説明

イオンフロー記録ヘッド

【課題】単一の放電電極を用いるものにあって、微小な孔の周囲のエリアでイオンを生成させることによって、印字画像を構成する個々のドットを小さく、かつ略真円状にし、加熱手段に対する低い印加エネルギーで、鮮明な画像の印字が可能な加熱放電型のイオンフロー記録ヘッドを提供する。
【解決手段】絶縁層15の表面側に配設された放電電極5aと、前記絶縁層15の裏面側に配設された発熱素子14とを備え、前記放電電極5aへの放電制御電圧の印加と発熱素子14による加熱とにより生ずる前記放電電極5aの放電の有無を、前記発熱素子14による前記放電電極5aの各被加熱部位16に対する選択的加熱により制御する加熱放電型のイオンフロー記録ヘッドにあって、前記放電電極5aの各被加熱部位16に、該放電電極5aの表面側に角部18を備えた幅10〜120μmのイオン発生孔17を夫々形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電潜像により書き込みを行うリライタブルペーパーや静電記録装置の書き込み装置として用いられるイオンフロー記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
放電電極に所定の放電制御電圧(印加しただけでは放電が起こらないが、放電電極を加熱することにより放電が起こる電圧域の電圧)を印加した状態で該放電電極の各被加熱部位への加熱の有無を制御することにより、放電によるイオンの発生制御を行う加熱放電型のイオンフロー記録ヘッドが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。かかる加熱放電型のイオンフロー記録ヘッドは、放電電極に印加する電圧の制御が不要であり、発熱素子による放電電極の加熱制御に使用する5V駆動のような低耐電圧対応のドライバICでイオンの発生を制御することができるため、低価格化及び小型化し得る利点がある。
【0003】
また、国際出願番号PCT/JP2006/304572には、加熱放電型のイオンフロー記録ヘッドの駆動方法が開示されている。これはイオンフロー記録ヘッドの放電電極と、静電潜像方式の記録媒体の裏面側に形成或いは接触又は近接して配設された対向電極との間に、放電制御電圧に相当する電位差を設定して電界を形成し、発熱素子を備えた加熱手段により放電電極の各被加熱部位を選択的に加熱することで、対向して配置された放電電極と対向電極との間で放電を発生させ、さらに放電電極の放電により生成されるイオンを電界によって記録媒体の記録面(表面)に移動させることで、静電潜像を構成する電荷を付与して画像の形成を行うものにあって、放電電極に放電制御電圧以下の駆動信号電圧を印加するタイミングと、画像情報に基づいて加熱手段で放電電極を選択的に加熱するタイミングとを同期させるようにしたものである。
【特許文献1】特開2003−326756号公報
【特許文献2】WO2005/056297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような加熱放電型のイオンフロー記録ヘッドにあっては、図8(a)に示すように、絶縁層cの表面側に、複数の放電電極aを所定ピッチ幅で並列させ、かつその各放電電極aの両端に帯状の共通電極b,bを連成した梯子状の放電体dを備えており、該放電体dに放電制御電圧を印加した状態で、絶縁層cの裏面側に配設された発熱素子を備えた加熱手段(図示省略)によって任意の放電電極aを選択的に加熱して放電を発生させることにより、イオンを生成するようにしている。また、このような複数の放電電極aを所定ピッチ幅で並列させた放電体dにあっては、一画素(1ドット)を構成する各放電電極aのピッチ幅Lを125μm(解像度200dpi)とした場合、各放電電極aの横幅Lが85μmに設定されている。
【0005】
ところで、放電は電極の尖った部分で発生し易いことが知られている。従って、上記のような梯子状の放電体dにあっては、各放電電極aでの放電に際して、図8(b)に示すように、該放電電極aの表面側の角部f,fで放電が発生し、この放電に伴って放電電極aの角部f,fにおいて特に強い電離が生じ、該二箇所の角部f,f付近で多量のイオンが生成される。即ち、放電電極aの横幅に対応する間隔で相互に離れた両側縁の二箇所の角部f,f付近で個々にイオンが生成される。そして、この相互に離れた二箇所の角部f,f付近で生成されたイオンが電界によって記録媒体の記録面に移動することにより、放電電極aの横幅Lが85μmである場合、前記記録面に印字される画像を構成する個々のドットhの幅が200μmと大きくなり、かつ該ドットhの形状が真円にならないため、印字画像の縁部がシャープに表示できないという問題点があった。
【0006】
尚、このように、記録面に印字される画像を構成する個々のドットhの幅が大きくなる原因としては、所定ピッチ幅で並列された複数の放電電極aでは、各放電電極aと、記録媒体側に配設された対向電極との間に形成される電界の力線が、図8(b)に矢印eで示すように、放電電極aの角部f,fから横幅方向に広がるように形成され、イオンがこの力線に沿って移動して拡散するためと推測される。
【0007】
また、本発明の発明者らは、複数の放電電極aを並列させた梯子状の放電体dに代えて、各放電電極aを一連に連成した単一の放電電極、所謂ベタ電極を備えたイオンフロー記録ヘッドを作成して印字実験を行ったところ、印字画像を構成する個々のドットの形状は略真円となるが、個々のドット径が250〜300μmと大きく、さらに、加熱手段に、梯子状の放電体dの場合の3〜4倍程度の印加エネルギーを付与しないと放電が発生せず、過大な印加エネルギーを必要とするという知見を得た。
【0008】
本発明は、かかる研究成果に基づいてなされたものであり、単一の放電電極を用いるものにあって、孔の周囲のエリアでイオンを生成させることによって、印字画像を構成する個々のドットを小さく、かつ略真円状にし、加熱手段に対する低い印加エネルギーで、鮮明な画像の印字が可能な加熱放電型のイオンフロー記録ヘッドを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、絶縁層の表面側に配設された放電電極と、前記絶縁層の裏面側に配設された発熱素子とを備え、前記放電電極への放電制御電圧の印加と発熱素子による加熱とにより生ずる前記放電電極の放電の有無を、前記発熱素子による前記放電電極の各被加熱部位に対する選択的加熱により制御する加熱放電型のイオンフロー記録ヘッドにおいて、前記放電電極の各被加熱部位に、該放電電極の表面側に角部を備えた幅10〜120μmのイオン発生孔が夫々形成されていることを特徴とするイオンフロー記録ヘッドである。
【0010】
ここで、イオン発生孔は、放電電極の表裏を貫通する貫通孔として、或いは放電電極の表面を窪ませた非貫通孔として形成され、これによって放電電極の表面側に角部を備えたものとすることができる。また、イオン発生孔の形状は、円形以外に正三角形,正方形,正六角形等の正多角形とすることができる。また、イオン発生孔の幅が10μm未満であると、記録媒体の記録面に印字される画像を構成する個々のドットが小さくなり過ぎて鮮明な画像が得られなくなるので好ましくなく、逆にイオン発生孔の幅が120μmを超えると、従来と同様にドットが大きくなり過ぎて鮮明な画像が得られなくなるので好ましくない。
【0011】
上記イオンフロー記録ヘッドにあって、イオン発生孔を円形にする構成が提案される。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上述したように、放電電極の各被加熱部位に、該放電電極の表面側に角部を備えた幅10〜120μmのイオン発生孔が夫々形成されていることにより、被加熱部位が加熱されると、イオン発生孔を囲繞する孔縁の角部で放電が発生し、この放電で生じる電離によって、イオン発生孔の周囲のエリアでイオンが生成される。そして、このイオン発生孔の周囲のエリアで生成されたイオンが電界によって記録媒体の記録面に移動するので、記録媒体の記録面に印字される画像を構成する個々のドットが小さくなり、かつ該ドットが略真円状となるので、印字画像の縁部がシャープになり、鮮明な画像の印字が可能となる。また、角部は放電が発生し易いため、ベタ電極で放電する場合に比して、加熱手段に対する印加エネルギーが少なくても放電が可能となり、印加エネルギーを節減することができる。
【0013】
また、上記イオン発生孔を円形にする構成にあっては、イオン発生孔を正三角形,正方形,正六角形等の正多角形とする場合に比して、その形成が容易となる。また、イオン発生孔の孔縁が平面視において円形となり、この円形の孔縁でイオンが生成されるので、印字画像を構成する個々のドットをより真円状にし易くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
先ず、本発明が適用可能な加熱放電型のイオンフロー記録ヘッドの構成について説明する。
イオンフロー記録ヘッド1は、図1(a),(b)に示すように、下方に向けて突出する略U字形の突出端3が形成されたアルミニウム製の放熱板2と、該放熱板2の突出端3を被覆するように配設されたフレキシブルなヘッド基板4とを備えている。該ヘッド基板4は、略U字形に屈曲されて突出端3に被着されており、その屈曲部表面に放電体5を構成する単一の放電電極5aが配設されている。
【0015】
前記放電体5は、図1(b)に示すように、広幅の矩形状に形成され、突出端3の下端に位置する部位が放電電極5aとなっており、該放電電極5aの両端部が共通電極5b,5b(図2参照)となっている。尚、後述するように、放電電極5aに設けられる複数の被加熱部位16(図5参照)からは、所定条件下でそれぞれイオンが照射されることとなる。
【0016】
また、ヘッド基板4の上方には、ICカバー9が装着され、該ICカバー9と放熱板2との間に、薄板状のプリント基板8が介装されている。かかる構成により、プリント基板8がICカバー9によって保護されている。また、このプリント基板8の上端部には、外部の制御部(図示省略)に接続されるコネクタ8aが、放熱板2の直上に位置するようにして取り付けられている。
【0017】
また、ICカバー9の表面には、放電体5の共通電極5b,5bに対して電気的に接続された高圧基板9aが配設されている。この高圧基板9aは、共通電極5b,5b(放電体5)に駆動信号を発信して、放電電極5aに高電圧の放電制御電圧を印加するものである。
【0018】
一方、ヘッド基板4上には、ICカバー9内に、ドライバIC6が実装されている。このドライバIC6は、後述する発熱素子14の発熱を制御するものであり、該ドライバIC6と前記ヘッド基板4とによって放電制御装置7が構成されている。
【0019】
次に、図2,図3に基づいて、ヘッド基板4の構成について説明する。
ヘッド基板4は、薄板状のフレキシブル基板10を具備している。このフレキシブル基板10は、耐熱性及び絶縁性を有するポリイミド,アラミド,ポリエーテルイミド等の薄膜樹脂で形成されている。
【0020】
前記フレキシブル基板10の上面には、一定間隔で並列して櫛歯状を呈する複数の狭幅の発熱用櫛歯電極11aと、各発熱用櫛歯電極11aの基端に接続されたコ字形で広幅の発熱用共通電極11bとを備えた発熱用電極11が配設されており、さらに、各発熱用櫛歯電極11aの間には、細帯状の発熱用個別電極12が各発熱用櫛歯電極11aと平行でかつ互い違い状となるようにして配設されている。尚、隣接する各発熱用櫛歯電極11a間のピッチ幅が、一画素(1ドット)を構成する領域となっている。この発熱用櫛歯電極11a、発熱用共通電極11b、及び発熱用個別電極12は、平面状に形成されたフレキシブル基板10の表面に金ペースト等の導体を印刷した後、エッチングにより形成され得る。
【0021】
前記発熱用櫛歯電極11a及び発熱用個別電極12上には、該発熱用櫛歯電極11a及び発熱用個別電極12と電気的に接続された帯状の発熱素子14が配設されている。そして、該発熱素子14と、前記発熱用櫛歯電極11a及び発熱用個別電極12とにより加熱手段13が構成されている。発熱素子14は、発熱用櫛歯電極11a及び発熱用個別電極12の上部にTaSiO、RuO等を印刷する等して形成され得る。
【0022】
また、フレキシブル基板10上には、前記発熱用共通電極11b及び発熱用個別電極12の端部を除いて絶縁層15が覆設されている。該絶縁層15は、耐熱性及び絶縁性を有するポリイミド,アラミド,ポリエーテルイミド等の薄膜樹脂を印刷する等して形成され得る。
【0023】
前記絶縁層15上には、放電体5が配設されている。従って、放電体5は、絶縁層15により加熱手段13と絶縁されることとなる。放電体5を構成する放電電極5aは、図2,図3(b)に示すように、前記各発熱用個別電極12と上下方向で夫々一致する位置が被加熱部位16となっており、各被加熱部位16には微小なイオン発生孔17が夫々形成されている。このイオン発生孔17は本発明の要部にかかるものであり、詳しくは後述する。このイオン発生孔17を備えた放電電極5a及び共通電極5b,5bは、金,銀,銅,アルミニウム等の金属を、蒸着,スパッタ,印刷,又はメッキで形成した後、エッチングにより形成され得る。
【0024】
発熱素子14は、ドライバIC6がストローブ信号を発信して発熱用櫛歯電極11aと発熱用個別電極12とに対してストローブ電圧を印加することにより発熱する。即ち、交互に配設された発熱用櫛歯電極11a及び発熱用個別電極12にあって、一本の発熱用個別電極12とその両側の発熱用櫛歯電極11a,11aとの間にストローブ電圧を印加することにより、放電電極5aの各被加熱部位16に対応する発熱素子14の任意の部位を発熱させて、任意の被加熱部位16を加熱する。尚、このストローブ電圧が、加熱手段13に対する印加エネルギーとなる。また、加熱手段13は、このような方式に限定されるものではなく、夫々の被加熱部位16を選択的に加熱できるものであればよい。また、前記ドライバIC6は、発熱用共通電極11b及び発熱用個別電極12から伸びるリードパターンに金線でワイヤボンディングされた後に、エポキシ樹脂等のIC保護用の樹脂で封止されている。
【0025】
共通電極5b,5bの表面には、図2に示すように、導電材層18が帯状に形成されている。この導電材層18は、導電性に優れた銀ペーストや銀メッキ等で形成されている。かかる構成とすることにより、共通電極5b,5bの抵抗値を低下させることができ、放電電極5aに生じる電位差を均一化することができる。
【0026】
次に、上記イオンフロー記録ヘッド1の作動態様を、図4に基づいて説明する。
図4は、電荷の作用により繰返し画像の印字や消去が可能な静電潜像方式のリライタブルペーパーからなる記録媒体20の上面側に所定間隔を置いてイオンフロー記録ヘッド1を配置し、かつ記録媒体20の裏面に対向電極21を形成或いは接触又は近接させて配設した状態を示す。
【0027】
このような状態において、先ず、イオンフロー記録ヘッド1の放電体5と対向電極21との間に放電制御電圧Eに相当する電位差を設定して電界を形成する。ここで、放電制御電圧とは、放電体5に対して印加しただけでは放電の発生はないが、放電体5が加熱されることにより放電が発生する電圧域の電圧をいう。この放電制御電圧は、交流電圧に直流電圧を重畳して生成されるが、交流電圧に負の直流電圧を重畳して放電体5に印加することにより、放電電極5aの加熱時にマイナスイオンを発生させることができる。
【0028】
次に、前記放電制御電圧Eが印加された状態で、加熱手段13をドライバIC6で制御する。即ち、任意の発熱用個別電極12とその両側の発熱用櫛歯電極11a,11aとにストローブ電圧を印加し、放電電極5aの各被加熱部位16に対応する発熱素子14の任意の部位を発熱させて、放電電極5aの任意の被加熱部位16を選択的に所定温度(200〜300℃)に加熱することにより、放電電極5aの任意の被加熱部位16と対向電極21との間で放電を発生させる。そして、この放電により生じる電離によって生成されるイオンを、放電体5と対向電極21との間に形成された電界によって記録媒体20の記録面(表面)に移動させ、該記録媒体20に画像データに基づく所定パターンの電荷を付与する。これにより記録媒体20の記録面(表面)に所定パターンの静電潜像が形成され、画像の印字が行われる。尚、イオンフロー記録ヘッド1による画像の印字にかかる詳しい制御内容については本発明の要部ではないので、その説明を省略する。
【0029】
次に、本発明の要部について説明する。
上述したように、絶縁層15(図3参照)上に配設された放電体5を構成する単一の放電電極5aの各被加熱部位16には、微小なイオン発生孔17が夫々形成されており、本発明は、このイオン発生孔17を、図5(a),(b)に示すように、放電電極5aの表面側に角部18を備えた所定形状で幅10〜120μm、さらに好ましくは幅30〜80μmで形成するものである。ここで、各イオン発生孔17は、図5(a)に示すように、円形に形成されており、この場合にはイオン発生孔17の幅が直径を示すものとなる。尚、該イオン発生孔17は、円形以外に正三角形,正方形,正六角形等の正多角形とすることも可能であるが、特にイオン発生孔17を円形とした場合には、その形成を容易に行い得るとともに、イオン発生孔17の孔縁の角部18が平面視において円形となり、この円形の角部18で生成されるイオンを円形の状態で記録媒体20の記録面に移動させ得るので、印字画像を構成する個々のドットをより真円状にし得る利点がある。また、各イオン発生孔17は、図5(b)に示すように、放電電極5aの表裏を貫通する貫通孔として形成されており、これによって放電電極5aの表面側に角部18を備えたものとなっている。尚、各イオン発生孔17は、図5(c)に示すように、放電電極5aの表面を窪ませた非貫通孔として形成することも可能であり、この場合にも放電電極5aの表面側に角部18を備えたものとなる。
【0030】
かかる構成にあって、上述したように、イオンフロー記録ヘッド1の放電体5と対向電極21(図4参照)との間に放電制御電圧Eに相当する電位差を設定して電界を形成した状態で、加熱手段13によって任意の被加熱部位16を加熱することにより、図6に示すように、該被加熱部位16に形成されたイオン発生孔17を囲繞する孔縁の角部18で放電が発生し、この放電で生じる電離によって、イオン発生孔17の周囲のエリアでイオンが生成される。そして、イオン発生孔17の周囲のエリアで生成されたイオンが電界によって記録媒体20の記録面に移動して、小さなドットjで記録媒体20の記録面に画像が印字される。また、該ドットjが略真円状となる。
【0031】
ここで、記録媒体20の記録面に印字される画像を構成する個々のドットjが小さくなる原因としては、放電体5と対向電極21(図4参照)との間に形成される電界の力線が、図6に矢印gで示すように、イオン発生孔17を囲繞する孔縁の角部18からイオン発生孔17の中央側に偏倚するように形成され、イオンがこの力線に沿って移動することにより、記録媒体20の記録面に到達した時点で拡散し難いためと推測される。
【0032】
また、前記イオン発生孔17を円形に形成することにより、イオン発生孔17の孔縁の角部18が平面視において円形となり、この円形の角部18で生成されるイオンを円形の状態で記録媒体20の記録面に移動させ得るので、印字画像を構成する個々のドットをより真円状に近づけることができる。
【0033】
[実験例]
一画素(1ドット)のピッチ幅を125μm(解像度200dpi)とし、被加熱部位16に、直径10μm,30μm,60μm,80μmの円形のイオン発生孔17を夫々形成した四種類の加熱放電型のイオンフロー記録ヘッド1を試作して印字実験を行った。また、比較のため、被加熱部位16にイオン発生孔17が形成されていない単一の放電電極、所謂ベタ電極を備えたイオンフロー記録ヘッドを用いての印字実験も行った。この印字実験は、イオン発生孔17を備えたイオンフロー記録ヘッド1の場合、加熱手段13の発熱用個別電極12と発熱用櫛歯電極11aとに24Vのストローブ電圧を印加し、ベタ電極を備えたものには26Vのストローブ電圧を印加して、放電電極に放電制御電圧を印加した状態で放電を発生させ、記録媒体20の記録面に画像を印字する方法で行い、印字された画像を構成する個々のドットの大きさを測定した。その結果を図7(a)に示す。ここで、イオン発生孔17が直径10μmのものでは印字画像のドット径が14μmであり、また、直径30μmのものではドット径が39μmであり、直径60μmのものではドット径が80μmであり、直径80μmのものではドット径が110μmであった。また、何れの場合もドットの形状は真円形であった。一方、ベタ電極では、ドットの形状は真円形であるが、ドット径が250〜300μmと大きく、各ドット間で大きさのバラ付きが認められた。また、従来の横幅85μmの放電電極aを並列させた梯子状の放電体d(図8(a)参照)による印字では、上述したようにドット幅が200μmであることから、イオン発生孔17を備えたイオンフロー記録ヘッド1にあっては、印字画像のドット径が小さくなることが解る。
【0034】
また、ベタ電極を備えたイオンフロー記録ヘッドでは、加熱手段13に対してストローブ電圧を3〜4回印加しないと放電が発生せず、印字に過大な印加エネルギーを必要とするのに対して、イオン発生孔17を備えたイオンフロー記録ヘッド1にあっては、一回のストローブ電圧の印加で放電が発生することが認められた。このことから、ベタ電極を備えたイオンフロー記録ヘッドに比して、イオン発生孔17を備えたイオンフロー記録ヘッド1では、消費する印字エネルギーが少ないことが解る。
【0035】
また、図7(b)は、上記実験結果に基づいて作成したイオン発生孔17の直径と、印字されたドットの大きさとの関係を示すグラフである。このグラフから明らかなように、印字されたドットの大きさは、イオン発生孔17の直径に正比例することが解る。
【0036】
尚、このグラフから解るように、イオン発生孔17の直径が10μm未満であると、記録媒体20の記録面に印字される画像を構成する個々のドットが小さくなり過ぎて鮮明な画像が得られなくなるので好ましくなく、逆にイオン発生孔17の直径が120μmを超えると、ドットが160μmを超え、梯子状の放電体d(図8(a)参照)による印字での200μmに次第に近づき、従来と同様にドットが大きくなり過ぎて鮮明な画像が得られなくなるので好ましくない。
【0037】
このように、本発明にあっては、放電電極5aの各被加熱部位16に、該放電電極5aの表面側に角部18を備えた幅10〜120μmのイオン発生孔17が夫々形成されていることにより、被加熱部位16が加熱されると、イオン発生孔17を囲繞する孔縁の角部18で放電が発生し、この放電で生じる電離によって、イオン発生孔17の周囲のエリアでイオンが生成される。そして、このイオン発生孔17の周囲のエリアで生成されたイオンが電界によって記録媒体20の記録面に移動するので、記録媒体20の記録面に印字される画像を構成する個々のドットが小さくなり、かつ該ドットが略真円状となるので、印字画像の縁部がシャープになり、鮮明な画像の印字が可能となる。また、角部18は放電が発生し易いため、ベタ電極で放電する場合に比して、加熱手段13に対する印加電圧が低くても放電が可能となり、印加エネルギーを節減することができる。
【0038】
また、上記イオン発生孔17を円形にした場合には、イオン発生孔17を正三角形,正方形,正六角形等の正多角形とする場合に比して、その形成が容易であり、また、イオン発生孔17の孔縁の角部18が平面視において円形となるため、印字画像を構成する個々のドットをより真円状にし易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)はイオンフロー記録ヘッド1の模式側面図、(b)はイオンフロー記録ヘッド1の模式外観斜視図である。
【図2】ヘッド基板4の平面図である。
【図3】(a)は図2のA−A線断面図、(b)は図2のB−B線断面図である。
【図4】イオンフロー記録ヘッド1による画像印字方法を示す模式側面図である。
【図5】(a)は放電電極5aの各被加熱部位16に形成されたイオン発生孔17を示す部分拡大平面図、(b)は該イオン発生孔17部分の拡大断面図、(c)は他の形態のイオン発生孔17部分の拡大断面図である。
【図6】イオン発生孔17の周囲のエリアで生成されたイオンの移動方向を示す説明図である。
【図7】(a)は印字実験の結果を示す図表、(b)は実験結果に基づいて作成したイオン発生孔17の直径と、印字されたドットの大きさとの関係を示すグラフである。
【図8】(a)は複数の放電電極aを所定ピッチ幅で並列させた従来の梯子状の放電体dを示す平面図、(b)は放電電極aの角部f,fにおけるイオンの生成状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 イオンフロー記録ヘッド
5a 放電電極
14 発熱素子
15 絶縁層
16 被加熱部位
17 イオン発生孔
18 角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層の表面側に配設された放電電極と、前記絶縁層の裏面側に配設された発熱素子とを備え、前記放電電極への放電制御電圧の印加と発熱素子による加熱とにより生ずる前記放電電極の放電の有無を、前記発熱素子による前記放電電極の各被加熱部位に対する選択的加熱により制御する加熱放電型のイオンフロー記録ヘッドにおいて、
前記放電電極の各被加熱部位に、該放電電極の表面側に角部を備えた幅10〜120μmのイオン発生孔が夫々形成されていることを特徴とするイオンフロー記録ヘッド。
【請求項2】
イオン発生孔が円形であることを特徴とする請求項1記載のイオンフロー記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−119670(P2009−119670A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294796(P2007−294796)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000186566)小林クリエイト株式会社 (169)
【Fターム(参考)】