを特徴とするアントラセン誘導体。
【請求項4】
請求項1記載のアントラセン誘導体において、
有機電界発光素子の発光材料として用いられる
ことを特徴とするアントラセン誘導体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−306732(P2006−306732A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127629(P2005−127629)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】