説明

アーク溶接装置

【課題】 ガスシールドアーク溶接において、溶接速度が速くなってもアーク発生部のシールドガス遮蔽状態を自動的に良好な状態に維持することを目的とする。
【解決手段】 溶接速度設定信号Srを出力する溶接速度設定部RCと、溶接トーチ4にシールドガス6を供給するシールドガス供給手段GB、7と、溶接速度設定信号Srを入力として溶接トーチ4に供給するシールドガス6の流量を設定するための流量設定信号Frを出力する流量設定部FRと、流量設定信号Frに対応したガス流量に調節する流量調節手段FCと、溶接速度設定信号Srを入力としてシールドガス6の圧力を設定するための圧力設定信号Prを出力する圧力設定部PRと、圧力設定信号Prに対応したガス圧力に調節する圧力調節手段PCと、を備えたアーク溶接装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接において溶接条件に応じてシールドガスの流量を適正化することができるアーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CO2溶接、MAG/MIG溶接、TIG溶接、プラズマアーク溶接等のガスシールドアーク溶接においては、アーク発生部をシールドガスで遮蔽して溶接を行う。このシールドガスによる遮蔽状態が不完全であると、溶接ビード内部にブローホールが発生し溶接欠陥となる。したがって、溶接条件に応じてシールドガスの流量を適正化して遮蔽状態が完全になるようにする必要がある。溶接条件としては、溶接法、溶接電流値、ワイヤ突出し長さ、アーク発生部の風速、開先形状、母材材質、溶接速度等多数の条件がある。通常、これらの溶接条件に応じて溶接作業者が蓄積した知識に基づいて手動でシールドガスの流量を適正値に調節していた。
【0003】
特許文献1の発明は、上記のシールドガス流量の調節を一部自動化するものである。すなわち、溶接電流値、ワイヤ突出し長さ及び風速を検出して予め定めた関係に従ってシールドガス流量を自動的に適正値に調節する。これにより、経験の差によって溶接不良を招くこと無く、良好なシールド性を保持するための過不足の無いシールドガス流量の調整を自動的に行うことができる。
【0004】
【特許文献1】特開平5−84574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶接速度を速くして高速溶接を行う場合、シールドガスによる遮蔽状態を良好にするためには、シールドガス流量を溶接速度に応じて多くする必要がある。しかし、単に溶接速度に応じてシールドガス流量を多くしてもアーク発生部が高速に移動するために、アーク発生部の遮蔽状態を良好に維持することはできない。それに加えて、アーク発生部の風速が速いときは、さらに遮蔽状態が悪くなる。
【0006】
上述した従来技術では、溶接電流値、ワイヤ突出し長さ及び風速の検出値に応じてシールドガス流量を自動的に適正化する。これらの検出値に溶接速度を追加しても、上述したようにシールドガスの遮蔽状態は良好にはならない。
【0007】
そこで、本発明は、高速溶接時においてもアーク発生部のシールドガス遮蔽状態を自動的に良好な状態に維持することができるアーク溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、
アークに電力を供給する溶接電源と、
アーク溶接を行うための溶接トーチと、
溶接速度設定信号を出力する溶接速度設定部と、
この溶接速度設定信号に対応する溶接速度で前記溶接トーチを移動させるトーチ移動手段と、
前記溶接トーチにシールドガスを供給するシールドガス供給手段と、
前記溶接速度設定信号を入力として前記溶接トーチに供給するシールドガスの流量を設定するための流量設定信号を出力する流量設定部と、
この流量設定信号に対応したガス流量に調節する流量調節手段と、
前記溶接速度設定信号を入力としてシールドガスの圧力を設定するための圧力設定信号を出力する圧力設定部と、
この圧力設定信号に対応したガス圧力に調節する圧力調節手段と、
を備えたアーク溶接装置である。
【0009】
第2の発明は、
アーク発生部の風速を検出して風速検出信号を出力する風速検出手段をさらに備え、
前記流量設定部は、前記溶接速度設定信号及び前記風速検出信号を入力として前記流量設定信号を出力し、
前記圧力設定部は、前記溶接速度設定信号及び前記風速検出信号を入力として前記圧力設定信号を出力する、第1の発明記載のアーク溶接装置である。
【発明の効果】
【0010】
上記第1の発明によれば、溶接速度が速くなるのに応じてガス圧力及びガス流量が自動的に適正化されるので、アーク発生部のシールドガス遮蔽状態は常に良好な状態を維持することができる。このために、手動で調節する必要がなく省力化できる。さらに、常にシールドガス遮蔽状態は良好になるので、高品質な溶接が可能となる。
【0011】
さらに、上記第2の発明によれば、上記第1の発明の効果に加えて、アーク発生部の風速に応じてもガス圧力及びガス流量を自動的に適正化することができるので、溶接速度及び風速によらずシールドガス遮蔽状態を常に良好にすることができる。このために、手動で調節する必要がなく省力化することができる。さらに、溶接速度及び風速が変化しても常にシールドガス遮蔽状態は良好であるので、高品質な溶接が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係るアーク溶接装置の構成図である。同図は、アーク溶接が消耗電極アーク溶接の場合を例示したものであり、非消耗電極アーク溶接の場合も同様である。以下、同図を参照して各構成物について説明する。
【0014】
溶接電源PSは、アーク3を発生させるための溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力すると共に、後述するロボット制御装置RCとの間で溶接条件データWdを通信し、さらに送給モータWMの回転を制御するための送給制御信号Icを出力する。この溶接条件データWdとして、ロボット制御装置RCからは溶接電流設定信号(送給速度設定信号)、溶接電圧設定信号、溶接開始信号等が送信され、溶接電源PSからはアーク発生判別信号等が送信される。溶接ワイヤ1は、送給モータWMに結合された送給ロール5aと加圧ロール5bとの回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。また、溶接トーチ4にはガスホース7を通ってシールドガス6が供給されて、アーク発生部にはシールドガス6が放流されて大気から遮蔽される。
【0015】
ロボット本体RMは、ロボット制御装置RCからの動作制御信号Mcによって各軸のサーボモータが駆動されて、教示された動作を行う。このロボット本体RMには、上記の溶接トーチ4、送給モータWM、送給ロール5a、加圧ロール5b等が搭載される。したがって、ロボット本体RMは、溶接トーチ4の移動手段となる。この移動手段としては、他に自動台車、自動溶接装置等も使用することができる。
【0016】
ロボット制御装置RCは、上述したように、溶接条件データWd及び動作制御信号Mcを出力すると共に、ガス開閉信号Gc及び溶接速度設定信号Srを出力する。この溶接速度設定信号Srは、教示された作業プログラム上に記載されるもが一般的である。したがって、溶接速度設定信号Srは、作業プログラムが記憶されているロボット制御装置RCがら出力することができる。すなわち、ロボット制御装置RC内には、上記の溶接速度設定信号Srを出力する溶接速度設定部が設けられていることになる。自動機による溶接装置の場合には、この溶接速度設定部は溶接制御装置に内蔵される。
【0017】
風速検出器KDは、アーク発生部周辺に設置されて、風速を検出して風速検出信号Kdを出力する。シールドガス6は、ガスボンベGBから圧力調節器PC、流量調節器FC及びガス電磁弁GCを介して溶接トーチ4へ供給される。流量設定回路FRは、上記の溶接速度設定信号Sr及び風速検出信号Kdを入力として、予め定めた関数Fr=f(Sr,Kd)によって流量設定信号Frを出力する。圧力設定回路PRは、上記の溶接速度設定信号Sr及び風速検出信号Kdを入力として、予め定めた関数Pr=g(Sr,Kd)によって圧力設定信号Prを出力する。これらの関数f(Sr,Kd)、g(Sr,Kd)は共に、溶接速度設定信号Sr及び風速検出信号Kdが大きくなると出力値Fr、Prも大きくなる。また、溶接が屋内で行われる場合又はアーク発生部が密封された状態にある場合には、風速を考慮する必要がないので風速検出器KDは設置する必要がない。このような場合には、流量設定信号Fr及び圧力設定信号Prは、溶接速度設定信号Srだけを入力として予め定めた関数によって算出される。
【0018】
上記の圧力調節器PCは、上記の圧力設定信号Prに従ってガスボンベGBからのガス圧力を自動調節する。上記の流量調節器FCは、上記の流量設定信号Frに従ってガス流量を自動調節する。上記のガス電磁弁GCは、上記のガス開閉信号Gcに従って開閉されてガスの放流/停止を制御する。
【0019】
上記の流量設定回路FR、圧力設定回路PR、圧力調節器PC、流量調節器FC及びガス電磁弁GCは、ロボット制御装置RC又は溶接電源PSに内蔵しても良い。そのときに、一部の構成物だけを内蔵するようにしても良い。これらの構成物は、実際の溶接施工現場に最適な配置を行えば良い。
【0020】
本実施の形態は消耗電極アーク溶接装置の場合を例示したが、非消耗電極アーク溶接装置の場合も同様である。また、本実施の形態はロボット溶接装置の場合を例示したが、自動機を使用した溶接装置の場合も同様である。
【0021】
上述した実施の形態において、流量設定信号Fr及び圧力設定信号Prを溶接速度設定信号Srによって自動算出する場合には、溶接速度が速くなるのに応じてガス圧力及びガス流量が自動的に適正化されるので、アーク発生部のシールドガス遮蔽状態は常に良好な状態を維持することができる。溶接速度が速くなるとアーク発生部の移動が速くなり、流量だけを多くしても遮蔽状態は不完全になる。このときに、ガス圧力も大きくすることによってアーク発生部の遮蔽状態は良好になる。したがって、溶接速度が変化しても常にシールドガス遮蔽状態は良好になるので、高品質な溶接が可能となる。また、溶接速度が変化してもガス圧力及びガス流量を手動で調節する必要がなく省力化することができる。
【0022】
上述した実施の形態において、流量設定信号Fr及び圧力設定信号Prを溶接速度設定信号Sr及び風速検出信号Kdによって自動算出する場合には、溶接速度及びアーク発生部の風速が速くなるのに応じてガス圧力及びガス流量を自動的に適正化することができるので、溶接速度及び風速によらずシールドガス遮蔽状態を常に良好にすることができる。このために、手動で調節する必要がなく省力化することができる。さらに、溶接速度及び風速が変化しても常にシールドガス遮蔽状態は良好であるので、高品質な溶接が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係るアーク溶接装置の構成図である。
【符号の説明】
【0024】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5a 送給ロール
5b 加圧ロール
6 シールドガス
7 ガスホース/
FC 流量調節器
FR 流量設定回路
Fr 流量設定信号
GB ガスボンベ
GC ガス電磁弁
Gc ガス開閉信号
Ic 送給制御信号
Iw 溶接電流
KD 風速検出器
Kd 風速検出信号
Mc 動作制御信号
PC 圧力調節器
PR 圧力設定回路
Pr 圧力設定信号
PS 溶接電源
RC ロボット制御装置
RM ロボット本体
Sr 溶接速度設定信号
Vw 溶接電圧
Wd 溶接条件データ
WM 送給モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークに電力を供給する溶接電源と、
アーク溶接を行うための溶接トーチと、
溶接速度設定信号を出力する溶接速度設定部と、
この溶接速度設定信号に対応する溶接速度で前記溶接トーチを移動させるトーチ移動手段と、
前記溶接トーチにシールドガスを供給するシールドガス供給手段と、
前記溶接速度設定信号を入力として前記溶接トーチに供給するシールドガスの流量を設定するための流量設定信号を出力する流量設定部と、
この流量設定信号に対応したガス流量に調節する流量調節手段と、
前記溶接速度設定信号を入力としてシールドガスの圧力を設定するための圧力設定信号を出力する圧力設定部と、
この圧力設定信号に対応したガス圧力に調節する圧力調節手段と、
を備えたアーク溶接装置。
【請求項2】
アーク発生部の風速を検出して風速検出信号を出力する風速検出手段をさらに備え、
前記流量設定部は、前記溶接速度設定信号及び前記風速検出信号を入力として前記流量設定信号を出力し、
前記圧力設定部は、前記溶接速度設定信号及び前記風速検出信号を入力として前記圧力設定信号を出力する、請求項1記載のアーク溶接装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−6346(P2009−6346A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168892(P2007−168892)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】