説明

アントラピリドン化合物又はその塩、そのアントラピリドン化合物を含有するマゼンタインク組成物及び着色体

【課題】水に対する溶解性が高く、インクジェット記録に適する色相と鮮明性を有し、且つ記録物の耐光、耐湿、耐ガス堅牢性に優れたマゼンタ色素(化合物)およびそれを含有するインク組成物の提供。
【解決手段】例えば下式で表されるアントラピリドン化合物又はその塩が例示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なアントラピリドン化合物またはその塩、そのアントラピリドン化合物を含有するマゼンタインク組成物及びこの組成物などにより着色された着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種カラー記録方法の中で、その代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法において、インクの各種吐出方式が開発されているが、いずれもインクの小滴を発生させ、これを種々の被記録材料(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。これは、記録ヘッドと被記録材料とが接触しない為、音の発生がなく静かであり、また小型化、高速化、カラー化が容易という特長の為、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。
従来、万年筆、フェルトペン等のインク及びインクジェット記録用インクとしては、水溶性染料を水性媒体中に溶解した水性インクが使用されており、これらの水性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく一般に水溶性有機溶剤が添加されている。これらの従来のインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求され、また形成される画像には、耐水性、耐光性、耐湿性等の堅牢度が求められている。
【0003】
一方、コンピューターのカラーディスプレー上の画像又は文字情報をインクジェットプリンタによりカラ−で記録するには、一般にはイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクによる減法混色で表現される。CRTディスプレー等のレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)による加法混色画像を減法混色画像で出きるだけ忠実に再現するには、できるだけY、M、Cのそれぞれが、それぞれの標準に近い色相を有し且つ鮮明であることが望まれる。又インク組成物は長期の保存に対し安定であり、プリントした画像の濃度が高く、しかも耐水性、耐光性及び耐ガス性等の堅牢度に優れていることが求められている。
【0004】
インクジェットプリンタの用途はOA用小型プリンタから産業用の大型プリンタにまで拡大されてきており、耐水性、耐湿性、耐光性及び耐ガス性等の堅牢度がこれまで以上に求められている。
耐水性ついては多孔質シリカ、カチオン系ポリマー、アルミナゾル又は特殊セラミックなどインク中の色素を吸着し得る無機微粒子をPVA樹脂などとともに紙の表面にコーティングすることにより、大幅に改良されてきている。
耐湿性とは着色された被記録材を高湿度の雰囲気下に保存した際に被記録材中の色素が滲んでくるという現象に対する耐性のことである。色素の滲みがあると、特に写真調の高精細な画質を求められる画像においては著しく画像品位が低下するため、できるだけこの様な滲みを少なくする事が重要である。
耐光性については大幅に改良する技術は未だ確立されておらず、特にY、M、C、Kの4原色のうちマゼンタの色素はもともと耐光性が弱いものが多く、その改良が重要な課題となっている。又、最近のデジタルカメラの浸透と共に家庭でも写真をプリントする機会が増しており、得られたプリント物を保管する時に、空気中の酸化性ガスによる画像の変色も問題視されている。この酸化性ガスは、記録紙上又は記録紙中で染料と反応し、印刷された画像を変退色させる。酸化性ガスの中でも、オゾンガスはインクジェット記録画像の変退色現象を促進させる主要な原因物質とされている。この変退色現象はインクジェット画像に特徴的なものであるため、耐オゾンガス性の向上も重要な課題となっている。
【0005】
インクジェット記録用水性インクに用いられているマゼンタ色素としては、キサンテン系とH酸を用いたアゾ系色素が代表的である。しかし、キサンテン系については色相及び鮮明性は非常に優れるが耐光性が非常に劣る。又、H酸を用いたアゾ系色素については色相及び耐水性の点では良いものがあるが、耐光性、耐ガス性及び鮮明性が劣る。このタイプでは鮮明性及び耐光性の優れたマゼンタ染料も開発されているが、銅フタロシアニン系色素に代表されるシアン染料やイエロー染料など他の色相の染料に比べ耐光性が依然劣る水準である。
【0006】
鮮明性及び耐光性の優れるマゼンタ色素としてはアントラピリドン系色素(例えば、特許文献1〜12参照)があるが、色相、鮮明性、耐光性、耐水性、耐ガス性及び溶液安定性のすべてを満足させるものは得られていない。
【0007】
【特許文献1】特開平10−306221号公報(1−3頁、7−18頁)
【特許文献2】特開2000−109464号公報(1−2頁、8−12頁)
【特許文献3】特開2000−169776号公報(1−2頁、6−9頁)
【特許文献4】特開2000−191660号公報(1−3頁、11−14頁)
【特許文献5】特開2000−256587号公報(1−3頁、7−18頁)
【特許文献6】特開2001−72884号公報(1−2頁、8−11頁)
【特許文献7】特開2001−139836号公報(1−2頁、7−12頁)
【特許文献8】WO2004/104108号国際公開パンフレット(20−36頁)
【特許文献9】特開2003−192930号公報(1−4頁、15−18頁)
【特許文献10】特開2005−8868号公報(1−3頁、15−22頁)
【特許文献11】特開2005−314514号公報(1−3頁、15−20頁)
【特許文献12】WO2006/075706号国際公開パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は水に対する溶解性が高く、インクジェット記録に適する色相と鮮明性を有し、且つ記録物の耐光、耐湿、耐ガス堅牢性のバランスに優れたマゼンタ色素(化合物)およびそれを含有するインク組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は前記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、特定の下記式(1)で表されるアントラピリドン化合物が前記課題を解決するものであることを見出し本発明を完成させたものである。即ち、本発明は、
1)
下記式(1)で表されるアントラピリドン化合物又はその塩、
【0010】
【化1】

【0011】
[式(1)中、
nは1〜3の整数、
mは1又は2の整数、
1は水素原子、アルキル基、ヒドロキシ低級アルキル基、シクロヘキシル基、モノ若しくはジアルキルアミノアルキル基叉はシアノ低級アルキル基を、
2は水素原子又はメトキシ基を、
3はスルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基及びフェニル基よりなる群から選択される基で置換されたアルキル基、又は無置換アルキル基;スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アルキル基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基よりなる群から選択される基で置換されたフェニル基、又は無置換フェニル基;スルホ基で置換されたナフチル基、又は無置換ナフチル基;スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、カルバモイル基、シアノ基、アルキル基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基よりなる群から選択される基で置換されたアニリノ基、又は無置換アニリノ基;スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基及びフェニル基よりなる群から選択される基で置換されたモノ若しくはジアルキルアミノ基、又は無置換モノ若しくはジアルキルアミノ基;メチル基、メトキシ基、カルボキシ基又はアルコキシカルボニル基で置換されたスルホアニリノ基;カルボキシ置換又はアルコキシカルボニル置換ヒドロキシアニリノ基;スルホ基で置換されたナフチルアミノ基、又は無置換ナフチルアミノ基;モノアルキルアミノアルキルアミノ基;ジアルキルアミノアルキルアミノ基;ヒドロキシ基;又はアミノ基;をそれぞれ表し、
1乃至R3で表される上記全ての基及び置換基が水素原子を有する場合、該水素原子は、水素原子以外の基で置換されてもよい。]、
2)
下記式(2)で表される上記1)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩、
【0012】
【化2】

【0013】
[式(2)中、n、m、R1、R2、及びR3は式(1)におけるのと同じ意味を表す。]、
3)
下記式(3)で表される上記1)又は2)に記載のアントラピリドン化合物又はその塩、
【0014】
【化3】

【0015】
[式(3)中、
n及びR2は式(1)におけるのと同じ意味を表し、
3はスルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基及びフェニル基よりなる群から選択される基で置換されたアルキル基、又は無置換アルキル基;スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アルキル基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基よりなる群から選択される基で置換されたフェニル基、又は無置換フェニル基;スルホ基で置換されたナフチル基、又は無置換ナフチル基;又はヒドロキシ基;をそれぞれ表す。]、
4)
nは1又は2の整数を、
2は水素原子又はメトキシ基を表し、
3がスルホ基、カルボキシ基、C1−C12アルコキシカルボニル基、C1−C4アルコキシ基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基及びフェニル基よりなる群から選択される基で置換されたC1−C10アルキル基、又は無置換C1−C10アルキル基;スルホ基、カルボキシ基、C1−C4アルコキシカルボニル基、C1−C4アルコキシ基、C1−C4アルキル基、アニリノ基、フェノキシ基、及びアミノ基よりなる群から選択される基で置換されたフェニル基又は無置換フェニル基;である、上記3)に記載のアントラピリドン化合物、
5)
nは1又は2の整数、
3がスルホ基、カルボキシ基、C1−C12アルコキシカルボニル基、アミノ基又はフェニル基で置換されたC1−C4アルキル基又は無置換C1−C4アルキル基;又は、スルホ基、カルボキシ基又はC1−C4アルコキシカルボニル基で置換されたフェニル基;である、上記4)に記載のアントラピリドン化合物、
6)
nは1又は2の整数を、
2は水素原子又はメトキシ基を表し、
3がスルホ基、カルボキシ基、C1−C10アルコキシカルボニル基、又はフェニル基で置換されたC1−C4アルキル基又は無置換C1−C4アルキル基;スルホ基、カルボキシ基又はC1−C4アルコキシカルボニル基で置換されたフェニル基又は無置換フェニル基;である、上記3)乃至5)のいずれか一項に記載のアントラピリドン化合物、
7)
nは1又は2の整数を、
3がカルボキシ基又はC1−C8アルコキシカルボニル基で置換されたC1−C4アルキル基又は無置換C1−C4アルキル基;又は、カルボキシ基で置換されたフェニル基である、上記3)乃至6)のいずれか一項に記載のアントラピリドン化合物、
8)
上記1)乃至7)のいずれか一項に記載のアントラピリドン化合物を含有することを特徴とするインク組成物、
9)
水及び水溶性有機溶剤を含有する上記8)に記載のインク組成物、
10)
インク組成物中に色素として含有する上記1)乃至7)のいずれか一項に記載のアントラピリドン化合物の総質量に対して、該化合物中の無機不純物の含有量が1質量%以下である、上記8)又は9)のいずれか一項に記載のインク組成物、
11)
インク組成物中に色素として含有する上記1)乃至7)のいずれか一項に記載のアントラピリドン化合物の含有量が、インク組成物の総質量に対して、0.1〜20質量%である上記8)乃至10)のいずれか一項に記載のインク組成物、
12)
インクジェット記録用である上記8)乃至11)に記載のインク組成物、
13)
インクの小滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に記録を行うインクジェット記録方法において、インクとして上記8)乃至12)のいずれか一項に記載のインク組成物を使用することを特徴とするインクジェット記録方法、
14)
被記録材が情報伝達用シートである上記13)に記載のインクジェット記録方法、
15)
情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有したインク受像層を有するものである上記14)に記載のインクジェット記録方法、
16)
上記8)乃至12)のいずれか一項に記載のインク組成物により着色された着色体、
17)
着色がインクジェットプリンタによりなされた上記16)に記載の着色体、
18)
上記8)乃至12)のいずれか一項に記載のインク組成物を含む容器が装填されたインクジェットプリンタ、
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記式(1)で表されるアントラピリドン化合物は、インクジェット記録紙上で非常に鮮明性、明度の高い色相であり、水溶解性に優れ、インク組成物製造過程でのメンブランフィルターに対するろ過性が良好という特徴を有する。又、この化合物を含有する本発明のインク組成物は長期間保存後の結晶析出、物性変化、色変化等もなく、貯蔵安定性が良好である。そして本発明のアントラピリドン化合物をインクジェット記録用のマゼンタインクとして使用した印刷物は被記録材(紙、フィルム等)を選択することなく鮮明性の高いマゼンタの色相である。更に本発明のマゼンタインク組成物は、写真調のカラー画像の色相を紙の上に忠実に再現させることも可能である。更に写真画質用インクジェット専用紙(フィルム)のような、多孔性白色無機物を表面に塗工した被記録材に記録しても各種堅牢性、特に耐光性、耐オゾン性、耐湿性のバランスが良好であり、写真調の記録画像の長期保存安定性に優れている。従って、上記式(1)で表されるアントラピリドン化合物はインクジェット記録用のインク色素として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を詳細に説明する。本発明のアントラピリドン化合物は水溶性の色素であり、尚、本発明において特に断りが無いかぎりスルホ基及びカルボキシ基等の酸性官能基は遊離酸の形で表す。
本発明の化合物は、前記式(1)で表される。
【0018】
式(1)において、nは1乃至3の整数を表し、1又は2が好ましく、1がより好ましい。
【0019】
式(1)において、mは1又は2の整数を表し、2が好ましい。
【0020】
式(1)において、R1は水素原子、アルキル基、ヒドロキシ低級アルキル基、シクロヘキシル基、モノ若しくはジアルキルアミノアルキル基又はシアノ低級アルキル基を表す。
【0021】
1がアルキル基の場合、通常C1−C10、好ましくはC1−C6、より好ましくはC1−C4である。該アルキル基は直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよい。好ましくは直鎖又は分岐鎖であり、より好ましくは直鎖である。 具体例としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル当の直鎖;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル当の分岐鎖;シクロプロピル、シクロヘキシル等の環状;のC1−C10アルキル基等があげられる。
【0022】
1がヒドロキシ低級アルキル基の場合、該アルキル部分は通常C1−C6、好ましくはC1−C4であり、直鎖又は分岐鎖のいずれでもよいが、直鎖が好ましい。具体例としては、例えばヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル等があげられる。
【0023】
1がモノアルキルアミノアルキル基の場合、通常モノC1−C10アルキルアミノC1−C10アルキル基、好ましくはモノC1−C6アルキルアミノC1−C6アルキル基、より好ましくはモノC1−C4アルキルアミノC1−C4アルキル基がよい。該アルキル部分は直鎖、分岐鎖のいずれでもよいが、直鎖が好ましい。その具体例としては、例えばメチルアミノプロピル、エチルアミノプロピル等があげられる。
【0024】
1がジアルキルアミノアルキル基の場合、通常ジC1−C10アルキルアミノC1−C10アルキル基、好ましくはジC1−C6アルキルアミノC1−C6アルキル基、より好ましくはジC1−C4アルキルアミノC1−C4アルキル基がよい。その具体例としては、例えばジメチルアミノプロピル、ジエチルアミノエチル等があげられる。
【0025】
シアノ低級アルキル基の場合、該アルキル部分は通常C1−C6、好ましくはC1−C4であり、直鎖又は分岐鎖のいずれでもよいが、直鎖が好ましい。具体例としては、例えばシアノエチル、シアノプロピル等が挙げられる。
【0026】
上記のうち好ましいR1としては水素原子、C1−C4アルキル基が挙げられ、水素原子又はメチルがより好ましく、メチルがさらに好ましい。
【0027】
式(1)において、R2は水素原子又はメトキシ基を表す。これらはいずれも好ましいが、水素原子がより好ましい。
【0028】
上記式(1)において、R3はスルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基及びフェニル基よりなる群から選択される基で置換されたアルキル基、又は無置換アルキル基;スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アルキル基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基よりなる群から選択される基で置換されたフェニル基、又は無置換フェニル基;スルホ基で置換されたナフチル基、又は無置換ナフチル基;スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、カルバモイル基、シアノ基、アルキル基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基よりなる群から選択される基で置換されたアニリノ基、又は無置換アニリノ基;スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基及びフェニル基よりなる群から選択される基で置換されたモノ若しくはジアルキルアミノ基、又は無置換モノ若しくはジアルキルアミノ基;メチル基、メトキシ基、カルボキシ基又はアルコキシカルボニル基で置換されたスルホアニリノ基;カルボキシ又はアルコキシカルボニル置換ヒドロキシアニリノ基;スルホ基で置換されたナフチルアミノ基、又は無置換ナフチルアミノ基;モノアルキルアミノアルキルアミノ基;ジアルキルアミノアルキルアミノ基;ヒドロキシ基;又はアミノ基;をそれぞれ表す。
【0029】
3が、アルコキシ基、アシル基及びアルキル基から選択される基を置換基として有する場合、これらの基に含まれる「アルコキシ」、「アシル」及び「アルキル」部分の炭素数は、通常C1−C8、好ましくはC1−C6、より好ましくはC1−C4がよい。これらは直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよいが、直鎖または分岐鎖が好ましく、直鎖がより好ましい。
【0030】
3が、スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、フェニル基よりなる群から選択される基で置換されたアルキル基、又は無置換アルキル基の場合、該アルキル部分は通常C1−C10、好ましくはC1−C6、より好ましくはC1−C4、さらに好ましくはC1−C3であり、直鎖、分岐鎖又は環状のいずれでもよいが、直鎖又は分岐鎖が好ましく、直鎖がより好ましい。該アルキル基が置換基を有する場合、その数に制限は無いが、通常1乃至4、好ましくは1乃至3、より好ましくは1又は2である。
具体例としては、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等の無置換直鎖のもの;2−メチルブチル、2−エチルヘキシル等の分岐鎖のもの;シクロヘキシル等の環状のもの;2−スルホエチル等のスルホ置換のもの;2−カルボキシエチル、1,2−ジカルボキシエチル、1,3−ジカルボキシプロピル等のカルボキシ置換のもの;2−メトキシカルボニルエチル、2−エチルヘキシロキシカルボニルエチル等のアルコキシカルボニル置換のもの;2−メトキシエチル等のアルコキシ置換のもの;2−アセチルエチル等のアシル置換のもの;2−アミノカルボニルエチル等のカルバモイル置換のもの;5−シアノペンチル等のシアノ置換のもの;2−フェニルアミノエチル等のアニリノ置換のもの;4−フェノキシフェニル、4−(4−カルボキシフェノキシ)フェニル等のフェノキシ又はカルボキシ置換フェノキシ置換のもの;N−メチルアミノエチル等のアミノ置換のもの;2−ヒドロキシエチル等のヒドロキシ置換のもの;4−メルカプトブチル等のメルカプト基が置換したもの;2−フェニルエチル等のフェニル置換のもの;等が挙げられる。
なお、R3がアルコキシカルボニル基を置換基として有するアルキル基の場合には、該アルコキシカルボニル基の「アルコキシ」部分は通常C1−C12、好ましくはC1−C10、より好ましくはC1−C8である。該アルコキシカルボニル基は直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよいが、直鎖又は分岐鎖が好ましい。具体例については上記の通りでよい。
【0031】
3が、スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アルキル基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基よりなる群から選択される基で置換されたフェニル基の場合、その具体例としては、たとえば4−スルホフェニル等のスルホ置換のもの;4−カルボキシフェニル、3,5-ジカルボキシフェニル等のカルボキシ置換のもの;2−メトキシカルボニルフェニル、2−エチルヘキシロキシカルボニルフェニル等のアルコキシカルボニル置換のもの;3−エトキシフェニル等のアルコキシ置換のもの;アセチルフェニル等のアシル置換のもの;3−アミノカルボニルフェニル等のカルバモイル置換のもの;3−シアノフェニル等のシアノ置換のもの;4−エチルフェニル等のアルキル置換のもの;3−フェニルアミノフェニル等のアニリノ置換のもの;4−フェノキシフェニル等のフェノキシ置換のもの;3−アミノフェニル等のアミノ置換のもの;4−ヒドロキシフェニル等のヒドロキシ置換のもの;4−メルカプトフェニル等のメルカプト基が置換したもの;4−アセチルアミノフェニル等のフェニル基に置換したアミノ基が、さらにアシル基を置換基として有するもの;、4−(4−カルボキシフェノキシ)フェニル等のフェニル基に置換したフェノキシ基が、さらにカルボキシ基を置換基として有するもの;等が挙げられる。
なお、R3がアルコキシカルボニル基を置換基として有するフェニル基の場合には、該アルコキシカルボニル基の「アルコキシ」部分は通常C1−C8、好ましくはC1−C6、より好ましくはC1−C4である。該アルコキシカルボニル基は直鎖、分岐鎖及び環状のいずれでもよいが、直鎖又は分岐鎖が好ましい。具体例については上記の通りでよい。
【0032】
3が、スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アルキル基、アニリノ基、フェノキシ基、及びアミノ基よりなる群から選択される基で置換されたアニリノ基である場合、置換基の数は通常1〜4、好ましくは1〜3、より好ましくは1または2である。
その具体例としては、例えば2−スルホアニリノ、3−スルホアニリノ、4−スルホアニリノ、2,5−ジスルホアニリノ等のスルホ置換のもの;2−カルボキシアニリノ、4−カルボキシアニリノ、3,5-ジカルボキシアニリノ等のカルボキシ置換のもの;2−メトキシカルボニルアリニノ、2−エチルヘキシロキシカルボニルアニリノ等のアルコキシカルボニル置換のもの;4−メトキシアニリノ等のアルコキシ置換のもの;4−ブチルアニリノ等のアルキル置換のもの;3−アニリノアニリノ等のアニリノ置換のもの;4−フェノキシアニリノ等のフェノキシ置換のもの;4−アミノアニリノ等のアミノ置換のもの;4−アニリノ−3−スルホアニリノ等の、アニリノ基にスルホ基と、さらにアニリノ基が置換したもの;等が挙げられる。
アニリノ基としては、スルホ置換、カルボキシ置換、又は無置換が好ましく、カルボキシ置換又は無置換がより好ましい。
【0033】
3が、スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基及びフェニル基よりなる群から選択される基で置換されたモノ若しくはジアルキルアミノ基、又は無置換モノ若しくはジアルキルアミノ基の場合、該アルキル部分は通常C1−C10、好ましくはC1−C6、より好ましくはC1−C4であり、直鎖、分岐鎖又は環状のいずれでもよいが、直鎖又は分岐鎖が好ましい。。
置換基の数に制限は無いが、通常1乃至4、好ましくは1乃至3、より好ましくは1又は2である。
具体例としては、例えばメチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、ブチルアミノ、ペンチルアミノ、ヘキシルアミノ、ヘプチルアミノ、オクチルアミノ、ノニルアミノ、デシルアミノ等の無置換直鎖のもの;2−エチルヘキシルアミノ等の無置換分岐鎖のもの;シクロヘキシルアミノ等の無置換環状のもの;2−スルホエチルアミノ等のスルホ置換のもの;カルボキシメチルアミノ、2−カルボキシエチルアミノ、1,2−ジカルボキシエチルアミノ、1,3−ジカルボキシプロピルアミノ、5−カルボキシペンチルアミノ等のカルボキシ置換のもの;2−メトキシカルボニルアミノ、2−エチルヘキシロキシカルボニルアミノ等のアルコキシカルボニル置換のもの;3−エトキシプロピルアミノ等のアルコキシ置換のもの;3−オキソブチルアミノ等のアシル置換のもの;2−アミノカルボニルエチルアミノ等のカルバモイル置換のもの;3−シアノプロピルアミノ等のシアノ置換のもの;3−フェニルアミノエチルアミノ等のアニリノ置換のもの;2−フェノキシエチルアミノ等のフェノキシ置換のもの;N−(3−ヒドロキシプロピル)アミノエチルアミノ等のアミノ置換のもの;2−ヒドロキシエチルアミノ等のヒドロキシ置換のもの;2−チオエチルアミノ等のメルカプト基が置換したもの;ベンジルアミノ等のフェニル置換のもの;等が挙げられる。
モノアルキルアミノ基としては、スルホ置換、カルボキシ置換、アルコキシカルボニル置換、フェニル置換又は無置換のものが好ましく、モノアルキルアミノ基のアルキル部分は直鎖がより好ましい。
ジアルキルアミノ基の場合、その具体例としては、例えば上記の基から独立に選択される2種類の基の組合せで置換されたものでよいが、好ましくはジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジブチルアミノ等の無置換のもの;ビス(カルボキシメチル)アミノ等のカルボキシ置換のもの;ビス(2−ヒドロキエチル)アミノ等のヒドロキシ置換のもの;等が挙げられる。さらに好ましくは、上記の通り無置換のものである。またジアルキルアミノ基のアルキル部分は直鎖及び分岐鎖のいずれも好ましい。
【0034】
3が、メチル基、メトキシ基、カルボキシ基又はアルコキシカルボニル基で置換されたスルホアニリノ基の場合、置換基の数は1又は2が好ましく、1がより好ましい。その具体例としては、4−メチル−2−スルホアニリノ、2−メチル−4−スルホアニリノ等のメチル置換のもの;4−メトキシ−2−スルホアニリノ等のメトキシ置換のもの;2−カルボキシ−5−スルホアニリノ、2−カルボキシ−4−スルホアニリノ等のカルボキシ置換のもの;2−メトキシカルボニル−4−スルホアニリノ等のアルコキシカルボニル置換のものが挙げられる。
【0035】
3が、カルボキシ又はアルコキシカルボニル置換ヒドロキシアニリノ基の場合、置換基の数は1又は2が好ましく、1がより好ましい。
その具体例としては、3−カルボキシ−4−ヒドロキシアニリノ等のカルボキシ置換のもの;3−メトキシカルボニルー5−ヒドロキシアニリノ等のアルコキシカルボニル置換のもの;等が挙げられる。
【0036】
3が、スルホ基で置換されたナフチルアミノ基の場合、スルホ基の置換数に特に制限は無いが、通常1乃至5、好ましくは1乃至4、より好ましくは1乃至3である。
その具体例としては、例えば4−スルホ−1−ナフチルアミノ、5−スルホ−1−ナフチルアミノ、5−スルホ−2−ナフチルアミノ、6−スルホ−1−ナフチルアミノ、7−スルホ−1−ナフチルアミノ等のスルホ基が1つのもの;4,8−ジスルホ−2−ナフチルアミノ、3,8−ジスルホ−1−ナフチルアミノ、3,6−ジスルホ−1−ナフチルアミノ等のスルホ基が2つのもの;3,6,8−トリスルホ−2−ナフチルアミノ、4,6,8−トリスルホ−2−ナフチルアミノ、3,6,8−トリスルホ1−ナフチルアミノ等のスルホ基が3つのもの;等が挙げられる。
【0037】
3が、モノアルキルアミノアルキルアミノ基の場合、該アルキル部分の炭素数はいずれも通常C1−C10、好ましくはC1−C6、より好ましくはC1−C4である。該「モノアルキルアミノ」の部分及び該モノアルキルアミノが置換する「アルキルアミノ」の部分の両者は、上記「R3が置換又は無置換モノ若しくはジアルキルアミノ基である場合」に記載したモノアルキルアミノ基の内から相当するものと、好ましいものを含めて同じでよく、独立に選択した2種類のモノアルキルアミノ基を適宜組合わせて、「モノアルキルアミノアルキルアミノ基」を構成するのがよい。
具体例としては、例えば2−メチルアミノエチルアミノ、3−メチルアミノプロピルアミノ、3−エチルアミノプロピルアミノ等が挙げられる。
【0038】
3が、ジアルキルアミノアルキルアミノ基の場合、該「ジアルキルアミノ」部分は、上記のモノアルキルアミノアルキルアミノ基の「モノアルキル」部分を独立に2つ有するものでよく、該ジアルキルアミノが置換する「アルキルアミノ」の部分は、上記モノアルキルアミノアルキルアミノ基の相当する部分と同じでよい。その具体例としては、例えば3−(N,N−ジエチルアミノ)プロピルアミノ、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチルアミノ等が挙げられる。
【0039】
上記のR3のうち、置換又は無置換アルキル基、置換又は無置換フェニル基が好ましい。
また、スルホ、カルボキシ、アルコキシカルボニル又はフェニル置換アルキル基又は無置換アルキル基;又はスルホ、カルボキシ、アルコキシカルボニル置換フェニル又は無置換フェニルがより好ましい。
また、カルボキシ又はアルコキシカルボニル置換又は無置換アルキル基;又は、カルボキシ又はアルコキシカルボニル置換フェニル基がさらに好ましい。
また、カルボキシ又はアルコキシカルボニル置換アルキル基;又はカルボキシ置換フェニル基が特に好ましい。
【0040】
上記のR1乃至R3で表される上記全ての基及び置換基が水素原子を有する場合、該水素原子は、水素原子以外の基で置換されてもよい。この場合、置換されてもよい水素原子の数に特に制限はないが、通常1乃至4、好ましくは1乃至3、より好ましくは1乃至2である。具体例としては、上記したものの他に4−フェニルフェニルチオ等のフェニル基が置換したフェニルチオ基等が挙げられる。
該水素原子は置換されてもよいが、置換されない場合が好ましい。
また、R1乃至R3で表される基がスルホ基、カルボキシ基等の酸性官能基で置換された場合には、該酸性官能基の水素原子は、置換されないのが好ましい。
【0041】
上記のn、m、R1乃至R3で表される全ての基及びR1乃至R3の全ての置換基について、好ましいもの同士を組合わせた化合物はより好ましく、より好ましいもの同士を組合わせた化合物はさらに好ましい。さらに好ましいもの同士、特に好ましいもの同士等についても同様である。
【0042】
前記式(1)で表される化合物の塩は、無機又は有機陽イオンの塩である。そのうち無機塩の具体例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩が挙げられ、好ましい無機塩は、リチウム、ナトリウム、カリウムの塩およびアンモニウム塩であり、又、有機の陽イオンの塩としては例えば下記式(5)で表される4級アンモニウム化合物の塩があげられるがこれらに限定されるものではない。また遊離酸、及びそれらの各種の塩が混合物であってもよく、例えばナトリウム塩とアンモニウム塩の混合物、遊離酸とナトリウム塩の混合物、リチウム、ナトリウムおよびアンモニウム塩の混合物など、いずれの組み合わせを用いても良い。塩の種類によって溶解性などの物性値が異なる場合も有り、必要に応じて適宜塩の種類を選択したり、複数の塩などを含む場合にはその比率を変化させることにより目的に適う物性を有する混合物を得ることもできる。
【0043】
【化4】

【0044】
[式(4)中、Z1〜Z4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルコキシアルキル基を表わす。]
【0045】
式(4)のZ1〜Z4におけるアルキル基の例としてはメチル、エチル等があげられ、ヒドロキシアルキル基の例としてはヒドロキシメチル、2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等があげられ、更にヒドロキシアルコキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等があげられる。
【0046】
これらのうち好ましいものとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンの各塩、及びアンモニウム塩等が挙げられる。これらのうち、特に好ましいものは、リチウム、アンモニウムおよびナトリウムの塩である。
【0047】
当業者においては明らかなように、上記式(1)で表される化合物の塩は以下の方法などにより容易に得ることができる。
例えば、式(1)で表される化合物を含む反応液、ウェットケーキ又は乾燥状態の色素などを溶解した水溶液に塩化ナトリウムを加えて塩析し、析出固体を濾過することにより、上記式(1)で表される化合物のナトリウム塩をウェットケーキとして得ることができる。
又、得られたナトリウム塩のウェットケーキを水に溶解後、塩酸などの酸を加えてそのpHを適宜調整し、析出した固体を濾取することにより、上記式(1)で表される化合物の遊離酸を、あるいは式(1)で表される化合物の一部がナトリウム塩である遊離酸とナトリウム塩の混合物を得ることもできる。
更に、式(1)で表される化合物の遊離酸のウェットケーキを水と共に撹拌しながら、例えば、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水又は上記式(4)で表される化合物の水酸化物等を添加してアルカリ性にすれば、各々相当するカリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、又は4級アンモニウム塩を得ることもできる。遊離酸のモル数に対して、加える上記の塩のモル数を制限することにより、例えばリチウムとナトリウムの混塩など、さらにはリチウム、ナトリウム、及びアンモニウムの混塩なども調製することが可能である。上記式(1)で表される化合物の塩は、その塩の種類により溶解性などの物理的な性質、あるいはインクとして用いた場合のインクの性能が変化する場合もある。このため目的とするインク性能などに応じて塩の種類を選択することも好ましく行われる。
【0048】
本発明の式(1)で表されるアントラピリドン化合物の具体例を下記表1に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、式(1)中の置換位置が特定されていない3つのスルホン酸基の置換位置については、上記式(2)中の相当するスルホン酸基と同じ特定された位置に置換していると読み替えるものとする。
【0049】
【表1】

【0050】
本発明のアントラピリドン化合物は、たとえば次の方法により製造される。なお、下記式(5)〜(9)中、n、m、及びR1乃至R3は、いずれも前記したものと同じ意味を有する。
上記式(1)で表されるアントラピリドン化合物は、たとえば次のようにして得られる。
即ち、下記式(5)で表されるアントラキノン化合物1モルにベンゾイル酢酸エチルエステル又は置換基としてR2を有するその誘導体1.1から3モルをキシレン等の極性溶媒中、炭酸ナトリウム等の塩基性化合物の存在下、130〜180℃、5〜15時間反応を行い、下記式(6)で表される化合物を得る。
【0051】
【化5】

【0052】
【化6】

【0053】
得られた上記式(6)で表される化合物1モルにメタアミノアセトアニリド 1〜5モルを、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性有機溶媒中、炭酸ナトリウムのような塩基及び酢酸銅のような銅触媒の存在下、110〜150℃、2〜6時間ウルマン反応をおこなって縮合し、下記式(7)で表される化合物を得る。
【0054】
【化7】

【0055】
得られた上記式(7)で表される化合物を8〜15%発煙硫酸中で、50〜120℃でスルホ化すると同時に、アセチルアミノ基を加水分解する事により、下記式(8)で表される化合物を得る。
【0056】
【化8】

【0057】
得られた上記式(8)で表される化合物1モルと、例えば下記式(A)で表される化合物2〜2.5モルとを水中で、pH2〜9、2〜15℃、30分〜1時間反応させて得られる下記式(9)で表される化合物に、R3に対応する化合物、すなわち「R3−SH」等で表される化合物2〜5モルを、pH7〜10、20〜90℃、10分〜10時間反応させることにより、式(9)中の塩素原子を「S−R3」で置換することにより、下記式(10)で表される化合物を得ることができる。
【0058】
【化A】

【0059】
【化9】

【0060】
【化10】

【0061】
得られた上記式(10)で表される化合物1モルに対し、過剰の酢酸、タングステン酸ナトリウム、過酸化水素水とを水中で、40℃、3〜10時間反応させて酸化することにより上記式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0062】
本発明の化合物はマゼンタ色素として、天然及び合成繊維材料又は混紡品の染色に適しており、さらにこれらの化合物は、筆記用インクおよびインクジェット記録用インク組成物の製造に適している。
上記式(1)で表される化合物は、インク組成物に含有させる色素として使用する場合、色素の総量中に含有される金属陽イオンの塩化物、硫酸塩等の無機物、すなわち「無機不純物」の含有量の少ないものを用いるのが好ましい。その含有量の目安は例えば1質量%以下程度である。無機不純物の少ない色素を製造するには、例えばそれ自体公知の逆浸透膜による方法又は本発明の化合物又はその塩の乾燥品あるいはウェットケーキをメタノールなどのアルコール及び水の混合溶媒中で撹拌して懸濁精製し、固体を濾取し、乾燥するなどの方法で脱塩処理すればよい。。
本発明のインク組成物は、式(1)で表される化合物を水又は水性溶媒(後記する水溶性有機溶剤を含有する水)に溶解したものであるが、本発明の式(1)で表される化合物を含む反応液は、インク組成物の製造に直接使用する事が出来る。しかし、反応液から該化合物を例えば晶析、又はスプレー乾燥などの方法により単離した後、必要に応じて乾燥し、得られた該化合物を使用してインク組成物を調製することもできる。本発明の記録用インク組成物は、本発明の化合物を該インク組成物の総質量中に、色素として通常0.1〜20質量%、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは2〜10質量%含有する。
【0063】
本発明のインク組成物は水を媒体として調製され、必要に応じて、水溶性有機溶剤を、本発明の効果を害しない範囲内において含有しても良い。水溶性有機溶剤は、染料溶解剤、乾燥防止剤(湿潤剤)、粘度調整剤、浸透促進剤、表面張力調整剤、消泡剤等として使用される。その他のインク調整剤としては、例えば、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、染料溶解剤、界面活性剤等の公知の添加剤が挙げられる。本発明のインク組成物は、その総質量に対して、水溶性有機溶剤を0〜30質量%、インク調整剤を0〜5質量%それぞれ含有しても良く、水溶性有機溶剤は含有する方が好ましい。上記以外の残部は水である。
【0064】
本発明で使用できる水溶性有機溶剤の具体例としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1−C4アルカノール;N,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のラクタム;1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン又は1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の環式尿素類;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のC2−C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリアルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1−C4アルキルエーテル;γーブチロラクトン又はジメチルスルホキシド等があげられる。これらの水溶性有機溶剤は、単独もしくは混合して用いられる。
これらのうち好ましいものは2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、モノ、ジ又はトリエチレングリコール、ジプロピレングリコールであり、より好ましくは2−ピロリドン、N−メチル2−ピロリドン、ジエチレングリコール、イソプロパノール及びブチルカルビトールである。
【0065】
以下本発明のインク組成物を調製するに当たり使用できるインク調整剤について説明する。
防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ベンゾチアゾール系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。
有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオキシド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤として無水酢酸ソーダ、ソルビン酸ソーダ、安息香酸ナトリウム、等があげられる。
【0066】
pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHを8.0〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などが挙げられる。
【0067】
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウムなどがあげられる。
【0068】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどがあげられる。
【0069】
水溶性紫外線吸収剤としては、例えばスルホ化されたベンゾフェノン又はスルホ化されたベンゾトリアゾール等があげられる。
【0070】
水溶性高分子化合物としては、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等があげられる。
【0071】
染料溶解剤としては、例えば尿素、ε−カプロラクタム、エチレンカーボネート等があげられる。
【0072】
界面活性剤の例としては、例えばアニオン系、カチオン系、ノニオン系などの公知の界面活性剤が挙げられる。
アニオン界面活性剤の例としてはアルキルスルホン酸塩、アルキルカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸およびその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩などが挙げられる。
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体などがある。
両性界面活性剤の具体例としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、その他イミダゾリン誘導体などがある。
ノニオン界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどのアセチレングリコール(アルコール)系(例えば、日信化学社製、商品名サーフィノール104、105、82、465、オルフィンSTGなど);SIGMA−ALDRICH社製のTergitol 15−S−7などのポリグリコールエーテル系;などが挙げられる。これらのインク調整剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0073】
本発明の水性インク組成物は、式(1)で表される化合物を水又は上記水性溶媒(水溶性有機溶剤を含有する水)に、上記インク調整剤などと共に溶解させることによって製造できる。
【0074】
上記製造方法において、各成分を溶解させる順序には特に制限はない。あらかじめ水又は上記水性溶媒に色素を溶解させ、インク調整剤を添加して溶解させてもよいし、色素を水に溶解させたのち、水性溶媒、インク調整剤を添加して溶解させてもよい。またこれと順序が異なっていてもよいし、色素の反応液又は逆浸透膜による脱塩処理を行った液に、水性溶媒、インク調整剤を添加してインク組成物を製造してもよい。インク組成物を調製するにあたり、用いられる水はイオン交換水又は蒸留水など不純物が少ない物が好ましい。さらに、必要に応じメンブランフィルターなどを用いて精密濾過を行って夾雑物を除いてもよく、インクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合には精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は通常1〜0.1ミクロン、好ましくは、0.8〜0.2ミクロンである。
【0075】
本発明の水溶性のアントラピリドン化合物を色素として含有するマゼンタインク組成物は、印捺、複写、マーキング、筆記、製図、スタンピング、又は記録方法、特にインクジェット記録における使用に適する。この場合、水、日光、オゾンおよび摩擦に対する良好な耐性を有する高品質のマゼンタ印捺物が得られる。また、本発明の化合物に、さらに公知公用のイエロー、マゼンタ等の色素を配合することによって、オレンジ又は赤の色調を、好みの色調に調色することもできる。また、他色、特にブラックを表現する場合の調色に用いることもできる。
【0076】
本発明の着色体は前記の本発明の化合物、又はこれを含有するインク組成物で着色されたものである。着色されるべきものとしては、特に制限は無く、例えば紙、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等があげられるがこれらに限定されない。着色法としては、例えば浸染法、捺染法、スクリーン印刷等の印刷法、インクジェットプリンタによる方法等があげられるが、インクジェットプリンタによる方法が好ましい。
【0077】
本発明のインクジェット記録方法を適用しうる被記録材(メディア)としては例えば紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維及び皮革等が挙げられる。情報伝達用シートについては、表面処理されたもの、具体的にはこれらの基材にインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層は、例えば上記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工すること;また多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックス等インク中の色素を吸収し得る多孔性白色無機物をポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工すること;等により設けられる。このようなインク受容層を設けたものは通常インクジェット専用紙(フィルム)あるいは光沢紙(フィルム)と呼ばれ、例えば株式会社ピクトリコ製、商品名ピクトリコ;キャノン(株)製、商品名プロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパー、マットフォトペーパー;セイコーエプソン(株)製、写真用紙(光沢)、フォトマット紙、スーパーファイン専用光沢フィルム;日本ヒュ−レットパッカード(株)製、プレミアムプラスフォト用紙、プレミアム光沢フィルム、フォト用紙;コニカミノルタホールディングス(株)製、フォトライクQP;等がある。なお、普通紙も当然利用できる。
【0078】
これらのうち、多孔性白色無機物を表面に塗工した被記録材に記録した画像のオゾンガスによる変退色が、特に大きくなることが知られているが、本発明の水性マゼンタインク組成物はガス耐性が優れているため、このような被記録材へ記録した際にも変退色が極めて少ないという優れた効果を発揮する。
【0079】
このような目的で使用される多孔性白色無機物としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、合成非晶質シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、硫化亜鉛、及び炭酸亜鉛等が挙げられる。
【0080】
本発明のインクジェット記録方法で、被記録材に記録するには、例えば上記のインク組成物を含有する容器をインクジェットプリンタの所定位置にセットし、通常の方法で、被記録材に記録すればよい。本発明のインクジェット記録方法では、公知公用のイエロー、シアンに加えて、グリーン、オレンジ、ブルー(又はバイオレット)等のそれぞれのインク組成物及び本発明のマゼンタインク組成物、必要に応じてブラックインク組成物等と併用しうる。各色のインク組成物は、それぞれの容器に注入され、これらの容器を、本発明の水性マゼンタインク組成物を含有する容器と同様に、インクジェットプリンタの所定位置にセット(装填)して使用される。インクジェットプリンタとしては、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式;加熱により生ずる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式;等があげられる。
【0081】
本発明の水性マゼンタインク組成物は、鮮明なマゼンタ色であり、特にインクジェット光沢紙において高い鮮明な色相を有し、記録画像の堅牢度も高い。又、人に対する安全性も高い。
【0082】
本発明のインク組成物は貯蔵中に沈澱、分離することがない。また、本発明インク組成物をインクジェット記録に使用した場合、噴射器(インクヘッド)を閉塞することもない。本発明のインク組成物は、連続式インクジェットプリンタによる比較的長い時間における一定の再循環下;又はオンデマンド式インクジェットプリンタによる断続的な使用;等のいずれにおいても、物理的性質の変化を起こさない。
【実施例】
【0083】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明する。尚、本文中「部」及び「%」とあるのは、特別に記載のない限りそれぞれ質量基準である。実施例中の反応、晶析等の各操作は、特に断りのない限り攪拌下に行った。また、実施例で得た色素の最大吸収波長(λmax)は水溶液中で測定し、その測定値を記載した。
【0084】
実施例1
(1)
キシレン360部中に、下記式(11)で表される化合物94.8部、炭酸ナトリウム3.0部、ベンゾイル酢酸エチルエステル144.0部を順次加えて昇温し、140〜150℃の温度で8時間反応を行った。その間、反応で生成するエタノールと水とをキシレンと共沸させながら系外へ留出させ、反応を完結させた。次いで、反応液を冷却し、30℃にてメタノール240部を添加して30分攪拌後、析出固体を濾取した。得られた固体をメタノール360部で洗浄後、乾燥して、下記式(12)で表される化合物124.8部を淡黄色針状結晶として得た。
【0085】
【化11】

【0086】
【化12】

【0087】
(2)
N,N−ジメチルホルムアミド300.0部中に、上記式(12)で表される化合物88.8部、メタアミノアセトアニリド75.0部、酢酸銅1水和物24.0部及び炭酸ナトリウム12.8部を順次加えて120〜130℃に昇温し、3時間反応を行った。反応液を約50℃に冷却し、メタノール120部を添加して30分攪拌した。析出固体を濾取し、メタノール500部、次いで80℃の温水で洗浄した後、乾燥することにより下記式(13)で表される化合物79.2部を青味赤色固体として得た。
【0088】
【化13】

【0089】
(3)
98%硫酸130部に、水冷しながら28%発煙硫酸170部を添加して、12%発煙硫酸300部を調製した。水冷下、上記式(13)で表される化合物51.3部を50℃以下で添加した後、85〜90℃へ昇温し、4時間反応を行った。氷水600部中に反応液を添加し、その間氷を加えながら発熱による液温の上昇を40℃以下に保持した。さらに水を加えて液量を1000部とした後、濾過して、不溶解物を除去した。得られた母液に温水を加えて1500部とし、液温を60〜65℃に保ちながら、塩化ナトリウム300部を添加して2時間攪拌し、析出した固体を濾取した。20%塩化ナトリウム水溶液300部で洗浄し、よく水分を絞って下記式(14)で表される化合物59.2部を含むウェットケーキ100.3部を赤色固体として得た。
【0090】
【化14】

【0091】
(4)
水1000部中に、上記実施例1(3)で得た式(14)のウェットケーキ1300部、25%水酸化ナトリウム500部を加え、完全に溶解させた。この化合物の純度は、ジアゾ分析法により24.35%だった。水20部にこの溶液64部を加え氷冷下攪拌しながら10℃以下とした。ここへクロロアセチルクロリド5.8部を加え液温10℃、pH2.5に保ちながら30分攪拌した。この反応液を50〜60℃へ昇温し、塩化ナトリウム20部を添加、攪拌し、析出した固体を濾取した。22%塩化ナトリウム水溶液100部で洗浄し、よく水分を絞り下記式(15)で表される化合物のナトリウム塩のウェットケーキ34部を得た。
【0092】
【化15】

【0093】
(5)
上記実施例1(4)で得られた式(15)で表される化合物8.5部を含むウェットケーキに100部の水を加え溶解させた。攪拌しながら60℃へ昇温し、25%水酸化ナトリウム水溶液でpH8とし、3−メルカプトプロピオン酸2.0部を添加し10時間攪拌した。反応液を50〜55℃、35%塩酸でpH1.2とし、塩化アンモニウム26部を添加、攪拌し、析出した固体を濾取した。23%塩化アンモニウム水溶液100部で洗浄し、得られたウェットケーキをメタノール100部に加え、過熱攪拌し、得られた固体をろ過、メタノールで洗浄、乾燥し、下記式(16)で表される化合物のアンモニウム塩5.0部を赤色固体として得た。
【0094】
【化16】

【0095】
(6)
上記実施例1(5)で得られた式(16)で表される化合物3.9部を50.0部の水に溶解させ、次いで酢酸5部、タングステン酸ナトリウム0.1部、過酸化水素水15部を添加し、40℃で6時間反応した。反応液を50℃へ昇温し、塩化アンモニウム10部を添加、攪拌し、析出した固体を濾取した。23%塩化アンモニウム水溶液で洗浄し、得られたウェットケーキをメタノール100部に加えて過熱攪拌し、得られた固体を濾過、メタノールで洗浄、乾燥し、下記式(17)で表される本発明の化合物のアンモニウム塩2.9部を赤色固体(表1の化合物No.1)として得た。
λmax:529nm。
【0096】
【化17】

【0097】
実施例2
(1)
上記実施例1(4)で得られた式(15)で表される化合物8.5部を含むウェットケーキに100部の水を加え溶解させた。この溶液を35℃へ昇温し、25%水酸化ナトリウム水溶液でpH8とした後、チオサリチル酸1.7部を添加し3時間攪拌した。50〜55℃、35%塩酸でpH4.0とし、塩化アンモニウム43.2部を添加、攪拌し、析出した固体を濾取した。23%塩化アンモニウム水溶液100部で洗浄し、得られたウェットケーキをメタノール100部の液中に加え、過熱攪拌し、得られた固体をろ過、メタノールで洗浄、乾燥し、下記式(18)で表される化合物のアンモニウム塩7.8部を赤色固体として得た。
【0098】
【化18】

【0099】
(2)
上記実施例2(1)で得られた式(18)で表される化合物4.0部を50.0部の水に溶解させ、次いで酢酸5部、タングステン酸ナトリウム0.1部、過酸化水素水15部を添加し、40℃で6時間反応した。反応液を50℃へ昇温し、塩化アンモニウム12部を添加、攪拌し、析出した固体を濾取した。23%塩化アンモニウム水溶液で洗浄し、得られたウェットケーキをメタノール100部に天下加えて過熱攪拌し、得られた固体を濾過、メタノールで洗浄、乾燥し、下記式(19)で表される化合物のアンモニウム塩4.4部を赤色固体(表1の化合物No.2)として得た。
λmax:529nm。
【0100】
【化19】

【0101】
実施例3
(1)
上記実施例1(4)で得られた式(15)で表される化合物8.5部を含むウェットケーキを100部の水に加え溶解した。この溶液を30℃、25%水酸化ナトリウム水溶液でpH8とし、3−メルカプトプロピオン酸メチル2.4部を添加して2時間攪拌した。反応液を45℃へ昇温し、35%塩酸でpH4.0とし、塩化アンモニウム30.0部を添加、攪拌し、析出した固体を濾取した。23%塩化アンモニウム水溶液100部で洗浄し、得られたウェットケーキをメタノール100部に加え、過熱攪拌し、得られた固体をろ取、メタノールで洗浄、乾燥し、下記式(20)で表される化合物のアンモニウム塩6.2部を赤色結晶として得た。
【0102】
【化20】

【0103】
(2)
上記実施例3(1)で得られた式(20)で表される化合物6.2部を50.0部の水に溶解させ、次いで酢酸25部、タングステン酸ナトリウム0.2部、過酸化水素水38部を添加し、40℃で4時間反応した。反応液を50℃へ昇温し、塩化アンモニウム31.2部を添加、攪拌し、析出した固体を濾取した。24%塩化アンモニウム水溶液で洗浄し、得られたウェットケーキをメタノール−エタノールの混合溶液(比率1:2)100部に添加、過熱攪拌し、得られた固体を濾取、前記メタノール−エタノール混合溶液で洗浄、乾燥し、下記式(21)で表される化合物のアンモニウム塩8.7部を赤色結晶(表1の化合物No.23)として得た。
【0104】
【化21】

【0105】
実施例4
(1)
上記実施例1(4)で得られた式(15)で表される化合物8.5部を含むウェットケーキを100部の水に加え溶解した。この溶液を30℃、25%水酸化ナトリウム水溶液でpH8とし、3−メルカプトプロピオン酸−2−エチルへキシル4.2部を添加して3時間攪拌した。反応液を45℃へ昇温し、35%塩酸を用いてpH4.0とし、塩化アンモニウム30.0部を添加、攪拌し、析出した固体を濾取した。23%塩化アンモニウム水溶液100部で洗浄し、得られたウェットケーキを含水イソプロピルアルコール100部に加え、過熱攪拌し、得られた固体をろ取、メタノールで洗浄、乾燥し、下記式(22)で表される化合物のアンモニウム塩6.7部を赤色結晶として得た。
【0106】
【化22】

【0107】
(2)
上記実施例4(1)で得られた式(22)で表される化合物6.7部を50.0部の水に溶解させ、次いで酢酸25部、タングステン酸ナトリウム0.2部、過酸化水素水38部を添加し、40℃で4時間反応した。反応液を50℃へ昇温し、塩化アンモニウム31.2部を添加、攪拌し、析出した固体を濾取した。24%塩化アンモニウム水溶液で洗浄し、得られたウェットケーキをメタノール100部に添加、過熱攪拌し、得られた固体を濾取、メタノールで洗浄、乾燥し、下記式(23)で表される化合物のアンモニウム塩7.7部を赤色結晶(表1の化合物No.24)として得た。
【0108】
【化23】

【0109】
評価試験
(A)インクの調製
上記実施例1で得られた化合物(化合物No.1)を用いて下記表2に示した組成のインク組成物を調製し、0.45μmのメンブランフィルターで濾過する事により各インクジェット記録用の水性インクを得た。また水はイオン交換水を使用した。尚、インクのpHが8〜10、総量100部になるように水、2.8%アンモニア水溶液を加えた。実施例1で得られた化合物を用いたインクの調製を実施例4とする。また実施例1で得られた化合物の代わりに実施例2で得られた化合物を、及び実施例1で得られた化合物の代わりに実施例3で得られた化合物をそれぞれ用いる以外は実施例4と同様にして、実施例5、及び実施例6のインクをそれぞれ得た。
【0110】
表2 インク組成
実施例1の化合物(化合物例No.1) 6.0部
グリセリン 5.0部
尿素 5.0部
N−メチル−2−ピロリドン 4.0部
イソプロピルアルコール 3.0部
ブチルカルビトール 2.0部
サーフィノール104PG50(日信化学社製) 0.1部
水+2.8%アンモニア水 74.9部
計 100.0部
【0111】
比較例1
実施例1で得られた化合物No.1の代わりに特許文献1の実施例7(化合物No.36)に開示された下記式(24)の化合物を用いる以外は、実施例4と同様にして比較用のインクを調製した。これを比較例1とする。
【0112】
【化24】

【0113】
比較例2
実施例1で得られた化合物No.1の代わりに、実施例1(3)で得られた下記式(14)で表される化合物(中間体)を用いる以外は実施例4と同様にして比較用のインクを調製した。これを比較例2とする。
なお、比較例2で使用した化合物は、以下のようにして調製した下記式(14)で表される化合物のアンモニウム塩の乾燥固体である。
【0114】
比較例2で使用した化合物の調製
実施例1(3)で得られたウェットケーキ1300部を水1000部に加え、得られた溶液から100部を取り出した。該100部の溶液に35%塩酸を加えてpH1.0に調整し、この溶液を45〜50℃に加熱後、塩化アンモニウム20部を加えた。この液を室温へ冷却し、析出固体をろ取し、得られた固体を23%塩化アンモニウム水溶液100部で洗浄することによりウエットケーキを得た。得られたウエットケーキをメタノール70部に加えて、30〜40℃へ昇温し、30分攪拌した。この液を室温へ冷却し、析出固体をろ取し、メタノールで洗浄、乾燥することにより、比較例2で使用した、下記式(14)で表される化合物のアンモニウム塩の乾燥固体を得た。
【0115】
【化14】

【0116】
比較例3
実施例1で得られた化合物No.1の代わりに、実施例1(4)で得られた下記式(15)で表される化合物(中間体)を用いる以外は実施例4と同様にして比較用のインクを調製した。これを比較例3とする。
なお、比較例3で使用した化合物は、以下のようにして調製した下記式(15)で表される化合物のアンモニウム塩の乾燥固体である。
【0117】
比較例3で使用した化合物の調製
実施例1(4)において、反応液を50〜60℃へ昇温した後、塩化ナトリウム20部の代わりに塩化アンモニウム20部を用い、また22%塩化ナトリウム水溶液の代わりに22%塩化アンモニウム水溶液を用いる以外は実施例1(4)と同様にしてウェットケーキを得た。得られたウェットケーキをメタノールに加えて、30〜40℃へ昇温し、30分攪拌した。この液を室温へ冷却し、析出固体をろ取し、メタノールで洗浄、乾燥することにより、比較例3で使用した、下記式(15)で表される化合物のアンモニウム塩の乾燥固体を得た。
【0118】
【化15】

【0119】
(B)インクジェットプリント
インクジェットプリンタ(キヤノン社製 Pixus iP4100)を用いて、多孔性白色無機物を含有するインク受像層を有する3種類の光沢紙にインクジェット記録を行った。インクジェット記録の際、印刷濃度が数段階の諧調が得られるように画像パターンを作り印字物を作成し、これを下記(C)乃至(F)の各試験の試験片として用いた。なお使用した光沢紙は以下の通りである。
【0120】
光沢紙1:キヤノン社製 商品名プロフェッショナルフォトペーパー
PR−101
光沢紙2:エプソン社製 商品名クリスピア
光沢紙3:HP社製 商品名アドバンスフォトペーパー
【0121】
(C)色相評価
記録画像の色相及び鮮明性は、各試験片の諧調のうち、印字濃度(D値)1.7付近の諧調部分を測色システム(GRETAG SPM50:GRETAG社製)を用いて測色し、L*、a*、b*値を算出して求めた。
鮮明性は色度a*及びb*から、C* =[(a*2+(b*21/2として算出した。各実施例及び各比較例の結果と、JNC(社団法人 日本印刷産業機械工業会)のジャパンカラーの標準マゼンタサンプルとの比較で色相評価を行った。
実施例2の色相の結果を下記表3に示す。尚、ジャパンカラー標準マゼンタの使用紙はJapan Color Standard Paperである。
【0122】
表3
色 度 鮮明性
****
JNC標準マゼンタ 46.3 74.4 −4.8 74.6
光沢紙1
実施例4 43.4 84.9 −22.8 87.9
実施例5 43.3 84.3 −23.7 87.6
実施例6 41.8 85.3 −24.3 88.7
比較例1 39.3 83.7 −24.5 87.2
比較例2 40.0 82.8 −38.8 91.5
比較例3 41.5 84.8 −21.2 87.4

光沢紙2
実施例4 42.2 87.6 −28.4 92.1
実施例5 43.7 88.0 −27.0 92.1
実施例6 40.7 87.4 −27.6 91.7
比較例1 38.6 86.9 −28.5 91.4
比較例2 40.7 84.9 −39.1 93.5
比較例3 40.7 87.2 −25.5 90.9

光沢紙3
実施例4 43.5 85.9 −24.6 89.4
実施例5 44.8 86.3 −23.4 89.4
実施例6 42.2 86.0 −25.6 89.7
比較例1 39.5 85.5 −26.1 89.4
比較例2 40.5 83.8 −40.1 92.9
比較例3 41.8 85.8 −22.8 88.8
【0123】
表3より、比較例2を除く各実施例及び各比較例は、いずれの光沢紙においてもC*値がJNC標準マゼンタの値よりも高く、非常に鮮明性が高い色相であることがわかる。
【0124】
(D)キセノン耐光性試験
スガ試験機(株)製、商品名低温キセノンウエザーメータXL75、を用い、10万Luxの照度で、湿度60%RH、温度24℃の条件で、各試験片に対して72時間照射した。試験前のD値が1.2付近の諧調部分について、試験後のD値を測定し、各試験片の色素の残存率を、(試験後の反射濃度)/(試験前の反射濃度)×100(%)として算出した。
結果を下記表4に示す。
【0125】
(E)耐オゾンガス性試験
スガ試験機(株)製、商品名オゾンウェザーメーターを用い、オゾン濃度40ppm、湿度60%RH、温度24℃の環境下に各試験片を16時間放置した。試験前のD値が1.2付近の諧調部分について、試験後のD値を測定し、各試験片の色素の残存率を、(試験後の反射濃度)/(試験前の反射濃度)×100(%)として算出した。
結果を下記表4に示す。
【0126】
(F)耐湿性試験
応用技研産業社製の恒温恒湿器を用いて、30℃、80%RHの条件下に各試験片を168時間放置した。試験前のD値が1.7付近の諧調部分について、試験前後の滲みを目視にて判定し、3段階で評価した。
○:滲みが認められない
×:滲みが認められる
結果を下記表5に示す。
【0127】
表5
(D)耐光性試験
光沢紙1 光沢紙2 光沢紙3
実施例4 87.3 90.7 93.6
実施例5 88.8 89.5 93.3
実施例6 82.5 89.5 90.3
比較例1 89.4 91.8 92.7
比較例2 67.0 73.9 73.6
比較例3 84.3 89.5 91.6

(E)耐オゾンガス性試験
光沢紙1 光沢紙2 光沢紙3
実施例4 70.0 69.2 67.9
実施例5 66.4 63.8 64.8
実施例6 66.7 67.5 68.1
比較例1 65.0 63.1 62.9
比較例2 43.6 46.7 43.0
比較例3 66.1 67.8 69.7

(F)耐湿性試験
光沢紙1 光沢紙2 光沢紙3
実施例4 ○ ○ ○
実施例5 ○ ○ ○
実施例6 ○ ○ ○
比較例1 ○ × ×
比較例2 ○ × ×
比較例3 ○ × ×
【0128】
表5より明らかなように、(D)耐光性試験及び(E)耐オゾンガス性試験に おいては、いずれの光沢紙においても各実施例、比較例1及び3は、ほぼ同等の良好な堅牢性を有している。これに対して比較例2は、いずれの場合においても堅牢性が劣る結果となった。
また、(F)耐湿性試験については、光沢紙1を用いた場合には、各実施例及び各比較例共に良好な結果が得られた。しかしながら、光沢紙2及び3を用いた場合においては、各実施例は滲みが認められないのに対して、各比較例は滲みが認められ、各実施例は優れた耐湿性を有することが判明した。
このように、本発明のアントラピリドン化合物は高い鮮明性を有し、また各種の堅牢性、特に耐光性、耐オゾン性及び耐湿性を有すると共に、その堅牢性のバランスにおいて非常に優れた画像を与える色素であることが明らかであり、インクジェット用マゼンタ色素として極めて優れたものであると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアントラピリドン化合物又はその塩、
【化1】

[式(1)中、
nは1〜3の整数、
mは1又は2の整数、
1は水素原子、アルキル基、ヒドロキシ低級アルキル基、シクロヘキシル基、モノ若しくはジアルキルアミノアルキル基叉はシアノ低級アルキル基を、
2は水素原子又はメトキシ基を、
3はスルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基及びフェニル基よりなる群から選択される基で置換されたアルキル基、又は無置換アルキル基;スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アルキル基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基よりなる群から選択される基で置換されたフェニル基、又は無置換フェニル基;スルホ基で置換されたナフチル基、又は無置換ナフチル基;スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、カルバモイル基、シアノ基、アルキル基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基よりなる群から選択される基で置換されたアニリノ基、又は無置換アニリノ基;スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基及びフェニル基よりなる群から選択される基で置換されたモノ若しくはジアルキルアミノ基、又は無置換モノ若しくはジアルキルアミノ基;メチル基、メトキシ基、カルボキシ基又はアルコキシカルボニル基で置換されたスルホアニリノ基;カルボキシ置換又はアルコキシカルボニル置換ヒドロキシアニリノ基;スルホ基で置換されたナフチルアミノ基、又は無置換ナフチルアミノ基;モノアルキルアミノアルキルアミノ基;ジアルキルアミノアルキルアミノ基;ヒドロキシ基;又はアミノ基;をそれぞれ表し、
1乃至R3で表される上記全ての基及び置換基が水素原子を有する場合、該水素原子は、水素原子以外の基で置換されてもよい。]。
【請求項2】
下記式(2)で表される請求項1に記載のアントラピリドン化合物又はその塩、
【化2】

[式(2)中、n、m、R1、R2、及びR3は式(1)におけるのと同じ意味を表す。]。
【請求項3】
下記式(3)で表される請求項1又は2に記載のアントラピリドン化合物又はその塩、
【化3】

[式(3)中、
n及びR2は式(1)におけるのと同じ意味を表し、
3はスルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基及びフェニル基よりなる群から選択される基で置換されたアルキル基、又は無置換アルキル基;スルホ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アシル基、カルバモイル基、シアノ基、アルキル基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基及びメルカプト基よりなる群から選択される基で置換されたフェニル基、又は無置換フェニル基;スルホ基で置換されたナフチル基、又は無置換ナフチル基;又はヒドロキシ基;をそれぞれ表す。]。
【請求項4】
nは1又は2の整数を、
2は水素原子又はメトキシ基を表し、
3がスルホ基、カルボキシ基、C1−C12アルコキシカルボニル基、C1−C4アルコキシ基、アニリノ基、フェノキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基及びフェニル基よりなる群から選択される基で置換されたC1−C10アルキル基、又は無置換C1−C10アルキル基;スルホ基、カルボキシ基、C1−C4アルコキシカルボニル基、C1−C4アルコキシ基、C1−C4アルキル基、アニリノ基、フェノキシ基、及びアミノ基よりなる群から選択される基で置換されたフェニル基又は無置換フェニル基;である、請求項3に記載のアントラピリドン化合物。
【請求項5】
nは1又は2の整数、
3がスルホ基、カルボキシ基、C1−C12アルコキシカルボニル基、アミノ基又はフェニル基で置換されたC1−C4アルキル基又は無置換C1−C4アルキル基;又は、スルホ基、カルボキシ基又はC1−C4アルコキシカルボニル基で置換されたフェニル基;である、請求項4に記載のアントラピリドン化合物。
【請求項6】
nは1又は2の整数を、
2は水素原子又はメトキシ基を表し、
3がスルホ基、カルボキシ基、C1−C10アルコキシカルボニル基、又はフェニル基で置換されたC1−C4アルキル基又は無置換C1−C4アルキル基;スルホ基、カルボキシ基又はC1−C4アルコキシカルボニル基で置換されたフェニル基又は無置換フェニル基;である、請求項3乃至5のいずれか一項に記載のアントラピリドン化合物。
【請求項7】
nは1又は2の整数を、
3がカルボキシ基又はC1−C8アルコキシカルボニル基で置換されたC1−C4アルキル基又は無置換C1−C4アルキル基;又は、カルボキシ基で置換されたフェニル基である、請求項3乃至6のいずれか一項に記載のアントラピリドン化合物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のアントラピリドン化合物を含有することを特徴とするインク組成物。
【請求項9】
水及び水溶性有機溶剤を含有する請求項8に記載のインク組成物。
【請求項10】
インク組成物中に色素として含有する請求項1乃至7のいずれか一項に記載のアントラピリドン化合物の総質量に対して、該化合物中の無機不純物の含有量が1質量%以下である、請求項8又は9のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項11】
インク組成物中に色素として含有する請求項1乃至7のいずれか一項に記載のアントラピリドン化合物の含有量が、インク組成物の総質量に対して、0.1〜20質量%である請求項8乃至10のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項12】
インクジェット記録用である請求項8乃至11に記載のインク組成物。
【請求項13】
インクの小滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に記録を行うインクジェット記録方法において、インクとして請求項8乃至12のいずれか一項に記載のインク組成物を使用することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項14】
被記録材が情報伝達用シートである請求項13に記載のインクジェット記録方法。
【請求項15】
情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有したインク受像層を有するものである請求項14に記載のインクジェット記録方法。
【請求項16】
請求項8乃至12のいずれか一項に記載のインク組成物により着色された着色体。
【請求項17】
着色がインクジェットプリンタによりなされた請求項16に記載の着色体。
【請求項18】
請求項8乃至12のいずれか一項に記載のインク組成物を含む容器が装填されたインクジェットプリンタ。

【公開番号】特開2009−191147(P2009−191147A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32695(P2008−32695)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】