説明

イオン拡散防止膜の製造方法、イオン拡散防止膜付基材および液晶表示セル

【課題】ガラス基材との密着性、膜の耐熱性、膜の脱ガス特性、膜強度等に優れるとともにイオン拡散防止性能に優れたイオン拡散防止膜を提供する。
【解決手段】(a)下記一般式(I)等で示される有機珪素化合物をテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られるケイ素化合物を含む塗布液を調製する工程、(b)前記塗布液をガラス基材上に塗布する工程、(c)塗布膜を25〜350℃の温度で乾燥処理する工程、(d)水蒸気の存在下、塗布膜を105〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程(水熱処理工程)、からなるイオン拡散防止膜の製造方法。XnSi(OR)4-n・・・・(I)(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基等を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基材との密着性、膜の耐熱性、膜の脱ガス特性、膜強度等に優れるとともにイオン拡散防止性能に優れたイオン拡散防止膜の製造方法、ガラス基材上に該イオン拡散防止膜の製造方法によって製造されたイオン拡散防止膜を有するイオン拡散防止膜付基材および該イオン拡散防止膜付基材を有する液晶表示セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガラス基材の表面にITOなどの透明電極膜、絶縁膜(透明イオンゲッター膜)、ポリイミドなどの高分子からなる配向膜が順次積層されている一対の透明電極付基材を、それぞれの透明電極膜同士が対向するようにスペーサを介して対向させ、このスペーサによって所定の間隔に開けられた隙間に液晶を封入した液晶表示セルが知られている。
【0003】
しかしながら、ソーダライムガラス基材等のアルカリを含むガラス基材の場合、アルカリイオンが拡散して表示不良や信頼性低下、特にTFT型液晶表示セル装置においては、アルカリイオンが拡散して、TFTの半導体層の電圧特性が変わり動作不良を引き起こす等の問題があった。
【0004】
このため、例えば、TFT型液晶表示セル装置においては高電圧保持率特性を持たせるために、セルを構成する材料に起因するイオンを低減する対策がとられている。
また、ガラス基材と透明電極膜との間にアルカリパッシベーション膜を設けることも知られている(特開2000−169766号公報、特許文献1)。
【0005】
従来のアルカリパッシベーション膜は主にアクリル系樹脂、ポリエステル樹脂などの有機樹脂からなる膜、SiO2、Si34などの無機系被膜、有機・無機複合系のアルキルト
リヒドロキシシランの重合物などからなる膜が用いられている。
【0006】
また、特開平9−235514号公報(特許文献2)には、特定のアルコキシシラン化合物の加水分解生成物と多価アルコールのエーテル誘導体とケトールとを含むシリカ系被膜形成用塗布液が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−169766号公報
【特許文献2】特開平9−235514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のアルカリパッシベーション膜では、長期にわたって使用すると水分を徐々に吸着する傾向が認められ、これに対応してアルカリパッシベーション効果が低下する場合があり、液晶表示装置に用いた場合に表示ムラが発生することがあった。また、このなかで、リン酸等の触媒の存在下でアルコキシシラン化合物とカルボン酸または水とを有機溶媒中で加水分解することが開示されているが、塗布液が酸性であるためか、塗布時にソーダライムガラスのアルカリ成分を抽出し、イオン拡散防止膜表面にアルカリが移動し、特にTFT型液晶表示セル装置においては動作不良を引き起こすことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点に鑑み、鋭意検討した結果、特定の加水分解性有機ケイ素化合物をテトラア
ルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られるケイ素化合物を含む塗布液を用いて形成した被膜を水熱処理すると、ソーダライムガラス基材中のアルカリイオンの拡散を抑制することを見出して本発明を完成するに至った。
【0010】
[1]下記の工程(a)〜(d)からなることを特徴とするイオン拡散防止膜の製造方法

(a)下記一般式(I)および/または下記一般式(II)で示される有機珪素化合物をテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られるケイ素化合物を含むイオン拡散防止膜形成用塗布液を調製する工程
nSi(OR)4-n (I)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。また、nは0〜3の整数である。)
【0011】
【化1】

(式中、R1はメチレン基、エチレン基またはプロピレン基を表し、R2〜R7は同一でも
異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。)
(b)イオン拡散防止膜形成用塗布液をガラス基材上に塗布する工程
(c)塗布膜を25〜350℃の温度で乾燥処理する工程(乾燥工程)
(d)水蒸気の存在下、塗布膜を105〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程(水熱処理工程)
【0012】
[2]前記有機珪素化合物が、前記一般式(I)のn=0の有機珪素化合物(テトラアル
キルオルソシリケート(TAOS))から選ばれる1種以上と、前記一般式(I)のn=1〜3の有機珪素化合物(アルコキシシラン(AS))から選ばれる1種以上との混合物である[1]のイオン拡散防止膜形成用塗布液の製造方法。
【0013】
[3]前記工程(d)の後に、
(e)不活性ガスの存在下、塗布膜を350〜450℃の温度条件下で焼成する工程(焼成工程)を行う[1]のイオン拡散防止膜形成用塗布液の製造方法。
【0014】
[4]工程(a)で使用されるテトラアルキルオルソシリケート(TAOS)のモル数(
TAOS)と前記アルコキシシラン(AS)のモル数(MAS)とのモル比(MTAOS)/(MAS)が0.25〜1.5の範囲にある[2]のイオン拡散防止膜の製造方法。
【0015】
[5]前記工程(a)において、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TA
AOH)のモル数(MT)と有機ケイ素化合物の合計モル数(MS)とのモル比(MT)/
(MS)が0.1〜0.7の範囲にある[2]〜[4]のイオン拡散防止膜の製造方法。
【0016】
[6][1]〜[5]の方法で得られてなり、膜厚が100〜2,500nmの範囲にあるイオ
ン拡散防止膜の製造方法。
【0017】
[7]さらに、平均細孔径が1.0〜3.0nmの範囲にあり、アルカリ含有量が50p
pm以下である[6]のイオン拡散防止膜。
【0018】
[8]ガラス基材と、該ガラス基材上形成されたイオン拡散防止膜とからなるイオン拡散
防止膜付基材であって、イオン拡散防止膜が[1]〜[5]の方法で得られたものであることを特徴とするイオン拡散防止膜付基材。
【0019】
[9]前記イオン拡散防止膜の膜厚が100〜2,500nmの範囲にある[8]のイオン拡散防止膜付基材。
【0020】
[10]前記イオン拡散防止膜の平均細孔径が1.0〜3.0nmの範囲にあり、アルカリ含有量が50ppb以下である[8]のイオン拡散防止膜付基材。
【0021】
[11]少なくとも一方のガラス基材の表面にはイオン拡散防止膜、透明電極膜、透明絶縁膜(イオンゲッター膜)および配向膜が順次積層されてなる一対の透明電極付基材が、それぞれの透明電極同士が対向するように所定の間隔をあけて配置され、この一対の透明電極付基材の間にあけられた間隙に液晶が封入されている液晶表示セルにおいて、イオン拡散防止膜が、[1]〜[5]のイオン拡散防止膜の製造方法によって形成されてなることを特徴とする液晶表示セル。
【0022】
[12]少なくとも一方のガラス基材の表面にはイオン拡散防止膜、カラーフィルター、透明絶縁膜(イオンゲッター膜)、透明電極膜および配向膜が順次積層されてなる一対の透明電極付基材が、それぞれの透明電極同士が対向するように所定の間隔をあけて配置され、この一対の透明電極付基材の間にあけられた間隙に液晶が封入されている液晶表示セルにおいて、イオン拡散防止膜が、[1]〜[5]のイオン拡散防止膜の製造方法によって形成されてなることを特徴とするイオン拡散防止膜であることを特徴とする液晶表示セル。
【0023】
[13]少なくとも一方のガラス基材の表面にはイオン拡散防止膜、TFTアレイ(TFT素子、データ電極)、透明絶縁膜(イオンゲッター膜)、透明電極膜および配向膜が順次積層されてなる一対の透明電極付基材が、それぞれの透明電極同士が対向するように所定の間隔をあけて配置され、この一対の透明電極付基材の間にあけられた間隙に液晶が封入されている液晶表示セルにおいて、イオン拡散防止膜が、[1]〜[5]のイオン拡散防止膜の製造方法によって形成によって形成されてなることを特徴とする液晶表示セル。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、イオン拡散防止膜が所定のイオン拡散防止膜形成用塗布液をガラス基材上に塗布し、所定の乾燥工程、水熱処理工程を経ているので、基材からのアルカリイオンの拡散を防止することができ、液晶表示セルに用いた場合に、TFTの半導体層の電圧特性が変わり動作不良を防止することができ、また、液晶中の可動イオン量を増加させることがない。このため、低消費電力で表示ムラがなく、表示品位等に優れた液晶表示セルを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、先ず、本発明に係るイオン拡散防止膜の製造方法について説明する。
イオン拡散防止膜の製造方法
本発明に係るイオン拡散防止膜の製造方法は、下記の工程(a)〜(d)からなることを特徴としている。
(b)イオン拡散防止膜形成用塗布液をガラス基材上に塗布する工程
(c)塗布膜を25〜350℃の温度で乾燥処理する工程(乾燥工程)
(d)水蒸気の存在下、塗布膜を105〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程(水熱処理工程)
【0026】
イオン拡散防止膜形成用塗布液を調製する工程(工程(a))
まず、下記一般式(I)および/または下記一般式(II)で示される有機珪素化合物をテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られるケイ素化合物を含むイオン拡散防止膜形成用塗布液を調製する。
nSi(OR)4-n (I)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。また、nは0〜3の整数である。)
【0027】
【化3】

(式中、R1はメチレン基、エチレン基またはプロピレン基を表し、R2〜R7は同一でも
異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。)
【0028】
式(I)で表される有機珪素化合物としては、
テトラメチルオルソシリケート、テトラエチルオルソシリケート、テトラプロピルオルソシリケート、テトライソプロピルオルソシリケート、テトラブチルオルソシリケートなどのテトラアルキルオルソシリケート(TAOS)、
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、ジフルオロジメトキシシラン、ジフルオロジエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシランなどアルコキシシラン(AS)が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)またはその混合物を使用使用して得られるイオン拡散防止膜は熱的安定性に優れているので好ましい。
【0030】
また、上記一般式(II)で示されるビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)
としては、このようなビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)としてはビス(
トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリプロポキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリプロポキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)プロパン、ビス(トリエトキシシリル)プロパン、ビス(トリプロポキシシリル)プロパンなどが挙げられる。この中でも、ビス(トリアルコキシシリル)アルカン(BTASA)は、ビス(トリ
メトキシシリル)メタン(BTMSM)、ビス(トリエトキシシリル)メタン(BTESM)、ビス(トリメトキシシリル)エタン(BTMSE)、ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTESE)またはその混合物を使用することが好ましい。
【0031】
本発明では、前記有機珪素化合物が、前記一般式(I)のn=0の有機珪素化合物(テ
トラアルキルオルソシリケート(TAOS))から選ばれる1種以上と、前記一般式(I)のn=1〜3の有機珪素化合物(アルコキシシラン(AS))から選ばれる1種以上との混合物であることが好ましい。
【0032】
工程(a)で使用されるテトラアルキルオルソシリケート(TAOS)のモル数(MTAOS)と前記アルコキシシラン(AS)のモル数(MAS)とのモル比(MTAOS)/(MAS)が0.25〜1.5、さらには0.4〜1の範囲にあることが好ましい。
モル比(MTAOS)/(MAS)が小さすぎると、細孔径が大きくなり、膜のイオン拡散防止性能が不充分となることがある。モル比(MTAOS)/(MAS)が大きすぎると、膜の親水性、あるいは水分吸着量が増加するためか、膜のイオン拡散防止性能が不充分となることがある。
【0033】
有機ケイ素化合物の使用量は、最終的に得られるイオン拡散防止膜形成用塗布液中の有機ケイ素化合物の加水分解物濃度が、固形分として2〜20重量%、好ましくは3〜15重量%の範囲となるように調整することが好ましい。
【0034】
加水分解物濃度が低すぎると、膜厚が薄くなりすぎたり、ピンホールができることがあり、膜のイオン拡散防止性能が不充分となることがある。加水分解物濃度が固形分として20重量%を越えると、膜厚が厚くなりすぎたり、クラックが発生することがあり、膜のイオン拡散防止性能が不充分となることがある。
【0035】
また、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)としては、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラn−オクチルアンモニウムハイドロオキサイド、n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド、n−オクタデシルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイドなどが挙げられる。この中でも、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド(TPAOH)、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド(TBAOH)またはその混合物を使用することが好ましい。
【0036】
TAAOHは、有機ケイ素化合物の加水分解触媒として機能する。従来、水酸化アルカリ金属化合物や、酸触媒が使用されていたが、これらでは、ミクロ孔を有するゼオライト様となるという問題点がある。
【0037】
通常、一般的な用途のために市販されているテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)中には、不純物としてナトリウム(Na)、カリウム(K)などのアルカリ金属元素の化合物、および臭素(Br)、塩素(Cl)などのハロゲン族元素の化合物がそれぞれ元素基準で数100重量ppm〜数重量%のレベルで含有されていることが知られている。しかしながら、ナトリウム(Na)やカリウム(K)などのアルカリ金属元素の化合物からなる不純物がそれぞれ元素基準で50重量ppbより多く含まれると、TFT型液晶表示セル装置においては、アルカリイオンが拡散して、TFTの半導体層の電圧特性が変わり動作不良を引き起こす場合がある。
【0038】
また、臭素(Br)や塩素(Cl)などのハロゲン元素の化合物からなる不純物がそれぞれ元素基準で1重量ppmより多く含まれると、塗布時にソーダライムガラスのアルカリ成分を抽出し、イオン拡散防止膜に拡散し、特にTFT型液晶表示セル装置においては、アルカリイオンが拡散して、TFTの動作不良を引き起こすことがあった。
【0039】
さらに、本発明者らは、これらのアルカリ金属元素化合物の不純物が50重量ppbより多く含まれると、テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)および前記一般式(I
)で示されるアルコキシシラン(AS)をテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解する際に、この不純物が触媒として作用し、結果として得られるケイ素化合物がゼオライト状の結晶性シリカとなることを見出した。その結果、ガラス基材上に形成されるイオン拡散防止膜がミクロ孔を有するゼオライト結晶質となるため、充分なイオン拡散防止性能が得られないことが分かった。
【0040】
したがって、上記のような性状を有する市販のテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)を使用する場合には、その中に含まれる前記不純物をあらかじめ上記レベルまで取り除いておく必要がある。すなわち、本発明方法で使用されるテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)は、市販のテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドを陽イオン交換樹脂処理工程および陰イオン交換樹脂処理工程に供することにより、その中に含まれるナトリウム(Na)、カリウム(K)などのアルカリ金属元素の化合物および臭素(Br)、塩素(Cl)などのハロゲン族元素の化合物からなる不純物を実質的に除去して高純度化することが好ましい。
【0041】
工程(a)で使用されるテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)のモル数(MT)と有機ケイ素化合物の合計のモル数(MS)とのモル比(MT)/(MS)が0.1〜0.7、さらには0.1〜0.6の範囲にあることが好ましい。
【0042】
モル比(MT)/(MS)が小さいと、加水分解が不充分になるためか、このような加水分解物を含む塗布液を用いてイオン拡散防止膜を形成するとクラックガ発生し、イオン拡散防止性能が不充分となることがある。モル比(MT)/(MS)が大きすぎると、イオン拡散防止膜が多孔質になり、膜強度が不充分となるとともにイオン拡散防止性能が不充分となることがある。
【0043】
つぎに、本発明に用いるイオン拡散防止膜形成用塗布液は以下のようにして調製することができる。
(i)有機珪素化合物、好ましくは、テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)お
よび上記一般式(I)で示されるアルコキシシラン(AS)を有機溶媒と混合した後、概ね10〜30℃の温度でこれらの成分が十分に混合するまで100〜200rpmの速度で攪拌する。
【0044】
(ii)次に、(i)で調製した混合溶液と、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキ
サイド(TAAOH)の水溶液を5〜20分かけて混合し、概ね10〜30℃の温度で30〜90分間、100〜200rpmの速度で攪拌する。
【0045】
なお、上記(i)、(ii)のかわりに、テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)
をテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解または部分加水分解した後、アルコキシシラン(AS)またはその加水分解物もしくは部分加水分解物と混合することもできる。
【0046】
(iii)次いで、30〜80℃の温度に加熱した後、この温度に保ちながら1〜72時
間、100〜200rpmの速度で撹拌することにより、生成した有機ケイ素化合物の部分加水分解物を含むイオン拡散防止膜形成用塗布液を調製することができる。
【0047】
有機ケイ素化合物とテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)は、それぞれ前記したモル比となるように混合または添加して使用される。
使用される有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、炭化水素類などが挙げられ、より具体的には、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど
のケトン類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノプロピルエーテルなどのグリコールエーテル類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコールなどのグリコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル類、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタンなどの炭化水素類やトルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素類が挙げられる。この中でも、エタノールなどのアルコール類を使用することが好ましい。
【0048】
有機溶媒は、得られるイオン拡散防止膜形成用塗布液の上記成分の濃度(固形分濃度)が2〜20重量%、さらには3〜15重量%の範囲となるように用いることが好ましい。
イオン拡散防止膜形成用塗布液の固形分濃度が少ないと、膜厚が薄くなりすぎたり、ピンホールができることがあり、イオン拡散防止性能が不充分となることがある。固形分濃度が高すぎると、膜厚が厚くなりすぎたり、クラックが発生することがあり、イオン拡散防止性能が不充分となることがある。
【0049】
前記の混合有機溶媒と混合するテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)水溶液は、蒸留水または超純水中にテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)を5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%の割合で含んでいることが望ましい。このとき使用される水は、テトラアルキルオルソシリケート(TAOS)およびアルコキシシラン(AS)などの有機ケイ素化合物の加水分解反応を生起させるために使用されるので、その加水分解反応に必要な量を含むものでなければならない。したがって水の量は、有機ケイ素化合物中のSi-ORまたはSi-Xの当量以上含むことが望ましい。なお、この加水分解反応を促進させるための触媒としては、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)がその機能を有しているので、特別にその他の触媒(たとえば、アンモニア等)を外部から添加する必要はない。
【0050】
前記加水分解の条件としては、30〜80℃、好ましくは35〜60℃の温度で、攪拌しながら1〜72時間、好ましくは10〜48時間かけて行うことが望ましい。得られたイオン拡散防止膜形成用塗布液中に含まれるケイ素化合物(TAOSおよびASの加水分解物)の数平均分子量は、ポリスチレン換算で500〜1000,000、好ましくは1,000〜100,000の範囲にあることが望ましい。この数平均分子量が上記の範囲にあれば、優れた経時安定性と良好な塗工性を示すイオン拡散防止膜形成用塗布液を調製することができる。
【0051】
なお、本発明のイオン拡散防止膜形成用塗布液には、さらに必要に応じて5〜50nmの平均粒径を有するシリカ系微粒子、あるいは下記一般式(V)で示されるアルコキシシ
ランおよび下記一般式(VI)で示されるハロゲン化シランからなる群から選ばれる1種以上のケイ素化合物および/またはこれらの加水分解物と前記5〜50nmの平均粒径を有するシリカ系微粒子との反応物であるポリシロキサン(PS)微粒子を含ませることができる。
nSi(OR)4-n (V)
nSi(X')4-n (VI)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、X’はハロゲン原子を表す。また、nは0〜3の整数である。)
【0052】
シリカ系微粒子は、前記一般式(V)のアルコキシシランの一種以上を有機溶媒に混合
して、水およびアンモニアの存在下で加水分解・縮重合させることによって得ることができ、ポリシロキサン(PS)微粒子は、シリカ微粒子の表面に前記のアルコキシシランおよび/またはハロゲン化シランの加水分解物を反応させて得ることができる。(その詳細
については、特開平9−315812号公報などを参照。)
このようなシリカ系微粒子またはポリシロキサン(PS)微粒子の使用量は、得られるイオン拡散防止膜中に固形分として10〜80重量%、さらには20〜60重量%の範囲にあることが望ましい。シリカ系微粒子またはポリシロキサン(PS)微粒子を前記範囲で含んでいると、ソーダライムガラス基材との密着性、強度、クラックの生成抑制等に優れたイオン拡散防止膜を得ることができる。
【0053】
塗布工程(b)
次に工程(b)として、イオン拡散防止膜形成用塗布液をガラス基材上に塗布する。
ガラス基材としては、無アルカリガラス、ソーダライムガラス等のガラス基材が用いられる。液晶表示セルには、アルカリを実質的に含まない無アルカリガラスが用いられるが、高価であることから、アルカリ含有量は多いものの安価なソーダライムガラスを問題なく使用できるようにすることが望まれている。
【0054】
イオン拡散防止膜形成用塗布液をガラス基材上に塗布するが、塗布方法としてはディッピング法、スピナー法、スプレー法、ロールコーター法、フレキソ印刷、スリットコーター法等などの方法が挙げられる。本発明では、塗布膜厚の均一性の理由により、スピナー法とスリットコーター法が推奨される。
塗膜の厚さは特に制限されず、最終的に形成されるイオン拡散防止膜の厚さに応じて適宜選択される。
【0055】
乾燥工程(c)
形成した塗膜を、25〜350℃、さらに好ましくは40〜250℃で乾燥処理して乾燥する。
【0056】
乾燥方法としては、前記、有機溶媒、水を実質的に除去できれば特に制限はなく従来公知の方法を採用することができる。なお、乾燥時に乾燥ガス気流中で行うこともできる。
乾燥温度が低ければ、乾燥が不充分となり、さらには形成される膜の膜厚が不均一になることがある。乾燥温度が高すぎると、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の分解がおこり、有機溶媒、水と一緒に脱離するため、膜中に比較的大口径の
細孔や空隙を形成してしまうことがある。さらに、後述する加熱処理を行った際に、膜の収縮による緻密化が起きにくくなるため被膜強度が不充分となったり、イオン拡散防止性能が不充分となることがある。なお、乾燥には後述する水熱処理装置において使用するキャリアガス等のガスの供給を乾燥工程でも行うことが好ましい。
【0057】
水熱工程(d)
乾燥後の塗膜を、水蒸気の存在下、塗布膜を105〜450℃、好ましくは150〜350℃の温度条件下で水熱処理する。
【0058】
水熱処理装置としては、加熱下、水蒸気を供給し、水蒸気他の排気ガスを排気できる密閉系の装置を使用することが好ましい。
水熱処理温度が低いと、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の
分解あるいは脱離があまり進まないため、これが膜中に残り、液晶表示装置に使用した場合、イオン性不純分として消費電力の増大、表示ムラの原因になるなど悪影響することがある。
【0059】
水熱処理温度が450℃を越えると、有機珪素化合物に由来して残存するアルキル基、アルコキシ基が減少し、これに対応して膜に水分吸着が起こり、イオン拡散防止性能が不充分となる傾向がある。
【0060】
また、水熱処理時間は、温度によっても異なるが、1〜70分間、好ましくは10〜60分間かけて行うことが望ましい。
水蒸気としては、市販の水蒸気発生装置から得られる水蒸気を使用することができ、さらに詳しくはボイラーなどを用いて発生させた水蒸気(温度:約100℃)をそのまま用いる方法や、堀場エステック(株)製の液体材料気化装置(TLシリーズ)やリンテック(
株)製の水用気化器(VU-450)などを用いて発生させた水蒸気を窒素ガスなどのキャリア
ガスと混合して用いる方法などがある。
【0061】
水蒸気を供給することによって、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の脱離あるいは分解を促進でき、さらにはシリカを主成分とする膜の架橋を促進でき、強度に優れたイオン拡散防止膜を得ることができる。
本発明では、前記工程(d)についで、下記の焼成工程(e)を行うことが好ましい。
【0062】
焼成工程(e)
焼成工程(e)では、不活性(N2)ガスの存在下、塗膜を350〜450℃の温度条
件下で焼成する工程。この工程(e)では、前記工程(d)における水蒸気を含むガスを不活性ガスに切り替えて供給する。
【0063】
焼成温度が低ければ、焼成が不十分となり、シリカ系被膜形成成分の重合(前記ネットワークの形成)、あるいは緻密化が進みにくいので膜強度が不充分であったり、イオン拡散防止性能が不充分となることがある。焼成温度が高すぎると、有機珪素化合物に由来して残存するアルキル基、アルコキシ基の減少に対応して膜に水分吸着が起こり、これに対応してイオン拡散防止性能が不充分となる傾向がある。
【0064】
なお、焼成時間は、温度によっても異なるが、5〜90分間、好ましくは10〜60分間かけて行うことが望ましい。
不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、窒素等のガスが用いられるが、本発明では安価な窒素ガスが経済性の点から好ましい。
【0065】
なお、不活性ガス中には空気または酸素ガスを少量加えて用いることもでき、具体的には500〜10000容量ppm程度の酸素を含ませた不活性ガスを用いてもよい。
不活性ガス中に空気または酸素ガスを少量含んでいると、膜の架橋が進み、膜強度が向上する。さらにまた、膜の水分吸着が起きにくくなり、イオン拡散防止性を向上させることができる。
【0066】
このようにして基材上に形成されたイオン拡散防止膜の膜厚は、100〜2,500nm、さらには200〜1,500nmの範囲にあることが好ましい。
イオン拡散防止膜の膜厚が薄いと、イオン拡散防止性能が不充分となることがある。イオン拡散防止膜の膜厚が厚すぎると、クラックが発生することがあり、イオン拡散防止性能が不充分となることがある。
【0067】
また、イオン拡散防止膜中のアルカリ含有量は50ppb以下、さらには10ppb以下であることが好ましい。
イオン拡散防止膜中のアルカリ含有量が50ppbを越えると、特にTFT型液晶表示セル装置においては、アルカリイオンが拡散して、TFTの動作不良を引き起こすことがある。
【0068】
また、イオン拡散防止膜中のCl,Br等のアニオンの含有量は10ppm以下、さらには1ppm以下であることが好ましい。
イオン拡散防止膜中のアニオンの含有量が10ppmを越えると、基材ガラスからのア
ルカリイオンの拡散を促進することがあり、アルカリイオン拡散防止性能が不十分となることがある。
【0069】
アルカリ含有量の調整は、陽イオン、陰イオン交換樹脂によって除去する方法が好ましい。この分析は、原子吸光法によって測定される。
さらに、イオン拡散防止膜はヤング弾性率として3.0〜15GPa、さらには5.0
〜15GPaの膜強度を有していることが好ましい。強度が低ければ、イオン拡散防止膜
上に透明電極膜、透明絶縁膜(イオンゲッター膜)、配向膜等を設ける際に損傷することがある。強度が15GPaが高いものは、本発明の方法では得ることが困難である。なお
、膜強度は、ナノインデンテーション法により、MTS Systems Corp製:ナノインデ
ンターXPを用い、ヤング弾性率を測定した。
つぎに、本発明に係るイオン拡散防止膜付基材について説明する。
【0070】
イオン拡散防止膜付基材
本発明に係るイオン拡散防止膜付基材は、ガラス基材と、ガラス基材上に前記したイオン拡散防止膜の製造方法によって形成されたイオン拡散防止膜とからなることを特徴としている。
【0071】
基材としては前記したと同様のガラス基材が用いられる。
イオン拡散防止膜の膜厚は、100〜2,500nm、さらには200〜1,500nmの範囲にあることが好ましい。イオン拡散防止膜の膜厚が薄いと、イオン拡散防止性能が不充分となることがあり、イオン拡散防止膜の膜厚が厚いとクラックが発生することがあり、イオン拡散防止性能が不充分となることがある。
【0072】
また、イオン拡散防止膜中のアルカリ含有量はNa等として50ppb以下、さらには10ppb以下であることが好ましい。また、イオン拡散防止膜中のCl,Br等のアニオンの含有量は10ppm以下、さらには1ppm以下であることが好ましい。
【0073】
さらに、イオン拡散防止膜はヤング弾性率として3.0〜15GPa、さらには5.0
〜15GPaの膜強度を有していることが好ましい。
つぎに、本発明に係る液晶表示セルについて説明する。
【0074】
液晶表示セル
本発明に係る第1の液晶表示セルは、少なくとも一方のソーダライムガラス基材の表面にはイオン拡散防止膜、透明電極膜、透明絶縁膜(イオンゲッター膜)および配向膜が順次積層されてなる一対の透明電極付基材が、それぞれの透明電極同士が対向するように所定の間隔をあけて配置され、この一対の透明電極付基材の間にあけられた間隙に液晶が封入されている液晶表示セルにおいて、イオン拡散防止膜が、前記イオン拡散防止膜の製造方法によって形成されたイオン拡散防止膜であることを特徴としている。
【0075】
図1は、本発明に係る第1の液晶表示セルの一態様例を模式的に表す断面図である。この液晶表示セル1は、ソーダライムガラス基材11の表面にイオン拡散防止膜17、透明電極膜18、透明イオンゲッター膜13および配向膜14が順次積層されてなる一対の透明電極付基材2、2が、それぞれの透明電極膜18同士が対向するように複数のスペーサー粒子3により所定の間隔dを開けて配置され、この所定間隔dに開けられた透明電極付基材2間の隙間に液晶6が封入されて形成されている。
【0076】
当該イオン拡散防止膜17は、上記イオン拡散防止膜形成用塗布液をソーダライムガラス基材21の表面上に塗布することにより形成されたものである。従ってこの膜は、透明性および耐擦傷性に優れ、絶縁抵抗が高く、基材からのアルカリイオンの拡散を効果的に防
止することができる。
【0077】
本発明に係る別態様の液晶表示セルは、少なくとも一方の基材の表面にカラーフィルター、透明イオンゲッター膜、透明電極膜および配向膜が順次積層されてなる一対の透明電極付基材が、それぞれの透明電極同士が対向するように所定の間隔をあけて配置され、この一対の透明電極付基材の間にあけられた間隙に液晶が封入されている液晶表示セルである。
【0078】
図2は、本発明に係る第2の液晶表示セルの一態様例を模式的に表す概略図である。この図2にその特徴的部分が示されているカラー液晶表示装置1'は、ソーダライムガラス
基材21a上にイオン拡散防止膜21b、複数の画素電極21c、透明イオンゲッター膜21dおよび配向膜21eが順次積層された電極板21と、ガラス基材22a上にイオン拡散防止膜22b、カラーフィルター22c、透明イオンゲッター膜22d、透明電極22eおよび配向膜22fが順次積層された対向電極板22を有する液晶表示セル2'と、この液晶表示セルの両側に一対の偏光板3'、4'とを備えている。このうち、透明イオンゲッター膜21dおよび22dは、前記透明イオンゲッター膜形成用塗布液を塗布して形成された膜である。
【0079】
前記液晶表示セル2の電極板21と対向電極板22とは、それぞれのガラス基材21aおよび22aを外側にして、複数の画素電極21cのそれぞれと複数のカラーフィルターR、G、Bのそれぞれが対向するように配置されている。また、この電極板21と対向電極板22との間の隙間には液晶23が封入されている。
【0080】
さらに複数の画素電極21cのそれぞれと透明電極22eとの間には不図示の回路が形成され、この回路はカラー液晶表示装置1本体に接続されている。また、対向電極板22のパッシベーション膜22b上に形成されたカラーフィルター22cは、R(レッドフィルター)、G(グリーンフィルター)、B(ブルーフィルター)の複数のカラー要素からなり、各カラー要素が互いに隣接するように規則正しく配列され、これにより液晶表示装置1'本体から送られてくる表示信号により特定の画素電極21cと透明電極22eとの
間に形成された回路が作動し、表示信号に対応したカラー画像が対向電極板22の外側に配置された偏光板4を通して観察できるようになっている。
【0081】
本発明に係る第3の液晶表示セルは、少なくとも一方の基材の表面にはTFTアレイ、透明イオンゲッター膜、透明電極膜および配向膜が順次積層されてなる一対の透明電極付基材が、それぞれの透明電極同士が対向するように所定の間隔をあけて配置され、この一対の透明電極付基材の間にあけられた間隙に液晶が封入されている液晶表示セルである。
【0082】
図3は、本発明に係る第3の液晶表示セルの一態様例を模式的に表す概略断面図である。この液晶表示セル1"は、ソーダライムガラス基材31の表面に、イオン拡散防止膜38が形成され、さらにこの表面に絶縁膜36、TFTアレイ32が形成されている。そして、このTFTアレイ32表面に、透明イオンゲッター膜33、画素電極34および配向膜35が順次積層された透明絶縁性基材31と、表面に、イオン拡散防止膜38、ブラックマトリクス(遮蔽膜)42、カラーフィルター43、透明イオンゲッター膜44、対向電極45および配向膜46が順次積層された対向基材41とが、液晶層51とを挟んで配向膜35および46が対峙するように構成される。
【0083】
以上のような本発明に係る液晶表示セルは、特定の工程を経て得られたイオン拡散防止膜が形成されているので、基材からのアルカリイオンの拡散を防止することができ、液晶表示セルに用いた場合に、TFTの半導体層の電圧特性が変わり動作不良を防止することができ、また、液晶中の可動イオン量を増加させることがなく、このため、低消費電力で
表示ムラがなく、表示品位等に優れている。
【0084】
[実施例]
以下本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0085】
[実施例1]
イオン拡散防止膜形成用塗布液(1)の調製
テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドを40重量%含む水溶液1kg(TPAOH、ライオン(株)製)に、陽イオン交換樹脂の粉末300g(WK−40、三菱化学(株)製)を添加し、室温条件下、100rpmの速度で1時間撹拌した後、添加した陽イオン交換樹脂粉末を濾過して取り除いた。次に、陰イオン交換樹脂の粉末2100g(SAT−10、三菱化学(株)製)を添加し、室温条件下、100rpmの速度で1時間攪拌した後、添加した陰イオン交換樹脂粉末を濾過して取り除いた。
【0086】
得られたテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド(TPAOH)の水溶液に超純水
を加えて、10重量%の濃度に調整し、該水溶液中に不純物として含まれるナトリウム(Na)およびカリウム(K)のアルカリ金属元素の化合物、並びに臭素(Br)および塩素(Cl)のハロゲン族元素の化合物の量をそれぞれ原子吸光法(AAS法、(株)日立製作所製偏光ゼーマン原子吸光光度計Z-5710)およびイオンクロマト法(DIONEX製2020i)で測定した。
【0087】
さらに、上記のイオン交換処理を行う前の前記テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイドの水溶液(市販品)に超純水を加えて、10重量%の濃度に調整した後、同様にその中に含まれる不純物の含有量を測定した。
【0088】
その結果、イオン交換処理前の水溶液中に含まれていた不純物量が元素基準でナトリウム50重量ppm、カリウム2500重量ppm、臭素2250重量ppmおよび塩素13重量ppmであったのに対し、イオン交換処理後の水溶液中に含む不純物の含有量は、元素基準でナトリウム10重量ppb以下(検出限界)、カリウム10重量ppb(検出限界)、臭素1重量ppm以下および塩素1重量ppm以下であった。すなわち、本発明で求められる許容不純物レベルまで、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液(市販品)の高純度化を行うことができた。
【0089】
次に、テトラエチルオルソシリケート89.3g(TEOS、多摩化学工業(株)製)、メチルトリメトキシシラン56.8g(MTMS、信越化学工業(株)製)および99.5重量%濃度のエタノール260.7g(ETOH、和光純薬(株)製)を混合して、この混合溶液を20℃の温度に保持し、150rpmの速度で30分間撹拌した。
【0090】
この混合溶液に、高純度化された前記テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液593.2g(10重量%のTPAOHを含む)を10分かけて滴下し、さらに20℃
の温度で200rpmの速度で1時間撹拌した。その後、50℃の温度に加熱し、この温度条件下にて200rpmの速度で攪拌しながら20時間TEOS およびMTMSの加水分解を
行った。
【0091】
次いで、加水分解物を含む混合溶液中のエタノール(有機溶媒)を、ロータリーエバポレーター(柴田科学(株)製R-114)を用いてプロピレングリコールモノプロピルエーテ
ル(PGP、日本乳化剤(株)製)と溶媒置換する工程に供して、テトラエチルオルソシリ
ケート(TEOS)とメチルトリメトキシシラン(MTMS)の加水分解物からなるケイ素化合物と水分の濃度を調整し、前記ケイ素化合物をSiO2換算基準で12重量%含み、かつ水
分を1重量%含むイオン拡散防止膜形成用塗布液(1)416.73gを得た。
【0092】
得られたイオン拡散防止膜形成用塗布液中に含まれるケイ素化合物の数平均分子量を測定(液体クロマトグラフ法)したところ、ポリエチレンオキサイド換算基準で約15,0
00であった。
【0093】
イオン拡散防止膜付基材(1)の調製
前記イオン拡散防止膜形成用塗布液(1)を、ソーダライムガラス基材(旭硝子(株)製
:Na含有量13重量%)上にスピンコート法で塗布し、60℃で3分間乾燥した。その
後、加熱水蒸気中で250℃で30分間水熱処理し、ついで、窒素ガス雰囲気下、400℃で30分間焼成してイオン拡散防止膜付基材(1)を調製した。
【0094】
得られたイオン拡散防止膜付基材(1)について、膜厚、膜中のアルカリ含有量、アルカ
リイオン拡散防止性能、平均細孔径および膜強度を測定し、結果を表1に示す。なお、膜強度およびアルカリイオン拡散防止性能は以下の方法によって測定した。
【0095】
アルカリイオン拡散防止性能の評価
イオン拡散防止膜付基材(1)上に蒸留水10mlを滴下し、30℃で2時間放置したち
後、蒸留水を全量回収した。その回収した液中のアルカリイオン(ナトリウムイオン)をICP−MSにて定量し、結果を表1に示す。
【0096】
透明絶縁膜形成用塗布液(1)の調製
マトリックス形成成分としてエチルシリケート28(多摩化学工業社製:SiO2濃度 28.8重量%)14.6gを、純水 5gおよびエチルアルコール62.3gとの混合溶媒に添加し、これに濃度61%の硝酸0.1gを加えてエチルシリケートの部分加水分解物
(オリゴマー)溶液(分散液)を調製した。
【0097】
この溶液に、無機イオン吸着体微粒子として平均粒径200Åの五酸化アンチモン微粒子(Sb25・0.1H2O)をヘキシレングリコールに均一分散させた固形分濃度10重
量%の無機イオン吸着体微粒子ゾル1.0gを加えて24時間攪拌し、ついで、ヘキシレングリコール70g加えた後、減圧蒸留を行い固形分濃度6.0重量%の透明絶縁膜形成
用塗布液(1)を調製した。
【0098】
透明絶縁膜(1)の形成
パターニングされたITO表示電極つきソーダライムガラス基材(旭硝子(株)製:30Ω/□以下品)上にフレキソ印刷にて塗布液(A)を塗布し、得られた塗膜を90℃で5分間乾燥させた後、高圧水銀ランプで積算光量6,000mJ/cm2(365nm用センサにて測定)の条件で紫外線を照射し、次いで300℃で30分間焼成を行ない透明絶縁膜(1)を形成した。得られた透明絶縁膜(1)の膜厚を触針式表面粗さ計で測定したところ80nmであった。
【0099】
液晶表示セル(1)の作成
次に、透明絶縁膜(1)上にポリイミド膜形成用塗料(日産化学(株)製:サンエバー)
をフレキソ印刷で塗布し、100℃で5分間乾燥した後、240℃で30分間加熱処理してポリイミド膜を形成し、ついでラビング処理を行った。
【0100】
このようにして、ソーダライムガラス基材上にイオン拡散防止膜(1)、透明電極、透明
絶縁膜(1)およびラビング処理した配向膜が順次積層した一対の透明電極付き基材を得た

【0101】
得られた一対の透明電極付き基材のうち一方の基材には(2枚の基材間距離に相当する粒子径)のスペーサを散布し、もう一方の基材には(エポキシ樹脂樹脂とシリカ微粒子とからなる)シーリング用のシール材を印刷し、これらの基材を透明電極同士が互いに対向するように貼り合わせ、STN液晶を封入し、ついで封入口を封止材で封止して液晶表示セル(1)を作成した。
【0102】
液晶パネルの表示ムラの観察
また、液晶表示セル(1)を10枚を作成し、高温高湿の環境(相対湿度95%、温度8
0℃)に500時間曝した後に、各液晶パネルの点灯表示テストを実施し、この時の表示ムラの有無および表示性能について目視観察を行い、表示ムラの発生しなかったパネルの枚数を表1に示す。
【0103】
[実施例2]
イオン拡散防止膜付基材(2)の調製
実施例1において、加熱水蒸気中、150℃で30分間水熱処理した以外は同様にしてイオン拡散防止膜付基材(2)を調製した。
【0104】
得られたイオン拡散防止膜付基材(2)について膜厚、膜中のアルカリ含有量、アルカリ
イオン拡散防止性能、平均細孔径および膜強度を測定し、結果を表1に示す。
【0105】
液晶表示セル(2)の作成
実施例1において、イオン拡散防止膜付基材(2)を用いた以外は同様にして液晶表示セ
ル(2)を作成した。得られた、液晶表示セル(2)について表示ムラの有無および表示性能について目視観察を行い、結果を表1に示す。
【0106】
[実施例3]
イオン拡散防止膜付基材(3)の調製
実施例1において、加熱水蒸気中、350℃で30分間水熱処理した以外は同様にしてイオン拡散防止膜付基材(3)を調製した。得られたイオン拡散防止膜付基材(3)について膜厚、膜中のアルカリ含有量、アルカリイオン拡散防止性能、平均細孔径および膜強度を測定し、結果を表1に示す。
【0107】
液晶表示セル(3)の作成
実施例1において、イオン拡散防止膜付基材(3)を用いた以外は同様にして液晶表示セ
ル(3)を作成した。
得られた、液晶表示セル(3)について表示ムラの有無および表示性能について目視観察を
行い、結果を表1に示す。
【0108】
[実施例4]
イオン拡散防止膜形成用塗布液(4)の調製
実施例1において、テトラエチルオルソシリケート89.3g、メチルトリメトキシシラン190.7gおよび99.5重量%濃度のエタノール260.7gを混合した以外は同様にしてケイ素化合物をSiO2換算基準で12重量%含み、かつ水分を1重量%含む
イオン拡散防止膜形成用塗布液900.0gを得た。
【0109】
得られたイオン拡散防止膜形成用塗布液(4)中に含まれるケイ素化合物の数平均分子量
を測定(液体クロマトグラフ法)したところ、ポリエチレンオキサイド換算基準で約10,000であった。
【0110】
イオン拡散防止膜付基材(4)の調製
実施例1において、イオン拡散防止膜形成用塗布液(4)を用いた以外は同様にしてイオ
ン拡散防止膜付基材(4)を調製した。得られたイオン拡散防止膜付基材(4)について膜厚、膜中のアルカリ含有量、アルカリイオン拡散防止性能、平均細孔径および膜強度を測定し、結果を表1に示す。
【0111】
液晶表示セル(4)の作成
実施例1において、イオン拡散防止膜付基材(4)を用いた以外は同様にして液晶表示セ
ル(4)を作成した。得られた、液晶表示セル(4)について表示ムラの有無および表示性能について目視観察を行い、結果を表1に示す。
【0112】
[実施例5]
イオン拡散防止膜形成用塗布液(5)の調製
実施例1において、テトラエチルオルソシリケート122.9g、メチルトリメトキシシラン56.8gおよび99.5重量%濃度のエタノール260.7gを混合した以外は同様にしてケイ素化合物をSiO2換算基準で12重量%含み、かつ水分を1重量%含む
イオン拡散防止膜形成用塗布液500gを得た。
【0113】
得られたイオン拡散防止膜形成用塗布液中に含まれるケイ素化合物の数平均分子量を測定(液体クロマトグラフ法)したところ、ポリエチレンオキサイド換算基準で約30,0
00であった。
【0114】
イオン拡散防止膜付基材(5)の調製
実施例1において、イオン拡散防止膜形成用塗布液(5)を用いた以外は同様にしてイオ
ン拡散防止膜付基材(5)を調製した。
得られたイオン拡散防止膜付基材(5)について膜厚、膜中のアルカリ含有量、アルカリ
イオン拡散防止性能、平均細孔径および膜強度を測定し、結果を表1に示す。
【0115】
液晶表示セル(5)の作成
実施例1において、イオン拡散防止膜付基材(5)を用いた以外は同様にして液晶表示セ
ル(5)を作成した。得られた、液晶表示セル(5)について表示ムラの有無および表示性能について目視観察を行い、結果を表1に示す。
【0116】
[実施例6]
イオン拡散防止膜形成用塗布液(6)の調製
実施例1において、高純度化されたテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液261.7g(10重量%のTPAOHを含む)を10分かけて滴下した以外は同様にし
て、ケイ素化合物をSiO2換算基準で12重量%含み、かつ水分を1重量%含むイオン
拡散防止膜形成用塗布液416.7gを得た。
【0117】
得られたイオン拡散防止膜形成用塗布液(6)中に含まれるケイ素化合物の数平均分子量
を測定(液体クロマトグラフ法)したところ、ポリエチレンオキサイド換算基準で約12,000であった。
【0118】
イオン拡散防止膜付基材(6)の調製
実施例1において、イオン拡散防止膜形成用塗布液(6)を用いた以外は同様にしてイオ
ン拡散防止膜付基材(6)を調製した。
得られたイオン拡散防止膜付基材(6)について膜厚、膜中のアルカリ含有量、アルカリ
イオン拡散防止性能、平均細孔径および膜強度を測定し、結果を表1に示す。
【0119】
液晶表示セル(6)の作成
実施例1において、イオン拡散防止膜付基材(6)を用いた以外は同様にして液晶表示セ
ル(6)を作成した。
得られた、液晶表示セル(6)について表示ムラの有無および表示性能について目視観察
を行い、結果を表1に示す。
【0120】
[実施例7]
イオン拡散防止膜形成用塗布液(7)の調製
実施例1において、高純度化されたテトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液1046.8g(10重量%のTPAOHを含む)を20分かけて滴下した以外は同様に
して、ケイ素化合物をSiO2換算基準で12重量%含み、かつ水分を1重量%含むイオ
ン拡散防止膜形成用塗布液416.7gを得た。
【0121】
得られたイオン拡散防止膜形成用塗布液(7)中に含まれるケイ素化合物の数平均分子量
を測定(液体クロマトグラフ法)したところ、ポリエチレンオキサイド換算基準で約50,000であった。
【0122】
イオン拡散防止膜付基材(7)の調製
実施例1において、イオン拡散防止膜形成用塗布液(7)を用いた以外は同様にしてイオ
ン拡散防止膜付基材(7)を調製した。
得られたイオン拡散防止膜付基材(7)について膜厚、膜中のアルカリ含有量、アルカリ
イオン拡散防止性能、平均細孔径および膜強度を測定し、結果を表1に示す。
【0123】
液晶表示セル(7)の作成
実施例1において、イオン拡散防止膜付基材(7)を用いた以外は同様にして液晶表示セ
ル(7)を作成した。得られた、液晶表示セル(7)について表示ムラの有無および表示性能について目視観察を行い、結果を表1に示す。
【0124】
[実施例8]
イオン拡散防止膜形成用塗布液(8)の調製
実施例1において、テトラメチルオルソシリケート65.4g(TMOS、多摩化学工業(株)製)、メチルトリエトキシシラン74.9g(MTES、信越化学工業(株)製)および99.5重量%濃度のエタノール260.7g(ETOH、和光純薬(株)製)を混合した以外は同様にしてケイ素化合物をSiO2換算基準で12重量%含み、かつ水分を1重量%含むイオン拡散防止膜形成用塗布液425.0gを得た。
【0125】
得られたイオン拡散防止膜形成用塗布液(8)中に含まれるケイ素化合物の数平均分子量
を測定(液体クロマトグラフ法)したところ、ポリエチレンオキサイド換算基準で約20,000であった。
【0126】
イオン拡散防止膜付基材(8)の調製
実施例1において、イオン拡散防止膜形成用塗布液(8)を用いた以外は同様にしてイオ
ン拡散防止膜付基材(8)を調製した。
得られたイオン拡散防止膜付基材(8)について膜厚、膜中のアルカリ含有量、アルカリ
イオン拡散防止性能、平均細孔径および膜強度を測定し、結果を表1に示す。
【0127】
液晶表示セル(8)の作成
実施例1において、イオン拡散防止膜付基材(8)を用いた以外は同様にして液晶表示セ
ル(8)を作成した。得られた、液晶表示セル(8)について表示ムラの有無および表示性能について目視観察を行い、結果を表1に示す。
【0128】
[実施例9]
イオン拡散防止膜形成用塗布液(9)の調製
ビス(トリエトキシシリル)エタン22.5g(BTESE、GELEST製)、メチルトリメト
キシシラン52.5g(MTMS、信越化学工業(株)製)および99.5重量%濃度のエタ
ノール147g(ETOH、和光純薬(株)製)を混合して、この混合溶液を20℃の温度に保持し、150rpmの速度で30分間撹拌した。
【0129】
この混合溶液に、調製例1で調製された前記高純度テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液417g(10重量%のTPAOHを含む)を10分かけて滴下し、さら
に20℃の温度で200rpmの速度で1時間撹拌した。その後、75℃の温度に加熱し、この温度条件下にて200rpmの速度で攪拌しながら20時間、前記のシリカ系被膜形成成分(BTESMおよびMTMS)の加水分解を行った。
【0130】
次いで、シリカ系被膜形成成分の加水分解物を含む混合溶液中のエタノール(有機溶媒)を、ロータリーエバポレーター(柴田科学(株)製R-114)を用いてプロピレングリコールモノプロピルエーテル(PGP、日本乳化剤(株)製)と溶媒置換する工程に供して、ビス(トリエトキシシリル)メタン(BTESM)とメチルトリメトキシシラン(MTMS)の加水分解物からなるケイ素化合物と水分の濃度を調整し、前記ケイ素化合物をSiO2換算基準で6重量%含み、かつ水分を0.5重量%含むイオン拡散防止膜形成用塗布液(9) 554gを調製した。
【0131】
イオン拡散防止膜形成用塗布液(9)中のケイ素化合物の数平均分子量を測定(液体クロ
マトグラフ法)したところ、ポリエチレンオキサイド換算基準で約21,000であった

【0132】
イオン拡散防止膜付基材(9)の調製
実施例1において、イオン拡散防止膜形成用塗布液(9)を用いた以外は同様にしてイオ
ン拡散防止膜付基材(9)を調製した。
得られたイオン拡散防止膜付基材(9)について膜厚、膜中のアルカリ含有量、アルカリ
イオン拡散防止性能、平均細孔径および膜強度を測定し、結果を表1に示す。
【0133】
液晶表示セル(9)の作成
1において、イオン拡散防止膜付基材(9)を用いた以外は同様にして液晶表示セル(9)を作成した。
得られた、液晶表示セル(9)について表示ムラの有無および表示性能について目視観察
を行い、結果を表1に示す。
【0134】
[実施例10]
イオン拡散防止膜形成用塗布液(10)の調製
ビス(トリエトキシシリル)エタン14g(BTESE、GELEST製)、メチルトリメトキシ
シラン21g(MTMS、信越化学工業(株)製)、テトラエチルオルソシリケート24g(TEOS、多摩化学工業(株)製)および99.5重量%濃度のエタノール98g(ETOH、和光純薬(株)製)を混合して、この混合溶液を20℃の温度に保持し、150rpmの速度で30分間撹拌した。
【0135】
この混合溶液に、調製例1で調製された前記高純度テトラプロピルアンモニウムハイド
ロオキサイド水溶液308g(10重量%のTPAOHを含む)を10分かけて滴下し、さら
に20℃の温度で200rpmの速度で1時間撹拌した。その後、75℃の温度に加熱し、この温度条件下にて200rpmの速度で攪拌しながら20時間、前記のシリカ系被膜形成成分(BTESE、MTMSおよびTEOS)の加水分解を行った。
【0136】
次いで、シリカ系被膜形成成分の加水分解物を含む混合溶液中のエタノール(有機溶媒)を、ロータリーエバポレーター(柴田科学(株)製R-114)を用いてプロピレングリコールモノプロピルエーテル500g(PGP、日本乳化剤(株)製)と溶媒置換する工程に供して、ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTESE)、メチルトリメトキシシラン(MTMS)およびテトラエチルオルソシリケート(TEOS)の加水分解物からなるケイ素化合物と水分の濃度を調整し、前記ケイ素化合物をSiO2換算基準で6重量%含み、かつ水分を4重量%含むイオン拡散防止膜形成用塗布液(10) 371gを調製した。
【0137】
イオン拡散防止膜形成用塗布液(10)中のケイ素化合物の数平均分子量を測定(液体クロマトグラフ法)したところ、ポリエチレンオキサイド換算基準で約17,000であった

【0138】
イオン拡散防止膜付基材(10)の調製
実施例1において、イオン拡散防止膜形成用塗布液(10)を用いた以外は同様にしてイオン拡散防止膜付基材(10)を調製した。
得られたイオン拡散防止膜付基材(10)について膜厚、膜中のアルカリ含有量、アルカリイオン拡散防止性能、平均細孔径および膜強度を測定し、結果を表1に示す。
【0139】
液晶表示セル(10)の作成
実施例1において、イオン拡散防止膜付基材(10)を用いた以外は同様にして液晶表示セル(10)を作成した。得られた、液晶表示セル(10)について表示ムラの有無および表示性能について目視観察を行い、結果を表1に示す。
【0140】
[比較例1]
イオン拡散防止膜形成用塗布液(R1)の調製
テトラエチルオルソシリケート89.3g(TEOS、多摩化学工業(株)製)、メチルトリメトキシシラン56.8g(MTMS、信越化学工業(株)製)および99.5重量%濃度のエタノール260.7g(ETOH、和光純薬(株)製)を混合して、この混合溶液を20℃の温度に保持し、150rpmの速度で30分間撹拌した。
【0141】
この混合溶液に、濃度10重量%のNH3水溶液49.3gを10分かけて滴下し、さ
らに20℃の温度で200rpmの速度で1時間撹拌した。その後、50℃の温度に加熱し、この温度条件下にて200rpmの速度で攪拌しながら20時間TEOS およびMTMSの
加水分解を行った。
【0142】
次いで、加水分解物を含む混合溶液中のエタノール(有機溶媒)を、ロータリーエバポレーター(柴田科学(株)製R-114)を用いてプロピレングリコールモノプロピルエーテ
ル(PGP、日本乳化剤(株)製)と溶媒置換する工程に供して、テトラエチルオルソシリ
ケート(TEOS)とメチルトリメトキシシラン(MTMS)の加水分解物からなるケイ素化合物と水分の濃度を調整し、前記ケイ素化合物をSiO2換算基準で12重量%含み、かつ水
分を1重量%含むイオン拡散防止膜形成用塗布液416.7gを得た。
【0143】
このようにして得られたイオン拡散防止膜形成用塗布液中に含まれるケイ素化合物の数平均分子量を測定(液体クロマトグラフ法)したところ、ポリエチレンオキサイド換算基準で約12,000であった。
【0144】
イオン拡散防止膜付基材(R1)の調製
実施例1において、イオン拡散防止膜形成用塗布液(R1)を用い、加熱水蒸気中で250℃で30分間水熱処理をしなかった以外は同様にしてイオン拡散防止膜付基材(R1)を調製した。
得られたイオン拡散防止膜付基材(R1)について膜厚、膜中のアルカリ含有量、アルカリイオン拡散防止性能、平均細孔径および膜強度を測定し、結果を表1に示す。
【0145】
液晶表示セル(R1)の作成
実施例1において、イオン拡散防止膜付基材(R1)を用いた以外は同様にして液晶表示セル(R1)を作成した。
得られた、液晶表示セル(R1)について表示ムラの有無および表示性能について目視観察を行い、結果を表1に示す。
【0146】
[比較例2]
イオン拡散防止膜付基材(R2)の調製
実施例1において、比較例1と同様にして調製したイオン拡散防止膜形成用塗布液(R1)を用いた以外は同様にしてイオン拡散防止膜付基材(R2)を調製した。
得られたイオン拡散防止膜付基材(R2)について膜厚、膜中のアルカリ含有量、アルカリイオン拡散防止性能、平均細孔径および膜強度を測定し、結果を表1に示す。
【0147】
液晶表示セル(R2)の作成
実施例1において、イオン拡散防止膜付基材(R2)を用いた以外は同様にして液晶表示セル(R2)を作成した。得られた、液晶表示セル(R2)について表示ムラの有無および表示性能について目視観察を行い、結果を表1に示す。
【0148】
[比較例3]
イオン拡散防止膜付基材(R3)の調製
実施例1において、加熱水蒸気中、100℃で30分間水熱処理した以外は同様にしてイオン拡散防止膜付基材(R3)を調製した。
得られたイオン拡散防止膜付基材(R3)について膜厚、膜中のアルカリ含有量、アルカリイオン拡散防止性能、平均細孔径および膜強度を測定し、結果を表1に示す。
【0149】
液晶表示セル(R3)の作成
実施例1において、イオン拡散防止膜付基材(R3)を用いた以外は同様にして液晶表示セル(R3)を作成した。
得られた、液晶表示セル(R3)について表示ムラの有無および表示性能について目視観察を行い、結果を表1に示す。
【0150】
[比較例4]
イオン拡散防止膜付基材(R4)の調製
実施例1において、加熱水蒸気中、500℃で30分間水熱処理した以外は同様にしてイオン拡散防止膜付基材(R4)を調製した。
得られたイオン拡散防止膜付基材(R4)について膜厚、膜中のアルカリ含有量、アルカリイオン拡散防止性能、平均細孔径および膜強度を測定し、結果を表1に示す。
【0151】
液晶表示セル(R4)の作成
実施例1において、イオン拡散防止膜付基材(R4)を用いた以外は同様にして液晶表示セル(R4)を作成した。
【0152】
得られた、液晶表示セル(R4)について表示ムラの有無および表示性能について目視観察を行い、結果を表1に示す。
【0153】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明に係る第1の液晶表示セルの一態様例の概略断面図を示す。
【図2】本発明に係る第2の液晶表示セルの一態様例の概略断面図を示す。
【図3】本発明に係る第3の液晶表示セルの一態様例の概略断面図を示す。
【符号の説明】
【0155】
1、1'、1"・・・液晶表示セル
2、2'・・・・・液晶表示セル
3、4・・・・・・偏光板
5・・・・・・・・スペーサ粒子
6・・・・・・・・液晶
11・・・・・・・ガラス基材
12・・・・・・・透明電極膜
13・・・・・・・透明イオンゲッター膜
14・・・・・・・配向膜
17・・・・・・イオン拡散防止膜
18・・・・・・透明電極膜
21・・・・・・・電極板
21a・・・・・・ガラス基材
21b・・・・・・イオン拡散防止膜
21c・・・・・・複数の画素電極
21d・・・・・・透明イオンゲッター膜
21e・・・・・・配向膜
22・・・・・・・対向電極板
22a・・・・・・ガラス基材
22b・・・・・・イオン拡散防止膜
22c・・・・・・カラーフィルター
22d・・・・・・透明イオンゲッター膜
22e・・・・・・透明電極
22f・・・・・・配向膜
23・・・・・・・液晶
31・・・・・・・透明絶縁性基材
32・・・・・・・TFTアレイ
33・・・・・・・透明イオンゲッター膜
34・・・・・・・画素電極
35・・・・・・・配向膜
36・・・・・・・絶縁膜
38・・・・・・・イオン拡散防止膜
41・・・・・・・対向基材
42・・・・・・・ブラックマトリクス(遮蔽膜)
43・・・・・・・カラーフィルター
44・・・・・・・透明イオンゲッター膜
45・・・・・・・対向電極
46・・・・・・・配向膜
51・・・・・・・液晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(a)〜(d)からなることを特徴とするイオン拡散防止膜の製造方法。
(a)下記一般式(I)および/または下記一般式(II)で示される有機珪素化合物をテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)の存在下で加水分解して得られるケイ素化合物を含むイオン拡散防止膜形成用塗布液を調製する工程
nSi(OR)4-n (I)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。また、nは0〜3の整数である。)
【化1】

(式中、R1はメチレン基、エチレン基またはプロピレン基を表し、R2〜R7は同一でも
異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜8のアルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基もしくはビニル基を表す。)
(b)イオン拡散防止膜形成用塗布液をガラス基材上に塗布する工程
(c)塗布膜を25〜350℃の温度で乾燥処理する工程(乾燥工程)
(d)水蒸気の存在下、塗布膜を105〜450℃の温度条件下で加熱処理する工程(水熱処理工程)
【請求項2】
前記有機珪素化合物が、前記一般式(I)のn=0の有機珪素化合物(テトラアルキルオルソシリケート(TAOS))から選ばれる1種以上と、前記一般式(I)のn=1〜3の有機珪素化合物(アルコキシシラン(AS))から選ばれる1種以上との混合物であることを特徴とする請求項1に記載のイオン拡散防止膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項3】
前記工程(d)の後に、
(e)不活性ガスの存在下、塗布膜を350〜450℃の温度条件下で焼成する工程(焼成工程)を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のイオン拡散防止膜形成用塗布液の製造方法
【請求項4】
工程(a)で使用されるテトラアルキルオルソシリケート(TAOS)のモル数(MTAOS)と前記アルコキシシラン(AS)のモル数(MAS)とのモル比(MTAOS)/(MAS)が0.25〜1.5の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のイオ
ン拡散防止膜の製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)において、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド(TAAOH)のモル数(MT)と有機ケイ素化合物の合計モル数(MS)とのモル比(MT)/(MS)が0.1〜0.7の範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のイオン拡散防止膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法で得られてなり、膜厚が100〜2,500nmの範囲にあるイオン拡散防止膜の製造方法。
【請求項7】
さらに、平均細孔径が1.0〜3.0nmの範囲にあり、アルカリ含有量が50ppm以下であることを特徴とする請求項6に記載のイオン拡散防止膜。
【請求項8】
ガラス基材と、該ガラス基材上形成されたイオン拡散防止膜とからなるイオン拡散防止膜付基材であって、イオン拡散防止膜が請求項1〜5のいずれかに記載の方法で得られたものであることを特徴とするイオン拡散防止膜付基材。
【請求項9】
前記イオン拡散防止膜の膜厚が100〜2,500nmの範囲にあることを特徴とする請求項8に記載のイオン拡散防止膜付基材。
【請求項10】
前記イオン拡散防止膜の平均細孔径が1.0〜3.0nmの範囲にあり、アルカリ含有量が50ppb以下であることを特徴とする請求項8に記載のイオン拡散防止膜付基材。
【請求項11】
少なくとも一方のガラス基材の表面にはイオン拡散防止膜、透明電極膜、透明絶縁膜(イオンゲッター膜)および配向膜が順次積層されてなる一対の透明電極付基材が、それぞれの透明電極同士が対向するように所定の間隔をあけて配置され、この一対の透明電極付基材の間にあけられた間隙に液晶が封入されている液晶表示セルにおいて、イオン拡散防止膜が、請求項1〜5のいずれかに記載のイオン拡散防止膜の製造方法によって形成されてなることを特徴とする液晶表示セル。
【請求項12】
少なくとも一方のガラス基材の表面にはイオン拡散防止膜、カラーフィルター、透明絶縁膜(イオンゲッター膜)、透明電極膜および配向膜が順次積層されてなる一対の透明電極付基材が、それぞれの透明電極同士が対向するように所定の間隔をあけて配置され、この一対の透明電極付基材の間にあけられた間隙に液晶が封入されている液晶表示セルにおいて、イオン拡散防止膜が、請求項1〜5のいずれかに記載のイオン拡散防止膜の製造方法によって形成されてなることを特徴とするイオン拡散防止膜であることを特徴とする液晶表示セル。
【請求項13】
少なくとも一方のガラス基材の表面にはイオン拡散防止膜、TFTアレイ(TFT素子、データ電極)、透明絶縁膜(イオンゲッター膜)、透明電極膜および配向膜が順次積層されてなる一対の透明電極付基材が、それぞれの透明電極同士が対向するように所定の間隔をあけて配置され、この一対の透明電極付基材の間にあけられた間隙に液晶が封入されている液晶表示セルにおいて、イオン拡散防止膜が、請求項1〜5のいずれかに記載のイオン拡散防止膜の製造方法によって形成によって形成されてなることを特徴とする液晶表示セル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate