説明

イオンクロマトグラフを用いた成分分析方法およびイオンクロマトグラフ装置

【課題】分析間隔を短縮すると共に連続測定を可能とし、簡単なシステムで非測定成分の影響を受けることのないイオンクロマトグラムフ装置およびこれを用いた測定方法を提供する。
【解決手段】濃縮カラムに濃縮したサンプル中の測定成分を溶離液により分離カラムに導入し、順次分離して測定するイオンクロマトグラフの測定方法において、非測定成分であって、かつ測定成分より長時間の分離を要する成分を含むサンプルの測定に際しては、前記測定成分が前記濃縮カラムから分離した後は前記濃縮カラムから前記分離カラムへの前記非測定成分の導入を阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置が設置されたクリーンルームなどのガスモニタとして用いられるイオンクロマトグラフを用いた成分分析方法およびイオンクロマトグラフ装置に関し、炭酸ガスに起因する分析間隔の長さの時間短縮を図ったイオンクロマトグラフを用いた成分分析方法およびイオンクロマトグラフ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンクロマトグラフィや高速液体クロマトグラフィによるイオンの分析法はきわめて優れた分析法であり、近年急速に普及しつつある。イオンクロマトグラフィはHPLCを応用した分析法であり、通常イオン交換クロマトグラフィによる分離の後、電気導電度検出法または間接吸光度検出法により検出することで高感度化と高選択性化の両方を実現している。
【0003】
このようなイオンクロマトグラフを用いた成分分析方法およびイオンクロマトグラフ装置に関する先行技術としては次のようなの文献が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平08−304363号公報
【特許文献2】特開平11−160300号公報
【特許文献3】特開2007−033232号公報
【非特許文献1】1990年11月8日−9日に開催された第7回ICフォーラムで横河電機により発表された資料124〜127ページの「濃縮カラム法を用いた微量有機酸類の測定」および「イオンクロマトグラフィを用いた多価陰イオン類の分析」
【0005】
図3は従来のイオンクロマトグラフ装置を用いたクリーンルームのガスモニタの分析システムを示す要部構成図である。
図3に示すようにクリーンルームガスモニタはガス捕集ユニット部(A)とイオンクロマトユニット部(B)とで構成されている。そしてガス捕集ユニット部は流路切換部(C)とインピジャ部(D)で構成されている。
【0006】
図において、1は複数のパイプ2に接続された流路切替弁であり、複数の配管2から流入するサンプルを切替えて順次インピジャ部(D)に送出する。3はガス入替ポンプで各配管2に接続された流路弁4を操作することにより1種類のガスの測定が終了する前に次に測定すべきガスを吸引しておき、流路切替弁1へのスムーズなガスの供給に備える。
【0007】
ここで、配管2の先端部は、例えば50m先の複数個所のガス雰囲気中に配置されており、ガス入替ポンプ3は各所のガスを吸引して配管2内にそれぞれの雰囲気のガスを充満ざせて待機しておくものである。
【0008】
流路切替弁1で選択されたガスはインピジャ部Dに送られる。インピジャ部Dに流入したサンプルは3方弁5a〜5dの切替により例えば第1インピジャ6aに入り純水供給口Eから供給される純水中でバブリングされる。第1インピジャ6aでバブリングされて純水に吸収されたサンプルガスは純水に搬送されてイオンクロマトユニット部B側へ移動し、サンプルポンプ7および濃縮バルブ8を介してイオン交換樹脂からなる濃縮カラム9に流入する。
【0009】
濃縮カラム9には測定対象ガスが例えば弗酸および有機酸の場合には陽イオン交換樹脂が入っており、サンプル中の陰イオン成分はこの陽イオン交換樹脂に補足されて濃縮される。水や陽イオン成分は濃縮カラム9に補足されることなく素通りして排出される。
【0010】
なお、はじめのサンプルがイオンクロマトユニット部B側へ移動した後は第2インピンジャ6bには次に測定すべきガスが流路切換弁1側から導入され、純水供給口Eから供給される純水中でバブリングされる。
【0011】
また、インピジャ部Dの構成部品である流路弁4b〜eおよび3方弁5a〜5dが操作されて第1インピジャ6aに残った微量のガスがガス捕集ポンプ10で排出され、その後洗浄を行うために純水供給口Eから純水が供給されて洗浄液排出ポンプ11により排出される。即ちインピンジャ部Dではイオンクロマトユニット部B側へ供給するサンプルが直前のサンプルに汚染されない状態で交互に準備が行われる。
【0012】
図4(a,b)はイオンクロマトユニットB部の動作を示す説明図である。図4(a)において、インピンジャ6を出たサンプルはサンプルポンプ7を介して6方濃縮バルブ8に入り太い実線Mで示す経路を経て測定成分が濃縮カラム9に濃縮される。
【0013】
次に所定の時間経過後、図4(b)に示すように6方濃縮バルブ8が太い実線M’で示す経路に切換わる。その結果、濃縮カラム9に濃縮されたサンプルは溶離液ポンプ12によって吸引される溶離液槽13内の溶離液により搬送されて分離カラム14に流入する。
【0014】
分離カラム14では測定成分に応じて分離する時間が異なる。分離した測定成分は後段に配置された例えば導電率検出器15により測定される。16は導電率検出器15の前段に配置されたサプレッサ、である。なお、分離カラム14,サプレッサ16および導電率測定器は恒温槽(図ではオーブン)内に配置されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、弗酸および有機酸測定においては、溶離液としてNaOHを使用し、陰イオンの分離カラムを用いて分析を行っている。
この時に空気中にあるCOが炭酸イオンとしてサンプルの中に溶け込むので、その炭酸イオンが導電率検出器15で検出されてそのピークがクロマトグラムに現れる。
【0016】
この炭酸イオンのピークは非常に遅く溶出し、炭酸イオンが出終わるためには1時間以上を要している。
図5はピークの強さ(縦軸)と時間(横軸)の関係を示す図である。5000秒(83分)に近い時間が経過しなければ炭酸イオンのピークが現れないことを示している。
【0017】
従って、弗酸および有機酸が溶離する例えば30分程度経過した後に、時間を短縮するために次のサンプルの分析を連続で行うと、分離カラムに残った炭酸イオンの影響が出てきて次サンプルの正常な分析(測定)が出来ないという問題があった。
【0018】
また、先に先行技術として示した特開平11−160300に記載されたイオンクロマトグラフシステムでは、前もってカラムで夾雑物を取るために、炭酸イオンを除くために必要とする弗酸および有機酸がトラップされてしまうので分析が不可能となる。
更に、非特許文献として示した「濃縮カラム法を用いた微量有機酸類の測定」においては、炭酸イオンはカット可能であるが、高圧の溶離液ポンプが2台必要となり、コスト高になるという問題があった。
【0019】
従って、本発明は弗酸,有機酸の高感度分析に炭酸イオンの影響が出ないようにして、分析間隔を短縮(例えば30分以内)すると共に連続測定を可能とし、簡単なシステム(高圧の溶離液ポンプを別途に用いない)のイオンクロマトグラムフ装置およびこれを用いた測定方法を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、請求項1記載のイオンクロマトグラフを用いた成分分析方法の発明においては、
濃縮カラムに濃縮したサンプル中の測定成分を溶離液により分離カラムに導入し、順次分離して測定するイオンクロマトグラフの測定方法において、非測定成分であって、かつ測定成分より長時間の分離を要する成分を含むサンプルの測定に際しては、前記測定成分が前記濃縮カラムから分離した後は前記濃縮カラムから前記分離カラムへの前記非測定成分の導入を阻止することを特徴とする。
【0021】
請求項2においては、請求項1に記載のイオンクロマトグラフを用いた成分分析方法において、
前記測定成分は弗酸,有機酸を含み、前記非測定成分は炭酸イオンを含むサンプル液であって、溶離液としてNaOHを使用したことを特徴とする。
【0022】
請求項3においては、イオンクロマトグラフ装置において、
濃縮カラムに濃縮したサンプル中の測定成分を溶離液により分離カラムに導入し、順次分離して測定するイオンクロマトグラフ装置において、非測定成分であって、かつ測定成分より長時間の分離を要する成分を含むサンプルの測定に際しては、前記測定成分が前記濃縮カラムから分離した後は前記濃縮カラムから前記分離カラムへの前記非測定成分の導入を阻止する濃縮液導入阻止手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したことから明らかなように本発明の請求項1〜3によれば、次のような効果がある。
濃縮カラムから弗酸および有機酸が分離した後は前記濃縮カラムから前記分離カラムへの濃縮液の導入を阻止する濃縮液の導入阻止手段を備えたので、分析時間の短縮化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は本発明の実施形態の一例を示すもので、図3に示す従来例とはサンプルポンプ7と濃縮バルブの間に濃縮液導入阻止部Fを設けた点のみが異なっている。その他の部分は図3と同様なのでここでの説明は省略する。
【0025】
図1において、サンプルポンプ7の排出口は濃縮液導入阻止部Fを構成する配管p1を介して6方切換バルブ20の接続口aに接続され、切換バルブ20の接続口bは配管p2を介して6方濃縮バルブ8の接続口a’に接続されている。また、切換バルブ20の接続口dは配管p3を介して純水排水ポンプ21の吸引口に接続され、切換バルブ20の接続口eは配管p4を介して溶離液槽13内の溶離液に浸漬されている。
【0026】
また、切換バルブ20の接続口fとcは配管容量が10ml程度の溶離液保持ループ(配管)22により接続されている。
なお、純水排水ポンプ21は低圧で動く簡単なメンブランポンプが用いられ、切換バルブ20としては高圧に耐えられる6方バルブが用いられる。
【0027】
上述の構成において、
1)はじめ(0秒)に濃縮バルブ8をONにして実線で示す経路を導通状態とする。また、純水排水ポンプ21を起動して溶離液槽13内の溶離液を吸引し切換バルブ20の溶離液保持ループ22内に入れる(この溶離液は溶離液保持ループ22を満たした状態で純水排水ポンプ21の排出口から排出されている)。この溶離液保持ループ22の溶離液の量は10ml程度とする。その間サンプルポンプ7は純水(またはサンプル液)を切換バルブ20および濃縮バルブ8の実線で示す経路を介して濃縮カラム9に送っている(この純水(またはサンプル液)は濃縮バルブ8の接続口e→fを経て排出されている)。
【0028】
2)次に、例えば60秒経過後切換バルブ20をONにして点線で示す経路を導通状態とする。
その結果、サンプルポンプより送られてきた、純水(またはサンプル液)は切換えバルブa→f→c→bを経由して溶離液保持ループ22を流れることにより、溶離液保持ループ22に入っていた溶離液は配管p2を介して濃縮バルブ8の接続口a’→b’を経由して濃縮カラム9に送られ、接続口e→fを経てドレインへ流れる。
このことにより今まで濃縮カラム9に入っていた炭酸などは10mlの溶離液により濃縮カラムから押し出される。濃縮カラム9の炭酸イオンなどを排除するに必要な量は6ml(3分間)程度で十分であるが余裕をみて10mlとしている(要は濃縮カラム9に濃縮された非測定成分が測定に影響しない程度に洗浄できる量であればよい)。
【0029】
3)次に、例えば240秒経過後切換バルブ20をOFFにして実線で示す経路を導通状態とし、第1または第2ンピンジャ6(6aまたは6b)からの液が濃縮カラム9に送られるようにする。インピンジャ6からのサンプル液は濃縮バルブ8の実線で示す経路を経て濃縮カラム9に入り、サンプルの濃縮(トラップ)が行われる。
【0030】
4)次に、例えば840秒経過後(濃縮時間10分とした)濃縮バルブ8をOFFにする。その結果、濃縮バルブ8の点線で示す経路が導通状態となり、濃縮バルブ8に入った(トラップされた)サンプルに溶離液ポンプ12で吸引された溶離液層13からの溶離液が流れ、分離カラム14へ流出する。
このとき、濃縮時のサンプルの流れ方向と溶離液が流れる流れ方向は同方向である。
【0031】
5)濃縮カラム9には陽イオン交換樹脂が入っているために(分離カラム14と同じ樹脂、但し樹脂量は少ない)簡単な陰イオンの分離をする。
6)次に、例えば990秒経過後濃縮バルブ8を再度ONにする。この時間は濃縮カラム内で、弗酸,有機酸の疎分離が終わり、炭酸が出るまでの間に設定する。その結果、濃縮バルブ8は実線で示す経路が導通状態となり分離カラム14へは炭酸イオンは入らずに濃縮カラム9内に留まることになる。
【0032】
7)従って、炭酸イオンが分離カラム14に入らないために、導電率検出器15では炭酸イオンの検出はしないのでクロマトグラムには炭酸イオンのピークは現れない。
図2はピークの強さ(縦軸)と時間(横軸)の関係を示す図である。5000秒経過しても炭酸イオンのピークが現れないことを示している。
実際の測定では例えば15分ほどで終了し、次のサンプルの測定を行っている。
【0033】
なお、濃縮カラム9に流出しないまま留まった炭酸イオンは、次のサンプルの測定の際に、前述の1),2)項の実施により最初に押し出すので影響を受けることはない。
また、本実施例では省略したが各ポンプの起動、3方弁および6方バルブの開閉は図示しないコンピータによってシーケンス制御されているものとする。
【0034】
以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。例えば実施例では測定成分を弗酸,有機酸としたがこれ以外のものであってもよい。また、実施例では非測定成分を炭酸イオンとしたが、炭酸以外にも塩素を測定する場合には空気中に存在するSOやNOなど、測定する塩素よりも遅く溶出するものの影響を受けないようにすることが考えられる。また、実施例では検出器として導電率検出器を用いたが間接吸光度検出器を用いても良い。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のイオンクロマトグラフ装置の実施形態の一例を示す要部構成図である。
【図2】本発明のイオンクロマトグラフ装置を用いて測定した測定成分のピークの強さと溶出時間の関係を示す図である。
【図3】従来のイオンクロマトグラフ装置の一例を示す要部構成図である。
【図4】イオンクロマトユニット部の動作を示す説明図である。
【図5】従来のイオンクロマトグラフ装置を用いて測定した測定成分のピークの強さと溶出時間の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 流路切換弁
2,p1〜p4 配管
3 ガス入換ポンプ
4 流路弁
5 3方弁
6 インピンジャ
7 サンプルポンプ
8 濃縮バルブ
9 濃縮カラム
10 ガス捕集ポンプ
11 洗浄液排出ポンプ
12 溶離液ポンプ
13 溶離液槽
14 分離カラム
15 導電率検出器
20 切換バルブ
21 純水排水ポンプ
22 溶離液保持ループ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃縮カラムに濃縮したサンプル中の測定成分を溶離液により分離カラムに導入し、順次分離して測定するイオンクロマトグラフの測定方法において、非測定成分であって、かつ測定成分より長時間の分離を要する成分を含むサンプルの測定に際しては、前記測定成分が前記濃縮カラムから分離した後は前記濃縮カラムから前記分離カラムへの前記非測定成分の導入を阻止することを特徴とするイオンクロマトグラフを用いた成分分析方法。
【請求項2】
前記測定成分は弗酸,有機酸を含み、前記非測定成分は炭酸イオンを含むサンプル液であって、溶離液としてNaOHを使用したことを特徴とする請求項1に記載のイオンクロマトグラフを用いた成分分析方法。
【請求項3】
濃縮カラムに濃縮したサンプル中の測定成分を溶離液により分離カラムに導入し、順次分離して測定するイオンクロマトグラフ装置において、非測定成分であって、かつ測定成分より長時間の分離を要する成分を含むサンプルの測定に際しては、前記測定成分が前記濃縮カラムから分離した後は前記濃縮カラムから前記分離カラムへの前記非測定成分の導入を阻止する濃縮液導入阻止手段を備えたことを特徴とするイオンクロマトグラフ装置。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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