説明

アンモニア検知剤、アンモニア検知手段、その製造方法およびこれを用いた分析装置

【課題】 圧力損失が少なく交換が容易で、コンパクトかつ迅速に機能する選択性の高いアンモニア検知剤、アンモニア検知手段およびその製造方法を提供することにある。さらに、こうしたアンモニア検知剤またはアンモニア検知手段を用い、測定時の妨害成分の除去の確実を図り、測定精度が高く信頼性の高い分析装置を提供することにある。
【解決手段】 反応試薬をリン酸と酸化第一銅あるいはリン酸と酸化第一銅の反応物とし、該反応試薬を粉状体あるいは粒子状体に担持したことを特徴とする。また、多孔質無機物質を反応基材とし、前記反応試薬を含浸処理したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア検知剤、アンモニア検知手段、その製造方法およびこれを用いた分析装置に関し、例えば、煙道排気ガス中の窒素酸化物分析装置あるいは硫黄酸化物分析装置などのように、アンモニアの除去処理を行う場合の、アンモニア検知剤、アンモニア検知手段、その製造方法およびこれを用いた分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、固定発生源用分析装置や環境大気用分析装置あるいは自動車排気ガス分析装置などの大気汚染分析装置においては、窒素酸化物(NOx)や二酸化硫黄(SO)などを測定対象として、非分散赤外線式分析計(NDIR)や化学発光式分析計(CLD)などのガス分析計が用いられる。このとき、例えば、脱硝処理された試料や還元処理された試料流体中には測定対象成分とともにアンモニア(NH)が共存することがあり、水分共存下においては、測定対象成分の一部を反応し測定誤差を生じることがある。特に、測定対象成分が低濃度の場合には、こうした誤差は無視できないことから、除去処理を目的として、種々のアンモニア除去ユニットを用いる方法が提案されている。
【0003】
例えば、試料ガス流路を有し、該通路内に、硫酸、リン酸などの不揮発性の強酸性液体を含浸されてある粘結性の強い多孔質物質を充填して試料ガス中のアンモニアガスを取り除くよう構成するとともに、前記通路内を通過する試料ガス中の水分が凝縮しない程度の温度に保持してなるアンモニアガス除去器を備え、該除去器を試料ガス中の水分を除去する手段の前の段階に設置してある二酸化硫黄分析装置が多く利用されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
具体的には、図4に示すように、アンモニア除去器41を含むSO分析装置において、煙道50の排ガスはプローブ51より採取され一次フィルタ52を通って加熱管49で加熱された状態でアンモニア除去器41に送られる。この除去器41においてアンモニアガスのみが除去されそれ以外のガス(水分を含む)は、次のドレンセパレー夕53を通ってサソプリングポンプ54によって吸引され、除湿器55により除湿されて乾燥ガスに近い状態で流量調節弁56からSO分析計57に導かれる。尚、図中58,59はドレントラップを示し、また60は補助ポンプを示す。
【0005】
また、こうしたアンモニア除去手段は、所定量のアンモニアを処理した後に、徐々に除去能力の低下を生じることから、従来、予め交換期間を設けて定期的に新品に交換する方法が採られていた。
【0006】
【特許文献1】特公昭56−24891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、煙道などの固定発生源や自動車などの移動排出源においては、燃焼効率や供給エネルギーの変化などによって、運転条件を頻繁に変更する必要があり、上記のような燃焼排ガスなどにおいては、試料中に共存するアンモニアの濃度も大きく変化することがある。こうした条件の下ではアンモニア除去手段は、予め設けた交換期間では、十分に除去できずに測定誤差を生じる場合、あるいは逆に殆ど除去能力の低下が生じていない場合がある。特に、高濃度のアンモニアを含む試料の場合には、僅かな除去能力の低下であっても除去しきれないアンモニアの量が多く、大きな測定誤差の要因となることがある。従って、アンモニア除去手段から処理できずに供出される試料中のアンモニアを検知することが必要となる場合がある。また、通常試料条件が不明な場合には、除去能力の低下がいつ生じるかが不明であり、アンモニアの連続検出方式の適用が好ましい。
【0008】
一方、アンモニアの検知手段としては、従来、ガス検知管方式、指示薬方式およびパックテスト(登録商標)方式などが一般的に使用されている。これらは、いずれも一旦試料を採取し所定時間の経過後の状態によって検知する方法や試料流路から所定量の試料を抜き取りバッチ的に検知する方式であり、連続検知の用途には適しておらず、連続検出方式の要請が強くあった。なお、パックテスト方式では、試料が排水や環境水などの液体の場合に多用されているが、気体試料の場合には溶液に溶解させた後に用いて試験することができる。
【0009】
また、こうした検知手段には、濃度による色変化を利用する呈色反応を適用することが多いが、試料の条件、例えば酸性雰囲気かアルカリ性雰囲気かなどの条件によって、呈色反応の適用の可否あるいは検知精度への影響などを検討することが必要となる。さらに、アンモニア検知に対する選択性あるいは、分析装置に用いた場合には、吸着や反応による測定対象成分のロスがないことが必要となる。
【0010】
そこで、この発明の目的は、こうした要請に対応し、圧力損失が少なく交換が容易で、コンパクトかつ迅速に機能する選択性の高いアンモニア検知剤、アンモニア検知手段およびその製造方法を提供することにある。さらに、こうしたアンモニア検知剤またはアンモニア検知手段を用い、測定時の妨害成分の除去の確実を図り、測定精度が高く信頼性の高い分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、以下に示すアンモニア検知剤、アンモニア検知手段、その製造方法およびこれを用いた分析装置によって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
本発明は、アンモニア検知剤であって、反応試薬をリン酸と酸化第一銅あるいはリン酸と酸化第一銅の反応物とし、該反応試薬を粉状体あるいは粒子状体に担持したことを特徴とする。
【0013】
後述するように、アンモニアは水分共存下において2価の銅との反応によって深青色の化合物を生成することが知られており、アンモニアの検知手段としての利用可能性は従前からもあった。しかしながら、2価の銅とのこうした呈色反応は、アンモニアに限定されたものではなく、例えば水分共存の酸性条件下でも深青色の化合物を生成することから、汎用的なアンモニアの検知剤としての利用は実質的にできなかった。本発明者は、検討を重ねた結果、リン酸と酸化第一銅あるいはリン酸と酸化第一銅の反応物を反応試薬とすることによって、上記のような酸性条件下においても特異的にアンモニアとの呈色反応を形成することができ、アンモニア検知に有効であるとの知見を得た。また、リン酸を用いて処理することによって、試料中に存在する他の成分(測定対象成分を含む)に対して殆ど影響がなく、高い選択性を確保することができるとの知見を得た。これによって、酸性雰囲気を含む広範囲に使用可能なアンモニア検知剤を作製することが可能となり、この反応試薬を粉状あるいは粒子状の反応基材に担持した検知剤を形成することによって、圧力損失が少なく交換が容易で、コンパクトかつ迅速に機能する選択性の高いアンモニア検知剤を提供することか可能となった。
【0014】
本発明は、上記アンモニア検知剤であって、多孔質無機物質を反応基材とし、前記反応試薬を含浸処理したことを特徴とする。
【0015】
アンモニア検知剤として長期的使用あるいは連続的使用を目的とする場合にあっては、可能な限り多くの反応試薬を担持することが好ましく、同時に試料との接触時間が長いことが好ましい。一方、試料中の他成分の影響を排除することも重要な条件となる。つまり、アンモニア検知剤を構成する反応試薬を担持する反応基材の選定および担持方法の選択が重要である。本発明においては、前者として多孔質無機物質を選定し、後者をリン酸と酸化第一銅の反応物を含浸処理する方法を選択することによって、圧力損失が少なく交換が容易で、コンパクトかつ迅速に機能する選択性の高いアンモニア検知剤を提供することか可能となった。
【0016】
本発明は、上記検知剤を所定の容器に充填したアンモニア検知手段において、前記容器が、試料導入口および供出口を有する透明または半透明筒状体であって、両口に繋がる流路の少なくとも2以上に分割された位置に対応する筒状体の外周部に指示記号を設けることを特徴とする。
【0017】
一般に、アンモニア検知手段であっては、検知濃度の把握の容易性の観点から、カラム状部材にアンモニアに発色する試剤を充填し発色部の位置あるいは色量によってアンモニアを検知する方法を用いることが好ましい。本発明においては、試料導入口および供出口を有する透明または半透明筒状体に、反応試薬を担持した多孔質無機物質を反応基材として充填することによって、反応試薬の反応状態を外部から目視可能となる。また、このとき筒状本体の外周部に指示部材を設け、両口に繋がる流路の少なくとも2以上に分割された位置に対応する筒状体の外周部の位置に指示記号を設け、予め各分割位置とアンモニア濃度あるいはアンモニア検知総量との関係を明確にすることによって、コンパクトかつ迅速に機能する選択性の高いアンモニア検知手段を提供することか可能となった。
【0018】
本発明は、上記アンモニア検知剤の製造方法であって、リン酸溶液と酸化第一銅とを混合し反応させるステップ、該反応液に多孔質無機物質を混合し含浸処理を行うステップ、該多孔質無機物質を乾燥するステップ、を有し、前記各ステップを酸化不活性または還元性の雰囲気で行うことを特徴とする。
【0019】
上記のように、本発明に係るアンモニア検知剤は、リン酸と酸化第一銅あるいはリン酸と酸化第一銅の反応物を反応試薬とすることによって、酸性条件下においても特異的にアンモニアとの呈色反応を形成することを利用し、該反応試薬を含浸した多孔質無機物質をアンモニア検知剤としたものである。このとき、重要な反応試薬である酸化第一銅は1価の銅化合物であり、酸性条件あるいは酸素雰囲気下においては、2価の銅に酸化されやすい。従って、こうしたアンモニア検知剤の製造においては、製造工程のステップ順あるいは各ステップにおける処理条件が重要となる。本発明においては、最適条件として、上記ステップに基づき処理を行うとともに、各ステップにおいて酸化不活性または還元性の雰囲気で処理を行うことによって、確実なアンモニアの検知機能を確保し選択性の高いアンモニア検知剤の製造方法を提供することが可能となった。
【0020】
本発明は、上記アンモニア検知剤またはアンモニア検知手段を用いた分析装置であって、試料採取流路の一部にアンモニア除去手段を有し、その処理後の試料の少なくとも一部を前記アンモニア検知剤またはアンモニア検知手段に導入可能に配することを特徴とする。
【0021】
上記のように、本発明に係る上記アンモニア検知剤またはアンモニア検知手段は、圧力損失が少なく選択性や保守性などに非常に優れた機能を有している。従って、試料採取流路の一部にアンモニア除去手段を有し、測定対象成分の応答や測定値に影響を与えないアンモニアの検知手段が要求される分析装置に、こうした機能を適用すれば、非常に優れた分析装置を構成することが可能となる。特に、アンモニア除去手段の直後に設けることによって、迅速にアンモニア除去手段の状態を監視することができ、リアルタイムの精度の高い測定が可能となる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、従来困難であった、圧力損失の少ない交換が容易でコンパクトかつ迅速に機能する選択性の高いアンモニア検知剤、アンモニア検知手段およびその製造方法を提供することができる。また、こうした選択性の高いアンモニア検知剤、アンモニア検知手段およびその製造方法に利用することによって、試料中の成分変動にも素早く追随することができ、測定時の妨害成分の除去の確実を図り、測定精度が高く信頼性の高い分析装置を提供することができる。特に、煙道排ガスや自動車排ガス中のNOx分析装置やSO分析装置のように、従来連続的使用や検知の選択性などの面で採用が困難であった分野では、非常に有用な装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
<本発明に係るアンモニア検知手段の基本的な構成>
本発明に係るアンモニア検知剤を用いたアンモニア検知手段の基本的な構成を、図1(A)および(B)に例示する。アンモニア検知手段1は、その外観として図1(A)に示すように、試料導入口2および試料供出口3を有する透明または半透明筒状体であって、該筒状体は、試料導入口2を有する筒状本体4と、試料供出口3を有するキャップ部5から構成される。筒状本体4とキャップ部5は嵌合あるいは螺合などによって接続するとともに樹脂製のリングなどによって接続部をシールする。また、筒状本体4の外周部には、アンモニア検知手段1の内部の発色状態との相関を明確にするために指示部材6を設けられている。さらに、アンモニア検知手段1は、その内部構成として、図1(B)に示すように、試料導入口2側および試料供出口3側に除塵用のフィルタ7aおよび7bを設け、反応試薬を含浸した多孔質無機物質をアンモニア検知剤8として充填する構成を採っている。
【0025】
アンモニア検知手段1の使用時には、アンモニア除去手段(図示せず)と試料導入口2を配管で接続され、アンモニア除去手段から供給された試料が試料導入口2を介してアンモニア検知手段1に導入され、試料中にアンモニアが存在する場合には、内部に充填されたアンモニア検知剤8が発色し、その発色量から試料中のアンモニア濃度を求めることが可能となる。未使用時には、試料導入口2および試料供出口3を封止体(図示せず)によって封止する。このとき、内部の残留試料あるいは空気や水分の混入によるアンモニア検知剤8の変質を防止するために、アンモニア検知手段1を窒素やアルゴンなどの不活性ガスによってパージすることが好ましい。
【0026】
筒状本体3は、透明または半透明筒状体を形成できる素材であれば、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレンやポリプロピレンあるいはポリエチレンテレフタレート(PET)などのように、機械的強度や化学的強度にも優れたプラスチックなどが好ましい。内部にフィルタ7aと7bおよびアンモニア検知剤8を充填した後、キャップ部5によってシール(封止体による封止を含む)を行うことによって流路を形成したアンモニア検知手段1を構成することができる。
【0027】
また、フィルタ7aと7bは、金属性メッシュあるいはグラスウールなどの濾紙や樹脂製の濾材など除塵機能を有するものであれば、特に限定されるものではないが、機械的強度や化学的強度にも優れたフッ素系樹脂やシリコウールなどの濾材が好ましい。
【0028】
筒状本体3の外周部には、貼り付けあるいは外周部の成形などによって指示部材6を設け、筒状本体3の内部流路の少なくとも2以上に分割された位置に対応する指示部材6の位置に、指示記号6aおよび6bを付しておくことが好ましい。アンモニア除去手段やアンモニア検知剤8あるいはアンモニア検知手段1の交換時期あるいは部品の準備時期などの目安として、保守項目に対する適切な時期に対応した位置に付すことによって、保守性の向上を図ることができる。むろん指示記号の数は特に限定されるものではなく、記号を付す位置についても任意に設定することが可能である。
【0029】
<反応試薬を含浸したアンモニア検知剤の検討>
本発明は、アンモニアとの呈色反応によって生じる発色を利用し、反応試薬としてリン酸と酸化第一銅あるいはリン酸と酸化第一銅の反応物を用い、反応基材として粉状あるいは粒子状の多孔質無機物質を用いることを特徴とする。ここでは、こうした反応試薬を含浸したアンモニア検知剤を適用するまでの検討事項について詳述する。
【0030】
(a)一般にアンモニアガスあるいはアンモニアイオンの呈色反応としては、下式(1)のような2価の銅イオンとアンモニアとの反応によって、
Cu2+ + 4NH + 2OH → [Cu(NH](OH) ・・(式1)
深青色の銅アンモニウム塩が生じる反応が知られている。
しかしながら、上式(1)の反応は、[OH]の存在、つまり、アルカリ性溶液における反応であり、試料の条件がこうした条件を満たす場合に限定される。例えば、上記のような燃焼排ガスは、特別な処理をしない限り、通常酸性雰囲気のガスであり、結露した状態では強酸性を示す。従って上式(1)の反応は、アンモニア検知用反応基材に利用することはできない。
【0031】
(b)次に、溶液条件下における銅とアンモニアとの呈色反応について、種々の検討を行った。その過程において、試験管中のリン酸と酸化第一銅との混合溶液に、塩化アンモニウムを添加・攪拌後、暫時静置すると薄青色に着色した透明な溶液が得られることが分った。つまり、リン酸(HPO)と酸化第一銅(CuO)との混合溶液中においては、一部に下式(2)に示す反応が生じてCuPO が生成し、
3CuO + 2HPO → 2CuPO + 3HO ・・(式2)
次に、下式(3)に示すアンモニアとの反応によって、
CuPO + 2HPO + 6NH → (NHPO
+ Cu(NHPO + Cu(NH)PO ・・(式3)
銅アンモニア錯体[(NHPO]/[Cu(NHPO]/[Cu(NH)PO]が生成していると推考される。
【0032】
(c)以上の結果を踏まえ、実際の使用条件である、気体−固体系における呈色反応について、種々の検討を行った。最終的には、後述する手順によって処理することが最適であるとの結論を得たが、リン酸と酸化第一銅との混合溶液を反応基材に含浸した後の乾燥段階で、含浸液の蒸散によりリン酸が濃縮され高い反応性を得ることができることが分かった。つまり、上記式(2)に示す反応以外に、下式(4)および(5)によって、[HCuPO]/[HCuPO]/[CuPO]が生成しているものと推考され、
CuO + HPO → HCuPO + HO ・・(式4)
CuO + 2HPO → 2HCuPO + HO ・・(式5)
次に、アンモニアとの反応によって、上記式(3)に示す反応以外に、下式(6)および(7)によって、
HCuPO + NH → Cu(NH)PO ・・(式6)
CuPO + 2NH → Cu(NHPO ・・(式7)
銅アンモニア錯体[(NHPO]/[Cu(NHPO]/[Cu(NH)PO]が生成していると推考される。
気体−固体系における呈色反応の結果は、(b)の溶液内気体−液体系における呈色反応に比較し濃厚な着色を示した。これは、含浸した反応基材の表面に吸着している銅−リン酸化合物の濃度が、(b)の溶液内に比較して濃縮され高密度に担持されていることによるものと推考できる。また、試料中にSO、NOあるいは二酸化炭素(CO)などを含む酸性雰囲気条件下でも、アンモニアに対して特異的に呈色反応を生じ濃厚な着色を示し、従来では不可能であった、広範囲のアンモニア検知が可能となった。
【0033】
(d)次に、反応試薬を担持する反応基材の選定および担持方法を検討した。基本的には、多くの反応試薬を担持するとともに、試料との接触時間が長い、つまり表面積が大きい素材が好ましい。一方、試料中の他成分の吸着や他成分による被毒がないことが重要な条件となる。こうした条件を満たす素材を検討した結果、多孔質無機物質が最適であることが分った。具体的には、ゼオライト系、モレキュラーシーブス、珪藻土、活性アルミナ系、パミュキライト(商品名)などのシリカ−アルミナ系などを素材する物質を挙げることができる。
ここで、反応基材の粒径は、発色反応の識別性に影響することから、筒状本体4に充填した状態において発色の有無を明確に判断できるように、平均径約2〜3mm程度の多孔質無機物質を用いることが好ましい。
また、担持方法については、反応試薬および反応基材の素材の特性から、反応基材表面への反応試薬の吸着担持が適していることから、反応試薬の反応基材への含浸処理および乾燥仕上げ処理を選択した。
【0034】
以上の結果、反応試薬としてリン酸と酸化第一銅あるいはリン酸と酸化第一銅の反応物を用い、反応基材として粉状あるいは粒子状の多孔質無機物質を用い、反応試薬を反応基材に含浸・乾燥処理を行うことによって、アンモニアとの選択的な呈色反応を形成することできる優れたアンモニア検知剤を作製することが可能となった。
【0035】
<本発明に係るアンモニア検知剤およびアンモニア検知手段の製造方法>
本発明に係るアンモニア検知剤の製造方法は、リン酸溶液と酸化第一銅とを混合し反応させるステップ、該反応液に多孔質無機物質を混合し含浸処理を行うステップ、該多孔質無機物質を乾燥するステップ、を有し、各ステップを酸化不活性または還元性の雰囲気で行うことを特徴とする。
【0036】
また、本発明に係るアンモニア検知手段は、さらに、乾燥した多孔質無機物質を反応基材として所定の容器に充填するステップ、を有し、各ステップを酸化不活性または還元性の雰囲気で行うことを特徴とする製造方法によって作製される。
【0037】
具体的には、図2に例示するような製造工程によって、アンモニア検知剤およびアンモニア検知手段を作製することができる。なお、ここでいう「アンモニア検知剤およびアンモニア検知手段の製造工程」とは、上記各ステップを有する範囲において、以下の工程の順を変更する場合あるいは追加の工程を有する場合を含むことはいうまでもない。
【0038】
(1)反応試薬・反応基材等の準備
(1−1)反応試薬として「リン酸85%(試薬特級)」および「酸化第一銅(試薬特級)を用意し、反応基材として「多孔質無機物質」を用意する。ここでは、容量約300mLのアンモニア検知手段を作製する場合を想定し説明する。
(1−2)含浸用試薬を調製する。具体的には、85%リン酸を純水で稀釈し、15%リン酸溶液を100mL調製する。このとき溶液温度は約85℃としておくことが好ましい。同時に、酸化第一銅を約3g秤量する。
【0039】
(2)反応液を作製、リン酸溶液含浸作業
(2−1)リン酸溶液と酸化第一銅との混合による反応液を作製する。具体的には、300mlビーカを用意し、上記リン酸溶液を入れて温度約80℃に加温した状態で、上記酸化第一銅粉末を添加して攪拌し、よく分散させた反応液を作製する。
このとき、操作は、酸化不活性または還元性の雰囲気で行うことが好ましい。重要な反応試薬である酸化第一銅は1価の銅化合物であり、酸性条件あるいは酸素雰囲気下においては、2価の銅に酸化されやすいことから、例えば、不活性ガスによってパージされたボックス内で作業することが好ましい。不活性ガスとしては、一般に入手および取り扱いが容易な窒素ガスやアルゴンガスなどを用いることができる。以下の工程においても同様の条件で操作することが好ましい。
(2−2)反応液へ多孔質無機物質を混合し、含浸処理を行う。具体的には、上記反応液に、多孔質無機物質を約100gを攪拌しながら徐々に投入する。このようにして多孔質無機物質に反応溶液を含浸した後、さらに攪拌棒で約5分間程度反応液に浸漬する。これによって、多孔質無機物質にリン酸が含浸される。
【0040】
(3)恒温槽内での乾燥処理、アンモニア検知剤の作製
(3−1)試薬を含浸させた多孔質無機物質を、温度50〜70℃に設定された恒温槽に投入し、自然乾燥を行う。
(3−2)恒温槽内あるいはビーカ内を、約8〜10時間窒素パージしながら乾燥する。完全に水分を蒸発した状態で、乾燥した粒子状のアンモニア検知剤を取出し、青色に着色していないことを確認する。また、試薬の含浸量は、処理前の多孔質無機物質の重量と乾燥処理後の多孔質無機物質の重量との比較によって確認することが可能である。
これによって、アンモニア検知剤が作製される。
【0041】
(4)完成品の保管
上記アンモニア検知剤を室温まで冷却した後、窒素パージを行った褐色瓶容器に密栓をして保管する。保管常態においても定期的に窒素パージを行うことが好ましい。
【0042】
(5)所定の容器に充填
アンモニア検知手段の筒状本体に上記アンモニア検知剤を所定量充填する。
具体的には、図1(B)のように、まず、筒状本体4の試料導入口2側にフィルタ7aを設け、アンモニア検知剤を約300mL充填する。次に、試料供出口3側にフィルタ7bを設けたキャップ部5を筒状本体4に接続し、接続部のシールを行う。
【0043】
(6)指示部材の貼り付け
アンモニア検知手段の筒状本体の外周部に、保守項目に対する適切な時期に対応した位置に指示記号が付された指示部材を貼り付けることによって、アンモニア検知手段が完成する。なお、上述のように、貼り付け指示部材に代え予め外周部に指示記号などを成形することも可能である。
【0044】
上記のようにして作製されたアンモニア検知剤およびアンモニア検知手段は、確実で選択性の高いアンモニアの検知機能を確保することができることから、各種の分析装置において使用することが可能である。
【0045】
<本発明に係るアンモニア検知剤あるいはアンモニア検知手段を用いた分析装置の構成例>
図3は、上記アンモニア検知手段1を用いた分析装置の1つの構成を例示する。試料ポンプ(図示せず)によってサンプル入ロ31、一次フィルタ32、一次ドレン分離器33を介して導入された試料は、アンモニア除去手段34においてアンモニアを除去され、二次ドレン分離器35を介してアンモニア検知手段1に導入される。アンモニア検知手段1から供出された試料は、さらに除塵処理(図示せず)や除湿処理(図示せず)あるいはNOx分析装置の場合にはNO−NO変換手段(図示せず)によってNO変換処理されて、分析計(図示せず、NOx分析装置の場合には上述のNDIRやCLDなどのNO分析計を用いる)に導入される。アンモニア検知手段1をアンモニア除去手段34の後段に設けることによって、アンモニア除去手段34の状態を監視することができ、リアルタイムの精度の高い測定が可能となる。また、アンモニア除去手段34は、図3のように並列的に複数配置し、アンモニア検知手段1によって検知された時点で順次新品に切換えることも、長期の連続運転を必要とする場合や試料中のアンモニア濃度が高い場合には、有効な方法となる。
【0046】
NO−NO変換手段とは、試料中の二酸化窒素(NO)成分を一酸化窒素(NO)に変換する手段をいい、一般に、炭素系の低温触媒(約150〜200℃)を使用することが多い。試料中のアンモニアは、こうした触媒の活性を低下させる被毒作用が強く、また触媒表面の硝酸根と反応して結晶体を形成することで、NO−NO変換手段の後段でさらに処理を必要とする場合がある。本発明はアンモニア除去手段34とともにアンモニア検知手段1を設けることで、こうした問題点を事前に解消することができる。
【0047】
ここで、図3では、アンモニア除去手段34の前段に一次ドレン分離器33を設け、アンモニア検知手段1の前段に二次ドレン分離器35を設けた構成例を示したが、これらのいずれかあるいは両方のドレン分離器を設けずに、加温状態で試料をアンモニア除去手段34およびアンモニア検知手段1に導入することも可能である。アンモニア除去手段34の直後にアンモニア検知手段1を設けることによって、さらに迅速にアンモニア除去手段34の状態を監視することができる。また、アンモニア除去手段34とアンモニア検知手段1の配置関係を除き、試料の条件によって各処理手段を任意に配置することが可能である。
【0048】
また、上記のアンモニア検知手段1においては、目視によって試料中のアンモニアの有無を確認する方法について述べたが、アンモニア検知手段1の発色状況の確認は、目視のみならず、フォトセルや発光ダイオードなどの光センサを用いて発色点を検知しアンモニア濃度を自動的に検知することが可能である。
【0049】
上記の構成において、本発明に係る上記アンモニア検知手段1は、圧力損失が少なく選択性や保守性などに非常に優れた機能を有している。従って、試料採取流路の一部にアンモニア除去手段を有し、測定対象成分の応答や測定値に影響を与えないアンモニアの検知手段が要求される分析装置に、こうした機能を適用すれば、非常に優れた分析装置を構成することが可能となる。
【0050】
なお、上記アンモニア検知手段1に代えて、本発明に係るアンモニア検知剤8を用途に応じた異なる容器などに充填して使用することも可能である。
また、アンモニア検知剤8あるいはアンモニア検知手段1を別体として使用するのではなく、アンモニア除去手段34に内蔵し、一体化したアンモニア除去・検知手段として使用することも可能である。アンモニア除去手段34の除去能力の低下が発生した場合には、アンモニア検知剤8あるいはアンモニア検知手段1においても発色が生じており、同時に交換することがあるためであり、併せて、装置のコンパクト化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上においては、本発明を、主として煙道排気ガス中の窒素酸化物分析装置あるいは硫黄酸化物分析装置などのように、アンモニアの除去処理を行う場合の、アンモニア検知剤、アンモニア検知手段、その製造方法およびこれを用いた分析装置に適用する場合について述べたが、アンモニア検知剤単体またはアンモニア検知手段単体として、種々の試料を測定することが可能である。
【0052】
また、試料中に含まれるアンモニアが低濃度の場合には、アンモニア検知剤またはアンモニア検知手段をそのままアンモニア除去手段として使用することも可能であり、両方の機能を活かすことによって従来にない優れた分析装置を構成することが可能となる。
【0053】
さらに、各種燃焼炉などの固定排出源を含む各種排気ガス中のNOxやSOなどを測定する場合、あるいは排気ガスに限らず各種プロセスや研究用などにも好適な手段として適用することができる他、自動車排気ガス中のNOxなどの測定にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係るアンモニアガス検知手段の基本的な構成を示す説明図。
【図2】本発明に係るアンモニア検知剤およびアンモニアガス検知手段の製造工程を概略的に示す説明図。
【図3】本発明に係るアンモニアガス検知手段を用いた分析装置の構成例を示す説明図。
【図4】従来技術に係る分析装置の構成を概略的に示す説明図
【符号の説明】
【0055】
1 アンモニアガス検知手段
2 試料導入口
3 試料供出口
4 筒状本体
5 キャップ部
6 指示部材
6a、6b 指示記号
7a、7b フィルタ
8 アンモニア検知剤
34 アンモニア除去手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応試薬をリン酸と酸化第一銅あるいはリン酸と酸化第一銅の反応物とし、該反応試薬を粉状体あるいは粒子状体に担持したことを特徴とするアンモニア検知剤。
【請求項2】
多孔質無機物質を反応基材とし、前記反応試薬を含浸処理したことを特徴とする請求項1記載のアンモニア検知剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の検知剤を所定の容器に充填したアンモニア検知手段であって、前記容器が、試料導入口および供出口を有する透明または半透明筒状体であって、両口に繋がる流路の少なくとも2以上に分割された位置に対応する筒状体の外周部に指示記号を設けることを特徴とするアンモニア検知手段。
【請求項4】
リン酸溶液と酸化第一銅とを混合し反応させるステップ、該反応液に多孔質無機物質を混合し含浸処理を行うステップ、該多孔質無機物質を乾燥するステップ、を有し、前記各ステップを酸化不活性または還元性の雰囲気で行うことを特徴とするアンモニア検知剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1若しくは2記載のアンモニア検知剤または請求項3記載のアンモニア検知手段を用いた分析装置であって、試料採取流路の一部にアンモニア除去手段を有し、その処理後の試料の少なくとも一部を前記アンモニア検知剤またはアンモニア検知手段に導入可能に配することを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−33165(P2007−33165A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215296(P2005−215296)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】