説明

アーク溶接制御方法およびアーク溶接装置

【課題】スパッタを低減するためワイヤ送給速度を正送と逆送を繰り返す溶接制御法では、短絡が発生すると直ぐに正送から逆送に減速させて積極的に短絡開放を行う。しかし、短絡が発生すると直ぐに逆送させるため、正送による溶融プールへの押し込み量がなく、正送して短絡開放する場合と比べて溶け込みが浅くなる。溶接電流を高くして入熱を高めれば溶け込みを深くすることはできるが、ワイヤ送給量の増加によりワイヤ使用量が増加するためコストが余分にかかり、溶接条件を高めた分だけ電気エネルギーが余分に必要となるので不経済である。
【解決手段】ワイヤを送給しながら短絡とアークを交互に繰り返して短絡溶接を行うアーク溶接制御方法であって、短絡発生時からアーク発生時までの短絡期間において、短絡発生時を時間起点として所定時間まではワイヤを前進送給させ、所定時間経過後にワイヤを後退送給させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極である溶接ワイヤを連続的に自動送給しながら短絡とアークを繰り返して短絡溶接を行うアーク溶接制御方法およびアーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来の短絡を伴うアーク溶接制御方法における出力波形を示す図であり、溶接電流Iと溶接電圧Vとワイヤ送給速度WSの時間変化を示している。
【0003】
図3において、時刻t1から時刻t2までの短絡期間(Ts)では、短絡発生初期の時刻t1以降に電流制御を行って溶接電流Iを上昇させ、また、ワイヤ送給速度WSとして前進送給(正送)であるワイヤ送給速度WS1から後退送給(逆送)であるワイヤ送給速度WS3に減速して溶接ワイヤを後退送給する。
【0004】
時刻t2から時刻t3までのアーク期間(Ta)においては、アーク発生初期の時刻t2から電流制御を行って溶接電流Iをピーク電流IP(例えば200A以上)まで上昇させ、また、ワイヤ送給速度WSをワイヤ送給速度WS3からワイヤ送給速度WS1まで加速して溶接ワイヤを前進送給する。
【0005】
上述したように、短絡期間(Ts)ではワイヤ送給を後退送給とすることにより短絡期間に送給される溶接ワイヤの送給量を減少させることができ、ワイヤ送給を後退送給としない場合と比べて短い時間で短絡状態を開放させてアークを発生させることができる。また、アーク発生後にワイヤ送給を後退送給から前進送給として溶接電流を所定のピーク電流に上昇させることにより、安定して溶接ワイヤを燃え上がらせて溶滴を形成することができる。
【0006】
これらにより、アーク発生直後の微小短絡が起こり難くなり、スパッタを少なくすることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−216218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来のアーク溶接制御方法における溶接ワイヤの送給制御は、図3に示すように、時刻t1で短絡が発生すると、直ぐにワイヤ送給速度WSを前進送給であるワイヤ送給速度WS1から後退送給であるワイヤ送給速度WS3に減速させ、積極的に短絡開放を行う。しかしこの場合、短絡が発生すると直ぐに溶接ワイヤを後退送給させるため、溶接ワイヤの前進送給による溶接対象物に形成された溶融プールへの溶接ワイヤの押し込み量がない。そのため、溶接ワイヤを後退送給させずにワイヤ送給速度WS1のまま前進送給して短絡開放する場合と比較し、溶け込み(d1)が浅くなる傾向がある。溶接電流やシールドガスや継ぎ手形状等によって異なるが、溶け込み量が概ね0.5〜0.9倍程度に浅くなる。この場合、溶け込みを深くするには、溶接電流を高く設定し直して入熱を高める必要がある。しかし、溶接電流と溶接ワイヤの送給量(溶接ワイヤ送給速度)は比例の関係にあり、溶接電流を高くすると溶接ワイヤの送給量も多くなり、溶接ワイヤの送給量の増加により溶接ワイヤの使用量が増加するため、溶接ワイヤのコストが余分にかかることとなる。また、溶接電流を高めた分だけ電気エネルギーが余分に必要となるので不経済をまねく。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のアーク溶接制御方法は、溶接ワイヤを送給しながら短絡とアークを交互に繰り返して溶接を行うアーク溶接制御方法であって、短絡発生時からアーク発生時までの短絡期間において、短絡発生時を時間起点として所定時間までは前記溶接ワイヤを前進送給させ、前記所定時間経過後に前記溶接ワイヤを後退送給させるものである。
【0010】
また、本発明のアーク溶接制御方法は、上記に加えて、アーク発生時から短絡発生時までのアーク期間では所定の速度で溶接ワイヤを前進送給させ、短絡期間において所定時間が経過するまでは前記アーク期間中の所定の速度で前記溶接ワイヤを前進送給させるものである。
【0011】
また、本発明のアーク溶接装置は、消耗電極である溶接ワイヤと溶接対象物との間でアークの発生と短絡とを繰り返して溶接を行うアーク溶接装置であって、溶接出力を制御するスイッチング素子と、
溶接電圧を検出する溶接電圧検出部と、前記溶接電圧検出部の出力に基づいて短絡状態であるのかアーク状態であるのかを検出する短絡/アーク検出部と、短絡状態であるときの溶接出力の制御信号を出力する短絡制御部と、アーク状態であるときの溶接出力の制御信号を出力するアーク制御部と、前記短絡制御部または前記アーク制御部からの制御信号に基づいて前記スイッチング素子を制御する駆動部と、前記溶接ワイヤを送給するためのワイヤ送給モータと、前記短絡/アーク検出部からの信号に基づいて前記ワイヤ送給モータを制御するワイヤ送給モータ制御部を備え、前記ワイヤ送給モータ制御部は、ワイヤ送給速度を指示する信号を出力するワイヤ送給速度指示部と、短絡発生時からアーク発生時までの短絡期間において短絡発生時を時間起点として時間を計時する計時部と、前記ワイヤ送給速度指示部と前記計時部の出力を入力して前記ワイヤ送給モータ制御部を制御する制御信号を出力するワイヤ送給速度制御部を備え、前記ワイヤ送給モータ制御部は、短絡発生時からアーク発生時までの短絡期間において、短絡発生時を時間起点として所定時間までは前記溶接ワイヤを前進送給させ、前記所定時間経過後に前記溶接ワイヤを後退送給させるものである。
【0012】
また、本発明のアーク溶接装置は、上記に加えて、ワイヤ送給モータ制御部は、アーク発生時から短絡発生時までのアーク期間では所定の速度で溶接ワイヤを前進送給させ、短絡期間において所定時間が経過するまでは前記アーク期間中の所定の速度で前記溶接ワイヤを前進送給させるものである。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明によれば、短絡発生時を時間起点として所定時間が経過するまでは溶接ワイヤを前進送給させ、所定時間が経過後に溶接ワイヤを後退送給させるので、短絡発生時から所定時間までは短絡している溶接ワイヤの先端部で溶融プールを押し込む作用により溶け込みを増加することが可能となる。これにより、溶接ワイヤの送給量の平均値を高めることなく溶け込みを増加することができるので、溶接ワイヤのコスト増加の抑制および電気エネルギーの増加を抑制しながら溶け込みを深くすることが可能となる。そして、所定時間の経過後は溶接ワイヤを後退送給(逆送)とすることで、短絡の開放を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1のアーク溶接制御方法における出力波形を示す図
【図2】本発明の実施の形態1におけるアーク溶接装置の概略構成を示す図
【図3】従来の短絡を伴うアーク溶接制御方法における出力波形を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図1および図2を用いて説明する。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態のアーク溶接装置で行うアーク溶接制御方法における出力波形を示す図であり、溶接電流Iと溶接電圧Vとワイヤ送給速度WSの時間変化を示す。
【0017】
図1に示す時刻t1から時刻t2までの短絡期間(Ts)では、短絡発生初期の時刻t1から電流制御行って溶接電流Iを所定の傾きで上昇させる。また、時刻t1で短絡が発生しても、予め定めた所定時間tbが経過して時刻t7になるまでは、ワイヤ送給速度WSはアーク期間中のワイヤ送給速度WS1で前進送給(正送)する。そして、時刻t7に到達した時点で、ワイヤ送給速度WSをワイヤ送給速度WS3に減速して後退送給(逆送)とする。なお、短絡期間の終端直前、すなわち、時刻t2の直前においては、従来から知られているように、溶融した溶接ワイヤのくびれを検知して溶接電流Iを急峻に低減させるよう制御している。
【0018】
時刻t2から時刻t3までのアーク期間(Ta)においては、アーク発生初期の時刻t2から電流制御を行って溶接電流Iを所定の傾きで上昇させ、溶接電流Iのピーク電流IP(例えば、200A以上)となるまで上昇させる。また、ワイヤ送給速度WSを後退送給であるワイヤ送給速度WS3から前進送給であるワイヤ送給速度WS1に加速する。
【0019】
なお、短絡が発生しても所定時間tbが経過するまではワイヤ送給速度WS1で前進送給するので、ワイヤ送給速度WS1×所定時間tb(図1におけるワイヤ送給速度WSの斜線部)で示されるワイヤ量が短絡発生後も送給され、溶接対象物に形成された溶融プールを押し込む。このため、溶融プールの溶融金属が溶接ワイヤの前進送給方向(正送方向)に向かって押し込まれるので、溶接対象物の溶け込み深さが、従来のアーク制御方法の例を示す図3における溶け込み深さd1に対して、図1に示す溶け込み深さd2のように深くなる。溶接電流やシールドガスや継ぎ手形状等によって異なるが、溶け込み量が概ね1.1〜1.5倍程度に深くなる。
【0020】
ここで、所定時間tbは、長ければ長いほど溶融プールの押し込み量が増加して溶け込みが深くなる。しかし、長すぎると、溶接ワイヤの先端の溶融していない固体部分が溶融プールの底の固体部分(溶融していない溶接対象物)に接触し、溶接対象物を押して移動させてしまう。そして、溶接対象物の位置ずれが発生し、以後の溶接において溶接ビードのズレが発生する。このため、所定時間tbの値は、実験や実証等により求められた0より大きく5ms程度までの値が望ましい。
【0021】
また、図1では、所定時間tbにおけるワイヤ送給速度WSは、アーク期間中のワイヤ送給速度であるワイヤ送給速度WS1と同じ例を示している。しかし、前進送給のワイヤ送給速度であれば、押し込み作用があるので、アーク期間中におけるワイヤ送給速度WS1とは異なる前進送給のワイヤ送給速度であっても問題ない。但し、溶接を行うに際し、ワイヤ送給速度WSの変化が少ないことが望ましく、また、ワイヤ送給速度WSの制御のし易さの面から、所定時間tbにおけるワイヤ送給速度WSは、ワイヤ送給速度WS1と同じにすることが望ましい。
【0022】
なお、溶接部位毎に必要な溶け込みが異なるため、設定溶接電流や設定溶接電圧の調整と併せて、溶接部位毎に所定時間tbの値を調整することで適正な溶け込みを得ることが可能となる。
【0023】
ここで、以上のようなアーク溶接制御を行うためのアーク溶接装置について、図2を用いて説明する。
【0024】
図2において、アーク溶接装置は、入力電源1から入力した電力を整流する1次整流部2と、1次整流部2の出力を入力とし溶接出力を制御するためのスイッチング素子3と、スイッチング素子3の出力を変圧するトランス4と、トランス4の出力を整流する2次整流部5と、2次整流部5の出力を平滑するためのインダクタンスであるDCL6と、スイッチング素子3の動作を制御するための駆動部7と、溶接電圧を検出する溶接電圧検出部8と、溶接電流を検出する溶接電流検出部9と、溶接電圧検出部8の検出結果に基づいて短絡状態であるのかアーク状態であるのかを検出する短絡/アーク検出部10と、短絡/アーク検出部10の検出結果に基づいて短絡状態の場合に溶接出力の制御信号を駆動部7に出力する短絡制御部11と、短絡/アーク検出部10の検出結果に基づいてアーク状態の場合に溶接出力の制御信号を駆動部7に出力するアーク制御部12と、溶接ワイヤ19の送給を制御するワイヤ送給モータ制御部13と、設定溶接電流や溶接ワイヤの直径やCO2やMAGなどの溶接法等の溶接条件を設定するための溶接条件設定部14と、溶接条件と所定時間tbや溶接条件とワイヤ送給速度等を対応付けて記憶している記憶部15を備えている。
【0025】
なお、ワイヤ送給モータ制御部13は、溶接ワイヤ19の送給速度を制御するためのワイヤ送給速度指示部16と、時間を計時する計時部17と、ワイヤ送給速度指示部16と計時部17の出力に基づいてワイヤ送給を制御する信号を出力するワイヤ送給速度制御部23を備えている。
【0026】
また、溶接出力の一端はチップ20を介して溶接ワイヤ19に供給され、溶接出力の他端は溶接対象物22に供給され、溶接ワイヤ19の先端部分と溶接対象物22との間で溶接アーク21が発生する。また、溶接ワイヤ19は、ワイヤ送給モータ18により送給される。
【0027】
また、溶接電圧検出部8は、溶接用電源出力端子間に接続され、検出した電圧に対応した信号を出力する。短絡/アーク検出部10は、溶接電圧検出部8からの信号に基づいて、溶接出力電圧が一定値以上か未満かを判定し、この判定結果により溶接ワイヤ19が溶接対象物22に接触短絡している短絡状態であるのか、それとも非接触状態で溶接アーク21が発生しているアーク状態であるのかを判定して判定信号を出力する。
【0028】
また、溶接条件設定部14に設定入力された溶接条件に基づいて、記憶部15から所定時間tbが選択され、計時部17に出力される。さらに、溶接条件設定部14に設定入力された溶接条件に基づいて、記憶部15から前進送給であるワイヤ送給速度WS1と後退送給であるワイヤ送給速度WS3が選択され、ワイヤ送給速度指示部16に出力される。
【0029】
次に、短絡/アーク検出部10の判定後の溶接ワイヤ19の送給制御について説明する。
【0030】
まず、短絡/アーク検出部10からの信号が短絡判定を示す信号である短絡期間(Ts)の場合について説明する。
【0031】
ワイヤ送給モータ制御部13は、ワイヤ送給速度指示部16と計時部17とワイヤ送給速度制御部23を備えている。短絡/アーク検出部10からの信号が短絡期間(Ts)を示す短絡判定の信号である場合、計時部17は計時を開始する。そして、予め設定された所定時間tbが経過すると計時部17はワイヤ送給速度制御部23に所定時間tbが経過したことを示す信号を出力する。
【0032】
ワイヤ送給速度指示部16は、短絡/アーク検出部10からの信号が短絡期間(Ts)を示す短絡判定の信号である場合、前進送給(正送)であるワイヤ送給速度WS1と後退送給(逆送)であるワイヤ送給速度WS3をワイヤ送給速度制御部23に出力する。
【0033】
ワイヤ送給速度制御部23は、ワイヤ送給速度指示部16の出力と計時部17の出力を入力し、計時部17から所定時間tbが経過したことを示す信号を受信するまでは、ワイヤ送給速度WSをワイヤ送給速度WS1に制御するようにワイヤ送給モータ18に制御信号を出力する。そして、ワイヤ送給モータ制御部13からの制御信号を受信したワイヤ送給モータ18は、ワイヤ送給速度WSが前進送給であるワイヤ送給速度WS1となるように溶接ワイヤ19の送給を制御する。また、ワイヤ送給速度制御部23は、計時部17から所定時間tbが経過したことを示す信号を受信すると、ワイヤ送給速度WSをワイヤ送給速度WS3に制御するようにワイヤ送給モータ18に制御信号を出力する。そして、ワイヤ送給モータ制御部13からの制御信号を受信したワイヤ送給モータ18は、ワイヤ送給速度WSが後退送給であるワイヤ送給速度WS3となるように溶接ワイヤ19の送給を制御する。
【0034】
次に、短絡/アーク検出部10からの信号がアーク判定を示す信号であるアーク期間(Ta)の場合について説明する。
【0035】
ワイヤ送給速度指示部16は、短絡/アーク検出部10からの信号がアーク期間(Ta)を示すアーク判定の信号である場合、前進送給(正送)であるワイヤ送給速度WS1をワイヤ送給速度制御部23に出力する。なお、アーク期間(Ta)では、計時部17は動作しない。
【0036】
ワイヤ送給速度制御部23では、ワイヤ送給速度指示部16の出力を入力し、ワイヤ送給速度WSをワイヤ送給速度WS1に制御するようにワイヤ送給モータ18に制御信号を出力する。そして、ワイヤ送給モータ制御部13からの制御信号を受信したワイヤ送給モータ18は、ワイヤ送給速度WSがワイヤ送給速度WS1となるように溶接ワイヤ19の送給を制御する。
【0037】
次に、短絡/アーク検出部10の判定後の溶接出力の制御について以下に説明する。
【0038】
短絡期間(Ts)の溶接出力の制御は、短絡制御部11に基づいて行われる。そして、アーク期間(Ta)の溶接出力の制御は、アーク制御部12に基づいて行われる。
【0039】
短絡/アーク検出部10から短絡期間(Ts)を示す信号を受信した場合、短絡制御部11は、駆動部7に制御信号を出力し、この制御信号に基づいて駆動部7がスイッチン素子3を動作させることにより短絡期間(Ts)における溶接出力が制御される。
【0040】
また、短絡/アーク検出部10からアーク期間(Ta)を示す信号を受信した場合、アーク制御部12は、駆動部7に制御信号を出力し、この制御信号に基づいて駆動部7がスイッチン素子3を動作させることによりアーク期間(Ta)における溶接出力が制御される。
【0041】
以上のように、本実施の形態のアーク溶接装置およびアーク溶接制御方法によれば、短絡期間(Ts)において、短絡発生時である時刻t1を時間起点として所定時間tbが経過するまではワイヤ送給速度WSを減速させずにアーク期間中のワイヤ送給速度WS1で溶接ワイヤ19を前進送給し、所定時間tbが経過した後にワイヤ送給速度WSをワイヤ送給速度WS3に制御して後退送給させる。このように、短絡期間(Ts)において短絡発生時から所定時間tbまでは溶接ワイヤ19の送給は前進送給(正送)である。このため、短絡発生時である時刻t1から所定時間tbが経過するまでは、溶接対象物22に短絡しており前進送給の溶接ワイヤ19により溶接対象物22に形成された溶融プールを押し込み、溶接対象物22の溶け込みを増加することが可能となる。これにより、溶接電流Iの設定値を高めることなく、すなわち、溶接ワイヤ19の送給量の平均値を高めることなく溶け込みを増加することができるので、溶接ワイヤ19の使用量を抑制して溶接ワイヤ19に掛かるコストの増加を抑制し、かつ、溶接対象物22の溶け込みを深くすることが可能となり、良好な溶接を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、短絡発生時を時間起点として所定時間が経過するまでは溶接ワイヤを前進送給させ、所定時間が経過後に溶接ワイヤを後退送給させるので、短絡発生時から所定時間までは短絡している溶接ワイヤの先端部で溶融プールを押し込む作用により溶け込みを増加することが可能となることで良好な溶接を実現でき、消耗電極である溶接ワイヤを連続的に自動送給しながら短絡とアークを繰り返して短絡溶接を行うアーク溶接制御方法およびアーク溶接装置として産業上有用である。
【符号の説明】
【0043】
V 溶接電圧
I 溶接電流
IP ピーク電流
WS ワイヤ送給速度
WS1 ワイヤ送給速度
WS3 ワイヤ送給速度
tb 所定時間
1 入力電源
2 1次整流部
3 スイッチング素子
4 トランス
5 2次整流部
6 DCL
7 駆動部
8 溶接電圧検出部
9 溶接電流検出部
10 短絡/アーク検出部
11 短絡制御部
12 アーク制御部
13 ワイヤ送給モータ制御部
14 溶接条件設定部
15 記憶部
16 ワイヤ送給速度指示部
17 計時部
18 ワイヤ送給モータ
19 溶接ワイヤ
20 チップ
21 溶接アーク
22 溶接対象物
23 ワイヤ送給速度制御部
Ta アーク期間
Ts 短絡期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給しながら短絡とアークを交互に繰り返して溶接を行うアーク溶接制御方法であって、
短絡発生時からアーク発生時までの短絡期間において、短絡発生時を時間起点として所定時間までは前記溶接ワイヤを前進送給させ、前記所定時間経過後に前記溶接ワイヤを後退送給させるアーク溶接制御方法。
【請求項2】
アーク発生時から短絡発生時までのアーク期間では所定の速度で溶接ワイヤを前進送給させ、短絡期間において所定時間が経過するまでは前記アーク期間中の所定の速度で前記溶接ワイヤを前進送給させる請求項1記載のアーク溶接制御方法。
【請求項3】
消耗電極である溶接ワイヤと溶接対象物との間でアークの発生と短絡とを繰り返して溶接を行うアーク溶接装置であって、
溶接出力を制御するスイッチング素子と、
溶接電圧を検出する溶接電圧検出部と、
前記溶接電圧検出部の出力に基づいて短絡状態であるのかアーク状態であるのかを検出する短絡/アーク検出部と、
短絡状態であるときの溶接出力の制御信号を出力する短絡制御部と、
アーク状態であるときの溶接出力の制御信号を出力するアーク制御部と、
前記短絡制御部または前記アーク制御部からの制御信号に基づいて前記スイッチング素子を制御する駆動部と、
前記溶接ワイヤを送給するためのワイヤ送給モータと、
前記短絡/アーク検出部からの信号に基づいて前記ワイヤ送給モータを制御するワイヤ送給モータ制御部を備え、
前記ワイヤ送給モータ制御部は、ワイヤ送給速度を指示する信号を出力するワイヤ送給速度指示部と、短絡発生時からアーク発生時までの短絡期間において短絡発生時を時間起点として時間を計時する計時部と、前記ワイヤ送給速度指示部と前記計時部の出力を入力して前記ワイヤ送給モータ制御部を制御する制御信号を出力するワイヤ送給速度制御部を備え、
前記ワイヤ送給モータ制御部は、短絡発生時からアーク発生時までの短絡期間において、短絡発生時を時間起点として所定時間までは前記溶接ワイヤを前進送給させ、前記所定時間経過後に前記溶接ワイヤを後退送給させるアーク溶接装置。
【請求項4】
ワイヤ送給モータ制御部は、アーク発生時から短絡発生時までのアーク期間では所定の速度で溶接ワイヤを前進送給させ、短絡期間において所定時間が経過するまでは前記アーク期間中の所定の速度で前記溶接ワイヤを前進送給させる請求項3記載のアーク溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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