説明

イオン伝導性高分子電解質及びそれを用いた二次電池

【課題】 高温環境下で柔軟性、曲げ加工性があり、かつ使用時の安全性や信頼性が良好な電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質と、それを用いた高い出力を有する二次電池を提供すること。
【解決手段】 重合性含ホウ素化合物の重合体、式(1)で示される高分子化合物及び式(2)で示される高分子化合物含む電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質。
O(AO) ・・・・・・・・・・(1)
(R、Rが炭素数1〜10の炭化水素基であり、AOが炭素数2〜6のオキシアルキレン基の1種または2種以上からなり、kがオキシアルキレン基の平均付加モル数で、4〜20である。)
HO(AO)H ・・・・・・・・・・(2)
(AOが炭素数2〜6のオキシアルキレン基の1種または2種以上からなり、lがオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1000〜200,000である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性高分子電解質及びそれを用いた二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子・電気機器の高性能・高機能化あるいは小型・軽量・薄型化に対する市場の要求が非常に大きくなっている。これらの要求を実現するため、エネルギー供給デバイスである電池に対しては、より高いエネルギー密度や出力密度が求められている。
そのため、従来の鉛蓄電池、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−水素電池から、より高いエネルギー密度や出力密度を有するリチウムイオン二次電池への置き換えが急速に進んでいる。特に形状の自由度・薄型化・軽量化で優位であるアルミラミネート型に代表されるようなリチウムイオン二次電池は、急速にそのマーケットを広げつつある。現在市販されているアルミラミネート型リチウムイオン二次電池の電解質には、多くの場合、イオン伝導度の観点からカーボネート等の非水極性溶媒に電解質塩を溶解させた液状電解質が用いられている。これらの液状電解質は揮発性が高く、化学的安定性が低いため、電池としての使用上限温度が60℃程度に制限されている。
このような問題に対して、高分子電解質を用いたリチウムイオン二次電池が提案されている。従来の液状電解質やゲル状電解質を用いた場合と比較して、化学的に安定な高分子電解質は、特に高温使用時における電解質の揮発や劣化を大幅に抑制するため、安全性や信頼性が飛躍的に向上することを期待している。
このような試みとしては、例えば、特定のポリエチレンオキシドにアルカリ金属塩を含有させた高分子電解質が広く知られている。(例えば特許文献1)。
また、含ホウ素重合性モノマーの重合物とポリエチレンオキシドからなる二次電池用高分子電解質とこれを用いた電池が開示されている(例えば特許文献2)。
また、設計自由度の観点から、高分子電解質には柔軟性や曲げ加工性も求められている。しかしながら、上記の高分子電解質では、高温環境下における信頼性が十分でなく、柔軟性、曲げ加工性があり、かつ実用上十分な出力を有する電池が得られないという問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開2005−93382号公報
【特許文献2】特開2002−158039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高温環境下で柔軟性、曲げ加工性があり、かつ使用時の安全性や信頼性が良好な電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質と、それを用いた高い出力を有する二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、以下に示されるものである。
(A) 式(1)で示される重合性含ホウ素化合物の重合体、式(2)で示される高分子化合物及び式(3)で示される高分子化合物を下記の割合で含む電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質。
【0006】
【化1】

【0007】
(Bがホウ素原子、Z、Z、Zが不飽和二重結合を有する重合性官能基であり、AOは炭素数2〜6のオキシアルキレン基の1種または2種以上からなり、h、i、jがオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1〜10である。)
O(AO) ・・・・・・・・・・(2)
(R、Rが炭素数1〜10の炭化水素基であり、AOが炭素数2〜6のオキシアルキレン基の1種または2種以上からなり、kがオキシアルキレン基の平均付加モル数で、4〜20である。)
HO(AO)H ・・・・・・・・・・(3)
(AOが炭素数2〜6のオキシアルキレン基の1種または2種以上からなり、lがオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1000〜200,000である。)
(式(1)で示される重合性含ホウ素化合物の重合体の質量)/(式(2)で示される高分子化合物の質量)=5/95〜80/20の範囲であり、かつ(式(3)で示される高分子化合物の重合体の質量)/(式(1)で示される重合性含ホウ素化合物の重合体の質量+式(2)で示される高分子化合物の質量)=0.01/100〜10/100の範囲である。
【0008】
(B) 式(1)で示される重合性含ホウ素化合物のh、i、およびjが、1〜3である前記の電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質。
(C) 式(2)で示される高分子化合物のエーテル化率が95%以上である前記の電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質。
(D) (式(3)で示される高分子化合物の重合体の質量)/(式(1)で示される重合性含ホウ素化合物の重合体の質量+式(2)で示される高分子化合物の質量)=0.01/100〜7/100の範囲である前記の電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質。
(E) 前記の電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質と電解質塩を含む電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質。
(F) カチオンを放出および吸蔵する正極活物質を含む正極と、該正極から放出されたカチオンを吸蔵および放出する負極活物質を含む負極、あるいはリチウム金属やリチウム合金からなる負極と、該正極および該負極の間に介在して該カチオンを移動させる電解質層とを有し、前記電解質層が前記に記載の電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質であることを特徴とする二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の範囲を満足する重合体および高分子化合物を用いると、揮発性が低く、化学的安定性が高く、屈曲性や曲げ加工性に優れ、高温環境下での使用時の安全性や信頼性が良好な電解質となる。また、それを用いた二次電池は、ホウ素原子によるアニオン補足効果により、実用上十分な出力を有する電池となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
式(1)中のZ,Z,Zは、不飽和二重結合を有する重合性官能基であり、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基およびメタリル基等が挙げられ、なかでも、反応性が高いことからアクリロイル基、メタクリロイル基が好ましい。
【0011】
式(2)中のRおよびRは、炭素数1〜10の炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の脂肪族炭化水素基、フェニル基、トルイル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基等の脂環式炭化水素基などが挙げられる。得られるイオン伝導性高分子電解質のイオン伝導度の点から、炭素数1〜4の炭化水素基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0012】
式(1)中のAO、式(2)中のAOおよび式(3)中のAOは、炭素数2〜6のオキシアルキレン基であり、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基等が挙げられる。得られるイオン伝導性高分子電解質のイオン伝導度の点から、炭素数2〜4のオキシアルキレン基が好ましく、オキシエチレン基またはオキシプロピレン基が特に好ましい。オキシアルキレン基は1種単独でも、2種以上であっても良く、1分子中の種類が異なっていても良い。また、式(1)中のh、i、jはオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、各々単独に1〜10であり、好ましくは1〜3である。
【0013】
式(2)中のkはオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、4〜20であり、好ましくは4〜12である。
式(2)中のkが4未満だと得られる高分子電解質の高温環境下での安定性や信頼性が低下する。一方、kが20より大きくなると高分子電解質のイオン伝導性が低下し、また柔軟性が低下し電極界面との接触性が悪化するため、電池に用いたときに実用上十分な出力が得られない。
式(1)中のh、i、jと式(2)中のkがこの範囲内にあると、高い安定性と信頼性を有し、電池に用いたときに実用上十分な出力を有するイオン伝導性高分子電解質が得られる。
【0014】
式(3)中のlは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1,000〜200,000であり、好ましくは2,000〜150,000である。
式(3)中のlが1,000未満であると、実用上十分な屈曲性が得られない。一方、lが200,000より大きくなると高分子電解質のイオン伝導性が低下し、電極界面との接触性が悪化するため、電池に用いた時に実用上十分な出力が得られない。
式(3)中のlがこの範囲にあると、実用上十分な屈曲性を有し、電池に用いた時に実用上十分な出力を有するイオン電導性高分子電解質が得られる。
なお、lは式(3)で示される高分子化合物の30℃における固有粘度(η)から、Mark−Houwink式として知られている下記の数式(1)に従ってMvをオキシアルキレン基の分子量で除した値である。
η=12.5×10―5×Mv0.78・・・数式(1)
l=Mv/オキシアルキレン基の分子量・・・数式(2)
本発明の式(3)の化合物を加えることにより、式(2)の化合物との相溶性が良好であるため、高温における滲出を防ぐことができる。
【0015】
(式(3)で示される高分子化合物の重合体の質量)/(式(1)で示される重合性含ホウ素化合物の重合体の質量+式(2)で示される高分子化合物の質量)=0.01/100〜7/100であることが好ましく、より好ましくは0.01/100〜5/100の範囲である。上記の質量比が0.01/100未満であると、実用上充分な屈曲性が得られない傾向があり、7/100より大きいと、高分子電解質のイオン伝導性が低下する傾向があり、電極界面との接触性が悪化する傾向があるため、電池に用いた時に実用上十分な出力が得られないこともある。
【0016】
式(1)中で示される末端に重合性官能基を有する重合性含ホウ素化合物は、公知の方法によって製造することができ、また下記の方法でも製造することができる。すなわち重合性官能基を有する一価のアルコールに、ホウ酸、無水ホウ酸、ホウ酸アルキル等のホウ素化合物を加え、30〜200℃で乾燥ガスを通気しながら減圧し、ホウ酸エステル化することにより得ることができる。より具体的には、例えば、反応温度50〜100℃で乾燥空気を適当量通気しつつ、撹拌しながら2〜12時間、0.67〜66.7kPa(5〜500mmHg)の減圧下において脱水もしくは脱揮発分を留去する操作を行うことで、式(1)の化合物を得ることができる。
得られる重合性含ホウ素化合物に含まれる水分の低減等を考慮すると、ホウ酸トリアルキル、その中でもホウ酸トリメチルを用いて製造することが好ましい。
【0017】
前記の重合性官能基を有する一価のアルコールとは、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基、メタリル基等の重合性官能基と、水酸基を同一分子内に有する化合物のことである。
また、前記のホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリイソブチル、ホウ酸トリ−t−ブチル等のホウ酸トリアルキル化合物、無水ホウ酸、オルトホウ酸、メタホウ酸、ピロホウ酸等のホウ素化合物が挙げられる。これらのうち、ホウ酸トリアルキル化合物が、得られるホウ酸エステルに含まれる水分等の不純物を低減できることから好ましく、なかでもホウ酸トリメチルとホウ酸トリエチルが反応温度を低くすることができ、副反応の抑制が可能なことからより好ましい。
ホウ酸トリアルキルを用いる場合には、重合性官能基を有する一価のアルコール3.0モルに対して1.0〜10.0モルのホウ酸トリアルキルを用いて、ホウ酸エステル化反応によって発生する揮発分と過剰のホウ酸トリアルキルを留去して製造することが望ましい。
【0018】
式(2)で示される両末端に炭化水素基を有する高分子化合物は、従来公知の方法によって製造することができ、また下記の方法でも製造することができる。すなわち、まず反応容器に出発原料となる炭素数1〜10の炭化水素基を有する一価のアルコールとアルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物を除くアルカリ触媒あるいはルイス酸触媒を加え、乾燥窒素ガス雰囲気下で加圧状態にした後、50〜150℃で撹拌しながらアルキレンオキシドを連続的に添加し、付加重合することにより、原料であるポリアルキレンオキシドモノアルキルエーテルを得る。次いで、得られたアルキレンオキシドモノアルキルエーテルに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を加え、モノハロゲン化炭化水素とのエーテル化反応を行うことにより、式(2)で示される高分子化合物を得ることができる。この際、数式(3)で示されるエーテル化率が、高温環境下での電解質の安定性と電解質を用いた電池の信頼性の観点から、好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは98%以上である。
エーテル化率=(1−式(2)で示される高分子化合物の水酸基価/ポリアルキレンオキシドモノアルキルエーテルの水酸基価)×100・・・数式(3)
なお、数式(3)の計算に使用する水酸基価とは、JIS−K−0070に準拠して測定した値である。
【0019】
前記のアルカリ触媒とは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物を除く化合物のことで、具体的には、ナトリウム、カリウム、ナトリウムカリウムアマルガム、ナトリウムハイドライド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、カリウムハイドライド、カリウムエトキシド等を挙げることができる。また、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液や、ナトリウムエトキシドのエタノール溶液等も用いることができる。
前記のルイス酸触媒としては、三フッ化ホウ素や四塩化錫等を用いることができる。
【0020】
前記の炭素数1〜10の炭化水素基を有する一価のアルコールとは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の脂肪族炭化水素基、フェニル基、トルイル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基等の脂環式炭化水素基等と、水酸基とを同一分子内に有する化合物である。
【0021】
(式(1)で示される重合性含ホウ素化合物の重合体の質量)/(式(2)で示される高分子化合物の質量)は、5/95〜80/20の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、10/90〜60/40の範囲であり、特に好ましくは、13/87〜35/65の範囲である。この質量比が5/95より低くなると、得られるイオン導電性高分子電解質膜の機械的強度が低下し、取り扱いが難しくなる傾向がある。また、この質量比が80/20より高くなると、電解質膜の柔軟性が乏しくなり、イオン伝導度が低下する傾向がある。
【0022】
本発明のイオン伝導性高分子電解質においては、電解質の強度や可とう性を向上させる目的で、本発明の趣旨を損なわない範囲で、式(1)で示される化合物の重合体として、共重合可能な重合性化合物(α)を含む共重合体を用いても良い。
重合性化合物(α)としては、例えば、スチレン、(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等の一価のアルコールの(メタ)アクリル酸エステル、グリセロール1、3ジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸エスエル、アルキロキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリス(ポリアルキレングリコール)エーテルトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリス(ポリアルキレングリコール)エーテルトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリアルキレンオキシド付加物グリシジルエーテル類等のポリアルキレングリコール誘導体が挙げられる。なかでも得られるイオン伝導性高分子電解質のイオン伝導度の観点から、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリルを用いることが好ましい。また上記の重合性化合物(α)は、1種または2種以上を併用しても良い。
重合体として、式(1)で示される化合物と重合性化合物(α)の共重合体を用いる場合、重合性化合物(α)は式(1)で示される重合性含ホウ素化合物の重合体の質量に含まれるものとする。該共重合体中に占める重合性化合物(α)の割合は、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
さらに、本発明のイオン伝導性高分子電解質においては、本発明の趣旨を損なわない範囲で他の高分子化合物や非水極性溶媒を加えても良い。
前記の非水極性溶媒としては本発明のイオン伝導性高分子電解質に対して相溶性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の炭酸エステル化合物、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル化合物が挙げられる。これらの非水溶媒は、1種または2種以上を混合して用いても良い。また、ベンゼン、アセトニトリル、ビニレンカーボネート等のリチウム二次電池用途として公知の添加剤を用いても良い。
【0024】
式(1)で示される重合性含ホウ素化合物の重合体と式(2)で示される高分子化合物および式(3)で示される高分子化合物を含むイオン伝導性高分子化合物から作製されるイオン伝導性高分子電解質は、公知の方法を用いて得ることができる。
また、重合性化合物(α)を含む共重合体を用いた場合や非水極性溶媒を用いた場合も公知の方法を用いて上記のイオン伝導性高分子化合物を得ることができる。
例えば、式(1)で示される重合性含ホウ素化合物と式(2)で示される高分子化合物および式(3)で示される高分子化合物を含むイオン伝導性高分子化合物を各種の混練機や撹拌機を用いて均一に混合・分散した後、可視光、紫外線、電子線、熱等のエネルギーを使用し、適宜、重合開始剤などを用いて重合することにより、目的とするイオン電導性高分子電解質を得ることができる。
その際の重合形式はイオン重合、ラジカル重合のいずれによってもイオン伝導性高分子電解質を得ることができる。
本発明において、式(1)で示される含ホウ素化合物の重合体と式(2)で示される高分子化合物および式(3)で示される高分子化合物を含むイオン電導性高分子電解質の作製に際して、重合開始剤は使用しても使用しなくても良いが、作業性や重合速度の観点から、熱ラジカル重合開始剤を使用した熱重合が好ましい。
【0025】
熱ラジカル重合開始剤としては、通常用いられている有機過酸化物やアゾ化合物から選択すれば良く特に制限は無いが、熱ラジカル重合開始剤の具体例としては、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカネート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサネート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサネート、2,5−ジメチル2,5−ジメチル2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン等のパーオキシエステル、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキシ−2−メチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール、2,2´−アゾビス−イソブチロニトリル、1,1´−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2,2´−アゾビスイソブチレート、2,2´−アゾビス2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
上記の熱ラジカル重合開始剤は、所望の重合温度と重合体の組成により適宜選択して用いれば良いが、電気化学デバイスに用いられる部材を損なわない目的から、分解温度および分解速度の指数である10時間半減期温度の範囲として30〜90℃のものが好ましい。
熱ラジカル重合開始剤を用いた重合体の作製は、用いた熱ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度に対して±10℃程度の温度範囲で、重合体中の重合性不飽和二重結合が実質的に無くなるまで適宜重合時間を調整して行えば良い。
【0026】
式(1)で示される含ホウ素化合物の重合体と式(2)で示される高分子化合物を含むイオン伝導性高分子化合物は、補強材と複合化して用いても良い。このような補強材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンの多孔質シートやこれらを多層ラミネート化した多孔質シート、ポリオレフィン繊維の不織布等のポリオレフィン成形体、ガラスクロス、ガラスファイバ−、ガラスビーズ等のガラス成形体、シリカ、LaAlO、PbZrO、BaTiO、SrTiO、PbTiO等の無機粉体、芳香族ポリアミド繊維およびその不織布等が挙げられる。イオン伝導性高分子電解質と前記の補強材を複合化する方法に特に制限はなく、例えば、重合前のイオン伝導性高分子電解質の前駆体を、上記のシートや布状補強材に予め含浸させてから重合したり、イオン電導性高分子電解質の前駆体に補強材を分散させてから重合することで、補強材と複合化したイオン伝導性高分子電解質を得ることができる。
【0027】
本発明の電解質塩は、式(1)で示される化合物の重合体と式(2)で示される高分子化合物を含むイオン電導性高分子電解質に可溶のものならば、特に制限はないが、以下に挙げるものが好ましい。すなわち、金属陽イオンと、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、テトラフルオロリン酸イオン、トリフルオロメタンスルフォニドイミド酸イオン、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8−テトラシアノ−p−キノジメタンイオン、低級脂肪族カルボン酸イオンから選ばれた陰イオンとからなる化合物が挙げられる。金属陽イオンとしてはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca及びBa金属イオンが挙げられる。電解質塩濃度は、イオン電導性高分子電解質1kgに対して、0.001〜5モルの範囲であることが好ましく、0.01〜3モルの範囲であることがより好ましい。この値が5モルを超えるとイオン伝導性高分子電解質前駆体の加工性や成形性が低下し、さらに得られたイオン伝導性高分子電解質の機械的強度も低下する傾向がある。
【0028】
本発明におけるリチウムを可逆的に吸蔵放出する正極は、正極活物質、導電助剤、結着剤を含む正極合材を集電体の上に製膜してなるリチウム二次電池用の正極として従来公知のものを用いればよく、特に制限はない。前記の正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、層状マンガン酸リチウム(LiMnO)あるいは複数の遷移金属を配合した複合酸化物であるLiMnNiCo(x+y+z=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1)などの層状化合物、あるいは1種以上の遷移金属元素を置換したもの、あるいはマンガン酸リチウム(Li+xMn2−x(ただしx=0〜0.33))、Li+xMn2−x−y(ただし、MはNi、Co、Cr、Cu、Fe、Al、Mgより選ばれた少なくとも1種の金属を含み、x=0〜0.33、y=0〜1.0、2−x−y>0)、LiMnO、LiMn、LiMnO、LiMn2−x(ただし、MはCo、Ni、Fe、Cr、Zn、Taより選ばれた少なくとも1種の金属を含み、x=0.01〜0.1)、LiMnMO(ただし、MはFe、Co、Ni、Cu、Znより選ばれた少なくとも1種の金属である)、銅−リチウム酸化物(LiCuO)、鉄−リチウム酸化物(LiFe)、LiFePOあるいはLiVO、V、Cu等のバナジウム酸化物、あるいはジスルフィド化合物、あるいはFe(MoO等を挙げることができる。前記の導電助材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバー等の導電性炭素材料を挙げることができる。前記の結着剤としては、例えば、本発明のイオン電導性高分子電解質等が挙げられる。
【0029】
本発明におけるリチウムを可逆的に吸蔵放出する負極としては、負極活物質と結着剤を含む負極材料を銅箔等の集電体の上に製膜してなる負極や金属箔等、リチウム二次電池用の負極として従来公知のものを用いればよく、特に制限はない。
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、石油コークスや石炭ピッチコークス等から得られる易黒鉛化材料を2500℃以上の高温で熱処理したもの、メソフェースカーボン、あるいは非晶質炭素、炭素繊維、リチウムと合金化する金属、あるいは炭素粒子表面に金属を担持させた材料等が用いられる。このような金属としては、例えば、リチウム、アルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム、マグネシウムとそれらの合金が挙げられる。また、該金属または金属の酸化物も負極活物質として利用できる。
前記の結着剤としては、例えば、本発明のイオン伝導性高分子電解質等が挙げられる。
【0030】
本発明における正極と負極の作製方法には、特に制限は無く、従来公知のリチウム二次電池用電極の作製方法を用いて行えば良いが、例えば、以下の方法で作製することもできる。活物質と導電助剤を含む混合物を、前記イオン伝導性高分子電解質の前駆体、重合性化合物(α)等と混合することでスラリーを得る。次いで、このスラリーを金属箔等の集電体上に塗布した後、加熱によりスラリーに含まれる重合または溶剤除去することで正極または負極の上に該高分子電解質の前駆体や極性溶剤の溶液を塗布した後、重合又は溶剤除去することで正極又は負極の上に高分子電解質膜を形成し、これらを貼り合わせることで作製することもできる。
【0031】
本発明の二次電池の作製方法には、特に制限はなく、従来公知の二次電池の作製方法を用いて行えばよいが、例えば、以下の方法で作製することもできる。前記の金属箔上に塗布して得られた正極と負極との間にイオン伝導性高分子電解質を挟み込むことで作製することができる。あるいは、正極または負極の上に概高分子電解質の前駆体や極性溶剤の溶液を塗布した後、重合または溶剤除去することで正極または負極の上に高分子電解質膜を形成し、これらを貼り合わせることで作製することもできる。
【0032】
本発明の二次電池の用途は、特に限定されないが、例えば、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ポータブルオーディオプレイヤー、携帯液晶テレビ等の携帯AV機器、ノート型パソコン、携帯電話、通信機能付き電子手帳等の携帯情報端末、その他、携帯ゲーム機器、電動工具、電動式自転車、電力貯蔵システム等の幅広い分野においても使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、本実施例では特にことわりのない限り、アルゴン雰囲気下で試料調整及び充放電試験を行った。
【0034】
(製造例1)
ポリエチレングリコール(平均付加モル数2.2)モノメタクリレート350g(2.0モル)とポリプロピレングリコール(平均付加モル数2.4)モノメタクリレート203g(1.0モル)にホウ酸トリメチル207.6g(2.0モル)を加えた。撹拌しながら、乾燥空気雰囲気下60℃で1時間保持した。その後、75℃まで昇温してから、系内を徐々に減圧した。圧力が2.67kPa(20mmHg)以下の状態を6時間保持し、ホウ酸エステル交換反応の進行に伴って発生する揮発分および過剰のホウ酸トリメチルを除去した。その後、ろ過して式(1)に示す重合性含ホウ素化合物A557gを得た。得られた重合性含ホウ素化合物Aの赤外吸収スペクトルを測定したところ、3300cm−1の水酸基に由来する吸収帯の消失が確かめられた。重合性含ホウ素化合物Aの分子構造を表1に示した。
【0035】
(製造例2)
ポリエチレングリコール(平均付加モル数9.8)モノアクリレート1539g(3.0モル)にホウ酸トリメチル207.6g(2.0モル)を加えた。撹拌しながら、乾燥空気雰囲気下60℃で1時間保持した。その後、75℃まで昇温してから、系内を徐々に減圧した。圧力が2.67kPa(20mmHg)以下の状態を6時間保持し、ホウ酸エステル交換反応の進行に伴って発生する揮発分および過剰のホウ酸トリメチルを除去した。その後、ろ過して式(1)に示す重合性含ホウ素化合物B1486gを得た。得られた重合性含ホウ素化合物Bの赤外吸収スペクトルを測定したところ、3300cm−1の水酸基に由来する吸収帯の消失が確かめられた。重合性含ホウ素化合物Bの分子構造を表1に示した。
【0036】
(製造例3)
ポリエチレングリコール(平均付加モル数2.2)モノメタクリレート525g(3.0モル)にホウ酸トリメチル207.6g(2.0モル)を加えた。撹拌しながら、乾燥空気雰囲気下60℃で1時間保持した。その後、75℃まで昇温してから、系内を徐々に減圧した。圧力が2.67kPa(20mmHg)以下の状態を6時間保持し、ホウ酸エステル交換反応の進行に伴って発生する揮発分および過剰のホウ酸トリメチルを除去した。その後、ろ過して式(1)に示す重合性含ホウ素化合物C520gを得た。得られた重合性含ホウ素化合物Cの赤外吸収スペクトルを測定したところ、3300cm−1の水酸基に由来する吸収帯の消失が確かめられた。重合性含ホウ素化合物Cの分子構造を表1に示した。
【0037】
(製造例4)
ポリエチレングリコール(平均付加モル数1.9)モノアクリレート322g(2.0モル)とポリテトラメチレングリコール(平均付加モル数1.7)モノアクリレート217g(1.0モル)にホウ酸トリメチル207.6g(2.0モル)を加えた。撹拌しながら、乾燥空気雰囲気下60℃で1時間保持した。その後、75℃まで昇温してから、系内を徐々に減圧した。圧力が2.67kPa(20mmHg)以下の状態を6時間保持し、ホウ酸エステル交換反応の進行に伴って発生する揮発分および過剰のホウ酸トリメチルを除去した。その後、ろ過して式(1)に示す重合性含ホウ素化合物D544gを得た。得られた重合性含ホウ素化合物Dの赤外吸収スペクトルを測定したところ、3300cm−1の水酸基に由来する吸収帯の消失が確かめられた。重合性含ホウ素化合物Dの分子構造を表1に示した。
【0038】
(製造例5)
エチレンオキシドとプロピレンオキシドの比率がモル比で85/15でランダム共重合したポリ(エチレンオキシドプロピレンオキシド)(平均付加モル数15.1)モノメタクリレート2336g(3.0モル)にホウ酸トリメチル207.6g(2.0モル)を加えた。撹拌しながら乾燥空気雰囲気下60℃で1時間保持した。その後、75℃まで昇温してから、系内を徐々に減圧した。圧力が2.67kPa(20mmHg)以下の状態を6時間保持し、ホウ酸エステル交換反応の進行に伴って発生する揮発分および過剰のホウ酸トリメチルを除去した。その後、ろ過して式(1)に示す重合性含ホウ素化合物E2155gを得た。得られた重合性含ホウ素化合物Eの赤外吸収スペクトルを測定したところ、3300cm−1の水酸基に由来する吸収帯の消失が確かめられた。重合性含ホウ素化合物Eの分子構造を表1に示した。
【0039】
(製造例6)
ポリエチレングリコール(平均付加モル数2.2)モノメタクリレート350g(2.0モル)とポリエチレングリコール(平均付加モル数3.0)モノメチルエーテル164g(1.0モル)にホウ酸トリメチル207.6g(2.0モル)を加えた。撹拌しながら、乾燥空気雰囲気下60℃で1時間保持した。その後、75℃まで昇温してから、系内を徐々に減圧した。圧力が2.67kPa(20mmHg)以下の状態を6時間保持し、ホウ酸エステル交換反応の進行に伴って発生する揮発分および過剰のホウ酸トリメチルを除去した。その後、ろ過して1分子あたり平均で2つの重合性不飽和二重結合を有する重合性含ホウ素化合物F514gを得た。得られた重合性含ホウ素化合物Fの赤外吸収スペクトルを測定したところ、3300cm−1の水酸基に由来する吸収帯の消失が確かめられた。重合性含ホウ素化合物Fの分子構造を表1に示した。
【0040】
(製造例7)
耐圧反応容器にメタノール242gとナトリウムメトキシド2.25gを加え、反応容器内を窒素置換した。120℃まで昇温した後、エチレンオキシド2008gを連続的に加えた。エチレンオキシド添加終了後、120℃で1時間反応させた。次いで、80℃まで冷却した後、窒素ガスを吹き込みながら、1.34〜6.68kPa(10〜50mmHg)で30分間減圧処理を行い、残存したメタノールとエチレンオキシドを除去した。反応中間体のうち200gを取り出して、1N塩酸で中和してから窒素雰囲気下で脱水、濾過を行い、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルaを得た。得られたポリエチレングリコールモノメチルエーテルaについてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の測定を行い、エチレンオキシドの平均付加モル数を算出したところ、6.5であった。残りの反応中間体に水酸化カリウム855gを加え、反応容器内を窒素置換した後、50℃に冷却した。メチルクロライド415gを加えてから80℃に昇温し、0.2MPaで1時間反応させた後、120℃に昇温し、さらに5時間反応させた。反応生成物を水洗した後、17.5%水溶液の塩酸で中和し、80℃に加熱して常圧で5時間、さらに110℃に昇温して1.34〜6.68kPa(10〜50mmHg)で1時間、減圧処理することにより脱水して、式(2)で示される化合物aを得た。得られた高分子化合物aのエーテル化率を式(4)により算出したところ99.2%であった。高分子化合物aの分子構造を表2に示した。
【0041】
(製造例8)
耐圧反応容器にメタノール346gとナトリウムメトキシド2.25gを加え、反応容器内を窒素置換した。120℃まで昇温した後、エチレンオキシド1903gを連続的に加えた。エチレンオキシド添加終了後、120℃で1時間反応させた。次いで、80℃まで冷却した後、窒素ガスを吹き込みながら、1.34〜6.68kPa(10〜50mmHg)で30分間減圧処理を行い、残存したメタノールとエチレンオキシドを除去した。反応中間体のうち200gを取り出して、1N塩酸で中和してから窒素雰囲気下で脱水、濾過を行い、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルbを得た。得られたポリエチレングリコールモノメチルエーテルbについてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の測定を行い、エチレンオキシドの平均付加モル数を算出したところ、4.1であった。残りの反応中間体に水酸化カリウム1213gを加え、反応容器内を窒素置換した後、50℃に冷却した。メチルクロライド601gを加えてから80℃に昇温し、0.2MPaで1時間反応させた後、120℃に昇温し、さらに5時間反応させた。反応生成物を水洗した後、17.5%水溶液の塩酸で中和し、80℃に加熱して常圧で5時間、さらに110℃に昇温して1.34〜6.68kPa(10〜50mmHg)で1時間、減圧処理することにより脱水して、式(2)で示される化合物bを得た。得られた高分子化合物bのエーテル化率を式(4)により算出したところ99.4%であった。高分子化合物bの分子構造を表2に示した。
【0042】
(製造例9)
耐圧反応容器にエタノール107gとナトリウムメトキシド2.25gを加え、反応容器内を窒素置換した。120℃まで昇温した後、エチレンオキシド1740gとプロピレンオキシド405gを連続的に加えた。エチレンオキシドとプロピレンオキシドの添加終了後、120℃で1時間反応させた。次いで、80℃まで冷却した後、窒素ガスを吹き込みながら、1.34〜6.68kPa(10〜50mmHg)で30分間減圧処理を行い、残存したメタノールとエチレンオキシドを除去した。反応中間体のうち200gを取り出して、1N塩酸で中和してから窒素雰囲気下で脱水、濾過を行い、ポリ(エチレンオキシドプロピレンオキシド)モノエチルエーテルを得た。得られたポリ(エチレンオキシドプロピレンオキシド)モノエチルエーテルについてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の測定を行い、エチレンオキシドプロピレンオキシドの平均付加モル数を算出したところ、19.5であった。残りの反応中間体に水酸化カリウム261gを加え、反応容器内を窒素置換した後、50℃に冷却した。エチルクロライド164gを加えてから80℃に昇温し、0.2MPaで1時間反応させた後、120℃に昇温し、さらに5時間反応させた。反応生成物を水洗した後、17.5%水溶液の塩酸で中和し、80℃に加熱して常圧で5時間、さらに110℃に昇温して1.34〜6.68kPa(10〜50mmHg)で1時間、減圧処理することにより脱水して、式(2)で示される化合物cを得た。得られた高分子化合物cのエーテル化率を式(4)により算出したところ99.8%であった。高分子化合物cの分子構造を表2に示した。
【0043】
(製造例10)
トリエチレングリコール(平均付加モル数3.0)モノメチルエーテル492g(3.0モル)にホウ酸トリメチル207.6g(2.0モル)を加えた。撹拌しながら乾燥空気雰囲気下60℃で1時間保持した。その後、75℃まで昇温してから系内を徐々に減圧した。圧力が2.67kPa(20mmHg)以下の状態を6時間保持し、ホウ酸エステル交換反応の進行に伴って発生する揮発分および過剰のホウ酸トリメチルを除去した。その後、ろ過して高分子化合物d496gを得た。得られた高分子化合物dの赤外吸収スペクトルを測定したところ、3300cm−1の水酸基に由来する吸収帯の消失が確かめられた。高分子化合物dの分子構造を表2に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
1.電極の作製例
〈正極Mn〉:マンガン酸リチウム粉末(日揮化学株式会社製、商品名E10Z)、非晶性カーボン(呉羽化学工業株式会社製、商品名カーボトロンPE)およびKF1120(呉羽化学工業株式会社製ポリフッ化ビニリデン)とを80:10:10重量%の割合で混合し、N−メチル−2−ピロリジノンに投入混合して、スラリー状の溶液を作製した。該スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔にドクターブレード法で塗布し、乾燥した。合剤塗布量は、225g/mであった。合剤カサ密度が2.5g/cmになるようにプレスし、40mm×60mmに切断し、集電用タブとして4mm×40mm×0.1mmのアルミタブを超音波溶接により接合し、正極を作製した。
【0047】
〈Li負極〉:厚さ0.5mmのリチウム金属フォイル(本城金属(株)製)から40×60mmを切り出し、集電用タブとして4×40×0.1mmのニッケルタブを超音波溶接により接合し、負極を作製した。
【0048】
2.電池の作製例
40mm×60mmの前記正極Mnと前記負極との間に45mm×65mm×0.3mmの電解質を挟み込み、さらにその外側を55mm×75mmの2枚のアルミラミネートフィルム(大日本印刷株式会社製、)で挟み込み、四方の端部5mmをヒートシールすることにより電池を作製した(図1)。
【0049】
3.評価方法
〈屈曲状態での充放電試験〉:電池をステンレス丸棒(Φ3.0mm×300mm及びΦ5.0mm×300mm)の側面に沿って180度折り曲げた(図2)。その状態で充放電器(東洋システム社製TOSCAT3100)を用い、60℃において電流密度0.4mA/cmで充放電を行った。4.3Vまで定電流充電を行い、電圧が4.3Vに達した後、12時間定電圧充電を行った。さらに放電終止電圧3.0Vに至るまで定電流放電を行った。最初の充電で得られた容量を、充電容量とした。また、最初の放電で得られた容量を、放電容量とした。上記条件での充電・放電を1サイクルとして、初回放電容量の50%以下に放電容量が至った時点の回数をサイクル数(回)とした。サイクル数は最大100回まで評価を行った。
【0050】
(実施例1)
アルゴン置換したグローブボックス内で、エチレンオキシドの平均付加モル数23,000のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)0.1gにアセトニトリル2.5gを加え、均一になるまで撹拌した。次いで、製造例1で作製した重合性含ホウ素化合物A1.5gと製造例7で作製した高分子化合物a8.5gを加え、均一になるまで撹拌した後、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(3M社製、商品名フロラードL−13858、LiBETIと記載)2.5gを加え、溶解するまで撹拌した。次いで、重合開始剤としてアゾイソブチロニトリル0.05gを加え、溶解するまで撹拌して高分子電解質前躯体1を得た。得られた高分子電解質前躯体をPETフィルム上に塗布し、40℃で1.5時間加熱した後、100℃で2時間重合反応を行い高分子電解質1を得た。次に、図1に示すように、既述の方法により作製したMn系正極およびLi負極を高分子電解質1を介して対向させ電池を作製した。得られた電池の屈曲充放電試験を60℃で行ったところ、用いた高分子電解質1が本発明の範囲を満たすため、高い充放電容量とサイクル数を示した。充放電試験の結果を表3に示した。なお、表3のポリエチレンオキシドの配合割合とは、(式(3)で示される高分子化合物の重合体の質量)/(式(1)で示される重合性含ホウ素化合物の重合体の質量+式(2)で示される高分子化合物の質量)×100である。
【0051】
(実施例2)
実施例1のエチレンオキシドの平均付加モル数23,000のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)の質量を0.1gから0.3gに変更した以外は、実施例1と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質2が本発明の範囲を満たすため、高い充放電容量とサイクル数を示した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0052】
(実施例3)
実施例1のエチレンオキシドの平均付加モル数23,000のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)の質量を0.1gから0.5gに変更した以外は、実施例1と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質3が本発明の範囲を満たすため、高い充放電容量とサイクル数を示した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0053】
(実施例4)
実施例1のエチレンオキシドの平均付加モル数23,000のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)の質量を0.1gから0.8gに変更した以外は、実施例1と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質4が本発明の範囲を満たすため、高い充放電容量とサイクル数を示した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0054】
(実施例5)
実施例1のエチレンオキシドの平均付加モル数23,000のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)0.1gを平均付加モル数2,300のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)0.3gに変更した以外は、実施例1と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質5が本発明の範囲を満たすため、高い充放電容量とサイクル数を示した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0055】
(実施例6)
実施例1のエチレンオキシドの平均付加モル数23,000のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)0.1gを平均付加モル数9,100のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)0.3gに変更した以外は、実施例1と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質6が本発明の範囲を満たすため、高い充放電容量とサイクル数を示した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0056】
(実施例7)
実施例1のエチレンオキシドの平均付加モル数23,000のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)0.1gを平均付加モル数91,000のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)0.3gに変更した以外は、実施例1と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質7が本発明の範囲を満たすため、高い充放電容量とサイクル数を示した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0057】
(実施例8)
実施例1のエチレンオキシドの平均付加モル数23,000のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)0.1gを平均付加モル数182,000のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)0.3gにした以外は、実施例1と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質8が本発明の範囲を満たすため、高い充放電容量とサイクル数を示した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0058】
(実施例9)
実施例1の重合性ホウ素化合物Aを製造例2で作製した重合性ホウ素化合物Bに、エチレンオキシドの平均付加モル数23,000のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)の質量を0.1gから0.3gにそれぞれ変更した以外は実施例1と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質9が本発明の範囲を満たすため、高い充放電容量とサイクル数を示した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0059】
(実施例10)
実施例9の重合性ホウ素化合物Bの替わりに製造例3で作製した重合性ホウ素化合物Cにした以外は実施例9と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質10が本発明の範囲を満たすため、高い充放電容量とサイクル数を示した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0060】
(実施例11)
実施例9の重合性ホウ素化合物Bの替わりに製造例4で作製した重合性ホウ素化合物Dにした以外は実施例9と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質11が本発明の範囲を満たすため、高い充放電容量とサイクル数を示した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0061】
(実施例12)
実施例9の重合性ホウ素化合物Bの替わりに製造例1で作製した重合性ホウ素化合物Aを用い、高分子化合物aの替わりに製造例8で作製した高分子化合物bを用いた以外は実施例9と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質12が本発明の範囲を満たすため、高い充放電容量とサイクル数を示した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0062】
(実施例13)
実施例9の重合性ホウ素化合物Bの替わりに製造例1で作製した重合性ホウ素化合物Aを用い、高分子化合物aの替わりに製造例9で作製した高分子化合物cを用いた以外は実施例9と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質13が本発明の範囲を満たすため、高い充放電容量とサイクル数を示した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0063】
(比較例1)
実施例1のエチレンオキシドの平均付加モル数23,000のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)の質量を0.1gから2.0gに変更した以外は、実施例1と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質14が本発明の範囲から外れるため、放電容量とそのサイクル数が悪化した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0064】
(比較例2)
比較例1のエチレンオキシドの平均付加モル数23,000のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)2.0gを平均付加モル数450のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)0.3gに変更した以外は、比較例1と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質15が本発明の範囲から外れるため、放電容量とそのサイクル数が悪化した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0065】
(比較例3)
実施例2の重合性ホウ素化合物Aの替わりに製造例5で作製した重合性ホウ素化合物Eにした以外は実施例2と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質16が本発明の範囲から外れるため、放電容量とそのサイクル数が悪化した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0066】
(比較例4)
実施例2の重合性ホウ素化合物Aの替わりに製造例6で作製した重合性ホウ素化合物Fにした以外は実施例2と同様に電池を作製し充放電試験を行った。充放電試験の結果、用いた高分子電解質17が本発明の範囲から外れるため、放電容量とそのサイクル数が悪化した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0067】
(比較例5)
アルゴン置換したグローブボックス内で、エチレンオキシドの平均付加モル数23,000のポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製)1.0gにアセトニトリル25gを加え、均一になるまで撹拌した。次いで、製造例10で作製した重合性含ホウ素化合物dを1.0g加え、均一になるまで撹拌した後、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(3M社製、商品名フロラードL−13858、LiBETIと記載)0.5gを加え、溶解するまで撹拌した。得られた高分子電解質前躯体をPETフィルム上に塗布し、40℃で1.5時間、ついで80℃で2時間加熱を行い高分子電解質18を得た。次に、図1に示すように、既述の方法により作製したMn系正極およびLi負極を高分子電解質18を介して対向させ電池を作製した。得られた電池の充放電試験を60℃で行ったところ、用いた高分子電解質18が本発明の範囲から外れるため、放電容量とそのサイクル数が悪化した。充放電試験の結果を表3に示した。
【0068】
(比較例6)
比較例5の高分子化合物dの替わりにエチレンカーボネート(富山化学工業(株)製)にした以外は比較例5と同様に電池を作製し充放電試験を行った。得られた電池の充放電試験を60℃で行ったところ、用いた高分子電解質19が本発明の範囲から外れるため、放電容量とそのサイクル数が悪化した。充放電試験の結果を表3に示した。
表3から明らかなように、本発明によれば、高温環境下での安全性や信頼性が良好な電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質と、それを用いた高出力の二次電池を提供することができる

【0069】
【表3】

【0070】
※注 比較例5において、高分子化合物dとエチレンオキシドの平均付加モル数23,000のポリエチレンオキシドの質量比は1:1である。
比較例6において、ECとエチレンオキシドの平均付加モル数23,000のポリエチレンオキシドの質量比は1:1である。
ECとは、エチレンカーボネートの略である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例で用いた試験用電池の構造を示す模式斜視図である。
【0072】
【図2】実施例、比較例で行った屈曲試験を示す模式斜視図である。
【符号の説明】
【0073】
1・・・正極、2・・・負極、3・・・正極アルミ端子、4・・・負極ニッケル端子、5・・・アルミラミネートフィルム
【0074】
6・・・金属棒、7・・・アルミラミネートフィルム、8・・・負極ニッケル端子、9・・・正極アルミ端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される重合性含ホウ素化合物の重合体、式(2)で示される高分子化合物及び式(3)で示される高分子化合物を下記の割合で含む電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質。
【化1】

(Bがホウ素原子、Z、Z、Zが不飽和二重結合を有する重合性官能基であり、AOは炭素数2〜6のオキシアルキレン基の1種または2種以上からなり、h、i、jがオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1〜10である。)
O(AO) ・・・・・・・・・・(2)
(R、Rが炭素数1〜10の炭化水素基であり、AOが炭素数2〜6のオキシアルキレン基の1種または2種以上からなり、kがオキシアルキレン基の平均付加モル数で、4〜20である。)
HO(AO)H ・・・・・・・・・・(3)
(AOが炭素数2〜6のオキシアルキレン基の1種または2種以上からなり、lがオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1000〜200,000である。)
(式(1)で示される重合性含ホウ素化合物の重合体の質量)/(式(2)で示される高分子化合物の質量)=5/95〜80/20の範囲であり、かつ(式(3)で示される高分子化合物の重合体の質量)/(式(1)で示される重合性含ホウ素化合物の重合体の質量+式(2)で示される高分子化合物の質量)=0.01/100〜10/100の範囲である。
【請求項2】
式(1)で示される重合性含ホウ素化合物のh、i、およびjが、1〜3である請求項1に記載の電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質。
【請求項3】
式(2)で示される高分子化合物のエーテル化率が95%以上である請求項1または2に記載の電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質。
【請求項4】
(式(3)で示される高分子化合物の重合体の質量)/(式(1)で示される重合性含ホウ素化合物の重合体の質量+式(2)で示される高分子化合物の質量)=0.01/100〜7/100の範囲である請求項1〜3に記載の電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質と電解質塩を含む電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質。
【請求項6】
カチオンを放出および吸蔵する正極活物質を含む正極と、該正極から放出されたカチオンを吸蔵および放出する負極活物質を含む負極、あるいはリチウム金属やリチウム合金からなる負極と、該正極および該負極の間に介在して該カチオンを移動させる電解質層とを有し、前記電解質層が請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気化学デバイス用イオン伝導性高分子電解質であることを特徴とする二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−277276(P2008−277276A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80213(P2008−80213)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】