説明

イオン伝導体、及びこれを用いたエネルギーデバイス、燃料電池セル

【課題】電解質材料がイオン液体単独であるときに比べてイオン伝導度が向上し、耐熱性が高く、含水時の膨潤を抑制でき、安価に製造できるイオン伝導体及びこれを用いたエネルギーデバイスを提供すること。
【解決手段】無機多孔体1と電解質材料2と一対の電極材料3とから構成され、無機多孔体1は孔内に電解質材料2を保持し、電解質材料2はカチオン成分とアニオン成分であり、電極材料3は電解質材料2を保持した無機多孔体1を挟持するイオン伝導体である。無機多孔体が金属酸化物を含む焼結体である。
イオン伝導体を適用したエネルギーデバイスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導体、及びこれを用いたエネルギーデバイス、燃料電池セルに係り、更に詳細には、電解質材料がイオン液体単独であるときに比べてイオン伝導度が向上し得るイオン伝導体、及びこれを用いたエネルギーデバイス、燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の電解質膜として、「イオン液体を浸透した、カチオン伝導性/プロトン伝導性のセラミック膜」が提案されている(例えば特許文献1参照)。
この膜は、特許文献2に記載された多孔質で柔軟なセラミック膜を基礎として、イオン伝導性を示すように改質し、その後イオン液体で処理して得られる。
また、この膜は、イオン液体の使用により、100℃より高い温度で極めて良好なプロトン伝導性又はカチオン伝導性を有する。更に、柔軟性を維持し、燃料電池の電解質膜として使用できるというものである。
【特許文献1】特表2004−515351号公報
【特許文献2】PCT/EP98/05939号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような従来のセラミック膜とイオン液体を組み合わせた電解質膜においては、イオン液体単独に対してイオン伝導度が向上しないという問題点があった。
【0004】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電解質材料がイオン液体単独であるときに比べてイオン伝導度が向上し、耐熱性が高く、含水時の膨潤を抑制でき、安価に製造できるイオン伝導体、及びこれを用いたエネルギーデバイス、燃料電池セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、無機多孔体の孔内に、イオン伝導性の高い電解質材料を配設することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明のイオン伝導体は、無機多孔体と電解質材料と一対の電極材料とから構成されるイオン伝導体であって、
上記無機多孔体は、孔内に上記電解質材料を保持し、
上記電解質材料は、カチオン成分とアニオン成分を含み、
上記電極材料は、該電解質材料を保持した無機多孔体を挟持する、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明のイオン伝導体の好適形態は、上記電解質材料がイオン液体であることを特徴とする。
【0008】
更に、本発明のイオン伝導体の他の好適形態は、上記無機多孔体が、金属酸化物を含む焼結体であることを特徴とする。
【0009】
更にまた、本発明のイオン伝導体の更に他の好適形態は、上記無機多孔体が、アルミナ、シリカ、チタニア及びジルコニアから成る群より選ばれた少なくとも1種の金属酸化物で形成されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のイオン伝導体の他の好適形態は、上記無機多孔体が、複数の球状孔を有し、該球状孔は、内径がほぼ均一で、隣接する球状孔同士が連通しており、該球状孔内に電解質材料を備えることを特徴とする。
【0011】
更に、本発明のイオン伝導体の更に他の好適形態は、上記無機多孔体の気孔率が70〜90%であることを特徴とする。
【0012】
更にまた、本発明のイオン伝導体の他の好適形態は、上記無機多孔体が、無機ゾルを形成する材料で形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のイオン伝導体の更に他の好適形態は、上記無機ゾル形成材料が、無機コロイドであることを特徴とする。
【0014】
更に、本発明のイオン伝導体の他の好適形態は、上記無機多孔体が、ポリマー微粒子と無機材料を混合した懸濁液より形成されたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明のエネルギーデバイスは、上記イオン伝導体を適用して成ることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の燃料電池セルは、上記イオン伝導体を適用して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、無機多孔体の孔内に電解質材料を保持し、該電解質材料がカチオン成分とアニオン成分を含み、電極材料が該電解質材料を保持した無機多孔体を挟持するイオン伝導体であるので、電解質材料がイオン液体単独であるときに比べてイオン伝導度が向上し、耐熱性が高く、含水時の膨潤を抑制できるイオン伝導体が安価に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のイオン伝導体について詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「%」は特記しない限り質量百分率を示す。
【0019】
本発明のイオン伝導体は、無機多孔体と電解質材料と一対の電極材料とから構成される。
ここで、上記無機多孔体は、複数の細孔を有し、その孔内に電解質材料を保持している。
また、上記電解質材料は、カチオン成分とアニオン成分を含んで成る。
更に、上記電極材料は、該電解質材料を保持した無機多孔体を挟持している。
図1にイオン伝導体の概略及び写真を示す。
【0020】
このように、カチオン成分及びアニオン成分を含む電解質材料を無機多孔体へ含浸することで、電解質材料の固定化と、イオン伝導度の向上が一挙に達成される。即ち、固定化された電解質材料と無機多孔体との界面に働く相互作用の副次的効果が得られ、電解質材料を液体状態のまま使用するよりもイオン伝導度がより高くなる。
また、フッ素系電解質などを用いた従来品に比べて、安価な材料で構成できるため、より普及に適したイオン伝導体が得られる。
【0021】
また、上記電解質材料は、1.優れた熱安定性(不揮発性、蒸気圧がゼロ、広い温度域で液体である)、2.高イオン密度、3.大熱容量などの観点から、イオン液体を使用することが好適である。
【0022】
代表的なイオン液体としては、カチオン成分は、例えば、以下の化学式1〜3に示すイミダゾリウム誘導体(Imidazolium Derivatives、1〜3置換体)、化学式4に示すピリジニウム誘導体(Pyridinium Derivatives)、化学式5に示すピロリジニウム誘導体(Pyrrolidinium Derivatives)、化学式6に示すアンモニウム誘導体(Ammonium Derivatives)、化学式7に示すホスフォニウム誘導体(Phosphonium Derivatives)、化学式8〜12に示すグアニジニウム誘導体(Guanidinium Derivatives)、化学式13〜15に示すイソウロニウム誘導体(Isouronium Derivatives)、などが挙げられる。
【0023】
【化1】

【0024】
化学式1中のRは、例えばCmHn(m=0〜40、n=0〜40)などで表され、より好ましくは、m=0、n=0やm=4、n=9の組合せをとり得る。
【0025】
【化2】

【0026】
化学式2中のR、Rは、それぞれ個別に、例えばCmHn(m=0〜40、n=0〜40)などで表され、より好ましくは、以下の表1に示す組合せをとり得る。
【0027】
【表1】

【0028】
【化3】

【0029】
化学式3中のR、R、Rは、それぞれ個別に、例えばCmHn(m=0〜40、n=0〜40)などで表され、より好ましくは、以下の表2に示す組合せをとり得る。
【0030】
【表2】

【0031】
【化4】

【0032】
化学式4中のR、Rは、それぞれ個別に、例えばCmHn(m=0〜40、n=0〜40)などで表され、より好ましくは、以下の表3に示す組合せをとり得る。
【0033】
【表3】

【0034】
【化5】

【0035】
化学式5中のR、Rは、それぞれ個別に、例えばCmHn(m=0〜40、n=0〜40)などで表され、より好ましくは、以下の表4に示す組合せをとり得る。
【0036】
【表4】

【0037】
【化6】

【0038】
化学式6中のR〜Rは、それぞれ個別に、例えばCmHn(m=0〜40、n=0〜40)などで表され、より好ましくは、以下の表5に示す組合せをとり得る。
【0039】
【表5】

【0040】
【化7】

【0041】
化学式6中のR〜Rは、それぞれ個別に、例えばCmHn(m=0〜40、n=0〜40)やPhを含むアルキル基などで表され、より好ましくは、以下の表6に示す組合せをとり得る。
【0042】
【表6】

【0043】
【化8】

【0044】
【化9】

【0045】
【化10】

【0046】
【化11】

【0047】
【化12】

【0048】
【化13】

【0049】
【化14】

【0050】
【化15】

【0051】
アニオン成分は、例えば、以下の化学式16に示すハロゲン類(Halogenides)、化学式17,18に示すスルフェート類及びスルホン酸類(Sulfates and sulfonates)、化学式19に示すアミド類及びイミド類(Amides and imides)、化学式20に示すメタン類(Methanes)、化学式21〜26に示すホウ酸塩類(Borates)、化学式27,28に示すリン酸塩類及びアンチモン類(Phosphates and Antimonates)、化学式29に示すその他の塩類、などが挙げられる。
【0052】
【化16】

【0053】
【化17】

【0054】
【化18】

【0055】
【化19】

【0056】
【化20】

【0057】
【化21】

【0058】
【化22】

【0059】
【化23】

【0060】
【化24】

【0061】
【化25】

【0062】
【化26】

【0063】
【化27】

【0064】
【化28】

【0065】
【化29】

【0066】
なお、これらのカチオン成分又はアニオン成分は、1種又は2種以上を適宜組合わせて使用できる。
【0067】
更に、上記無機多孔体は、金属酸化物を含む焼結体であることが好適である。
金属酸化物は安定性が高く、安価に入手可能なものが多いため有効である。
かかる金属酸化物としては、例えば、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)又はジルコニア(ZrO)、及びこれらの任意の組合わせに係るものが挙げられる。
【0068】
更にまた、上記無機多孔体の有する複数の細孔が球状孔であること、該球状孔は、内径がほぼ均一で、隣接する球状孔同士が連通していることが好適である。換言すれば、無機多孔体内部に球状孔が3次元的に存在し、隣接する球状孔と連通口を介して連通していることが良い。例えば、図1に示すように、無機多孔体1に電解質材料2を充填し、電極材料3で挟持したイオン伝導体が良い。
なお、球状孔の内壁面は、プロトン供与性官能基が存在するように処理されることが望ましい。また、電解質材料は、該連通口を介して充填できる。
【0069】
このように、無機多孔体の内部に電解質材料が規則的に保持されることで、両材料がコンポジット化され、全体的にイオン伝導量を増大できる。
また、湿潤状態においては、無機多孔体が電解質材料の膨潤を抑制する。特に、多孔体内部に存在する球状孔がほぼ均一な径で構成されることで、電解質材料の含水時における膨潤に対して、多孔体は均質且つ分散された膨潤力を受けるので、イオン伝導体の局所的な破損が抑制できる。換言すれば、無機多孔体の球状孔が3次元規則配列構造をとることで、電解質材料の膨潤圧が無機多孔体に均等にかかるよう支持され得る。
【0070】
また、上記無機多孔体の気孔率は70〜90%であることが好適である。このときは、電解質材料を多量に導入でき、優れたイオン伝導性が実現できる。
更に、上記無機多孔体の孔径は、イオン伝導性と電解質材料の導入容易性とのバランスから、100〜1500nmに設計できる。100nm未満では、球状樹脂をテンプレートとした多孔体の形成が困難となり易い。
【0071】
更に、上記無機多孔体は、無機ゾルを形成する材料より成ることが好適である。
このときは、簡易な無機材形成技術であるゾルゲル法を適用できる。また、安価に無機多孔体が得られる。
上記無機ゾル形成材料は、無機コロイドであることが好適である。無機コロイドは、ポリマー粒子を鋳型に用いた無機多孔体の形成に適しており、3次元規則配列状態が保持された球状孔を形成できる。
【0072】
更にまた、上記無機多孔体は、例えば、ポリマー微粒子と無機材料を混合した懸濁液(サスペンション)から得られる。
このような懸濁液を適用することで、高い空孔率(70%以上)が実現できるため、電解質材料を多量に保持させることができ、高いイオン伝導性が期待できる。また、ポリマー微粒子が積み重なることで形成される3次元規則配列構造を鋳型として、無機多孔体が得らえれる。更に、ポリマー微粒子の粒径サイズ、積層状態を制御することで、任意の空間を有する無機多孔体を設計できる。
なお、細孔内のポリマー微粒子は熱処理などにより除去することで、電解質材料の入るスペースが確保される。
【0073】
また、上記電極材料としては、例えば、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)等の貴金属、ロジウム(Rh)、グラッシーカーボンなどの電極触媒成分を含むことが望ましい。
これらの電極触媒成分は、例えば、カーボンペーパー、カーボンブラック、これらにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を混合したものなどの担持基材を介して高分散させることが良い。
【0074】
ここで、本発明のイオン伝導体は、代表的には、図2に示すような工程により製造できる。更に詳細には、以下のような工程を行うことで製造できる。
1.無機ゾルと球状有機樹脂を溶媒を用いて混合する工程
2.この混合溶液を攪拌して懸濁液とする工程
3.この懸濁液を濾過して製膜する工程
4.濾過成形膜の余剰水分を除去する工程
5.濾過成形膜を乾燥する工程
6.濾過成形膜を加熱焼成して無機多孔体を得る工程
7.無機多孔体の球状孔に電解質材料を含浸させる工程
8.乾燥し、電極で挟持してイオン伝導体を形成する工程
【0075】
ここで、工程1〜6を経ることで、球状有機樹脂をテンプレートとして、球状孔が3次元規則配列された無機多孔体が得られる。
【0076】
工程1及び工程2では、無機コロイドと球状有機樹脂を均質な状態に混合することができる。これにより、均等で規則的な細孔を有する無機多孔体を得ることができる。
【0077】
また、工程3において、濾過は、球状有機樹脂をテンプレートとして、その隙間に無機ゾルを充填する方法として適している。濾過は、無機多孔体の球状孔の大きさ、細孔密度などから、適宜10〜60kPa程度減圧して行うことができる。
工程3で用いる球状有機樹脂としては、例えば20nm〜1500nm程度のポリエチレンを使用できる。
代表的には、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、架橋アクリル樹脂、メチルメタクリレート樹脂、ポリアミド樹脂などが適宜選択できる。20nmより小さくなると電解質材料の均質な含浸が困難となり易い。また、1500nmより大きくなると無機多孔体を構成する支持構造の均質性に乱れが発生することがある。
【0078】
更に、工程4では、濾過成形膜に含まれている溶剤を予め除去することで、次の乾燥工程における乾燥時間を短縮することができる。
更にまた、工程5では、濾過成形膜を室温にて予め乾燥させることで、焼成工程等での膜のハンドリングを容易にする。
【0079】
次いで、工程6では、濾過成形膜を加温焼成することで、無機材料を焼成形成すると共に、テンプレート樹脂を焼成除去することで無機多孔体を形成できる。
このとき、濾過膜中の球状有機樹脂を除去するための仮焼成を行い、その後に無機多孔体を焼結させることが良い。
仮焼成は、例えば、1〜10℃/min、望ましくは2〜5℃/minの昇温速度で400〜500℃、より望ましくは430〜470℃まで昇温させ、30分以上熱処理を行うことができる。
焼成は、例えば800〜900℃以上で30〜100分間程度の熱処理を行うことができる。なお、この本焼成は複数回繰り返して行っても良い。
【0080】
更に、工程7及び8では、得られた多孔体へ電解質材料を含浸させ、電極材料で挟持することで、容易に目的とするイオン伝導体が得られる。
【0081】
次に、本発明のエネルギーデバイスについて説明する。
本発明のエネルギーデバイスは、上述のイオン伝導体を適用して構成される。このときは、他の制御手段と組合わせて適宜システム化することもできる。
代表的には、燃料電池(セル又はスタック)、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサーなどが挙げられる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
1.無機多孔体の作製
無機多孔体原料として直径70〜100nmのコロイダルシリカを用意した。
また、孔径制御を目的に平均直径約500nmのポリスチレン球状粒子を用意した。
【0084】
このコロイダルシリカ及びポリスチレン球状粒子を溶質体積が所定の膜厚になるよう混合してサスペンション溶液を調製した。
手順としては、まずポリスチレン球状粒子を10%秤量し、水に添加した。また、コロイダルシリカを40%秤量し、水に添加した。これら溶液を超音波攪拌し、粒子を均一に分散させた。
【0085】
次いで、メンブレンフィルターをフィルターホルダーにセットし、手動式真空ポンプを用いて大気圧に対して大きくても10kPa以下の圧力となるように減圧し、サスペンションを濾過した。
【0086】
サスペンションがすべて濾過された後、濾過成形された膜に含まれる余剰水を、濾紙などの吸水材で除去した。室温で十分乾燥させた後にメンブレンフィルターから剥離することで、コロイダルシリカ及びポリスチレン球状粒子の混合物から成る膜が得られた。
【0087】
得られた膜に次のような熱処理を行った。
まず、仮焼成として、1〜10℃/minの昇温速度で400〜500℃まで昇温を行い、その温度にて30分以上熱処理を行い、ポリスチレン球状粒子を取り除いた。
更に、仮焼成後少なくとも800℃以上で約60分間熱処理を行い、コロイダルシリカを焼結させた。
更にまた、機械的強度を向上させるため、900℃以上の温度にて15分間熱処理を行い、ゆっくりと室温に戻すことで、目的とするシリカ多孔膜を得た。
【0088】
2.電解質材料(イオン液体)の含浸
(1)アルキル基付加工程
N−メチルイミダゾール200gをジメチルホルムアミド1000mlに溶解し、0℃に冷却し、これにエチルブロマイド563gを加え、0℃に冷却した状態で4日間攪拌した後、ロータリーエバポレータにて溶媒を除去した。
次に、得られた濃縮物をジエチルエーテルにより抽出洗浄した。
そして、析出した結晶をアセトン中にて再結晶させ、ろ過後、80℃にて8時間減圧乾燥した。
これにより、中間生成物である、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド(EMIBr)344gを得た。
なお、得られたEMIBrは、殆ど着色していない白色結晶であった。
(2)アニオン交換工程
この工程は、反応工程と分液処理工程とからなっている。
A.反応工程
アルキル基付加工程で合成したEMIBr334gをアセトニトリル1000mlに溶解し、これにテトラフルオロホウ酸アンモニウム220gを加え、密閉した状態で室温にて2日間攪拌した後、沈殿物をろ過して除去し、ろ液をロータリーエバポレータにて濃縮した。
B.分液処理工程
濃縮により得られた液体を、2−プロパノールで分液処理することによって洗浄し、再びロータリーエバポレータにて濃縮した後、80℃にて8時間減圧乾燥した。
これにより、最終生成物である、テトラフルオロホウ酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(EMIBF)288gを得た。
なお、得られたEMIBFは、殆ど無色透明の液体であった。
このイオン液体をシリカ多孔膜に含浸させ、イオン伝導体を作製した。
【0089】
3.イオン伝導性評価
得られたイオン伝導体について、10Hz〜100kHzの交流波をかけて計測したインピーダンスにてイオン伝導性を評価した。この結果を図3及び図4に示す。
なお、ここでのイオン導電率は多孔度を考慮せず、金電極と接触する面積を元に算出を行った。また、計測では、温度を変更してイオン伝導度を測定した。
【0090】
(比較例1)
シリカ多孔膜を使用せず、電解質材料をイオン液体のみとした以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、イオン伝導体を作製した。また、イオン伝導性評価も同様に行った。この結果を図3及び図4に示す。
【0091】
(比較例2)
シリカ多孔膜と同等の構造(3DOM)を有するポリイミド膜を使用した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、イオン伝導体を作製した。また、イオン伝導性評価も同様に行った。この結果を図4に示す。
【0092】
図3に示すように、アニオン成分を含むイオン液体(EMImBF)とシリカ多孔体の電解質膜では、液体状態のみに対し、イオン伝導度の大幅な向上が見られた。
【0093】
また、イオン液体(EMImBF)について、比較例1(液体状態)のイオン伝導度を1とし、実施例1及び比較例2のイオン伝導度と比較した。
図4に示すように、実施例1に係る、イオン液体をシリカ多孔膜とともに用いたイオン伝導体は、比較例1に係る、イオン液体のみを用いたイオン伝導体に対し、イオン伝導度が約3.5倍と大幅に向上していた。
これに対して、比較例2に係る、イオン液体をポリイミドとともに用いたコンポジット膜では、逆に比較例1よりもイオン伝導度が低下していた。
【0094】
(実施例2)
図5に、イオン伝導体を適用したエネルギーデバイス(燃料電池)の基本的な構成を示す。
電解質材料を保持した無機多孔体7が、対峙する一対の電極材料3及びガス拡散層6で順に挟まれるように作製した。
無機多孔体7にはシリカ多孔膜を用い、電解質材料2にはEMImBFを用いた。
電極材料3には白金担持カーボンを用い、ガス拡散層6にはカーボンペーパを用いた。
【0095】
また、各電極にはセパレータ4を用いてガス流路5を形成し、水素(又は水素を含有する燃料ガス)と、酸素(又は酸素を含有する酸化ガス)を供給できるようにした。
なお、電極は、燃料ガスを供給する側がアノード、酸化ガスを供給する側がカソードとなる。
【0096】
この燃料電池で発電するときは、それぞれのガスがガス流路5からガス拡散層6を経て電極材料3に供給され、以下に示す電気化学反応が進行する。
→2H+2e …(1)
2H+2e+(1/2)O→HO …(2)
+(1/2)O→HO …(3)
【0097】
式(1)は、燃料電池の陰極側における反応を示している。
式(2)は、燃料電池の陽極側における反応を示している。
式(3)は、燃料電池全体で行なわれる反応となる。
このように、イオン伝導体を用いた燃料電池は、燃料が有する化学エネルギーを直接に電気エネルギーに変換することが可能であり、高いエネルギー変換効率が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】イオン伝導体の一例を示す概略図及びSEM写真である。
【図2】イオン伝導体の作製手順の一例を示すフロー図である。
【図3】イオン伝導性の評価結果を示すグラフである。
【図4】イオン伝導性と温度の関係を示すグラフである。
【図5】イオン伝導体を適用した燃料電池の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0099】
1 無機多孔体
2 電解質材料
3 電極材料
4 セパレータ
5 ガス流路
6 ガス拡散層
7 電解質材料を保持した無機多孔体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機多孔体と電解質材料と一対の電極材料とから構成されるイオン伝導体であって、
上記無機多孔体は、孔内に上記電解質材料を保持し、
上記電解質材料は、カチオン成分とアニオン成分を含み、
上記電極材料は、該電解質材料を保持した無機多孔体を挟持する、ことを特徴とするイオン伝導体。
【請求項2】
上記電解質材料がイオン液体であることを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導体。
【請求項3】
上記無機多孔体が、金属酸化物を含む焼結体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン伝導体。
【請求項4】
上記無機多孔体が、アルミナ、シリカ、チタニア及びジルコニアから成る群より選ばれた少なくとも1種の金属酸化物で形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のイオン伝導体。
【請求項5】
上記無機多孔体が、複数の球状孔を有し、該球状孔は、内径がほぼ均一で、隣接する球状孔同士が連通しており、該球状孔内に電解質材料を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のイオン伝導体。
【請求項6】
上記無機多孔体の気孔率が70〜90%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載のイオン伝導体。
【請求項7】
上記無機多孔体が、無機ゾルを形成する材料で形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載のイオン伝導体。
【請求項8】
上記無機ゾル形成材料が、無機コロイドであることを特徴とする請求項7に記載のイオン伝導体。
【請求項9】
上記無機多孔体が、ポリマー微粒子と無機材料を混合した懸濁液より形成されたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載のイオン伝導体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つの項に記載のイオン伝導体を適用して成ることを特徴とするエネルギーデバイス。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1つの項に記載のイオン伝導体を適用して成ることを特徴とする燃料電池セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−35301(P2007−35301A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212698(P2005−212698)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】