アーク式蒸発源
【課題】ターゲット表面における磁力線の傾きを、垂直となるように又はカソード表面の外周から中心側(内側)に向かう方向となるように制御されたアーク式蒸発源を提供する。
【解決手段】本発明のアーク式蒸発源1は、ターゲット2の外周を取り囲んでいて磁化方向がターゲット2の前面と平行となる方向に沿うように配置されたリング状の外周磁石3と、磁化方向がターゲット2の前面と直交する方向に沿うようにターゲットの背面側に配置された背面磁石4と、を備え、リング状の外周磁石3の径内側の磁極と背面磁石4のターゲット2側の磁極とが互いに同じ極性であることを特徴とする。
【解決手段】本発明のアーク式蒸発源1は、ターゲット2の外周を取り囲んでいて磁化方向がターゲット2の前面と平行となる方向に沿うように配置されたリング状の外周磁石3と、磁化方向がターゲット2の前面と直交する方向に沿うようにターゲットの背面側に配置された背面磁石4と、を備え、リング状の外周磁石3の径内側の磁極と背面磁石4のターゲット2側の磁極とが互いに同じ極性であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品等の耐摩耗性などの向上のために用いられる、窒化物及び酸化物などのセラミック膜、非晶質炭素膜等の薄膜を形成する成膜装置のアーク式蒸発源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐摩耗性、摺動特性及び保護機能の向上などの目的で、機械部品、切削工具、摺動部品などの基材の表面に薄膜をコーティングする技術として、アークイオンプレーティング法、スパッタ法などの物理蒸着法が広く知られており、アークイオンプレーティング法においては、カソード放電型アーク式蒸発源が用いられている。
カソード放電型アーク式蒸発源は、カソードであるターゲットの表面にアーク放電を発生させ、ターゲットを構成する物質を瞬時に溶解して蒸発させ、イオン化されたその物質を被処理物である基材の表面に引き込むことで薄膜を形成している。このアーク式蒸発源は、蒸発速度が速く、蒸発した物質のイオン化率が高いことから、成膜時には基材にバイアスを印加することで緻密な皮膜を形成できる。このため、切削工具などに耐摩耗性皮膜を形成する目的で産業的に用いられている。
【0003】
しかしながら、カソード(ターゲット)とアノードの間で生じるアーク放電において、カソード側の電子放出点(アークスポット)を中心としてターゲットが蒸発する際に、アークスポット近傍から溶融した蒸発前のターゲットが放出されることがある。この溶融ターゲットの被処理体への付着は、薄膜の面粗度を低下させる原因となる。
アークスポットから放出される溶融ターゲット物質(マクロパーティクル)の量は、アークスポットが高速で移動すると抑制される傾向にあり、アークスポットの移動速度はターゲット表面に印加された磁界に影響されることが知られている。
【0004】
また、アーク放電により蒸発するターゲット原子はアークプラズマ中において高度に電離、イオン化することが知られており、ターゲットから基材に向かうイオンの軌跡はターゲットと基材との間の磁界に影響されるなどの問題がある。
このような問題を解消するために、ターゲット表面に磁界を印加し、アークスポットの移動を制御する次のような技術が提案されている。
【0005】
特許文献1には、ターゲットの周囲に、リング状の磁場発生源を設け、ターゲット表面に垂直な磁場を印加する真空アーク蒸発源が開示されている。また、特許文献2には、カソードの背面に磁石を配置したアーク式蒸発源が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−269634号公報
【特許文献2】特開平08−199346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の真空アーク蒸発源によれば、ターゲット周辺部からのみターゲット表面に磁場を印加しているために、ターゲット表面の中心付近では磁場が弱くなる。このように磁場が弱くなった中心付近で放電する場合に、パーティクルが多く放出される。
また、特許文献2に開示のアーク式蒸発源によれば、カソード背面の磁石によってカソード表面に強い磁場を印加することはできるが、磁力線がカソード表面の中心から外周(
外側)に向かう方向に伸びている(発散している)。カソード表面に垂直磁場が印加された状況では、アークスポットは磁力線が倒れる方向に移動する傾向にあるので、放電時にアークスポットが外周部へと移動して放電が不安定になると共に、当該外周部のみで局所的な放電が生じてしまう。また、ターゲットからの磁力線が基材方向にのびていないことから、イオン化されたターゲット物質を効率的に基材方向に誘導することが出来ない。
【0008】
前述した問題に鑑み、本発明は、ターゲット表面における磁力線の傾きを、垂直となるように、又はカソード表面の外周から中心(内側)に向かう方向となるように制御可能なアーク式蒸発源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、以下の技術的手段を採用した。
本発明に係るアーク式蒸発源は、ターゲットの外周を取り囲んでいて磁化方向が前記ターゲットの前面と平行となる方向に沿うように配置されたリング状の外周磁石と、磁化方向が前記ターゲットの前面と直交する方向に沿うように前記ターゲットの背面側に配置された背面磁石と、を備え、前記リング状の外周磁石の径内側の磁極と前記背面磁石の前記ターゲット側の磁極とが互いに同じ極性であることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記外周磁石は、当該外周磁石の径方向から見た投影が、前記ターゲットの径方向から見た投影と重なるように配置されているとよい。
なお好ましくは、前記外周磁石は、前端部と後端部の中間位置が、前記ターゲットの前面と背面の中間位置よりも後方となるように配置されているとよい。
さらに好ましくは、前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石及び前記外周磁石は永久磁石であるとよい。
【0011】
また好ましくは、前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石は電磁コイルからなり、かつ前記外周磁石は永久磁石であるとよい。
ここで好ましくは、前記ターゲットの前方には、前記背面磁石と同一方向の磁場を発生するリング状の磁場発生機構が備えられ、前記リング状の磁場発生機構は、前記ターゲットの前面を通過した磁力線をリング内に通過させるとよい。
【0012】
なお好ましくは、前記磁場発生機構は、電磁コイルからなるとよい。また好ましくは、前記ターゲットの前面における磁場が、100ガウス以上であるとよい。
ここで本発明に係るアーク式蒸発源について、好ましくは、前記ターゲットの前方には、前記背面磁石と同一方向の磁場を発生するリング状の磁場発生機構が備えられ、前記リング状の磁場発生機構は、前記ターゲットの前面を通過した磁力線をリング内に通過させるように配置され、前記外周磁石は、前記ターゲットの背面よりも後方に配置されているとよい。
【0013】
好ましくは、前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石及び前記外周磁石は永久磁石であるとよい。
また好ましくは、前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石は電磁コイルからなり、かつ前記外周磁石は永久磁石であるとよい。
なお好ましくは、前記磁場発生機構は、電磁コイルからなるとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、ターゲット表面における磁力線の傾きを、垂直となるように、又はカソード表面の外周から中心側(内側)に向かう方向となるように制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係るアーク式蒸発源を備えた成膜装置の概略構成を示す側面図であり、(b)は、成膜装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るアーク式蒸発源の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るアーク式蒸発源の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係るアーク式蒸発源の概略構成を示す図である。
【図5】従来例によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【図6】実施例1によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【図7】実施例2によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【図8】実施例3によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【図9】実施例2の変形例によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【図10】実施例2の他の変形例によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【図11】実施例3の変形例によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【図12】実施例3の他の変形例によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づき説明する。
[第1実施形態]
図1及び図2を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るアーク式蒸発源1(以下、蒸発源1という)を備えた成膜装置6を示している。
【0017】
成膜装置6は、チャンバ11を備え、このチャンバ11内には被処理物である基材7を支持する回転台12と、基材7に向けて取り付けられた蒸発源1とが配備されている。チャンバ11には、当該チャンバ11内へ反応ガスを導入するガス導入口13と、チャンバ11内から反応ガスを排出するガス排気口14とが設けられている。
加えて、成膜装置6は、後述する蒸発源1のターゲット2に負のバイアスをかけるアーク電源15と、基材7に負のバイアスをかけるバイアス電源16とが設けられ、両電源15、16の正極側はグランド18に接地されている。
【0018】
図1に示すように、蒸発源1は、蒸発面が基材7に向くように配置された所定の厚みを有する円板状(以下、「円板状」とは所定の高さを有する円柱形状も含む)のターゲット2と、ターゲット2の近傍に配備された磁界形成手段8(外周磁石3と背面磁石4から構成される)を備えている。なお、本実施形態の場合には、チャンバ11がアノードとして作用する。このような構成によって、蒸発源1は、カソード放電型のアーク式蒸発源として機能する。
【0019】
図1及び図2を参照し、成膜装置6に備えられた蒸発源1の構成について、以下に説明する。図2は、本実施形態による蒸発源1の概略構成を示す図である。
蒸発源1は、上述したように、所定の厚みを有する円板状のターゲット2と、ターゲット2の近傍に配備された磁界形成手段8とから構成されている。
なお、以下の説明において、ターゲット2の蒸発面となる基材7側(基材方向)を向く面を「前面」、その反対側(基材と反対方向)を向く面を「背面」とする(図1及び図2参照)。
【0020】
ターゲット2は、基材7上に形成しようとする薄膜に応じて選択された材料で構成されている。その材料としては、例えば、クロム(Cr)、チタン(Ti)、及びチタンアルミ(TiAl)などの金属材料や炭素(C)などのイオン化可能な材料がある。
磁界形成手段8は、ターゲット2の外周を取り囲むように配置されたリング状(環状乃至はドーナツ状)の外周磁石3と、ターゲット2の背面側に配置された背面磁石4とを有している。これら外周磁石3及び背面磁石4は、保磁力の高いネオジム磁石により形成された永久磁石によって構成されている。
【0021】
外周磁石3は、上述のとおりリング体であって軸芯方向に所定の厚みを有している。外周磁石3の厚みは、ターゲット2の厚みとほぼ同じであるか若干小さい。
このようなリング状の外周磁石3の外観は、互いに平行な2つの円環状の面(円環面)と、当該2つの円環面を軸心方向につなぐ2つの周面とからなっている。この2つの周面は、円環面の内周側(径内側)に形成される内周面と、円環面の外周側(径外側)に形成される外周面である。これら内周面と外周面の幅は、すなわち外周磁石3の厚みである。
【0022】
図2に示すように、外周磁石3は、内周面がN極となり、外周面がS極となるように磁化されている。なお、図中でS極からN極に向かう矢印が示されているが、以降、この矢印の方向を磁化方向と呼ぶ。本実施形態の外周磁石3は、この磁化方向がターゲット2の前面と平行となる方向、すなわち磁化方向がターゲット2を向くように配備されている。
外周磁石3は、リング状あるいは環状の一体形状をなすものでも良いし、円柱状あるいは直方体状の磁石をその磁化方向がターゲット2の表面と水平方向になるように、リング状あるいは環状に並べたものでも良い。
【0023】
外周磁石3は、ターゲット2の外周を取り囲むように配置されており、このような配置においてターゲット2と同心軸状となっている。このとき、外周磁石3は、ターゲット2の厚みの範囲から出ないように配置される。よって、外周磁石3の径方向から見た投影がターゲット2の径方向から見た投影と重なるように配置されている。すなわち、外周磁石3は、ターゲット2の蒸発面と平行な方向に外周磁石3とターゲット2とを投影したときに形成される影が互いに重なると共に、外周磁石3の影がターゲット2の影に完全に含まれるように配置されている。
【0024】
このように、外周磁石3は、前面側の円環面である前端部及び/又は後面側の円環面である後端部が、ターゲット2の前面より背面側(後方)且つ背面より前面側(前方)に配置されるように、蒸発源1に備えられている。
また、本実施形態において、外周磁石3は、その前端部と後端部の中間位置が、ターゲット2の前面と背面の中間位置と一致するように配置されている。
【0025】
背面磁石4は、磁心となる非リング状の磁気コア5と、磁気コア5を挟む円板状の円板背面磁石4A、4Bとから構成されている。円板背面磁石4A、4Bも、磁気コア5と同様に非リング状である。ここで、「非リング状」とは、ドーナツ様に径方向内部に孔が空いている環状ではなく、円板状や円柱状等の中実な形状を指す。すなわち、「非リング状」とは、表面から外方へ向くいずれの法線も互いに交わらない形状をいう。これまでの知見から、基材方向に効率的に磁力線を延ばすためには背面の磁石は厚みが必要であることが分かっており、厚みを稼ぐために2枚の磁石である円板背面磁石4A、4Bを離して配置し、かつその間を磁性体である磁気コア5で埋めることで磁力の低下を防いでいる。
【0026】
図2に示すように、円板背面磁石4A、4Bは、一方の円板面がN極となり、他方の円板面がS極となるように磁化されている。円板背面磁石4A、4Bは、円板背面磁石4AのS極側の面と円板背面磁石4BのN極側の面とで磁気コア5を挟んでおり、互いの磁化方向を同じ方向に向けている。
このように構成された背面磁石4は、その磁化方向がターゲット2の軸心に沿うものであってターゲット2の蒸発面に対して垂直となるように、且つ円板背面磁石4AのN極側がターゲット2に向くように、ターゲット2の背面側に配置される。このとき、背面磁石4は、軸心がターゲット2の軸心とほぼ一致するように配置される。
【0027】
蒸発源1は、ターゲット2に対して、上述のように外周磁石3と背面磁石4を配置することで構成される。このとき、外周磁石3の磁化方向はターゲット2の前面と平行となる方向、すなわちターゲット2を向くようになっている。また、外周磁石3の内周面である径内側の磁極はN極であり、背面磁石4のターゲット2側の磁極もN極であって、外周磁石3の径内側の磁極と背面磁石4のターゲット2側の磁極とは互いに同じ極性である。
【0028】
このように、外周磁石3と背面磁石4が、ターゲット2に同じ極性を向けることで、外周磁石3によって形成される磁界と背面磁石4によって形成される磁界とを組合せることができる。これにより、ターゲット2の蒸発面を通過する磁力線の方向を蒸発面に対してほぼ垂直とすることができ、且つ磁力線を基材7の方向に誘導することが可能となるという効果が得られる。
【0029】
なお、上述の通り、外周磁石3と背面磁石4は同じ磁極をターゲット2に向けていればよいので、蒸発源1は、外周磁石3と背面磁石4が互いにS極をターゲット2に向けるように構成されていてもよい。
次に、蒸発源1を用いた成膜装置6における成膜の方法を説明する。
まず、チャンバ11を真空引きして真空にした後、アルゴンガス(Ar)等の不活性ガスをガス導入口13より導入し、ターゲット2及び基材7上の酸化物等の不純物をスパッタによって除去する。不純物の除去後、チャンバ11内を再び真空にして、真空となったチャンバ11内にガス導入口13より反応ガスを導入する。
【0030】
この状態でチャンバ11に設置されたターゲット2上でアーク放電を発生させると、ターゲット2を構成する物質がプラズマ化して反応ガスと反応する。これによって、回転台12に置かれた基材7上に窒化膜、酸化膜、炭化膜、炭窒化膜、或いは非晶質炭素膜等を成膜することができる。
なお、反応ガスとしては、窒素ガス(N2)や酸素ガス(O2)、またはメタン(CH4)などの炭化水素ガスを用途に合わせて選択すればよく、チャンバ11内の反応ガスの圧力は1〜7Pa程度とすればよい。また、成膜時、ターゲット2は、100〜200Aのアーク電流を流すことで放電させると共に、10〜30Vの負電圧をアーク電源15により印加するとよい。さらに、基材7には10〜200Vの負電圧をバイアス電源16により印加するとよい。
【0031】
また、ターゲット2の前面における磁場が100ガウス以上となるように、外周磁石3及び背面磁石4を構成及び配置すると好ましい。これにより、成膜を確実に行うことができる。ターゲット2の前面における磁場が150ガウスであれば、より好ましい。
なお、第1実施形態の蒸発源1を用いて成膜を行っている場合における磁力線の分布状況は、後述の実施例で精説する。
[第2実施形態]
図3を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
【0032】
図3は、本実施形態による成膜装置6で用いられるアーク式蒸発源1の概略構成を示す図である。
本実施形態におけるアーク式蒸発源1は、第1実施形態におけるアーク式蒸発源1と同様に、所定の厚みを有する円板状のターゲット2と、ターゲット2の近傍に配備された磁界形成手段8とから構成されている。磁界形成手段8は、第1実施形態と同様に、ターゲット2の外周を取り囲むように配置されたリング状(環状)の外周磁石3と、ターゲット2の背面側に配置された背面磁石4とを有している。
【0033】
このように、本実施形態における蒸発源1は、第1実施形態におけるアーク式蒸発源1と同様の構成を有しているが、外周磁石3の配置だけが異なっている。
以下に、本実施形態における蒸発源1の外周磁石3の配置について説明する。
図3を参照して、ターゲット2に対する外周磁石3の位置に注目すると、外周磁石3が、ターゲット2に対して背面磁石4側(背面側)に位置をずらして配置されていることがわかる。このように外周磁石3の位置がずれることで、外周磁石3の径方向から見た投影の前面側が、ターゲット2の径方向から見た投影の背面側と重なる。すなわち、外周磁石3は、ターゲット2の蒸発面と平行な方向に外周磁石3とターゲット2とを投影したときに形成される影が互いに部分的に重なると共に、外周磁石3の影の前面側がターゲット2の影の背面側に重なるように配置される。
【0034】
このとき、図3の外周磁石3において矢印が示された外周磁石3の厚み方向の中央位置つまり、外周磁石3の前端部と後端部の中間位置は、ターゲット2の厚み方向に沿った幅の範囲内にあり、ターゲット2の背面よりも前面側(前方)に配置されている。
つまり、本実施形態における外周磁石3は、前端部がターゲット2の背面よりも前方に配置されるように、且つ後端部がターゲット2の背面よりも後方に配置されるように蒸発源1に備えられている。さらに詳しく述べると、本実施形態における外周磁石3は、前端部と後端部の中間位置が、ターゲット2の前面と背面の中間位置よりも後面側(後方)となるように配置され、蒸発源1に備えられている。
【0035】
このように、外周磁石3をターゲット2に対して背面磁石4側にずらして配置すると、第1実施形態における効果に加えて、ターゲット2の消費によって蒸発面の位置が変化した場合でも、蒸発面での磁場の均一性を良好な状態で保つことができるようになる。
以上に示した外周磁石3の配置以外は、第1実施形態とほぼ同様であるので説明を省略する。
【0036】
なお、第2実施形態の蒸発源1を用いて成膜を行っている場合における磁力線の分布状況は、後述の実施例で精説する。
[第3実施形態]
図4を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。
図4は、本実施形態による成膜装置6で用いられるアーク式蒸発源1の概略構成を示す図である。
【0037】
本実施形態におけるアーク式蒸発源1は、第1実施形態におけるアーク式蒸発源1と比較して、磁場発生機構としての電磁コイル9を有している点が異なっている。
他の構成、例えば、所定の厚みを有する円板状のターゲット2、ターゲット2の外周を取り囲むように配置されたリング状の外周磁石3、ターゲット2の背面側に配置された背面磁石4などは、第1実施形態と略同様である。
【0038】
それ故、ここでは蒸発源1の電磁コイル9の構成及び配置について説明する。
電磁コイル9は、背面磁石4と同一方向の磁場を発生するリング状のソレノイドであり、例えば、巻数が数百回程度(例えば410回)となっていて、ターゲット2の径よりも若干大きな径のコイルとなるように巻回されている。本実施形態では、2000A・T〜5000A・T程度の電流で磁場を発生させる。
【0039】
図4に示すように、この電磁コイル9はターゲット2の前面側に設けられ、径方向から見た電磁コイル9の投影が、ターゲット2の投影と重ならないものとなっている。このとき、電磁コイル9は、ターゲット2と同心軸状に並ぶように配置される。このように配置されたターゲット2及び電磁コイル9を背面磁石4側から及び基材7側から見ると、円環状の電磁コイル9の内側に、円形のターゲット2がほぼ同心に入り込んだ状態となっている。
【0040】
このように配置した電磁コイル9に電流を流し、電磁コイル9の内側にターゲット2側から基材7側に向かう磁場を発生させる。このとき、ターゲット2の前面を通過した磁力線を電磁コイル9内に通過させ得るようになっている。
このように、電磁コイル9を設けると、第1実施形態における効果に加えて、ターゲット2の蒸発面を通過した磁力線の拡散を抑制して基材7の表面まで高い磁力線密度を維持することができる。また、上述のように、ターゲット2と基材7の間に電磁コイル9を設けると、ターゲット2から基材7へのイオンの搬送効率を向上させる効果も期待できる。
【0041】
なお、第3実施形態の蒸発源1を用いて成膜を行っている場合における磁力線の分布状況は、後述の実施例で精説する。
【実施例】
【0042】
以上、第1実施形態〜第3実施形態に亘って説明したアーク式蒸発源1は、外周磁石3の配置や、電磁コイル9の有無などがそれぞれ異なるので、発生する磁力線の分布もそれぞれ異なっている。
図5〜図8を参照しながら、第1実施形態〜第3実施形態のアーク式蒸発源1が発生する磁力線の分布について、実施例1〜実施例3として説明する。
【0043】
なお、図5〜図8の上段に符号(a)で示される磁力線分布図は、背面磁石4から基材7の表面までの磁力線分布を示している。これら図5(a)〜図8(a)の磁力線分布図において、右端は基材7の表面の位置を示している。図5〜図8の下段に符号(b)で示される磁力線分布図は、それぞれ、図5(a)〜図8(a)における、ターゲット2周辺の拡大図である。
【0044】
以下に説明する従来例及び各実施例での、各種実験条件を示す。例えば、ターゲット2の寸法は、(100mmφ×16mm厚み)である。円板背面磁石4A、4Bの寸法は、各々(100mmφ×4mm厚み)である。磁気コア5の寸法は、(100mmφ×30mm厚み)である。外周磁石3の寸法は、(内径150mmφ、外径170mm、厚み10mm)である。ターゲット2の表面での磁界強度は、150ガウス以上である。
[従来例]
まず理解を深めるため、図5を参照して、従来例、すなわち背面磁石4だけを用いたときの磁力線分布について説明する。
【0045】
図5(a)を参照すると、背面磁石4から出た磁力線は、背面磁石4の外周方向に傾きながら発散しつつ基材7の表面に向かっている。
図5(b)を参照すると、ターゲット2の蒸発面を通過する磁力線は、ターゲット2の外周方向に傾いて、ターゲット2の背面から前面に向かって拡散している。
[実施例1]
図6を参照して、第1実施形態によるアーク式蒸発源1を用いたときの磁力線分布について説明する。
【0046】
図6(a)を参照すると、背面磁石4から出た磁力線は、外周磁石3の位置で拡散が抑制され、ターゲット2を通過する磁力線の密度は、特にターゲット2の中心付近において従来例よりも高くなっている。
図6(b)を参照すると、ターゲット2の蒸発面を通過する磁力線は、ターゲット2の蒸発面に対してほぼ垂直(言い換えれば、ターゲット法線に対して略平行)となっている。
[実施例2]
図7を参照して、第2実施形態によるアーク式蒸発源1を用いたときの磁力線分布について説明する。
【0047】
図7(a)を参照すると、背面磁石4から出た磁力線は、外周磁石3の位置で拡散が抑制され、ターゲット2を通過する磁力線の密度は、特にターゲット2の中心付近において従来例よりも高くなっている。
図7(b)を参照すると、ターゲット2の蒸発面を通過する磁力線は、ターゲット2の蒸発面に対してほぼ垂直(言い換えれば、ターゲット法線に対してほぼ平行)となっている。また、ターゲット2の厚み方向の中央から背面側について、本実施例における外周部における磁力線を従来例と比べると、本実施例の方がターゲット法線に対して平行に近いと言える。よって、本実施例は、従来例と比べてターゲット2内の磁力線密度がより均一となっていると言える。
【0048】
図9に、本実施例に対する変形例の磁力線分布を示す。図9に示すアーク式蒸発源は、第2実施形態による図7のアーク式蒸発源1と同様に、ターゲット2、外周磁石3、及び背面磁石4を含んで構成されている。図9のアーク式蒸発源では、図7のアーク式蒸発源1とは異なって、外周磁石3の配置がターゲット2の背面よりも後方となっている。このとき、外周磁石3の前端部はターゲット2の背面よりも5mm〜10mm程度後方である。
【0049】
図9の磁力線分布図では、図7と比較して、ターゲット2の前面(蒸発面)における磁力線が、当該蒸発面に対してターゲット2の径外方向により傾いて拡散していることが分かる。この場合、アーク放電がターゲット2の外周部に偏ってしまうので好ましくない。
つまり、ターゲット2、外周磁石3、及び背面磁石4を用いたアーク式蒸発源の構成において、外周磁石3の配置がターゲット2の背面よりも後方となっていることは、好ましくないといえる。
【0050】
図10に、本実施例に対する他の変形例の磁力線分布を示す。図10に示すアーク式蒸発源は、第2実施形態による図7のアーク式蒸発源1と同様に、ターゲット2及び外周磁石3を有しているが、永久磁石で構成された背面磁石4の代わりに、電磁コイル9と同様の構成を有するリング状ソレノイドである電磁コイル10を用いている。図10のアーク式蒸発源におけるターゲット2に対する外周磁石3の位置は、図7のアーク式蒸発源1における外周磁石3の位置とほぼ同じである。電磁コイル10は、図7における背面磁石4とほぼ同じ位置で、ターゲット2とほぼ同軸に配置されている。電磁コイル10の内径は約100mm、外径は約200mm、厚みは約50mmである。電磁コイル10は、ターゲット2から約64mm後方に配置されている。なお、電磁コイル10の磁力は、ターゲット2の前面における磁束密度が、背面磁石4を用いた場合とほぼ同じとなるように調整されている。
【0051】
図10の磁力線分布図では、図7の磁力線分布図とほぼ等価な磁場が形成されていることが分かる。つまり、永久磁石で構成された背面磁石4の代わりに電磁コイル10を用いても、ほぼ等価な磁場を形成することができるといえる。
[実施例3]
図8を参照して、第3実施形態によるアーク式蒸発源1を用いたときの磁力線分布について説明する。
【0052】
図8(a)を参照すると、背面磁石4から出た磁力線は、外周磁石3の位置で拡散が抑制され、ターゲット2を通過する磁力線の密度は、特にターゲット2の中心付近において従来例よりも高くなっている。ターゲット2の蒸発面を通過して拡散しつつあった磁力線は、電磁コイル9の位置で拡散が抑制されて、再びターゲット法線に対して略平行となる。
【0053】
図8(b)を参照すると、ターゲット2の蒸発面を通過する磁力線は、ターゲット2の蒸発面に対してほぼ垂直、又はターゲット2の中心方向に向かって傾いている。これによって、ターゲット2の厚み方向の中央から背面側について、本実施例における磁力線は、従来例ならびに実施例1,2と比べて、最もターゲット法線に対して平行に近くなっていると言える。
【0054】
図11に、本実施例に対する変形例の磁力線分布を示す。図11に示すアーク式蒸発源は、第3実施形態による図8のアーク式蒸発源1と同様に、ターゲット2、外周磁石3、背面磁石4、及び電磁コイル9を含んで構成されている。図11のアーク式蒸発源では、図8のアーク式蒸発源1とは異なって、外周磁石3の配置が、ターゲット2の背面よりも後方となっている。このとき、外周磁石3の前端部はターゲット2の背面よりも5mm〜10mm程度後方である。
【0055】
図11の磁力線分布図では、図8の磁力線分布図とほぼ等価な磁場が形成されていることが分かる。本変形例において、外周磁石3の配置がターゲット2の背面よりも5mm〜10mm程度後方となっていても、図8の磁力線分布図とほぼ等価な磁場を形成することができるといえる。つまり、本変形例の構成において、図8の磁力線分布図とほぼ等価な磁場を形成しようとした際に許容される外周磁石3の前端部とターゲット2の背面との間隔には、各構成部材の大きさや発する磁力線密度に応じた許容範囲が存在することが分かる。なお、この許容範囲は、ターゲット2の厚みの2倍程度である。
【0056】
図12に、本実施例に対する他の変形例の磁力線分布を示す。図12に示すアーク式蒸発源は、第3実施形態による図8のアーク式蒸発源1と同様に、ターゲット2、外周磁石3、及び電磁コイル9を含んでいるが、永久磁石で構成された背面磁石4の代わりに電磁コイル10を用いている。図12のアーク式蒸発源では、ターゲット2に対する外周磁石3の位置は、図8のアーク式蒸発源1とほぼ同じ位置である。電磁コイル10は、図10における電磁コイル10とほぼ同じ構成を有すると共に、図8の背面磁石4とほぼ同じ位置でターゲット2とほぼ同軸に配置されている。図12において電磁コイル10は、ターゲット2から約64mm後方に配置されている。
【0057】
図12の磁力線分布図では、図8の磁力線分布図とほぼ等価な磁場が形成されていることが分かる。つまり、永久磁石で構成された背面磁石4の代わりに電磁コイル10を用いても、ほぼ等価な磁場を形成することができるといえる。
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、動作条件や測定条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、薄膜を形成する成膜装置のアーク式蒸発源として利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 蒸発源(アーク式蒸発源)
2 ターゲット
3 外周磁石
4 背面磁石
4A 第1の永久磁石(円板背面磁石)
4B 第2の永久磁石(円板背面磁石)
5 磁気コア
6 成膜装置
7 基材
8 磁界形成手段
9,10 電磁コイル
11 真空チャンバ
12 回転台
13 ガス導入口
14 ガス排気口
15 アーク電源
16 バイアス電源
18 グランド
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品等の耐摩耗性などの向上のために用いられる、窒化物及び酸化物などのセラミック膜、非晶質炭素膜等の薄膜を形成する成膜装置のアーク式蒸発源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐摩耗性、摺動特性及び保護機能の向上などの目的で、機械部品、切削工具、摺動部品などの基材の表面に薄膜をコーティングする技術として、アークイオンプレーティング法、スパッタ法などの物理蒸着法が広く知られており、アークイオンプレーティング法においては、カソード放電型アーク式蒸発源が用いられている。
カソード放電型アーク式蒸発源は、カソードであるターゲットの表面にアーク放電を発生させ、ターゲットを構成する物質を瞬時に溶解して蒸発させ、イオン化されたその物質を被処理物である基材の表面に引き込むことで薄膜を形成している。このアーク式蒸発源は、蒸発速度が速く、蒸発した物質のイオン化率が高いことから、成膜時には基材にバイアスを印加することで緻密な皮膜を形成できる。このため、切削工具などに耐摩耗性皮膜を形成する目的で産業的に用いられている。
【0003】
しかしながら、カソード(ターゲット)とアノードの間で生じるアーク放電において、カソード側の電子放出点(アークスポット)を中心としてターゲットが蒸発する際に、アークスポット近傍から溶融した蒸発前のターゲットが放出されることがある。この溶融ターゲットの被処理体への付着は、薄膜の面粗度を低下させる原因となる。
アークスポットから放出される溶融ターゲット物質(マクロパーティクル)の量は、アークスポットが高速で移動すると抑制される傾向にあり、アークスポットの移動速度はターゲット表面に印加された磁界に影響されることが知られている。
【0004】
また、アーク放電により蒸発するターゲット原子はアークプラズマ中において高度に電離、イオン化することが知られており、ターゲットから基材に向かうイオンの軌跡はターゲットと基材との間の磁界に影響されるなどの問題がある。
このような問題を解消するために、ターゲット表面に磁界を印加し、アークスポットの移動を制御する次のような技術が提案されている。
【0005】
特許文献1には、ターゲットの周囲に、リング状の磁場発生源を設け、ターゲット表面に垂直な磁場を印加する真空アーク蒸発源が開示されている。また、特許文献2には、カソードの背面に磁石を配置したアーク式蒸発源が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−269634号公報
【特許文献2】特開平08−199346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の真空アーク蒸発源によれば、ターゲット周辺部からのみターゲット表面に磁場を印加しているために、ターゲット表面の中心付近では磁場が弱くなる。このように磁場が弱くなった中心付近で放電する場合に、パーティクルが多く放出される。
また、特許文献2に開示のアーク式蒸発源によれば、カソード背面の磁石によってカソード表面に強い磁場を印加することはできるが、磁力線がカソード表面の中心から外周(
外側)に向かう方向に伸びている(発散している)。カソード表面に垂直磁場が印加された状況では、アークスポットは磁力線が倒れる方向に移動する傾向にあるので、放電時にアークスポットが外周部へと移動して放電が不安定になると共に、当該外周部のみで局所的な放電が生じてしまう。また、ターゲットからの磁力線が基材方向にのびていないことから、イオン化されたターゲット物質を効率的に基材方向に誘導することが出来ない。
【0008】
前述した問題に鑑み、本発明は、ターゲット表面における磁力線の傾きを、垂直となるように、又はカソード表面の外周から中心(内側)に向かう方向となるように制御可能なアーク式蒸発源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、以下の技術的手段を採用した。
本発明に係るアーク式蒸発源は、ターゲットの外周を取り囲んでいて磁化方向が前記ターゲットの前面と平行となる方向に沿うように配置されたリング状の外周磁石と、磁化方向が前記ターゲットの前面と直交する方向に沿うように前記ターゲットの背面側に配置された背面磁石と、を備え、前記リング状の外周磁石の径内側の磁極と前記背面磁石の前記ターゲット側の磁極とが互いに同じ極性であることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記外周磁石は、当該外周磁石の径方向から見た投影が、前記ターゲットの径方向から見た投影と重なるように配置されているとよい。
なお好ましくは、前記外周磁石は、前端部と後端部の中間位置が、前記ターゲットの前面と背面の中間位置よりも後方となるように配置されているとよい。
さらに好ましくは、前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石及び前記外周磁石は永久磁石であるとよい。
【0011】
また好ましくは、前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石は電磁コイルからなり、かつ前記外周磁石は永久磁石であるとよい。
ここで好ましくは、前記ターゲットの前方には、前記背面磁石と同一方向の磁場を発生するリング状の磁場発生機構が備えられ、前記リング状の磁場発生機構は、前記ターゲットの前面を通過した磁力線をリング内に通過させるとよい。
【0012】
なお好ましくは、前記磁場発生機構は、電磁コイルからなるとよい。また好ましくは、前記ターゲットの前面における磁場が、100ガウス以上であるとよい。
ここで本発明に係るアーク式蒸発源について、好ましくは、前記ターゲットの前方には、前記背面磁石と同一方向の磁場を発生するリング状の磁場発生機構が備えられ、前記リング状の磁場発生機構は、前記ターゲットの前面を通過した磁力線をリング内に通過させるように配置され、前記外周磁石は、前記ターゲットの背面よりも後方に配置されているとよい。
【0013】
好ましくは、前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石及び前記外周磁石は永久磁石であるとよい。
また好ましくは、前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石は電磁コイルからなり、かつ前記外周磁石は永久磁石であるとよい。
なお好ましくは、前記磁場発生機構は、電磁コイルからなるとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、ターゲット表面における磁力線の傾きを、垂直となるように、又はカソード表面の外周から中心側(内側)に向かう方向となるように制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係るアーク式蒸発源を備えた成膜装置の概略構成を示す側面図であり、(b)は、成膜装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るアーク式蒸発源の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るアーク式蒸発源の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係るアーク式蒸発源の概略構成を示す図である。
【図5】従来例によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【図6】実施例1によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【図7】実施例2によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【図8】実施例3によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【図9】実施例2の変形例によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【図10】実施例2の他の変形例によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【図11】実施例3の変形例によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【図12】実施例3の他の変形例によるアーク式蒸発源の磁力線分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づき説明する。
[第1実施形態]
図1及び図2を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るアーク式蒸発源1(以下、蒸発源1という)を備えた成膜装置6を示している。
【0017】
成膜装置6は、チャンバ11を備え、このチャンバ11内には被処理物である基材7を支持する回転台12と、基材7に向けて取り付けられた蒸発源1とが配備されている。チャンバ11には、当該チャンバ11内へ反応ガスを導入するガス導入口13と、チャンバ11内から反応ガスを排出するガス排気口14とが設けられている。
加えて、成膜装置6は、後述する蒸発源1のターゲット2に負のバイアスをかけるアーク電源15と、基材7に負のバイアスをかけるバイアス電源16とが設けられ、両電源15、16の正極側はグランド18に接地されている。
【0018】
図1に示すように、蒸発源1は、蒸発面が基材7に向くように配置された所定の厚みを有する円板状(以下、「円板状」とは所定の高さを有する円柱形状も含む)のターゲット2と、ターゲット2の近傍に配備された磁界形成手段8(外周磁石3と背面磁石4から構成される)を備えている。なお、本実施形態の場合には、チャンバ11がアノードとして作用する。このような構成によって、蒸発源1は、カソード放電型のアーク式蒸発源として機能する。
【0019】
図1及び図2を参照し、成膜装置6に備えられた蒸発源1の構成について、以下に説明する。図2は、本実施形態による蒸発源1の概略構成を示す図である。
蒸発源1は、上述したように、所定の厚みを有する円板状のターゲット2と、ターゲット2の近傍に配備された磁界形成手段8とから構成されている。
なお、以下の説明において、ターゲット2の蒸発面となる基材7側(基材方向)を向く面を「前面」、その反対側(基材と反対方向)を向く面を「背面」とする(図1及び図2参照)。
【0020】
ターゲット2は、基材7上に形成しようとする薄膜に応じて選択された材料で構成されている。その材料としては、例えば、クロム(Cr)、チタン(Ti)、及びチタンアルミ(TiAl)などの金属材料や炭素(C)などのイオン化可能な材料がある。
磁界形成手段8は、ターゲット2の外周を取り囲むように配置されたリング状(環状乃至はドーナツ状)の外周磁石3と、ターゲット2の背面側に配置された背面磁石4とを有している。これら外周磁石3及び背面磁石4は、保磁力の高いネオジム磁石により形成された永久磁石によって構成されている。
【0021】
外周磁石3は、上述のとおりリング体であって軸芯方向に所定の厚みを有している。外周磁石3の厚みは、ターゲット2の厚みとほぼ同じであるか若干小さい。
このようなリング状の外周磁石3の外観は、互いに平行な2つの円環状の面(円環面)と、当該2つの円環面を軸心方向につなぐ2つの周面とからなっている。この2つの周面は、円環面の内周側(径内側)に形成される内周面と、円環面の外周側(径外側)に形成される外周面である。これら内周面と外周面の幅は、すなわち外周磁石3の厚みである。
【0022】
図2に示すように、外周磁石3は、内周面がN極となり、外周面がS極となるように磁化されている。なお、図中でS極からN極に向かう矢印が示されているが、以降、この矢印の方向を磁化方向と呼ぶ。本実施形態の外周磁石3は、この磁化方向がターゲット2の前面と平行となる方向、すなわち磁化方向がターゲット2を向くように配備されている。
外周磁石3は、リング状あるいは環状の一体形状をなすものでも良いし、円柱状あるいは直方体状の磁石をその磁化方向がターゲット2の表面と水平方向になるように、リング状あるいは環状に並べたものでも良い。
【0023】
外周磁石3は、ターゲット2の外周を取り囲むように配置されており、このような配置においてターゲット2と同心軸状となっている。このとき、外周磁石3は、ターゲット2の厚みの範囲から出ないように配置される。よって、外周磁石3の径方向から見た投影がターゲット2の径方向から見た投影と重なるように配置されている。すなわち、外周磁石3は、ターゲット2の蒸発面と平行な方向に外周磁石3とターゲット2とを投影したときに形成される影が互いに重なると共に、外周磁石3の影がターゲット2の影に完全に含まれるように配置されている。
【0024】
このように、外周磁石3は、前面側の円環面である前端部及び/又は後面側の円環面である後端部が、ターゲット2の前面より背面側(後方)且つ背面より前面側(前方)に配置されるように、蒸発源1に備えられている。
また、本実施形態において、外周磁石3は、その前端部と後端部の中間位置が、ターゲット2の前面と背面の中間位置と一致するように配置されている。
【0025】
背面磁石4は、磁心となる非リング状の磁気コア5と、磁気コア5を挟む円板状の円板背面磁石4A、4Bとから構成されている。円板背面磁石4A、4Bも、磁気コア5と同様に非リング状である。ここで、「非リング状」とは、ドーナツ様に径方向内部に孔が空いている環状ではなく、円板状や円柱状等の中実な形状を指す。すなわち、「非リング状」とは、表面から外方へ向くいずれの法線も互いに交わらない形状をいう。これまでの知見から、基材方向に効率的に磁力線を延ばすためには背面の磁石は厚みが必要であることが分かっており、厚みを稼ぐために2枚の磁石である円板背面磁石4A、4Bを離して配置し、かつその間を磁性体である磁気コア5で埋めることで磁力の低下を防いでいる。
【0026】
図2に示すように、円板背面磁石4A、4Bは、一方の円板面がN極となり、他方の円板面がS極となるように磁化されている。円板背面磁石4A、4Bは、円板背面磁石4AのS極側の面と円板背面磁石4BのN極側の面とで磁気コア5を挟んでおり、互いの磁化方向を同じ方向に向けている。
このように構成された背面磁石4は、その磁化方向がターゲット2の軸心に沿うものであってターゲット2の蒸発面に対して垂直となるように、且つ円板背面磁石4AのN極側がターゲット2に向くように、ターゲット2の背面側に配置される。このとき、背面磁石4は、軸心がターゲット2の軸心とほぼ一致するように配置される。
【0027】
蒸発源1は、ターゲット2に対して、上述のように外周磁石3と背面磁石4を配置することで構成される。このとき、外周磁石3の磁化方向はターゲット2の前面と平行となる方向、すなわちターゲット2を向くようになっている。また、外周磁石3の内周面である径内側の磁極はN極であり、背面磁石4のターゲット2側の磁極もN極であって、外周磁石3の径内側の磁極と背面磁石4のターゲット2側の磁極とは互いに同じ極性である。
【0028】
このように、外周磁石3と背面磁石4が、ターゲット2に同じ極性を向けることで、外周磁石3によって形成される磁界と背面磁石4によって形成される磁界とを組合せることができる。これにより、ターゲット2の蒸発面を通過する磁力線の方向を蒸発面に対してほぼ垂直とすることができ、且つ磁力線を基材7の方向に誘導することが可能となるという効果が得られる。
【0029】
なお、上述の通り、外周磁石3と背面磁石4は同じ磁極をターゲット2に向けていればよいので、蒸発源1は、外周磁石3と背面磁石4が互いにS極をターゲット2に向けるように構成されていてもよい。
次に、蒸発源1を用いた成膜装置6における成膜の方法を説明する。
まず、チャンバ11を真空引きして真空にした後、アルゴンガス(Ar)等の不活性ガスをガス導入口13より導入し、ターゲット2及び基材7上の酸化物等の不純物をスパッタによって除去する。不純物の除去後、チャンバ11内を再び真空にして、真空となったチャンバ11内にガス導入口13より反応ガスを導入する。
【0030】
この状態でチャンバ11に設置されたターゲット2上でアーク放電を発生させると、ターゲット2を構成する物質がプラズマ化して反応ガスと反応する。これによって、回転台12に置かれた基材7上に窒化膜、酸化膜、炭化膜、炭窒化膜、或いは非晶質炭素膜等を成膜することができる。
なお、反応ガスとしては、窒素ガス(N2)や酸素ガス(O2)、またはメタン(CH4)などの炭化水素ガスを用途に合わせて選択すればよく、チャンバ11内の反応ガスの圧力は1〜7Pa程度とすればよい。また、成膜時、ターゲット2は、100〜200Aのアーク電流を流すことで放電させると共に、10〜30Vの負電圧をアーク電源15により印加するとよい。さらに、基材7には10〜200Vの負電圧をバイアス電源16により印加するとよい。
【0031】
また、ターゲット2の前面における磁場が100ガウス以上となるように、外周磁石3及び背面磁石4を構成及び配置すると好ましい。これにより、成膜を確実に行うことができる。ターゲット2の前面における磁場が150ガウスであれば、より好ましい。
なお、第1実施形態の蒸発源1を用いて成膜を行っている場合における磁力線の分布状況は、後述の実施例で精説する。
[第2実施形態]
図3を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
【0032】
図3は、本実施形態による成膜装置6で用いられるアーク式蒸発源1の概略構成を示す図である。
本実施形態におけるアーク式蒸発源1は、第1実施形態におけるアーク式蒸発源1と同様に、所定の厚みを有する円板状のターゲット2と、ターゲット2の近傍に配備された磁界形成手段8とから構成されている。磁界形成手段8は、第1実施形態と同様に、ターゲット2の外周を取り囲むように配置されたリング状(環状)の外周磁石3と、ターゲット2の背面側に配置された背面磁石4とを有している。
【0033】
このように、本実施形態における蒸発源1は、第1実施形態におけるアーク式蒸発源1と同様の構成を有しているが、外周磁石3の配置だけが異なっている。
以下に、本実施形態における蒸発源1の外周磁石3の配置について説明する。
図3を参照して、ターゲット2に対する外周磁石3の位置に注目すると、外周磁石3が、ターゲット2に対して背面磁石4側(背面側)に位置をずらして配置されていることがわかる。このように外周磁石3の位置がずれることで、外周磁石3の径方向から見た投影の前面側が、ターゲット2の径方向から見た投影の背面側と重なる。すなわち、外周磁石3は、ターゲット2の蒸発面と平行な方向に外周磁石3とターゲット2とを投影したときに形成される影が互いに部分的に重なると共に、外周磁石3の影の前面側がターゲット2の影の背面側に重なるように配置される。
【0034】
このとき、図3の外周磁石3において矢印が示された外周磁石3の厚み方向の中央位置つまり、外周磁石3の前端部と後端部の中間位置は、ターゲット2の厚み方向に沿った幅の範囲内にあり、ターゲット2の背面よりも前面側(前方)に配置されている。
つまり、本実施形態における外周磁石3は、前端部がターゲット2の背面よりも前方に配置されるように、且つ後端部がターゲット2の背面よりも後方に配置されるように蒸発源1に備えられている。さらに詳しく述べると、本実施形態における外周磁石3は、前端部と後端部の中間位置が、ターゲット2の前面と背面の中間位置よりも後面側(後方)となるように配置され、蒸発源1に備えられている。
【0035】
このように、外周磁石3をターゲット2に対して背面磁石4側にずらして配置すると、第1実施形態における効果に加えて、ターゲット2の消費によって蒸発面の位置が変化した場合でも、蒸発面での磁場の均一性を良好な状態で保つことができるようになる。
以上に示した外周磁石3の配置以外は、第1実施形態とほぼ同様であるので説明を省略する。
【0036】
なお、第2実施形態の蒸発源1を用いて成膜を行っている場合における磁力線の分布状況は、後述の実施例で精説する。
[第3実施形態]
図4を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。
図4は、本実施形態による成膜装置6で用いられるアーク式蒸発源1の概略構成を示す図である。
【0037】
本実施形態におけるアーク式蒸発源1は、第1実施形態におけるアーク式蒸発源1と比較して、磁場発生機構としての電磁コイル9を有している点が異なっている。
他の構成、例えば、所定の厚みを有する円板状のターゲット2、ターゲット2の外周を取り囲むように配置されたリング状の外周磁石3、ターゲット2の背面側に配置された背面磁石4などは、第1実施形態と略同様である。
【0038】
それ故、ここでは蒸発源1の電磁コイル9の構成及び配置について説明する。
電磁コイル9は、背面磁石4と同一方向の磁場を発生するリング状のソレノイドであり、例えば、巻数が数百回程度(例えば410回)となっていて、ターゲット2の径よりも若干大きな径のコイルとなるように巻回されている。本実施形態では、2000A・T〜5000A・T程度の電流で磁場を発生させる。
【0039】
図4に示すように、この電磁コイル9はターゲット2の前面側に設けられ、径方向から見た電磁コイル9の投影が、ターゲット2の投影と重ならないものとなっている。このとき、電磁コイル9は、ターゲット2と同心軸状に並ぶように配置される。このように配置されたターゲット2及び電磁コイル9を背面磁石4側から及び基材7側から見ると、円環状の電磁コイル9の内側に、円形のターゲット2がほぼ同心に入り込んだ状態となっている。
【0040】
このように配置した電磁コイル9に電流を流し、電磁コイル9の内側にターゲット2側から基材7側に向かう磁場を発生させる。このとき、ターゲット2の前面を通過した磁力線を電磁コイル9内に通過させ得るようになっている。
このように、電磁コイル9を設けると、第1実施形態における効果に加えて、ターゲット2の蒸発面を通過した磁力線の拡散を抑制して基材7の表面まで高い磁力線密度を維持することができる。また、上述のように、ターゲット2と基材7の間に電磁コイル9を設けると、ターゲット2から基材7へのイオンの搬送効率を向上させる効果も期待できる。
【0041】
なお、第3実施形態の蒸発源1を用いて成膜を行っている場合における磁力線の分布状況は、後述の実施例で精説する。
【実施例】
【0042】
以上、第1実施形態〜第3実施形態に亘って説明したアーク式蒸発源1は、外周磁石3の配置や、電磁コイル9の有無などがそれぞれ異なるので、発生する磁力線の分布もそれぞれ異なっている。
図5〜図8を参照しながら、第1実施形態〜第3実施形態のアーク式蒸発源1が発生する磁力線の分布について、実施例1〜実施例3として説明する。
【0043】
なお、図5〜図8の上段に符号(a)で示される磁力線分布図は、背面磁石4から基材7の表面までの磁力線分布を示している。これら図5(a)〜図8(a)の磁力線分布図において、右端は基材7の表面の位置を示している。図5〜図8の下段に符号(b)で示される磁力線分布図は、それぞれ、図5(a)〜図8(a)における、ターゲット2周辺の拡大図である。
【0044】
以下に説明する従来例及び各実施例での、各種実験条件を示す。例えば、ターゲット2の寸法は、(100mmφ×16mm厚み)である。円板背面磁石4A、4Bの寸法は、各々(100mmφ×4mm厚み)である。磁気コア5の寸法は、(100mmφ×30mm厚み)である。外周磁石3の寸法は、(内径150mmφ、外径170mm、厚み10mm)である。ターゲット2の表面での磁界強度は、150ガウス以上である。
[従来例]
まず理解を深めるため、図5を参照して、従来例、すなわち背面磁石4だけを用いたときの磁力線分布について説明する。
【0045】
図5(a)を参照すると、背面磁石4から出た磁力線は、背面磁石4の外周方向に傾きながら発散しつつ基材7の表面に向かっている。
図5(b)を参照すると、ターゲット2の蒸発面を通過する磁力線は、ターゲット2の外周方向に傾いて、ターゲット2の背面から前面に向かって拡散している。
[実施例1]
図6を参照して、第1実施形態によるアーク式蒸発源1を用いたときの磁力線分布について説明する。
【0046】
図6(a)を参照すると、背面磁石4から出た磁力線は、外周磁石3の位置で拡散が抑制され、ターゲット2を通過する磁力線の密度は、特にターゲット2の中心付近において従来例よりも高くなっている。
図6(b)を参照すると、ターゲット2の蒸発面を通過する磁力線は、ターゲット2の蒸発面に対してほぼ垂直(言い換えれば、ターゲット法線に対して略平行)となっている。
[実施例2]
図7を参照して、第2実施形態によるアーク式蒸発源1を用いたときの磁力線分布について説明する。
【0047】
図7(a)を参照すると、背面磁石4から出た磁力線は、外周磁石3の位置で拡散が抑制され、ターゲット2を通過する磁力線の密度は、特にターゲット2の中心付近において従来例よりも高くなっている。
図7(b)を参照すると、ターゲット2の蒸発面を通過する磁力線は、ターゲット2の蒸発面に対してほぼ垂直(言い換えれば、ターゲット法線に対してほぼ平行)となっている。また、ターゲット2の厚み方向の中央から背面側について、本実施例における外周部における磁力線を従来例と比べると、本実施例の方がターゲット法線に対して平行に近いと言える。よって、本実施例は、従来例と比べてターゲット2内の磁力線密度がより均一となっていると言える。
【0048】
図9に、本実施例に対する変形例の磁力線分布を示す。図9に示すアーク式蒸発源は、第2実施形態による図7のアーク式蒸発源1と同様に、ターゲット2、外周磁石3、及び背面磁石4を含んで構成されている。図9のアーク式蒸発源では、図7のアーク式蒸発源1とは異なって、外周磁石3の配置がターゲット2の背面よりも後方となっている。このとき、外周磁石3の前端部はターゲット2の背面よりも5mm〜10mm程度後方である。
【0049】
図9の磁力線分布図では、図7と比較して、ターゲット2の前面(蒸発面)における磁力線が、当該蒸発面に対してターゲット2の径外方向により傾いて拡散していることが分かる。この場合、アーク放電がターゲット2の外周部に偏ってしまうので好ましくない。
つまり、ターゲット2、外周磁石3、及び背面磁石4を用いたアーク式蒸発源の構成において、外周磁石3の配置がターゲット2の背面よりも後方となっていることは、好ましくないといえる。
【0050】
図10に、本実施例に対する他の変形例の磁力線分布を示す。図10に示すアーク式蒸発源は、第2実施形態による図7のアーク式蒸発源1と同様に、ターゲット2及び外周磁石3を有しているが、永久磁石で構成された背面磁石4の代わりに、電磁コイル9と同様の構成を有するリング状ソレノイドである電磁コイル10を用いている。図10のアーク式蒸発源におけるターゲット2に対する外周磁石3の位置は、図7のアーク式蒸発源1における外周磁石3の位置とほぼ同じである。電磁コイル10は、図7における背面磁石4とほぼ同じ位置で、ターゲット2とほぼ同軸に配置されている。電磁コイル10の内径は約100mm、外径は約200mm、厚みは約50mmである。電磁コイル10は、ターゲット2から約64mm後方に配置されている。なお、電磁コイル10の磁力は、ターゲット2の前面における磁束密度が、背面磁石4を用いた場合とほぼ同じとなるように調整されている。
【0051】
図10の磁力線分布図では、図7の磁力線分布図とほぼ等価な磁場が形成されていることが分かる。つまり、永久磁石で構成された背面磁石4の代わりに電磁コイル10を用いても、ほぼ等価な磁場を形成することができるといえる。
[実施例3]
図8を参照して、第3実施形態によるアーク式蒸発源1を用いたときの磁力線分布について説明する。
【0052】
図8(a)を参照すると、背面磁石4から出た磁力線は、外周磁石3の位置で拡散が抑制され、ターゲット2を通過する磁力線の密度は、特にターゲット2の中心付近において従来例よりも高くなっている。ターゲット2の蒸発面を通過して拡散しつつあった磁力線は、電磁コイル9の位置で拡散が抑制されて、再びターゲット法線に対して略平行となる。
【0053】
図8(b)を参照すると、ターゲット2の蒸発面を通過する磁力線は、ターゲット2の蒸発面に対してほぼ垂直、又はターゲット2の中心方向に向かって傾いている。これによって、ターゲット2の厚み方向の中央から背面側について、本実施例における磁力線は、従来例ならびに実施例1,2と比べて、最もターゲット法線に対して平行に近くなっていると言える。
【0054】
図11に、本実施例に対する変形例の磁力線分布を示す。図11に示すアーク式蒸発源は、第3実施形態による図8のアーク式蒸発源1と同様に、ターゲット2、外周磁石3、背面磁石4、及び電磁コイル9を含んで構成されている。図11のアーク式蒸発源では、図8のアーク式蒸発源1とは異なって、外周磁石3の配置が、ターゲット2の背面よりも後方となっている。このとき、外周磁石3の前端部はターゲット2の背面よりも5mm〜10mm程度後方である。
【0055】
図11の磁力線分布図では、図8の磁力線分布図とほぼ等価な磁場が形成されていることが分かる。本変形例において、外周磁石3の配置がターゲット2の背面よりも5mm〜10mm程度後方となっていても、図8の磁力線分布図とほぼ等価な磁場を形成することができるといえる。つまり、本変形例の構成において、図8の磁力線分布図とほぼ等価な磁場を形成しようとした際に許容される外周磁石3の前端部とターゲット2の背面との間隔には、各構成部材の大きさや発する磁力線密度に応じた許容範囲が存在することが分かる。なお、この許容範囲は、ターゲット2の厚みの2倍程度である。
【0056】
図12に、本実施例に対する他の変形例の磁力線分布を示す。図12に示すアーク式蒸発源は、第3実施形態による図8のアーク式蒸発源1と同様に、ターゲット2、外周磁石3、及び電磁コイル9を含んでいるが、永久磁石で構成された背面磁石4の代わりに電磁コイル10を用いている。図12のアーク式蒸発源では、ターゲット2に対する外周磁石3の位置は、図8のアーク式蒸発源1とほぼ同じ位置である。電磁コイル10は、図10における電磁コイル10とほぼ同じ構成を有すると共に、図8の背面磁石4とほぼ同じ位置でターゲット2とほぼ同軸に配置されている。図12において電磁コイル10は、ターゲット2から約64mm後方に配置されている。
【0057】
図12の磁力線分布図では、図8の磁力線分布図とほぼ等価な磁場が形成されていることが分かる。つまり、永久磁石で構成された背面磁石4の代わりに電磁コイル10を用いても、ほぼ等価な磁場を形成することができるといえる。
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、動作条件や測定条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、薄膜を形成する成膜装置のアーク式蒸発源として利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 蒸発源(アーク式蒸発源)
2 ターゲット
3 外周磁石
4 背面磁石
4A 第1の永久磁石(円板背面磁石)
4B 第2の永久磁石(円板背面磁石)
5 磁気コア
6 成膜装置
7 基材
8 磁界形成手段
9,10 電磁コイル
11 真空チャンバ
12 回転台
13 ガス導入口
14 ガス排気口
15 アーク電源
16 バイアス電源
18 グランド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットの外周を取り囲んでいて磁化方向が前記ターゲットの前面と平行となる方向に沿うように配置されたリング状の外周磁石と、磁化方向が前記ターゲットの前面と直交する方向に沿うように前記ターゲットの背面側に配置された背面磁石と、を備え、
前記リング状の外周磁石の径内側の磁極と前記背面磁石の前記ターゲット側の磁極とが互いに同じ極性であることを特徴とするアーク式蒸発源。
【請求項2】
前記外周磁石は、当該外周磁石の径方向から見た投影が、前記ターゲットの径方向から見た投影と重なるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のアーク式蒸発源。
【請求項3】
前記外周磁石は、前端部と後端部の中間位置が、前記ターゲットの前面と背面の中間位置よりも後方となるように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク式蒸発源。
【請求項4】
前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石及び前記外周磁石は永久磁石であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
【請求項5】
前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石は電磁コイルからなり、かつ前記外周磁石は永久磁石であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
【請求項6】
前記ターゲットの前方には、前記背面磁石と同一方向の磁場を発生するリング状の磁場発生機構が備えられ、
前記リング状の磁場発生機構は、前記ターゲットの前面を通過した磁力線をリング内に通過させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
【請求項7】
前記磁場発生機構は、電磁コイルからなることを特徴とする請求項6に記載のアーク式蒸発源。
【請求項8】
前記ターゲットの前面における磁場が、100ガウス以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
【請求項9】
前記ターゲットの前方には、前記背面磁石と同一方向の磁場を発生するリング状の磁場発生機構が備えられ、
前記リング状の磁場発生機構は、前記ターゲットの前面を通過した磁力線をリング内に通過させるように配置され、
前記外周磁石は、前記ターゲットの背面よりも後方に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のアーク式蒸発源。
【請求項10】
前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石及び前記外周磁石は永久磁石であることを特徴とする請求項1又は9のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
【請求項11】
前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石は電磁コイルからなり、かつ前記外周磁石は永久磁石であることを特徴とする請求項1又は9のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
【請求項12】
前記磁場発生機構は、電磁コイルからなることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
【請求項1】
ターゲットの外周を取り囲んでいて磁化方向が前記ターゲットの前面と平行となる方向に沿うように配置されたリング状の外周磁石と、磁化方向が前記ターゲットの前面と直交する方向に沿うように前記ターゲットの背面側に配置された背面磁石と、を備え、
前記リング状の外周磁石の径内側の磁極と前記背面磁石の前記ターゲット側の磁極とが互いに同じ極性であることを特徴とするアーク式蒸発源。
【請求項2】
前記外周磁石は、当該外周磁石の径方向から見た投影が、前記ターゲットの径方向から見た投影と重なるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のアーク式蒸発源。
【請求項3】
前記外周磁石は、前端部と後端部の中間位置が、前記ターゲットの前面と背面の中間位置よりも後方となるように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク式蒸発源。
【請求項4】
前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石及び前記外周磁石は永久磁石であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
【請求項5】
前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石は電磁コイルからなり、かつ前記外周磁石は永久磁石であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
【請求項6】
前記ターゲットの前方には、前記背面磁石と同一方向の磁場を発生するリング状の磁場発生機構が備えられ、
前記リング状の磁場発生機構は、前記ターゲットの前面を通過した磁力線をリング内に通過させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
【請求項7】
前記磁場発生機構は、電磁コイルからなることを特徴とする請求項6に記載のアーク式蒸発源。
【請求項8】
前記ターゲットの前面における磁場が、100ガウス以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
【請求項9】
前記ターゲットの前方には、前記背面磁石と同一方向の磁場を発生するリング状の磁場発生機構が備えられ、
前記リング状の磁場発生機構は、前記ターゲットの前面を通過した磁力線をリング内に通過させるように配置され、
前記外周磁石は、前記ターゲットの背面よりも後方に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のアーク式蒸発源。
【請求項10】
前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石及び前記外周磁石は永久磁石であることを特徴とする請求項1又は9のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
【請求項11】
前記ターゲットは円板状であり、前記背面磁石は電磁コイルからなり、かつ前記外周磁石は永久磁石であることを特徴とする請求項1又は9のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
【請求項12】
前記磁場発生機構は、電磁コイルからなることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載のアーク式蒸発源。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−188730(P2012−188730A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118267(P2011−118267)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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