イオン放射装置
【課題】 平板状の電極基板を有するイオン放射装置において、電極基板上に発生したイオンを効率よく放射できるようにすることである。
【解決手段】 ケーシングに、高圧電源7と、この高圧電源に接続する高電圧電極18と、高電圧電極を設けた平板状の電極基板8と、上記放電電極に高電圧を印加したとき発生するイオンを放出する放出口9と、電極基板面に沿って生成されるイオン生成部Aもしくはその近傍を通過するとともに、上記電極基板8に対して角度αを保った気流を噴出する気流噴出手段とを備え、上記気流噴出手段から噴出される気流bが、イオン生成部のイオンを巻き込んで放出口から放出される構成にした。
【解決手段】 ケーシングに、高圧電源7と、この高圧電源に接続する高電圧電極18と、高電圧電極を設けた平板状の電極基板8と、上記放電電極に高電圧を印加したとき発生するイオンを放出する放出口9と、電極基板面に沿って生成されるイオン生成部Aもしくはその近傍を通過するとともに、上記電極基板8に対して角度αを保った気流を噴出する気流噴出手段とを備え、上記気流噴出手段から噴出される気流bが、イオン生成部のイオンを巻き込んで放出口から放出される構成にした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、帯電物体を除電したり、処理対象を帯電させたりするためのイオンを発生させるイオン放射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から高電圧を印加した放電電極で生成されるイオンを放射して、除電や帯電を行うイオン放射装置が知られている。
このようなイオン放射装置に、例えば、特許文献1に示す平板状の電極基板を用いることができる。このような電極基板を用いた装置では、上記電極基板の表面に平行な気流を形成し、電極基板上に発生したイオンをケーシング外へ放射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−231087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように平板状の電極基板に沿った気流によってイオンを放射させるようにしたイオン放射装置では、放射されるイオン量が少なく、例えば除電装置として用いた場合、除電に時間がかかってしまうという問題があった。
この発明の目的は、平板状の電極基板を有するイオン放射装置において、電極基板上に発生したイオンを効率よく放射できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、ケーシングに、高圧電源と、この高圧電源に接続する高電圧電極と、高電圧電極を設けた平板状の電極基板と、上記放電電極に高電圧を印加したとき発生するイオンを放出する放出口と、電極基板面に沿って生成されるイオン生成部もしくはその近傍を通過するとともに、上記電極基板に対して角度を保った気流を噴出する気流噴出手段とを備え、上記気流噴出手段から噴出される気流が、イオン生成部のイオンを巻き込んで放出口から放出される構成にしたことを特徴とする。
【0006】
第2の発明は、上記電極基板が、上記気流噴出手段から噴出される気流の噴出方向を横切る幅方向に所定の長さを保って上記ケーシング内に設けられ、上記気流噴出手段が、電極基板の幅方向の長さ範囲に複数のノズル部を備え、上記気流噴出手段から噴出される気流が、電極基板の幅方向の長さ範囲上を通過する構成にしたことを特徴とする。
【0007】
第3の発明は、上記ケーシング内に、上記電極基板を保持する基板保持トレイを設け、この基板保持トレイは上記気流の噴出方向に沿ってスライド可能に設けるとともに、このスライド範囲は、上記放出口からイオンを放出させるとき上記電極基板がセットされる動作位置から、電極基板が上記ケーシング外に露出される交換位置までの範囲であることを特徴とする。
【0008】
第4の発明は、第3の発明を前提とし、上記基板保持トレイが上記動作位置を保っているときオンし、動作位置から離れたときオフとなるスイッチを設け、上記電極保持トレイが上記動作位置にあるときのみ上記高圧電源を放電電極に接続する構成にしたことを特徴とする。
【0009】
第5の発明は、第3または第4の発明を前提とし、上記電極基板は、一対の誘電体層の間に高電圧電極を備え、この高電圧電極と対向して誘電体層の表面にアース電極を備えるとともに、上記アース電極と反対側の誘電体層の表面には、上記高電圧電極及びアース電極のそれぞれに電気的に接続した金属製の電極パッド部を形成する一方、基板トレイには、上記電極基板がセットされたとき、上記各電極パッド部に接触する位置に、上記高圧電源に接続したプローブピンを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1〜第5の発明によれば、電極基板上で生成された正負のイオンを基板表面から浮かすようにして、気流に乗せることができる。そのため、放出口から放出されるイオン量が多くなって、除電あるいは帯電処理が効率的にできるようになる。
特に、第2の発明によれば、電極基板において長さを有するが幅方向の範囲に設けた複数のノズル部から気体が噴射され、電極基板の幅方向の長い範囲内に気流を形成できるため、電極基板上に生成された多くのイオンを気流に乗せて放射することができる。
【0011】
第3の発明では、基板保持トレイをケーシングから引き出すことによって、電極基板を取り外したり、取り付けたりする交換作業が簡単にできる。
第4の発明では、基板保持トレイが動作位置に位置し、電極基板が所定の位置にあるときにのみ、高電圧電極に高電圧が印加されることになる。従って、電極基板がケーシング外に露出した状態で高電圧が印加されることがなく、安全である。
【0012】
第5の発明によれば、電極基板を、基板保持トレイにセットするだけで、高電圧電極と高圧電源との接続ができるので、電極基板の交換作業がより簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は実施形態のイオン放射装置の外観斜視図である。
【図2】図2は実施形態の組み立て図である。
【図3】図3は実施形態のノズル部材の分解図である。
【図4】図4は実施形態のカバーを取り外した状態の斜視図である。
【図5】図5は実施形態の電極基板の分解斜視図である。
【図6】図6は実施形態の電極基板付近の断面図である。
【図7】図7は気流を変化させた実験方法を説明するための図である。
【図8】図8はノズル位置及び角度と除電時間との関係を示したグラフである。
【図9】図9はプラスに帯電したチャージプレートを除電する際の、ノズル角度と除電時間との関係を示したグラフである。
【図10】図10はマイナスに帯電したチャージプレートを除電する際の、ノズル角度と除電時間との関係を示したグラフである。
【図11】図11はノズル位置とイオンバランスとの関係を示したグラフである。
【図12】図12はノズル角度とイオンバランスとの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、この発明の実施形態のイオン放射装置の外観図である。
このイオン放射装置は、図2の組み立て図に示す通り、ベース部1に、図3に示すノズル部材2及び制御基板3を取り付け、この制御基板3上にカバー4を被せて構成されている。
上記ベース部1は、段を備えた底板5と、この底板5の下段側にスライド可能に取り付けた基板保持トレイ6と、高圧電源7(図6参照)とを備えている。
そして、上記底板5と上記カバー4とでこの発明のケーシングを構成している。
【0015】
また、詳細は後で説明するが、上記ケーシング内に設けた電極基板8上にイオンを生成させ、このイオンをノズル部材2の供給筒部11aから導入した気流に巻き込んで、ケーシングの放出口9からケーシング外へ放出するようにしている。
つまり、気流は上記供給筒部11aから放出口9へ向かって流れるので、以下この流れの方向の位置を、上記気流を基準に上流側、下流側といい、上流側を後方、下流側を前方ということにする。
【0016】
上記基板保持トレイ6は、その前方に、気体の噴射方向に直交する方向を長辺とする矩形の保持凹部6aを備え、この保持凹部6aに一致する形状の電極基板8をはめ込んで保持するようにしている。
また、基板保持トレイ6の両側面には、ガイド凹部6bを備え、後端にはストッパ部6cを形成している。
さらに、底板5には底面から起立させたガイド凸部5aを設け、このガイド凸部5aを上記ガイド凹部6bに挿入している。このガイド凸部5aの、上記ガイド凹部6b内における相対移動範囲が、上記基板保持トレイ6のスライド可能範囲である。
【0017】
つまり、基板保持トレイ6は、上記底板5からケーシングの前方に引き出され、保持凹部6aがケーシング外に露出する図2に示す状態から、図1,4に示すように完全にケーシング内に収容され、上記電極基板8上にイオンを生成する際のこの発明の動作位置となる範囲でスライドする。そして、この基板保持トレイ6のスライド方向は、上記供給筒部11aから供給された流体が放出口9から噴出される気流の噴出方向に沿った方向である。
また、基板保持トレイ6に載置保持される電極基板8の長手方向が、この発明の幅方向であり、上記電極基板8は、上記気流の噴出方向を横切る幅方向に所定の長さを保ってケーシング内に設けられている。
さらに、図2に示すように基板保持トレイ6を引き出して、電極基板8をケーシング外に露出させれば、保持凹部6a内の電極基板8を取り外して交換することができる。このように、電極基板8を交換可能にする位置が、この発明の交換位置である。
【0018】
そして、上記基板保持トレイ6は、ケーシング内に押し込まれたとき、後端側のストッパ部6cが底板5の段部5bに当接するとともに底板5のガイド凸部5aがガイド凹部6bの端部に当接し、上記動作位置を保持する。
一方、基板保持トレイ6をケーシングから引き出したときには、上記ストッパ部6cが後で説明するノズル部材2のストッパ部12aに当接するとともに上記ガイド凸部5aがガイド凹部6aの端部に当接して交換位置を保ち、基板保持トレイ6がケーシングから脱落するのを防止している。
【0019】
なお、図4は、カバー4を取り外し、基板トレイ6が動作位置ある状態を示す斜視図である。
また、図2,4中、符号10はこのイオン放射装置を使用現場の支持部材に取り付けるための取り付け部であり、矢印a方向に回動して底板5から外方へ突出する部材である。この取付部材10を支持部材にボルトなどで固定して用いる。
【0020】
さらに、上記底板5及び基板保持トレイ6上に設けたノズル部材2は、図3に示した下部材11と上部材12とで構成される。
下部材11は、後端に図示しない気体供給源からの配管を接続する供給筒部11aを備え、この供給筒部11aに連続し、この供給筒部11aから離れる方向、つまり前方に向かって徐々に幅を広くした通路部11bと、上記供給筒部11aと前端に設けた噴出部11cとを備えた略板状の部材である。上記噴出部11cは、上記通路部11bの面に対して図中下方に傾斜した面であり、その面上に複数の線状凸部11dを所定の間隔を保って備えている。
【0021】
また、上部材12は、図3における下面側に、上記下部材11の通路部11b及び噴出部11cと一致する形状の通路部12b及び噴出部12cを備えている。この上部材12を下部材11に結合すると、通路部11b及び12bにより気体通路が形成される。
さらに、上部材12の噴出部12cと下部材11の噴出部11cとが対向し、上記噴出部12cの内面と線状凸部11dとが接触して、上記線状凸部11d間の凹部がノズル部11eを形成する(図6参照)。
【0022】
また、上部材12は、上記噴出部12cより気流の下流側に、上板部12dとその両脇の側壁部12e,12eを備えている。
そして、上記下部材11及び上部材12によって構成したノズル部材2を、上記底板5及び基板保持トレイ6上に載置固定しているが、その際、上板部12dを基板保持トレイ6の電極基板8に対向させ、この上板部12d、一対の側壁部12e,12e及び基板保持トレイ6の上面によって、上記ノズル部11eから噴出する気流を放出部9へ導く通路22を構成するようにしている。
このような下部材11及び上部材12によって構成されたノズル部材2は、供給筒部11aから供給した気体がノズル部11eから噴出後、通路22を通過して放出口9から放射される。
この実施形態では、上記ノズル部材2及びコンプレッサなどの気体供給源がこの発明の気流噴出手段を構成している。
【0023】
なお、上部材12の上記一対の側壁部12e,12eに、上記基板保持トレイ6のストッパとして機能する板状の上記ストッパ部12aを設けている。
また、ノズル部材2の上部材12上には、導光プリズム13を保持する保持部12fを形成している。上記導光プリズム13は、高圧電源7のオンオフや、異常を知らせるため、上記制御基板3に取り付けた図示しないLEDの発光を導くための部材である。
上記制御基板3は、ノズル部材2に対向する面に、高圧電源7などを制御するための制御回路を設けている。
なお、図4中の符号14は、ノズル部材2に固定した板部材で、上記制御基板3とともに制御回路を構成する部品を設けるためのものである。
【0024】
以下に、上記基板保持トレイ6上に載置保持される、平板状の電極基板8について説明する。
図5は、電極基板8の分解図であるが、電極基板8は、セラミック製の長板からなる表側誘電体層15と同じくセラミック製の長板からなる裏側誘電体層16との間に、金属薄板からなる高電圧電極17を挟んで一体化し、表側誘電体層15の表面に薄板状のアース電極18を接着したものである。そして、上記したように長板状の電極基板8の長手方向をこの発明の幅方向として上記基板保持トレイ6で保持する。
また、表側誘電体層15の表面中央には、長板の長手方向にのび、上記表側誘電体層15の裏面に達しない深さの長溝19が形成されている。
【0025】
上記アース電極18は、上記長溝19を挟んで平行な両側の長板状部18a,18bを連続端部18cで連続させて一体に形成している。そして、長板状部18a,18bから長溝19に向かって突出し、対向する突出部18d,18eを複数個所に形成している。
また、上記誘電体層15,16において、上記連続端部18cに対応する位置には端子孔20を形成している。この端子孔20内には金属製の接地用端子を埋め込み、その先端を裏側誘電体層16の裏面に露出させて図示しないこの発明の電極パッド部を構成する。
【0026】
また、上記高電圧電極17は、全体として長板状であるが、上記アース電極18の複数個所に形成した突出部18d,18eと、上下方向に対抗させるため、対応個所に面積を大きくした円形部17aを形成している。この円形部17aは、各箇所の上記突出部18d,18eとその周囲と対向している。
また、高電圧電極17には、上記円形部17aとは別に、円形の端子接続部17bを形成している。この端子接続部17bに対応する位置において、上記裏側誘電体層16には端子孔21を形成している。この端子孔21内には金属製の電極用端子を埋め込み、その先端を裏側誘電体層16の裏面に露出させて図示しないこの発明の電極パッド部を構成している。
【0027】
さらに、基板保持トレイ6の保持凹部6aの底面には、図示しない一対のプローブピンを設け、これらプローブピンを、上記保持凹部6a内に保持した上記電極基板8の裏面に露出する上記一対の電極パッド部に接触する位置に設けている。これらプローブピンは、保持凹部6aの底面から突出する方向の弾性力を保持したプランジャを備え、上記電極基板8を基板保持トレイ6の保持凹部6aに入れたとき、各電極パッド部に確実に接触するようにしている。
また、各プローブピンは高圧電源と接続し、上記アース電極18に接続した電極パッドを接地し、上記高電圧電極17側の電極パッドに高電圧を印加可能にしている。
このように、電極基板8の裏面に電極パッドを形成するとともに、基板トレイ6にプローブピンを設けたので、電極基板8の交換時に電極用端子に配線を接続する必要がなく、交換作業が容易である。
【0028】
上記のような電極基板8を基板保持トレイ6に保持させ、基板保持トレイ6を上記動作位置に位置させたときの部分断面図を図6に示す。
このように、基板保持トレイ6を動作位置に位置させて、高電圧電極17に高電圧を印加すると、上記高電圧電極17とアース電極18との対向部分に相当する上記長溝19の周囲にイオンが発生するイオン生成部Aができる。
なお、上記長溝19を設けたのは、上記高電圧電極17とアース電極18とが対向して放電する空間を大きくするためであるが、この長溝19はイオンを生成するための必須の構成要素ではない。
【0029】
一方、図6に示すように、上記ノズル部材2のノズル部11eは、そこから噴出される気流の方向を基準にして、電極基板8より上流側において基板保持トレイ6に対して角度θで気体を噴出するようにしている。そのため、ノズル部11eから噴出した気流は、破線の矢印bに示すように、基板保持トレイ6と衝突後、浮き上がり、上記イオン生成部Aの近傍を、上記電極基板8の表面に対して角度αを保って通過して放出口9から放出される。つまり、イオン生成部Aもしくは、その近傍を通過するとともに、基板保持トレイ6の表面、すなわち電極基板8に対して所定の角度αを保った気流が形成されることになる。
【0030】
そのため、電極基板8上のイオン生成部Aのイオンは、電極基板8から上昇する上記気流に巻き込まれて、放出口9から放出されることになる。このように、気流が電極基板8と所定の角度αを有することによって、イオン生成部Aのイオンを電極基板8上から剥ぎ取る力として機能するものと考えられる。その結果、気流が電極基板8面に平行に流れる場合と比べて、生成したイオンを放出口9から効率的に放出できる。
【0031】
特に、この実施形態では、上記ノズル部11eを電極基板8の幅方向の範囲に複数設けることによって、電極基板8の幅方向全体にイオンを巻き込む気流を通過させるようにしている。そのため、電極基板8の幅方向全体にわたって生成されたイオンをより効率的に放出させることができる。
但し、ノズル部の形状や数などはこの実施形態に限らない。上記のように複数の線状凸部11dによってノズル部11eを構成するのではなく、噴出孔を形成することもできるし、複数のノズル部11eを設ける代わりに、上記幅方向に長さを有するスリット状の噴出口を形成することもできる。
【0032】
なお、図6中の符号6dは、基板保持トレイ6に設けた保持凸部であり、基板保持トレイ6を図示の動作位置に位置させたとき、底板5側に設けた図示しない保持凹部にはまって、この動作位置を保持するようにするものである。
また、符号23は基板保持トレイ6に取り付けた配線ボックスであり、基板保持トレイ6の保持凹部6aの底面から突出する上記プローブピンと高圧電源7とを接続する配線を収容している。
【0033】
さらに、このイオン放射装置には、上記基板保持トレイ6が上記動作位置から引き出されたときには、上記高電圧電極17に高圧が印加されないようにするためのスイッチを設けることもできる。具体的には、基板保持トレイ6が動作位置にあることを検出し、そのときのみ高電圧電源7の高電圧が出力され、それ以外では出力されないようにするスイッチか、基板保持トレイが動作位置にあるときにのみ、高圧電源と高電圧電極側のプローブ端子とを接続するスイッチなどである。
言い換えれば、上記スイッチを設けることによって高電圧を印加された電極基板8がケーシング外に露出することがなくなり、高電圧が印加された電極基板8に人が触れるようなことを防止できる。
【0034】
さらにまた、上記ノズル部材2内に風圧検出器を設け、ノズル部材2内に一定の圧力以上で気体が導入されなければ、上記高電圧電極17に高圧が印加されないようにすることもできる。このようにすれば、上記電極基板8上に生成したイオンが残留することを防止できる。
【0035】
上記のように、この実施形態のイオン放射装置では、気流が電極基板8面に平行ではなく、電極基板8に対して所定の角度αを有することで、イオン生成部Aのイオンを効率的にケーシング外へ放出するようにしているが、気流が電極基板8に対して所定角度αを保っていることによって、イオンの放出量が多くなることを確認する実験を行った。その実験について以下に説明する。
【0036】
この実験は、上記イオン放射装置の代わりに図7に示す実験装置を用いて行った。
この実験装置は図7の模式図に示すとおり、基板保持トレイ6の代わりに形成した樹脂製の保持台24に上記電極基板8を埋設し、この電極基板8の表面と上記保持台24の表面とをほぼ面一にしている。
そして、高電圧電極17とアース電極18との間に高圧電源7を接続し、高電圧電極17に高電圧を印加するようにしている。この高圧電源7は、高電圧の交流を出力する。
【0037】
さらに、イオンを放出させるための気流を噴出するノズルnを、気流を基準として上記基板電極8よりも上流側に設けている。このノズルnは、気体の噴射角度及びノズル位置を変更可能にしている。
そして、この実験装置から放射されるイオンを受けるチャージプレートpを電極基板8から距離L離して設け、上記保持台24面からノズルnの先端までの高さh、ノズルnの先端から電極基板8上の長溝19の上流側の縁までの距離d、ノズル角度θを変更して実験を行なった。
なお、この実験ではイオン発生部Aあるいはその近傍を通過する気流の角度αを直接調整する代わりに、ノズル角度θを調整している。ノズル角度θが変化すれば上記角度αも変化するからである。
【0038】
上記実験装置を用いて、除電時間を測定する実験1を実施した。
この実験1では、予め+1000[V]に帯電させたチャージプレートpに、高電圧電極17に高電圧を印加して生成されるイオンを放射して上記チャージプレートpの電位が+100[V]になるまでの時間と、予め−1000[V]帯電させたチャージプレートpが−100[V]になるまでの時間をそれぞれ除電時間として計測した。
そして、ノズルnからの気体流量=70[L/min]と、電極基板8からチャージプレートpまでの距離L=100[cm]とした。これらの条件と、高電圧電源7の出力は他の実験でも同じにしている。
【0039】
図8は、上記高さh=0[mm]とし、ノズル角度θをパラメータとしたときの、上記距離dに対する除電時間を示したグラフである。
なお、+1000[V]に帯電させたチャージプレートpを除電したときのデータを「+除電」、−1000[V]に帯電させたチャージプレートpを除電したときのデータを「−除電」として表している。
【0040】
図8に示す実験結果から、−除電及び+除電のいずれにおいても、上記距離dが8[mm]〜20[mm]の間に、除電時間が0.6[秒]という短時間で除電ができる範囲があることがわかった。
このように除電時間が短いということは、上記電極基板8上のイオン生成部Aに生成したイオンを、効率よく気流に乗せてチャージプレートpに対して放射できたことを意味する。つまり、ノズルnの角度θと距離dとを調整することによって、生成されたイオンを効率的に放射できる所定の角度αを実現できた。
【0041】
また、図9、10は、同様の実験において、ノズルnの先端とイオン生成部Aまでの距離d=10[mm]のとき、高さhをパラメータとして、ノズル角度θに対する除電時間を示したグラフである。
図9は上記「+除電」時のデータであり、図10は「−除電」時のデータである。これらの結果から、高さhとノズル角度θによって除電時間が変化することがわかるが、いずれの場合もノズル角度θ=0[°]では、除電時間が長く、効率的にイオンが放射されていないことが分かる。
このように、ノズル角度θ=0[°]のとき、イオンの放射効率が悪い理由は、ノズル角度θ=0[°]のとき、イオン生成部Aあるいはその近傍を通過する気流の角度αも0[°]であり、電極基板8の表面と平行な気流ができるためである。このような電極基板8の表面と平行な気流は、イオン生成部Aに生成したイオンを電極基板8の表面から剥ぎ取る力が弱いと推測できる。
【0042】
また、上記実験装置を用いてイオンバランスを測定する実験2を行ったので、その結果を図11、12に示す。
実験2は、上記チャージプレートpを予め帯電させていない点が、実験1と異なるが、その他の実験条件は上記実験1と同様である。具体的には、上記ノズルnの角度θ、距離d、高さhを変化させて、初期状態で帯電していないチャージプレートpに対して所定時間イオンを放射し、その後チャージプレートpの電位をイオンバランス[V]として計測した。
図11は、ノズル角度θをパラメータとし、距離dとイオンバランスとの関係を示したグラフである。この結果からノズル角度θによって多少の差はあるが、いずれも距離d≧15[mm]以上でイオンバランスが安定していることが分かる。
【0043】
図12は、h=0[mm]、3[mm]をパラメータとして、ノズル角度θとイオンバランスとの関係を示したグラフである。この結果から、高さh=0[mm]ではノズル角度θ≧10[°]、高さh=3[mm]ではノズル角度θ≧15[°]でイオンバランスが安定することが分かった。
いずれにしても、ノズル角度θ=0、すなわち気流が電極基板8と平行な場合には、イオンバランスもよくないことが分かった。
上記オンバランスが良いということは、高圧電極18に交流の高電圧を印加したときに生成されるプラスイオン及びマイナスイオンが、バランスよく放射されたということである。
【0044】
このように、ノズルnから噴出する気流が、上記イオン生成部Aを通過するか、あるいはその近傍を通過し、その方向が電極基板8の表面と所定の角度を保つことによって、生成されたイオンが効率的に放射されることが確認できた。
なお、上記実施形態のイオン放射装置では、上記イオン生成部Aあるいはその近傍を通過する気流を電極基板に対して所定の角度αに保つため、気流を基準にして電極基板8より上流側において、ノズル部11eから噴射した気体が基板保持トレイ6の表面に衝突するようにして、衝突後に、イオンを電極基板8の表面から剥ぎ取るための上昇する流れを作るようにしている。
【0045】
しかし、イオン生成部Aで生成されたイオンを電極基板8上から剥ぎ取る方向の気流を生成する構成は、上記実施形態の構成に限らない。
例えば、気流を所定の方向に導くための衝突面は、電極基板と面一でなくてもよいし、衝突面として基板保持トレイ以外の部材を設けてもよい。
さらに、衝突によって角度αの気流を生成するのではなく、所定の方向に傾けたノズルを用いてもよい。例えば、図6の矢印b方向、すなわち角度αの傾斜を有するノズルを、基板保持トレイ6を貫通して設け、基板保持トレイ6の上面から所定の角度αを保った気流を噴射するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
この発明のイオン放射装置は、生成されたイオンを効率的に放射でき、効率的な除電や帯電処理に適用できるものである。
【符号の説明】
【0047】
1 (ハウジングを構成する)ベース部
2 ノズル本体
4 (ハウジングを構成する)カバー
6 基板保持トレイ
7 高圧電源
8 電極基板
11e ノズル部
17 高電圧電極
18 アース電極
20 端子孔
21 端子孔
A イオン生成部
n ノズル
b (気流方向を示す)矢印
d (ノズルからイオン生成部までの)距離
h (ノズル先端の)高さ
θ ノズル角度
α (気流の)角度
【技術分野】
【0001】
この発明は、帯電物体を除電したり、処理対象を帯電させたりするためのイオンを発生させるイオン放射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から高電圧を印加した放電電極で生成されるイオンを放射して、除電や帯電を行うイオン放射装置が知られている。
このようなイオン放射装置に、例えば、特許文献1に示す平板状の電極基板を用いることができる。このような電極基板を用いた装置では、上記電極基板の表面に平行な気流を形成し、電極基板上に発生したイオンをケーシング外へ放射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−231087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように平板状の電極基板に沿った気流によってイオンを放射させるようにしたイオン放射装置では、放射されるイオン量が少なく、例えば除電装置として用いた場合、除電に時間がかかってしまうという問題があった。
この発明の目的は、平板状の電極基板を有するイオン放射装置において、電極基板上に発生したイオンを効率よく放射できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、ケーシングに、高圧電源と、この高圧電源に接続する高電圧電極と、高電圧電極を設けた平板状の電極基板と、上記放電電極に高電圧を印加したとき発生するイオンを放出する放出口と、電極基板面に沿って生成されるイオン生成部もしくはその近傍を通過するとともに、上記電極基板に対して角度を保った気流を噴出する気流噴出手段とを備え、上記気流噴出手段から噴出される気流が、イオン生成部のイオンを巻き込んで放出口から放出される構成にしたことを特徴とする。
【0006】
第2の発明は、上記電極基板が、上記気流噴出手段から噴出される気流の噴出方向を横切る幅方向に所定の長さを保って上記ケーシング内に設けられ、上記気流噴出手段が、電極基板の幅方向の長さ範囲に複数のノズル部を備え、上記気流噴出手段から噴出される気流が、電極基板の幅方向の長さ範囲上を通過する構成にしたことを特徴とする。
【0007】
第3の発明は、上記ケーシング内に、上記電極基板を保持する基板保持トレイを設け、この基板保持トレイは上記気流の噴出方向に沿ってスライド可能に設けるとともに、このスライド範囲は、上記放出口からイオンを放出させるとき上記電極基板がセットされる動作位置から、電極基板が上記ケーシング外に露出される交換位置までの範囲であることを特徴とする。
【0008】
第4の発明は、第3の発明を前提とし、上記基板保持トレイが上記動作位置を保っているときオンし、動作位置から離れたときオフとなるスイッチを設け、上記電極保持トレイが上記動作位置にあるときのみ上記高圧電源を放電電極に接続する構成にしたことを特徴とする。
【0009】
第5の発明は、第3または第4の発明を前提とし、上記電極基板は、一対の誘電体層の間に高電圧電極を備え、この高電圧電極と対向して誘電体層の表面にアース電極を備えるとともに、上記アース電極と反対側の誘電体層の表面には、上記高電圧電極及びアース電極のそれぞれに電気的に接続した金属製の電極パッド部を形成する一方、基板トレイには、上記電極基板がセットされたとき、上記各電極パッド部に接触する位置に、上記高圧電源に接続したプローブピンを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1〜第5の発明によれば、電極基板上で生成された正負のイオンを基板表面から浮かすようにして、気流に乗せることができる。そのため、放出口から放出されるイオン量が多くなって、除電あるいは帯電処理が効率的にできるようになる。
特に、第2の発明によれば、電極基板において長さを有するが幅方向の範囲に設けた複数のノズル部から気体が噴射され、電極基板の幅方向の長い範囲内に気流を形成できるため、電極基板上に生成された多くのイオンを気流に乗せて放射することができる。
【0011】
第3の発明では、基板保持トレイをケーシングから引き出すことによって、電極基板を取り外したり、取り付けたりする交換作業が簡単にできる。
第4の発明では、基板保持トレイが動作位置に位置し、電極基板が所定の位置にあるときにのみ、高電圧電極に高電圧が印加されることになる。従って、電極基板がケーシング外に露出した状態で高電圧が印加されることがなく、安全である。
【0012】
第5の発明によれば、電極基板を、基板保持トレイにセットするだけで、高電圧電極と高圧電源との接続ができるので、電極基板の交換作業がより簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は実施形態のイオン放射装置の外観斜視図である。
【図2】図2は実施形態の組み立て図である。
【図3】図3は実施形態のノズル部材の分解図である。
【図4】図4は実施形態のカバーを取り外した状態の斜視図である。
【図5】図5は実施形態の電極基板の分解斜視図である。
【図6】図6は実施形態の電極基板付近の断面図である。
【図7】図7は気流を変化させた実験方法を説明するための図である。
【図8】図8はノズル位置及び角度と除電時間との関係を示したグラフである。
【図9】図9はプラスに帯電したチャージプレートを除電する際の、ノズル角度と除電時間との関係を示したグラフである。
【図10】図10はマイナスに帯電したチャージプレートを除電する際の、ノズル角度と除電時間との関係を示したグラフである。
【図11】図11はノズル位置とイオンバランスとの関係を示したグラフである。
【図12】図12はノズル角度とイオンバランスとの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、この発明の実施形態のイオン放射装置の外観図である。
このイオン放射装置は、図2の組み立て図に示す通り、ベース部1に、図3に示すノズル部材2及び制御基板3を取り付け、この制御基板3上にカバー4を被せて構成されている。
上記ベース部1は、段を備えた底板5と、この底板5の下段側にスライド可能に取り付けた基板保持トレイ6と、高圧電源7(図6参照)とを備えている。
そして、上記底板5と上記カバー4とでこの発明のケーシングを構成している。
【0015】
また、詳細は後で説明するが、上記ケーシング内に設けた電極基板8上にイオンを生成させ、このイオンをノズル部材2の供給筒部11aから導入した気流に巻き込んで、ケーシングの放出口9からケーシング外へ放出するようにしている。
つまり、気流は上記供給筒部11aから放出口9へ向かって流れるので、以下この流れの方向の位置を、上記気流を基準に上流側、下流側といい、上流側を後方、下流側を前方ということにする。
【0016】
上記基板保持トレイ6は、その前方に、気体の噴射方向に直交する方向を長辺とする矩形の保持凹部6aを備え、この保持凹部6aに一致する形状の電極基板8をはめ込んで保持するようにしている。
また、基板保持トレイ6の両側面には、ガイド凹部6bを備え、後端にはストッパ部6cを形成している。
さらに、底板5には底面から起立させたガイド凸部5aを設け、このガイド凸部5aを上記ガイド凹部6bに挿入している。このガイド凸部5aの、上記ガイド凹部6b内における相対移動範囲が、上記基板保持トレイ6のスライド可能範囲である。
【0017】
つまり、基板保持トレイ6は、上記底板5からケーシングの前方に引き出され、保持凹部6aがケーシング外に露出する図2に示す状態から、図1,4に示すように完全にケーシング内に収容され、上記電極基板8上にイオンを生成する際のこの発明の動作位置となる範囲でスライドする。そして、この基板保持トレイ6のスライド方向は、上記供給筒部11aから供給された流体が放出口9から噴出される気流の噴出方向に沿った方向である。
また、基板保持トレイ6に載置保持される電極基板8の長手方向が、この発明の幅方向であり、上記電極基板8は、上記気流の噴出方向を横切る幅方向に所定の長さを保ってケーシング内に設けられている。
さらに、図2に示すように基板保持トレイ6を引き出して、電極基板8をケーシング外に露出させれば、保持凹部6a内の電極基板8を取り外して交換することができる。このように、電極基板8を交換可能にする位置が、この発明の交換位置である。
【0018】
そして、上記基板保持トレイ6は、ケーシング内に押し込まれたとき、後端側のストッパ部6cが底板5の段部5bに当接するとともに底板5のガイド凸部5aがガイド凹部6bの端部に当接し、上記動作位置を保持する。
一方、基板保持トレイ6をケーシングから引き出したときには、上記ストッパ部6cが後で説明するノズル部材2のストッパ部12aに当接するとともに上記ガイド凸部5aがガイド凹部6aの端部に当接して交換位置を保ち、基板保持トレイ6がケーシングから脱落するのを防止している。
【0019】
なお、図4は、カバー4を取り外し、基板トレイ6が動作位置ある状態を示す斜視図である。
また、図2,4中、符号10はこのイオン放射装置を使用現場の支持部材に取り付けるための取り付け部であり、矢印a方向に回動して底板5から外方へ突出する部材である。この取付部材10を支持部材にボルトなどで固定して用いる。
【0020】
さらに、上記底板5及び基板保持トレイ6上に設けたノズル部材2は、図3に示した下部材11と上部材12とで構成される。
下部材11は、後端に図示しない気体供給源からの配管を接続する供給筒部11aを備え、この供給筒部11aに連続し、この供給筒部11aから離れる方向、つまり前方に向かって徐々に幅を広くした通路部11bと、上記供給筒部11aと前端に設けた噴出部11cとを備えた略板状の部材である。上記噴出部11cは、上記通路部11bの面に対して図中下方に傾斜した面であり、その面上に複数の線状凸部11dを所定の間隔を保って備えている。
【0021】
また、上部材12は、図3における下面側に、上記下部材11の通路部11b及び噴出部11cと一致する形状の通路部12b及び噴出部12cを備えている。この上部材12を下部材11に結合すると、通路部11b及び12bにより気体通路が形成される。
さらに、上部材12の噴出部12cと下部材11の噴出部11cとが対向し、上記噴出部12cの内面と線状凸部11dとが接触して、上記線状凸部11d間の凹部がノズル部11eを形成する(図6参照)。
【0022】
また、上部材12は、上記噴出部12cより気流の下流側に、上板部12dとその両脇の側壁部12e,12eを備えている。
そして、上記下部材11及び上部材12によって構成したノズル部材2を、上記底板5及び基板保持トレイ6上に載置固定しているが、その際、上板部12dを基板保持トレイ6の電極基板8に対向させ、この上板部12d、一対の側壁部12e,12e及び基板保持トレイ6の上面によって、上記ノズル部11eから噴出する気流を放出部9へ導く通路22を構成するようにしている。
このような下部材11及び上部材12によって構成されたノズル部材2は、供給筒部11aから供給した気体がノズル部11eから噴出後、通路22を通過して放出口9から放射される。
この実施形態では、上記ノズル部材2及びコンプレッサなどの気体供給源がこの発明の気流噴出手段を構成している。
【0023】
なお、上部材12の上記一対の側壁部12e,12eに、上記基板保持トレイ6のストッパとして機能する板状の上記ストッパ部12aを設けている。
また、ノズル部材2の上部材12上には、導光プリズム13を保持する保持部12fを形成している。上記導光プリズム13は、高圧電源7のオンオフや、異常を知らせるため、上記制御基板3に取り付けた図示しないLEDの発光を導くための部材である。
上記制御基板3は、ノズル部材2に対向する面に、高圧電源7などを制御するための制御回路を設けている。
なお、図4中の符号14は、ノズル部材2に固定した板部材で、上記制御基板3とともに制御回路を構成する部品を設けるためのものである。
【0024】
以下に、上記基板保持トレイ6上に載置保持される、平板状の電極基板8について説明する。
図5は、電極基板8の分解図であるが、電極基板8は、セラミック製の長板からなる表側誘電体層15と同じくセラミック製の長板からなる裏側誘電体層16との間に、金属薄板からなる高電圧電極17を挟んで一体化し、表側誘電体層15の表面に薄板状のアース電極18を接着したものである。そして、上記したように長板状の電極基板8の長手方向をこの発明の幅方向として上記基板保持トレイ6で保持する。
また、表側誘電体層15の表面中央には、長板の長手方向にのび、上記表側誘電体層15の裏面に達しない深さの長溝19が形成されている。
【0025】
上記アース電極18は、上記長溝19を挟んで平行な両側の長板状部18a,18bを連続端部18cで連続させて一体に形成している。そして、長板状部18a,18bから長溝19に向かって突出し、対向する突出部18d,18eを複数個所に形成している。
また、上記誘電体層15,16において、上記連続端部18cに対応する位置には端子孔20を形成している。この端子孔20内には金属製の接地用端子を埋め込み、その先端を裏側誘電体層16の裏面に露出させて図示しないこの発明の電極パッド部を構成する。
【0026】
また、上記高電圧電極17は、全体として長板状であるが、上記アース電極18の複数個所に形成した突出部18d,18eと、上下方向に対抗させるため、対応個所に面積を大きくした円形部17aを形成している。この円形部17aは、各箇所の上記突出部18d,18eとその周囲と対向している。
また、高電圧電極17には、上記円形部17aとは別に、円形の端子接続部17bを形成している。この端子接続部17bに対応する位置において、上記裏側誘電体層16には端子孔21を形成している。この端子孔21内には金属製の電極用端子を埋め込み、その先端を裏側誘電体層16の裏面に露出させて図示しないこの発明の電極パッド部を構成している。
【0027】
さらに、基板保持トレイ6の保持凹部6aの底面には、図示しない一対のプローブピンを設け、これらプローブピンを、上記保持凹部6a内に保持した上記電極基板8の裏面に露出する上記一対の電極パッド部に接触する位置に設けている。これらプローブピンは、保持凹部6aの底面から突出する方向の弾性力を保持したプランジャを備え、上記電極基板8を基板保持トレイ6の保持凹部6aに入れたとき、各電極パッド部に確実に接触するようにしている。
また、各プローブピンは高圧電源と接続し、上記アース電極18に接続した電極パッドを接地し、上記高電圧電極17側の電極パッドに高電圧を印加可能にしている。
このように、電極基板8の裏面に電極パッドを形成するとともに、基板トレイ6にプローブピンを設けたので、電極基板8の交換時に電極用端子に配線を接続する必要がなく、交換作業が容易である。
【0028】
上記のような電極基板8を基板保持トレイ6に保持させ、基板保持トレイ6を上記動作位置に位置させたときの部分断面図を図6に示す。
このように、基板保持トレイ6を動作位置に位置させて、高電圧電極17に高電圧を印加すると、上記高電圧電極17とアース電極18との対向部分に相当する上記長溝19の周囲にイオンが発生するイオン生成部Aができる。
なお、上記長溝19を設けたのは、上記高電圧電極17とアース電極18とが対向して放電する空間を大きくするためであるが、この長溝19はイオンを生成するための必須の構成要素ではない。
【0029】
一方、図6に示すように、上記ノズル部材2のノズル部11eは、そこから噴出される気流の方向を基準にして、電極基板8より上流側において基板保持トレイ6に対して角度θで気体を噴出するようにしている。そのため、ノズル部11eから噴出した気流は、破線の矢印bに示すように、基板保持トレイ6と衝突後、浮き上がり、上記イオン生成部Aの近傍を、上記電極基板8の表面に対して角度αを保って通過して放出口9から放出される。つまり、イオン生成部Aもしくは、その近傍を通過するとともに、基板保持トレイ6の表面、すなわち電極基板8に対して所定の角度αを保った気流が形成されることになる。
【0030】
そのため、電極基板8上のイオン生成部Aのイオンは、電極基板8から上昇する上記気流に巻き込まれて、放出口9から放出されることになる。このように、気流が電極基板8と所定の角度αを有することによって、イオン生成部Aのイオンを電極基板8上から剥ぎ取る力として機能するものと考えられる。その結果、気流が電極基板8面に平行に流れる場合と比べて、生成したイオンを放出口9から効率的に放出できる。
【0031】
特に、この実施形態では、上記ノズル部11eを電極基板8の幅方向の範囲に複数設けることによって、電極基板8の幅方向全体にイオンを巻き込む気流を通過させるようにしている。そのため、電極基板8の幅方向全体にわたって生成されたイオンをより効率的に放出させることができる。
但し、ノズル部の形状や数などはこの実施形態に限らない。上記のように複数の線状凸部11dによってノズル部11eを構成するのではなく、噴出孔を形成することもできるし、複数のノズル部11eを設ける代わりに、上記幅方向に長さを有するスリット状の噴出口を形成することもできる。
【0032】
なお、図6中の符号6dは、基板保持トレイ6に設けた保持凸部であり、基板保持トレイ6を図示の動作位置に位置させたとき、底板5側に設けた図示しない保持凹部にはまって、この動作位置を保持するようにするものである。
また、符号23は基板保持トレイ6に取り付けた配線ボックスであり、基板保持トレイ6の保持凹部6aの底面から突出する上記プローブピンと高圧電源7とを接続する配線を収容している。
【0033】
さらに、このイオン放射装置には、上記基板保持トレイ6が上記動作位置から引き出されたときには、上記高電圧電極17に高圧が印加されないようにするためのスイッチを設けることもできる。具体的には、基板保持トレイ6が動作位置にあることを検出し、そのときのみ高電圧電源7の高電圧が出力され、それ以外では出力されないようにするスイッチか、基板保持トレイが動作位置にあるときにのみ、高圧電源と高電圧電極側のプローブ端子とを接続するスイッチなどである。
言い換えれば、上記スイッチを設けることによって高電圧を印加された電極基板8がケーシング外に露出することがなくなり、高電圧が印加された電極基板8に人が触れるようなことを防止できる。
【0034】
さらにまた、上記ノズル部材2内に風圧検出器を設け、ノズル部材2内に一定の圧力以上で気体が導入されなければ、上記高電圧電極17に高圧が印加されないようにすることもできる。このようにすれば、上記電極基板8上に生成したイオンが残留することを防止できる。
【0035】
上記のように、この実施形態のイオン放射装置では、気流が電極基板8面に平行ではなく、電極基板8に対して所定の角度αを有することで、イオン生成部Aのイオンを効率的にケーシング外へ放出するようにしているが、気流が電極基板8に対して所定角度αを保っていることによって、イオンの放出量が多くなることを確認する実験を行った。その実験について以下に説明する。
【0036】
この実験は、上記イオン放射装置の代わりに図7に示す実験装置を用いて行った。
この実験装置は図7の模式図に示すとおり、基板保持トレイ6の代わりに形成した樹脂製の保持台24に上記電極基板8を埋設し、この電極基板8の表面と上記保持台24の表面とをほぼ面一にしている。
そして、高電圧電極17とアース電極18との間に高圧電源7を接続し、高電圧電極17に高電圧を印加するようにしている。この高圧電源7は、高電圧の交流を出力する。
【0037】
さらに、イオンを放出させるための気流を噴出するノズルnを、気流を基準として上記基板電極8よりも上流側に設けている。このノズルnは、気体の噴射角度及びノズル位置を変更可能にしている。
そして、この実験装置から放射されるイオンを受けるチャージプレートpを電極基板8から距離L離して設け、上記保持台24面からノズルnの先端までの高さh、ノズルnの先端から電極基板8上の長溝19の上流側の縁までの距離d、ノズル角度θを変更して実験を行なった。
なお、この実験ではイオン発生部Aあるいはその近傍を通過する気流の角度αを直接調整する代わりに、ノズル角度θを調整している。ノズル角度θが変化すれば上記角度αも変化するからである。
【0038】
上記実験装置を用いて、除電時間を測定する実験1を実施した。
この実験1では、予め+1000[V]に帯電させたチャージプレートpに、高電圧電極17に高電圧を印加して生成されるイオンを放射して上記チャージプレートpの電位が+100[V]になるまでの時間と、予め−1000[V]帯電させたチャージプレートpが−100[V]になるまでの時間をそれぞれ除電時間として計測した。
そして、ノズルnからの気体流量=70[L/min]と、電極基板8からチャージプレートpまでの距離L=100[cm]とした。これらの条件と、高電圧電源7の出力は他の実験でも同じにしている。
【0039】
図8は、上記高さh=0[mm]とし、ノズル角度θをパラメータとしたときの、上記距離dに対する除電時間を示したグラフである。
なお、+1000[V]に帯電させたチャージプレートpを除電したときのデータを「+除電」、−1000[V]に帯電させたチャージプレートpを除電したときのデータを「−除電」として表している。
【0040】
図8に示す実験結果から、−除電及び+除電のいずれにおいても、上記距離dが8[mm]〜20[mm]の間に、除電時間が0.6[秒]という短時間で除電ができる範囲があることがわかった。
このように除電時間が短いということは、上記電極基板8上のイオン生成部Aに生成したイオンを、効率よく気流に乗せてチャージプレートpに対して放射できたことを意味する。つまり、ノズルnの角度θと距離dとを調整することによって、生成されたイオンを効率的に放射できる所定の角度αを実現できた。
【0041】
また、図9、10は、同様の実験において、ノズルnの先端とイオン生成部Aまでの距離d=10[mm]のとき、高さhをパラメータとして、ノズル角度θに対する除電時間を示したグラフである。
図9は上記「+除電」時のデータであり、図10は「−除電」時のデータである。これらの結果から、高さhとノズル角度θによって除電時間が変化することがわかるが、いずれの場合もノズル角度θ=0[°]では、除電時間が長く、効率的にイオンが放射されていないことが分かる。
このように、ノズル角度θ=0[°]のとき、イオンの放射効率が悪い理由は、ノズル角度θ=0[°]のとき、イオン生成部Aあるいはその近傍を通過する気流の角度αも0[°]であり、電極基板8の表面と平行な気流ができるためである。このような電極基板8の表面と平行な気流は、イオン生成部Aに生成したイオンを電極基板8の表面から剥ぎ取る力が弱いと推測できる。
【0042】
また、上記実験装置を用いてイオンバランスを測定する実験2を行ったので、その結果を図11、12に示す。
実験2は、上記チャージプレートpを予め帯電させていない点が、実験1と異なるが、その他の実験条件は上記実験1と同様である。具体的には、上記ノズルnの角度θ、距離d、高さhを変化させて、初期状態で帯電していないチャージプレートpに対して所定時間イオンを放射し、その後チャージプレートpの電位をイオンバランス[V]として計測した。
図11は、ノズル角度θをパラメータとし、距離dとイオンバランスとの関係を示したグラフである。この結果からノズル角度θによって多少の差はあるが、いずれも距離d≧15[mm]以上でイオンバランスが安定していることが分かる。
【0043】
図12は、h=0[mm]、3[mm]をパラメータとして、ノズル角度θとイオンバランスとの関係を示したグラフである。この結果から、高さh=0[mm]ではノズル角度θ≧10[°]、高さh=3[mm]ではノズル角度θ≧15[°]でイオンバランスが安定することが分かった。
いずれにしても、ノズル角度θ=0、すなわち気流が電極基板8と平行な場合には、イオンバランスもよくないことが分かった。
上記オンバランスが良いということは、高圧電極18に交流の高電圧を印加したときに生成されるプラスイオン及びマイナスイオンが、バランスよく放射されたということである。
【0044】
このように、ノズルnから噴出する気流が、上記イオン生成部Aを通過するか、あるいはその近傍を通過し、その方向が電極基板8の表面と所定の角度を保つことによって、生成されたイオンが効率的に放射されることが確認できた。
なお、上記実施形態のイオン放射装置では、上記イオン生成部Aあるいはその近傍を通過する気流を電極基板に対して所定の角度αに保つため、気流を基準にして電極基板8より上流側において、ノズル部11eから噴射した気体が基板保持トレイ6の表面に衝突するようにして、衝突後に、イオンを電極基板8の表面から剥ぎ取るための上昇する流れを作るようにしている。
【0045】
しかし、イオン生成部Aで生成されたイオンを電極基板8上から剥ぎ取る方向の気流を生成する構成は、上記実施形態の構成に限らない。
例えば、気流を所定の方向に導くための衝突面は、電極基板と面一でなくてもよいし、衝突面として基板保持トレイ以外の部材を設けてもよい。
さらに、衝突によって角度αの気流を生成するのではなく、所定の方向に傾けたノズルを用いてもよい。例えば、図6の矢印b方向、すなわち角度αの傾斜を有するノズルを、基板保持トレイ6を貫通して設け、基板保持トレイ6の上面から所定の角度αを保った気流を噴射するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
この発明のイオン放射装置は、生成されたイオンを効率的に放射でき、効率的な除電や帯電処理に適用できるものである。
【符号の説明】
【0047】
1 (ハウジングを構成する)ベース部
2 ノズル本体
4 (ハウジングを構成する)カバー
6 基板保持トレイ
7 高圧電源
8 電極基板
11e ノズル部
17 高電圧電極
18 アース電極
20 端子孔
21 端子孔
A イオン生成部
n ノズル
b (気流方向を示す)矢印
d (ノズルからイオン生成部までの)距離
h (ノズル先端の)高さ
θ ノズル角度
α (気流の)角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングに、高圧電源と、この高圧電源に接続する高電圧電極と、高電圧電極を設けた平板状の電極基板と、上記放電電極に高電圧を印加したとき発生するイオンを放出する放出口と、電極基板面に沿って生成されるイオン生成部もしくはその近傍を通過するとともに、上記電極基板に対して角度を保った気流を噴出する気流噴出手段とを備え、上記気流噴出手段から噴出される気流が、イオン生成部のイオンを巻き込んで放出口から放出される構成にしたイオン放射装置。
【請求項2】
上記電極基板は、上記気流噴出手段から噴出される気流の噴出方向を横切る幅方向に所定の長さを保って上記ケーシング内に設けられ、上記気流噴出手段は、電極基板の幅方向の長さ範囲に複数のノズル部を備え、上記気流噴出手段から噴出される気流が、電極基板の幅方向の長さ範囲上を通過する構成にした請求項1に記載のイオン放射装置。
【請求項3】
上記ケーシング内に、上記電極基板を保持する基板保持トレイを設け、この基板保持トレイは上記気流の噴出方向に沿ってスライド可能に設けるとともに、このスライド範囲は、上記放出口からイオンを放出させるとき上記電極基板がセットされる動作位置から、電極基板が上記ケーシング外に露出される交換位置までの範囲である請求項1または2に記載のイオン放射装置。
【請求項4】
上記基板保持トレイが上記動作位置を保っているときオンし、動作位置から離れたときオフとなるスイッチを設け、上記電極保持トレイが上記動作位置にあるときのみ上記高圧電源を放電電極に接続する構成にした請求項3に記載のイオン放射装置。
【請求項5】
上記電極基板は、一対の誘電体層の間に高電圧電極を備え、この高電圧電極と対向して誘電体層の表面にアース電極を備えるとともに、上記アース電極と反対側の誘電体層の表面には、上記高電圧電極及びアース電極のそれぞれに電気的に接続した金属製の電極パッド部を形成する一方、基板トレイには、上記電極基板がセットされたとき、上記各電極パッド部に接触する位置に、上記高圧電源に接続したプローブピンを設けた請求項3または4に記載のイオン放射装置。
【請求項1】
ケーシングに、高圧電源と、この高圧電源に接続する高電圧電極と、高電圧電極を設けた平板状の電極基板と、上記放電電極に高電圧を印加したとき発生するイオンを放出する放出口と、電極基板面に沿って生成されるイオン生成部もしくはその近傍を通過するとともに、上記電極基板に対して角度を保った気流を噴出する気流噴出手段とを備え、上記気流噴出手段から噴出される気流が、イオン生成部のイオンを巻き込んで放出口から放出される構成にしたイオン放射装置。
【請求項2】
上記電極基板は、上記気流噴出手段から噴出される気流の噴出方向を横切る幅方向に所定の長さを保って上記ケーシング内に設けられ、上記気流噴出手段は、電極基板の幅方向の長さ範囲に複数のノズル部を備え、上記気流噴出手段から噴出される気流が、電極基板の幅方向の長さ範囲上を通過する構成にした請求項1に記載のイオン放射装置。
【請求項3】
上記ケーシング内に、上記電極基板を保持する基板保持トレイを設け、この基板保持トレイは上記気流の噴出方向に沿ってスライド可能に設けるとともに、このスライド範囲は、上記放出口からイオンを放出させるとき上記電極基板がセットされる動作位置から、電極基板が上記ケーシング外に露出される交換位置までの範囲である請求項1または2に記載のイオン放射装置。
【請求項4】
上記基板保持トレイが上記動作位置を保っているときオンし、動作位置から離れたときオフとなるスイッチを設け、上記電極保持トレイが上記動作位置にあるときのみ上記高圧電源を放電電極に接続する構成にした請求項3に記載のイオン放射装置。
【請求項5】
上記電極基板は、一対の誘電体層の間に高電圧電極を備え、この高電圧電極と対向して誘電体層の表面にアース電極を備えるとともに、上記アース電極と反対側の誘電体層の表面には、上記高電圧電極及びアース電極のそれぞれに電気的に接続した金属製の電極パッド部を形成する一方、基板トレイには、上記電極基板がセットされたとき、上記各電極パッド部に接触する位置に、上記高圧電源に接続したプローブピンを設けた請求項3または4に記載のイオン放射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−12386(P2013−12386A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144079(P2011−144079)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000183738)春日電機株式会社 (54)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000183738)春日電機株式会社 (54)
【Fターム(参考)】
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