説明

イオナイザ及び除電方法

【課題】イオンの発生効率を向上させることにより、除電領域における静電気の除電効率を高める。
【解決手段】イオナイザ10は、2つの針電極18a、18bと、針電極18aに第1の交流電圧を印加すると共に、針電極18bに第1の交流電圧の周波数よりも高い周波数の第2の交流電圧を印加する高電圧発生部16とを有し、針電極18a、18bの近傍に発生した正イオン又は負イオンを物体12に放出することにより、物体12の静電気を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除電領域の静電気を除去するイオナイザ及び除電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コロナ放電を利用して除電領域(例えば、静電気が帯電した物体)の静電気を除去する除電装置としてのイオナイザが知られている(特許文献1〜3参照)。前記イオナイザは、電極への高電圧の印加に起因したコロナ放電により発生する正イオン又は負イオンを前記除電領域に放出し、該除電領域の前記静電気を前記正イオン又は前記負イオンにより除去する。
【0003】
ここで、特許文献1〜3のイオナイザについて、図8A〜図12Bを参照しながら説明する。なお、図8A〜図12Bでは、説明の容易化のために、一部の構成要素を誇張化して図示し、あるいは、模式化して図示する。
【0004】
特許文献1のイオナイザは、図8Aに示すように、針電極100と、帯電した物体104及び針電極100の先端部間に配置された接地電極102とを備えている。例えば、図8Bに示す周期T及びデューティ比50%の交流電圧(+Vの印加電圧と−Vの印加電圧が交互に繰り返される高電圧)を針電極100に印加した場合、針電極100と、該針電極100に対向する接地電極102との間で図示しない電界(電気力線)が形成される。これにより、針電極100の先端部に電界集中が発生し、この電界集中に起因したコロナ放電によって、交流電圧の正の半周期(+Vの印加電圧)では、前記先端部の近傍に正イオン106が発生し(図9A参照)、一方で、交流電圧の負の半周期(−Vの印加電圧)では、前記先端部の近傍に負イオン108が発生する(図9B参照)。
【0005】
従って、正イオン106又は負イオン108が2つの接地電極102の間(イオナイザに設けられた開口)を通過して物体104に向かって放出されることにより、該物体104に帯電した電荷(静電気)が除去される。
【0006】
なお、図8Bに示すように、前記交流電圧は、時点t50、t51、t52、t53、t54、t55のタイミングで正負の極性が切り替わる。
【0007】
特許文献2のイオナイザは、図10に示すように、物体104からイオナイザを視たときに、2つの接地電極102間に2つの針電極100a、100bが配置されている。この場合、一方の針電極100aに+Vの直流電圧、他方の針電極100bに−Vの直流電圧を印加すると、針電極100aと接地電極102との間、針電極100bと接地電極102との間に加え、針電極100aと針電極100bとの間でも図示しない電界(電気力線)が形成される。この結果、針電極100a、100bの各先端部には、大きな電界集中が発生し、これらの電界集中に起因したコロナ放電によって、針電極100aの先端部の近傍に正イオン106が大量に発生する一方、針電極100bの先端部の近傍に負イオン108が大量に発生する。正イオン106及び負イオン108は、各接地電極102間の開口を通過して物体104に向かってそれぞれ放出されて、該物体104の静電気を除去する。
【0008】
特許文献3のイオナイザは、図11Aに示すように、接地電極102(図8A及び図9A〜図10参照)を不要とした構成である。この場合、一方の針電極100aには、図11Bに示す交流電圧が印加され、他方の針電極100bには、前記交流電圧に対して180°位相が反転した図11Cの交流電圧が印加される。なお、図11B及び図11Cにおいて、各交流電圧は、時点t60、t61、t62、t63、t64、t65のタイミングで正負の極性が切り替わる。
【0009】
これにより、例えば、図12Aに示すように、針電極100aに+Vの印加電圧(図11B参照)が印加されると共に、針電極100bに−Vの印加電圧(図11C参照)が印加されたときに、各針電極100a、100b間に図示しない電界(電気力線)が形成され、針電極100a、100bの各先端部には、大きな電界集中が発生する。これらの電界集中に起因したコロナ放電によって、針電極100aの先端部の近傍には正イオン106が大量に発生する一方、針電極100bの先端部の近傍には負イオン108が大量に発生する。正イオン106は、前記電気力線に沿い針電極100bに向かって移動すると共に、負イオン108は、前記電気力線に沿い針電極100aに向かって移動する。
【0010】
そして、時点t61、t63、t65における正負の切替のタイミングで、針電極100a、100bの電圧レベルが0になると、図12Bに示すように、針電極100a、100b間の正イオン106及び負イオン108は、物体104に向かって放出され、該物体104の静電気を除去する。なお、図12A及び図12Bにおいて、正イオン106又は負イオン108を囲む破線領域は、正イオン106の群又は負イオン108の群を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6693788号明細書
【特許文献2】特開2008−288072号公報
【特許文献3】国際公開第2007/122742号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1のイオナイザでは、図9A及び図9Bに示すように、針電極100と接地電極102との間に形成された図示しない電気力線に沿って、正イオン106や負イオン108が接地電極102に誘導され吸収されるので、物体104にまで到達する正イオン106又は負イオン108の数が減少する。
【0013】
一方、図10に示す特許文献2のイオナイザは、特許文献1のイオナイザ(図8A〜図9B参照)と比較して、針電極100a、100bの先端部における電界集中が大きいので、正イオン106及び負イオン108を大量に発生させることができる。しかしながら、特許文献1の場合と同様に、正イオン106や負イオン108が接地電極102にそれぞれ誘導され吸収されるという問題がある。また、針電極100bに向かって正イオン106が移動すると共に、針電極100aに向かって負イオン108が移動するので、移動中の正イオン106及び負イオン108が結合し、負イオン108が針電極100aに誘導及び吸収され、さらには、正イオン106が針電極100bに誘導及び吸収される。この結果、正イオン106及び負イオン108を大量に発生させても、物体104の静電気を除去するために必要な正イオン106及び負イオン108の数を増加させることはできない。従って、特許文献2のイオナイザでは、大量のイオンを無駄に発生させていることになる。
【0014】
これに対して、図11A〜図12Bに示す特許文献3のイオナイザでは、接地電極102(図8A及び図9A〜図10参照)を不要としたので、該接地電極102への正イオン106及び負イオン108の誘導及び吸収は回避することができる。しかしながら、時点t60、t61、t62、t63、t64、t65のタイミングで交流電圧の正負を切り替えるときに、正イオン106及び負イオン108を物体104に向かって共に放出させると共に、しかも、その直後に針電極100a、100bに印加される交流電圧の極性が切り替わるので、物体104に向かう正イオン106及び負イオン108が結合したり、極性切替直後の針電極100a、100bに正イオン106及び負イオン108が誘導及び吸収されてしまい、結果的に、物体104に向かって放出される正イオン106及び負イオン108の数が減少するという問題がある。
【0015】
このように、特許文献1〜3のイオナイザでは、物体104の静電気の除去に必要なイオンの発生効率(イオナイザからのイオンの放出効率)が低く、従って、前記静電気の除去効率が低いという問題がある。
【0016】
上記の問題に対しては、例えば、針電極100、100a、100bの背後に接地電極を配置して、針電極100、100a、100bの先端部の電界集中をさらに高めたり、あるいは、針電極100、100a、100bの電圧レベルを上昇させることが考えられる。しかしながら、前記背後の接地電極を配置するためのスペースを確保する必要があるので、イオナイザが大型化するという問題がある。また、電圧レベルを上昇させてイオンを大量に発生させても、上述した特許文献1〜3の各問題により、除電効率を高めることができない。また、電圧レベルを上げるためには、より高い電圧を発生する高電圧発生部が必要になるので、この場合でも、イオナイザが大型化するという問題がある。
【0017】
本発明は、前記の問題に鑑みなされたものであり、イオンの発生効率(イオナイザからのイオンの放出効率)を向上させることにより、除電領域における静電気の除電効率を高めることができるイオナイザ及び除電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係るイオナイザは、少なくとも2つの電極と、前記2つの電極のうち、第1の電極に第1の交流電圧を印加すると共に、第2の電極に前記第1の交流電圧の周波数よりも高い周波数の第2の交流電圧を印加する高電圧発生部とを有することを特徴としている。
【0019】
また、本発明に係る除電方法は、少なくとも2つの電極のうち、第1の電極に第1の交流電圧を印加すると共に、第2の電極に前記第1の交流電圧の周波数よりも高い周波数の第2の交流電圧を印加することにより、正イオン又は負イオンを発生し、発生した前記正イオン又は前記負イオンを除電領域に放出することにより、前記除電領域の静電気を除去することを特徴としている。
【0020】
[発明が解決しようとする課題]の項目でも説明したように、特許文献1〜3のイオナイザでは、コロナ放電に起因して正イオン又は負イオンを大量に発生させても、接地電極102(図8A、図9A、図9B及び図10参照)の存在や、極性切替のタイミングにおける正イオン106及び負イオン108(図12B参照)の放出によって、実際に除電領域(物体104)に向かって放出される正イオン106及び負イオン108の数が減少するので、該除電領域における静電気の除電効率が低いという問題があった。
【0021】
そこで、本発明では、前記第1の電極に印加される前記第1の交流電圧の周波数に対して、前記第2の電極に印加される前記第2の交流電圧の周波数を高く設定している。
【0022】
これにより、前記第1の電極及び前記第2の電極に印加される交流電圧の極性によって、前記第1の電極及び前記第2の電極に印加される交流電圧が互いに異なる極性となる時間帯(一方の電極が正極性となり、他方の電極が負極性となる時間帯)と、前記第1の電極及び前記第2の電極に印加される交流電圧が互いに同じ極性となる時間帯(一方の電極及び他方の電極がそれぞれ正極性又は負極性となる時間帯)とが発生する。
【0023】
この場合、前記互いに異なる極性となる時間帯では、各電極の近傍に前記正イオン及び前記負イオンがそれぞれ発生する。また、前記互いに同じ極性となる時間帯では、前記各電極の極性と、前記各電極の近傍に発生したイオンの極性とが互いに同じ極性になるので、前記各電極と前記イオンとの間に作用する斥力によって、前記イオンは、イオナイザから前記除電領域に向かって放出される。
【0024】
つまり、本発明では、接地電極102が不要であるため、該接地電極102にイオンが誘導され吸収されて、前記除電領域に向かって放出されるイオンの数が減少するという特許文献1及び2の問題を回避することができる。
【0025】
また、前記正イオン及び前記負イオンを発生する時間帯とは別途に、前記正イオン又は前記負イオンを放出する時間帯が設けられているので、極性切替のタイミングで前記正イオン又は前記負イオンを放出させる必要はなく、従って、発生した前記正イオン又は前記負イオンの数を減少させることなく、確実に前記除電領域に向けて放出させることができる。
【0026】
さらに、本発明では、前述したように、前記第2の交流電圧の周波数を、前記第1の交流電圧の周波数よりも高く設定している。そのため、上述した互いに異なる極性となる時間帯(正イオン及び負イオンを発生させる時間帯)と、互いに同じ極性となる時間帯(発生した正イオン又は負イオンを除電空間に放出させる時間帯)とは、いずれも、前記第1の交流電圧における正極性の時間又は負極性の時間よりも短時間となる場合がある。しかしながら、本発明では、これらの時間帯を交互に繰り返すことで、極性切替後の電極に前記正イオン又は前記負イオンが誘導され吸収される前に、前記斥力を利用して前記正イオン又は前記負イオンを前記除電領域に向かってそのまま放出させることができる。
【0027】
従って、本発明では、特許文献3の問題も回避することができる。
【0028】
このように、本発明では、特許文献1〜3と比較して、前記斥力により前記除電領域に向かって前記正イオン又は前記負イオンを放出させる時間帯において、前記正イオン又は前記負イオンを無駄なく且つ確実に前記除電領域に放出させることができる。これにより、前記除電領域の前記静電気を効率よく除電することができる。
【0029】
つまり、本発明によれば、特許文献1〜3のように、イオンを大量に発生させなくても、前記第1の交流電圧の周波数と前記第2の交流電圧の周波数とを、上記の関係に設定することにより、発生させた前記正イオンや前記負イオンを確実に前記除電領域に放出させて、前記静電気の除去効率を高めるようにしている。そのため、前記第1の電極及び前記第2の電極の背後に接地電極を配置し、あるいは、前記第1の電極及び前記第2の電極に印加される交流電圧の電圧レベルを高くすることも不要となる。
【0030】
従って、本発明では、イオンの発生効率(イオンの放出効率)を改善することにより、前記除電領域における前記静電気の除電効率を高めることができる。これにより、イオナイザの小型化も実現することが可能となる。
【0031】
ここで、正の整数をn(n=1、2、3、…)としたときに、前記第2の交流電圧の周波数を、前記第1の交流電圧の周波数に対して3n逓倍の周波数に設定することで、上述した正イオン及び負イオンを発生させる時間帯と、正イオン又は負イオンを除電空間に放出させる時間帯とが交互に繰り返されることになるので、無駄な前記正イオンや前記負イオンの発生を回避して、前記静電気の除去を効率よく行うことができる。
【0032】
また、前記高電圧発生部は、前記第1の交流電圧における正負の切替のタイミングに対して、前記第2の交流電圧における正負の切替のタイミングをずらした状態で、該第2の交流電圧を前記第2の電極に印加してもよい。
【0033】
これにより、前記正イオン及び前記負イオンを発生させる時間帯と、前記除電領域に前記正イオン又は前記負イオンを放出させる時間帯とが、交互に繰り返されることを確実に実現することができる。この結果、前記正イオン及び前記負イオンの発生効率(放射効率)が高まり、前記静電気の除去効率を著しく向上させることが可能となる。このように、前記除去効率が向上することで、イオナイザの信頼性も高めることができる。
【0034】
そして、前記第1の電極及び前記第2の電極が針電極であれば、当該各針電極の先端部に大きな電界集中が発生するので、これらの電界集中に起因したコロナ放電によって前記正イオン及び前記負イオンを容易に発生させることができる。すなわち、前述したように、本発明は、接地電極102を不要とする構成であるので、前記第1の電極に印加される前記第1の交流電圧と、前記第2の電極に印加される前記第2の交流電圧との間の電位差によって、電界集中の程度や前記正イオン及び前記負イオンの発生数が決まる。そのため、特許文献1〜3と比較して、前記第1の電極及び前記第2の電極に印加する交流電圧の電圧レベルを低くしても、前記正イオン及び前記負イオンを発生させることができる。
【0035】
そして、前記高電圧発生部は、前記除電領域のイオンバランスを調整するために、前記第2の交流電圧のデューティ比を調整可能に構成するれば、前記静電気の除去を効率よく行うことが可能となる。なお、前記イオンバランスの調整は、イオナイザによる前記除電領域での前記静電気の除去作業前に予め行っておくことが望ましい。
【0036】
そして、本発明に係るイオナイザは、前記高電圧発生部を制御して、前記第1の電極に前記第1の交流電圧を印加させると共に、前記第2の電極に前記第2の交流電圧を印加させるための制御部をさらに有することが望ましい。これにより、前記制御部からの制御信号に従って、前記高電圧発生部が前記第1の電極に前記第1の交流電圧を印加すると共に、前記第2の電極に前記第2の交流電圧を印加することが可能となる。
【0037】
また、前記高電圧発生部は、前記第1の交流電圧の印加により前記第1の電極が正極性となる時間帯において、前記第2の電極が負極性となる時間帯では該第2の電極に印加する前記第2の交流電圧の電圧レベルを略0レベルとし、一方で、前記第1の交流電圧の印加により前記第1の電極が負極性となる時間帯において、前記第2の電極が正極性となる時間帯では該第2の電極に印加する前記第2の交流電圧の電圧レベルを略0レベルとすることも可能である。
【0038】
このように、前記第1の電極の極性に対して前記第2の電極の極性が反対極性となる予定の時間帯において、該第2の電極に印加する前記第2の交流電圧の電圧レベルを略0レベル(グランドレベル)とすることにより、前記第1の電極及び前記第2の電極の双方に電圧を印加する場合と比較して、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電位差が小さくなるので、前記高電圧発生部の負担を軽減することができる。
【0039】
前記電位差が小さくなれば、イオンの発生量も減少するが、該発生量が減少しても、ある程度の除電効果が期待できる場合には、前記電圧レベルを積極的にグランドレベルにすることで、前記第1の電極及び前記第2の電極の摩耗(前記針電極の先端部の摩耗)を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、イオンの発生効率(イオンの放出効率)を改善することにより、除電領域における静電気の除電効率を高めることができる。これにより、イオナイザの小型化も実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施形態に係るイオナイザの概略ブロック図である。
【図2】図2Aは、第1の電極に印加される第1の交流電圧の波形を示すタイムチャートであり、図2Bは、第2の電極に印加される第2の交流電圧の波形を示すタイムチャートであり、図2Cは、イオナイザの動作モードを示すタイムチャートである。
【図3】図3Aは、図2CのパターンAでのイオナイザの動作を示す説明図であり、図3Bは、図2CのパターンBでのイオナイザの動作を示す説明図である。
【図4】図4Aは、図2CのパターンCでのイオナイザの動作を示す説明図であり、図4Bは、図2CのパターンDでのイオナイザの動作を示す説明図である。
【図5】図5Aは、第1の電極に印加される第1の交流電圧の波形を示すタイムチャートであり、図5Bは、第2の電極に印加される第2の交流電圧の波形を示すタイムチャートであり、図5Cは、イオナイザの動作パターンを示すタイムチャートである。
【図6】図6Aは、第1の電極に印加される第1の交流電圧の波形を示すタイムチャートであり、図6Bは、第2の電極に印加される第2の交流電圧の波形を示すタイムチャートであり、図6Cは、イオナイザの動作パターンを示すタイムチャートである。
【図7】図7Aは、図6CのパターンA´でのイオナイザの動作を示す説明図であり、図7Bは、図6CのパターンC´でのイオナイザの動作を示す説明図である。
【図8】図8Aは、特許文献1のイオナイザを模式的に示す説明図であり、図8Bは、図8Aの針電極に印加される交流電圧の波形を示すタイムチャートである。
【図9】図9Aは、図8Aの針電極に正極性の印加電圧を印加したときのイオナイザの動作を示す説明図であり、図9Bは、図8Aの針電極に負極性の印加電圧を印加したときのイオナイザの動作を示す説明図である。
【図10】特許文献2のイオナイザを模式的に示す説明図である。
【図11】図11Aは、特許文献3のイオナイザを模式的に示す説明図であり、図11Bは、図11Aの一方の針電極に印加される交流電圧の波形を示すタイムチャートであり、図11Cは、図11Aの他方の針電極に印加される交流電圧の波形を示すタイムチャートである。
【図12】図12Aは、図11Aの針電極に交流電圧が印加されているときのイオナイザの動作を示す説明図であり、図12Bは、交流電圧の正負の切替時におけるイオナイザの動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明に係るイオナイザの好適な実施形態を、除電方法との関連で、図1〜図7Bを参照しながら説明する。なお、図1〜図7Bにおいては、説明の容易化のために、一部の構成要素を誇張化して図示し、あるいは、模式化して図示する。
【0043】
本実施形態に係るイオナイザ10は、樹脂フィルム、ゴム、半導体ウェーハ又は電子基板等の物体(ワーク)12に帯電した静電気(電荷)を除去する除電装置であって、コントローラ(制御部)14と、高電圧発生部16と、針電極18a、18bとを有する。
【0044】
針電極18a、18bは、並行に、且つ、先端部が物体12に指向した状態で配置されている。高電圧発生部16は、一方の針電極(第1の電極)18aに第1の交流電圧を印加すると共に、他方の針電極(第2の電極)18bに第2の交流電圧を印加する交流高電圧発生器である。コントローラ14は、高電圧発生部16に制御信号を出力することにより、該高電圧発生部16から針電極18a、18bに対する交流電圧の印加を制御する。
【0045】
本実施形態に係るイオナイザ10の構成は、上述した通りであり、次に、本実施形態の特徴的な機能(除電方法)について、図2A〜図7Bを参照しながら説明する。
【0046】
図2Aは、一方の針電極18aに印加される交流電圧の波形を示し、図2Bは、他方の針電極18bに印加される交流電圧の波形を示し、図2Cは、図2Aの交流電圧が針電極18aに印加されると共に、図2Bの交流電圧が針電極18bに印加されたときのイオナイザ10の動作モードの時間変化を示している。
【0047】
ここで、針電極18aに印加される第1の交流電圧は、周期Ta(周波数fa=1/Ta)の交流電圧であり、一方で、針電極18bに印加される第2の交流電圧は、周期Tb(周波数fb=1/Tb)の交流電圧である。この場合、前記第1の交流電圧と前記第2の交流電圧との間では、Ta=3Tb(fb=3fa)となるように、周期及び周波数が設定されている。
【0048】
また、前記第1の交流電圧は、時点t0、t4、t8、t12、…のタイミングで正負の極性(+V、−Vの電圧レベル)が切り替わる。一方、前記第2の交流電圧は、時点t1、t2、t3、t5、t6、t7、t9、t10、t11、t13、t14、t15、…のタイミングで正負の極性(+V、−Vの電圧レベル)が切り替わる。すなわち、本実施形態では、前記第1の交流電圧における正負の極性切替のタイミングに対して、前記第2の交流電圧における正負の極性切替のタイミングをずらしている。これにより、一方の針電極18aと他方の針電極18bとに対して、正負の極性切替のタイミングが互いにずれた交流電圧がそれぞれ印加されることになる。
【0049】
なお、上述した第1の交流電圧及び第2の交流電圧の周期Ta、Tb(周波数fa、fb)や正負の極性切替のタイミング(時点t0〜t15)や電圧レベル(+V、−V)は、コントローラ14において全て決定(設定)される。従って、コントローラ14は、これらの決定内容(設定内容)を示す制御信号を高電圧発生部16に出力し、高電圧発生部16は、前記制御信号の示す設定内容に沿って、第1の交流電圧を一方の針電極18aに印加すると共に、第2の交流電圧を他方の針電極18bに印加する。
【0050】
そして、第1の交流電圧が針電極18aに印加されると共に、第2の交流電圧が針電極18bに印加されることにより、イオナイザ10の動作モードは、図2Cに示すように、第1の交流電圧の極性と、第2の交流電圧の極性とによって、上記の各タイミング(時点)毎に切り替わる。なお、動作モードとは、後述するように、イオナイザ10における正イオン20及び負イオン22(図3A〜図4B参照)の発生パターン又は放出パターンをいう。
【0051】
ここで、動作モードとしてのパターンAは、一方の針電極18aに正極性電圧(+Vの印加電圧)が印加されると共に、他方の針電極18bに負極性電圧(−Vの印加電圧)が印加される場合を示す。パターンBは、一方の針電極18a及び他方の針電極18bに正極性電圧(+Vの印加電圧)が共に印加される場合を示す。パターンCは、一方の針電極18aに負極性電圧(−Vの印加電圧)が印加されると共に、他方の針電極18bに正極性電圧(+Vの印加電圧)が印加される場合を示す。パターンDは、一方の針電極18a及び他方の針電極18bに負極性電圧(−Vの印加電圧)が共に印加される場合を示す。
【0052】
なお、図2Cでは、時点t0から時点t15までの各時点毎に、イオナイザ10の動作モードが、A→B→A→B→C→D→C→D→A→B→A→B→C→D→C→D→…の順に切り替わる様子を図示している。
【0053】
次に、パターンA〜Dにおけるイオナイザ10の動作について、図3A〜図4Bを参照しながら説明する。
【0054】
図3AのパターンAでは、正極性(+Vの印加電圧)の針電極18aと、負極性の針電極18bとの間に図示しない電界(電気力線)が形成され、針電極18a、18bの各先端部には、それぞれ電界集中が発生する。これらの電界集中によって前記各先端部の近傍にコロナ放電が発生し、発生した各コロナ放電に起因して、針電極18aの先端部の近傍には正イオン20が発生する一方、針電極18bの先端部の近傍には負イオン22が発生する。正イオン20は、前記電気力線に沿って負極性の針電極18bに向うと共に、負イオン22は、前記電気力線に沿って正極性の針電極18aに向う。なお、図3A中の正イオン20又は負イオン22を囲む破線は、正イオン20又は負イオン22の群を示している。
【0055】
図3BのパターンBでは、針電極18a、18bが共に正極性(+Vの印加電圧)となり、これらの針電極18a、18bと図示しないアースとの間で電界(電気力線)が形成され、針電極18a、18bの各先端部における電界集中に起因して前記各先端部の近傍にコロナ放電が発生する。前記各コロナ放電に起因して針電極18a、18bの先端部の近傍に正イオン20が発生する一方、パターンBの直前の時間帯であるパターンA(図2C参照)において発生した負イオン22は、各針電極18a、18bの先端部に誘導され吸収される。この場合、発生した正イオン20及びパターンAで発生した正イオン20の極性と、針電極18a、18bに印加される交流電圧(+V)の極性とが同じ極性であるため、正イオン20の群と針電極18a、18bとの間で斥力が作用し、この結果、正イオン20の群は、前記斥力によって、イオナイザ10の図示しない開口を通過して物体12に向かって放出される。従って、物体12に到達した正イオン20の群は、該物体12に帯電した静電気を効率よく且つ確実に除去することができる。
【0056】
図4AのパターンCでは、負極性(−Vの印加電圧)の針電極18aと、正極性の針電極18bとの間に図示しない電界(電気力線)が形成され、針電極18a、18bの各先端部には、それぞれ電界集中が発生する。これらの電界集中によって前記各先端部の近傍にコロナ放電が発生し、発生した各コロナ放電に起因して、針電極18aの先端部の近傍には負イオン22が発生する一方、針電極18bの先端部の近傍には正イオン20が発生する。負イオン22は、前記電気力線に沿って正極性の針電極18bに向うと共に、正イオン20は、前記電気力線に沿って負極性の針電極18aに向う。
【0057】
図4BのパターンDでは、針電極18a、18bが共に負極性(−Vの印加電圧)となり、これらの針電極18a、18bと図示しないアースとの間で電界(電気力線)が形成され、針電極18a、18bの各先端部における電界集中に起因して前記各先端部の近傍にコロナ放電が発生する。前記各コロナ放電に起因して針電極18a、18bの先端部の近傍に負イオン22が発生する一方、パターンDの直前の時間帯であるパターンC(図2C参照)において発生した正イオン20は、各針電極18a、18bの先端部に誘導され吸収される。この場合、発生した負イオン22及びパターンCで発生した負イオン22の極性と、針電極18a、18bに印加される交流電圧(−V)の極性とが同じ極性であるため、負イオン22の群と針電極18a、18bとの間で斥力が作用し、この結果、負イオン22の群は、前記斥力によって、イオナイザ10の開口を通過して物体12に向かって放出される。従って、物体12に到達した負イオン22の群は、該物体12に帯電した静電気を効率よく且つ確実に除去することができる。
【0058】
このように、本実施形態では、図2Cに示すように、各タイミング(時点)毎に、イオナイザ10の動作モード(パターンA〜D)が切り替わるので、物体12が正又は負のいずれの極性に帯電していても、イオナイザ10から放出される正イオン20の群、又は、負イオン22の群によって、物体12の静電気(正又は負の電荷)を効率よく除去することが可能となる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係るイオナイザ10及び除電方法によれば、一方の針電極18aに印加される第1の交流電圧の周波数faに対して、他方の針電極18bに印加される第2の交流電圧の周波数fbを高く設定している(fb>fa)。
【0060】
これにより、針電極18a、18bに印加される交流電圧の極性によって、針電極18a、18bに印加される交流電圧が互いに異なる極性となる時間帯(一方の針電極が正極性となり、他方の針電極が負極性となる時間帯としてのパターンA、C)と、針電極18a、18bに印加される交流電圧が互いに同じ極性となる時間帯(一方の針電極及び他方の針電極がそれぞれ正極性又は負極性となる時間帯としてのパターンB、D)とが発生する。
【0061】
この場合、パターンA、Cでは、各針電極18a、18bの近傍に正イオン20及び負イオン22がそれぞれ発生する。また、パターンB、Dでは、各針電極18a、18bの極性と、各針電極18a、18bの近傍に発生したイオンの極性とが互いに同じ極性になるので、各針電極18a、18bと正イオン20又は負イオン22との間に作用する斥力によって、正イオン20又は負イオン22は、イオナイザ10から物体12に向かって放出される。
【0062】
つまり、本実施形態では、接地電極102(図8A及び図9A〜図10参照)が不要であるため、該接地電極102に正イオン106又は負イオン108が誘導され吸収されて、物体104に向かって放出されるイオンの数が減少するという特許文献1及び2の問題を回避することができる。
【0063】
また、正イオン20及び負イオン22を発生する時間帯(パターンA、C)とは別途に、正イオン20又は負イオン22を物体12に放出する時間帯(パターンB、D)が設けられているので、極性切替のタイミングで正イオン20又は負イオン22を放出させる必要はなく、従って、発生した正イオン20又は負イオン22の数を減少させることなく、確実に物体12に向けて放出させることができる。
【0064】
さらに、本実施形態では、前述したように、第2の交流電圧の周波数fbを、第1の交流電圧の周波数faよりも高く設定している。そのため、上述したパターンA〜Dがいずれも第1の交流電圧における正極性の時間又は負極性の時間よりも短時間となる(場合がある)。しかしながら、本実施形態では、パターンA、Cと、パターンB、Dとを交互に繰り返すことで、極性切替後の針電極18a、18bに正イオン20又は負イオン22が誘導され吸収される前に、前記斥力を利用して正イオン20又は負イオン22を物体12に向かってそのまま放出させることができる。
【0065】
従って、本実施形態では、特許文献3の問題も回避することができる。
【0066】
このように、本実施形態では、特許文献1〜3と比較して、前記斥力により物体12に向かって正イオン20又は負イオン22を放出させる時間帯(パターンB、D)において、正イオン20又は負イオン22を無駄なく且つ確実に物体12に放出させることができる。これにより、物体12の静電気を効率よく除電することができる。
【0067】
つまり、本実施形態によれば、特許文献1〜3のように、イオンを大量に発生させなくても、第1の交流電圧の周波数faと第2の交流電圧の周波数fbとを、上記の関係に設定することにより、発生させた正イオン20や負イオン22を確実に物体12に放出させて、静電気の除去効率を高めるようにしている。そのため、針電極18a、18bの背後に接地電極を配置し、あるいは、針電極18a、18bに印加される交流電圧の電圧レベルを高くすることも不要となる。
【0068】
従って、本実施形態では、イオンの発生効率(イオンの放出効率)を改善することにより、物体12における静電気の除電効率を高めることができる。これにより、イオナイザ10の小型化も実現することが可能となる。
【0069】
また、高電圧発生部16は、第1の交流電圧における正負の切替のタイミングに対して、第2の交流電圧における正負の切替のタイミングをずらした状態で、該第2の交流電圧を針電極18bに印加するので、正イオン20及び負イオン22を発生させる時間帯(パターンA、C)と、物体12に正イオン20又は負イオン22を放出させる時間帯(パターンB、D)とが、交互に繰り返されることを確実に実現することができる。この結果、正イオン20及び負イオン22の発生効率(放射効率)が高まり、物体12における静電気の除去効率を著しく向上させることが可能となる。このように、除去効率が向上することで、イオナイザ10の信頼性も高めることができる。
【0070】
そして、イオナイザ10は、針電極18a、18bを用いているので、当該各針電極18a、18bの先端部に大きな電界集中を発生させて、これらの電界集中に起因したコロナ放電によって正イオン20及び負イオン22を容易に発生させることができる。すなわち、前述したように、本実施形態は、接地電極102を不要とする構成であるので、針電極18aに印加される第1の交流電圧と、針電極18bに印加される第2の交流電圧との間の電位差によって、電界集中の程度や正イオン20及び負イオン22の発生数が決まる。そのため、特許文献1〜3と比較して、針電極18a、18bに印加する交流電圧の電圧レベルを低くしても、正イオン20及び負イオン22を発生させることができる。
【0071】
さらに、コントローラ14から高電圧発生部16に制御信号を出力し、高電圧発生部16は、前記制御信号に従って、針電極18aに第1の交流電圧を印加すると共に、針電極18bに第2の交流電圧を印加するので、針電極18a、18bに印加される交流電圧の制御を容易に行うことができる。
【0072】
なお、上記の説明では、針電極18a、18bの数が2つである場合について説明したが、本実施形態では、これに限定されることはなく、イオナイザ10に3つ以上の針電極を配置しても、上述した各効果を得ることが可能である。
【0073】
また、上記の説明では、Ta=3Tb(fb=3fa)である場合について説明したが、本実施形態は、これに限定されるものではなく、正の整数をn(n=1、2、3、…)としたときに、第2の交流電圧の周波数fbが第1の交流電圧の周波数faに対して3n逓倍(3倍、6倍、9倍、…)であればよい(fb=3n×fa)。
【0074】
図5A〜図5Cは、第1の交流電圧及び第2の交流電圧の他の波形を図示したものであり、図5Aに示す第1の交流電圧を針電極18aに印加し、図5Bに示す第2の交流電圧を針電極18bに印加することで、時点t20〜t43の各タイミング(時点)毎に正負の極性が切り替わると共に、パターンA〜Dが切り替わる様子を図示している。なお、図5A〜図5Cでは、fb=6fa(Ta=6Tb´)に設定され、第1の交流電圧及び第2の交流電圧の正負の極性切替を、時点t26、t32、t38、t43で同時に行う場合を図示している。
【0075】
このように、本実施形態では、fb=3n×faの関係とすることにより、無駄な正イオン20や負イオン22の発生を回避して、静電気の除去を効率よく行うことが可能となる。
【0076】
また、図5A〜図5Cに示すように、第1の交流電圧及び第2の交流電圧について、正負の極性の切替を時点t26、t32、t38、t43で同時に行うので、時点t26、t32、t38、t43の前後のパターンがパターンB、D、あるいは、パターンC、Aとなり、先のパターンで発生したイオンを後のパターンにおいて物体12に向かって放出するイオンとして利用することができない場合がある。しかしながら、パターンB、Dや、パターンC、Aが続いても、イオナイザ10全体の動作としては、正イオン20及び負イオン22を発生させる動作モードと、正イオン20又は負イオン22を除電空間に放出させる動作モードとが交互に繰り返されることになるので、この場合でも、発生した正イオン20又は負イオン22を確実に物体12に向かって放出することができ、該物体12の静電気を効率よく除去することが可能である。
【0077】
さらに、本実施形態では、イオナイザ10による物体12での静電気の除去作業に先立って、イオンバランス調整を行うことが望ましい。この場合、高電圧発生部16は、コントローラ14からの制御信号に従って、正イオン20及び負イオン22の移動速度の違いを考慮しつつ、第2の交流電圧のデューティ比を調整することにより、前記イオンバランスを調整する。これにより、実際の静電気の除去作業において、該静電気の除去を効率よく行うことが可能となる。
【0078】
また、本実施形態では、針電極18bに対する第2の交流電圧の印加方法を、図6A〜図7Bに示す印加方法を変更することも可能である。
【0079】
すなわち、高電圧発生部16(図1参照)は、第1の交流電圧の印加により針電極18aが正極性となる時間帯(図6Aのt20〜t26、t32〜t38の各時間帯)において、針電極18bが負極性となる予定の時間帯(図6Bのt20〜t21、t22〜t23、t24〜t25、t32〜t33、t34〜t35、t36〜t37の各時間帯)では、針電極18bに印加する第2の交流電圧の電圧レベルを略0レベル(グランドレベル)とする。
【0080】
また、高電圧発生部16は、第1の交流電圧の印加により針電極18aが負極性となる時間帯(図6Aのt26〜t32、t38以降の各時間帯)において、針電極18bが正極性となる予定の時間帯(図6Bのt26〜t27、t28〜t29、t30〜t31、t38〜t39、t40〜t41、t42〜t43の各時間帯)では、針電極18bに印加する第2の交流電圧の電圧レベルをグランドレベルとする。
【0081】
この場合、針電極18a及び針電極18bに同じ極性の電圧(正電圧又は負電圧)が印加される時間帯では、イオナイザ10の動作モードは、前述したパターンB(図3B参照)又はパターンD(図4B参照)となる。
【0082】
これに対して、針電極18aに正極性電圧が印加され、且つ、針電極18bがグランドレベルとなる時間帯(図6Bのt20〜t21、t22〜t23、t24〜t25、t32〜t33、t34〜t35、t36〜t37の各時間帯)において、イオナイザ10の動作モードは、パターンA´(図6C及び図7A参照)となる。
【0083】
パターンA´とは、正極性の針電極18aとグランドレベルの針電極18bとの間に形成された図示しない電界(電気力線)による針電極18aの先端部の電界集中に起因して、該先端部の近傍にコロナ放電が発生し、発生した前記コロナ放電に起因して前記先端部の近傍に正イオン20が発生し、該正イオン20が前記電気力線に沿って針電極18bに向う動作モードである。
【0084】
一方、針電極18aに負極性電圧が印加され、且つ、針電極18bがグランドレベルとなる時間帯(図6Bのt26〜t27、t28〜t29、t30〜t31、t38〜t39、t40〜t41、t42〜t43の各時間帯)において、イオナイザ10の動作モードは、パターンC´(図6C及び図7B参照)となる。
【0085】
パターンC´とは、負極性の針電極18aとグランドレベルの針電極18bとの間に形成された図示しない電界(電気力線)による針電極18aの先端部の電界集中に起因して、該先端部の近傍にコロナ放電が発生し、発生した前記コロナ放電に起因して前記先端部の近傍に負イオン22が発生し、該負イオン22が前記電気力線に沿って針電極18bに向う動作モードである。
【0086】
上述したパターンA´、C´では、パターンA、C(図2C、図3A及び図4A参照)のように、2つの針電極18a、18bにそれぞれ電圧(+V、−V)を印加する場合と比較して、針電極18aと針電極18bとの間の電位差が小さくなる。すなわち、パターンA、Cでは、針電極18a、18b間の電位差は2V(+V−(−V)=+2V)となるが、パターンA´、C´では、V(+V−0=+V)となり、電位差は半分となる。従って、図6A〜図7Bによる印加方法では、高電圧発生部16の負担を軽減することができる。
【0087】
ところで、電位差が小さくなることによりイオンの発生量も減少するが、該発生量が減少しても、物体12に対して、ある程度の除電効果が期待できる場合には、針電極18bの電圧レベルを積極的にグランドレベルにすることにより、針電極18a、18bの先端部の摩耗を抑制することが可能となる。
【0088】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0089】
10…イオナイザ
12…物体
14…コントローラ
16…高電圧発生部
18a、18b…針電極
20…正イオン
22…負イオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの電極と、
前記2つの電極のうち、第1の電極に第1の交流電圧を印加すると共に、第2の電極に前記第1の交流電圧の周波数よりも高い周波数の第2の交流電圧を印加する高電圧発生部と、
を有することを特徴とするイオナイザ。
【請求項2】
請求項1記載のイオナイザにおいて、
正の整数をnとしたときに、前記第2の交流電圧の周波数は、前記第1の交流電圧の周波数に対して3n逓倍の周波数であることを特徴とするイオナイザ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のイオナイザにおいて、
前記高電圧発生部は、前記第1の交流電圧における正負の切替のタイミングに対して、前記第2の交流電圧における正負の切替のタイミングをずらした状態で、該第2の交流電圧を前記第2の電極に印加することを特徴とするイオナイザ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオナイザにおいて、
前記第1の電極及び前記第2の電極は、針電極であることを特徴とするイオナイザ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のイオナイザにおいて、
前記第1の電極に対する前記第1の交流電圧の印加と、前記第2の電極に対する前記第2の交流電圧の印加とに起因して、正イオン又は負イオンが発生し、発生した前記正イオン又は前記負イオンを除電領域に放出する場合に、
前記高電圧発生部は、前記除電領域のイオンバランスを調整するために、前記第2の交流電圧のデューティ比を調整可能であることを特徴とするイオナイザ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のイオナイザにおいて、
前記高電圧発生部を制御して、前記第1の電極に前記第1の交流電圧を印加させると共に、前記第2の電極に前記第2の交流電圧を印加させるための制御部をさらに有することを特徴とするイオナイザ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のイオナイザにおいて、
前記高電圧発生部は、
前記第1の交流電圧の印加により前記第1の電極が正極性となる時間帯において、前記第2の電極が負極性となる時間帯では該第2の電極に印加する前記第2の交流電圧の電圧レベルを略0レベルとし、
一方で、前記第1の交流電圧の印加により前記第1の電極が負極性となる時間帯において、前記第2の電極が正極性となる時間帯では該第2の電極に印加する前記第2の交流電圧の電圧レベルを略0レベルとすることを特徴とするイオナイザ。
【請求項8】
少なくとも2つの電極のうち、第1の電極に第1の交流電圧を印加すると共に、第2の電極に前記第1の交流電圧の周波数よりも高い周波数の第2の交流電圧を印加することにより、正イオン又は負イオンを発生し、
発生した前記正イオン又は前記負イオンを除電領域に放出することにより、前記除電領域の静電気を除去することを特徴とする除電方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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