説明

アンモニアタンク気密試験方法

【課題】アンモニアタンクのタンク本体底部の腐蝕を防止することができるアンモニアタンク気密試験方法を提供する。
【解決手段】アンモニアタンク気密試験方法は、圧縮空気をアンモニアタンク10のタンク本体11内に供給して気密試験圧力まで加圧するアンモニアタンク加圧工程S15の前に、所定の量のヒドラジン水をタンク本体11内に注入するヒドラジン水注入工程S14を備えるとともに、タンク本体11を気密試験圧力のまま3時間ほど保持したのちに気密試験圧力から大気圧まで2時間かけて降圧するアンモニアタンク加圧保持・降圧工程S16の後に、タンク本体11内のヒドラジン水を排出するヒドラジン水排出工程S17を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアタンク気密試験方法に関し、特に、圧縮空気を使用してアンモニアタンクの気密試験を行うのに好適なアンモニアタンク気密試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所では、発電に際して石油や石炭を燃やしたときに発生する窒素酸化物が環境に影響を与えることを防ぐために、窒素酸化物を含む排ガスを脱硝装置によって処理している。このような脱硝装置では、窒素酸化物を含んだ排ガスに対してアンモニアガスを加えて処理することにより、窒素酸化物を無害な窒素と水に分解している(たとえば、下記の特許文献1,2参照)。そのため、脱硝装置にアンモニアガスを供給するため、液体アンモニアを貯蔵するアンモニアタンクも設置されている。
【0003】
また、火力発電所では、各設備の定期点検を行う際に、アンモニアタンクについてもタンク開放検査や気密試験を行っている。
【0004】
たとえば、図3に示すアンモニアタンク40では、タンク開放検査はマンホール42から作業員がタンク本体41内に入って行われるため、タンク本体41内を安全な雰囲気環境にするために、ブロー配管43を介して窒素ガスをタンク本体41内に吹き込んでタンク本体41内に残留しているアンモニアガスを窒素ガスに置換したのちに、給水管44を介してタンク本体41内に大量の水洗水を注入してタンク本体41内を洗浄している。なお、水洗水は排水管45を介してタンク本体41内から排出される。
【0005】
また、気密試験は、窒素などの不活性ガスを使用する方法と、圧縮空気を使用する方法とがある。
不活性ガスを使用する方法は、アンモニアタンク40の腐蝕を防止するためには有効であるが、多量の窒素ガスを使用するためガスおよび設備に多額の費用がかかることから、圧縮空気を使用する方法が一般的に用いられている。
【0006】
圧縮空気を使用する気密試験は、以下に示す工程(手順)で行われる(図4参照)。
タンク本体41内に残留している液体アンモニアを気化する液化アンモニアブロー工程が行われる(ステップS31)。
【0007】
続いて、給水管44を介して水をタンク本体41内に満水になるまで供給して、タンク本体41内のアンモニアガスを水で吸収するアンモニアガス吸収工程が行われる(ステップS32)。
【0008】
続いて、排水管45を介してタンク本体41内の水を排出したのち、ブロー配管43を介して空気をタンク本体41内に吹き込んで、アンモニアガスを吸収した水をブローして空気に置換するアンモニアガス吸収水ブロー工程が行われる(ステップS33)。
【0009】
続いて、空気圧縮機21から圧縮空気をタンク本体41内に供給して気密試験圧力(=1.0MPa)まで加圧するアンモニアタンク加圧工程が行われる(ステップS34)。
【0010】
続いて、タンク本体41内を気密試験圧力(=1.0MPa)のまま3時間ほど保持したのちに気密試験圧力(=1.0MPa)から大気圧まで2時間かけて降圧するアンモニアタンク加圧保持・降圧工程が行われる(ステップS35)。
【0011】
続いて、ガス供給管46を介して窒素ガスをタンク本体41内に供給してタンク本体41内の空気を窒素ガスで置換する空気/窒素ガス置換工程が行われる(ステップS36)。
【0012】
続いて、ガス供給管46を介してアンモニアガスをタンク本体41内に供給してタンク本体41内の窒素ガスをアンモニアガスで置換する窒素ガス/アンモニアガス置換工程が行われる(ステップS37)。
【0013】
続いて、液化アンモニア供給管47を介して液化アンモニアをタンク本体41内に注入する液化アンモニア注入工程が行われる(ステップS38)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−279526号公報
【特許文献2】特開2008−104912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上述した従来の圧縮空気を使用するアンモニアタンク気密試験方法では、空気の圧縮に伴い酸素分圧が圧縮比に比例して上昇し、同時に発生するドレンの溶存酸素濃度も高くなるため、タンク本体41の腐蝕が発生するおそれがあることが指摘されていたが、現にタンク本体41の底部に帯状の腐蝕が発生するという問題があった。
【0016】
本発明の目的は、アンモニアタンクのタンク本体底部の腐蝕を防止することができるアンモニアタンク気密試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のアンモニアタンク気密試験方法は、圧縮空気を使用してアンモニアタンク(10)の気密試験を行うためのアンモニアタンク気密試験方法であって、前記圧縮空気を前記アンモニアタンクのタンク本体(11)内に供給して気密試験圧力まで加圧する前に、所定の量のヒドラジン水を前記タンク本体内に注入することを特徴とする。
ここで、前記タンク本体内のアンモニアガスを水で吸収するアンモニアガス吸収工程(S12)と、前記タンク本体内の前記水を排出したのち、空気を該タンク本体内に吹き込んで、前記アンモニアガスを吸収した水をブローして空気に置換するアンモニアガス吸収水ブロー工程(S13)と、前記所定の量のヒドラジン水を前記タンク本体内に注入するヒドラジン水注入工程(S14)と、前記圧縮空気を前記タンク本体内に供給して気密試験圧力まで加圧するアンモニアタンク加圧工程(S15)と、前記タンク本体を気密試験圧力のまま保持したのちに該気密試験圧力から大気圧まで降圧するアンモニアタンク加圧保持・降圧工程(S16)と、前記タンク本体内の前記ヒドラジン水を排出するヒドラジン水排出工程(S17)と、窒素ガスを前記タンク本体内に供給して該タンク本体内の空気を該窒素ガスで置換する空気/窒素ガス置換工程(S18)と、アンモニアガスを前記タンク本体内に供給して該タンク本体内の前記窒素ガスを該アンモニアガスで置換する窒素ガス/アンモニアガス置換工程(S19)とを具備してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアンモニアタンク気密試験方法は、圧縮空気をアンモニアタンクのタンク本体内に供給して気密試験圧力まで加圧する前に所定の量のヒドラジン水をタンク本体内に注入することにより、アンモニアタンクの気密試験時にタンク本体内に発生するドレンに含まれる溶存酸素をヒドラジン水によって除去することができるため、アンモニアタンクのタンク本体底部の腐蝕を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例によるアンモニアタンク気密試験方法を説明するためのアンモニアタンク10の構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施例によるアンモニアタンク気密試験方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】従来のアンモニアタンク気密試験方法を説明するためのアンモニアタンク40の構成を示す図である。
【図4】従来のアンモニアタンク気密試験方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上記の目的を、圧縮空気をアンモニアタンクのタンク本体内に供給して気密試験圧力まで加圧する前にヒドラジン水をタンク本体内に注入し、タンク本体を気密試験圧力のまま数時間ほど保持したのちに気密試験圧力から大気圧まで降圧した後にタンク本体内のヒドラジン水を排出することにより実現した。
【実施例1】
【0021】
以下、本発明のアンモニアタンク気密試験方法の実施例について図面を参照して説明する。
本発明のアンモニアタンク気密試験方法は、従来のアンモニアタンクの腐食範囲の状況から、タンク開放検査時の水洗水および気密試験時のドレンが底部へ残留したことにより空気(酸素)による酸化腐食が発生したと推察されることと、中性付近での溶存酸素含有水中における鉄の均一腐食速度は0.2mm/年程度であるが、水分やドレンの付着により小孔食の腐食が帯状に生成し進行したと考えられることに着目して、アンモニアタンク加圧工程の前に所定の量のヒドラジン水をタンク内に注入するヒドラジン水注入工程を行うとともに、アンモニアタンク加圧保持・降圧工程の後にタンク内のヒドラジン水を排出するヒドラジン水排出工程を行うことを特徴とする。
【0022】
本発明の一実施例によるアンモニアタンク気密試験方法により図1に示すアンモニアタンク10の気密試験を行う工程(手順)について、図2を参照して説明する。
【0023】
ここで、アンモニアタンク10は、ヒドラジン水をタンク本体11内に注入するためのヒドラジン水供給管18と、タンク本体11内のヒドラジン水を排出するためのヒドラジン水排出管19とが設けられている点で、図3に示したアンモニアタンク40と異なる。
また、タンク本体11は、両側面が曲率半径R=1.7mの半球状をした直径φ=3.4mの円筒状のものである。タンク本体11の容量は126m3であり、65tの液化アンモニアを貯蔵することができる。タンク本体11の材質はSPV24N−SRである。
【0024】
タンク本体11内に残留している液体アンモニアを気化する液化アンモニアブロー工程が行われる(ステップS11)。
【0025】
続いて、給水管14を介して水をタンク本体11内に満水になるまで供給して、タンク本体11内のアンモニアガスを水で吸収するアンモニアガス吸収工程が行われる(ステップS12)。
【0026】
続いて、排水管15を介してタンク本体11内の水を排出したのち、ブロー配管13を介して空気をタンク本体11内に吹き込んで、アンモニアガスを吸収した水をブローして空気に置換するアンモニアガス吸収水ブロー工程が行われる(ステップS13)。
【0027】
続いて、ヒドラジン水供給管18を介してヒドラジン水をタンク本体11内に所定の量だけ注入するヒドラジン水注入工程が行われる(ステップS14)。
【0028】
続いて、空気圧縮機21(2.0MPa、1.0m3/分)から圧縮空気をタンク本体11内に供給して気密試験圧力(=1.0MPa)まで加圧するアンモニアタンク加圧工程が行われる(ステップS15)。
【0029】
続いて、タンク本体11内を気密試験圧力(=1.0MPa)のまま3時間ほど保持したのちに気密試験圧力1.0MPaから大気圧まで2時間かけて降圧するアンモニアタンク加圧保持・降圧工程が行われる(ステップS16)。
【0030】
続いて、ヒドラジン水排出管19を介してタンク本体11内のヒドラジン水を排出するヒドラジン水排出工程が行われる(ステップS17)。
【0031】
続いて、ガス供給管16を介して窒素ガスをタンク本体11内に供給してタンク本体11内の空気を窒素ガスで置換する空気/窒素ガス置換工程が行われる(ステップS18)。
【0032】
続いて、ガス供給管16を介してアンモニアガスをタンク本体11内に供給してタンク本体11内の窒素ガスをアンモニアガスで置換する窒素ガス/アンモニアガス置換工程が行われる(ステップS19)。
【0033】
続いて、液化アンモニア供給管17を介して液化アンモニアをタンク本体11内に注入する液化アンモニア注入工程が行われる(ステップS20)。
【0034】
次に、タンク本体11内に注入するヒドラジン水の量について説明する。
ドレン中の溶存酸素濃度は空気1気圧の状態で8mg/lであるが、ヘンリーの法則により気体の溶解度(質量)は圧力(分圧)に比例するため、1.8MPaでは18倍になる。したがって、ドレン中の溶存酸素濃度は18×8(mg/l)=144(mg/l)となる。
タンク本体11の加圧に要する空気量(1気圧)は、(タンク容量126m3)×(圧力1.8MPa)÷(0.1MPa)=2268m3となるため、この加圧に要する空気量を飽和湿度17g/m3に乗じて計算すると、ドレン量は{17/1000}(g/m3)×2268(m3)≒40(l)となる。
したがって、気密試験時にタンク本体11内に発生するドレン中の溶存酸素の量は、144(mg/l)×40(l)≒6(mg)となる。
そこで、ドレンによる希釈を考慮してヒドラジン水の濃度を500mg/l〜1000mg/lとすると、タンク本体11内に発生したドレン中の溶存酸素を十分に除去するために、タンク本体11内の注入するヒドラジン水の量は20lとする。
【符号の説明】
【0035】
10,40 アンモニアタンク
11,41 タンク本体
12,42 マンホール
13,43 ブロー配管
14,44 給水管
15,45 排水管
16,46 ガス供給管
17,47 液化アンモニア供給管
18 ヒドラジン水供給管
19 ヒドラジン水排出管
21 空気圧縮機
S11〜S20,S31〜S38

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮空気を使用してアンモニアタンク(10)の気密試験を行うためのアンモニアタンク気密試験方法であって、前記圧縮空気を前記アンモニアタンクのタンク本体(11)内に供給して気密試験圧力まで加圧する前に、所定の量のヒドラジン水を前記タンク本体内に注入することを特徴とする、アンモニアタンク気密試験方法。
【請求項2】
前記タンク本体内のアンモニアガスを水で吸収するアンモニアガス吸収工程(S12)と、
前記タンク本体内の前記水を排出したのち、空気を該タンク本体内に吹き込んで、前記アンモニアガスを吸収した水をブローして空気に置換するアンモニアガス吸収水ブロー工程(S13)と、
前記所定の量のヒドラジン水を前記タンク本体内に注入するヒドラジン水注入工程(S14)と、
前記圧縮空気を前記タンク本体内に供給して気密試験圧力まで加圧するアンモニアタンク加圧工程(S15)と、
前記タンク本体を気密試験圧力のまま保持したのちに該気密試験圧力から大気圧まで降圧するアンモニアタンク加圧保持・降圧工程(S16)と、
前記タンク本体内の前記ヒドラジン水を排出するヒドラジン水排出工程(S17)と、
窒素ガスを前記タンク本体内に供給して該タンク本体内の空気を該窒素ガスで置換する空気/窒素ガス置換工程(S18)と、
アンモニアガスを前記タンク本体内に供給して該タンク本体内の前記窒素ガスを該アンモニアガスで置換する窒素ガス/アンモニアガス置換工程(S19)と、
を具備することを特徴とする、請求項1記載のアンモニアタンク気密試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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