説明

イオン交換膜法電解槽

【課題】電気エネルギーのロスが小さく、イオン交換膜の破損を長期的に防止でき、かつ、電圧の経時上昇や電流効率の経時変化を抑制可能なイオン交換膜法電解槽を提供する。
【解決手段】陰極室の導電性プレート2と陰極3との間にコイルクッション材4が介在し、かつ、陰極がイオン交換膜5と接触するイオン交換膜法電解槽であって、導電性プレートが無孔板からなり、かつ、コイルクッション材のコイルの伸縮方向がイオン交換膜法電解槽の縦方向と一致するように設置されているイオン交換膜法電解槽。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロルアルカリ電解を代表とする電解工業に用いられ、陽極とイオン交換膜と陰極が互いに密接したイオン交換膜法電解槽、所謂ゼロギャップ型の新規なイオン交換膜法電解槽に関する。
本発明のイオン交換膜法電解槽は、陰極室のリブと陰極との間に介在するクッション材として従来使用されているばね状保持部材の代わりに、コイルクッション材を使用することにより、陰極のメッシュとイオン交換膜の密着性が改善されて、電圧低減効果を発揮するという特長を有する。
【背景技術】
【0002】
クロルアルカリ電解を代表とするイオン交換膜法電解工業は、素材産業として重要な役割を果たしているが、その電解工業においてはイオン交換膜法電解槽(以下、電解槽と略記する場合がある)が技術の中心をなす。
例えば、本出願人が開発した電解槽(例えば、特許文献1参照)は、陽極側の隔壁と陰極側の隔壁に互いに嵌合する凹凸を形成し、両隔壁を重ね併せて一体化した隔壁板の凸部に電極板を結合した電解槽であって、凹部によって形成される溝は電解槽の上下方向の一直線上には形成せず、凹部による溝が隣接する凹部による溝と液絡部で結合しているため、電極室内から電気分解で発生した気泡の作用で上昇する電解液は、液絡部で混合しながら電極室内を上昇し、電解液の濃度分布が均一化され、電解運転の安定的操業が可能となる。
【0003】
また、この電解槽の改良型として開発された別の電解槽(例えば、特許文献2参照)は、櫛状バネ材によって陰極とイオン交換膜を接触させて、イオン交換膜の損傷を防ぐ効果を謳っている。
このバネ性部材として、なるべく電極とイオン交換膜との間の応力を小さくして、イオン交換膜の破損をできる限りなくすように、平板ばね状体保持部材を使用することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、この平板ばね状体保持部材では、圧力により使用中に歪みが生じて陰極とイオン交換膜が離れ、電解電圧が上昇し、電解槽を解体して、再度組み立てる際に、平板ばね状体保持部材の高さを調整する必要が生じる場合がある。
従って、陰極とイオン交換膜との間に、別の柔軟性を有するクッション材を介在させて、イオン交換膜の破損を防ぐと共に、圧力の負荷によるクッション材の変形を防ぐ新規なイオン交換膜法電解槽が望まれている。
【0005】
また、導電性プレートと電極との間にクッションマットが設置されたゼロギャップ型イオン交換膜法電解槽が提案されている(例えば、特許文献4〜6参照)。この電解槽で用いられる導電性プレートは、剛性の網目スクリーン、即ち有孔板である。
このように、従来技術では、導電性プレートは隔壁から一定距離離れて設置され、前記導電性プレートと電極との間にクッションマットが設置されたゼロギャップ型イオン交換膜法電解槽において、導電性プレートは有孔板として、電極で発生したガスを隔壁側に抜き出すことが当業者らの常識であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−009774号公報
【特許文献2】特開平5−306484号公報
【特許文献3】特開2007−321229公報
【特許文献4】特公昭63−53272号公報
【特許文献5】特許第4453973号公報
【特許文献6】特許2000−178781公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、有孔板である導電性プレートと電極との間にクッションマットが設置された従来のゼロギャップ型イオン交換膜法電解槽とは対照的に、導電性プレートとして非孔板を使用することによって、電圧の経時上昇や電流効率の経時低下を抑制できるという、従来の常識では予見不可能な、驚くべき効果を見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、導電性プレートを無孔板とすることにより、電極で発生したガスは電極と導電性プレートの間を上昇し、この際に、激しい上昇流が生じ、同時に、導電性プレートと隔壁との間に激しい下降流が生じる。その結果、イオン交換膜面への電解液供給が促進され、電圧の経時上昇や電流効率の経時低下が抑制されるものと考えられる。
【0008】
かくして、本発明の目的は、電気エネルギーのロスが可及的に小さく、イオン交換膜の破損を長期的に防止可能であり、かつ、電圧の経時上昇や電流効率の経時変化が抑制可能な新しい構造のイオン交換膜法電解槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、陰極室の導電性プレートと陰極との間にコイルクッション材が介在し、かつ、陰極がイオン交換膜と接触するイオン交換膜法電解槽において、該導電性プレートが無孔板からなり、かつ、コイルクッション材のコイルの伸縮方向がイオン交換膜法電解槽の縦方向と一致するように設置されていることを特徴とするイオン交換膜法電解槽を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のイオン交換膜法電解槽は、図1に示されるように、導電性プレート(2)と陰極(3)との間にコイルクッション材(4)が介在することにより、消費する電気エネルギーが削減できると同時に、コイルクッション材(4)から陰極(3)を通してイオン交換膜(5)に所定の圧力をかけるために、コイルクッション材(4)の弾性反発力を所望の面圧に容易に調整できる。そのため、陰極(3)とイオン交換膜(5)との接触圧力が均一となり、過剰な接触圧力によるイオン交換膜(5)の破損を生じない。
【0011】
また、図1に示すように、導電性プレート(2)を無孔板とすることにより、陰極(3)から発生するガスがコイルクッション材(4)に沿って上昇する激しいガス流が生じ、そのガス流が電解液を伴うために、電解液も激しく上昇し、同時に、無孔板の導電性プレート(2)と隔壁(1)との間に、激しい下降流が生じ、その結果、イオン交換膜への電解液供給が促進され、電解液の濃度低下が起こらず、電解電圧の経時上昇や電流効率の経時低下が起こらなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のイオン交換膜法電解槽の改良した構造を示す図である。
【図2】導電性プレートを有孔板としたイオン交換膜法電解槽の構造を示す図である。
【図3】図1の本発明のイオン交換膜法電解槽を上部から見た図である。
【図4】特開2004−300547の図6のイオン交換膜法電解槽を上部から見た図である。
【図5】コイルクッション材に使用する金属枠の一例を示す図である。
【図6】コイルクッション材に使用する金属製コイル体の一例を示す図である。
【図7】コイルクッション材の一例を示す図である。
【図8】本発明のイオン交換膜法電解槽の組み立て図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照して詳細に説明する。
以下の記述では、食塩電解に用いるイオン交換膜法電解槽を例に説明するが、本発明のイオン交換膜法電解槽は、食塩電解以外、例えば、塩化カリウム水溶液電解やアルカリ水電解などにも好適に利用し得ることは無論である。
図1に本発明のイオン交換膜法電解槽の陰極側及び陽極側の構造を示すが、陰極室と陽極室は隔壁(1)により分けられている。
【0014】
本発明のイオン交換膜法電解槽においては、陽極室は従来のものと同一の構成でよく、陰極室は、次に記載するように改造されている。
まず、陰極室の導電性プレート(2)と陰極(3)との間にコイルクッション材(4)を設置し、陰極(3)はイオン交換膜(5)に接触させる。陽極側の端には陽極(6)が付いており、図示されていないが、陽極(6)はイオン交換膜(5)を介して陰極(3)と接触している。
【0015】
本発明のイオン交換膜法電解槽をより詳細に説明する。
図1に示すように、コイルクッション材(4)のコイルの伸縮方向をイオン交換膜法電解槽の縦方向と一致するようように設置し、かつ、無孔板からなる導電性プレート(2)を採用すると、図1の拡大図に示すように、陰極(3)から発生するガスは導電性プレート(2)を通して外部に漏れないため、コイルクッション材(4)に沿って上昇する激しいガス流が生じ、そのガス流が電解液を伴うために、電解液も激しく上昇し、同時に、導電性プレート(2)と隔壁(1)との間に激しい下降流が生じる。
その結果、イオン交換膜への電解液供給が促進され、電解液の濃度低下が起こらず、電解電圧の経時上昇や電流効率の経時低下が起こらなくなる。
【0016】
一方、多孔板からなる導電性プレート(9)を採用した場合のイオン交換膜法電解槽の構造を図2に示す。
この図の拡大図に示されるように、陰極(3)から発生する水素ガスは、導電性プレート(9)上の孔から水素ガスが導電性プレート(9)の背面に抜けて、コイルクッション材(4)に沿った電解液の上昇流が生じず、図1について説明したような無孔板からなる導電性プレート(2)と隔壁(1)との間の下降流も生じず、その結果、イオン交換膜(5)への電解液供給が不十分となり、電解液の濃度低下が起こり、電解電圧の経時上昇や電流効率の経時低下が起こると推察される。
【0017】
また、本発明のコイルクッション材(4)のコイルの伸縮方向をイオン交換膜法電解槽の縦方向に設置したイオン交換膜法電解槽を上部から見た構造を図3に示す。
陰極(3)上で生じた水素ガスは上方向にスムーズに流れ、それに伴い、電解液の流れがイオン交換膜への電解液供給を促進し、電解液の濃度低下が起こらず、電解電圧の経時上昇や電流効率の経時低下が起こらなくなる。
【0018】
一方、コイルクッション材(4)のコイルの伸縮方向をイオン交換膜法電解槽の縦方向ではなく、横方向に一致するように設置したイオン交換膜法電解槽(例えば、特開2004−300547の図6に示されている)を上部から見た構造を図4に示す。
陰極(3)上で生じた水素ガスは横方向に向かい、水素ガスが滞留し、それに伴い、電解液の流れが乱れて、イオン交換膜(5)への電解液供給が妨げられ、電解液の濃度低下が起こり、電解電圧の経時上昇や電流効率の経時低下が起こる。
【0019】
陰極室の導電性プレート(2)と陰極(3)との間に設置するコイルクッション材(4)は、図5に示す構造を有する金属枠(7)に、図6に示す金属製コイル体(8)を巻き付けて製作された、図7に示すコイルクッション材(4)を使用すれば簡便で確実に設置できるため好ましい。
【0020】
金属枠(7)の材質としては、ニッケルやステンレスなどの耐食性が高いものが好ましく使用される。その枠の径は1乃至3mmが好ましく、より好ましくは1乃至2mmである。枠の径が1mmより細いと強度が不足するためハンドリングが困難となる。逆に、3mmより太いと材料費が悪化し、また、イオン交換膜(5)や陰極(3)に枠が過剰に押し当り、イオン交換膜(5)や陰極(3)が破損する場合がある。
【0021】
金属製コイル体(8)を金属枠(7)に巻き付けたコイルクッション材(4)において、コイル体(8)の巻き付け数は、3〜9回/cmが好ましく、より好ましくは6〜7回/cmである。コイル巻き数が少なすぎると反力が不足したり、圧縮時にコイルが倒れ弾性が不足したりする。逆に、巻き数が多すぎると反力が過剰となったり、ハンドリング性が悪化する場合がある。
金属製コイル体(8)には、ニッケルやステンレスなどの耐食性と電気導電性が高いものが好ましく使用される。また、銅などの導電性に優れたコイル体の表面をニッケル被覆して耐食性を高めたものも好適に用いられる。
【0022】
金属製コイル体(8)を製作する方法に制限はないが、例えば、ニッケルやステンレスの線材をロール加工して螺旋状に成形することにより製作可能である。用いる線材の径は0.1乃至2.0mmが好ましく、より好ましくは0.1乃至1.0mmである。線材が細すぎると製作したコイル体の強度が不足し、使用時に塑性変形を受けて弾性反発力が不十分となる。逆に、太すぎると成形が困難となったり、成形できても過剰の弾性反発力となり、所望のコイルクッション材(4)が得られ難い。
【0023】
属製コイル体(8)のリング径(コイルの見掛け上の直径)は特に限定はないが、通常、3乃至10mmとすればよい。リング径が3mmより小さいと弾性マットの圧縮可能厚みが不足し、本発明の効果が発揮されない場合がある。逆に、リング径が10mmより大きいとハンドリング性が悪化する場合があり、また、圧縮時に塑性変形を受けて弾性反発力が不十分となる場合がある。
金属製コイル体(8)のコイル厚みは図1の両矢印aが示す長さをいうが、その厚みは特に限定はなく、通常、1〜10mm、好ましくは1〜4mmとすればよい。コイルが厚すぎると圧縮時の弾性反発力が不足し、本発明の効果が得られない場合がある。逆に、薄すぎると圧縮時の弾性反発力が異常に強くなりイオン交換膜を損傷してしまう可能性がある。
【0024】
上記のコイルクッション材(4)を導電性プレート(2)と陰極(3)との間に設置する方法に関しては、コイルクッション材(4)を陰極(3)に接して固定できればよく、特に制限はない。例えば、金属枠(7)に金属製コイル体(8)を巻き付けたコイルクッション材(4)の金属枠(7)の少なくとも一部を導電性プレート(2)及び陰極(3)に溶接すればよい。
【0025】
本発明で使用する陰極(3)は、食塩電解用の陰極として、電解時に水素を発生する水素発生電極が広く知られており、通常、ニッケル基材に水素発生電極触媒を担持した、所謂、活性陰極が適用される。現在、種々の活性陰極が開発・実用化されており、本発明では、これらの活性陰極の何れもが使用可能である(例えば、特開2005−330575参照)。
【0026】
また、陰極(3)の金属基板として、通常のニッケル製エキスパンドメタル型電極、刻み巾:2mm、短径:6mm、長径:15mm、板厚:2mm程度の従来のニッケル製エキスパンドメタル基板を使用すると、陰極(3)とイオン交換膜(5)の接触に際し、陰極のメッシュ部分の剛性が高く、部分的にイオン交換膜(5)に負荷する圧力が大きくなる部位があり、イオン交換膜(5)損傷の程度が大きく、損傷の頻度が多くなる。
【0027】
従って、陰極(3)の金属基板として、刻み巾が0.1mm以上1mm以下、短径が0.5mm以上5.0mm以下、長径が1.0mm以上10mm以下、板厚が0.1mm以上1.0mm以下で、開口率が48〜60%のエキスパンドメタル型メッシュを使用して、その上に触媒を担持した陰極(3)を使用し、その陰極(3)とイオン交換膜(5)の接触に際し、陰極(3)のメッシュ部分の剛性を低下させ、イオン交換膜(5)にかかる圧力を小さくして、イオン交換膜の損傷の程度を小さくし、損傷の頻度を小さくすることが好ましい。
【0028】
このエキスパンデッドメタル電極の一つの空孔の面積は、(短径×長径)÷2で近似され、上記の短径及び長径によれば、0.25〜25mmと規定される。
しかしながら、電極の一つの空孔の面積が小さすぎると電極から発生する気体の抜けが悪くなるため好ましくない。逆に、大きすぎると電極自体の強度が低下して好ましくなく、電極の一つの空孔の面積は1.0〜10mmの範囲であることが好ましい。
また、電極の開口率は、余り小さいと電極から発生する気体の抜けが悪くなるため好ましくない。逆に、大きすぎると電極自体の強度が低下するため好ましくない。電極の開口率は48〜60%が好ましい。
【0029】
上記の導電性プレート(2)上に設置されたコイルクッション材(4)の上に陰極(3)を設置するが、その設置方法は、陰極(3)がコイルクッション材(4)を介して、リブ(2)に固定されていればよく、特に制限はない。例えば、導電性プレート(2)とコイルクッション材(4)の枠棒を溶接で付着させ、コイルクッション材(4)と陰極(3)を接触のみにて導通させても構わない。
【0030】
図1における陽極(6)は、イオン交換膜(5)を介して陰極(3)の反対側に位置し、イオン交換膜(5)と接触している。
この接触により、コイルクッション材(4)から陰極(3)を通してイオン交換膜(5)に所定の圧力をかけるためには、上記のコイルクッション材(4)の弾性反発力を平均の面圧として7〜17kPaに調整することが好ましい。上記のコイルクッション材(4)の弾性反発力はコイル厚みで調整可能である。即ち、使用するコイルクッション材(4)のコイル厚みと弾性反発力の関係を予め測定しておき、本発明のイオン交換膜法電解槽を組み立てた際に、所望の弾性反発力が得られるようにコイル厚みを調整すればよい。コイル厚みの調整方法は特に限定はないが、例えば、ガスケットの厚みで調整すると簡便である。
【0031】
上記のコイルクッション材(4)の弾性反発力が下限値7kPa以上の面圧となるように調整すれば、イオン交換膜(5)と陰極(3)および陽極(6)との間隔が大きくなることを防止し、電解槽電圧の低下が可能となる。
すなわち、導電性プレート(2)と陰極(3)との間にコイルクッション材(4)を介することにより、消費する電気エネルギーが削減できると同時に、コイルクッション材(4)から陰極(3)を通してイオン交換膜(5)に所定の圧力をかけるために、コイルクッション材(4)の弾性反発力を平均の面圧として7〜17kPaに調整すれば、本発明の陰極(3)とイオン交換膜(5)との接触圧力が一層均一となり、過剰な接触圧力によるイオン交換膜(5)の破損が生じない。
【0032】
また、図1に示すように、無孔板からなる導電性プレート(2)を採用することにより、陰極(3)から発生するガスがコイルクッション材(4)に沿って上昇する激しいガス流が生じ、そのガス流が電解液を伴うために、電解液も激しく上昇し、同時に、無孔の導電性プレート(2)と隔壁(1)との間に、激しい下降流が生じ、その結果、イオン交換膜(5)への電解液供給が促進され、電解液の濃度低下が起こらず、電解電圧の経時上昇や電流効率の経時低下が起こらなくなる。
【0033】
陽極(6)は特に限定はなく、従来知られているものを適時用いればよい。例えば、チタンからなるエキスパンドメタル基板に、イリジウム酸化物及び/又はルテニウム酸化物などの塩素発生電極触媒を担持してなる塩素発生電極が広く知られている。
イオン交換膜(5)は特に限定はなく、従来知られているものを適時用いればよい。例えば、スルホン酸基やカルボン酸基などの陽イオン交換基を有するフッ素樹脂フィルムからなるイオン交換膜が広く知られている。
【実施例】
【0034】
本発明を以下の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により、なんら制限されるものではない。
【0035】
実施例1
図1で示される構造を有するイオン交換膜法電解槽を使用して、無孔板からなる導電性プレート(2)と陰極(3)の間にコイルクッション材(4)を設置した。
コイルクッション材(4)は次のように作成した。すなわち、1.2mm径のニッケル棒を図5に示される構造に組み立てて金属枠(7)を得、金属枠(7)にコイル径8.5mm、0.1mm径のニッケル線材をロールプレスして製作した金属製コイルを糸巻状に図6に示されるように巻き付け(巻き付け数:60回/dm)、図7に示されるような金属枠に金属製コイル体を巻き付けたコイルクッション材(4)を形成した。図1に示すように、コイルクッション材(4)は、導電性プレート(2)と陰極(3)の間に設置した。
上記のコイルクッション材のコイル密度は3.0g/dmであり、圧縮後のコイル厚みは2.5mmとした。
【0036】
陰極(3)は次のように作製した。刻み巾:0.2mm、短径:1.0mm、長径:2.0mm、板厚:0.2mm、開口率が51%のファインメッシュのニッケル製エキスパンドメタル(短径方向の長さ1400mm、長径方向の長さ390mm)を基板として使用し、この基板を10重量%の塩酸溶液を用いて温度50℃で15分間エッチングした後、水洗、乾燥した。
次いで、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液(田中貴金属製、白金濃度:4.5重量%、溶媒:8重量%硝酸溶液)と硝酸ニッケル6水和物と水を用いて白金含有量がモル比で0.5、混合液中の白金とニッケルの合計濃度が金属換算で5重量%の塗布液を調製した。
【0037】
次いで、この塗布液を前記ファインメッシュ基板に刷毛を用い全面に塗布し、熱風式乾燥機内で80℃、15分間乾燥後、箱型電気炉を用いて空気流通下のもと500℃で15分間熱分解した。この一連の操作を5回繰り返して、白金−ニッケル合金を被覆した電極を本発明のゼロギャップイオン交換膜法電解槽の陰極(3)とした。
導電性プレート(2)は、孔の開いていないニッケル製プレートで構成した。
コイルクッションの厚みを2.5mmに調整し、コイルクッション材(4)の弾性反発力が9.8kPaとなるようにコイルクッションの厚みを設定した。
【0038】
陽極(6)としてペルメレック電極社製のDSE(登録商標)を、イオン交換膜として旭硝子社製のフレミオン(登録商標)を使用して、図8に示されているように、無孔板の導電性プレート(2)、陰極(3)、コイルクッション材(4)、イオン交換膜(5)、陽極(6)からゼロギャップイオン交換膜法電解槽を組み立てた。陽極室の圧力に対し、陰極室の圧力を5kPa高く設定してイオン交換膜を陽極表面に密着させ、電流密度5kA/m、陽極室出口塩水濃度:200〜210g/L、陰極室出口水酸化ナトリウム水溶液濃度:31〜33重量%、温度:90℃にて食塩電解試験を行い、電解電圧を測定した。電解電圧は最初に3.0Vとなり、その後2年間電圧は殆ど上昇せず、電流効率も97.0%以上を保持して推移した。
【0039】
実施例2
板厚:1.0mm、長径:8.0mm、短径:4.0mm、刻み巾:1.0mm、開口率が46%であるニッケル製エキスパンドメタル基板(短径方向の長さ1400mm、長径方向の長さ1200mm)に電極触媒を担持した陰極(3)に変更した以外は、実施例1と同じイオン交換膜法電解槽を組み立て、同じ電解条件で食塩電解試験を実施したところ、電解電圧は3.05V付近で推移し、実施例1と比較して0.05V高い電圧で推移した。
【0040】
比較例1
クッション材として特開2007−321229の図4に示される平板ばね状体を使用し、その大きさは、厚さ0.2mm、幅4mm、長さ35mmである平板ばね状体を使用した以外は、実施例1と同じ方法で、食塩電解試験を行い、電解電圧を測定した。電解電圧は3.1V付近で推移し、実施例1と比較して0.1V高い電圧で推移した。
【0041】
比較例2
導電性プレート(2)として、板厚:1.0mm、長径:8.0mm、短径:4.0mm、刻み巾:1.0mm、開口率が46%のニッケル製多孔板を使用した以外は、実施例1と同じ方法で実施した。そのイオン交換膜法電解槽の構造を図2に示す。
電解初期は電圧が3.0Vと実施例1とほぼ同じとなったが、時間の経過と共に徐々に上昇し始め、1年後には3.1Vまで上昇した。
【0042】
その原因は、図2から明らかなように、陰極(3)から発生する水素ガスが、導電性プレート上の孔から導電性プレート(2)の背面に抜けてしまったため、コイルクッション材(4)に沿った電解液の上昇流が生じず、無孔板からなる導電性プレート(2)と隔壁(1)との間の下降流も生じず、その結果、イオン交換膜への電解液供給が不十分となり、電解液の濃度低下が起こり、電解電圧の経時上昇や電流効率の経時低下が起こったものと推察される。
【0043】
比較例3
コイルクッション材(4)のコイルの伸縮方向をイオン交換膜法電解槽の横方向と一致するように設置した以外は、実施例1と同じ方法で実施した。そのイオン交換膜法電解槽の上部からの構造を図4に示す。
実施例1と同じ方法で、食塩電解試験を行い、電解電圧を測定した。電解電圧は3.1V付近で推移し、実施例1と比較して0.1V高い電圧で推移した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のイオン交換膜法電解槽は、ゼロギャップ電解槽の有する省エネルギー性能が発揮され、電解工業の電気分解に必要なエネルギーを長期間安定的に低く抑えることができる。また、イオン交換膜の破損を防止できる。
したがって、本発明のイオン交換膜法電解槽は、食塩電解などクロルアルカリ電解に代表される電解工業で利用できる。食塩電解以外にも、例えば、塩化カリウム水溶液電解やアルカリ水電解などにも好適に利用し得る
【符号の説明】
【0045】
1:隔壁
2:導電性プレート(無孔板)
3:陰極
4:コイルクッション材
5:イオン交換膜
6:陽極
7:金属枠
8:金属製コイル体
9:導電性プレート(多孔板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極室の導電性プレートと陰極との間にコイルクッション材が介在し、かつ、陰極がイオン交換膜と接触するイオン交換膜法電解槽において、該導電性プレートが無孔板からなり、かつ、コイルクッション材のコイルの伸縮方向がイオン交換膜法電解槽の縦方向と一致するように設置されていることを特徴とするイオン交換膜法電解槽。
【請求項2】
該コイルクッション材が、金属枠に金属製コイル体を巻き付けた構成を有し、該コイルクッション材の弾性反発力が、平均の面圧として7〜17kPaに調整されている請求項1に記載のイオン交換膜法電解槽。
【請求項3】
該陰極は、その刻み巾が0.1mm以上1.0mm以下、短径が0.5mm以上5.0mm以下、長径が1.0mm以上10mm以下、板厚が0.1mm以上1.0mm以下であり、開口率が48〜60%のエキスパンドメタルに電極触媒が担持されているものである請求項1又は請求項2に記載のイオン交換膜法電解槽。
【請求項4】
金属枠に金属製コイル体を巻き付ける巻き数が3〜9回/cmである請求項2または3に記載のイオン交換膜法電解槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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