説明

イオンクロマトグラフ装置

【課題】外気温の変化の影響による検出精度の低下を防ぎ、構成要素が簡易で、かつ小型化が可能なイオンクロマトグラフ装置を提供する。
【解決手段】試料中の目的イオン種を分離する分離手段と、溶離液送液手段と、試料導入手段と、前記分離手段を所定の温度に維持するカラムオーブン13と、イオン交換材4a〜4bを保持したサプレッサー手段4と、電気伝導度検出器5と、前記サプレッサー手段に接続された使用済のイオン交換材を排出するための排出経路11、及びサプレッサー手段に接続されたイオン交換材を導入するための導入経路1〜3とを備え、サプレッサー手段、及び/または導入経路と、カラムオーブンとが伝熱部材14を介して熱的に接触することで、サプレッサー手段の温度制御を行なうイオンクロマトグラフ装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンクロマトグラフ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンクロマトグラフィーは、水質/大気汚染などの、環境化学、食品、医薬品、化学工業、電力産業から生体分析にいたる様々な分野で使用されている。特に、電気伝導度検出法において、分離カラムから溶出した液に含まれる溶媒イオン種の一部を他のイオンに置換して塩を解離係数が小さい酸あるいは塩基に変換するサプレッサー方式は、溶離液のバックグラウンドを低下させることができるため、測定対象イオンの高感度な分析が可能である(非特許文献1)。
【0003】
サプレッサー方式で使用する、分離カラムから溶出した液に含まれる溶媒イオンを置換するためのイオン交換樹脂を含んだサプレッサー手段は、通常分離カラムを収納するカラムオーブンの外に設置されるため、温度制御がなされていない。そのため、前記手段は外気温の影響を直接受け、前記サプレッサー手段を通過する溶離液も間接的に外気温の影響を受ける。溶離液の電気伝導度は液体温度に依存するため、検出器信号は外気温の変化により変動し精度の低下の原因となっていた。
【0004】
上記課題を解決するために、溶媒イオンを置換するためのイオン交換樹脂を含んだサプレッサー手段をカラムオーブン内に内包することで前記サプレッサー手段を所定の温度に維持する方法、サプレッサー手段専用のオーブンを設ける方法、前記カラムオーブンの外部に試料液、溶離液、及びサプレッサー手段用除去液の温度制御手段を設置する方法(特許文献1)があるが、いずれの方法も、システム全体の大型化や温度制御機能部の別途追加といった問題が発生する。
【0005】
【特許文献1】特願2005−300189号公報
【非特許文献1】宮永ら、東ソー研究報告、45、45−48(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外気温の変化の影響による検出精度の低下を防ぎ、構成要素が簡易で、かつ小型化が可能なイオンクロマトグラフ装置を提供することが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する:
第一の発明は、試料中の目的イオン種を分離する分離手段と、
溶離液を前記分離手段に送る送液手段と、
前記送液手段と前記分離手段の間に挿入された試料導入手段と、
前記分離手段を所定の温度に維持するためのカラムオーブンと、
前記分離手段から溶出した液に含有する溶媒イオン種の一部を他のイオンに置換するためのイオン交換材を保持したサプレッサー手段と、
前記サプレッサー手段を通過した液の電気伝導度を検出する電気伝導度検出器と、
必要に応じて、前記サプレッサー手段に接続された使用済のイオン交換材を排出するための排出経路、及び前記サプレッサー手段に接続されたイオン交換材を導入するための導入経路とを備えたイオンクロマトグラフ装置において、
前記サプレッサー手段、及び/または前記導入経路と、前記カラムオーブンとが伝熱部材を介して熱的に接触することで、前記サプレッサー手段の温度制御を行なうことを特徴とする、前記イオンクロマトグラフ装置である。
【0008】
第二の発明は、前記サプレッサー手段、及び/または前記導入経路が前記伝熱部材で覆われていることを特徴とする、第一の発明に記載のイオンクロマトグラフ装置である。
【0009】
以降、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明は、イオンクロマトグラフ装置において、分離手段から溶出した液に含まれる溶媒イオン種の一部を他のイオンに置換するためのイオン交換材を保持したサプレッサー手段、及び/または前記サプレッサー手段に接続されたイオン交換材を導入するための導入経路と、分離手段を所定の温度に維持するためのカラムオーブンとが伝熱部材を介して熱的に接触することを特徴としている。
【0011】
本発明における、分離手段は市販されているサプレッサー方式イオンクロマトグラフ用カラムであれば特に制限がなく、TSKgel Super IC−Anion、TSKgel Super IC−AP(以上、商品名、東ソー社製)を例示することができる。
【0012】
本発明における、カラムオーブンは分離手段内の温度を一定に維持できればよく、一例として、金属を切削加工した筐体、加熱手段及び/または冷却手段、前記手段の制御部、から構成されるカラムオーブンがあげられる。
【0013】
本発明における、イオン交換材は、フッ化物イオン、塩化物イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオンといった陰イオンを測定対象とする場合は、水素イオン型強酸性陽イオン交換樹脂を例示できる。
【0014】
本発明における、サプレッサー手段としては、従来から知られている、溶出した液に含まれる溶媒イオンを置換するためのイオン交換材が充填されたサプレッサーカラムからなる手段でもよいし、非特許文献1に記載の、内部に彫られた溝にイオン交換材が充填されたロータリーバルブからなる手段でもよいが、後者の手段の方が、サプレッサー手段の小型化が容易なこと、及び分析ごとに新しいイオン交換材に交換が可能なことから好ましい。
【0015】
本発明における、サプレッサー手段、及び/または導入経路と、カラムオーブンとの熱的接触方法は、少なくともサプレッサー手段、及び/または導入経路の一部が、伝熱部材と接触しており、かつ前記伝熱部材がカラムオーブンと直接的、または追加の伝熱部材を介して間接的に接触すればよいが、サプレッサー手段、及び/または導入経路の一部または全体が前記伝熱部材で覆われた状態で、カラムオーブンと直接的に接触させる方法が、一定の温度で維持されたカラムオーブン由来の熱を速やかにサプレッサー手段、及び/または導入経路に伝えることができる点で好ましい。なお、前記伝熱部材はアルミニウムといった熱伝導率の高い素材であるほうが、カラムオーブン由来の熱を速やかにサプレッサー手段、及び/または導入経路に伝えることができる点で好ましい。
【0016】
本発明における、電気伝導度検出器は、少なくとも測定部の温度が一定に維持される。通常、測定部はカラムオーブンあるいは独立した温度維持手段の中に収納される。さらに検出部を、本発明におけるサプレッサー手段と同様、伝熱部材を介して熱的に接触させて温度を一定に維持することも可能である。さらに、サプレッサー手段と電気伝導度検出器を接続する配管は、温調されていない部材、または温調されていない空気との接触を小さくするのが好ましく、サプレッサー手段と電気伝導度検出器を接続する配管とを、伝熱部材で覆う例があげられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、イオンクロマトグラフ装置において、分離手段から溶出した液に含まれる溶媒イオン種の一部を他のイオンに置換するためのイオン交換材を保持したサプレッサー手段、及び/または前記サプレッサー手段に接続されたイオン交換材を導入するための導入経路と、分離手段を所定の温度に維持するためのカラムオーブンとが伝熱部材を介して熱的に接触することを特徴としている。当該構成を有したイオンクロマトグラフ装置は、前記サプレッサー手段、及び/または前記導入経路を、前記カラムオーブンにより維持された温度と概ね同一の温度に制御することができる。そのため、従来のイオンクロマトグラフ装置と比較し、外気温の変化による、電気伝導度検出器の出力信号の変動を抑えたイオンクロマトグラフ装置を提供することができる。また、本発明の装置はカラムオーブンと、サプレッサー手段、及び/または導入経路が伝熱部材により接触しただけの構造であるため、新たな温度制御装置の設置が不要であり、装置構成が簡易でかつ、装置全体の小型化も可能である。
【0018】
本発明のイオンクロマトグラフ装置における好ましい態様である、分離手段から溶出した液に含まれる溶媒イオンを置換するためのイオン交換材を保持したサプレッサー手段、及び/または前記サプレッサー手段に接続されたイオン交換材を導入するための導入経路が伝熱部材で覆われ、前記伝熱部材とカラムオーブンとが熱的に接触された装置は、サプレッサー手段の温度を、カラムオーブンによって維持された温度により近づけることができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、これらは本発明の一実施形態であり、本発明を限定するものではない。
【0020】
実施例1 本発明のイオンクロマトグラフ装置
図1に、本発明のイオンクロマトグラフ装置の一例を示す。
【0021】
試料導入手段であるサンプラー(7)により導入された試料は、送液手段である、送液ポンプ(8)により送液された溶離液(9)により、分離手段である分離カラム(6)に導入され、各イオン種に分離される。分離カラム(6)から溶出した液は、フィルター(10)を通過後、サプレッサー手段であるロータリーバルブ(4)の溝に充填されたイオン交換樹脂(4a)により、前記溶出した液に含有する溶媒イオンを置換する。その後、フィルター(10)を通過し、電気伝導度検出器(5)で各イオン種を検出後、廃液タンク(12)に流れる。
【0022】
前記ロータリーバルブ(4)は、6方切り替え式のバルブであり、3つの溝にはそれぞれイオン交換樹脂(4a,4b,4c)が充填されている。イオン交換樹脂はチャンバー(1)内に収納されている。分析ごとにロータリーバルブ(4)を切り替えると、充填ポンプ(2)により送液された移送液(3)により、前記チャンバー(1)内に収納されたイオン交換樹脂が、前記ロータリーバルブ(4)中の溝4b(未使用のイオン交換樹脂位置)、溝4a(測定のためのイオン交換樹脂位置)、溝4c(使用済みのイオン交換樹脂位置)へと移動し、最終的には移送液(3)により前記ロータリーバルブ(4)外に設置した廃液タンク(11)へ排出されることで、イオンクロマトグラフィーの連続分析を可能にしている。
【0023】
図1の装置のうち、温度制御部の詳細を図2に示す。分離カラム(6)はカラムオーブン(13)により、所定の温度に保たれている。そして、カラムオーブン(13)は金属を切削加工した筐体、ヒータ及びヒータ制御部からなっている。前記ロータリーバルブ(4)及びイオン交換樹脂導入配管(15)の一部は伝熱部品(14)により覆われており、前記伝熱部品(14)とカラムオーブン(13)の筐体部分とが密着している。図2の構成を採用することにより、前記ロータリーバルブ(4)の溝(4a,4b,4c)に充填されたイオン交換樹脂はカラムオーブン(13)室内の温度と概ね同一の温度に維持することができ、前記ロータリーバルブ(4)をカラムオーブン(13)の外に別個設置した従来のイオンクロマトグラフ装置と比較し、分離カラム(6)から溶出した液の温度変化を抑えることができる。また、図2の装置では前記ロータリーバルブ(4)の溝(4a,4b,4c)に充填されたイオン交換樹脂をカラムオーブン(13)室内の温度と概ね同一の温度に維持することができるため、イオン交換樹脂が測定のためのイオン交換樹脂位置に移動する前段階で、イオン交換樹脂の温度がカラムオーブン(13)により所定の温度に維持され、ロータリーバルブ(4)の切り替えによる、イオン交換樹脂の交換が起きた場合でも、分離カラム(6)から溶出した液の温度変化を抑えることができる。さらにまた、図2の装置ではイオン交換樹脂導入配管(15)をカラムオーブン(13)室内の温度と概ね同一の温度に維持することができるため、チャンバー(1)に収納されたイオン交換樹脂が前記ロータリーバルブ(4)中の溝4bに導入される前段階で、イオン交換樹脂の温度が所定の温度に制御され、イオン交換樹脂の交換が起きた場合でも、イオン交換樹脂の温度変化を抑えることができる。
【0024】
図1の装置において、図2の温度制御部の構成をとることで前記ロータリーバルブ(4)をカラムオーブン(13)室内の温度と概ね同一の温度に維持することを実現した本発明のイオンクロマトグラフ装置と、前記ロータリーバルブをカラムオーブンの外に別個設置した従来のイオンクロマトグラフ装置とで、電気伝導度検出器(5)の出力信号の変化を比較した結果を図3に示す。図3の結果からも明らかなように、本発明のイオンクロマトグラフ装置は従来のイオンクロマトグラフ装置と比較し、外気温の変化に伴う電気伝導度検出器出力信号の変動を抑えることができた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のイオンクロマトグラフ装置の一例を示した図。
【図2】本発明のイオンクロマトグラフ装置における温度制御部を示した図。
【図3】本発明のイオンクロマトグラフ装置と従来のイオンクロマトグラフ装置とで電気伝導度検出器の出力信号の比較を示した図。
【符号の説明】
【0026】
1 チャンバー
2 充填ポンプ
3 移送液
4 ロータリーバルブ
4a,4b,4c イオン交換樹脂
5 電気伝導度検出器
6 分離カラム
7 サンプラー
8 送液ポンプ
9 溶離液
10 フィルター
11 廃液タンク(イオン交換樹脂用)
12 廃液タンク(試料用)
13 カラムオーブン
14 伝熱部品
15 イオン交換樹脂導入配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の目的イオン種を分離する分離手段と、
溶離液を前記分離手段に送る送液手段と、
前記送液手段と前記分離手段の間に挿入された試料導入手段と、
前記分離手段を所定の温度に維持するためのカラムオーブンと、
前記分離手段から溶出した液に含有する溶媒イオン種の一部を他のイオンに置換するためのイオン交換材を保持したサプレッサー手段と、
前記サプレッサー手段を通過した液の電気伝導度を検出する電気伝導度検出器と、
必要に応じて、前記サプレッサー手段に接続された使用済のイオン交換材を排出するための排出経路、及び前記サプレッサー手段に接続されたイオン交換材を導入するための導入経路とを備えたイオンクロマトグラフ装置において、
前記サプレッサー手段、及び/または前記導入経路と、前記カラムオーブンとが伝熱部材を介して熱的に接触することで、前記サプレッサー手段の温度制御を行なうことを特徴とする、前記イオンクロマトグラフ装置。
【請求項2】
前記サプレッサー手段、及び/または前記導入経路が前記伝熱部材で覆われていることを特徴とする、請求項1に記載のイオンクロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−139387(P2010−139387A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316212(P2008−316212)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)