説明

アンモニア合成器

【課題】水蒸気を用いた添加反応の反応温度を低下させ、温和な反応条件で効率的にアンモニア合成を行うことを可能とするアンモニア合成器を提供する。
【解決手段】中空の基体2と、基体2の内側を第1流路10と第2流路20とに分割する内壁材3と、を有し、第1流路10には、炭化水素を水蒸気改質して水素を生成する改質触媒が配設され、内壁材3の少なくとも一部には、水素を第1流路10から第2流路20に分離可能な水素分離膜31が形成され、第2流路20には、水素と窒素とを反応に用いてアンモニアを合成する合成触媒が配設されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア合成器に関するものであり、詳しくは、温和な反応条件で効率的にアンモニア合成を行うことを可能とするアンモニア合成器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アンモニアを合成するためのプラントが建設されており、製造されるアンモニア(NH)は肥料や種々の化成品の原料として用いられている。アンモニアの合成には古くはハーバー・ボッシュ法が用いられ、近年でも同様に反応式1に示すようなアンモニアの直接合成反応が用いられている。
【0003】
[化1]
+3H→2NH …(1)
【0004】
ハーバー・ボッシュ法は、高温高圧条件下での反応であったが、省エネルギー化や反応効率の上昇などを目的として、温和な条件下で反応式1の反応を起こさせるための検討が成されている。例えば、特許文献1に記載の方法によれば、原料である水素(H)の供給方法を工夫することにより、アンモニア合成反応の反応温度を50℃〜250℃程度にまで低下させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−247632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上式で表されるアンモニア合成において、工業的には、種々の化学的方法により水素を得ることとしている。典型的には、ナフサや天然ガスなどの炭化水素と水蒸気とを用いた触媒反応(反応式2)により、安価に水素を合成している。
【0007】
[化2]
CH+HO→3H+CO …(2)
【0008】
反応式2で示す水蒸気改質(スチームリフォーミング)反応により、例えば、典型的にはメタン(CH)を主成分とする天然ガスを用いて水素を得るためには、反応系を約800℃にまで加熱する必要があり、多量のエネルギーが必要とされる。
【0009】
しかしながら、特許文献1ではHをどのように供給するかについては記載がないため、特許文献1の方法を工業用プロセスに応用した場合、Hの供給に多くのエネルギーが必要である。そのため、アンモニアを得るまでの反応全体では、省エネルギー化のための検討が不十分であり、多くの検討余地を残している。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、水蒸気を用いた添加反応の反応温度を低下させ、温和な反応条件で効率的にアンモニア合成を行うことを可能とするアンモニア合成器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明のアンモニア合成器は、中空の基体と、前記基体の内側を2つの空間に分割する内壁材と、を有し、前記2つの空間のうち一方の空間には、炭化水素を水蒸気改質して水素を生成する改質触媒が配設され、前記内壁材の少なくとも一部には、前記水素を前記一方の空間から他方の空間に分離可能な水素分離膜が形成され、前記他方の空間には、前記水素と窒素とを反応に用いてアンモニアを合成する合成触媒が配設されていることを特徴とする。
【0012】
まず、炭化水素の水蒸気改質反応は平衡反応であり、水素生成反応は吸熱反応である。そのため、通常、反応を促進させるために800℃程度に加熱することが必要となっている。対して、本発明のアンモニア合成器においては、生成する水素が水素分離膜を介して系外である他方の空間に移動するため、平衡反応を水素生成側に促進することが可能である。
【0013】
また、水素分離膜における水素透過量は、次の数式1で示すことができることが知られている。
【0014】
【数1】

【0015】
ここで、Q:水素透過量、A,B:係数、R:気体定数、T:透過する水素の熱力学温度、A:水素分離膜の面積、t:水素分離膜の膜厚、P:一方の空間の水素分圧、P:他方の空間の水素分圧、である。
【0016】
他方の空間に移動した水素は、他方の空間における合成反応で消費されるため、数式1中のPの値は、常に低い値または略ゼロとなる。そのため、数式1に示されるように水素透過量が増加し、水蒸気改質反応において平衡反応を水素生成側に更に促進することとなる。
【0017】
すなわち、本発明の構成によれば、水蒸気改質とアンモニア合成とを個別の装置で行う場合と比べ、水蒸気改質反応が促進される。これにより、通常の水蒸気改質反応では800℃程度の加熱が必要であるところ、反応温度を低下させることが可能となる。したがって、装置全体として温和な反応条件で効率的にアンモニア合成を行うことを可能とするアンモニア合成器を提供することができる。
【0018】
本発明においては、前記基体は、前記一方の空間に前記炭化水素と水蒸気とを供給するとともに、前記改質触媒による反応の反応物のうち少なくとも一部を排出する第1開口部と、前記一方の空間に、前記一方の空間内に乱流を発生させる乱流発生手段と、を有することが望ましい。
【0019】
一方の空間内においては、水素分離膜近傍の水素は、水素分離膜に接触しやすく他方の空間に透過しやすい一方で、水素分離膜から離れた位置の水素は、水素分離膜に接触しにくく他方の空間に透過しにくいという差が生じる。そのため、一方の空間内では、水素分離膜近傍では水素分圧が低下し、水素分離膜から離れた位置では水素分圧があまり低下しないという、濃度分布を生じやすい。濃度分布が生じると一方の空間側の水素分圧が低下するため水素透過量が低減してしまう。
【0020】
しかし、この構成によれば、乱流発生手段を設けることにより、一方の空間内を流動するガス成分が撹拌され濃度分布が均一になる。そのため、一方の空間内に水素の濃度分布が生じることに起因した水素透過量の低下が生じにくく、反応で生じた水素を、良好に他方の空間に供給することが可能となり、水蒸気改質反応を促進させることができる。
【0021】
本発明においては、前記乱流発生手段は、前記水素分離膜から離間して配設されていることが望ましい。
この構成によれば、水素分離膜において水素を透過させる上で有効となる水素分離膜の面積が乱流発生手段の設置により低下することがない。さらに、乱流発生手段と水素分離膜との間に物理的接触がないため、水素分離膜に傷(ピンホール)が付きにくく、ピンホールに起因したリークも発生しにくい。そのため、水素分離膜を透過して分離される水素濃度が高まり、性能向上につながる。
【0022】
本発明においては、前記基体には、前記他方の空間に接続される2つの開口部が設けられ、一方の前記第2開口部から他方の前記第2開口部に流動するスイープガスを供給することが望ましい。
この構成によれば、他方の空間の水素分圧を低下させることができるため、水素分離膜を介した水素移動を促進することができ、水蒸気を用いた添加反応の反応温度を低下させることが可能となる。
【0023】
本発明においては、前記スイープガスが前記窒素であることが望ましい。
この構成によれば、原料ガスとスイープガスを兼ねることができ、効率的な反応を行わせることができる。
【0024】
本発明においては、前記内壁材は、前記水素分離膜を担持する多孔質基材を有していることが望ましい。
この構成によれば、非常に薄い水素分離膜の破損を抑制するとともに、水素分離膜を多孔質基材上にメッキすることで形成することが可能となり、反応器の形成が容易となる。
【0025】
本発明においては、前記合成触媒は、鉄化合物を形成材料とし、前記水素分離膜は、パラジウムまたはパラジウム化合物を形成材料として、前記多孔質基材の一方の表面に担持されており、前記多孔質基材が、前記他方の空間に面するように配設されていることが望ましい。
発明者の検討により、数百度にまで加熱される反応器内でパラジウム化合物と鉄化合物とが接触していると、合金を形成し、水素分離膜にピンホールが生じるおそれがあることが分かっている。そのため、水素分離膜や合成触媒の形成材料がこれらの材料の組み合わせとなる構成の場合、両者の間に多孔質基材を配置することで、両者が接触しないようにすることができ、ピンホール生成による劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、水蒸気を用いた添加反応の反応温度を低下させ、温和な反応条件で効率的にアンモニア合成を行うことを可能とするアンモニア合成器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のアンモニア合成器を有する製造プラントの一部を示す説明図である。
【図2】第1実施形態のアンモニア合成器の主要部を示す概略斜視図である。
【図3】第1実施形態のアンモニア合成器に係る断面図である。
【図4】第2実施形態のアンモニア合成器に係る断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[第1実施形態]
以下、図1〜図3を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るアンモニア合成器について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0029】
図1は、本実施形態のアンモニア合成器1Aを有する製造プラントの一部を示す説明図である。
【0030】
図1に示すアンモニア製造プラントは、触媒反応によりアンモニアを合成するアンモニア合成器1Aと、アンモニア合成器1Aに原料を供給する第1配管4および第2配管5と、合成されたアンモニアを排出する第3配管6と、アンモニアを冷却し液化する冷却装置7と、液化アンモニアが通液する第4配管8と、冷却装置7からガス分を払い出す第5配管9と、を有している。その他、アンモニア合成器1Aを加熱するための不図示の加熱装置を有している。
【0031】
アンモニア合成器1Aには、第1配管4を構成する供給配管41から天然ガスと水蒸気とが、第2配管5から窒素(N)が、それぞれ供給され、これらを原料としてアンモニアが合成される。合成の過程で生じるアンモニア以外の物質、具体的には水素と一酸化炭素(CO)は、排出配管42から排出される。排出された水素と一酸化炭素は不図示の加熱装置の燃料として使用される。合成されたアンモニアは、第3配管6を介して冷却装置7に排出され、冷却装置7にて液化される。なお、供給配管41および排出配管42と、基体2との接続部に設けられた開口部が、本発明の第1開口部に該当する。
【0032】
液化されたアンモニアは第4配管8を介して払い出され、液化されなかった気相部のガス成分(アンモニアおよび未反応ガス)は、第5配管9を介して取り出される。第5配管9を構成する配管91はアンモニア合成器1Aに窒素を供給する第2配管5に接続されている。これにより、液化されなかったアンモニアは、アンモニア合成器1Aを介して再度冷却装置7に供給されることとなり、無駄なく回収される。また、未反応のガス成分は再度アンモニア合成器1Aにおけるアンモニア合成の原料として用いられる。なお、第2配管5および第3配管6と接続する、筒状の内壁材3の両端の開口部が、本発明の第2開口部に該当する。
【0033】
また、配管91には、冷却装置7の気相部のガス成分を放出(パージ)するための配管92、および配管92の開閉を行うバルブ93が設けられている。
【0034】
図2は、アンモニア合成器1Aの主要部を示す概略斜視図であり、図3は図2の線分A−Aにおける矢視断面図である。
【0035】
図に示すように、本発明のアンモニア合成器1Aは、中空円筒状の基体2と、基体2の内部に配設され基体2と同方向に延在する中空円筒状の内壁材3と、を有している。基体2と内壁材3とにより囲まれた空間は第1流路(一方の空間)10を構成し、内壁材3の内側の空間は第2流路(他方の空間)20を構成している。
【0036】
ここでは、基体2と内壁材3とは一方向に延在することとして示したが、これに限らず湾曲していても構わない。また、断面形状は円形に限らず任意の形状を採用することができる。
【0037】
基体2には、図1に示す供給配管41が接続され、第1流路10内に符号G1で示される天然ガスと水蒸気とが供給される。また内壁材3には、図1に示す第2配管5が接続され、第2流路20内に符号G2で示される窒素、および図1に示す冷却装置7の気相部からのガス成分が供給される。
【0038】
第1流路10には、下記反応式3の反応を触媒し、天然ガスと水蒸気とを用いて水素を生じさせる水蒸気改質触媒が充填されている。反応式3では天然ガスの主成分であるメタンについて反応式を記載している。
【0039】
[化3]
CH+HO→3H+CO …(3)
【0040】
このような触媒としては通常知られたニッケル(Ni)系、ルテニウム(Ru)系、白金(Pt)系のものを用いることができる。
【0041】
内壁材3は、水素分離膜31と、水素分離膜31を担持するセラミックスや金属多孔質材などの多孔質基材32と、を有している。本実施形態の内壁材3は、多孔質基材32において第1流路10に面する側に水素分離膜31が配設されている。
【0042】
水素分離膜31は、通常知られたものを形成材料として用いることができる。この形成材料としては、例えば、パラジウム(Pd)またはPd−銀(Ag)合金、Pd−銅(Cu)合金等のPd系のものや、バナジウム(V)またはバナジウム合金、ジルコニウム(Zr)−ニッケル(Ni)アモルファス合金などを挙げることができる。これらの金属を多孔質基材32上にメッキまたは貼付などの方法により1μmから100μmの薄膜として設けることにより、水素分離膜31を形成する。
【0043】
第1流路10で生じる水素は、水素分離膜31および多孔質基材32を介して第2流路20に供給される。また、水素分離膜31を透過しなかったガス成分G3(一酸化炭素、未反応の天然ガス、水蒸気、水素分離膜31を透過しなかった水素)は、図1に示す排出配管42から排出される。
【0044】
第2流路20には、下記反応式4の反応を触媒し、窒素と水素とを用いてアンモニアを生じさせるアンモニア合成触媒が充填されている。アンモニア合成触媒では、水素分離膜31を透過して第2流路20に供給される水素と、図1に示す第2配管5から第2流路20に供給される窒素とからアンモニアが合成される。
【0045】
[化4]
+3H→2NH …(4)
【0046】
このような触媒としては通常知られた鉄系のもの等を用いることができ、例えば、ズードケミー触媒社製のAS−4を挙げることができる。
【0047】
これら第1流路10および第2流路20に充填されている触媒は、充填した後に気体が流動する隙間が形成される程度の粒度のものを用いることができる。例えば、円柱(ペレット)状、球状、フレーク状などの形状をしていても良く、これらの一部または全部が互いに接続しているものであっても良い。
【0048】
第2流路20に供給される窒素は、合成されるアンモニアを流動させるスイープガスとしての機能も有している。そのため、第2流路20からはアンモニアと窒素との混合ガスG4が排出され、図1に示す冷却装置7に導入されることとなる。
【0049】
ここで、上述のアンモニア合成器1Aの効果について更に詳しく説明する。本発明のアンモニア合成器1Aは、以下のような理由により第1流路10における反応式3で示す水蒸気改質反応(水素合成反応)の反応温度を下げることができるため、反応系全体として反応に用いるエネルギーを少なくすることができる。
【0050】
まず、天然ガスの水蒸気改質反応は平衡反応であり、反応式3に示す右向きの矢印の反応は吸熱反応である。そのため、通常、反応を促進させるために800℃程度に加熱することが必要となっている。これに対して、本実施形態のアンモニア合成器1Aにおいては、反応式3の右辺に生じる水素が水素分離膜31を介して系外である第2流路20に移動するため、平衡反応を水素生成側に促進することが可能である。
【0051】
また、水素分離膜31における水素透過量は、次の数式1で示すことができることが知られている。
【0052】
【数2】

【0053】
ここで、Q:水素透過量、A,B:係数、R:気体定数、T:透過する水素の熱力学温度、A:水素分離膜の面積、t:水素分離膜の膜厚、P:第1流路10側の水素分圧、P:第2流路20側の水素分圧、である。
【0054】
反応式4に示すように、第2流路20において水素は消費されるため、数式1中のPの値は、常に低い値または略ゼロとなる。したがって、数式1に示されるように水素透過量が増加し、水蒸気改質反応において平衡反応を水素生成側に更に促進することとなる。
【0055】
このように、水蒸気改質とアンモニア合成とを個別の装置で行う場合と比べ、本実施形態のアンモニア合成器1Aでは、反応式3の反応が促進される。これにより、通常の水蒸気改質反応では800℃程度の加熱が必要であるところ、本実施形態のアンモニア合成器1Aでは350℃〜550℃程度の反応温度で水蒸気改質工程を行うことが可能となる。
【0056】
この温度範囲においては、第2流路20におけるアンモニア合成反応も十分生じることから、反応系全体として、反応温度を低下させることができる。
【0057】
したがって、以上のような構成のアンモニア合成器1Aによれば、温和な反応条件で効率的にアンモニア合成を行うことが可能となる。
【0058】
なお、本実施形態においては、多孔質基材32を第2流路20に面する側に配設する構成としたが、多孔質基材32を第1流路10側とする構成であっても構わない。
【0059】
例えば、水素分離膜31としてパラジウム系の薄膜を用いる場合、アンモニア合成器1の使用温度においてアンモニア合成触媒に含まれる鉄と、水素分離膜31に含まれるパラジウムとが合金を形成し、水素分離膜31に傷(ピンホール)が生じるおそれがある。そのため、両者を接触させないように、水素分離膜31とアンモニア合成触媒が充填されている第2流路20との間にセラミックス製の多孔質基材32を配設する構成とすることが好ましい。
【0060】
しかし、水素分離膜31の形成材料とアンモニア合成触媒とに含まれる金属同士が、使用温度で合金を形成する組み合わせではない(例えば、水素分離膜31の形成材料がPd系ではない)場合には、水素分離膜31とアンモニア合成触媒とが接触しても良く、その場合には、第1流路10側に多孔質基材32を配設する構成としても構わない。
【0061】
水素分離膜31と水蒸気改質触媒との関係においても、同様の考え方により多孔質基材32の配設位置を設定することができる。
【0062】
また、本実施形態においては、第1流路10と第2流路20とを流動するガスが並行流であることとして示したが、対向流であっても構わない。
【0063】
また、本実施形態においては、基体2と内壁材3とは同じ一方向に延在することとして示したが、これに限らず湾曲していても構わない。
【0064】
また、本実施形態においては、内壁材3が円筒状であり、基体2の内部空間に挿入されていることとして示したが、これに限らず、例えば内壁材3が平板状であることとして基体2の内部空間を分割する構成など、第1流路10と第2流路20とが内壁材3に設けられた水素分離膜を介して隣接している構成であれば、種々の構成を採用することができる。
【0065】
[第2実施形態]
図4は、本発明の第2実施形態に係るアンモニア合成器1Bの説明図である。本実施形態のアンモニア合成器1Bは、第1実施形態のアンモニア合成器1Aと一部共通している。異なるのは、第1流路10内に複数のバッフルプレート(乱流発生手段)21を有することである。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0066】
バッフルプレート21は、例えばドーナツ状の円板を採用し、第1流路10内において基体2の内側の側壁に、内壁材3の表面に接触させないように離間させて配設されている。すなわち、バッフルプレート21は、内壁材3の表面に設けられた水素分離膜31から離間させて配設されている。
【0067】
図では、第1流路10内の3箇所にバッフルプレート21が設けられている様子を示しているが、バッフルプレート21の数は適宜変更可能である。また、3箇所に設けられたバッフルプレート21の基体2からの長さや流路延在方向の幅などの、バッフルプレート21の大きさは、各々同じでも良く、また互いに異なっていても構わない。
【0068】
水素が水素分離膜31を透過するためには、まず水素が水素分離膜31と接触する必要があるところ、第1流路10内においては、水素分離膜31近傍の水素は、水素分離膜31に接触しやすく第2流路20に透過しやすい一方で、水素分離膜31から離れた位置の水素は、水素分離膜31に接触しにくく第2流路20に透過しにくいという差が生じる。そのため、第1流路10内では、水素分離膜31近傍では水素分圧が低下し、水素分離膜31から離れた位置では水素分圧があまり低下しないという、濃度分布を生じやすい。
【0069】
上述の数式1で示したように、水素分離膜31を介した水素の透過量は、水素分離膜31を挟んだ両側における水素分圧(数式1中、PおよびP)に影響を受けるため、上述のように濃度分布が生じると、水素分圧Pが低下するため水素透過量が低減することとなってしまう。
【0070】
しかし、本実施形態のアンモニア合成器1Bにおいては、バッフルプレート21を設けることにより、第1流路10内のガス成分(天然ガス、水蒸気、および第1流路10内の反応で生成した水素、一酸化炭素)が撹拌され、第1流路10内で各ガス成分の濃度分布が均一になる。そのため、第1流路10内に水素の濃度分布が生じることに起因した水素透過量の低下が生じにくく、反応で生じた水素を、良好に第2流路20に供給することが可能となる。
【0071】
また、バッフルプレート21は、内壁材3の表面に接触させないように配設されている。これにより、水素分離膜31において水素を透過させる上で有効となる水素分離膜の面積がバッフルプレート21の設置により低下することがない。さらに、バッフルプレート21と水素分離膜31との間に物理的接触がないため、水素分離膜31に傷(ピンホール)が付きにくく、ピンホールに起因したリークも発生しにくい。そのため、水素分離膜31を透過して分離される水素濃度が高まり、性能向上につながる。
【0072】
以上のような構成のアンモニア合成器1Bにおいても、温和な反応条件で効率的にアンモニア合成を行うことが可能となる。
【0073】
なお、本実施形態においては、バッフルプレート21はドーナツ状の円板であることとしたが、第1流路10内の気流に乱流を発生させ、第1流路10内のガス成分を撹拌することが可能な構成であれば、円板の他の構成を採用することも可能である。同様の考え方により、バッフルプレート21は、ガス成分を透過しない板状であっても良く、ガス成分を透過させるメッシュ状であっても構わない。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0075】
1A,1B…アンモニア合成器、2…基体、3…内壁材、10…第1流路(一方の空間)、20…第2流路(他方の空間)、21…バッフルプレート(乱流発生手段)、31…水素分離膜、32…多孔質基材、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の基体と、
前記基体の内側を2つの空間に分割する内壁材と、を有し、
前記2つの空間のうち一方の空間には、炭化水素を水蒸気改質して水素を生成する改質触媒が配設され、
前記内壁材の少なくとも一部には、前記水素を前記一方の空間から他方の空間に分離可能な水素分離膜が形成され、
前記他方の空間には、前記水素と窒素とを反応に用いてアンモニアを合成する合成触媒が配設されていることを特徴とするアンモニア合成器。
【請求項2】
前記基体は、前記一方の空間に前記炭化水素と水蒸気とを供給するとともに、前記改質触媒による反応の反応物のうち少なくとも一部を排出する第1開口部と、
前記一方の空間に、前記一方の空間内に乱流を発生させる乱流発生手段と、を有することを特徴とする請求項1に記載のアンモニア合成器。
【請求項3】
前記乱流発生手段は、前記水素分離膜から離間して配設されていることを特徴とする請求項2に記載のアンモニア合成器。
【請求項4】
前記基体には、前記他方の空間に接続される2つの第2開口部が設けられ、
一方の前記第2開口部から他方の前記第2開口部に流動するスイープガスを供給することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のアンモニア合成器。
【請求項5】
前記スイープガスが前記窒素であることを特徴とする請求項4に記載のアンモニア合成器。
【請求項6】
前記内壁材は、前記水素分離膜を担持する多孔質基材を有していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のアンモニア合成器。
【請求項7】
前記合成触媒は、鉄化合物を形成材料とし、
前記水素分離膜は、パラジウムまたはパラジウム化合物を形成材料として、前記多孔質基材の一方の表面に担持されており、
前記多孔質基材が、前記他方の空間に面するように配設されていることを特徴とする請求項6に記載のアンモニア合成器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−251865(P2011−251865A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125914(P2010−125914)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】