説明

イオン交換膜、タンパク質精製モジュール、及びタンパク質の分離方法

【課題】細胞培養液から簡便に目的タンパク質を精製可能なイオン交換膜を提供する。
【解決手段】エタノールを用いるバブルポイント法により求められる最大孔径が0.2μm以上0.6μm以下である疎水性の多孔質中空糸膜と、多孔質中空糸膜の表面に導入され、3級又は4級アミンのアニオン交換基を有するグラフト分子鎖と、を備えるイオン交換膜であって、多孔質中空糸膜の重量に対するグラフト分子鎖の重量の比が25%から75%であり、緩衝液を用い、ハーゲン−ポアズイユ式より求められる細孔径が0.1μmから0.5μmの範囲にあり、0.1mol/Lの塩を含む緩衝液中のタンパク質の動的吸着容量が10mg/mL以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類以上のタンパク質の混合溶液から、目的とする1種類のタンパク質を分離精製するために用いられるイオン交換膜、タンパク質精製モジュール、及びタンパク質の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオテクノロジー産業において、タンパク質の大量精製が重要な課題となっている。特に医薬の分野において、抗体医薬の需要が急速に拡大しており、効率的に大量のタンパク質を産生及び精製可能な技術の確立が強く望まれている。一般的に、タンパク質は、動物由来の細胞株を用いる細胞培養によって産生される。特に抗体医薬を実用化するためには、濁質となる細胞デブリ及び不純物となる細胞由来の溶存タンパク質等を細胞培養液から除去し、人間の治療用途にとって十分な程度まで、目的とする抗体を精製する必要がある。
【0003】
細胞培養液からタンパク質を精製する通常の操作においては、最初に、細胞培養液を遠心分離し、濁質成分を沈降除去する。次いで、遠心分離で除去しきれない約1μm以下の細胞デブリを、精密ろ過膜を用いるサイズろ過により除去する。さらに無菌化するために、最大細孔径が0.22μm以下のろ過膜を用いて無菌化ろ過を施して、目的タンパク質の清澄な溶液を得る(ハーベスト工程)。続いて、アフィニティークロマトグラフィーを初めとする、複数のクロマトグラフィー技術の組み合わせによる精製プロセスを用いて、不純物タンパク質を清澄な溶液から除去し、目的タンパク質を分離・精製する(ダウンストリーム工程)。
【0004】
以上説明した従来のタンパク質の精製方法の対象となる細胞培養液中の目的タンパク質の濃度は、通常1g/L以下である。また、細胞デブリ及び不純物タンパク質の濃度も、目的タンパク質の濃度と同程度である。目的タンパク質、細胞デブリ及び不純物タンパク質等の濃度が1g/L以下であれば、ハーベスト工程及びダウンストリーム工程を含む従来のタンパク質の精製方法は、充分有効である。
【0005】
しかし、抗体医薬の需要が急速に拡大し、抗体医薬に用いられるタンパク質の大量生産が指向されたため、近年では細胞培養液中のタンパク質濃度を高める細胞培養技術が急速に発達している。そのため、近年では細胞培養液中の目的タンパク質の濃度が10g/Lにまで到達しようとしている。しかし同時に、細胞培養液中の不純物タンパク質の濃度も同様に増加しており、従来のタンパク質の精製方法では、目的タンパク質の精製が困難になりつつある。
【0006】
そこで、例えば近年、多孔質膜にイオン交換基を導入して、タンパク質吸着能力を付与したタンパク質吸着膜が開発され(例えば特許文献1及び2参照)、購入も可能である。また、タンパク質吸着膜の使用例として、特許文献3には、アニオン交換基を導入したセルロース多孔膜とカチオン交換基を導入したセルロース多孔膜の2種類のタンパク質吸着膜を用いて、リンパ液からアルブミンを分離する方法が開示されている。さらに、特許文献4には、アニオン交換基を導入したセルロース多孔膜を用いて、核酸とエンドトキシンを分離する方法が開示されている。特許文献5及び6には、カチオン交換基及びアニオン交換基をそれぞれポリエーテルスルホン多孔膜に導入したタンパク質吸着膜が開示されている。また特許文献7並びに非特許文献1及び2には、多孔質中空糸膜にグラフト鎖を導入し、さらにグラフト鎖にアニオン交換基を付与した、吸着性の高いタンパク質吸着膜が開示されている。
【特許文献1】米国特許第5,547,575号明細書
【特許文献2】米国特許第5,739,316号明細書
【特許文献3】米国特許第6,001,974号明細書
【特許文献4】米国特許第6,235,892号明細書
【特許文献5】米国特許第6,783,937号明細書
【特許文献6】米国特許第6,780,327号明細書
【特許文献7】特開平2−132132号公報
【非特許文献1】ラヂエーション・フィジックス・アンド・ケミストリ(Radiation Physics and Chemistry)、エルゼビア、1995年、第46巻、第2号、p.239−245
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・メンブレン・サイエンス(Journal of Membrane Science)、エルゼビア、1996年、第117巻、p.135−142
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1乃至6に開示されたタンパク質吸着膜は、細孔径が1μm以上であるため、濁質不純物である細胞デブリを除去する能力が乏しい。また溶存タンパク質の吸着容量が小さいため、大量のタンパク質を吸着できない。さらに細胞培養液には、通常、塩が含まれているが、細胞培養液に0.1mol/L以上の塩が含まれていると、特許文献1乃至6に開示されたタンパク質吸着膜のタンパク質の吸着量は著しく少なくなる。したがって、特許文献1乃至6に開示されたタンパク質吸着膜を用いて、細胞培養液から不純物タンパク質を除去することは、実用的ではない。
【0008】
特許文献7並びに非特許文献1及び2に開示されたグラフト鎖を有する中空糸状のタンパク質吸着膜は、細孔径が小さく、タンパク質の吸着容量が高い。特に非特許文献1及び2に開示されたタンパク質吸着膜は、細孔径が0.3μmと小さいため、濁質成分の除去も可能である。このように、特許文献7並びに非特許文献1及び2に開示されたタンパク質吸着膜は、特許文献1乃至6に開示されたタンパク質吸着膜と比較して、タンパク質の吸着容量及び濁質の除去性において、優れた性質を有している。
【0009】
ここで、グラフト鎖を有するタンパク質吸着膜において、基材となる多孔質中空糸膜の重量に対するグラフト鎖の重量の比率が、グラフト率と規定される。グラフト率は、グラフト鎖を有するタンパク質吸着膜の性質を決定する重要な要素である。特許文献7にはグラフト率についての規定は明記されていないものの、実施例から200%以上のグラフト率が好ましいことが明らかである。また非特許文献1及び2には、150%乃至200%のグラフト率が好ましいと記載されている。特許文献7並びに非特許文献1及び2において、グラフト率をこの範囲にした明確な理由は、高いタンパク質の吸着容量が得られ、かつタンパク質吸着膜の通液性が良好となることによる。
【0010】
また、非特許文献1及び2に記載された合成条件では、同一条件であってもグラフト率がこの範囲でばらつくことも理由である。そのため、150%を超える高いグラフト率にすることは、グラフト鎖を有するタンパク質吸着膜が良好な性能を発揮するためには不可欠な要素であると考えられ、それ以下のグラフト率を有するタンパク質吸着膜は、吸着容量と通液性の点で好ましくないとされてきた。
【0011】
しかし、グラフト率が150%乃至200%、あるいはそれ以上の範囲にあるタンパク質吸着膜を実際に作製すると、塩を含む溶液を通液した際に5%から10%もタンパク質吸着膜が伸張変形するという実用上重大な問題が生じる。塩を含む溶液を通液することは、吸着したタンパク質を溶出するために不可欠な工程である。しかし、グラフト率が高いタンパク質吸着膜をモジュール化して使用すると、塩を含む溶液を通液中に、モジュールのケース内でタンパク質吸着膜が伸張変形を起こし、モジュールのケース内でタンパク質吸着膜が破断するおそれが高い。したがって、特許文献7並びに非特許文献1及び2に開示された、グラフト率が高いために形状安定性の低いタンパク質吸着膜を実用的に使用することは、極めて困難である。グラフト率が高いタンパク質吸着膜の伸張変形の詳細な原因は不明であるが、塩を含む溶液を通液することで、溶液中の負イオンがアニオン交換基に吸着し、それによってタンパク質吸着膜が膨張することが原因と推測される。
【0012】
また、タンパク質吸着膜を殺菌する場合には、通常0.1mol/L程度の水酸化ナトリウム水溶液(約pH12)を通液し、その後pH8.5以下になるまで塩化ナトリウム溶液を通液するというプロセスが実施される。その際、特許文献7並びに非特許文献1及び2に開示された中空糸状のタンパク質吸着膜は、水酸化ナトリウム水溶液を通液した後、カラム体積の20倍以上という極めて大量の塩化ナトリウム水溶液を通液しないとpHが低下しないという欠点も有する。以上説明した理由により、特許文献7並びに非特許文献1及び2に開示されたタンパク質吸着膜は、タンパク質の精製プロセスに実用的に使用するには適していない。
【0013】
したがって、既存のタンパク質吸着膜は、細胞培養液から、細胞デブリのような微細な不溶物を除去することを目的とする除濁と、溶存する不純物タンパク質の吸着とを同時に行い、かつ除菌処理をも施すという目的には適していない。また、グラフト鎖が導入された既存のタンパク質吸着膜も、形状安定性と、アルカリ状態からのpHの回復性に重大な問題があり、実用的なモジュールを作製できないことから、タンパク質精製プロセスに使用することは出来ない。そのため、これまで、高い吸着容量を有すると共に、除菌処理も可能であり、かつ実用プロセスにも耐えうるタンパク質吸着膜は存在しなかった。
かかる事情に鑑み、本発明の解決しようとする課題は、動物細胞培養液から簡便に目的タンパク質を精製可能な、実用的なイオン交換膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、課題を解決するために鋭意検討した結果、グラフト率の範囲を限定した、アニオン交換基を有するイオン交換膜が有効であることを見出した。すなわち、本発明の態様は、(イ)エタノールを用いるバブルポイント法により求められる最大孔径が0.2μm以上0.6μm以下である疎水性の多孔質中空糸膜と、(ロ)多孔質中空糸膜の表面に導入され、3級又は4級アミンのアニオン交換基を有するグラフト分子鎖と、を備えるイオン交換膜であって、(ハ)多孔質中空糸膜の重量に対するグラフト分子鎖の重量の比が25%から75%であり、(ニ)緩衝液を用い、ハーゲン−ポアズイユ式より求められる細孔径が0.1μmから0.5μmの範囲にあり、(ホ)0.1mol/Lの塩を含む緩衝液中のタンパク質の動的吸着容量が10mg/mL以上であるイオン交換膜であることを要旨とする。
【0015】
また本発明の他の態様は、(イ)ケースと、(ロ)エタノールを用いるバブルポイント法により求められる最大孔径が0.2μm以上0.6μm以下である疎水性の多孔質中空糸膜、及び中空糸膜の表面に導入され、3級又は4級アミンのアニオン交換基を有するグラフト分子鎖を有し、ケースの内部に固定されたイオン交換膜と、を備えるタンパク質精製モジュールであって、(ハ)中空糸膜の重量に対するグラフト分子鎖の重量の比が25%から75%であり、(ニ)緩衝液を用い、ハーゲン−ポアズイユ式より求められるイオン交換膜の細孔径が0.1μmから0.5μmの範囲にあり、(ホ)0.1mol/Lの塩を含む緩衝液中のイオン交換膜によるタンパク質の動的吸着容量が10mg/mL以上であるタンパク質精製モジュールであることを要旨とする。
【0016】
さらに本発明の他の態様は、(イ)タンパク質混合液を調製するステップと、(ロ)タンパク質混合液をイオン交換膜に通し、タンパク質混合液から目的タンパク質を分離するステップと、を含むタンパク質の分離方法において、イオン交換膜が、(ハ)エタノールを用いるバブルポイント法により求められる最大孔径が0.2μm以上0.6μm以下である疎水性の多孔質中空糸膜と、(ニ)中空糸膜の表面に導入され、3級又は4級アミンのアニオン交換基を有するグラフト分子鎖と、を備え、(ホ)中空糸膜の重量に対するグラフト分子鎖の重量の比が25%から75%であり、(ヘ)緩衝液を用い、ハーゲン−ポアズイユ式より求められるイオン交換膜の細孔径が0.1μmから0.5μmの範囲にあり、(ト)0.1mol/Lの塩を含む緩衝液中のイオン交換膜によるタンパク質の動的吸着容量が10mg/mL以上であるタンパク質の分離方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のイオン交換膜を用いることにより、アフィニティークロマトグラフィー工程前の、細胞培養液の除濁工程における、除菌並びに溶存不純物タンパク質の除去を行うための実用的なモジュールを作製することが可能になる。また、本発明のイオン交換膜を採用したモジュールを用いることにより、従来、遠心分離、精密ろ過、無菌化ろ過の3工程によって行われていた細胞培養液の清澄化を簡便にすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施されることができる。
【0019】
本実施の形態に係るイオン交換膜は、基材となる多孔質中空糸膜と、多孔質中空糸膜の表面及び多孔質中空糸膜の細孔の側壁に化学的又は物理的に固定された、アニオン交換基を有するグラフト分子鎖を備える。多孔質中空糸の素材は特に限定はされないが、機械特性の保持のために、ポリオレフィン系重合体、又はオレフィン及びハロゲン化オレフィンの共重合体から構成されていることが好ましい。ポリオレフィン系重合体、又はオレフィン及びハロゲン化オレフィンの共重合体としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリフッ化ビニリデン等のオレフィンの単独重合体、若しくはそれら2種以上の共重合体、又は前述したオレフィンの1種若しくは2種以上とテトラフルオロエチレン及びクロロトリフルオロエチレン等のハロゲン化オレフィンとの共重合体等が挙げられる。これらの多孔質中空糸の素材の中でも、機械的強度に特に優れ、かつタンパク質の吸着容量が高いポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、及びポリプロピレンが好ましく、特にポリエチレンが好ましい。
【0020】
グラフト鎖及びイオン交換基が導入される前の、基材としての多孔質中空糸膜の最大細孔径は、グラフト鎖及びイオン交換基を導入した後も十分な通液性を有し、なおかつ濁質成分を除去可能とするために、0.2μm乃至0.6μmの範囲内であり、好ましくは0.3μm乃至0.5μmの範囲内である。最大細孔径が0.2μm未満の場合、通液性に問題が生じうる。また最大細孔径が0.6μmよりも大きいと、濁質成分の除去が不充分になりうる。なお、最大細孔径の値は、以下の実施例に示すように、エタノールを用いるバブルポイント法により測定される値である。
【0021】
基材としての多孔質中空糸膜の表面及び多孔質中空糸膜の細孔の側壁にグラフト鎖を導入する方法は、限定されるものではないが、多孔質中空糸膜にγ線あるいは電子線等の放射線を照射してラジカルを発生させ、ラジカルが発生した部分にグリシジルメタクリレートをグラフト重合させる方法が好ましい。放射線照射によりラジカルを発生させることにより、0.2μmという小さな細孔径の細孔の側壁にも、容易にグラフト鎖を導入することが可能となる。
【0022】
基材としての多孔質中空糸膜の重量に対するグラフト鎖の重量の比で表されるグラフト率は、25%乃至75%であり、好ましくは30%乃至70%であり、より好ましくは35%乃至60%である。グラフト率が25%より低いと、タンパク質の吸着容量が低くなる。グラフト率が75%より高いと、膜の通液性、特に純水の通液性が低下し、高い通液圧力が必要となる。グラフト率が150%を超えると、吸着容量、通液性ともに良好となるが、塩溶液の通液による伸張変形率が高くなるため、モジュール化が困難となる。またグラフト率が150%を超えると、アルカリ状態からのpH回復性が低下する。上記の理由から、グラフト率は25%乃至75%にされる。
【0023】
グラフト鎖に固定するアニオン交換基は、核酸、宿主細胞由来タンパク質(HCP)、及びエンドトキシン等を吸着するアニオン交換基であれば限定されない。しかし、多孔質中空糸膜への化学的な固定が容易であり、高い吸着容量が得られることから、本発明で規定するグラフト率の範囲においては、ジエチルアミノ基(DEA)又はトリメチルアミノ基(TMA)が好ましく、ジエチルアミノ基がより好ましい。アニオン交換基は、グラフト鎖を構成するグリシジルメタクリレート重合体が有するエポキシ基を開環し、ジエチルアンモニウム又はトリメチルアンモニウムを付加することにより、グラフト鎖に固定する。グラフト鎖のエポキシ基のうち、モル比率で70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上がアニオン交換基に置換されている。置換される量が少ないと、動的吸着容量が低下する。
【0024】
アニオン交換基を固定した後に、未反応で残存するエポキシ基は、そのままの状態にしておいてもよい。あるいは、親水性を向上するために、残存するエポキシ基をエタノールアミン化、あるいはジオール化等してもよい。
【0025】
アニオン交換基を有する本実施の形態に係るイオン交換膜の最大細孔径は、濁質成分及びバクテリアを捕捉し、なおかつ高い透過流速を得るために、0.1μm乃至0.5μmの範囲内であり、好ましくは0.15μm乃至0.45μmの範囲内であり、より好ましくは0.2μm乃至0.4μmの範囲内である。ここで、最大細孔径は、以下の実施例に示すように、緩衝液を用いたハーゲン−ポアズイユ(Hagen−Poiseille)式により測定される値である。
【0026】
本実施の形態に係るイオン交換膜の、緩衝液が塩を含まない場合の動的吸着容量は、30mg/mL以上であることが好ましく、より好ましくは50mg/mL以上、さらに好ましくは70mg/mL以上である。また緩衝液が0.1mol/Lの塩を含む場合の動的吸着容量は、10mg/mL以上であることが好ましく、より好ましくは20mg/mL以上、さらに好ましくは30mg/mL以上である。イオン交換膜に吸着する不純物タンパク質の量は、イオン交換膜の体積に比例する。そのため、イオン交換膜の動的吸着容量が大きいほど、タンパク質の精製に用いるモジュールの大きさを小さくすることができる。
【0027】
本実施の形態において、動的吸着容量とは、中空状のイオン交換膜の中空部分を含まない体積あたりの、破過するまでにイオン交換膜に吸着されるタンパク質の質量を意味し、単位はmg/mLである。モデルタンパク質としてのウシ血清アルブミン(BSA)を20mmol/L Tris−HCl(pH8.0)の緩衝液に溶解し、以下の実施例に記載する方法によって、動的吸着容量を評価可能である。また、30mg/mL以上の動的吸着容量を得るためには、アニオン交換基の密度が、多孔質中空糸膜の質量に対して1.0mmol/g以上あることが好ましい。
【0028】
また本実施の形態に係るタンパク質精製モジュールは、ケース、及びケースの内部に固定された、上述した中空状のイオン交換膜を備える。ケースは例えば筒状であり、透明ポリスルホン (polysulfone, PSF)等の樹脂からなる。またケースの内部に、中空状のイオン交換膜を複数並べて配置してもよい。また例えば、中空状のイオン交換膜は、両端において、エポキシ樹脂によってケースに固定される。
【0029】
また本実施の形態に係るタンパク質の分離方法は、タンパク質混合液を調製するステップと、タンパク質混合液を上述したイオン交換膜に通し、タンパク質混合液から目的タンパク質を分離するステップを含む。タンパク質混合液は、例えば細胞培養液であり、目的タンパク質以外に、細胞デブリ、不純物タンパク質、及び菌等が含まれうる。タンパク質混合液を上述したイオン交換膜に通すことにより、細胞デブリ、不純物タンパク質、及び菌等を好適に除去し、目的タンパク質を分離することが可能となる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づいて本実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例のみに限定されない。
【0031】
(1)バブルポイント法
基材としての多孔質中空糸膜の最大細孔径を測定するために、バブルポイント法を用いた。長さ8cmの多孔質中空糸膜の片方の末端を閉塞し、もう片方の末端に圧力計を介して窒素ガス供給ラインを接続した。このままの状態で窒素ガスを供給してライン内部を窒素に置換した後、多孔質中空糸膜をエタノールに浸漬した。この時、エタノールがライン内に逆流しないように極僅かに窒素で圧力をかけた状態で、多孔質中空糸膜を浸漬した。多孔質中空糸膜を浸漬した状態で、窒素ガスの圧力をゆっくりと増加させ、多孔質中空糸膜から窒素ガスの泡が安定して出始めた圧力(p)を記録した。これより、最大細孔径をd、表面張力をγとして、下記式(1)に従って、多孔質中空糸膜の最大細孔径を算出した。
d=C1γ/p ・・・(1)
【0032】
ここで、C1は定数である。エタノールを浸漬液としたとき、C1γ=0.632(kg/cm)であり、上式にp(kg/cm2)を代入することにより、最大細孔径d(μm)を求めた。
【0033】
(2)多孔質中空糸膜へのグラフト鎖の導入
外径3.0mm、内径2.0mm、バブルポイント法で測定した最大細孔径が0.3μmのポリエチレン多孔質中空糸膜の重量を測定した。次に、ポリエチレン多孔質中空糸膜を密閉容器に入れ、密閉容器内の空気を窒素で置換した。その後、密閉容器の外側からドライアイスで冷却しながら、多孔質中空糸膜に200kGyのγ線を照射し、ラジカルを発生させた。次に、ラジカルを発生させたポリエチレン多孔質中空糸膜をガラス反応管に入れ、ガラス反応管内部を200Pa以下に減圧し、ガラス反応管内部の酸素を除いた。次に、ガラス反応管内部に、所定の体積比率で混合し、40℃に調整したグリシジルメタクリレートのメタノール混合溶液からなる反応液を、100重量部のポリエチレン多孔質中空糸膜に対して、20重量部注入した。なお、メタノール混合溶液を予め窒素でバブリングし、メタノール混合溶液内の酸素を窒素置換しておいた。その後、所定の時間、ガラス反応管を密閉した状態で静置してグラフト重合反応を進行させ、多孔質中空糸膜にグラフト鎖を導入した。
【0034】
グラフト重合反応後、ガラス反応管内の反応液を捨てた。さらに、ガラス反応管内にジメチルスルホキシドを入れ、多孔質中空糸膜を洗浄した。洗浄後、ジメチルスルホキシドを捨てた後、再度ガラス反応管内にジメチルスルホキシドを入れ、多孔質中空糸膜を洗浄した。これを3回繰り返した後、メタノールを用いて同様に洗浄を3回行った。洗浄後、ガラス反応管から多孔質中空糸膜を取り出し、40℃に調整した真空乾燥機に入れ6時間以上乾燥することにより、グリシジルメタクリレートのグラフト鎖が導入されたポリエチレン多孔質中空糸膜を得た。グラフト率(dg)は下記(2)式で算出した。
dg=(w1−w0)/w0 ・・・(2)
ここでw0は反応前のポリエチレン多孔質中空糸膜の重量、w1はグラフト鎖が導入された多孔質中空糸膜の重量である。
【0035】
(3)グラフト鎖へのアニオン交換基の固定
(3−1)アニオン交換基としてのジエチルアミノ基の固定
グラフト鎖を導入した後、乾燥した多孔質中空糸膜を、10分以上メタノールに浸漬して膨潤させた後、純水に浸漬して水置換しておいた。また、50体積部のジメチルアミン及び50体積部の純水を混合して得た反応液を用意した。次に、グラフト鎖が導入された多孔質中空糸膜の20重量部の反応液をガラス反応管に入れ、30℃に調整した。その後、グラフト鎖が導入された多孔質中空糸膜をガラス反応管に挿入し、210分間静置して、グラフト鎖のエポキシ基をジエチルアミノ基に置換し、実施例に係るイオン交換膜を得た。ここで、エポキシ基のモル数N2のうち、ジエチルアミノ基に置換されたモル数N1をモル転化率Tと呼び、下記(3)式で算出した。
T=100×N1/N2
=100×{(w2−w1)/M1}/{w1(dg/(dg+100))/M2}・・・(3)
【0036】
ここで、M1はジエチルアンモニウムの分子量(73.14)、w1はグラフト重合反応後の多孔質中空糸膜の重量、w2はジエチルアミノ基置換反応後の多孔質中空糸膜の重量、dgはグラフト率、M2はグリシジルメタクリレートの分子量(142)である。
【0037】
(3−2)アニオン交換基としてのトリメチルルアミノ基の固定
グラフト鎖を導入した後、乾燥した多孔質中空糸膜を、10分以上メタノールに浸漬して膨潤させた後、純水に浸漬して水置換しておいた。次に、50体積部の純水及び50体積部のジメチルスルホキシドからなる混合溶液を用意した。さらに、濃度が0.5mol/Lとなるようトリメチルアンモニウム=クロリドを混合溶液に添加し、均一に混合したものを反応液とした。次に、グラフト鎖が導入された多孔質中空糸膜の20重量部の反応液をガラス反応管に入れ、60℃に調整した。その後、グラフト鎖が導入された多孔質中空糸膜をガラス反応管に挿入し、200分間静置して、グラフト鎖のエポキシ基をトリメチルアミノ基に置換し、実施の形態に係るイオン交換膜を得た。モル転化率は、上記(3)式において、M1=95.57として同様に算出した。
【0038】
(4)緩衝液を用いたハーゲン−ポアズイユ式による最大細孔径の算出
実施例に係るアニオン交換基を有するイオン交換膜の実効的な最大細孔径を求めるために、緩衝液を用いたハーゲン−ポアズイユ式を用いた。長さ8cmのイオン交換膜に20mmol/L Tris−HCl(pH8.0)の緩衝液を通液し、中空状のイオン交換膜内に緩衝液が充填した状態で片方の末端を閉塞した。もう片方の末端から緩衝液を供給して中空状のイオン交換膜の内側から外側に緩衝液を通液した。この時の透過圧力と透過流速を測定し、下記(4)式で与えられるハーゲン−ポアズイユ式に従って、最大細孔径dを求めた。
d=(C2×J×Δx/ΔP)1/2 ・・・(4)
【0039】
ここで、C2は緩衝液の粘度、イオン交換膜の多孔度などに依存する定数であり、実施例に係るイオン交換膜を用いた場合、C2=0.00478である。Jは透過流束(mL/min/m2)、Δxは膜厚(mm)、ΔPは透過圧力(MPa)である。
【0040】
(5)透過圧力及び伸張変形の測定
実施例に係るジエチルアミノ基を有する10cmの中空状のイオン交換膜の一方の末端を漏れのないように封止した。次に、もう一方の末端から2mL/minの流速で、純水、緩衝液として20mmol/LのTris−HCl溶液(pH8.0)、及び塩溶液として1mol/LのNaClを20mmol/LのTris−HCl溶液(pH8.0)に添加した溶液の3種類の溶液を通液し、このときの圧力を測定した。また、塩溶液を30mL通液した後の中空状のイオン交換膜の長さを測定し、純水置換状態に対する塩溶液通液後のイオン交換膜の伸張変形を測定した。
【0041】
(6)評価モジュールの作製
実施例に係るアニオン交換基を有する中空状のイオン交換膜を3本束ね、中空状のイオン交換膜を閉塞しないように、ポリスルホン酸製モジュールケースにエポキシ系ポッティング剤で両末端を固定し、評価モジュールを作製した。得られた評価モジュールの内径は0.9cm、有効長は約3.2cm、内容積は約2.2mLであった。また、評価モジュール内に占める実施例に係るイオン交換膜の有効体積は約0.85mLであり、中空部分を除いたイオン交換膜の体積は約0.64mLであった。
【0042】
(7)動的吸着容量の測定
20mmol/LのTris−HCl(pH8.0)緩衝液に1g/Lの濃度でBSAを溶解したBSA溶液を用い、破過が開始するまで評価モジュールにBSA溶液を透過させた。ここで、BSA溶液の濃度Q、評価モジュールが破過した時までに透過させたBSA溶液の体積VB、及び評価モジュール内の実施例に係るイオン交換膜VMの体積から、下記(5)式に基づいて動的吸着容量Aを算出した。
A=Q×VB/VM ・・・(5)
【0043】
なお、イオン交換膜の体積とは、中空部分を除いた体積である。また破過とは、透過液中のBSA濃度が、供給されたBSA溶液の濃度の10%である0.1g/Lを超えた時点のことをいう。また、評価モジュール内の中空状のイオン交換膜の内側から外側に向かって、溶液は通液された。動的吸着容量に及ぼす塩濃度の影響を評価する場合には、緩衝液に所定の濃度となるように塩化ナトリウムを添加した。
【0044】
(実施例1)
グリシジルメタクリレート3体積部、メタノール97体積部からなる反応液を調製し、(3)に記載した方法に従って12分間グラフト重合反応を実施し、39%のグラフト率でポリエチレン中空糸膜にグラフト鎖を導入した。次に、(4)に記載した方法に従って、77%のモル転化率でグラフト鎖にジエチルアミノ基を導入し、実施例1に係る中空状のアニオン交換膜を得た。得られたアニオン交換膜の外径は3.3mm、内径は2.1mmであった。また、(2)の方法で求めたアニオン交換膜の最大細孔径は、0.29μmであった。その後、得られた中空状のアニオン交換膜を用いて(6)に記載した方法でモジュールを作製した。(7)に記載した方法で測定したモジュールの動的吸着容量は、70mg/mLであった。また、緩衝液中に塩が存在する場合のモジュールの動的吸着容量を求めるために、(7)の方法において、塩化ナトリウムを含む緩衝液を用いて同様に測定したところ、緩衝液中に0.1mol/Lの塩化ナトリウムを含む場合の動的吸着容量は37mg/mL、緩衝液中に0.2mol/Lの塩化ナトリウムを含む場合の動的吸着容量は16mg/mL、緩衝液中に0.3mol/Lの塩化ナトリウムを含む場合の動的吸着容量は10mg/mLであった。
【0045】
(比較例1)
市販のアニオン交換膜としてザルトリウス株式会社製のザルトバインド(登録商標)QMA75(膜体積2.06mL)を用いて、実施例1と同様の測定を行い、動的吸着容量を求めた。緩衝液に塩化ナトリウムを含まない場合、ザルトバインドの動的吸着容量は29mg/mLであった。しかし、緩衝液に0.1mol/Lの塩化ナトリウムを含む場合、ザルトバインドの動的吸着容量は3mg/mLであった。また、緩衝液に0.2mol/Lの塩化ナトリウムを含む場合、ザルトバインドの動的吸着容量は2mg/mLであった。したがって、緩衝液中の塩の存在により、ザルトバインドの動的吸着容量は大幅に低下した。
【0046】
(実施例2)
グリシジルメタクリレート3体積部、メタノール97体積部からなる反応液を調製し、(3)に記載した方法に従って12分間グラフト重合反応を実施し、38%のグラフト率でポリエチレン中空糸膜にグラフト鎖を導入した。次に、(4)に記載した方法に従って、70%のモル転化率でグラフト鎖にジエチルアミノ基を導入し、実施例2に係る中空状のアニオン交換膜を得た。得られたアニオン交換膜の外径は3.3mm、内径は2.1mmであった。また、(5)に記載した方法で透過圧力を測定したところ、純水の透過圧力は0.07MPa、緩衝液の透過圧力は0.015MPa、塩溶液の透過圧力は0.01MPaであった。さらに、(5)に記載した方法で塩溶液通液後のアニオン交換膜の伸張変形を測定したところ、伸張変形は1%にとどまった。次に、(6)に記載した方法でモジュールを作製し、(7)に記載した方法で測定したモジュールの動的吸着容量は、70mg/mLであった。またモジュールに0.1mol/LのNaOH水溶液(pH12)を20mL通液した後、塩溶液を通液したところ、塩溶液が15.8mL通液したところで透過液のpHが8.5以下にまで速やかに低下した。
【0047】
(実施例3)
グリシジルメタクリレート5体積部、メタノール95体積部からなる反応液を調製し、(3)に記載した方法に従って11分間グラフト重合反応を実施し、64%のグラフト率でポリエチレン中空糸膜にグラフト鎖を導入した。次に、(4)に記載した方法に従って、75%のモル転化率でグラフト鎖にジエチルアミノ基を導入し、実施例3に係る中空状のアニオン交換膜を得た。得られたアニオン交換膜の外径は3.6mm、内径は2.3mmであった。また、(5)に記載した方法で透過圧力を測定したところ、純水の透過圧力は0.08MPa、緩衝液の透過圧力は0.02MPa、塩溶液の透過圧力は0.01MPaであった。さらに、(5)に記載した方法で塩溶液通液後のアニオン交換膜の伸張変形を測定したところ、伸張変形は2%にとどまった。次に、(6)に記載した方法でモジュールを作製し、(7)に記載した方法で測定したモジュールの動的吸着容量は、76mg/mLであった。またモジュールに0.1mol/LのNaOH水溶液(pH12)を20mL通液した後、塩溶液を通液したところ、塩溶液が17mL通液したところで透過液のpHが8.5以下にまで速やかに低下した。
【0048】
(実施例4)
グリシジルメタクリレート2体積部、メタノール98体積部よりなる反応液を調製し、(3)に記載した方法に従って10分間グラフト重合反応を実施し、25%のグラフト率でポリエチレン中空糸膜にグラフト鎖を導入した。次に、(4)に記載した方法に従って、91%のモル転化率でグラフと鎖にジエチルアミノ基を導入し、実施例4に係る中空状のアニオン交換膜を得た。得られたアニオン交換膜の外径は3.3mm、内径は2.1mmであった。また、(5)に記載した方法で透過圧力を測定したところ、純水の透過圧力は0.061MPa、緩衝液の透過圧力は0.02MPa、塩溶液の透過圧力は0.017MPaであった。さらに、(5)に記載した方法で塩溶液通液後のアニオン交換膜の伸張変形を測定したところ、伸張変形は1%にとどまった。次に、(6)に記載した方法でモジュールを作製し、(7)に記載した方法で測定したモジュールの動的吸着容量は、59mg/mLであった。またモジュールに0.1mol/LのNaOH水溶液(pH12)を20mL通液した後、塩溶液を通液したところ、塩溶液が11.8mL通液したところで透過液のpHが8.5以下にまで速やかに低下した。
【0049】
(比較例2乃至7)
表1に、実施例とともに比較例2から7に係る膜の特性を示した。比較例2より、グラフト率が25%未満では、動的吸着容量が30mg/mLより低くなることが示された。また比較例3乃至7より、グラフト率が75%を超えると、伸張変形率が2%を超え、またアルカリ状態からのpH回復性が低下することが示された。
【0050】
【表1】

【0051】
(実施例5)
20mM Tris−HCl(pH8.0)にBSA(pI5.6)及びリゾチーム(pI11)をそれぞれ1g/Lの濃度で溶解したタンパク質混合溶液を調製した。次に、実施例1で作製したモジュールに調製したタンパク質混合溶液を2mL/minの流速で通液し、透過液を15mLずつフラクションとして採取した。モジュールを透過したフラクション中のタンパク質を分析するために、SDS−PAGEを用いた。
【0052】
分析に用いる透過液10μLを同量のサンプル処理液(第一化学薬品株式会社製、トリスSDSサンプル処理液)と混合し、100℃で5分間熱処理した。得られたサンプルを、マイクロピペットを用いて電気泳動用ゲルプレート(第一化学薬品株式会社製、マルチゲルIIミニ)に1ウェルにつき10μLを適用した。次に、泳動用緩衝液(第一化学薬品株式会社製、SDS−トリス−グリシン泳動緩衝液を10倍希釈して使用)を満たした電気泳動槽(和光純薬株式会社製、EasySeparator(登録商標))に電気泳動用ゲルプレートを挿入し、30mAの定電流で1時間泳動させ、透過液中のタンパク質を分離した。
泳動後、図1に示すように、ゲルプレートを染色試薬(フナコシ株式会社製、InstantBlue)で染色した。
【0053】
レーン1はBSA、レーン2はリゾチームのみ、レーン3はBSAとリゾチームの混合液、レーン4から10は透過液のフラクション、レーン11は吸着物の溶出液である。60mLまでの透過液(レーン4から7まで)にはリゾチームのみが存在し、BSAは全て吸着されている。また、吸着後、1mol/LのNaClを緩衝液に溶解した塩溶液で溶出した、溶出液中(レーン11)にはBSAのみが存在している。よって、モジュールにはBSAのみが選択的に吸着し、リゾチームは吸着しないことが示された。したがって、本発明の中空状のアニオン交換膜は、選択的な吸着性を示し、混合液から特定タンパク質を効果的に分離することが示された。
【0054】
(実施例6)
実施例2で作製したモジュールの滅菌性能を確認するため、バクテリアチャレンジテストを実施した。最初に次亜塩素酸ナトリウム100ppm水溶液200mLをクロスフローの要領でモジュール内を通液しながら透過させて殺菌し、ついで超純水500mLを同様に通液しながら透過させて洗浄した。その後、0.22μm孔径の指標菌としてシュードモナス・ディミヌタ(Pseudomonas diminuta)を用い、濃度106個/mLの指標菌含有水溶液200mLを同じくクロスフローの要領で通液しながら透過させた。透過液中に含まれるPseudomonas diminutaの量を計測したところ、10個/100mL以下となった。モジュールの0.22μm指標菌の下記(6)式で与えられる菌対数減少値LRVは7以下であり、ほぼ完全な無菌化が可能であることが示された。
LRV=Log10・BC/BT ・・・(6)
ここで、BCはチャレンジ菌数(原液)であり、BTは漏れた菌数である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係るタンパク質の精製方法を用いることにより、通常では、遠心分離、精密ろ過、及び無菌化ろ過の3工程によって行っている、アフィニティークロマトグラフィー工程前の細胞培養液の清澄化を、アニオン交換基を有する中空状のアニオン交換膜によるろ過により、1工程のみで完了可能になる。この結果、タンパク質の精製工程を簡便化し、必要な設備を縮小することにより、コストを削減することが可能となる。また、アフィニティークロマトグラフィー工程での負荷を大幅に低減し、目的とするタンパク質をより高度に精製すると共に、精製の低コスト化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施例5に係る中空状のアニオン交換膜モジュールを用いたタンパク質分離のSDS−PAGEによる分析結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールを用いるバブルポイント法により求められる最大孔径が0.2μm以上0.6μm以下である疎水性の多孔質中空糸膜と、
前記中空糸膜の表面に導入され、3級又は4級アミンのアニオン交換基を有するグラフト分子鎖と、
を備えるイオン交換膜であって、
前記中空糸膜の重量に対する前記グラフト分子鎖の重量の比が25%から75%であり、
緩衝液を用い、ハーゲン−ポアズイユ式より求められる細孔径が0.1μmから0.5μmの範囲にあり、
0.1mol/Lの塩を含む緩衝液中のタンパク質の動的吸着容量が10mg/mL以上である、
ことを特徴とするイオン交換膜。
【請求項2】
前記中空糸膜が、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、及びポリプロピレンからなる群より選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする、請求項1に記載のイオン交換膜。
【請求項3】
前記グラフト分子鎖が、放射線照射によって発生したラジカルにより前記中空糸膜の表面に重合された、グリシジルメタクリレートの重合体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のイオン交換膜。
【請求項4】
前記アニオン交換基がジエチルアミノ基であり、前記グラフト分子鎖が有していたエポキシ基の70%以上が前記ジエチルアミノ基に置換されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のイオン交換膜。
【請求項5】
前記アニオン交換基がトリメチルアミノ基であり、前記グラフト分子鎖が有していたエポキシ基の70%以上が前記トリメチルアミノ基に置換されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のイオン交換膜。
【請求項6】
ケースと、
エタノールを用いるバブルポイント法により求められる最大孔径が0.2μm以上0.6μm以下である疎水性の多孔質中空糸膜、及び前記中空糸膜の表面に導入され、3級又は4級アミンのアニオン交換基を有するグラフト分子鎖を有し、前記ケースの内部に固定されたイオン交換膜と、
を備えるタンパク質精製モジュールであって、
前記中空糸膜の重量に対する前記グラフト分子鎖の重量の比が25%から75%であり、
緩衝液を用い、ハーゲン−ポアズイユ式より求められる前記イオン交換膜の細孔径が0.1μmから0.5μmの範囲にあり、
0.1mol/Lの塩を含む緩衝液中の前記イオン交換膜によるタンパク質の動的吸着容量が10mg/mL以上である、
ことを特徴とするタンパク質精製モジュール。
【請求項7】
タンパク質混合液を調製するステップと、
前記タンパク質混合液をイオン交換膜に通し、前記タンパク質混合液から目的タンパク質を分離するステップと、
を含むタンパク質の分離方法において、
前記イオン交換膜が、
エタノールを用いるバブルポイント法により求められる最大孔径が0.2μm以上0.6μm以下である疎水性の多孔質中空糸膜と、
前記中空糸膜の表面に導入され、3級又は4級アミンのアニオン交換基を有するグラフト分子鎖と、
を備え、
前記中空糸膜の重量に対する前記グラフト分子鎖の重量の比が25%から75%であり、
緩衝液を用い、ハーゲン−ポアズイユ式より求められる前記イオン交換膜の細孔径が0.1μmから0.5μmの範囲にあり、
0.1mol/Lの塩を含む緩衝液中の前記イオン交換膜によるタンパク質の動的吸着容量が10mg/mL以上である、
ことを特徴とするタンパク質の分離方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−24412(P2010−24412A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191014(P2008−191014)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】