説明

アーク加工装置

【課題】 水冷トーチを用いるアーク加工装置において、水冷トーチに発生する結露を防止してブローホールの発生を抑制することを目的とする。
【解決手段】 アーク加工を行っていないときはアーク発生信号AdがLowレベルになるので、水温設定信号Trは非アーク加工時水温設定信号Tbrの値に設定される。そして、水槽7に貯水されている冷却水の温度は、熱交換器HCによってこの非アーク加工時水温設定信号Tbrに制御される。非アーク加工時水温設定信号Tbrは、周温及び湿度に基づいて結露が発生しない温度に設定する。これにより、冷却水と周温との温度差が小さくなるために、トーチには結露は発生しなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマアーク溶接等に使用するトーチに発生する結露を防止して良好な溶接品質を得るためのアーク加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は、プラズマアーク溶接、TIG溶接、MAG/MIG溶接、プラズマアーク切断等(以下、アーク加工と総称する)に使用されるアーク加工装置を対象としている。但し、アーク加工を行うトーチが水冷の場合であり、水冷トーチに発生する結露を防止するためのものである。以下の説明においてはアーク加工装置としてプラズマアーク溶接装置の場合について例示する。
【0003】
図5は、従来技術における一般的なプラズマアーク溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0004】
トーチは、タングステン等の電極1、それを取り囲むプラズマノズル41、それを取り囲むシールドノズル42等から成る。このプラズマノズル41内をアルゴン等の不活性ガスであるプラズマガス51が流れる。また、上記のシールドノズル42内をアルゴン等の具活性ガスであるシールドガス52が流れる。但し、シールドガス52として、酸素、炭酸ガス等の活性ガスを不活性ガスに混ぜた混合ガスを用いるときもある。上記のプラズマノズル41は高温になるためにその内部に冷却水を流して冷却している。すなわち、トーチは水冷トーチとなる。
【0005】
プラズマアーク溶接電源PSは、上記の電極1と被加工物2との間にプラズマアーク3を発生させるための電力を出力すると共に、上記の電極1と上記のプラズマノズル41との間にアークスタート時にパイロットアーク(図示せず)を発生させるための電力を出力する。
【0006】
水温設定回路TRは、冷却水の水温を設定するための水温設定信号Trを出力する。水槽7は、冷却水を貯水し、冷却水をトーチに循環させるポンプ6、冷却水の水温を測定する水温測定回路TWD及び水温を調節する熱交換器HC等を備えている。この水温測定回路TWDは、貯水されている冷却水の水温を測定して、水温測定信号Twdを出力する。誤差増幅回路EAは、上記の水温設定信号Trと上記の水温測定信号Twdとの誤差を増幅して誤差増幅信号Eaを出力する。水温制御回路WTCは、この誤差増幅信号Eaを入力として水温制御信号Wtcを出力する。上記の熱交換器HCは、この水温制御信号Wtcに従って駆動されて、水温を上記の水温設定信号Trの値と等しくなるよう制御する。上記のポンプ6は、冷却水を走路61によってトーチに送り、復路62によってトーチから戻す。
【0007】
上記においては、水槽7が熱交換器HC等の水温調節機能を有している場合を例示したが、冷却ファンによって水温を冷却するだけのものも使用されている。このような場合には、水温は所定値に制御されることはなく単に冷却されるだけである。TIG溶接、MAG/MIG溶接に使用される水冷トーチにはこの冷却ファンによる方式が用いられることも多い。これに対して、プラズマアーク溶接、プラズマアーク切断に使用される水冷トーチは非常に高温になるために、図5で上述したように、水温を調節して所定値に制御する方式が用いられることが多い。
【0008】
ところで、アーク発生部周辺に結露等によって水分が存在すると、アーク熱によって水分が水蒸気になり溶融池に混入することがある。溶融池に水蒸気が混入すると、溶融池が冷却されて凝固するときに外部に完全に放出されずに残存することがある。これがブローホールであり、溶接部の機械的な特性を低下させることになる。したがって、溶接施工において、アーク発生部周辺で結露が発生しないように施工管理を行う必要がある。結露は、主に被加工物表面、プラズマガス及びシールドガスの配管並びにトーチに発生しやすい。
【0009】
アーク加工前に被加工物表面が結露しているとブローホールが発生しやすい。これを防止するために、特許文献1の発明では、溶接トーチの先端部分に、該溶接トーチにて溶接される溶接箇所周辺に向けて、低湿分エアを供給させるノズル部材を設けている。被加工物が結露している場合には、このトーチ部材から低湿分エアを吹きかけて水分を除去する。これによって、被加工物の結露に起因するブローホールを防止する。
【0010】
また、プラズマガス及びシールドガスの配管(ガスホースを含む)に結露が生じると両ガスに水分が混入されて溶融池に入り込みブローホールが発生しやすくなる。これを防止するために、特許文献2の発明では、ガスホースを二重構造にして、内部にプラズマガスを流しその外にシールドガスを流すようにしている。これによって、ガス配管の結露を防止している。
【0011】
【特許文献1】特開2003−311422号公報
【特許文献2】特開2005−288461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
トーチ内部を冷却水がながれる水冷トーチの場合、周温と冷却水との温度差によって結露が発生する。すなわち、周温に対して冷却水温度が相当に低いときには、結露が発生しやすくなる。この結露はアーク加工休止状態に発生する。アーク加工中は、周温と冷却水との温度差があってもトーチが高温になっているために、結露は発生しない。この結露を防止するために、上述した特許文献1の発明を適用すると、低湿分エアが被加工物に当たって跳ね返り間接的にトーチに吹きかけられることになる。この結果、少しは結露した水分が除去されるが、不完全なものである。さらに、特許文献1の発明では、トーチ先端部にエアを吹きかけるためのトーチ部材が必要となるために、トーチ先端部が大型化しそうさ正が悪くなるという問題もある。他方、特許文献2の発明では、トーチの結露は防止することができない。
【0013】
そこで、本発明では、水冷トーチに発生する結露を防止し、かつ、トーチの操作性を悪くすることもないアーク加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、アーク加工用電力を出力するアーク加工電源と、
前記アーク加工用電力によって被加工物をアーク加工するトーチと、
前記トーチ内に冷却水を循環させる循環機と、
を備えたアーク加工装置において、
前記循環機は冷却水の温度調節手段を有し、
アーク加工を行っていないときの冷却水温度である非アーク加工時水温設定信号を出力する水温設定手段を具備し、
アーク加工を行っていないときは前記冷却水温度を前記循環機の冷却水温度調節手段によって前記非アーク加工時水温設定信号の値に調節することを特徴とするアーク加工装置である。
【0015】
第2の発明は、前記アーク加工装置の周温を測定する周温測定手段を具備し、
前記水温設定手段は前記周温測定値に基づいて前記非アーク加工時水温設定信号の値を設定する、ことを特徴とする第1の発明記載のアーク加工装置である。
【0016】
第3の発明は、前記アーク加工装置の周囲の露点を測定する露点測定手段を具備し、
前記水温設定手段は前記露点測定値に基づいて前記非アーク加工時水温設定信号の値を設定する、ことを特徴とする第1の発明記載のアーク加工装置である。
【発明の効果】
【0017】
上記第1の発明によれば、、アーク加工を行っていないときの冷却水の温度を、周温及び湿度から結露が発生しない非アーク加工時水温設定信号の値に制御するので、トーチの結露を防止することができる。このために、結露によるブローホールの発生を抑制することができ、良好な溶接品質を得ることができる。さらに、トーチとしては従来と同一のものが使用できるので、操作性は従来と同様である。
【0018】
さらに、第2の発明によれば、上記の効果に加えて、非アーク加工時水温設定信号の値を周温と略同一の値に自動設定することによって、結露を防止すると共に、非アーク加工時水温設定信号の設定を効率化することができる。
【0019】
さらに、第3の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、非アーク加工時水温設定信号の値を露点から所定値だけ高い値に自動設定することによって、結露を防止すると共に、非アーク加工時水温設定信号の設定を効率化することができる。さらに、非アーク加工時水温設定信号の値は、第2の発明に比べ結露が発生しない境界温度近くまで低く設定することができるので、アーク加工時の水温設定との差を小さくすることができる。このために、アーク加工が開始してから冷却水の温度がアーク加工時の水温設定に迅速に収束するので、トーチの冷却効率が良くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク加工装置(プラズマアーク溶接装置)のブロック図である。同図は上述した図5と対応しており、同一のブロックには同一符号を付してそれらの説明は省略する。以下、図5とは異なる点線で示すブロックについて説明する。
【0022】
アーク加工時水温設定回路TARは、アーク3が発生しているとき(アーク加工時)の冷却水の温度を設定するためのアーク加工時水温設定信号Tarを出力する。プラズマアーク溶接の場合、例えばTar=15℃に設定する。非アーク加工時水温設定回路TBRは、アーク3が発生していないときの冷却水の温度を設定するための非アーク加工時水温設定信号Tbrを出力する。この非アーク加工時水温設定信号Tbrは、周温及び湿度から露点を考慮してトーチに結露が生じない温度に設定する。この設定方法については、図3〜4で詳述する。
【0023】
アーク発生検出回路ADは、アーク3(パイロットアーク及びプラズマアーク)の発生を検出するとHighレベルになるアーク発生信号Adを出力する。水温設定切換回路TCRは、上記のアーク発生信号AdがLowレベル(非アーク加工時)のときは上記の比アーク加工時水温設定信号Tbrを水温設定信号Trとして出力し、Highレベル(アーク加工時)のときは上記のアーク加工時水温設定信号Tarを水温設定信号Trとして出力する。これ以外のブロックについては図5と同一である。すなわち、水槽7に貯水されている冷却水の温度は、熱交換器HCによって制御されて、非アーク加工時は非アーク加工時水温設定信号Tbrの値になり、アーク加工時はアーク加工時水温設定信号Tarの値になる。各所定値に制御された冷却水が、ポンプ6によってトーチに循環される。
【0024】
図2は、上述したアーク加工装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は水温設定信号Trを示し、同図(B)は水温測定信号Twdを示し、同図(C)はアーク発生信号Adを示す。以下、同図を参照して説明する。
【0025】
時刻t1においてアーク加工装置に電源が供給されたときにはアークはまだ発生していないので同図(C)に示すように、アーク発生信号AdはLowレベルとなる。このために、同図(A)に示すように、水温設定信号Trは非アーク加工時水温設定信号Tbrとなり、同図(B)に示すように、水温測定信号Twd(貯水されている冷却水の温度は)は温度制御されていない水温から非アーク加工時水温設定信号Tbrの値に制御されるこの非アーク加工時水温設定信号Tbrは、上述したように、アーク加工装置周辺の周温及び湿度に基づいてトーチが結露しない値に設定する。。
【0026】
時刻t2において、同図(C)に示すように、アーク加工が開始されてアーク発生信号AdがHighレベルになると、同図(A)に示すように、水温設定信号Trはアーク加工時水温設定信号Tarになる。このために、同図(B)に示すように、水温測定信号Twdは、アーク加工時水温設定信号Tarに制御される。このアーク加工時水温設定信号Tarは、トーチを冷却するのに適した温度(例えば15℃)に設定される。
【0027】
時刻t3において、同図(C)に示すように、アーク加工が終了してアーク発生信号Adが再びLowレベルになると、上述した時刻t1〜t2の期間と同様の動作となる。このために、水温測定信号Twdは、非アーク加工時水温設定信号Tbrに制御されるので、トーチの結露を防止することができる。
【0028】
上述した実施の形態1によれば、アーク加工を行っていないときの冷却水の温度を、周温及び湿度から結露が発生しない非アーク加工時水温設定信号の値に制御するので、トーチの結露を防止することができる。このために、結露によるブローホールの発生を抑制することができ、良好な溶接品質を得ることができる。さらに、トーチとしては従来のものが使用できるので、操作性は従来と同様である。
【0029】
[実施の形態2]
図3は、図1で上述した非アーク加工時水温設定回路TBRのより詳細なブロック図の一例である。本ブロックでは、非アーク加工時水温設定信号Tbrの値を周温に自動設定するものである。以下、同図を参照して説明する。
【0030】
周温測定回路TADは、アーク加工装置の周辺の温度(周温)を測定して周温測定信号Tadを出力する。設定調整回路TBCは、この周温測定信号Tadの値に基づいて微調整(オフセット)して非アーク加工時水温設定信号Tbrを出力する。トーチを流れる冷却水の温度が略集温と同じであれば結露は発生しない。
【0031】
上述した実施の形態2によれば、実施の形態1の効果に加えて、非アーク加工時水温設定信号の値を周温と略同一の値に自動設定することによって、結露を防止すると共に、非アーク加工時水温設定信号の設定を効率化することができる。
【0032】
[実施の形態3]
図4は、図1で上述した非アーク加工時水温設定回路TBRのより詳細なブロック図の一例である。本ブロックでは、非アーク加工時水温設定信号Tbrの値を露点から所定値だけ高い値に自動設定するものである。以下、同図を参照して説明する。
【0033】
周温測定回路TADは、アーク加工装置の周辺の温度(周温)を測定して周温測定信号Tadを出力する。湿度測定回路SADは、アーク加工装置の周辺の湿度を測定して湿度測定信号Sadを出力する。露点算出回路RCは、この周温測定信号Tad及び湿度測定信号Sadの値に基づいて露点を算出して露点算出信号Rcを出力する。第2設定調整回路TBCは、この露点算出信号Rcの値から所定値だけ高い値に設定した非アーク加工時水温設定信号Tbrを出力する。トーチを流れる冷却水の温度が露点と同一であるときが結露が発生しない境界温度となるので、冷却水の温度を露点から所定値だけ高い温度に制御すれば結露は発生しない。
【0034】
上述した実施の形態3によれば、実施の形態1の効果に加えて、非アーク加工時水温設定信号の値を露点から所定値だけ高い値に自動設定することによって、結露を防止すると共に、非アーク加工時水温設定信号の設定を効率化することができる。さらに、非アーク加工時水温設定信号の値は、実施の形態2に比べ結露が発生しない境界温度近くまで低く設定することができるので、アーク加工時水温設定信号の値との差を小さくすることができる。このために、アーク加工が開始してから冷却水の温度がアーク加工時水温設定信号の値に迅速に収束するので、トーチの冷却効率が良くなる。
【0035】
上述した実施の形態1〜3は、プラズマアーク溶接装置の場合を例示したが、水冷トーチを用いるプラズマアーク切断装置、TIG溶接装置及びMAG/MIG溶接装置にも同様に適用することができる。また、上述した実施の形態1〜3においては、アーク加工を行っているときにも冷却水の温度を制御する場合を例示したが、アーク加工時は冷却ファン等によって冷却するだけでも良い。また、熱交換器HCの代わりにヒーターを使用して水温を上昇させても良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態1に係るアーク加工装置(プラズマアーク溶接装置)のブロック図である。
【図2】図1のアーク加工装置における各信号のタイミングチャートである。
【図3】図1に示す非アーク加工時水温設定回路TBRのより詳細なブロック図の一例である。
【図4】図1に示す非アーク加工時水温設定回路TBRのより詳細なブロック図の一例である。
【図5】従来技術のアーク加工装置(プラズマアーク溶接装置)のブロック図である。
【符号の説明】
【0037】
1 電極
2 被加工物
3 アーク
6 ポンプ
7 水槽
41 プラズマノズル
42 シールドノズル
51 プラズマガス
52 シールドガス
61 走路
62 復路
AD アーク発生検出回路
Ad アーク発生信号
EA 誤差増幅回路
Ea 誤差増幅信号
HC 熱交換器
PS プラズマアーク溶接電源
RC 露点算出回路
Rc 露点算出信号
SAD 湿度測定回路
Sad 湿度測定信号
TAD 周温測定回路
Tad 周温測定信号
TAR アーク加工時水温設定回路
Tar アーク加工時水温設定信号
TBC 設定調整回路
TBC2 第2設定調整回路
TBR 非アーク加工時水温設定回路
Tbr 非アーク加工時水温設定信号
TCR 水温設定切換回路
TR 水温設定回路
Tr 水温設定信号
TWD 水温測定回路
Twd 水温測定信号
WTC 水温制御回路
Wtc 水温制御信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク加工用電力を出力するアーク加工電源と、
前記アーク加工用電力によって被加工物をアーク加工するトーチと、
前記トーチ内に冷却水を循環させる循環機と、
を備えたアーク加工装置において、
前記循環機は冷却水の温度調節手段を有し、
アーク加工を行っていないときの冷却水温度である非アーク加工時水温設定信号を出力する水温設定手段を具備し、
アーク加工を行っていないときは前記冷却水温度を前記循環機の冷却水温度調節手段によって前記非アーク加工時水温設定信号の値に調節することを特徴とするアーク加工装置。
【請求項2】
前記アーク加工装置の周温を測定する周温測定手段を具備し、
前記水温設定手段は前記周温測定値に基づいて前記非アーク加工時水温設定信号の値を設定する、ことを特徴とする請求項1記載のアーク加工装置。
【請求項3】
前記アーク加工装置の周囲の露点を測定する露点測定手段を具備し、
前記水温設定手段は前記露点測定値に基づいて前記非アーク加工時水温設定信号の値を設定する、ことを特徴とする請求項1記載のアーク加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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