説明

イオン注入分布発生方法及びシミュレータ

【課題】 イオン注入分布発生方法及びシミュレータに関し、近似を効果的に用いることによって計算時間を大幅に短縮する。
【解決手段】 半導体に注入するイオンの飛程の射影Rp の2次の項まで考慮した射影〈Rp (E)〉(2) を、1次の項まで考慮した既知の射影を〈Rp (E)〉(1) とした時に、摂動項Δp (2) (E)を用いて、
〈Rp (E)〉(2) =〈Rp (E)〉(1) +Δp (2) (E)
とした近似式を用いた2次の摂動モデルを用いて求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン注入分布発生方法及びシミュレータに関し、Monte Carlo simulatorとほぼ同じ精度で、より短時間でイオン注入分布を発生させるための手法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン集積回路装置において、シリコン基板への不純物の導入はイオン注入で行われるのが一般的である。
このようなシリコン集積回路装置のプロセス構築に際しては、必要な素子構造を得るためのイオン注入条件を決定する必要があるが、このようなイオン注入条件をシミュレーションにより決定することが行われている。
非晶質層へのイオン注入分布を理論的に予想する手段としてMonte Carlo がある。これは、入射イオンと基板との相互作用を、核阻止能及び電子阻止能の物理に基づいて、入射イオンの軌跡を追跡していくものである。
【0003】
この理論は、任意のイオンを任意の基板にイオン注入した場合の一般的な場合にも有効であり、電子阻止能をチューニングすればその精度をさらに向上させることができる。
図15は、計算モデルであり、質量数M1 ,原子番号Z1 ,エネルギーT1i(速度v1i)のイオンが、基板を構成する質量数M2 ,原子番号Z2 の原子と相互作用して伝達するエネルギーT2fは、散乱角度をΦ、相互作用後のイオンの速度をν1i、基板原子の速度をν2iとすると、
2f/T1i=2M2 ν2i2 sin2 (Φ/2)/〔(1/2)M1 ν1i2
=(4M2 /M1 ){〔M1 1i/(M1 +M2 )〕2 /ν1i2
×sin2 (Φ/2)
=〔4M2 1 /(M1 +M2 2 〕sin2 (Φ/2)・・・(1)
と表現される。
【0004】
ここで、イオンと基板原子の距離をr、衝突パラメータをb、ポテンシャルエネルギーをV(r)とすると、伝達エネルギーT2fは、下記の式(2)として求まる。
【数1】

つまり、注入されたイオンは、核との相互作用により、
ΔEn =T2f
のエネルギーを失う。
【0005】
また、相互作用に伴う散乱角度Φは、下記の式(3)で表される。
【数2】

ここで、半径bの円周上の位置、即ち角度θは、Rand(n)をnが0から1の間の乱数とすると、
θ=2πRand(n)
の関係から求まる。
【0006】
これにより、衝突後のエネルギーと方向が決まる。
次に、新たに注入エネルギーで同様の計算を繰り返し、イオンの軌跡をトレースしていけば良い。
しかし、実際の衝突のたびに、上記の式(3)で表される積分を毎回実行するのは計算コストが膨大になるため、ZieglerはMagic formulaを提案し、この積分を簡単なプロトコルで解いている。
また、シミュレータTSUPRMでは、計算結果をテーブル化しその内挿でこの値を評価している。
【0007】
なお、上記の式(3)における各パラメータを規格化したユニバーサルな変数で表すと、下記の式(4)で表される。
【数3】

但し、aB をボーア径とすると、
ρ=r/aU
η=b/aU
U =0.8854aB /(Z10.23 +Z20.23
である。
また、エネルギーは、
ε=EC /(Z1 2 2 /aU
c =(1/2)Mc 1i2
1/Mc =1/M1 +1/M2
である。
また、ポテンシャルエネルギーV(r)として、下記のZiegler−Litmark−Biersak(ZLB)のポテンシャルエネルギーを用いる(例えば、非特許文献1参照)。
V(r)=(e2 1 2 /r)f(ρ)
但し、
【数4】

【0008】
しかしながら、上述の計算コスト低減の手法を導入しても、Monte Carloシミュレーションは、粒子の各軌跡を追うため、統計誤差を減らすためには数万個以上の計算をする必要があり、時間がかかるという問題がある。
【0009】
そこで、電子阻止能Se 、核阻止能Sn が与えられた時、イオン注入分布が従うべき積分方程式が、Lindhart,Scharf,Schiottによって提案され(例えば、非特許文献2参照)、このモデルはLSS理論と呼ばれている。
【0010】
この理論では、粒子の軌跡を追跡することなしに注入条件が決まれば、積分方程式を解くことによって分布の任意の次数の分布モーメントのエネルギー依存性までを即座に計算できる。
【0011】
この場合、積分方程式を展開し、微分方程式に還元し、それを解いていく必要があり、そのステップで近似が入る。
即ち、伝達エネルギーが初期エネルギーに比べて小さいと仮定してモーメントをエネルギーに関してTaylor展開するが、この展開する次数が解くべき微分方程式の階数となる。
【0012】
また、散乱角度もエネルギーに関してTaylor展開するが、これは解くべき方程式の係数と関連し階数とは無関係である。解析モデルは一階の線形微分方程式の場合のみ任意の係数で一般的に得られる。
このLSS理論ではモーメントに関しては1次、散乱角度に関しては2次までTaylor展開し、線形1階の微分方程式を解きRp 及びΔRp の解析モデル式を導出している。
【0013】
ここで、図16を参照して、LSS理論における注入イオンの飛程Rに関する積分方程式を説明する。
図16はイオンの飛程Rの模式図であり、エネルギーEで注入されたイオンは基板原子と相互作用しながらエネルギーを失い方向を変えながら図に示すように進んでいき、全エネルギーを失い基板中で静止する。
【0014】
この時、イオンが進んだ軌跡の線積分を飛程Rとし、飛程Rの注入方向への射影をRp 、横方向への広がりをRT とする。
また、横方向への広がりのx成分をΔx、y成分をΔyとする。
なお、横方向への広がりは、図面及び以降の積分方程式或いは微分方程式においてはRに「垂直記号」のサフィックスを付けた記号で表すが、明細書本文中では、明細書作成の都合上、「RT 」で表す。
【0015】
表面に垂直にエネルギーEでイオン注入されたイオンがRとR+dRの間で止まる確率をP(E,R)とする。この場合、
【数5】

である。
また、Rに関してm次のモーメントを
【数6】

と定義する。
【0016】
イオンが表面からdR進む間に原子および電子と相互作用する確率は、
NdR∫dσn +NdR∫dσe ・・・(8)
であり、そのそれぞれの相互作用でイオンのエネルギーは、
E−Tn ,E−Te
に減少すると仮定する。
ここで、dσn ,dσe は核阻止能及び電子阻止能と関連する微分断面積である。
【0017】
よって、このイオンが原子および電子と相互作用し、エネルギーを失って飛程Rに止まる確率は、
【数7】

で与えられる。
また、dR進む間に衝突しない確率は、
1−(NdR∫dσn +NdR∫dσe ) ・・・(10)
である。この間にエネルギーは失われないから、イオンがRに止まる確率は、
[1−(NdR∫dσn +NdR∫dσe )]P(E,R−dR) ・・・(11)
となる。よって、
【数8】

となる。
【0018】
ここで、dRを無限小に持っていく極限を考えると、
【数9】

となる。両辺にRm をかけてRについて0から∞まで積分すると、
【数10】

となる。
【0019】
式(14)の左辺を部分積分し、また右辺の積分の順序を入れ換えると、
【数11】

式(15)における左辺の第1項は0である。また
【数12】

と表現するが、これはRm の期待値に相当する。
【0020】
ここで、式(16)を用いると、式(15)は、
【数13】

となり、これが飛程Rに関するm次の積分方程式である。
ここで、飛程Rに関しては1次に関してのみ解析する。式(17)においてm=1とおいて
【数14】

を得る。これが、飛程Rの従うべき積分方程式である。
【0021】
次に、式17をTn ,Te ≪Eの近似のもとで1次の項までを残し解いていく。この近似は伝達エネルギーが小さいということを仮定をしている。
この場合、核との相互作用に関しては広角散乱を無視する近似に相当し、電子との相互作用に関しては、エネルギーが高いほどTe は大きくなる。このため、比較的エネルギーの低い場合に近似の精度は良くなってくる。
この解を1次のものであることを意識して〈R(E)〉(1) と表現する。
【0022】
次に、式(18)の両辺をNで割るとともにTaylor展開することにより、
【数15】

となる。ここで、
n =∫Tn dσn ,Se =∫Te dσe ・・・(20)
を利用している。式(19)より、良く知られている、
【数16】

が導出される。
【0023】
次に、図17を参照して、Rp (E,cosφ),RT (E,cosφ),Rp (E),RT (E)の幾何学的関係を説明する。
図17は、Rp (E,cosφ),RT (E,cosφ),Rp (E),RT (E)の幾何学的関係の説明図であり、エネルギーE、角度φで入射したイオンが基板内のA点に静止した状況を模式図的に示している。
入射角度0の軸に垂直な面上での横方向の広がりをRT (E,cosφ)とすると、入射方向に垂直な軸に対する射影Rp (E)が、入射方向に垂直な面に対する横方向広がりがRT (E)と考えることができる。よって、
【数17】

【0024】
以上の幾何学的関係を基にして、次に、Rp ,RT ,Rp T の従うべき積分方程式を導出していく。
エネルギーEで、角φで散乱されたイオンの射影飛程がRp とRp +dRp の間で止まる確率をPp (E,Rp ,cosφ)とする。
φ=0の場合の確率をPp (E,Rp )とする。また、Rp に関してm次のモーメントを、
【数18】

と定義する。
【0025】
入射イオンがdRp 進む間に原子および電子と相互作用する確率は、飛程Rの場合と同様に、
NdRp ∫dσn +NdRp ∫dσe ・・・(25)
であり、この相互作用でのエネルギーは、
E−Tn ,E−Te
に減少する。
【0026】
この場合、電子との相互作用による散乱角は0とみなすので、このイオンが原子および電子と相互作用し、エネルギーTn ,Te を失ってRp に止まる確率は、
【数19】

で与えられる。
また、dR進む間に衝突しない確率は、
1−(NdRp ∫dσn +NdRp ∫dσe ) ・・・(27)
である。この間にエネルギーは失われないから、イオンがRp に止まる確率は、
[1−(NdRp ∫dσn +NdRp ∫dσe )]P(E,Rp −dRp
・・・(28)
となる。よって、
【数20】

となる。
【0027】
ここで、dRp を無限小にもっていく極限を考えると、
【数21】

となり、両辺にRm p をかけてRp について0から∞まで積分すると、
【数22】

とm次の〈Rm p (E)〉に関する積分方程式が導出される。
【0028】
次に、分布の横方向への広がりを表すRT について考える。
エネルギーE、入射角φで注入されたイオンがRT とRT +dRT の間に止まる確率をPT (E,RT ,cosφ)とする。
この時、入射角φのイオンがdRT 進む間に原子および電子と相互作用する確率は、
【数23】

である。よって、このイオンが相互作用しエネルギーTn ,Te を失ってRT に止まる確率は、
【数24】

で与えられる。
【0029】
この場合も電子との相互作用では角度の変化はなく、さらにこの場合はRT も変化しないことを仮定している。また、dRT 進む間に衝突しない確率は、
【数25】

である。この間にエネルギーは失われず、角度も変化しないためRT も変化しない。よって、イオンがRT に止まる確率は、
【数26】

となる。
【0030】
以上より、
【数27】

となる。
【0031】
ここで、dRT を無限小にもっていく極限を考えると、
【数28】

となり、両辺にRm T をかけてRT について0から∞まで積分すると、
【数29】

と〈Rm T (E)〉に関する積分方程式が導出される。
【0032】
まず、飛程の射影Rp を求めるために、式(31)においてm=1とすると下記の式(39)となる。
【数30】

ここで、1次のテーラー展開した解を〈Rp (E)〉(1) とおくと、下記の式(40)となる。
【数31】

【0033】
これから、下記の式(41)が得られる。
【数32】

但し、α(E)及びα(E′)は、下記の式(42)で表される。
【数33】

【0034】
次に、2次のモーメントΔRp 及びΔRptを求めるために、式(31)及び式(38)においてm=2とすると下記の式(43)及び式(44)となる。
【数34】

【0035】
ここで、Lindhartは下記の式(45)及び式(46)で定義される変数〈R2 c (E)〉及び〈R2 r (E)〉を導入した。
【数35】

【0036】
〈ΔR2 p (E)〉と〈R2 T (E)〉は、変数〈R2 c (E)〉及び〈R2 r (E)〉と下記の式(47)及び式(48)で関連づけられる。
【数36】

【0037】
また、横方向の偏差〈ΔR2 pt(E)〉は〈ΔX2 〉と関連し、〈R2 T (E)〉そのものではない。したがって、
〈R2 T (E)〉=〈ΔX2 〉+〈ΔX2 〉=2〈ΔR2 pt(E)〉・・・(49)
となり、これより、
〈ΔR2 pt(E)〉=〈R2 T (E)〉/2 ・・・(50)
となる。
【0038】
Lindhartはこれらの変数を導入することにより、下記の式(51)及び式(52)の独立な微分方程式を得ることに成功した。
【数37】

【0039】
また、Gibbonsは、このモデル式にエネルギーに依存しない核阻止能を代入し、Si中のB,N,Al,P,Ga,As,In,SbのRp ,ΔRp を評価し、いくつかの実験データと比較し、良い一致を得ている。
さらに、3次までのモーメントを数値的に評価することが検討されている。
【非特許文献1】J.F.Ziegler,J.P.Biersack,and U.Littmark,The stopping and range of ions in solid,Pergamon,1885
【非特許文献2】J.Lindhart,M.Scharff,H.Schiott,Mat.Fts.Medd.Vid.Sclsk,vol.33,pp.1−39,1963
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
しかし、LSS理論では、積分方程式を解く際に近似が必要で、これまでに提案されているモデルではRp は問題ないが、ΔRp は格段に精度が落ちるか、計算できないという問題がある。
【0041】
また、上述のように、3次までのモーメントを数値的に評価することが検討されているが、これらの数値的に解析したデータは系統的に比較されていない。また、比較するうえでも、3次までのモーメントだけでは現在利用されているPearson分布を利用することが出来ないという問題点もある。
【0042】
即ち、核阻止能モデル、電子阻止能モデルの種類、積分方程式の展開の仕方によってLSS理論から導かれる結果はさまざまになる。LSS理論で扱われている近似の精度は同じ核阻止能モデル、電子阻止能モデルを使ったMonte Carlo計算と比較することによって正確に評価される。
【0043】
しかしながら、精度の高い核阻止能、電子阻止能を使ってMonte CarloとLSS理論の比較がこれまでなされていない。さらに実際の分布は4次のモーメントまで利用して初めて精度よく表現される。
したがって、これまでのLSS理論では、現在利用されているPearson関数と対応づけることはできない。
【0044】
また、衝突パラメータbと散乱角度Φの相関からイオン注入分布を求める場合も、Monte Carloは粒子の各軌跡を追うため、統計誤差を減らすためには数万個以上の計算をする必要があるため時間がかかる。
この計算を進めていく上で一番時間のかかるのが散乱角度を評価するための積分である。
【0045】
また、衝突と次の衝突の間の距離Lをいくらにとるのかも計算時間に影響をおよぼす。
これまでは平均原子間距離Lmin が利用されており、この場合は相互作用が無視できるような場合でも散乱を計算してしまうため計算時間が膨大になるという問題がある。
【0046】
したがって、本発明は、実験データを再現するMonte Carlo simulatorと同じ核阻止能、電子阻止能を用いたLSS理論の積分方程式から、2次、3次の摂動計算によってRp ,ΔRp ,ΔRpt,γの解析モデルを導出して計算時間を大幅に短縮することを目的とする。
【0047】
また、Monte Carloを用いる場合にも、散乱角度を評価するための積分を解析的に表現する近似式で置き換えて計算時間を大幅に短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0048】
本発明の一観点によると、半導体に注入するイオンの飛程の射影Rp の2次の項まで考慮した射影〈Rp (E)〉(2) を、1次の項まで考慮した既知の射影を〈Rp (E)〉(1) とした時に、摂動項Δp (2) (E)を用いて、
〈Rp (E)〉(2) =〈Rp (E)〉(1) +Δp (2) (E)
とした近似式を用いた2次の摂動モデルを用いて求めるイオン注入発生方法が提供される。
【0049】
また、別の観点によると、基板に注入したイオンの散乱角度Φをモンテ・カルロ法で求める際に、散乱角度Φを、飽和する一定高角度の項、低角度の項、中間角度の項の3つの項の和の逆数で解析式として表すイオン注入分布発生方法が提供される。
【0050】
さらに、別の観点によると、上述の各種のイオン注入分布発生方法に関する計算式が組み込まれたシミュレータが提供される。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、精度の高い解析モデルを導出し、さらに高次のモーメントを高精度で予想できるようになった。これにより、現在標準的に用いられているPearson分布のパラメータを初めて解析的に求めることが可能になる。
したがって、任意不純物を任意非晶質基板にイオン注入した分布のエネルギー依存性が瞬時に予想できるようになる。
また、この分布発生ソフトにより横方向の分布の深さ依存性も予想できる。
【0052】
さらに、Monte Carloを用いる場合にも、散乱角度を評価するための積分を解析的に表現する近似式で置き換えてることによって、計算時間を大幅に短縮することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
まず、1次乃至3次の各阻止能について、計算しておく。
1次の核阻止能Sn (E)は、下記の式(53)で与えられる。
【数38】

また、ユニバーサルな核阻止能Sn (ε)は、下記の式(54)で与えられる。
【数39】

【0054】
ここで、上述のZLBポテンシャルを利用すると、ユニバーサルな核阻止能Sn (ε)は、下記の式(55)で近似される。
【数40】

【0055】
この阻止能は高次のものにも拡張され、2次のモーメントに対応する拡張された核阻止能Ωn 2 は、下記の式(56)で表される。
【数41】

但し、ユニバーサルな拡張された核阻止能Ωn 2 (ε)は下記の式(57)で表される。
【数42】

これも、下記の式(58)で近似的に表現される。
【数43】

【0056】
さらに、3次のモーメントに対応する拡張された核阻止能Λn 3 は、下記の式(59)で表される。
【数44】

但し、ユニバーサルな拡張された核阻止能Λn 3 (ε)は下記の式(60)で表される。
【数45】

これも、下記の式(61)で近似的に表現される。
【数46】

【0057】
ここで、上記式(22)及び式(23)に基づいて、以下の計算で利用する各パラメータRp 2 (E,cosφ),Rp 3 (E,cosφ)、Rp T 2 (E,cosφ)を予め下記の通り計算しておく。
【数47】

【0058】
ここで、上記の図17に示したように、空間の対称性から点Cの存在する平面上でCを中心とする半径RT (E)の円上の点はAと等価と考えることができる。
よって、βは0から2πの値を同じ確率で取ると仮定できる。
そこで、式(62)乃至式(64)をβに関して0から2πまで積分したものを2πで割りその平均値を評価する。
【0059】
【数48】

を参考にしてこれらの平均値は、
【数49】

となる。ここで、
【数50】

である。
【0060】
次に、γ等の高次のモーメントを求めるために必要なクロスタームに関する積分方程式を下記の式(73)として導出した。
【数51】

が得られる。
【0061】
次に、飛程の射影Rp について、上記の式(39)を2次まで展開した解を〈Rp (E)〉(2) とおくと、
【数52】

となる。
但し、Ωn 2 =∫Tn 2 dσn ,Ωe 2 =∫Te 2 dσe
を利用している。
なお、一般に、Ωe 2 ≪Ωn 2 であるので、実際の計算ではΩe 2 は無視する。
【0062】
上記の式(74)は2階の微分方程式になり、解析的に解くことはできない。そこで摂動近似で2次の近似式〈Rp (E)〉(2) を、計算可能な既知の〈Rp (E)〉(1) と摂動項Δp (2) を用いて、
〈Rp (E)〉(2) =〈Rp (E)〉(1) +Δp (2) (E) ・・・(75)
と表現する。
【0063】
この式(75)を上記の式(74)に代入し、Ω2 とΔp (2) の積は3次の微小項と見なして落としたのち、上記の1次展開に関する式(40)を利用することによって、
【数53】

が得られ、これより、摂動項Δp (2) は、下記の式(77)で表される。
【数54】

但し、式(77)におけるζp (2) (E)は下記の式(78)で表される。
【数55】

【0064】
このように、未知の〈Rp (E)〉(2) を、計算可能な既知の〈Rp (E)〉(1) と摂動項Δp (2) により近似することによって、飛程の射影Rp の2次の摂動モデルによる値〈Rp (E)〉(2) を数値的に計算することが可能になる。
【0065】
同様に、飛程の射影Rp について、上記の式(39)を3次まで展開した解を〈Rp (E)〉(3) とおくと、
【数56】

となる。
但し、Λn 3 =∫Tn 3 dσn ,Λe 3 =∫Te 3 dσe
を利用している。
【0066】
次に、〈Rp (E)〉(3) はそのままでは計算できないので、上記の式(77)により既知になった〈Rp (E)〉(2) と摂動項Δp (3) を用いて、
〈Rp (E)〉(3) =〈Rp (E)〉(2) +Δp (3) (E) ・・・(80)
と表現する。
【0067】
この近似式を用いて2次の場合と同様に計算すると、摂動項Δp (3) は、下記の式(81)で表される。
【数57】

但し、式(81)におけるζp (3) (E)は下記の式(82)で表される。
【数58】

【0068】
この場合も未知の〈Rp (E)〉(3) を、既知となって計算可能な〈Rp (E)〉(2) と摂動項Δp (3) により近似することによって、飛程の射影Rp の3次の摂動モデルによる値〈Rp (E)〉(3) を数値的に計算することが可能になる。
【0069】
次に、ΔRp とΔRptについて検討する。
まず、式(51)の積分方程式を2次まで展開した解を〈Rc 2 (E)〉(2) とおくと、下記の式(83)が得られる。
【数59】

ここで、未知の〈Rc 2 (E)〉(2) を、計算可能な既知の〈Rc 2 (E)〉(1) と摂動項Δc 2(2)を用いて、
〈Rc 2 (E)〉(2) =〈Rc 2 (E)〉(1) +Δc 2(2) ・・・(84)
とおいて、上記の式(83)を整理すると、左辺は、
2〈Rp (E)〉(2) /N=2{〈Rp (E)〉(1) +Δp (2) (E)}/N であるので、下記の式(85)となる。
【数60】

【0070】
したがって、摂動項Δc 2(2)は、下記の式(86)となる。
【数61】

但し、式(86)におけるζc (2) (E)は下記の式(87)で表される。
【数62】

【0071】
同様に、式(51)の積分方程式を3次まで展開した解を〈Rc 2 (E)〉(3) とおくと、下記の式(88)が得られる。
【数63】

ここで、未知の〈Rc 2 (E)〉(3) を、上記の結果により既知となっった〈Rc 2 (E)〉(2) と摂動項Δc 2(3)を用いて、
〈Rc 2 (E)〉(3) =〈Rc 2 (E)〉(2) +Δc 2(3) ・・・(89)
とおいて、上記の式(88)を整理すると、左辺は、
2〈Rp (E)〉(3) /N=2{〈Rp (E)〉(2) +Δp (3) (E)}/N であるので、下記の式(90)となる。
【数64】

【0072】
したがって、摂動項Δc 2(3)は、下記の式(91)となる。
【数65】

但し、式(91)におけるζc (3) (E)は下記の式(92)で表される。
【数66】

【0073】
次に、式(52)の積分方程式を2次まで展開した解を〈Rr 2 (E)〉(2) とおくと、下記の式(93)が得られる。
【数67】

ここでも、未知の〈Rr 2 (E)〉(2) を、計算可能な既知の〈Rr 2 (E)〉(1) と摂動項Δr 2(2)を用いて、
〈Rr 2 (E)〉(2) =〈Rr 2 (E)〉(1) +Δr 2(2) ・・・(94)
とおいて、上記の式(93)を整理すると、左辺は、
2〈Rp (E)〉(2) /N=2{〈Rp (E)〉(1) +Δp (2) (E)}/N であるので、下記の式(95)となる。
【数68】

【0074】
したがって、摂動項Δr 2(2)は、下記の式(96)となる。
【数69】

但し、式(96)におけるζr (2) (E)は下記の式(97)で表される。
【数70】

【0075】
同様に、式(52)の積分方程式を3次まで展開した解を〈Rr 2 (E)〉(3) とおくと、下記の式(98)が得られる。
【数71】

ここで、未知の〈Rr 2 (E)〉(3) を、上記の結果により既知となっった〈Rr 2 (E)〉(2) と摂動項Δr 2(3)を用いて、
〈Rr 2 (E)〉(3) =〈Rr 2 (E)〉(2) +Δr 2(3) ・・・(99)
とおいて、上記の式(98)を整理すると、下記の式(100)となる。
【数72】

【0076】
したがって、摂動項Δr 2(3)は、下記の式(101)となる。
【数73】

但し、式(101)におけるζr (3) (E)は下記の式(102)で表される。
【数74】

【0077】
以上のパラメータを用いて、2次の摂動モデルによるΔRp(2) ,ΔRpt(2) を、Lindhartが1次の摂動モデルで利用したように、
〈ΔRp 2 (E)〉=〈Rp 2 (E)〉+〈Rp (E)〉2
={〈Rc 2 (E)〉+〈Rr 2 (E)〉}/3−〈Rp (E)〉2 ・・・(103)
〈RT 2 (E)〉 =2{〈Rc 2 (E)〉−〈Rr 2 (E)〉}/3
・・・(104)
〈ΔRpt2 (E)〉=〈RT 2 (E)〉/2 ・・・(105)
で評価する。
但し、2次の場合には、1次と異なり、2次摂動モデルであることを意識して表記すると、上記の式(103)の第1式は、
〔〈ΔRp 2 (E)〉(1) +Δp 2 (2)
=〔〈Rp 2 (E)〉(1) +Δp 2 (2) (E)〕
−〔〈Rp (E)〉(1) +Δp (2) (E)〕2 ・・・(106)
となる。
また、式(104)及び式(105)も同様である。
【0078】
次に、3次の摂動モデルによるΔRp(3) ,ΔRpt(3) についても、Lindhartが1次の摂動モデルで利用したように、
〈ΔRp 2 (E)〉=〈Rp 2 (E)〉+〈Rp (E)〉2
={〈Rc 2 (E)〉+〈Rr 2 (E)〉}/3−〈Rp (E)〉2 ・・・(107)
〈RT 2 (E)〉 =2{〈Rc 2 (E)〉−〈Rr 2 (E)〉}/3
・・・(108)
〈ΔRpt2 (E)〉=〈RT 2 (E)〉/2 ・・・(109)
で評価する。
但し、3次の場合にも、1次と異なり、3次摂動モデルであることを意識して表記すると、上記の式(107)の第1式は、
〔〈ΔRp 2 (E)〉(2) +Δp 2 (3)
=〔〈Rp 2 (E)〉(2) +Δp 2 (3) (E)〕
−〔〈Rp (E)〉(2) +Δp (3) (E)〕2 ・・・(110)
となる。
また、式(108)及び式(109)も同様である。
【0079】
次に、3次のモーメントであるγを求めるために、式(31)において、m=3とおくと、下記の式(111)が得られる。
【数75】

【0080】
また、上記のクロスタームに関する式(73)において、m=1,k=2を代入すると、下記の式(112)が得られる。
【数76】

【0081】
ここで、下記の式(113)及び式(114)で表される変数を導入することによって、式(111)及び式(112)を整理することを試みる。
【数77】

この変数の導入により、下記の式(115)及び式(116)のように、それぞれ変数が〈Rc 3 (E)〉及び〈Rr 3 (E)〉のみの独立な微分方程式を得ることができる。
【数78】

【0082】
この場合の変数〈Rc 3 (E)〉及び〈Rr 3 (E)〉は目的とするモーメントと、下記の式(117)及び式(118)によって関連付けられる。
【数79】

【0083】
一方、3次のモーメントμ3 は、N(x)を規格化した濃度分布とすると、定義により、
μ3 =∫(x−〈Rp (E)〉)3 N(x)dx ・・・(119)
で表される。
したがって、3次のモーメントμ3 は、
μ3 =∫(x−〈Rp (E)〉)3 N(x)dx
=∫(x3 −3x2 〈Rp (E)〉+9x〈Rp (E)〉2
−〈Rp (E)〉3 )N(x)dx
=〈Rp 3 (E)〉−3〈Rp 2 (E)〉〈Rp (E)〉+2〈Rp (E)〉3 ・・・(120)
となる。
【0084】
したがって、
γ={∫(x−Rp (E))3 N(x)dx}/ΔRp 3 ・・・(121)
で定義される分布の非対称性を表す3次のモーメントγは、下記の式(122)で評価される。
【数80】

【0085】
上記の微分方程式の解を下記の式(123)及び式(124)と置くと、
【数81】

摂動項Δc 3(i)についての一般解が、式(125)として得られる。
【数82】

但し、式(125)におけるζc 3(i)は、それぞれ、下記の式(126)乃至式(128)で表される。
【数83】

【0086】
また、他方の変数〈Rr 3 (E)〉に関しても、摂動項Δr 3(i)についての一般解が、式(129)として得られる。
【数84】

但し、式(129)におけるζr 3(i)は、それぞれ、下記の式(130)乃至式(132)で表される。
【数85】

【0087】
次に、横方向の広がりΔRptの深さ依存性について検討する。
横方向の広がりΔRptは深さ依存性を有すると言われており、その依存性は、ΔRpt0 をx=Rp におけるΔRptとすると、
ΔRpt(x)=ΔRpt0 +m(x−Rp ) ・・・(133)
で表現される。
【0088】
そこで、〈RpT23(E)〉からmの評価を試みる。
まず、RT 2 とΔRptは、上述のように、
T 2 =Δx2 +Δy2
=2ΔRpt2
=2〔ΔRpt0 +m(x−Rp )〕2
≒2ΔRpt02+4mΔRpt0 (x−Rp ) ・・・(134)
で関連付けられる。
但し、最後の近似においては、xがRp から遠い地点では濃度が急に減少するから、Rp 近傍のmが重要であるため、mに関連する項は微小であると仮定している。
【0089】
一方、〈RpT23(E)〉はmと下記の式(135)の関係がある。
【数86】

したがって、mは、
【数87】

で表現することができる。
【0090】
一方、Monte Carlo シミュレータによってイオン注入分布を発生させる場合には、毎回の衝突後に上記の式(3)の積分を実行するのではなく、衝突パラメータbと散乱角度Φの関係式を数値的に解いて、その結果をグラフを用いてフィッティングにより解析的な近似式を導く。
【0091】
この近似に際しては、一定高角度の項(π)と低角度の項で表しても良いし、一定高角度の項(π)、低角度の項及び中角度の項の3項で表しても良い。
この場合、低角度の項及び中角度の項を規格化衝突パラメータηを含む項と規格化エネルギーεの積で表す。
【0092】
また、一定高角度の項(π)、低角度の項及び中角度の項をそれぞれ1より大きな数の累乗にして足し合わせたのち、その逆数の累乗をとって散乱角度Φを近似する。
【実施例1】
【0093】
以上を前提として、ここで、図1乃至図4を参照して、本発明の実施例1のイオン注入分布発生方法を説明する。
図1は、本発明の実施例1のイオン注入分布発生方法のフローチャートであり、まず、a.基板種、注入不純物種、注入エネルギー、及び、ドーズ量からなる注入条件を入力す る。次いで、上記の式75乃至式106で説明したように、
b.2次の摂動モデルを用いて1次のモーメントである飛程の射影Rp と、2次のモーメ ントである射影Rp の偏差ΔRp 及び横方向の偏差ΔRptを求める。次いで、
c.求めたRp とΔRp から1次元分布のガウス分布を発生させるとともに、Rp 、ΔR p 及びΔRptから2次元のガウス分布を発生させる。
【0094】
図2は、本発明の実施例1のイオン注入分布発生方法により求めたRp とΔRp を他のシミュレーションによって得たRp とΔRp と比較したものである。
ここでは、Monte Carlo法による結果とともに、LSS理論による1次の摂動モデルによる結果、及び、上述のGibbonsによる結果を1.5次の摂動モデルとして示している。
【0095】
図から明らかなように、1次のモーメントである飛程の射影Rp については、全てのシミュレーション結果が良好な一致を見せている。
しかし、2次のモーメントである射影Rp の偏差ΔRp については、LSS理論による1次の摂動モデルによる結果に比べて、本発明の実施例1の2次の摂動モデルによる結果はMonte Carlo法による結果と非常に良好な一致が見られる。
なお、1.5次の摂動モデルは、射影Rp の偏差ΔRp については、積分方程式の分母に発散項を含んでいるため、計算不能となっている。
【0096】
図3は、本発明の実施例1のイオン注入分布発生方法により求めた1次元分布であり、ここでは、Si基板にP(リン)イオンを10keVで1×1015cm-2注入した場合の結果を示している。
図から明らかなように、綺麗なガウス分布を示している。
【0097】
図4は、本発明の実施例1のイオン注入分布発生方法により求めた2次元分布であり、ここでも、Si基板にP(リン)イオンを10keVで1×1015cm-2注入した場合の結果を示している。
なお、この場合には、イオン注入マスクはイオンを全く透過しないものとしてシミュレーションしている。
【0098】
このように、本発明の実施例1においては、2次の摂動モデルを用いることにより、簡単な計算により、Monte Carlo法に比べて極めて短時間で射影Rp 、偏差ΔRp 、横方向の偏差ΔRptをMonte Carlo法に近い精度で求めることができる。
【0099】
なお、この実施例1においては、2次の摂動モデルであるので、2次のモーメントまでしか精度良く求めることができないので、発生できるイオン注入分布はガウス分布となる。
しかし、実際にLSSプロセスシミュレーションで標準的に利用されているPearson分布は、γやβ等のより高次のモーメント情報が必要である。
【実施例2】
【0100】
ここで、3次及び4次のモーメントを求めて、より実測結果に近いPearson分布を発生させるために、3次の摂動モデルを用いた本発明の実施例2のイオン注入分布発生方法を説明する。
図5は、本発明の実施例2のイオン注入分布発生方法のフローチャートであり、まず、a.基板種、注入不純物種、注入エネルギー、及び、ドーズ量からなる注入条件を入力す る。次いで、上記の式79乃至式135で説明したように、
b.3次の摂動モデルを用いて1次のモーメントである飛程の射影Rp と、2次のモーメ ントである射影Rp の偏差ΔRp 及び横方向の偏差ΔRptを深さ依存性を有するよう にを求める。また、3次のモーメントであるγを求めるとともに、4次のモーメント であるβを経験的に求める。次いで、
c.求めたRp 、ΔRp 、γ及びβからから1次元分布を発生させるとともに、Rp 、Δ Rp 、γ、β及び深さ依存性ΔRptから2次元分布を発生させる。
【0101】
ここでは、4次のモーメントであるβの求め方を説明する。
βも他のモーメントと同様にLSS積分方程式を解くことによって原理的には求めることができるが、3次のモーメントγの場合よりも更に複雑になり、なおかつ数値的に不安定である。
そこで、イオン注入分布はそれほど特異な変形をしないため、βとγの間にはユニバーサルが関係があることをMonte Carloで示し、それを経験式で表現したものを利用する。
【0102】
図6は、Monte Carloによるシミュレーション結果をβとγとの関係として示したものである。
なお、ここでは、Si基板に対してB、As、及び、Pをそれぞれ、10keV、20keV、40keV、80keV、160keV、及び、320keVでイオン注入した場合の結果を示している。
【0103】
この相関関係は、
β=2.661+1.852γ2 ・・・(137)
と表現される。
この近似式を用いて、3次の摂動モデルにより求めたγからβを求めて、上述の1次元分布及び2次元分布を発生させれば良い。
【0104】
但し、この関係式(137)は、図に示すようによく利用されるPearson IVの領域になく、Pearson I、II、III、VIの領域を横切っている。
そこで、図にβD2として示すように、βを5%増加させて強制的にPearson IVの下記の式(137)で示される臨界値βD2に移動させて用いる。
βD2=〔3(13γ2 +16)+6(γ2 +4)3/2 〕/(32−γ2
・・・(138)
【実施例3】
【0105】
次に、衝突パラメータbと散乱角度Φの関係式を解析的に表現して計算コストを低減する本発明の実施例3のイオン注入分布発生方法を説明する
上記の式(1)において、伝達エネルギーT2fが、ある程度小さくなれば、例えば、10eV程度になれば、それ以上大きなbは考える必要がない。
つまり核との相互作用はないと考えることができる。
【0106】
このような伝達エネルギーをT2fc とすると、この場合の散乱角度Φc も小さいと考えることができるので、sin2 (Φ/2)はΦc 2 /4で近似することができる。
したがって、上記の式(1)は、
2fc /T1i =〔4M2 1 /(M1 +M2 2 〕×Φc 2 /4 ..(139)8なる。これより散乱角度Φc
Φc ={〔(M1 +M2 2 /M2 1 〕×(T2fc /T1i)}1/2 ・・(140)と求まる。
ここで、散乱角度Φc に対応する衝突パラメータをbmax とすると、散乱角度Φc は下記の式(141)で表される。
【数88】

【0107】
実際は衝突のたびにこの積分からbmax を求めるのは計算コストがかかるため、予め式(3)からbとΦとの関係式を数値的に解いて、その結果をフィッティングにより解析的に表現する式を用いる。
なお、フィッティングに際しては、上記の式(3)と同様なユニバーサルな変数で示した下記の式(142)を用いる。
【数89】

但し、ここでは、 η=bmax /aU ・・・(143)
であり、bmax に対応するρがρmin である。
【0108】
図7は、散乱角度Φのエネルギーε依存性の説明図であり、上記の式(142)を数値的に解いた結果を実線で示している。
ここで、各ηについて、フィッティングの結果、
Φc =〔(1/π)+1/(a(η)ε-0.98 )〕-1 ・・・(144)
で合わせ込んだ結果を破線で示している。
【0109】
図に示すように、角度が大きくなって飽和に向かう領域でフィッティングはうまくいっていない。しかし、実際に利用するのは数度の角度、つまり10-2radian の領域であるから問題ない。また、この領域は簡便に、
Φc =a(η)ε-0.98 ・・・(145)
と表現される。ただし、a(η)は下記の式(146)で表される。
【数90】

【0110】
しかし、実際に利用するにはηをaであらわしたη(a)が便利であるので、a−ηの関係式からフィッティングする。
図8は、上記の式(146)におけるaのη依存性を説明図であり、これを逆のηのa依存性として示したのが図9である。
この図9からフィッティングにより求めたη(a)が下記の式(147)で表される。
【数91】

これから、
a=Φc /ε-0.98 ・・・(148)
の場合のηが、上記の式(146)から求まる。
さらに、ηが求まると、上記の式(142)からbmax が求まる。
【0111】
核との相互作用の衝突断面積σn
σn =πbmax 2 ・・・(149)
と考えることができる。
ここで、基板原子の濃度をNとすると:
LNσn =1 ・・・(150)
となる距離Lだけ進むと一回衝突すると考えることができる。
【0112】
そこで、エネルギーEのイオンが距離Lの間は核との相互作用なしに進み、その後に核と相互作用する、と現象を記述する。L進む間は電子とのみ相互作用すると考える。
即ち、L進む間は電子との相互作用で
ΔEc =Se (E)L ・・・(151)
のエネルギーを失う。
L進んだ後の核との相互作用は衝突パラメータbを0からbmax までの円上の点をランダムに選ぶ。つまり
b=bmax 〔Rand(n)〕1/2 ・・・(152)
とする。
但し、Rand(n)はnが0から1の間の乱数である。
【0113】
Lは原子間の平均距離Lmin (=1/N1/3 )より小さくなった場合は、
L=Lmin ・・・(153)
としなければならない。この場合、衝突と関連する面積は矩形で、 σn =Lmin 2 ・・・(154)
となる。
これをこれまで扱ってきた衝突パラメータに焼きなおすと、この場合のbmax は、上記の式(149)から、
max =Lmin /π1/2 ・・・(155)
となる。
したがって、このbmax を使って上記の式(152)にしたがって乱数を発生させてbを定めて行けば良く、注入エネルギーが上記の式(141)が精度良く成立する予め定めた最低臨界エネルギーに達するまで計算を行う。
【0114】
図10は、10個の粒子の軌跡の各Lを示したもので、ここでは、Lmin で規格化しており、LはLmin の10倍程度から徐々に小さくなってくる。
したがって、常にLmin を用いた場合より計算回数が著しく少なくなり、計算時間が短縮される。
なお、図においては10個の粒子の各Lを各々L1〜L10で示している。
【0115】
図11は、イオン注入分布の説明図であり、ここでは、Bイオンを40keVの加速エネルギーで、1×1015cm-2注入した場合のイオン注入分布を示している。
図から明らかなように、本発明の実施例3の可変Lで求めたイオン注入分布は、常に、Lmin を用いた場合と計算結果はほとんど変わらず、且つ、SIMSによる実測結果を良好に表している。
【0116】
ここで、複数の原子から基板が構成されている場合の取り扱いを考える。
原子iがni 個あるとする。それぞれの原子の臨界角度Φci
Φci={〔(M1 +M2i2 /M1 2i〕×(T2fc /T1i)}1/2 ・・(156)と求まり、これから衝突断面積σniが計算でき、トータルの衝突断面積σn は、下記の式(156)で表される。
【数92】

【0117】
ここで、基板原子の濃度をNとすると、
LNσn =1 ・・・(158)
となる距離Lだけ進むと一回衝突すると考えることができる。
【0118】
その衝突で原子iと衝突する確率は、下記の式(159)で表される。
【数93】

そこで、その確率に対応させて乱数を発生させて原子iを選択する。選択した後は構成原子が一種類の場合と同じである。
また、Lが、下記の式(160)より小さくなった場合には、L=Lmin としなければならない。
【数94】

【0119】
また、この場合は衝突断面積は原子密度で決定されるから、その衝突で原子iと衝突する確率は2種類の場合と同様と考えると、bmaxiは、
maxi=(rσni/π)1/2 ・・・(161)
となる。但し、rは下記の式(162)で表される。
【数95】

【0120】
このように、本発明の実施例3においては、散乱角度が小さい場合に場合に、積分からではなく、フィッティングによって求めた近似式を用い、且つ、可変Lを用いて解析的にイオン注入分布を求めているので、計算精度を落とすことなく計算回数を著しく少なくすることができる。
【実施例4】
【0121】
次に、散乱角度が大きい場合にも有効であるように、遷移領域での精度を向上させるために、式(144)を拡張した本発明の実施例4のイオン注入分布発生方法を説明する。
図12は、散乱角度Φのエネルギーε依存性の説明図であり、上記の式(3)を数値的に解いた結果を実線で示している。
また、図13は、図12における1〜3ラジアンの範囲を拡大した図である。
ここで、各ηについて、フィッティングの結果、
Φ=1/{(1/π)3/2 +〔1/(a(η)ε-0.98 )〕3/2
+〔1/g(η)ε-0.23/2 2/3 ・・・(163)
で合わせ込んだ結果を破線で示している。
【0122】
なお、ここで、中間の散乱角度に対応する項g(η)は、
g(η)=〔1/(4.0η-0.46 )+1/(9.0η-1.3)〕-1
=4.0η-0.46 /(1+0.44η0.84) ・・・(164)
で表され、図14に示すη依存性が見られる。
【0123】
図12及び図13から明らかなように、低角度から高角度まで精度良く積分による数値計算の結果を再現している。
なお、上記の式(163)における(1/π)3/2 が高角度の項に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明の実施例1のイオン注入分布発生方法のフローチャートである。
【図2】本発明の実施例1のイオン注入分布発生方法により求めたRp とΔRp の説明図である。
【図3】本発明の実施例1のイオン注入分布発生方法により求めた1次元分布である。
【図4】本発明の実施例1のイオン注入分布発生方法により求めた2次元分布である。
【図5】本発明の実施例2のイオン注入分布発生方法のフローチャートである。
【図6】Monte Carloによるシミュレーション結果をβとγとの関係として示した図である。
【図7】散乱角度Φのエネルギーε依存性の説明図である。
【図8】式(146)におけるaのη依存性を説明図である。
【図9】ηのa依存性を説明図である。
【図10】各軌跡のLの説明図である。
【図11】イオン注入分布の説明図である。
【図12】散乱角度Φのエネルギーε依存性の説明図である。
【図13】図12における1〜3ラジアンの範囲の拡大図である。
【図14】gのη依存性の説明図である。
【図15】計算モデルである。
【図16】イオンの飛程Rの模式図である。
【図17】Rp (E,cosφ),RT (E,cosφ),Rp (E),RT (E)の幾何学的関係の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体に注入するイオンの飛程の射影Rp の2次の項まで考慮した射影〈Rp (E)〉(2) を、1次の項まで考慮した既知の射影を〈Rp (E)〉(1) とした時に、摂動項Δp (2) (E)を用いて、
〈Rp (E)〉(2) =〈Rp (E)〉(1) +Δp (2) (E)
とした近似式を用いた2次の摂動モデルを用いて求めることを特徴とするイオン注入発生方法。
【請求項2】
前記半導体に注入するイオンの飛程Rp の2次の項まで考慮した偏差ΔRp (E)(2) を、2次の項まで考慮した既知の飛程Rp の横方向広がりを〈RT 2 (E)〉(2) とした時、
〈Rc 2 (E)〉≡〈Rp 2 (E)〉+〈RT 2 (E)〉、及び、
〈Rr 2 (E)〉≡〈Rp 2 (E)〉−〈RT 2 (E)〉/2
で定義される、〈Rc 2 (E)〉及び〈Rr 2 (E)〉を用い、それぞれ、1次の項まで考慮した既知の〈Rc 2 (E)〉(1) 、〈Rr 2 (E)〉(1) 、摂動項Δc 2(2)(E)及び摂動項Δr 2(2)(E)を用いて、
〈Rc 2 (E)〉(2) =〈Rc 2 (E)〉(1) +Δc 2(2)(E)、及び、
〈Rr 2 (E)〉(2) =〈Rr 2 (E)〉(1) +Δr 2(2)(E)
と近似した〈Rc 2 (E)〉(2) 、〈Rr 2 (E)〉(2) と前記〈Rp 2 (E)〉(2) を用いて
〈ΔRp 2 (E)〉(2) ={〈Rc 2 (E)〉(2) +2〈Rr 2 (E)〉(2) }/3
−〈Rp 2 (E)〉(2)
とした近似式を用いた2次の摂動モデルを用いて求めることを特徴とする請求項1記載のイオン注入発生方法。
【請求項3】
前記半導体に注入するイオンの飛程の射影Rp の3次の項まで考慮した射影〈Rp (E)〉(3) を、前記〈Rp (E)〉(2) 及び摂動項をΔp (3) (E)を用いて、
〈Rp (E)〉(3) =〈Rp (E)〉(2) +Δp (3) (E)
とした近似式を用いた3次の摂動モデルを用いて求めることを特徴とする請求項1記載のイオン注入発生方法。
【請求項4】
前記半導体に注入するイオンの飛程Rp の3次の項まで考慮した偏差ΔRp (E)(3) を、3次の項まで考慮した既知の飛程Rp の横方向広がりを〈RT 2 (E)〉(3) とした時、
〈Rc 2 (E)〉≡〈Rp 2 (E)〉+〈RT 2 (E)〉、及び、
〈Rr 2 (E)〉≡〈Rp 2 (E)〉−〈RT 2 (E)〉/2
で定義される、〈Rc 2 (E)〉及び〈Rr 2 (E)〉を用い、それぞれ、2次の項まで考慮した既知の〈Rc 2 (E)〉(2) 、〈Rr 2 (E)〉(2) 、摂動項Δc 2(3)(E)及び摂動項Δr 2(3)(E)を用いて、
〈Rc 2 (E)〉(3) =〈Rc 2 (E)〉(2) +Δc 2(3)(E)、及び、
〈Rr 2 (E)〉(3) =〈Rr 2 (E)〉(2) +Δr 2(3)(E)
と近似した〈Rc 2 (E)〉(3) 、〈Rr 2 (E)〉(3) と前記〈Rp 2 (E)〉(3) を用いて
〈ΔRp 2 (E)〉(3) ={〈Rc 2 (E)〉(3) +2〈Rr 2 (E)〉(3) }/3
−〈Rp 2 (E)〉(3)
とした近似式を用いた3次の摂動モデルを用いて求めることを特徴とする請求項3記載のイオン注入発生方法。
【請求項5】
前記半導体に注入するイオンの飛程Rp の3次の項まで考慮した横方向の広がりパラメータ〈ΔRpt2 (3) を、前記〈RT 2 (E)〉(3) を用いて、
〈ΔRpt2 (2) =〈RT 2 (E)〉(2) /2
として2次の摂動モデルを用いて求めることを特徴とする請求項3記載のイオン注入分布発生方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のイオン注入分布発生方法に関する計算式を組み込んだシミュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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