説明

アーク電極による溶融塩電気分解方法および装置

【課題】本発明は、二酸化炭素の排出を抑制し、電極の消耗がない、電気分解により金属を析出させる、金属製錬あるいは精錬するアーク電極による溶融塩電気分解方法及び装置を提供する。
【解決手段】アーク発生トーチ1はトーチ陽極6とトーチノズル7から構成され、トーチノズル7及び溶融塩容器5は切り替えスイッチ8を介して直流電源4の負極に接続されている。アルミナあるいは融点降下剤と混合されたアルミナが固体状態で導電性がない時は、切り替えスイッチ8を直流電源4の負極とトーチノズル7とが接続されるようにしてトーチ陽極6とトーチノズル7の間にアークを発生させ、非移行形アークにより形成されるプラズマジェットを、固体のアルミナあるいは融点降下剤と混合されたアルミナに吹きつけ、これを溶融状態になるまで加熱する。溶融状態が得られた後に切り替えスイッチ8を操作して、直流電源負極が溶融塩容器5と接続されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気分解により金属を析出させる、金属製錬あるいは精錬するアーク電極による溶融塩電気分解方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の溶融塩電気分解法は、固体原料を溶融状態にして、溶融液を正と負の電極に接触させて電界をかけることにより電気分解をおこさせ、溶融塩から金属を析出させている。
【0003】
溶融塩電気分解に使用される電極は、耐食性や耐熱性を持つ導電性物質でなければならないため、グラファイトに代表されるような炭素材が用いられる。
【0004】
金属アルミニウムの電解製錬を例に取れば、アルミニウム酸化物を含む原料をグラファイトの容器の中で溶融状態として、グラファイト容器を負極とし、正極となるグラファイト棒を溶融液体に挿入し、電極間に電界をかけると溶融液中のアルミニウム正イオンが負極である容器グラファイトに向かい移動し負極から電子をもらい金属アルミニウムとなり、溶液中の酸素負イオンは正極に移動し、正極に電子を渡してここで酸素原子となる。
このように従来電気分解法では、正極として炭素電極を用いているために正極に移動してきた酸素負イオンは酸素原子となった後、電極炭素と反応して二酸化炭素となり気相に排出される。本来、電気分解製錬法は還元剤として炭素を利用しているわけではないので、二酸化炭素の発生を伴わずに金属製錬が可能であるであるはずであるが、高温に耐える電極材料として適当な固体材料がないことから、炭素が用いられ、結果として、製錬時に多量の二酸化炭素が発生する環境負荷の大きい製錬法となっている。
また、電極材料が二酸化炭素となり気相に排出されることから、電極の消耗が激しいという問題もある。
【0005】
一方、電極として固体あるいは液体を使用する代わりに導電性を有するアークを用いてチタン酸化物の溶融塩電気分解を行うことは公知技術となっている(特許文献1を参照)。
この公知技術は、固体原料を溶融状態にするために高周波誘導加熱装置を設け、誘導コイルでるつぼを加熱することで、固体原料を溶融状態とする方法を採用している。
【特許文献1】米国特許第4964973号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、二酸化炭素の排出を抑制し、電極の消耗がない、電気分解により金属を析出させる、金属製錬あるいは精錬するアーク電極による溶融塩電気分解方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は電解質液体を電気分解する装置において、電極として固体あるいは液体を使用する代わりに導電性を有するアークを電極とすることにより上記課題を解決したものである。溶融状態になると導電性を有する溶融塩でも固体状態では導電性を発現しない。導電性がない物質との間にはアーク回路を形成することができないので、アーク加熱ができない。
固体試料を溶融状態にするために非移行形アークを発生する機構を備え、非移行形アークで作られる高温プラズマジェットにより溶融塩を得る構成とする。
またアークを用いる電気分解装置において、アークガスとして水素あるいは水素を含む混合ガスを用いることを特徴とする。さらに、アークに、アークと直交するあるいは斜交する交番磁界を印加し、アークを揺動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、二酸化炭素の発生がなく、電極の消耗が抑えられる溶融塩電解を行わせることができる。
またアークのエネルギー密度が高いので、融点降下剤の使用を抑えることができる。
さらに、本発明によれば、固体の、被溶融塩電解される固体原料を、複雑な加熱装置を用いることなく、溶融させることができる。
本発明により、溶融塩電解装置のエネルギー効率を高めることができる。
本発明により、過度に高いアークのエネルギー密度を抑えることができ、原料の蒸発による損失を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のアーク電極による溶融塩電気分解装置の一実施例を説明する。
アークを用いる溶融塩電気分解法を説明するために、アルミニウム酸化物(以下、「アルミナ」と呼ぶ。)から金属アルミニウムを電解製錬する例を用いる。
アルミナの溶融塩電解は一例であり、本発明はアルミナ溶融塩電解に限定されるものではない。
【0010】
図1に示すように、アーク発生トーチ1とアルミナ溶融塩3との間にアーク2は発生している。
前記アーク発生トーチ1は直流電源4の正極に接続され、直流電源4の負極は溶融塩容器5に接続されている。
直流電流は前記アーク発生トーチ1からからアーク2を経て、アルミナ溶融塩3中を流れ、溶融塩容器5から直流電源に戻る。
アルミナ溶融塩3中では負イオンである酸素イオンがアルミナ溶融塩3表面のアーク2との接触点に向かい移動し、アーク2に電子を放出して酸素原子となり、さらに酸素分子となり気相に放出される。
アルミナ溶融塩3中の正イオンであるアルミニウムイオンは陰極である溶融塩容器5に向かって移動し、溶融塩容器5より電子をもらいアルミニウム原子となる。アルミナ溶融塩3とアルミニウム金属との比重の違いにより、アルミニウムは溶融塩容器5底部にたまる。
溶融塩電解に供されるアルミナは溶融状態を得やすくするために融点降下剤が加えられて使用されることが一般的である。
表1にアルミナに融点降下剤を加えて実験室規模でアーク電解を実施した例を示す。
【0011】
【表1】

【0012】
図2は、本発明の固体アルミナあるいは融点降下剤と混合されたアルミナの固体を溶融状態にするためのアーク電極による溶融塩電気分解装置の一例を示す図である。
アーク発生トーチ1はトーチ陽極6とトーチノズル7から構成され、トーチノズル7及び溶融塩容器5は切り替えスイッチ8を介して直流電源4の負極に接続されている。
アルミナあるいは融点降下剤と混合されたアルミナが固体状態で導電性がない時は、切り替えスイッチ8を直流電源4の負極とトーチノズル7とが接続されるようにしてトーチ陽極6とトーチノズル7の間にアークを発生させ、非移行形アークにより形成されるプラズマジェットを、固体のアルミナあるいは融点降下剤と混合されたアルミナに吹きつけ、これを溶融状態になるまで加熱する。
溶融状態が得られた後に切り替えスイッチ8を操作して、直流電源負極が溶融塩容器5と接続されるようにする。
溶融状態が得られたことにより、図1に示すように直流電流は前記アーク発生トーチ1からからアーク2を経て、アルミナ溶融塩3中を流れ、溶融塩容器5から直流電源に戻り、アルミナ溶融塩3中に電流が流れ電気分解が進行する。
【0013】
アーク2を電極として溶融塩電気分解を行う際、アーク形成ガスとしてアルゴンや窒素のような不活性なガスを用いてもよいが、水素あるいは水素を含むガスを用いると電気分解で生成する酸素ガスが水素と反応して水蒸気ガスとなる。
この水素と酸素の化学反応により発生するエネルギーは溶融塩の加熱に利用できる。
この熱を、溶融塩電解の進行に伴い溶融塩浴中に新しく補給される原料の加熱に用いれば、融点降下剤の混合割合を少なく抑えた原料の使用が可能になる。
【0014】
図3は、アークに直交する交番磁場を作用させ、アークを揺動させる装置の原理的構成図である。
たとえば平行な磁場発生電流路9を、アーク2を挟んで設置し、この磁場発生電流路9を交流電源10に接続して交流電流を流すとアーク2と直交する磁場が発生し、その磁場によりアーク電流が力を受け、アーク2は揺動し実質的に広幅アーク化11する。
アーク2が実質的に広幅アーク化11することにより実質的な電極面積が大きくなり電解反応の効率が向上する。また溶融塩表面でのアークの入熱密度が低減することになり、溶融塩表面からの塩の蒸発が抑制される。
【0015】
図4は、アークに斜交する交番磁場を作用させ、アークを揺動させる装置の原理的構成図である。
たとえば高さを違えて並行な磁場発生電流路12を、アーク2を挟んで設置し、この磁場発生電流路12を交流電源10に接続して交流電流を流すとアーク2と斜交する磁場が発生し、その磁場によりアーク電流が力を受け、アーク2は揺動し円錐状に円錐アーク化13する。
アーク2が円錐状に円錐アーク化13することにより実質的な電極面積が大きくなり電解反応の効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】アーク電極による溶融塩電解装置の原理的構成図である。
【図2】本発明の移行型アーク及び非移行形アーク切り替え溶融塩電解装置の原理的構成図である。
【図3】本発明の直交交流磁界で揺動するアークを発生する溶融塩電解装置の原理的構成図である。
【図4】本発明の斜交交流磁場で揺動するアークを発生する溶融塩電解装置の原理的構成図である。
【符号の説明】
【0017】
1 アーク発生トーチ
2 アーク
3 アルミナ溶融塩
4 直流電源
5 溶融塩容器
6 トーチ陽極
7 トーチノズル
8 切り替えスイッチ
9 磁場発生電流路
10 交流電源
11 広幅アーク化
12 磁場発生電流路
13 円錐アーク化

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極として固体あるいは液体を使用する代わりに導電性を有するアークを電極とする電気分解方法において、固体原料を溶融状態にするために非移行形アークによるプラズマジェットを用い、固体原料が溶融状態になった後に非移行形アークから移行型アークに切り替え溶融塩電気分解を行うことを特徴とするアーク電極による溶融塩電気分解方法。
【請求項2】
アークを用いる請求項1の電気分解方法において、アークガスとして水素あるいは水素を含む混合ガスを用いることを特徴とするアーク電極による溶融塩電気分解方法。
【請求項3】
アークを用いる請求項1の電気分解方法において、アークにアークと直交する交番磁界を作用させアークを揺動させることを特徴とする特徴とするアーク電極による溶融塩電気分解方法。
【請求項4】
アークを用いる請求項1の電気分解方法において、アークにアークと斜交する交番磁界を作用させアークを揺動させることを特徴とする特徴とするアーク電極による溶融塩電気分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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