説明

イオナイザーの放電電極

【課題】微細な金属粒子の飛散を防止することができ、イオン発生の安定性を高めることができるイオナイザーの放電電極を提供する。
【解決手段】針状電極を構成する基材金属1の先端部表面に表層金属2を積層する。基材金属1としては、熱伝導率が100W/mK以上の金属を用いることが好ましく、表層金属2としては、その仕事関数が基材金属1の仕事関数より大きい金属で、且つ、融点が1000℃以上の金属を用いることが好ましい。例えば、基材金属1としては、タングステン(W)やタングステン合金(Th−W合金、La−W合金)を用いることが好ましく、表層金属2としては、ニッケル(Ni)が最も好ましく、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)等が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンルーム内等で発生する静電気を除去するために使用されるイオナイザーの放電電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造のクリーンルームでは、相対湿度が静電気の発生し易い40%程度となる低湿度環境であることや、ウェハ及び半導体素子を運搬するために電気抵抗の高いプラスチック容器が多用されていることなどにより、静電気が容易に発生する。この静電気はウェハ表面上に塵埃を付着させたり、ウェハ上のICや半導体素子を破壊するため、製品の歩留まりを低下させている。しかも、最近の半導体素子の高密度化に伴い、クリーンルームの超高清浄度化が望まれると共に半導体素子の静電気耐性も低下しているため、この様な静電気による生産障害がますます問題となっている。
【0003】
そこで、従来より、上記のようなクリーンルームにおける静電気を除去する対策として、イオナイザーが利用されている。このイオナイザーでは、これに設けられた電極に高電圧を印加してコロナ放電を起こさせ、その時発生するイオンによって帯電体上の電荷を中和させて除電を行っている。
【0004】
しかしながら、上記のようなコロナ放電式イオナイザーにおいては、その針状電極が摩耗して、微細な金属粒子が飛散することが問題になっていた。そこで、本出願人は、先に特許文献1に示すような、タングステン電極の表面がニッケルに被覆された積層構造を有する針状のイオン発生電極を備えたクリーンルーム用イオナイザーを提案した。
【特許文献1】特許第3321187号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等は、上記のようなクリーンルーム用イオナイザーの放電電極からの発塵のメカニズムについてさらに検討を重ねた結果、以下に述べるような知見を得た。すなわち、本発明者等は、従来の放電電極(トリウム・タングステン合金(Th−W)電極)について摩耗防止効果を調べたところ、図4に示すような結果が得られた。なお、試験条件は、上記の放電電極を、印加電圧:15kV、放電電流:3μA、正負一対の電極を持つ直流パルスタイプのイオナイザーで約100時間使用し、超音波洗浄したものである。また、図4(A)〜(C)は、走査型電子顕微鏡(日本電子製 JSM−840、倍率:175倍)により電極の先端部を撮影したものである。
【0006】
図4(B)及び図4(C)に示すように、正極は負極に比べて明らかに摩耗が著しいことが分かった。これは、正極においては、腐食を伴う化学スパッタリングが支配的であるためであると考えられる。すなわち、正極は、酸素イオンのスパッタを受けるため、表層部分に脆弱な酸化膜(腐食層)が形成され、それが再度スパッタを受けるため、より早くスパッタリングが進行するものと考えられる。
【0007】
一方、図4(C)に示すように、負極はあまり摩耗していないことから、負極においては物理スパッタリングが支配的であると考えられる。また、電極の摩耗により電極の先端形状が図4(B)に示すように丸くなることにより、安定に放電しにくくなり、イオン発生が不安定になると考えられる。
【0008】
そこで、本発明者等は、イオンのスパッタリングにより電極自身が飛散すること(電極の摩耗)が、電極からの発塵の原因の1つであるとの知見に基づいて、針状電極の摩耗を防止することにより微細な金属粒子の飛散を防止することができ、また、安定した放電によりイオン発生の安定性を高めることができる放電電極の研究を重ねた。
【0009】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、針状電極の摩耗を防止することにより微細な金属粒子の飛散を防止することができ、また、安定した放電によりイオン発生の安定性を高めることができるイオナイザーの放電電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載のイオナイザーの放電電極は、熱伝導率が100W/mK以上の金属を基材金属として針状電極が構成され、その仕事関数が前記基材金属の仕事関数より大きく、且つ、融点が1000℃以上の金属が、表層金属として前記針状電極の先端部表面に積層されていることを特徴とするものである。
【0011】
上記のような構成を有する請求項1に記載の発明によれば、熱伝導率の大きな金属を基材として針状電極を構成し、その先端部の表面に、その仕事関数が基材金属の仕事関数より大きく、且つ、融点が1000℃以上の金属を積層することによって、電極の表面が酸化されにくくなると共に、熱がこもりやすい表層金属の短所を基材金属によってカバーすることができるので、針状電極の摩耗を防止することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のイオナイザーの放電電極において、前記針状電極の先端部が、円錐台形とされていることを特徴とするものである。
上記のような構成を有する請求項2に記載の発明によれば、針状電極の先端部に電界集中が起こることを防止できるので、イオンのスパッタリングがその一点に集中することがない。その結果、電極先端の摩耗をより効果的に防止することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のイオナイザーの放電電極において、前記基材金属が、タングステン又はタングステン合金であり、前記表層金属が、ニッケル、白金、金、パラジウムのいずれかであることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、基材金属及び表層金属を具体的に規定したものであって、これらの金属を用いて放電電極を構成することにより、針状電極の摩耗を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、針状電極の摩耗を防止することにより微細な金属粒子の飛散を防止することができ、また、安定した放電によりイオン発生の安定性を高めることができるイオナイザーの放電電極を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るイオナイザーの放電電極の具体的な実施の形態(以下、実施形態という)を、図面を参照して説明する。
【0016】
(1)第1実施形態
(1−1)構成
(1−1−1)基材金属及び表層金属
本実施形態の放電電極は、図1に示すように、針状電極を構成する基材金属1の先端部表面に表層金属2が積層されて構成されている。前記基材金属1としては、熱伝導率が100W/mK以上の金属を用いることが好ましく、また、前記表層金属2としては、金属の腐食性を示す仕事関数がおよそ5eV以上の化学的に安定な金属(酸化されにくい金属)で、且つ、融点が1000℃以上の金属を用いることが好ましい。
【0017】
続いて、本実施形態に用いられる金属についてより具体的に説明する。すなわち、表1に示した各種金属の物性値において、前記基材金属1としては、熱伝導率が100W/mK以上の金属であって、且つ、表層金属2よりはるかに融点が高い金属を用いることが好ましい。例えば、表1に示したように、基材金属1としては、タングステン(W)やタングステン合金(Th−W合金、La−W合金)を用いることが好ましい。
【表1】

【0018】
一方、前記表層金属2としては、その仕事関数が前記基材金属1の仕事関数より大きい金属、言い換えれば、前記基材金属1より腐食しにくい金属であって、且つ、融点が1000℃以上の金属を用いることが好ましい。例えば、表1に示したように、表層金属2としては、ニッケル(Ni)が最も好ましく、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)等が好ましい。
【0019】
このように、基材金属1の先端部に表層金属2を積層することの意義は、以下の通りである。例えば、仕事関数の大きなニッケル(Ni)は酸化されにくいが、熱伝導率が小さいため電極先端に熱がこもりやすく、Ni単体で電極を構成した場合には摩耗しやすいが、比較的熱伝導率の大きなタングステン(W)を基材とし、その上にNiを積層することで、熱がこもりやすいNiの短所を基材のWがカバーして摩耗を防止することができるからである。
【0020】
(1−1−2)放電電極の製造方法
続いて、本実施形態の放電電極の製造方法について説明する。すなわち、本実施形態においては、上記基材金属1より融点の低い表層金属2を該基材金属1の表面に3〜6μmの厚さにメッキしてから、酸素を含まないガス中で高温(800〜900℃)にして焼き締め、段階的に温度を下げて、表層金属2と基材金属1を密着させる。
【0021】
(1−2)作用・効果
上記のような製造方法により作製した本実施形態の放電電極(表層金属:Ni、基材金属:La−W合金)と、従来の放電電極(Th−W)について、摩耗防止効果を調べたところ、図2に示すような結果が得られた。なお、試験条件は、上記の放電電極を、印加電圧:15kV、放電電流:3μA、正負一対の電極を持つ直流パルスタイプのイオナイザーで使用し、従来の放電電極については100時間使用し、本実施形態の放電電極については1年間使用した。図2から明らかなように、本実施形態の放電電極は、従来の放電電極に比べて、著しく摩耗が少ないことが分かる。
【0022】
このように本実施形態によれば、熱伝導率の大きな金属を基材とし、その上に、その仕事関数が基材金属の仕事関数より大きく、且つ、融点が1000℃以上の金属を積層することによって、電極の表面が酸化されにくくなると共に、熱がこもりやすい表層金属の短所を基材金属によってカバーすることができるので、針状電極の摩耗を防止することができる。
【0023】
(2)第2実施形態
本実施形態の放電電極は、図3に示すように、上記第1実施形態の変形例であって、電界の一点集中を避けるため、積層構造の電極の先端を円錐台形としたことを特徴とするものである。先の尖った電極は、その先端に電界集中が起こり、イオンのスパッタリングがその一点に集中するため、電極先端が摩耗しやすくなるからである。
【0024】
上記のような構成を有する本実施形態の放電電極によれば、電極の先端を円錐台形とすることにより、先端部に電界集中が起こることを防止できるので、イオンのスパッタリングがその一点に集中することがない。その結果、電極先端の摩耗をより効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るイオナイザーの放電電極の第1実施形態の構成を示す断面図。
【図2】本実施形態の放電電極(表層金属:Ni、基材金属:La−W合金)と、従来の放電電極(Th−W)について、摩耗防止効果を調べた結果を示す写真であって、(A)は従来の放電電極、(B)は本実施形態の放電電極。
【図3】本発明に係るイオナイザーの放電電極の第2実施形態の構成を示す断面図。
【図4】従来の放電電極(トリウム・タングステン合金(Th−W)電極)について摩耗防止効果を調べた結果を示す写真であって、(A)は未使用電極、(B)は超音波洗浄後の正電極、(C)は超音波洗浄後の負電極。
【符号の説明】
【0026】
1…基材金属
2…表層金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が100W/mK以上の金属を基材金属として針状電極が構成され、
その仕事関数が前記基材金属の仕事関数より大きく、且つ、融点が1000℃以上の金属が、表層金属として前記針状電極の先端部表面に積層されていることを特徴とするイオナイザーの放電電極。
【請求項2】
前記針状電極の先端部が、円錐台形とされていることを特徴とする請求項1に記載のイオナイザーの放電電極。
【請求項3】
前記基材金属が、タングステン又はタングステン合金であり、前記表層金属が、ニッケル、白金、金、パラジウムのいずれかであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のイオナイザーの放電電極。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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