説明

アーク溶接制御方法及びアーク溶接装置

【課題】 溶接電圧を十分に低下することができないため、高速溶接時にビード幅が不均一になったり、入熱を低下できないためギャップ溶接時に溶け落ち等が発生する。
【解決手段】 溶接ワイヤが被溶接物と短絡する短絡期間とアークが再発生しアーク放電するアーク期間とを交互に繰り返して被溶接物を溶接するアーク溶接制御方法であって、アーク再発生直後の溶接出力電流を、設定した所定期間、アーク再発生直前の溶接出力電流より高くなるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極である溶接用ワイヤと被溶接物である溶接母材との間にアークを発生させて溶接出力制御を行う消耗電極式アーク溶接装置のアーク溶接制御方法及びアーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、スパッタを低減することにより、手直し工数を削減する方法が種々提案されている。例えば特許文献1においては、アーク再発生時から徐々に低下する溶接電流値をアーク再発生時から所定時間経過後に高い値に増加させる定電流制御を行い、アーク再発生直後の短絡発生を抑制しスパッタを低減する方法が示されている。
【0003】
図4は上記した従来の出力制御方法で溶接した場合の電流波形を示す図であり、横軸に経過時間、縦軸に溶接電流を示している。図4において101はワイヤと母材が短絡している短絡期間、102はワイヤと母材間でアークが発生しているアーク期間、103は短絡が開放しアークが再発生するアーク再発生時点、104はアーク再発生直前電流、105はアーク再発生初期電流、106は定電流制御期間を示す。
【0004】
次に図4で示す電流波形について時間経過ごとの制御方法と関連させて説明する。図4において、アーク再発生時103を時間起点として所定時間経過後まではアーク制御により徐々に溶接電流値が減少するが、所定時間経過後から高い値に増加させて定電流制御している。この定電流制御を行なう電流値は、図に示している通りアーク再発生直前の電流値を越えない値に設定しており、これにより溶滴の形成を安定化できる。その後定電流制御106を停止し元のアーク制御を継続する。この定電流制御により、アーク開放直後に発生する短絡を抑制しスパッタを低減する。
【特許文献1】特開平10−109163号公報(第6頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、溶接業界では生産性向上のために溶接の高速度化及び被溶接物間のギャップ裕度に対する要求が高まってきている。すなわち、溶接速度を高速化することは、時間当たりの生産数を増加させ、ギャップが生じている場合に溶け落ち無く溶接できることにより被溶接物の歩留まりを高め手直し工数を削減できる。
【0006】
しかし、上記した従来の出力制御方法では、アーク再発生時点から所定時間経過後に定電流制御で電流を高めて溶滴を形成するため、アーク発生時間はアーク再発生時点からの所定時間と定電流制御時間の合算値以下に短縮することができない。このため溶接電圧を低下することができなかった。高速溶接時に溶接電圧を低下させることができない場合はビード幅が不均一になり、入熱を低下できないためギャップ溶接時に溶け落ち等が発生するという課題を有していた。
【0007】
本発明は、溶接電圧の低下を可能とするアーク溶接制御方法及びアーク溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアーク溶接制御方法は、上記課題を解決するために、溶接ワイヤが被溶接物と短絡する短絡期間とアークが再発生しアーク放電するアーク期間とを交互に繰り返して被
溶接物を溶接するアーク溶接制御方法であって、アーク再発生直後の溶接出力電流を、設定した所定期間、アーク再発生直前の溶接出力電流より高くなるように制御する。さらに本発明のアーク溶接制御方法は、アーク再発生直後の溶接出力電流を、アーク再発生直前の溶接出力電流より高くなるように制御する所定期間より前のアーク再発生直前に、溶接出力電流を、急峻に低くするように制御する。
【0009】
また、本発明のアーク溶接装置は、溶接ワイヤが被溶接物と短絡する短絡期間とアークが再発生しアーク放電するアーク期間とを交互に繰り返して被溶接物を溶接するアーク溶接装置であって、溶接出力電流を検出する溶接電流検出部と、溶接出力電圧を検出する溶接電圧検出部と、溶接状態が短絡期間もしくはアーク期間かを判別する短絡アーク判定部と、短絡期間及びアーク期間の電流及び電圧の少なくとも一方の設定値が設定され前記設定値を出力する設定部と、前記溶接電流検出部、前記溶接電圧検出部、及び前記設定部の各出力を入力としアーク再発生初期時の溶接出力電流を設定して出力するアーク初期制御部と、前記短絡アーク判定部の出力を入力としアーク状態に応じて前記入力を選択して制御する駆動部と、前記短絡アーク判定部の出力を入力としアーク発生から所定時間を計時しアーク初期制御時間を設定して前記駆動部に出力する計時部とを備え、前記アーク初期制御部は、前記計時部で設定したアーク初期制御時間のアーク再発生時の溶接電流をアーク再発生直前の溶接電流より高くなるように制御する。さらに、本発明のアーク溶接装置は、設定部は、設定された設定電流値、設定電圧値、ワイヤ送給量、シ−ルドガス種類、ワイヤ材質、ワイヤ径、溶接法のうち少なくとも1つを用いてアーク初期制御部の設定電流値及び計時部の設定時間を設定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、アーク再発生直後の溶接電流を、アーク再発生直前の溶接電流より高めることによりアーク再発生の早期に溶滴を形成させ溶接電圧を低下させることができる。これにより、高速溶接及びギャップ溶接に対して適応範囲を広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(実施の形態1)
図1において、1は入力する交流の商用電源、2は商用電源1から入力する入力電源を整流する1次整流部、3は溶接出力を制御するスイッチング素子、4は電力を絶縁して電圧変換するトランス、5はトランスの2次側出力を整流する2次整流部、6はリアクタ(DCL)、7は溶接状態が短絡期間あるいはアーク期間か判定する短絡アーク判定部、8は駆動部、9は設定電流、設定電圧、ワイヤ送給量、シールドガス種類、ワイヤ種類、ワイヤ径、及び溶接法等の設定条件により種々のパラメータを設定する設定部、10は溶接電圧を検出する溶接電圧検出部、11は溶接電流を検出する溶接電流検出部、12はアーク再発生時から所定時間のみ制御するアーク初期制御部、13はアーク初期制御部12で制御する所定時間以降のアーク期間を制御するアーク制御部、14は短絡期間中を制御する短絡制御部、15はアーク初期制御部12で制御を行なう所定時間を設定する計時部を示す。
【0012】
以上のように構成されたアーク溶接装置について、その動作を説明する。図2は、消耗電極アーク溶接の短絡移行時の溶接電流波形を示す図であり、横軸は経過時間、縦軸は溶接電流を示す。図2において、101はワイヤと母材が短絡している短絡期間、102はワイヤと母材間でアークが発生しているアーク期間、103は短絡が開放しアークが再発生するアーク再発生時点、104はアーク再発生直前電流、107はアーク初期電流値、108はアーク初期制御時間を示す。そして本図において、103のアーク再発生時点で短絡開放しアークが再発生している。
【0013】
本実施の形態では、まずアーク再発生時点103において、その時点を起点とし、計時
部15で初期制御時間108を設定する。そして、同時にアーク初期制御部12でこのアーク初期制御時間108における溶接出力電流を制御してアーク初期電流値107となるようにする。この時、制御目標として設定するアーク初期電流値107は、アーク再発生直前電流104より高い値になるようにする。そのアーク初期電流値107は、設定部9から出力設定されるもので、設定部9に入力設定される設定電流あるいは設定電圧、あるいはその他のワイヤ送給速度、シールドガス種類、ワイヤ種類、ワイヤ径、溶接法などのうち少なくとも1つにより設定される。そして、アーク初期制御時間108の経過後は、アーク制御部13による出力制御に切り替える。
なお、本実施の形態における別に実施例として、溶接電流波形は、図3に示すように、アーク初期制御時間より前に、アーク再発生直前に溶接電流を急峻に低下させるように溶接であっても良い。すなわち、アーク再発生時点103のアーク再発生する直前に溶接電流を急峻に低下させることでスパッタを低減させることができる。また、本制御方法はパルス溶接時の短絡後の制御方法としても良い。
【0014】
ここで、アーク初期制御部12が溶接電流の制御目標とするアーク初期電流値107の大きさについて説明する。本実施の形態の一例として、制御目標として設定されるアーク初期電流値107は、アーク再発生直前電流値104に予め設定した所定値を加算した値となるように制御する方法がある。また、別の実施例として、アーク初期制御設定電流値107を、アーク再発生直前の電流値104に係数を乗算した値(たとえば1.2倍)としてもよい。あるいは、予め設定される固定値(たとえば450A)でもよい。あるいは、直前の短絡時間あるいは直前までの設定電圧と、出力溶接電圧との差に応じて、アーク初期電流値107を増減させるようにしても良い。
【0015】
以上のように、本実施の形態によると、アーク初期制御設定電流値107を、アーク再発生時点から所定の期間、アーク再発生直前の電流値より高い電流値に制御するために、アーク再発生後の早期にワイヤ先端部に溶滴を形成できる。このため次の短絡発生を早めることができるので溶接電圧を低下することができる。これにより溶接速度を高めることができ、ギャップ溶接時の溶け落ちを低減できる。また、アーク再発生直後のアーク長を確保できるため短絡発生を抑制できスパッタ抑制にも効果がある。
【0016】
また、設定部9から出力設定される、アーク初期制御部12の設定電流値、及びアーク制御部13の設定電圧値、短絡制御部14の設定電流値、及び計時部15の設定時間は、入力される設定電流値、設定電圧値、ワイヤ送給量、シ−ルドガス種類、ワイヤ材質、ワイヤ径、溶接法の少なくともいずれか1つ以上によって決定される。一例として、入力した設定した入力条件とその時に設定される各パラメータについて表1に示す。
【0017】
以上のように、上記した方法によると、種々の設定条件毎に設定できるため適応範囲が広がる。
【0018】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明のアーク溶接制御方法及びアーク溶接装置は、高速溶接及びギャップ溶接の適応範囲を拡大でき溶接作業の生産性を向上することができ、溶接分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のアーク溶接装置の実施の形態1における全体構成を示す図
【図2】本発明のアーク溶接装置の実施の形態1における溶接電流波形を示す図
【図3】本発明のアーク溶接装置の実施の形態1の別の実施例における溶接電流波形を示す図
【図4】従来例のアーク溶接装置の実施の形態における溶接電流波形を示す図
【符号の説明】
【0021】
7 短絡アーク判定部
8 駆動部
9 設定部
10 溶接電圧検出部
11 溶接電流検出部
12 アーク初期制御部
15 計時部
101 短絡期間
102 アーク期間
107 アーク再発生初期電流
108 アーク初期制御時間
103 アーク再発生時点
104 アーク再発生直前電流
107 アーク初期電流
108 アーク初期制御時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤが被溶接物と短絡する短絡期間とアークが再発生しアーク放電するアーク期間とを交互に繰り返して被溶接物を溶接するアーク溶接制御方法であって、アーク再発生直後の溶接出力電流を、設定した所定期間、アーク再発生直前の溶接出力電流より高くなるように制御するアーク溶接制御方法。
【請求項2】
アーク再発生直後の溶接出力電流を、アーク再発生直前の溶接出力電流より高くなるように制御する所定期間より前のアーク再発生直前に、溶接出力電流を、急峻に低くするように制御する請求項1記載のアーク溶接制御方法。
【請求項3】
アーク再発生直後の溶接出力電流を、ア−ク再発生直前の溶接電流値に所定値を加算した値になるように制御する請求項1または2記載のアーク溶接制御方法。
【請求項4】
アーク再発生直後の溶接出力電流を、ア−ク再発生直前の溶接電流値に所定の倍率を乗算した値になるように制御する請求項1または2に記載のアーク溶接制御方法。
【請求項5】
アーク再発生直後の溶接出力電流を、ア−ク再発生直前の溶接出力電圧と予め設定した設定電圧との差に応じて、増減させるようにした請求項1から4のいずれかに記載のアーク溶接制御方法。
【請求項6】
溶接ワイヤが被溶接物と短絡する短絡期間とアークが再発生しアーク放電するアーク期間とを交互に繰り返して被溶接物を溶接するアーク溶接装置であって、溶接出力電流を検出する溶接電流検出部と、溶接出力電圧を検出する溶接電圧検出部と、溶接状態が短絡期間もしくはアーク期間かを判別する短絡アーク判定部と、短絡期間及びアーク期間の電流及び電圧の少なくとも一方の設定値が設定され前記設定値を出力する設定部と、前記溶接電流検出部、前記溶接電圧検出部、及び前記設定部の各出力を入力としアーク再発生初期時の溶接出力電流を設定して出力するアーク初期制御部と、前記短絡アーク判定部の出力を入力としアーク状態に応じて前記入力を選択して制御する駆動部と、前記短絡アーク判定部の出力を入力としアーク発生から所定時間を計時しアーク初期制御時間を設定して前記駆動部に出力する計時部とを備え、前記アーク初期制御部は、前記計時部で設定したアーク初期制御時間のアーク再発生時の溶接電流をアーク再発生直前の溶接電流より高くなるように制御するアーク溶接装置。
【請求項7】
設定部は、設定された設定電流値、設定電圧値、ワイヤ送給量、シ−ルドガス種類、ワイヤ材質、ワイヤ径、溶接法のうち少なくとも1つを用いてアーク初期制御部の設定電流値及び計時部の設定時間を設定する請求項6記載のアーク溶接装置。
【請求項8】
アーク初期制御部は、アーク再発生直後の溶接出力電流を、アーク再発生直前の溶接出力電流より高くなるように制御する所定期間より前のアーク再発生直前に、溶接出力電流を、急峻に低くするように制御する請求項6または7記載のアーク溶接装置。
【請求項9】
アーク初期制御部は、アーク再発生直後の溶接出力電流を、ア−ク再発生直前の溶接電流値に所定値を加算した値になるように制御する請求項6から8のいずれかに記載のアーク溶接装置。
【請求項10】
アーク初期制御部は、アーク再発生直後の溶接出力電流を、アーク再発生直前の溶接電流値に所定の倍率を乗算した値になるように制御する請求項6から8のいずれかに記載のアーク溶接装置。
【請求項11】
アーク初期制御部は、アーク再発生直後の溶接出力電流を、アーク再発生直前の溶接出力電圧と設定部で設定された設定電圧との差に応じて、増減させるようにした請求項6から8のいずれかに記載のアーク溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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