説明

イオン交換フィルタ

【課題】極低濃度イオンを除去する能力と、高い透水性と長寿命を有するイオン交換フィルタを提供する。
【解決手段】イオン交換フィルタ1は、水透過性の筒体2と、この筒体2の外周に巻回された、流路材シート4とイオン交換シート5との積層シート3とを備えている。被処理液は流路材シート4内を矢印Aの通りスパイラル状に流れ、この間にイオン交換シート5と接触し、脱イオン処理される。流路材シート4内を流れている液は、開口8に遭遇すると、その一部が矢印Bのように該開口8を通って1層だけ内周側の流路材シート4にショートカットして流れる。開口8を通過した液はイオン交換フィルタ1を1周してから次の開口8に到達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、水溶液、有機溶媒等の液体の処理において、あるいは気液混合物の処理において、被処理流体に含まれる微量の金属、微粒子等を吸着分離、排除分離するためのイオン交換フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスなどで用いられる超純水の高純度化の要求は年々厳しくなってきている。ITRS2005によると、2008年には超純水中の金属イオン濃度を0.5ng/L以下にするロードマップが提示されているが、半導体製造各社は、金属濃度がより低濃度の超純水を求めている。水処理メーカーは前倒しで金属イオン濃度を低減しており、最新の超純水製造設備においては、ほとんどの金属を0.5ng/L以下に低減した超純水を製造することができるものもある。
【0003】
超純水中の金属濃度を低減する方法として、ユースポイント直前にイオン交換フィルタを設置する方法がある。
【0004】
従来のイオン交換フィルタとして、不織布あるいは多孔質膜といった平膜をプリーツ型にしたもの(例えば特許文献1の図5)がある。
【0005】
また、樹脂を充填したイオン交換フィルタも公知である(例えば、特許文献1の図9)。なお、市販の樹脂充填型イオン交換で10インチサイズのものは、操作圧力を0.1MPaかけた時の透過流量が200L/h程度である。
【0006】
イオン交換膜として、イオン交換樹脂を溶媒中に溶解または分散させてキャスト原液とし、該キャスト原液を基材フィルム上にキャストさせた後、乾燥させて、次いで該基材フィルムから剥離させたキャスト膜が公知である(例えば特許文献2,3)。この特許文献3には、相分離法を利用して製造した多孔質のイオン交換膜が記載されている。
【0007】
繊維径がナノメーターオーダーである極細のナノファイバの製造方法として電界紡糸法(静電紡糸法)が公知である(下記特許文献4,5等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−50761
【特許文献2】特開2000−327809
【特許文献3】特開2006−193709
【特許文献4】特開2007−92237
【特許文献5】特開2006−144138
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
プリーツ型イオン交換フィルタは、プリーツの折り込み部分に流れが偏りやすく、上述の超純水のような極低濃度域では十分な除去率を得ることはできない。また、膜厚が薄いために破過が早く寿命が短い。また、イオン除去率を向上させるため、膜厚を厚くしたり、膜の細孔を小さくすると、透水性が犠牲となる。例えば、繊維径が小さい、フィルタ厚みが大きい、或いは巻き回し回数が多いといったときは、圧損が大きくなると共に濾過速度が小さくなり必要な性能を出すことが困難になる。特に極細のナノファイバーで構成されるフィルタはこの傾向が顕著である。
【0010】
本発明は、半導体産業等における超純水の高純度化の要求を満たす、極低濃度イオンを除去する能力と、高い透水性と長寿命を有するイオン交換フィルタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1のイオン交換フィルタは、イオン交換シートと流路材シートとの積層シートが液透過性の筒体の外周に複数の層を形成するようにスパイラル状に巻回されたイオン交換フィルタであって、該イオン交換シートには、被処理液を隣り合う層に短絡させるための開口が複数個設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2のイオン交換フィルタは、請求項1において、前記イオン交換シートが、相当直径が10〜1000nmのイオン交換繊維からなるイオン交換繊維不織布とイオン交換キャスト膜の一方、又は両方を重ねたものであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3のイオン交換フィルタは、請求項2において、前記イオン交換シートがイオン交換繊維不織布を含み、前記流路材シートの細孔径は該イオン交換繊維不織布の細孔径よりも大きいことを特徴とするものである。
【0014】
請求項4のイオン交換フィルタは、請求項1ないし3のいずれか1項において、1つの開口を通過した液がスパイラル方向に半周以上流れてから次の開口に到達するように各開口が配置されていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項5のイオン交換フィルタは、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記開口は、前記イオン交換シートの巻回長手方向の両側辺部に設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のイオン交換フィルタは、液透過性の筒体の外周に、流路材シートとイオン交換シートとの積層シートを複数の層を形成するようにスパイラル状に巻回したものである。被処理液は流路材シートに沿ってスパイラル方向に流れ、この間にイオン交換シートと接触してイオン交換処理される。被処理液がこのようにスパイラル方向に流れるので、被処理液とイオン交換シートとの接触時間が長くなり、十分に脱イオン処理されると共に、フィルタの寿命も長いものとなる。
【0017】
本発明では、イオン交換シートに短絡用の開口が設けられており、被処理液の一部は、この開口を通って隣り合う層に短絡的にショートカットして流れる。これにより、イオン交換フィルタの通水圧損も低くなる。
【0018】
本発明では、1つの開口を通過した液がスパイラル方向に半周以上流れてから次の開口に到達するように開口をずらして配置することが好ましい。これにより、被処理液が過度に短絡的に流れることが防止され、処理液が十分に脱イオン処理される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係るイオン交換フィルタを示す構成図である。
【図2】実施の形態に係るイオン交換フィルタの断面図である。
【図3】別の実施の形態に係るイオン交換フィルタの断面図である。
【図4】異なる実施の形態に係るイオン交換フィルタに用いられる積層シートの断面図である。
【図5】異なる実施の形態に係るイオン交換フィルタに用いられる積層シートの平面図である。
【図6】フィルタカートリッジの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図の(a)図は実施の形態に係るイオン交換フィルタの製作方法を示す断面図、(b)図は積層シートの断面図、(c)図は積層シートの斜視図、(d)図は積層シートの平面図である。第2図はイオン交換フィルタの筒体軸心方向と垂直方向の模式的な断面図である。
【0021】
このイオン交換フィルタ1は、水透過性の筒体2と、この筒体2の外周に巻回された積層シート3とを有する。この積層シート3は、流路材シート4とイオン交換シート5とを積層したものである。
【0022】
筒体2は円筒状であり、直径1〜10mm程度の円形の小孔2aを開口率10〜90%、特に30〜80%程度となるように設けたものである。なお、筒体2を多孔質の金属又はセラミックス焼結体のように透水性材料にて構成し、小孔2aを省略してもよい。筒体2の内径は5〜50mm程度が好適であるが、これに限定されない。筒体2の肉厚は0.5〜5mm程度が好適であるが、これに限定されない。
なお、小孔2aの形状は円形に限定されず、楕円形、多角形などであってもよい。この場合、小孔の相当直径(=小孔の面積/周囲長×4)を直径とみなす。
【0023】
流路材シート4は、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリエステル、ポリスルホンなどよりなる不織布、織布、格子状ネットなどが好適である。流路材シートの厚さは0.1mm〜5mm、特に0.5〜2mm程度が好適であり、細孔径は10μm以上(目開き:50%〜90%)程度が好適である。
【0024】
イオン交換シート5は、イオン交換繊維の織布又は不織布、イオン交換キャスト膜などよりなる。このイオン交換シート5の好適例については後に詳述する。
【0025】
積層シート3は、幅aが約50〜600mm特に約100〜400mm程度で、筒体2に必要回数だけ巻き付けるのに十分な長さを有した帯状のものである。
【0026】
この積層シート3にあっては、イオン交換シート5を貫通する開口8が設けられている。この実施の形態では、開口8は、積層シート3の長手方向(巻回方向)の両側辺3a,3bに沿って配列されている。
【0027】
この実施の形態では、一方の側辺3aに沿う開口8,8同士の中間点と対称状に、他方の側辺3b側に開口8が位置している。開口8から直近の側辺3a又は3bまでの距離bは5〜50mm特に10〜30mm程度が好適である。開口8は、第2図では、積層シート3を2回巻き付けるたびに同一位相にて開口8が存在するように配設されている。
【0028】
この積層シート3を筒体2の外周にスパイラル状(渦巻状)に巻回してイオン交換フィルタ1(第2図)とする。この巻き付けによる層の数(筒体2を回転させる場合は、合計の回転数)は5〜50特に10〜30程度が好適である。なお、積層シート3を巻き付けるとロール状巻回体となるが、このロール状巻回体の端面はプレートや接着剤等の封止材料で封止し、端面からは被処理液が流入しないようにする。
【0029】
第6図は、第1,2図のイオン交換フィルタ1を組み込んだフィルタカートリッジの一例を示す断面図である。
【0030】
このフィルタカートリッジ10は、被処理水の流入口11と濾過水の流出口12とを有したケーシング13内に、イオン交換フィルタ1を、筒軸方向が上下方向となるように配置したものである。
【0031】
イオン交換フィルタ1の下面には、筒体2の一端側を閉塞するエンドプレートを兼ねたフランジ24が設けられている。イオン交換フィルタ1の上端面にはフランジ25が設けられている。筒体2の上端は、上方に延出し、その先端に連結用フランジ2bが設けられている。
【0032】
流出口12には、濾過水取出管14が連なっている。この取出管14の下端にフランジ14aが設けられ、上記筒体2のフランジ2bと連結されている。なお、このようなフランジ2b,14aによる連結の代わりに、筒体2の上端と取出管14の下端同士を、Oリングを介して嵌合させるようにしてもよい。
【0033】
被処理水は、流入口11からケーシング13内に導入され、イオン交換フィルタ1を求心方向に透過し、小孔2aから筒体2内に流入し、取出管14、流出口12を介して取り出される。
【0034】
被処理液は、このイオン交換フィルタ1の外周面から流路材シート4内を第2図の矢印Aの通りスパイラル状に流れ、この間に流路材シート4の外周側及び内周側の両側に存在するイオン交換シート5と接触し、脱イオン処理される。被処理液がこのようにスパイラル状に流れるので、被処理液とイオン交換シート5との接触時間が長く、十分に脱イオン処理される。
【0035】
この実施の形態では、イオン交換シート5に、同一断面において重ね合せシートの2周に1回の頻度で開口8が存在するように所定間隔をおいて開口8が設けられている。流路材シート4内を流れている液は、開口8に遭遇すると、その一部が第2図の矢印Bのように該開口8を通って1層だけ内周側の流路材シート4にショートカットして短絡的に流れる。このため、通水圧損も低減される。流路材シート4の最内周まで流れてきた液は、小孔2aを通って筒体2内に流入し、処理液として取り出される。
【0036】
この実施の形態では、開口8を通過した液はイオン交換フィルタ1を1周してから次の開口8に到達する。そのため、1つの開口8を通って次層へショートカットした液が直ちに次の開口を通ってさらに次層へショートカットするという事態が防止され、被処理液は十分に脱イオン処理されて筒体2に到達する。
【0037】
なお、この説明では、被処理液は外周側から供給され、処理液が筒体2から取り出されているが、逆に筒体2内に被処理液が供給され、外周側から処理液が取り出されるように通液してもよい。
【0038】
[別の実施の形態]
第1,2図のイオン交換フィルタ1では、重ね合せシートに2周に1回の頻度で開口8を設けており、1つの開口8を通った液は流路材シート4内を1周してから次の開口8に到達するよう構成しているが、第3図のイオン交換フィルタ1Aでは、重ね合せシートに1.5周に1回の頻度で開口8を設けている。この場合、1個の開口8を通った液が流路材シート4内を少なくとも半周してから次の開口8に到達する。従って、この場合も、流路材シート4内を流れる液が次々と開口8を通り抜けて最内周に到達してしまうことがなく、十分に脱イオン処理が行われる。第3図のその他の構成は第2図と同様であり、同一符号は同一部分を示している。
【0039】
第1,2図の実施の形態では、積層シート3は1枚の流路材シート4と、1枚のイオン交換シート5とからなっているが、1枚の流路材シート4上に複数枚のイオン交換シートを重ね合わせてもよい。第4図は、1枚の流路材シート4上に2枚のイオン交換シート6,7を重ね合わせた積層シート3を示している。イオン交換シート6,7は、いずれもイオン交換繊維の織布、イオン交換繊維の不織布及びイオン交換キャスト膜のいずれか1つである。イオン交換シート6,7は同種のものであってもよく、異種のものであってもよい。後者の場合、例えば、イオン交換繊維の不織布よりなるイオン交換シート6と、イオン交換キャスト膜よりなるイオン交換シート7とが例示されるが、組み合わせはこれに限定されない。
【0040】
上記実施の形態では、開口8は円形であるが、楕円形、多角形などであってもよい。また、開口は「−」形のスリットであってもよい。第5図は、スリット状開口9(9a,9b)を備えたイオン交換シート5Aの平面図である。スリットはイオン交換シート5Aの短手幅方向に延在していることが好ましい。スリットの長さeは、イオン交換シート5Aの幅aの1〜30%特に5〜15%程度が好ましい。
【0041】
第5図では、スリット状開口9は、両側辺部に配置された開口9aと、幅方向中央に配置された開口9bとからなる。両側辺の開口9a,9aは同一直線上に配置されているが、これに限定されない。開口9aと直近のイオン交換シート側辺との距離fは、5〜50mm特に10〜30mm程度であることが好ましい。
【0042】
[イオン交換シートの詳細な説明]
イオン交換シートは、前述の通り、キャスト膜や、イオン交換繊維の織布又は不織布などが用いられる。以下に、これらについて詳細に説明する。なお、キャスト膜や、イオン交換繊維の織布又は不織布を2層以上重ねた複層イオン交換シートを用いてもよい。
【0043】
[1] イオン交換シートの種類
(1) イオン交換繊維シート
イオン交換繊維としては以下の(a)〜(d)の材料を電界紡糸法又は溶融紡糸法で紡糸したものが好適である。イオン交換繊維シートは、これらを単独又は複合で用いて不織布または織布としたものである。
【0044】
(a)荷電性高分子繊維としてパーフルオロカーボンスルホン酸重合体(ナフィオン(登録商標)、フミオン(ペルフルオロスルホン酸イオノマー、FuMA−Tech Gmbh))
(b)非荷電性高分子繊維からなる基材にイオン交換基が化学的に付与されたもの
(c)荷電性高分子繊維としてパーフルオロカーボンスルホン酸重合体(ナフィオン(登録商標)、フミオン)を骨格材に担持して骨格材と一体化したもの
(d)非荷電性高分子繊維からなる基材にイオン交換基が化学的に付与されたものを骨格材と一体化したもの
高い機械的強度を得るには上記(c)または(d)のものが好ましい。
【0045】
不織布または織布の厚さは0.01〜0.5mm(10〜500μm)程度が好適であり、細孔径は0.1〜10μm(エアーフロー法により測定、以下同様)程度が好適であり、イオン交換容量は0.05〜2meq/g、0.03〜1.5meq/cm程度が好適である。
イオン交換シートの少なくとも一部をイオン交換繊維の不織布にて構成する場合、流路材シート4の細孔径は、該不織布の細孔径よりも大きいことが好ましく、具体的には100〜10000倍程度であることが望ましい。
【0046】
(2) イオン交換キャスト膜
イオン交換キャスト膜としては以下の(e)〜(h)の1種又は2種以上を用いて相分離法などにより製造した多孔質膜が好適である。
【0047】
(e)パーフルオロカーボンスルホン酸重合体(ナフィオン(登録商標)、フミオン)をガラスなどの基板上に塗布した後に基板を取り除いたフィルム状のもの
(f)非荷電性高分子からなる基材にイオン交換基が化学的に付与されたものをガラスなどの基板上に塗布した後に基板を取り除いたフィルム状のもの
(g)パーフルオロカーボンスルホン酸重合体(ナフィオン(登録商標)、フミオン)を骨格材に塗布して骨格材と一体化したもの
(h)非荷電性高分子からなる基材にイオン交換基が化学的に付与されたものを骨格材に塗布して骨格材と一体化したもの
高い機械的強度を得るには上記(g)または(h)の方法が好ましい。
【0048】
このキャスト膜の厚さは0.01〜0.5mm(10〜500μm)程度が好適であり、細孔径は1μm以下が好適であり、イオン交換容量は0.2〜2meq/g、0.1〜1.8meq/cm程度が好適である。
【0049】
上記の非荷電性高分子としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリビニリデンフロライドなどが例示される。
【0050】
イオン交換基としては、種々のカチオン交換基又はアニオン交換基等を用いることができる。例えば、カチオン交換基としては、スルホン基などの強酸性カチオン交換基、リン酸基などの中酸性カチオン交換基、カルボキシル基などの弱酸性カチオン交換基、アニオン交換基としては、第1級〜第3級アミノ基などの弱塩基性アニオン交換基、第4級アンモニウム基などの強塩基性アニオン交換基を用いることができ、或いは、上記カチオン交換基及びアニオン交換基の両方を併有するイオン交換体を用いることもできる。
【0051】
骨格材としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリビニリデンフロライドなどからなる不織布、織布などが例示される。
【0052】
[2] イオン交換繊維の繊維径、長さ
イオン交換繊維としては、相当直径が1〜1000nm、特に10〜700nm程度の著しく細い繊維が好適である。ここで「相当直径」とは、1本の繊維(ファイバ)の断面積と断面積の外周長さとから、(相当直径)=4×(断面積)/(断面の外周長さ)によって算出される値である。
【0053】
イオン交換繊維の長さは、1μm以上が好適である。なお、電解紡糸で作製した場合、数十cmの長さにすることができ、また連続的に紡糸することもできるため、上限なく長くすることができる。
【0054】
[3] イオン除去の性能
(1) イオン交換繊維シートの場合
繊維表面をイオン交換の場とすることにより、繊維周辺における流体の接触効率が向上するため、イオンの吸着速度が高まる。
【0055】
(2) イオン交換キャスト膜の場合
イオンを除去するための官能基を高密度に保持させることができ、イオン除去容量を確保することができる。
【0056】
[4] 圧力損失の抑制
イオン交換繊維シートの場合は、イオン交換繊維を細くして比表面積を大きくすることでイオン交換容量を高めることができるが、その反面、繊維層が厚くなると透過抵抗が増加して実用性が欠如するという問題が生じる。特にイオン交換繊維がナノファイバーのような極細繊維で構成されているときに顕著である。
【0057】
一方、イオン交換キャスト膜はイオン交換繊維シートよりも緻密であり、透過抵抗はさらに高くなる。
【0058】
そこで、これら、イオン交換繊維シートやイオン交換キャスト膜からなるイオン交換シートに開口を設け、流体を部分的に短絡させる。これにより、圧力損失を抑えることができるようになる。
【0059】
[5] 開口の配置の詳細な説明
本発明では、1つの開口を通過した液が周方向に半周以上流れてから次の開口に到達することが好ましく、そのためには、開口は筒体2に巻回される積層シート3の1.5周以上に1回の割合で設けられることが好ましく、例えば、1.5〜3周に1個の割合で設けられることが好ましい。なお、開口同士の間隔を一定にする設定にする場合は、1つの開口を通り抜けた水が平均周囲長すなわち[{(筒体2の周囲長)+(イオン交換フィルタ1の外周の周囲長)}/2]の0.5倍程度又はそれ以上流れてから次の開口に到達するように各開口を配列することが好ましい。
【0060】
また、膜表面を有効に活用するためには、被処理液のうち所定量以上は開口8を通過(ショートカット)せずにスパイラルの流路に沿って1周以上流れるようにするのが好ましい。従って、開口の大きさは、流路材シートの厚さや目開きを勘案して、ショートカット流量比が所定範囲になるように設定することが好ましい。
【0061】
さらに、膜表面を有効に活用する観点から、ある開口に対して次の開口を、第1図(d)の如く、フィルタの長さ方向の一辺と他辺というように両辺に交互に配置することが好ましい。これにより開口をショートカットする被処理水も流路材シートの幅分だけイオン除去する流路を長くすることができる。
【0062】
従来のフィルタと本発明のフィルタの吸着帯の長さの違いを第1図と具体的な数値の例示を交えて以下の通り説明する。
半径20mmの透水性筒体の外周にイオン交換シートを厚み20mmに巻き回した従来例に係るイオン交換フィルタに対し被処理水を求心方向(放射方向と反対方向)に通過させる場合、積層部分の厚さが吸着帯の長さとなり、20mm程度となる。
これに対し、半径r=20mmの透水性筒体の外周に1.5mmの積層シート3を第1図のように13層巻き回して積層厚みを20mmとした外円半径R=40mmのイオン交換フィルタにおいて、シート幅(フィルタの長さ)aが10インチ(254mm)であり、シートの側辺から長さbが27mmの位置に両側に開口8が間隔をおいて複数設けられており、同じ側辺側の隣り合う開口8の間隔cが740mmであり、巻き始め側から第1番目の開口8までの距離Lを250mmとした本発明のイオン交換フィルタの場合、フィルタの吸着帯の全長は以下のように求められる。
積層の平均周囲長と積層数の積をシート全長Lとみなすと、L={2π(r+R)/2}×13層≒2450mmとなる。ここでL/c×2=6.6…なので、開口8の数は6個となる。一方、両側辺の対向する開口8の距離(流体が方向転換するまでの吸着帯の長さ)は√{(c/2)+(a−2b)}≒420mmとなる。従って本発明のフィルタの吸着帯の全長は420mm×6個≒2500mm程度となる。
このように、従来のフィルタに流体を単純に透過させた場合の吸着帯の長さが20mm程度であるのに対して、本発明のフィルタでは吸着帯の全長は2500mm程度であり、従来の約125倍もの吸着帯長さを得ることができる。
【0063】
外周面の半径rの透水性筒体2の外周に、第1図のように、積層シート3を巻回してイオン交換フィルタ1を製作する場合、イオン交換シート5の巻き始め側の端辺(短辺)から第n番目までの開口8までの距離L(L,L,L,L,L………)は、次式に則って定めるのが好ましい。
Ln=(πR−πr)/(T+t)
:n番目の開口8と筒体3の軸心との半径方向の距離(mm)
r:筒体3の外周面の半径(筒体3の外周面と軸心との半径方向の距離(mm)
T:流路材シート4の厚さ(mm)
t:イオン交換シートの厚さ(mm)
【実施例】
【0064】
以下の実施例及び比較例で使用したイオン交換シートは、表1に示すイオン交換繊維シートF1,F2又は、イオン交換キャスト膜M1又はM2である。使用した流路材シートは、表2に示したポリプロピレン製格子状ネットS1,S2又はS3である。用いた筒体2は、外径10mm、内径6mmのポリプロピレン製パイプよりなり、周面に直径2mmの小孔を孔間隔2mmで多数穿孔したものである。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
[比較例1〜3]
直径10mmの筒体に、表1の比較例1〜3の通り、イオン交換繊維シート及び/又はイオン交換キャスト膜、流路材シートを重ねて外径80mmになるようにロール状に巻き回し、長さ225mmになるようカットした。カットした両端面を水が抜けないように接着剤で封止した。
【0068】
[実施例1〜4]
幅a=225mmのイオン交換シートの両側辺部に沿って、開口として直径2mmの円形孔又は長さ20mmのスリットを800mmピッチで設けた。すなわち、第1図(d)のcを800mmとした。Lのみ400mmとした。イオン交換シートの側辺から開口までの距離はbは15mmである。これを流路材シートと重ね合わせ、筒体の外周に外径80mmになるようにロール状に巻き回し、長さ225mmになるようカットした。カットした面の両端を水が抜けないように接着した。なお、円形孔は第1図(d)のように設け、スリットは第5図のスリット9aのように設けた。
【0069】
3)通水試験条件
フィルタを第6図のフィルタカートリッジにセットし、1ng/LのNaイオンを含む純水を20L/minで通水した。結果を表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
4)結果・考察
表3の通り、孔やスリットなどの開口を形成した実施例1〜3は長期にわたって圧損が上昇せず、フィルタ寿命も長いことが分かった。
【符号の説明】
【0072】
1,1A イオン交換フィルタ
2 筒体
3 積層シート
4 流路材シート
5,6,7 イオン交換シート
8 開口
9 スリット状開口
10 フィルタカートリッジ
11 流入口
12 流出口
13 ケーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換シートと流路材シートとの積層シートが液透過性の筒体の外周に複数の層を形成するようにスパイラル状に巻回されたイオン交換フィルタであって、該イオン交換シートには、被処理液を隣り合う層に短絡させるための開口が複数個設けられていることを特徴とするイオン交換フィルタ。
【請求項2】
請求項1において、前記イオン交換シートが、相当直径が10〜1000nmのイオン交換繊維からなるイオン交換繊維不織布とイオン交換キャスト膜の一方、又は両方を重ねたものであることを特徴とするイオン交換フィルタ。
【請求項3】
請求項2において、前記イオン交換シートがイオン交換繊維不織布を含み、前記流路材シートの細孔径は該イオン交換繊維不織布の細孔径よりも大きいことを特徴とするイオン交換フィルタ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、1つの開口を通過した液がスパイラル方向に半周以上流れてから次の開口に到達するように各開口が配置されていることを特徴とするイオン交換フィルタ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記開口は、前記イオン交換シートの巻回長手方向の両側辺部に設けられていることを特徴とするイオン交換フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−177705(P2011−177705A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262515(P2010−262515)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【分割の表示】特願2010−46710(P2010−46710)の分割
【原出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】