説明

イオン伝導性付与剤およびガス拡散電極用組成物

【課題】 本発明は、陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーからなるイオン伝導性付与剤において、濃度が高い場合であっても、該エラストマーが均一に溶解ないしは分散し、適度な粘度を有する、固体高分子型燃料電池のガス拡散電極用イオン伝導性付与剤を提供することを目的としている。
【解決手段】 本発明に係る固体高分子型燃料電池のガス拡散電極用イオン伝導性付与剤は、
分子内に陰イオン交換基を有し、水に難溶な炭化水素系高分子エラストマーと、
20℃における比誘電率が2〜12の疎水性溶媒と、
20℃における比誘電率が13〜50の親水性溶媒とを含み、
該疎水性溶媒と親水性溶媒との重量比(疎水性溶媒/親水性溶媒)が98/2〜90/10であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池のガス拡散電極の形成時または接合時に使用されるイオン伝導性付与剤、該イオン伝導性付与剤を含むガス拡散電極用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、イオン交換樹脂等の固体高分子を電解質として用いた燃料電池であり、動作温度が比較的低いという特徴を有する。該固体高分子型燃料電池は、図1に示されるように、それぞれ外部と連通する燃料ガス流通孔2および酸化剤ガス流通孔3を有する電池隔壁1内の空間を、固体高分子電解質膜6の両面にそれぞれ燃料室側ガス拡散電極4および酸化剤室側ガス拡散電極5が接合した接合体で仕切って、燃料ガス流通孔2を通して外部と連通する燃料室7、および酸化剤ガス流通孔3を通して外部と連通する酸化剤室8が形成された基本構造を有している。そして、このような基本構造の固体高分子型燃料電池では、前記燃料室7に燃料流通孔2を通して水素ガスあるいはメタノール等からなる燃料を供給すると共に酸化剤室8に酸化剤ガス流通孔3を通して酸化剤となる酸素や空気等の酸素含有ガスを供給し、更に両ガス拡散電極間に外部負荷回路を接続することにより次のような機構により電気エネルギーを発生させている。
【0003】
固体電解質膜6として陽イオン交換型電解質膜を使用した場合には、燃料室側ガス拡散電極4において該電極内に含まれる触媒と燃料とが接触することにより生成したプロトン(水素イオン)が固体高分子電解質膜6内を伝導して酸化剤室8に移動し、酸化剤室側ガス拡散電極5で酸化剤ガス中の酸素と反応して水を生成する。一方、燃料室側ガス拡散電極4においてプロトンと同時に生成した電子は外部負荷回路を通じて酸化剤室側ガス拡散電極5へと移動するので上記反応のエネルギーを電気エネルギーとして利用することができる。
【0004】
また、固体電解質膜6として陰イオン交換型電解質膜を使用した場合には、燃料室側に水素あるいはメタノールを供給し、酸化剤室側に酸素および水を供給して、酸化剤室側ガス拡散電極5において該電極内に含まれる触媒と酸素および水とが接触することにより生成した水酸化物イオンが固体高分子電解質膜6内を伝導して燃料室7に移動し、燃料室側ガス拡散電極4で燃料と反応して水を生成する。一方、燃料室側ガス拡散電極4において水と同時に生成した電子は外部負荷回路を通じて酸化剤室側ガス拡散電極5へと移動するので上記反応のエネルギーを電気エネルギーとして利用することができる。
【0005】
前記した陽イオン交換型電解質膜としては、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂膜が最も一般的に用いられている。しかし、このような陽イオン交換型燃料電池では、次のような問題が指摘されている。
【0006】
(i)反応場が強酸性のため、貴金属触媒しか使用できず、また、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂膜も高価であり、コストダウンに限界がある。
【0007】
(ii)保水力が充分でないため水の補給が必要となる。
【0008】
(iii)物理的な強度が低いため薄膜化による電気抵抗の低減が困難である。
【0009】
(iv)燃料にメタノールを用いた場合にメタノールの透過性が高く、酸化剤室側ガス拡散電極に到達したメタノールがその表面で酸素または空気と反応するため過電圧が増大し、出力電圧が低下する。
【0010】
そしてこのような問題、特に上記(i)の問題を解決するためにパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂膜に替えて炭化水素系陰イオン交換膜を用いることが検討されており、そのような固体高分子型燃料電池が幾つか提案されている(特許文献1〜3)。また、これらの提案によれば、炭化水素系の陰イオン交換膜を用いているので、上記(ii)〜(iv)の問題についても解決可能となっている。
【0011】
陰イオン交換膜(固体電解質膜6)上に形成されるガス拡散電極4,5は、電極触媒、バインダーおよび溶剤からなる塗布液を用いて形成される。この際、塗布液を直接固体電解質膜6上に塗布してもよく、また剥離紙上に塗布液を塗布乾燥後に、得られた電極層を固体電解質膜6上に転写してもよい。さらに、ガス拡散電極の内部にイオン伝導性付与剤を充填することでガス拡散電極内部の触媒上で発生した水酸化物イオンの利用率を高めるため(換言すれば、該水酸化物イオンが効率よく燃料室に移動するようにするため)に、該拡散電極の接合面に陰イオン交換樹脂の有機溶液を塗布したり、或いは電極内部に陰イオン交換樹脂をバインダーとして配合することが行われている。すなわち、陰イオン交換樹脂をイオン伝導性付与剤の主剤として用い、これを固体電解質膜6上に塗布したり、あるいは電極を形成するためのバインダーとして用いることで、水酸化物イオンの移動性を向上させている。
【0012】
このような陰イオン交換樹脂としては、芳香族ポリエーテルスルホンと芳香族ポリチオエーテルスルホンの共重合体のクロロメチル化物をアミノ化して得られるアニオン交換樹脂(特許文献1および特許文献2)、またはスルホン酸基を有するパーフルオロカーボンポリマーの末端をジアミンで処理し4級化したポリマー或いはポリクロロメチルスチレンの4級化物等のポリマーで好適には溶媒可溶性のもの(特許文献3)が用いられている。
【0013】
しかし、これらの陰イオン交換樹脂をバインダーとしてガス拡散電極を形成した場合であっても、なお固体電解質膜6とガス拡散電極4,5との接合が不十分であり、耐久性に劣り長期間使用すると性能が劣化することがあった。
【0014】
このような課題を解決するため、特許文献4では、分子内に陰イオン交換基を有し、水及びメタノールに難溶な炭化水素系高分子エラストマー、又はその溶液或いは懸濁液からなるイオン伝導性付与剤が提案されている。イオン伝導性付与剤は、ガス拡散電極の接合面となる面に塗布したり、電極触媒を含むガス拡散電極用組成物に配合したときに、上記炭化水素系高分子エラストマーをガス拡散電極内や接合面近傍に均一に存在させ、かつ接合性が良好で活性の高いガス拡散電極を作成する目的のため、溶液状態で使用するのが好適である。このため、特許文献4では、誘電率が10以上の溶媒の使用が推奨されている。
【0015】
しかし、陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーは、その分子内に親水性である陰イオン交換基と、疎水性の炭化水素骨格を有する。このため、溶媒に対する溶解挙動は複雑であり、誘電率が10以上の溶媒を使用した場合であっても、必ずしも均一な溶液が得られるわけではない。すなわち、誘電率が比較的低い溶媒のみを使用した場合には、陰イオン交換基(親水性基)同士が凝集して高粘度化(ゲル化)してしまうことがあった。ゲル化を防止するために低粘度化すると、濃度が低下する。塗布液の粘度が低くなると、厚膜形成が困難となり、所定厚みの塗膜を形成するためには、複数回の塗布が必要になるなどの不都合がある。
【0016】
一方、誘電率が比較的高い溶媒を単独または多量に使用した場合には、炭化水素系高分子エラストマーの炭化水素骨格が凝集して不溶化し均一な溶液を得ることができなくなることがあった。
【特許文献1】特開平11−273695号公報
【特許文献2】特開平11−135137号公報
【特許文献3】特開2000−331693号公報
【特許文献4】特開2002−367626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーを含むイオン伝導性付与剤において、ゲル化あるいはエラストマーの不均一分散が発生すると次のような不都合を招来する。
【0018】
すなわち、イオン伝導性付与剤を固体電解質膜上に塗布し、その後ガス拡散電極層を形成した場合には、固体電解質膜とガス拡散電極層との界面近傍で接合不良が起こり、出力電圧の低下や、強度不足による耐久性の低下といった問題が起こる。
【0019】
また、イオン伝導性付与剤と電極触媒とを含む組成物(塗布液)を用いてガス拡散電極層を形成した場合には、電極層中でエラストマーが不均一に分散する結果、電極層にクラックが発生したり、電極層の比表面積の低下や、電極触媒の分散が不均一になる。電極層の比表面積が低下すると、反応面積が低下するため、出力電圧が低下する。また、電極触媒の分散が不均一化すると、触媒が偏在するため、触媒の露出面積も低下し、やはり出力電圧の低下を招く。
【0020】
本発明は上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーからなるイオン伝導性付与剤において、濃度が高い場合であっても、該エラストマーが均一に溶解ないしは分散し、適度な粘度を有するイオン伝導性付与剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的を達成すべく、鋭意検討の結果、本発明者らは陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーの溶媒ないし分散媒として、誘電率の異なる2種以上の溶媒を併用することで上記目的が達成され得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0022】
かかる課題を解決する本発明の要旨は以下のとおりである。
【0023】
(1)分子内に陰イオン交換基を有し、水に難溶な炭化水素系高分子エラストマーと、
20℃における比誘電率が2〜12の疎水性溶媒と、
20℃における比誘電率が13〜50の親水性溶媒とを含み、
該疎水性溶媒と親水性溶媒との重量比(疎水性溶媒/親水性溶媒)が98/2〜90/10である固体高分子型燃料電池のガス拡散電極用イオン伝導性付与剤。
【0024】
(2)疎水性溶媒と親水性溶媒との合計100重量部に対して、炭化水素系高分子エラストマーを3〜20重量部含む(1)に記載のイオン伝導性付与剤。
【0025】
(3)上記(1)または(2)に記載のイオン伝導性付与剤、および電極触媒を含有してなることを特徴とする固体高分子型燃料電池のガス拡散電極用組成物。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、濃度が高い場合であっても、陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーが均一に溶解ないしは分散し、適度な粘度を有するガス拡散電極用イオン伝導性付与剤が提供される。
【0027】
本発明のガス拡散電極用イオン伝導性付与剤は、その主要成分として陰イオン交換基を有する炭化水素系高分子エラストマーを用いているため、水酸化物イオンのイオン導電体として機能し、ガス拡散電極中の触媒の有効利用率を高めるばかりでなく、炭化水素系陰イオン交換膜に接合するガス拡散電極用に用いる場合には、上記高分子エラストマーは陰イオン交換膜と同質の炭化水素系高分子であるため接合性を向上させる機能も有する。特に本発明のガス拡散電極用イオン伝導性付与剤においては、陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーが均一に溶解ないしは分散し、濃度が高く、適度な粘度を有するため、固体高分子電解質膜とガス拡散電極とを良好に接合することが出来、高い電極活性と優れた耐久性を得ることが可能となる。また、該高分子エラストマーは水に対して難溶性であるため、本発明のイオン伝導性付与剤を用いて形成したガス拡散電極を用いた燃料電池を使用する際に燃料中に含まれる水中或いは使用時に副生する水中に溶出することがなく、電池自体の耐久性を高くすることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明のイオン伝導性付与剤は、分子内に陰イオン交換基を有し、水に難溶な炭化水素系高分子エラストマー(以下、陰イオン交換型炭化水系エラストマーと呼ぶことがある)と誘電率の異なる2種以上の溶媒とを含む。
【0029】
ここで、イオン伝導性付与剤とは、従来技術で前記したような固体高分子型燃料電池のガス拡散電極を形成する際に、該ガス拡散電極内部又は表面近傍でのイオン(具体的にはガス拡散電極に含まれる触媒上で生成するプロトンや水酸化物イオン等のイオン)の伝導性を高めるためにガス拡散電極用組成物内に添加したり、又は固体高分子電解質膜の電極形成面に塗布して使用する薬剤を意味する。また、イオン伝導性付与剤は、別途作製したガス拡散電極の片面に塗布して使用することもできる。なお、本発明のイオン伝導性付与剤は、固体高分子型燃料電池のガス拡散電極であればどのようなガス拡散電極に対しても使用可能であるが、炭化水素系陰イオン交換膜を固体高分子電解質膜として用いた固体高分子型燃料電池のガス拡散電極用に用いた場合にその効果を最も発揮するのでこのような用途に使用するのが好適である。
【0030】
本発明のイオン伝導性付与剤で使用する“分子内に陰イオン交換基を有し、水に難溶な炭化水素系高分子エラストマー”は、分子内に少なくとも1個の陰イオン交換基を有し、水に難溶で、更に弾性を有する炭化水素系の高分子であれば特に限定されず、公知化合物、または公知の方法で合成される高分子化合物が制限なく使用できる。ここで、炭化水素系高分子とは、分子内に存在するイオン交換基以外の大部分が炭化水素基で構成された高分子化合物を意味する。但し、本発明の効果を阻害しない範囲であれば分子内の陰イオン交換基以外の部分に炭素原子及び水素原子以外の原子が含まれていてもよい。例えば、分子の主鎖及び側鎖を構成する結合として炭素−炭素結合や炭素=炭素結合(二重結合)以外に、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、シロキサン結合等が導入されていてもよい。このような結合により導入される酸素、窒素、珪素、硫黄、ホウ素、リン等のヘテロ原子は総計で、分子を構成する全原子数の40%以下、好適には10%以下となるような量含まれていてもよい。さらにまた、分子内に存在する水素原子数の40%以下、好適には10%以下であれば主鎖及び側鎖に塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、その他原子が直接又は置換基として結合していてもよい。
【0031】
上記炭化水素系高分子エラストマー中に存在する陰イオン交換基としては、陰イオン交換能を有する置換基であれば特に限定されず、4級アンモニウム塩基、ピリジニウム塩基、イミダゾリウム塩基、第3級アミン基、ホスホニウム基等の公知の陰イオン交換基が採用できる。特に、強塩基性の観点から4級アンモニウム塩基又はピリジニウム塩基を採用するのが好適である。イオン交換基の含有量は特に限定されないが、ガス拡散電極に良好なイオン伝導性を付与できるという観点から、陰イオン交換容量が0.1〜5.0mmol/g、好適には、0.5〜3.0mmol/gであるのが好ましい。但し、炭化水素系高分子エラストマーが、非架橋性のものである場合には、イオン交換容量が高いと水に可溶性となるため、0.5〜2.5mmol/gであるのが好ましい。
【0032】
上記炭化水素系高分子エラストマーは、水に難溶である必要がある。水に容易に溶解する場合には、燃料電池を構成して使用した際にガス拡散電極から該エラストマーが溶出してしまい、電池性能が低下する。なお、ここで、水に難溶であるとは、20℃の水に対する溶解度(飽和水溶液中の上記高分子エラストマーの濃度)が1重量%未満、好適には0.8重量%以下であることを言う。
【0033】
また、上記炭化水素系高分子エラストマーは適度な弾性率、好適には25℃におけるヤング率で表して1〜300(MPa)、特に3〜100(MPa)を有することが好ましい。このような弾性率を有することにより、固体高分子電解質膜とガス拡散電極との密着性を向上させることができるようになるばかりでなく、燃料電池を構成して使用した場合に、ヒートサイクルにより発生する応力を分散することが可能となり、燃料電池の耐久性を大きく改善することが可能となる。
【0034】
本発明で使用する炭化水素系高分子エラストマーは、陰イオン交換樹脂として従来公知のものの中から本発明で特定する条件を満足するものを適宜選択して使用すればよいが、一般に水や有機溶媒に対する溶解性、ヤング率は、炭化水素系高分子エラストマー中に存在する陰イオン交換基の量、分子量、架橋度によって制御されるので、選択に際してはこのような点に着目して選択するのが好適である。また、上記のような因子は、陰イオン交換基を有する炭化水素系高分子エラストマーの一般的な合成方法において合成条件を変えることにより容易に調整できるので、本発明で使用する前記炭化水素系高分子エラストマーは以下に示すような方法で容易に合成することができる。
【0035】
たとえば、炭化水素系高分子エラストマーは、陰イオン交換基を有する単量体、及び共役ジエン化合物を、水に対する溶解特性が前記したような条件を満足するように重合することで得られる。また、炭化水素系高分子エラストマーは、陰イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体、及び共役ジエン化合物を、水に対する溶解特性が前記したような条件を満足するように重合し、その後、陰イオン交換基が導入可能な官能基に、陰イオン交換基の導入処理を施して得ることもできる。この際に使用する単量体の種類、その組合わせ、及び量比;架橋剤の使用の有無、或いはその使用量;陰イオン交換基の導入量;並びに高分子の重合度等を調整することにより所望の陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーを容易に合成することができる。
【0036】
上記方法で使用する陰イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロルメチルスチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物が挙げられる。これらの中でも、陰イオン交換基の導入が容易である点から、スチレン、α−メチルスチレンが好ましく使用される。また、陰イオン交換基を有する単量体としては、ビニルベンジルトリメチルアミン、ビニルベンジルトリエチルアミン等のアミン系単量体、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の含窒素複素環系単量体、それらの塩類およびエステル類等が用いられる。
【0037】
上記方法で使用する共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。その含有量は特に限定されないが、高分子エラストマー中における共役ジエン化合物単位の含有率は5〜90重量%、特に20〜80重量%が一般的である。
【0038】
なお、上記陰イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体または陰イオン交換基を有する単量体や共役ジエン化合物の他に、必要に応じてこれらの単量体と共重合可能な架橋性単量体を添加してもよい。また、上記方法で使用する架橋性単量体としては、特に制限されるものではないが、例えば、ジビニルベンゼン類、ジビニルスルホン、ジビニルビフェニル、トリビニルベンゼン等の多官能性ビニル化合物、トリメチロールメタントリメタクリル酸エステル、メチレンビスアクリルアミド、ヘキサメチレンジメタクリルアミド等の多官能性メタクリル酸誘導体が用いられる。これらの架橋性単量体を用いる場合、その使用量は一般には、陰イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体または陰イオン交換基を有する単量体100重量部に対して、0.01〜5重量部、好適には0.05〜1重量部から採択される。架橋性単量体が0.01重量部以下の場合には、得られる陰イオン交換基を有する炭化水素系高分子は、水に可溶となり易く、5重量%以上では、有機溶媒に不溶になり易い。
【0039】
また、上記陰イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体または陰イオン交換基を有する単量体や共役ジエン化合物や架橋性単量体の他に、必要に応じてこれらの単量体と共重合可能な他の単量体を添加してもよい。こうした他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、アクリロニトリル、塩化ビニル、アクリル酸エステル等のビニル化合物が用いられる。その使用量は、陰イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体または陰イオン交換基を有する単量体100重量部に対して0〜100重量部が好ましい。
【0040】
上記方法における重合方法は、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合法が採用される。こうした製造条件は、単量体組成物の組成等によって左右されるものであり、特に限定されるものではなく適宜選択すればよい。ここで、前記性状を有する炭化水素系高分子を重合する場合、例えばスチレン等の上記例示した単量体であれば1万〜100万、好ましくは5万〜20万の平均分子量になるような重合条件で重合させるのが好ましい。陰イオン交換基を有する単量体を用いた場合には、このようにして重合を行なうことにより本発明で使用する炭化水素系高分子エラストマーを得ることができる。また、陰イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体を用いた場合には、得られた重合体についてアミノ化、アルキル化等の公知の方法により所望の陰イオン交換基を導入すればよい。
【0041】
なお、上記のような方法の中でも、効果の高い前記炭化水素系高分子エラストマーを容易に得ることができることから、陰イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体または陰イオン交換基を有する単量体、および共役ジエン化合物として、ハードセグメントとソフトセグメントを構成するような複数種の単量体(通常芳香族ビニル化合物の重合ブロックがハードセグメントを構成し、共役ジエン化合物の重合ブロックがソフトセグメントを構成する)を用いてブロック共重合を行ない、所謂熱可塑性エラストマーとした後、陰イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体を用いた場合には陰イオン交換基の導入処理を施す方法が特に好適である。
【0042】
この場合には、熱可塑性エラストマーの一般的な合成方法に準じて、共重合させる単量体の組み合わせを決定し、常法に従って重合を行なえばよい。陰イオン交換基が導入可能な熱可塑性エラストマーの具体例としては、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体(SBS)、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレントリブロック共重合体(SIS)、また、SBS、SISをそれぞれ水素添加したポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロック共重合体(SEBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)−ポリスチレントリブロック(SEPS)共重合体が挙げられる。また、陰イオン交換基を有する熱可塑性エラストマーとしてポリスチレン−ポリビニルピリジン−ポリブタジエントリブロック共重合体、ポリスチレン−ポリビニルピリジン−ポリイソプレントリブロック共重合体等が挙げられる。したがって、上記共重合体を与えるような単量体の組み合わせを採用し、エラストマーの合成を行えばよい。なお、陰イオン交換基が導入可能な熱可塑性エラストマーにおいては、イオン交換基を導入する工程での安定性や得られるイオン伝導性付与剤の高粘度化の抑制の点から、ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロック共重合体(SEBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)−ポリスチレントリブロック共重合体(SEPS)が好ましい。
【0043】
また、重合を行なう際のモノマー組成は特に限定されないが、熱可塑性エラストマーにおけるハードセグメントとなるブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物単位の含有率は電気的特性、機械的特性の点から10〜95重量%、特に20〜80重量%が好ましいので、このような含有率になるような組成にするのが好適である。
【0044】
また、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物の共重合方法は特に限定されず、アニオン重合、カチオン重合、配位重合、ラジカル重合等の公知の方法が採用されるが、ブロック構造を制御し易いという理由によりリビングアニオン重合が特に好適に採用される。なお、ブロック共重合の形態としては、ジブロック共重合、トリブロック共重合、ラジアルブロック共重合、マルチブロック共重合の何れであってもよいが、作成後のガス拡散電極層において、末端ブロックがお互いに凝集してドメインを形成することで固体高分子電解質膜とガス拡散電極との密着性を向上させ、燃料電池を構成して使用した場合発生するヒートサイクルによる応力を分散させる効果が高いという理由からトリブロック共重合が好適である。さらに、熱可塑性樹脂と同様に成形加工し易いという理由から、各ブロック共重合体の平均分子量が1万〜30万、特に2万〜15万の平均分子量とになるような重合条件で重合するのが好適である。さらに、ブロック共重合体の共役ジエン部分を水素添加する場合には、水素添加率が95%以上になるよう水素を添加するのが好ましい。また、陰イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体を用いた場合における陰イオン交換基の導入は、前記と同様に行なうことができる。
【0045】
前記炭化水素系高分子エラストマーは、誘電率の異なる2種以上の溶媒または分散媒(以下、混合溶媒とよぶことがある)に、溶解もしくは分散させてイオン伝導性付与剤として使用され、具体的にはガス拡散電極の接合面となる面に塗布したり、電極触媒(白金族触媒等)を含むガス拡散電極用組成物に配合して使用される。
【0046】
混合溶媒は、疎水性溶媒と親水性溶媒とを含んでなる。
【0047】
疎水性溶媒は、20℃における比誘電率が2〜12、好ましくは2〜10の溶媒である。このような疎水性溶媒としては、ヘキサン(比誘電率:2.0)、トルエン(2.2)、ベンゼン(2.3)、ジエチルエーテル(4.3)、クロロホルム(4.9)、1,2−ジメトキシエタン(5.5)、酢酸エチル(6.0)、テトラヒドロフラン(7.6)、ジクロロメタン(9.1)、等の無極性溶媒が挙げられる。これらは一種単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
親水性溶媒は、20℃における比誘電率が13〜50、好ましくは15〜45の溶媒である。このような親水性溶媒としては、アセトン(21)、アセトニトリル(37)、N,N−ジメチルホルムアミド(38)、ジメチルスルホキシド(42.5)等の極性非プロトン性溶媒、シクロヘキサノール(15.0)、1−ブタノール(18)、2−プロパノール(18)、1−プロパノール(22.2)、エタノール(24)、2−エトキシエタノール(29.6)、メタノール(33)、等の極性プロトン性溶媒が挙げられる。これらは一種単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
炭化水素系高分子エラストマーは、上記疎水性溶媒および親水性溶媒の混合溶媒中に溶解もしくは分散されてなる。疎水性溶媒と親水性溶媒との重量比(疎水性溶媒/親水性溶媒)は、98/2〜90/10、好ましくは98/2〜92/8である。疎水性溶媒の重量比が過剰であると、炭化水素系高分子エラストマー骨格中の陰イオン交換基(親水性基)同士が凝集して高粘度化(ゲル化)してしまうことがある。一方、親水性溶媒を過剰に使用した場合には、炭化水素系高分子エラストマーの炭化水素骨格が凝集して不溶化し均一な溶液が得られないことがある。
【0050】
本発明のガス拡散電極用イオン伝導性付与剤では、上記のように疎水性溶媒および親水性溶媒を特定の割合で含む混合溶媒を使用しているため、炭化水素系高分子エラストマーが凝集することなく、均一に溶解ないしは分散する。混合溶媒に対する炭化水素系高分子エラストマーの溶解性、分散性は、遠心分離法や加圧濾過法による不溶成分の分離や、得られるイオン伝導性付与剤の濁度測定等により確認できる。
【0051】
疎水性溶媒と親水性溶媒との組み合わせは、特に限定はされないが、
疎水性溶媒としてテトラヒドロフラン、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルムから選択される少なくとも1種を使用し、親水性溶媒として1−プロパノール、2−エトキシエタノール、シクロヘキサノール、ジメチルスルホキシドから選択される少なくとも1種を使用することで、炭化水素系高分子エラストマーが均一に溶解したガス拡散電極用イオン伝導性付与剤を容易に得ることができる。
【0052】
本発明のガス拡散電極用イオン伝導性付与剤では、上記陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーが凝集することなく、混合溶媒中に均一に溶解ないしは分散する。このため、炭化水素系高分子エラストマーを高濃度化しても、増粘が起こらず、適度な濃度および粘度を有するガス拡散電極用イオン伝導性付与剤が得られる。
【0053】
ガス拡散電極用イオン伝導性付与剤に使用する炭化水素系高分子エラストマーとしては、使用する混合溶媒に対する溶解度(20℃における飽和溶液中の上記炭化水素系高分子エラストマー濃度)が1重量%以上、特に3重量%以上であるものを用いるのが特に好適である。本発明のイオン伝導性付与剤における前記高分子エラストマーの濃度は特に限定されず、溶媒と炭化水素系高分子エラストマーの組み合わせ、電極触媒に対する使用量、粘度、施用時の浸透性等に応じて適宜決定される。
【0054】
特に、取り扱いの容易性や、得られる電極層の性状等の観点から、本発明のガス拡散電極用イオン伝導性付与剤においては、疎水性溶媒と親水性溶媒との合計100重量部に対して、陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーを好ましくは3〜20重量部、さらに好ましくは4〜12重量部含有することが望ましい。特に、本発明のガス拡散電極用イオン伝導性付与剤においては、増粘することなく、炭化水素系高分子エラストマーの高濃度化が可能であり、混合溶媒100重量部に対して、炭化水素系高分子エラストマー5〜20重量部という高濃度領域であっても、炭化水素系高分子エラストマーが凝集することなく、均一に分散したガス拡散電極用イオン伝導性付与剤が提供される。また、粘度の調整は、施用時の使用態様に応じて、溶媒使用量を適宜に選択することで行われる。
【0055】
また、本発明のガス拡散電極用イオン伝導性付与剤には、上記炭化水素系高分子エラストマー、疎水性溶媒および親水性溶媒に加えて、本発明の趣旨を損なわない範囲で、結着剤、粘度調整剤、上記混合溶媒以外の各種溶媒(具体的には、比誘電率2未満、12を超えて13未満、50を超えるもの)、酸化防止剤、熱安定化剤等の添加成分が含まれていても良い。これら添加成分が使用される場合には、混合溶媒100重量部に対して、添加成分の合計が5重量部、好ましくは1重量部以下となる割合で使用することが望ましい。
【0056】
本発明のガス拡散電極用イオン伝導性付与剤は、上記炭化水素系高分子エラストマー、疎水性溶媒および親水性溶媒、ならびに所望に応じて加えられる添加成分を常法により混合し、該エラストマーを混合溶媒中に溶解ないしは分散して得られる。
【0057】
本発明のガス拡散電極用組成物は、上記イオン伝導性付与剤および電極触媒を含有してなる。ここで、ガス拡散電極用組成物とは、固体高分子型燃料電池のガス拡散電極を作製するための組成物(塗布液)を意味する。
【0058】
電極触媒としては、水素の酸化反応及び酸素の還元反応を促進する白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、バナジウム、あるいはそれらの合金等の金属粒子が制限なく使用できるが、触媒活性が優れていることから白金族触媒を用いるのが好適である。なお、これら触媒となる金属粒子の粒径は、通常、0.1〜100nm、より好ましくは0.5〜10nmである。粒径が小さいほど触媒性能は高くなるが、0.5nm未満のものは、作製が困難であり、100nmより大きいと十分な触媒性能が得にくくなる。なお、これら触媒は、予め導電剤に担持させてから使用してもよい。導電剤としては、電子導電性物質であれば特に限定されるものではないが、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛等を単独または混合して使用するのが一般的である。
【0059】
ガス拡散電極用組成物における触媒含量は特に限定はされないが、イオン伝導性付与剤に含まれる炭化水素系高分子エラストマー100重量部に対して、電極触媒を金属重量で10〜700重量部、好ましくは15〜500重量部、特に好ましくは20〜400重量部含有することが望ましい。また、電極触媒の含有量は、組成物をシート状とした状態における単位面積当たりの金属重量で、好ましくは0.01〜10mg/cm、より好ましくは0.1〜5.0mg/cmである。
【0060】
ガス拡散電極用組成物には、必要に応じて結着剤が含まれていても良い。結着剤としては、各種熱可塑性樹脂が一般的に用いられるが、好適に使用できる熱可塑性樹脂を例示すれば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等が挙げられる。結着剤を配合する場合、その配合量は、ガス拡散電極用組成物全量の25重量%以下であることが好ましい。また、結着剤は、単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0061】
次に、本発明のイオン伝導性付与剤およびガス拡散電極用組成物の使用例について説明する。
【0062】
本発明のイオン伝導性付与剤は、固体高分子型燃料電池、好適には炭化水素系陰イオン交換膜を固体高分子電解質膜として用いた固体高分子型燃料電池のガス拡散電極に対して施用される。施用方法は、ガス拡散電極の固体高分子電解質膜と接合する面の少なくとも近傍に存在する電極触媒と本発明のイオン伝導性付与剤とが接触するような方法であれば特に限定されない。
【0063】
例えば、(1)電極触媒に必要に応じて結着剤や分散媒を添加してペースト状の組成物とし、これをそのままロール成型するか又はカーボンペーパー等の支持層材料上に塗布した後に熱処理して層状物を得、その接合面となる表面に本発明のイオン伝導性付与剤を塗布した後に必要に応じて乾燥し、固体高分子電解質膜と熱圧着する方法;又は
(2)電極触媒に本発明のイオン伝導性付与剤及び必要に応じて結着剤や分散媒を添加して本発明のガス拡散電極用組成物とし、これをカーボンペーパー等の支持層材料上に塗布するか、剥離材に塗布して固体高分子電解質膜上に転写するか、または固体高分子電解質膜上に直接塗布した後に乾燥させ、その後固体高分子電解質膜と熱圧着する方法により好適に施用することができる。
【0064】
これら方法においてはガス拡散電極における反応サイトの三次元化という観点からは、本発明のイオン伝導性付与剤は電極のより広い範囲に含有させるのがより好ましい。上記2つの方法の中でも電極の全体により均一にイオン伝導性付与剤を含有させ易いということから、(2)の方法を採用するのがより好ましい。なお、本発明のイオン伝導性付与剤は、固体高分子電解質膜の少なくとも一方の面に接合されるガス拡散電極に対して施用されればよいが、水酸化物イオン等のアニオンの伝導性付与効果が高いことから一方のガス拡散電極のみに施用する場合は酸化剤室側ガス拡散電極に対して施用するのが好適である。このときにおいても、燃料室側のガス拡散電極には他のイオン導電性付与剤を施用するのが好適である。該他のイオン導電性付与剤としては、公知のものが何ら制限なく使用できる。また、本発明のイオン導電性付与剤はこれら該他のイオン導電性付与剤と併用する(例えば混合して使用する)ことも勿論可能である。
【0065】
上記施用方法(1)及び/又は(2)で使用する各種材料は、特に限定されず、従来の高分子型燃料電池で使用されているものが何ら制限なく使用できる。例えば、固体高分子電解質膜としては高分子型燃料電池用の固体高分子電解質膜として使用できることが知られている公知の陽イオン交換樹脂膜又は陰イオン交換樹脂膜が制限なく使用できる。しかしながら、前記した背景技術において説明したように、(i)〜(iv)のような問題が起り難いという観点から炭化水素系陰イオン交換膜を使用するのが好適である。好適に使用できる炭化水素系陰イオン交換膜を例示すればクロルメチルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ビニルピリジン−ジビニルベンゼン等の共重合体をアミノ化、アルキル化等の処理により所望の陰イオン交換基を導入した膜が挙げられる。これらの陰イオン交換樹脂膜は、一般的には、熱可塑性樹脂製の織布、不織布、多孔膜等の基材により支持されているが、ガス透過性が低く、薄膜化が可能であることから該基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン)、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂等の熱可塑性樹脂製多孔膜からなる基材を用いるのが好適である。また、これら炭化水素系陰イオン交換膜の膜厚は、電気抵抗を低く抑える観点及び支持膜として必要な機械的強度を付与する観点から、通常5〜200μmの厚みを有するものが好ましく、より好ましくは20〜150μmを有するものが好ましい。
【0066】
また、必要に応じて使用される支持層材料としては、通常、カーボン繊維織布、カーボンペーパー等の多孔質膜が使用される。これら支持層材料の厚みは、50〜300μmが好ましく、その空隙率は、50〜90%が好ましい。通常、このような支持層材料の空隙内及び表面上に前記電極触媒を含むペースト状の組成物は5〜50μmの厚みになるよう充填及び付着されてガス拡散電極が構成される。
【0067】
また、前記(1)の方法において本発明のイオン伝導性付与剤の施用量は特に限定されないが、イオン伝導性付与効果の観点から、接合面から全体の厚さの1〜50%の範囲の電極層に存在する電極触媒に対して、本発明のイオン伝導性付与剤の含有量が5〜60重量%、特に10〜40重量%となる用に施用するのが好適である。
【0068】
さらに、前記(1)及び(2)の方法においてガス拡散電極を接合する際の熱圧着は、加圧、加温できる装置、一般的には、ホットプレス機、ロールプレス機等により行われる。プレス温度は一般的には80℃〜200℃である。プレス圧力は、使用するガス拡散電極の厚み、硬度に依存するが、通常0.5〜20MPaである。
【0069】
このようにして本発明のイオン伝導性付与剤が施用されて調製された固体高分子電解質膜/ガス拡散電極接合体は、前記した図1に示すような基本構造の燃料電池に装着されて使用される。
【0070】
(実施例)
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例に示すイオン伝導性付与剤の特性は、以下の方法により測定した値を示す。
【0071】
1)イオン伝導性付与剤の粘度
コーンプレート型粘度計(Brookfield社製デジタル粘度計モデルDV−II+)を用いて、25℃の温度で測定した。
【0072】
2)イオン伝導性付与剤の溶解性評価(実濃度/仕込濃度比)
イオン伝導性付与剤の溶解性評価法として、遠心分離法による上澄み液中の実濃度測定を行い、仕込み濃度に対する実濃度比を溶解性評価の指標とした。
【0073】
先ず、イオン伝導性付与剤10mlを容量15mlの遠心分離管に入れ遠心分離機(コクサン製H−3H)にセットした。遠心分離機の回転数を2500rpm、3000rpm、5000rpmの順で上げながら、それぞれ10分間、不溶分の遠心分離を行った。遠心分離後の上澄み液における陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーの実濃度を測定し、得られた実濃度の仕込み濃度に対する比を算出した。
【0074】
3)ガス拡散電極外観
平均粒子径2nmの白金が50重量%担持されたカーボンブラックからなる電極触媒に、後述する製造例で調整したイオン伝導性付与剤を、陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマー:触媒電極の重量比が1:4となるよう混合してガス拡散電極用組成物を得た。得られたガス拡散電極用組成物を、白金量が0.5mg/cmとなるように、厚みが200μmであり空孔率が80%であるカーボンペーパー上に塗布し、次いで、大気圧下25℃で15時間、更に80℃で4時間減圧乾燥してカーボンペーパーを支持体とするガス拡散電極を作成した。ガス拡散電極中の陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーの含有量は20重量%である。
【0075】
作成したガス拡散電極の外観を目視にて評価し、クラックの発生がないものを(AA)、クラックが微量に発生しているものを(BB)、全体的にクラックが発生しているものを(CC)とした。
【0076】
4)ガス拡散電極のBET比表面積
上記3)により作成したカーボンペーパーを支持体とするガス拡散電極を短冊状にカットし、カーボンペーパーを除くガス拡散電極量がおよそ5mgとなるように測定セルに投入して、ガス吸着測定装置(Quantachrome社製Chembet−3000)を用いて窒素ガスの吸着面積を測定した。得られた窒素ガス吸着面積から、支持体であるカーボンペーパーのみを用いて得たガス吸着面積を差し引き、ガス拡散電極の窒素ガス吸着面積とした。別に重量測定によってカーボンペーパー上のガス拡散電極重量を求め、前記ガス拡散電極の窒素ガス吸着面積を、ガス拡散電極の単位重量当たりに換算して、空隙量の指標となるガス拡散電極のBET比表面積を求めた。
【0077】
5)ガス拡散電極の触媒露出面積
上記3)により作成したカーボンペーパーを支持体とするガス拡散電極を短冊状にカットし、カーボンペーパーを除くガス拡散電極量がおよそ5mgとなるように測定セルに投入して、ガス吸着測定装置(Quantachrome社製Chembet−3000)を用いて、パルス吸着法により水素ガス吸着面積を測定した。得られた水素ガス吸着面積から、支持体であるカーボンペーパーのみを用いて得た水素ガス吸着面積を差し引き、ガス拡散電極の水素ガス吸着面積とした。別に重量測定によってカーボンペーパー上のガス拡散電極重量を求め、前記ガス拡散電極の水素ガス吸着面積をガス拡散電極の単位重量当たりに換算し、これをガス拡散電極の触媒露出面積とした。
【0078】
6)水素燃料型での燃料電池出力電圧
先ず、ポリエチレンからなる多孔膜を母材とし、クロロメチルスチレン−ジビニルベンゼン共重合体をトリメチルアミンで4級化し4級アンモニウム基を導入した陰イオン交換容量が2.0mmol/gであり厚みが30μmである陰イオン交換膜の両面に、上記3)により作成したカーボンペーパーを支持体とするガス拡散電極をセットし、120℃、圧力5MPaの加圧下で100秒間熱プレスした後、室温で2分間放置した。得られた陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を図1に示す燃料電池セルに組み込んだ。次いで、圧力2気圧、燃料電池セル温度50℃、加湿温度50℃の空気と水素をそれぞれ200(ml/min.)、50(ml/min.)で、酸化剤室および燃料室に供給して発電試験を行ない、電流密度0(A/cm)、及び0.1(A/cm)におけるセルの端子電圧を測定した。
【0079】
(製造例1)
まず、スチレン系エラストマーとしてのポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)−ポリスチレントリブロック共重合体(重量平均分子量3万、スチレン含有量60重量%)が10重量%となるようクロロメチルメチルエーテルに溶解し、さらに無水塩化亜鉛を0.5重量%の濃度となるよう添加して、35〜40℃で表1に記載の時間反応し、樹脂中にクロロメチル基を導入した。1,4−ジオキサンと水の1:1混合溶液中へ投入して反応を停止した後、30%メタノール水溶液に投入して樹脂を析出させ、乾燥することで、クロロメチル基含有樹脂を得た。
【0080】
次いで、得られたクロロメチル基含有樹脂を、3重量%のトリメチルアミンを含む大過剰の25重量%アセトン水溶液に懸濁し、室温にて4日間撹拌することでクロロメチル基含有樹脂中のクロロメチル基を4級アンモニウム基に変換した。この反応液を0.5mol/L−塩酸中へ投入後1時間撹拌し、樹脂成分を濾別することで未反応のトリメチルアミンを除去した後、大過剰の0.5mol/L−NaOH水溶液中に懸濁して、クロロメチル基含有樹脂中の4級アンモニウム基の対イオンを塩化物イオンから水酸化物イオンにイオン交換した後、イオン交換水で洗浄、乾燥させることにより陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーを得た。
【0081】
得られた陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーの陰イオン交換容量、ならびに20℃における水への溶解度を表1に示した。
【0082】
(製造例2〜5)
原料となるスチレン系エラストマーと、クロロメチル基導入における反応時間を表1に示すものに変えた以外は製造例1と同様にして陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーを製造した。
【0083】
陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーの陰イオン交換容量、ならびに20℃における水への溶解度を表1に示した。
【表1】

【0084】
(実施例1)
製造例1の陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーを、表2に示す混合有機溶媒に所定の濃度で溶解し、本発明のイオン伝導性付与剤を得た。得られたイオン伝導性付与剤の粘度、溶解性評価結果(実濃度/仕込濃度比)を表2に示す。
【0085】
このイオン伝導性付与剤を用いてガス拡散電極用組成物を調整し、陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を作成した。ガス拡散電極の外観、BET比表面積、触媒露出面積、燃料電池出力電圧を評価した。結果を表3に示した。
【0086】
(実施例2〜15)
イオン交換型炭化水素系高分子エラストマー、溶解させる有機溶媒を表2に示すものに変えた以外は実施例1と同様にして、本発明のイオン伝導性付与剤を得た。得られたイオン伝導性付与剤の粘度、溶解性評価結果(実濃度/仕込濃度比)を表2に示す。
【0087】
得られたイオン伝導性付与剤を用いてガス拡散電極用組成物を調整し、陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を作成した。触媒電極層の外観、BET比表面積、触媒露出面積、燃料電池出力電圧を評価した結果を表3に示した。
【0088】
(比較例1〜3)
比較例1では製造例1の陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーを、比較例2では製造例2のエラストマーを、比較例3では製造例5のエラストマーを、それぞれ表2に記載の低誘電率有機溶媒にのみ溶解してイオン伝導性付与剤を作成した。
【0089】
得られたイオン伝導性付与剤を用いてガス拡散電極用組成物を調整し、陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体の作成を試みたが、いずれのイオン伝導性付与剤も溶液粘度が高すぎるために電極触媒を均一に分散することが出来ず陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体の作成ができなかった。
【0090】
(比較例4)
製造例1の陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーを表2に記載の低誘電率有機溶媒にのみ溶解したイオン伝導性付与剤の作成において、電極触媒と均一に混合可能な粘度の希薄溶液を作成した。この時の溶液濃度は2重量%であった。
【0091】
得られたイオン伝導性付与剤を用いてガス拡散電極用組成物を調整し、陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体の作成を試みたが、ガス拡散電極用組成物の濃度が薄いために電極触媒を均一に塗布することが困難であった。得られた陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体上の白金量は0.1mg/cm以下であり、燃料電池出力電圧を測定することが出来なかった。
【0092】
(比較例5〜6)
製造例1の陰イオン交換型炭化水素系高分子エラストマーを、比較例5では表2に記載の割合からなる混合溶媒と、比較例6では表2に記載の高誘電率有機溶媒のみと混合した。得られたイオン伝導性付与剤中にはエラストマーの一部が未溶解のまま残存し、均一なイオン伝導性付与剤を得ることができなかった。
【0093】
得られたイオン伝導性付与剤を用いてガス拡散電極用組成物を調整し、陰イオン交換膜/ガス拡散電極接合体を作成した。ガス拡散電極の外観、BET比表面積、触媒露出面積、燃料電池出力電圧を評価した結果を表3に示した。
【表2】

【表3】

【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】固体高分子型燃料電池の基本構造を示す概念図である。
【符号の説明】
【0095】
1;電池隔壁
2;燃料ガス流通孔
3;酸化剤ガス流通孔
4;燃料室側ガス拡散電極
5;酸化剤室側ガス拡散電極
6;固体高分子電解質(陰イオン交換膜)
7;燃料室
8;酸化剤室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に陰イオン交換基を有し、水に難溶な炭化水素系高分子エラストマーと、
20℃における比誘電率が2〜12の疎水性溶媒と、
20℃における比誘電率が13〜50の親水性溶媒とを含み、
該疎水性溶媒と親水性溶媒との重量比(疎水性溶媒/親水性溶媒)が98/2〜90/10である固体高分子型燃料電池のガス拡散電極用イオン伝導性付与剤。
【請求項2】
疎水性溶媒と親水性溶媒との合計100重量部に対して、炭化水素系高分子エラストマーを3〜20重量部含む請求項1に記載のイオン伝導性付与剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のイオン伝導性付与剤、および電極触媒を含有してなることを特徴とする固体高分子型燃料電池のガス拡散電極用組成物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−226614(P2008−226614A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62407(P2007−62407)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】