イオン注入分布発生方法及びシミュレータ
【課題】 イオン注入分布発生方法及びシミュレータに関し、1keV程度の低エネルギー領域から数MeVの高エネルギー領域に渡って、実際のイオン注入分布を精度良く再現する。
【解決手段】 注入イオンの軌跡をモンテカルロ法によって計算してイオン注入分布を発生させる際に、前記注入イオンに対する電子阻止能Seを、リントハルトモデルの電子阻止能SeLと、ベーテモデルの電子阻止能SeBを修正した修正電子阻止能Se-mBとの組合せにより表す。
【解決手段】 注入イオンの軌跡をモンテカルロ法によって計算してイオン注入分布を発生させる際に、前記注入イオンに対する電子阻止能Seを、リントハルトモデルの電子阻止能SeLと、ベーテモデルの電子阻止能SeBを修正した修正電子阻止能Se-mBとの組合せにより表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン注入分布発生方法及びシミュレータに関するものであり、モンテカルロシミュレーションにより広いエネルギー範囲において精度の高いイオン注入分布を発生させるための電子阻止能Seの設定の仕方に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン集積回路装置において、シリコン基板への不純物の導入はイオン注入で行われるのが一般的である。このようなシリコン集積回路装置のプロセス構築に際しては、必要な素子構造を得るためのイオン注入条件を決定する必要があるが、このようなイオン注入条件をシミュレーションにより決定することが行われている。
【0003】
従来、商品化されたシミュレータにおいては、膨大なイオン注入データベースに基づいてこのようなシリコン基板におけるイオン注入プロファイルを予測している。このイオン注入データベースは、ガウス関数、ジョイントハーフガウス関数、ピアソン関数、デュアルピアソン関数、或いは、テール関数等の解析的関数に対するパラメータのセットとなる。
【0004】
これらの解析的モデルは、イオン注入プロファイルを表すためのものにすぎず、物理的な根拠によるものではない。したがって、イオン注入分布に関する実験データが少ない場合には、精度の高い予測が不可能であるという問題がある。
【0005】
近年、C、N或いはF等の各種のイオンが、後工程におけるアニール処理に伴う一時的な拡散を抑制するために用いられており、これらのイオンのプロファイルの理論的予測が要請されている。
【0006】
このような要請に応えるものとして、非晶質層へのイオン注入分布を理論的に予想する手段としてMonte Carlo が知られている。これは、入射イオンと基板との相互作用を、核阻止能Sn及び電子阻止能Seの物理に基づいて、入射イオンの軌跡を追跡していくものである。
【0007】
即ち、入射イオンと基板との相互作用は2つのメカニズムからなると仮定し、一つは、イオンと基板原子の核との相互作用であり、他の一つはイオンと基板原子の電子との相互作用であり、前者が核阻止能Snに対応し、後者が電子阻止能Seに対応する。このような相互作用のメカニズムは、SRIMや他のモンテカルロシミュレータにおけるモンテカルロシミュレーションにおいて直接的に実効されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
この理論は、任意のイオンを任意の基板にイオン注入した場合の一般的な場合にも有効であり、電子阻止能をチューニングすればその精度をさらに向上させることができる。図15は、計算モデルであり、質量数M1,原子番号Z1,エネルギーT1i(速度v1i)のイオンが、基板を構成する質量数M2,原子番号Z2の原子と相互作用して伝達するエネルギーT2f、散乱角度をΦ、相互作用後のイオンの速度をν1i、基板原子の速度をν2i とすると、
T2f/T1i=2M2ν2i2 sin2 (Φ/2)/〔(1/2)M1ν1i2 〕
=(4M2/M1){〔M1v1i/(M1+M2)〕2 /ν1i2 }
×sin2 (Φ/2)
=〔4M2M1/(M1+M2)2 〕sin2 (Φ/2)・・・(1)
と表現される。
【0009】
ここで、イオンと基板原子の距離をr、衝突パラメータをb、ポテンシャルエネルギーをV(r)とすると、伝達エネルギーT2fは、下記の式(2)として求まる。
【数1】
つまり、注入されたイオンは、核との相互作用により、
ΔEn=T2f
のエネルギーを失う。
【0010】
また、相互作用に伴う散乱角度Φは、下記の式(3)で表される。
【数2】
ここで、半径bの円周上の位置、即ち角度θは、Rand(n)をnが0から1の間の乱数とすると、
θ=2πRand(n)
の関係から求まる。
【0011】
また、ポテンシャルエネルギーV(r)として、例えば、下記のZiegler−Litmark−Biersak(ZLB)のポテンシャルエネルギーを用いる(例えば、非特許文献2参照)。
V(r)=(e2 Z1Z2/r)f(ρ) ・・・(4)
但し、
【数3】
なお、ρ=r/auである。
【0012】
これにより、衝突後のエネルギーと方向が決まる。次に、新たに注入エネルギーで同様の計算を繰り返し、イオンの軌跡をトレースしてイオンの分布プロファイルを取得する。
このMonte Carloシミュレーションは、粒子の各軌跡を追うため、統計誤差を減らすためには数万個以上の計算をする必要がある。
【0013】
このようなMonte Carloシミュレーションにおける重要な物理パラメータに上述のイオンと基板原子の電子との相互作用に対応する電子阻止能Seがあり、これに対する標準モデルとしては、下記の式(6)で示すLindhard(リントハルト)のものが知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【数4】
【0014】
このようなLindhardモデルによると、注入エネルギーが数10keVの範囲では比較的良好な予測が可能である。なお、この式(6)においては、各原子に対応するフィッティングパラメータとしてreを加えているが、Lindhardのオリジナルな電子阻止能SeLはre=1に相当する。
【0015】
このLindhardモデルにおける電子阻止能SeLはイオンの電子雲と基板原子との相互作用を仮定している。しかし、高エネルギー領域ではイオンに付随する電子雲がはぎ取られてしまうので、仮定が成り立たず、したがって、高エネルギー領域においては近似が非常に悪くなるという問題がある。
【0016】
このようなモデルの適用限界に対応する臨界速度vcは、v0をボーア速度とすると、
vc=Z12/3v0 ・・・(7)
で表される。したがって、モデルの適用限界に対応する臨界エネルギーEは、
E=(M1/2)vc2 =(M1/2)(Z12/3v0)2 ・・・(8)
となる。因に、B、P及びAsに対する臨界エネルギーは、それぞれ、2MeV、10MeV及び29MeVとなる。近年、ウエル領域の形成のためにMeVオーダーのエネルギーでイオン注入が行われているが、このようなエネルギー領域においてはLindhardモデルは適用できないことになる。
【0017】
一方、高エネルギー領域の専用モデルとして、Bethe(ベーテ)のモデルが知られている(例えば、非特許文献4参照)。このBetheのモデルにおいては電子阻止能SeBは、Nを基板原子の密度、meを電子の質量、Iを平均電子励起エネルギーとすると、下記の式(9)で表される。
【数5】
但し、平均電子励起エネルギーIは、経験的に下記の式(10)で表される。
【数6】
【0018】
このBetheモデルにおいては、注入イオンは電子雲が完全にはぎ取られていることを仮定しており、イオンの注入速度が上記の式(9)で表される臨界速度vc以上の場合に有効となる。
【0019】
そこで、Ziegler(ジーグラー)は、低エネルギー領域ではLindhardのモデルの形式のものを、高エネルギー領域では線形応答理論でBetheのモデルに近いモデルを提案し、それらを繋ぎ、多くの組合せに対して多くのパラメータを設け、幅広いエネルギー領域での電子阻止能モデルを提案している(例えば、上述の非特許文献3参照)。
【0020】
Zieglerは水素イオンを各種の基板に注入した場合の電子阻止能をSe1 とした場合、この電子阻止能Se1 を、経験的に下記の式(11)で表している。
【数7】
なお、式(11)における係数C1,C2,C3,C4は、各基板種毎にテーブルに与えられている。
【0021】
また、原子番号がZ1のイオンに対する電子阻止能Seは、下記の式(12)で表される。
【数8】
なお、式(12)におけるζZ12 は、電子雲の剥奪の程度を表している(必要ならば、上述の非特許文献3参照)。
【0022】
また、Zieglerは低エネルギー領域における電子阻止能SeZ1(E)として、下記の式(13)で表される関係を設定している。
【数9】
なお、式(13)におけるEcはモデルを切り替える臨界エネルギーであり、
Ec/M1=25keV/amu ・・・(14)
で表される。したがって、臨界エネルギーEcにおける電子阻止能SeZ1(Ec)は、式(12)から、下記の式(15)で表される。
【数10】
【0023】
式(13)から明らかなように、Zieglerのモデルの電子阻止能SeZ1は、低エネルギー領域では、E0.45に比例しており、これは、Lindhardのモデルの電子阻止能SeLと同様なエネルギー依存性を示している。
【非特許文献1】SRIM−2003,http://www.srim.org/
【非特許文献2】J.F.Ziegler,J.P.biersack,and U.Litmark,The stopping and range of ions in solid,Pergamom,1985
【非特許文献3】J.Lindhard,and M.Scharff,Phys/Rev.,Vol.124,No.1,1961,p.128
【非特許文献4】H.A.Bethe,Ann.Phys.(Leipzig)Vol.5,1930,p.325
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかし、Zieglerのモデルは、その取扱が複雑であるという問題があり、且つ、実験データで定量性が検証されていないという問題がある。後述するように、SIMSによる実験データと照合した場合には、高エネルギー領域において、SIMSによる実験データからの乖離が大きくなる。
【0025】
また、近年、浅い接合を形成するために1keV程度の低エネルギーにおいてイオン注入が行われているが、このような低エネルギー領域におけるLindhardモデルの精度の信頼性について検証がなされていないという問題がある。これは、1keV程度の低エネルギーにおけるイオン注入に物理的な問題があるのではなく、検証に必要なSIMSにおける解像度限界が影響を与えるためである。
【0026】
したがって、本発明は、1keV程度の低エネルギー領域から数MeVの高エネルギー領域に渡って、実際のイオン注入分布を精度良く再現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の一観点からは、注入イオンの軌跡をモンテカルロ法によって計算してイオン注入分布を発生させるイオン注入分布発生方法であって、前記注入イオンに対する電子阻止能Seを、reをフィッティングパラメータ、Z1を注入イオンの原子番号、Z2を基板を構成する原子の原子番号、M1を注入イオンの質量数、Eを入射エネルギーとした場合、下記の式で表されるリントハルトモデルの電子阻止能SeLと、ベーテモデルの電子阻止能SeBを修正した修正電子阻止能Se-mBとの組合せにより表すことを特徴とするイオン注入分布発生方法が提供される。
【数11】
【0028】
また、本発明の別の観点からは、注入イオンの軌跡をモンテカルロ法によって計算してイオン注入分布を発生させる機能を備えたシミュレータであって、前記注入イオンの電子阻止能として、上述の電子阻止能Seを採用していることを特徴とするシミュレータが提供される。
【発明の効果】
【0029】
開示のイオン注入分布発生方法及びシミュレータによれば、1keV程度の低エネルギー領域から数MeVの高エネルギー領域に渡って、実際のイオン注入分布を精度良く再現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
ここで、図1乃至図11を参照して、本発明の実施の形態のイオン注入分布発生方法を説明するが、その前に、フィッティングパラメータreを伴うLindhardの電子阻止能SeLを用いたモンテカルロシミュレーションの適性を検討する。なお、核阻止能Snとしては従来のモンテカルロシミュレーションで用いられている核阻止能Snを用いる。
【0031】
まず、モンテカルロシミュレーションの適性を検討するために、試料を作成してイオンを注入し、その分布をSIMSによって測定した。試料としては、単結晶Si基板上に減圧化学気相成長法(LPCVD法)により550℃で約1μmの厚さのα−Si膜を成膜してイオン注入用試料とした。また、Geを結晶Siにイオン注入してアモルファス層を形成した試料も用意した。
【0032】
このようなα−Si膜におけるイオン注入分布は、表面及びピーク値近傍における分布が、単結晶Siにおけるイオン注入分布とほぼ同じであるので、イオンのチャンネリングを影響を受けるテール部の分布の相違を無視して、アモルファス膜に対するシミュレーション結果と比較するために単結晶Siにおけるイオン注入プロファイルも利用した。
【0033】
また、SIMSによる測定は、一次イオンをラスタースキャンして放出される二次イオンの内、エッジ効果を回避するために電子的なゲート機構を設けて中央の狭い領域からの二次イオンのみを検出してイオン注入プロファイルを作成した。なお、測定したイオン注入プロファイルは、表面形状測定器(4 Dektak 2A:ULVAC社製商品名)を用いて較正し、また、濃度の尺度は実際のイオンドーズ量で調節した。
【0034】
最近、基本的なSIMSの測定メカニズムが解明され、従来疑念のあった1keV等の低加速エネルギーでのイオン注入による浅い接合のイオン分布プロファイルの精度が改善されており、今回の測定結果も精度の高いものである。
【0035】
図1は、α−Siに80keVの加速エネルギーによりB,P,Asをイオンを注入した場合のSIMSによる測定結果とモンテカルロシミュレータによるシミュレーション結果の説明図である。なお、このシミュレーションにおいては、re=1.0として、Lindhardのオリジナルな電子阻止能SeLを用いている。図1に示すように、AsとPの場合には、SIMSデータとシミュレーション結果の良好な一致が見られるが、Bの場合には、SIMSデータとシミュレーション結果に大きな乖離が見られる。
【0036】
図2は、BイオンにおけるSIMSデータとシミュレーション結果の乖離をなくすために、フィッティングパラメータreを変動させた場合のイオン注入プロファイルの説明図である。図2に示すように、フィッティングパラメータreが大きくなるほどイオン注入プロファイルは浅くなり、re=1.5とした場合に、SIMSデータとシミュレーション結果がプロファイル全体で良好な一致が見られた。
【0037】
図3乃至図8は、各種のイオンに対してフィッティングパラメータreを最適化した場合のイオン注入プロファイルの比較を示したものである。図3(a)は、1×1015cm-2のBイオンをそれぞれ40keV、80keV、160keVでα−Siに注入した場合のプロファイルを示している。Bイオンの場合には、re=1.55が最適値となる。図3(b)は、1×1015cm-2のCイオンをそれぞれ40keV、80keV、160keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Cイオンの場合には、re=1.5が最適値となり、テール部での乖離が見られるが全体的には良好な一致と言える。
【0038】
図4(a)は、1×1015cm-2のNイオンをそれぞれ40keV、80keV、160keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Nイオンの場合には、re=1.4が最適値となり、テール部での乖離が見られるが全体的には良好な一致と言える。図4(b)は、1×1015cm-2のFイオンをそれぞれ40keV、80keV、160keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Fイオンの場合には、re=1.0が最適値となり、テール部での乖離が見られるが全体的には良好な一致と言える。
【0039】
図5(a)は、1×1015cm-2のSiイオンをそれぞれ20keV、40keV、80keV、160keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Siイオンの場合には、re=1.25が最適値となり、テール部での乖離が見られるが全体的には良好な一致と言える。図5(b)は、1×1015cm-2のPイオンをそれぞれ40keV、80keV、160keVでα−Siに注入した場合のプロファイルを示している。Pイオンの場合には、re=1.2が最適値となる。
【0040】
図6(a)は、1×1015cm-2のGaイオンを20keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Gaイオンの場合には、re=1.0が最適値となり、テール部での乖離が見られるが全体的には良好な一致と言える。図6(b)は、1×1015cm-2のGeイオンをそれぞれ20keV、40keV、80keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Geイオンの場合には、re=1.0が最適値となり、テール部での乖離が見られるが全体的には良好な一致と言える。
【0041】
図7(a)は、1×1015cm-2のAsイオンをそれぞれ40keV、80keV、160keVでα−Siに注入した場合のプロファイルを示している。Asイオンの場合には、re=1.0が最適値となる。図7(b)は、1×1015cm-2のInイオンをそれぞれ10keV、20keV、40keV、80keV、160keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Inイオンの場合には、re=1.0が最適値となる。
【0042】
図8(a)は、1×1015cm-2のSbイオンをそれぞれ10keV、20keV、40keV、80keV、160keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Sbイオンの場合には、re=1.0が最適値となる。
【0043】
図8(b)は、各イオンにおけるフィッティングパラメータreの最適値を周期律形式で纏めたものである。図8(b)から明らかなように、reは同じ周期では原子番号が大きくなるにつれて、したがって、図において右に行くにつれて小さくなり、また、同じ属では原子番号が大きくなるにつれて、したがって、周期が大きくなるにつれて小さくなることが分かる。
【0044】
この結果から、数10keV〜百数10keVの範囲では、各イオン毎にフィッティングパラメータreを最適化することによって、モンテカルロシミュレーションによりα−Si中のイオン注入プロファイルを得ることができることが確認された。
【0045】
次に、1keV近傍の低エネルギーイオン注入による浅い接合におけるイオン注入プロファイルの再現性について検討する。図9(a)は、1×1015cm-2のBイオンをそれぞれ0.3keV、0.5keV、1keV、3keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。ここでも、re=1.55とした場合に、SIMSデータとシミュレーション結果の良好な一致が見られる。
【0046】
また、図9(b)は、1×1015cm-2のAsイオンをそれぞれ1keV、3keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。ここでも、re=1.0とした場合に、SIMSデータとシミュレーション結果の比較的良好な一致が見られる。
【0047】
以上の結果から、フィッティングパラメータreは、注入エネルギー依存性を持たず、イオン種固有の値を取ることが分かった。したがって、0.3keV〜百数10keVのエネルギー範囲においては、フィッティングパラメータreを最適化することによって、Lindhardの電子阻止能SeLを用いたモンテカルロシミュレーションにより精度の高いイオン注入プロファイルの予測が可能になることが分かる。なお、各イオンのフィッティングパラメータreの最適値は、SIMSの測定結果から取得して、予めモンテカルロシミュレータにデータベースとして格納しておく。
【0048】
次に、1MeV近傍の高エネルギー領域におけるシミュレーションの妥当性について検討する。図10(a)は、各モデルにおけるBイオンのイオン注入プロファイルを示したものであり、図10(b)は、各モデルにおけるPイオンのイオン注入プロファイルを示したものである。なお、ここでは、便宜上、本発明の提案によるモデルのイオン注入プロファイル(θ=1.45)も併せて示している。
【0049】
上述のように、高エネルギー領域においては、Lindhardのモデルによるプロファイルは、Betheのモデルによるプロファイルから大きく乖離している。Zieglerのモデルによるプロファイルは、元々、Zieglerのモデルが2つのモデルを折衷させたものであるので、低エネルギー領域においてLindhardのモデルに近く、高エネルギー領域においてBetheのモデルに近くなっている。
【0050】
しかし、このZieglerのモデルは後述するように、高エネルギー領域においてはSIMSデータからの乖離が大きいので、精度の高いプロファイルの予測ができない。そこで、本発明者は、注入イオンに対する電子阻止能Se を、上記の式(6)で表されるLindhardモデルの電子阻止能SeLと、Betheモデルの電子阻止能SeBを修正した修正電子阻止能Se-mBとの組合せにより表すことを提案する。
【0051】
この場合の修正電子阻止能Se-mBとしては、Betheモデルの電子阻止能SeBのピーク値以下における値をピーク値と等しい一定値とした下記の式(16)で表される修正電子阻止能Se-mBを用いる。
【数12】
【0052】
或いは、修正電子阻止能Se-mBとして、下記の式(17)で表される修正電子阻止能Se-mBを用いる。
【数13】
なお、この修正電子阻止能Se-mBは結果的に、Biersack(ビールザック)が提案しているモデルを簡略化した式になっている(必要ならば、J.P.Biersack,and L.G.Haggmark,Nuclear Inst.And Meth.,vol.174(1980),p.257 参照)。
【0053】
次に、この修正電子阻止能Se-mBとLindhardモデルの電子阻止能SeLとを、θをフィッティングパラメータとして下記の式(18)で表される形で結合する。
【数14】
【0054】
このように、修正電子阻止能Se-mBとLindhardモデルの電子阻止能SeLとを結合することによって解析的にシミュレーションを行うことができる。また、この場合の結合した電子阻止能Seは、低エネルギー領域においてはLindhardモデルの電子阻止能SeLとなり、高エネルギー側では、Betheの修正電子阻止能Se-mBとなる。
【0055】
図11(a)は、式(16)で示す修正電子阻止能Se-mB、Lindhardモデルの電子阻止能SeL、及び、本発明の電子阻止能Seを比較して示した図である。ここでは、本発明の電子阻止能Seとしては、フィッティングパラメータθを1、1.45、2にした3つの場合を示している。なお、このθは経験的には、LindhardモデルからBetheモデルへの移行の程度を表している。
【0056】
図11(b)は、本発明の電子阻止能SeをBイオンのイオン注入プロファイル予測に適用した場合を示している。ここでは、1×1013cm-2のBイオンを2000keV(=2MeV)で単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示しており、フィッティングパラメータreは、上述のように1.55としている。
【0057】
図11(b)から明らかなように、θが1の場合には実測値より深いプロファイルになり、θが2の場合には実測値より浅いプロファイルになり、θ=1.45で良好な一致が見られた。なお、θ=1の場合は、上述のBiersackのモデルに相当するものであり、したがって、高エネルギー領域においてはBiersackのモデルによるプロファイルの予測精度が本発明より劣ることになる。
【0058】
このように、本発明においては、修正電子阻止能Se-mBとLindhardモデルの電子阻止能SeLとを解析的なシミュレーションが可能なように結合するとともに、パラメータの数が少ないので、簡便なシミュレーションにより精度の高いイオン注入プロファイルを発生させることができる。
【実施例1】
【0059】
以上を前提として、次に、図12乃至図14を参照して本発明の実施例1のイオン注入分布発生方法を説明する。本発明の実施例1においては、上記の式(18)において、θ=1.45及びθ=1.55としてBイオン、Pイオン及びAsイオンについてフィッティングパラメータreを1.55に設定してシミュレーションを行った。なお、各図においては、LindhardモデルによるプロファイルとZieglerモデルによるプロファイルも併せて示している。
【0060】
図12(a)は、θ=1.45とした場合のBイオンのイオン注入プロファイルであり、ここでは、1×1013cm-2のBイオンをそれぞれ400keV、1200KeV、2000keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。図12(a)から明らかなように、400keVにおいてはいずれのモデルもSIMSデータとの一致性は良好である。
【0061】
しかし、Lindhardモデル及びZieglerモデルは、1200keV及び2000keVとエネルギーが高くなるにつれてSIMSデータからの乖離が大きくなる。なお、LindhardモデルとZieglerモデルとの比較ではZieglerモデルの方が若干SIMSデータに近いが、実際のプロファイルを予測できないことが分かる。一方、本発明のモデルによるイオン注入プロファイルは、テール部の分布を除けば各注入エネルギーにおいてSIMSデータとの良好な一致が見られた。
【0062】
図12(b)は、θ=1.55とした場合のBイオンのイオン注入プロファイルであり、ここでは、1×1013cm-2のBイオンをそれぞれ400keV、1200KeV、2000keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。この場合も、θ=1.45とした図12(a)の場合と同様な結果となっている。
【0063】
図13(a)は、θ=1.45とした場合のPイオンのイオン注入プロファイルであり、ここでは、1×1013cm-2のPイオンをそれぞれ400keV、1200KeV、2000keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。ここでも、上述のように、フィッティングパラメータreを1.2に設定してシミュレーションを行った。
【0064】
図13(a)から明らかなように、400keVにおいてはいずれのモデルもSIMSデータとの一致性は良好である。しかし、Zieglerモデルは、1200keV及び2000keVとエネルギーが高くなるにつれてSIMSデータからの乖離が大きくなり、Pイオンの場合にはLindhardモデルより劣ることになる。一方、本発明のモデルによるイオン注入プロファイルは、テール部の分布を除けば各注入エネルギーにおいてSIMSデータとの良好な一致が見られた。これは、上述のように、Pに対する臨界エネルギーは、10MeVであるため、2MeV(=2000keV)では臨界エネルギーに達していないためである。
【0065】
図13(b)は、θ=1.55とした場合のPイオンのイオン注入プロファイルであり、ここでは、1×1013cm-2のPイオンをそれぞれ400keV、1200KeV、2000keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。この場合も、θ=1.45とした図13(a)の場合と同様な結果となっている。
【0066】
図14は、θ=1.55とした場合のAsイオンのイオン注入プロファイルであり、ここでは、1×1013cm-2のAsイオンをそれぞれ300keV、600KeV、1000keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。ここでも、上述のように、フィッティングパラメータreを1.0に設定してシミュレーションを行った。
【0067】
図14から明らかなように、Asの場合には、いずれのモデルもSIMSデータとの一致性は良好であった。これも、上述のように、Asに対する臨界エネルギーが29MeVであるため、2MeVでは臨界エネルギーに達していないためである。
【0068】
このように、本発明の実施例1においては、電子阻止能Seをθをフィッティングパラメータとして上記式(18)のように結合しているので、0.3keV〜数MeVの広いエネルギー領域において、イオン種によらず精度高いイオン注入分布を発生することが可能になった。
【0069】
なお、この実施例1においては、フィッティングパラメータθを1.45或いは1.55としているが、この値は絶対的なものではなく、今後各種のイオンについて多くのデータを蓄積し、フィッティング精度を高めることによって多少変更される可能性があるものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】α−SiにB,P,Asをイオンを注入した場合のSIMSによる測定結果とモンテカルロシミュレータによるシミュレーション結果の説明図である。
【図2】フィッティングパラメータreを変動させた場合のBイオンのイオン注入プロファイルの説明図である。
【図3】Bイオン及びCイオンのイオン注入プロファイルのSIMSデータとシミュレーション結果との比較図である。
【図4】Nイオン及びFイオンのイオン注入プロファイルのSIMSデータとシミュレーション結果との比較図である。
【図5】Siイオン及びPイオンのイオン注入プロファイルのSIMSデータとシミュレーション結果との比較図である。
【図6】Gaイオン及びGeイオンのイオン注入プロファイルのSIMSデータとシミュレーション結果との比較図である。
【図7】Asイオン及びInイオンのイオン注入プロファイルのSIMSデータとシミュレーション結果との比較図である。
【図8】Sbイオンのイオン注入プロファイルのSIMSデータとシミュレーション結果との比較図と各イオンにおけるフィッティングパラメータreの最適値の説明図である。
【図9】Bイオン及びAsイオンの低エネルギー領域におけるSIMSデータとシミュレーション結果との比較図である。
【図10】各モデルにおけるBイオン及びPイオンのイオン注入プロファイルである。
【図11】各電子阻止能の比較図と本発明の電子阻止能SeをBイオンのイオン注入プロファイル予測に適用した場合の説明図である。
【図12】各モデルによるBイオンのイオン注入プロファイルの比較図である。
【図13】各モデルによるPイオンのイオン注入プロファイルの比較図である。
【図14】各モデルによるAsイオンのイオン注入プロファイルの比較図である。
【図15】計算モデルである。
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン注入分布発生方法及びシミュレータに関するものであり、モンテカルロシミュレーションにより広いエネルギー範囲において精度の高いイオン注入分布を発生させるための電子阻止能Seの設定の仕方に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン集積回路装置において、シリコン基板への不純物の導入はイオン注入で行われるのが一般的である。このようなシリコン集積回路装置のプロセス構築に際しては、必要な素子構造を得るためのイオン注入条件を決定する必要があるが、このようなイオン注入条件をシミュレーションにより決定することが行われている。
【0003】
従来、商品化されたシミュレータにおいては、膨大なイオン注入データベースに基づいてこのようなシリコン基板におけるイオン注入プロファイルを予測している。このイオン注入データベースは、ガウス関数、ジョイントハーフガウス関数、ピアソン関数、デュアルピアソン関数、或いは、テール関数等の解析的関数に対するパラメータのセットとなる。
【0004】
これらの解析的モデルは、イオン注入プロファイルを表すためのものにすぎず、物理的な根拠によるものではない。したがって、イオン注入分布に関する実験データが少ない場合には、精度の高い予測が不可能であるという問題がある。
【0005】
近年、C、N或いはF等の各種のイオンが、後工程におけるアニール処理に伴う一時的な拡散を抑制するために用いられており、これらのイオンのプロファイルの理論的予測が要請されている。
【0006】
このような要請に応えるものとして、非晶質層へのイオン注入分布を理論的に予想する手段としてMonte Carlo が知られている。これは、入射イオンと基板との相互作用を、核阻止能Sn及び電子阻止能Seの物理に基づいて、入射イオンの軌跡を追跡していくものである。
【0007】
即ち、入射イオンと基板との相互作用は2つのメカニズムからなると仮定し、一つは、イオンと基板原子の核との相互作用であり、他の一つはイオンと基板原子の電子との相互作用であり、前者が核阻止能Snに対応し、後者が電子阻止能Seに対応する。このような相互作用のメカニズムは、SRIMや他のモンテカルロシミュレータにおけるモンテカルロシミュレーションにおいて直接的に実効されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
この理論は、任意のイオンを任意の基板にイオン注入した場合の一般的な場合にも有効であり、電子阻止能をチューニングすればその精度をさらに向上させることができる。図15は、計算モデルであり、質量数M1,原子番号Z1,エネルギーT1i(速度v1i)のイオンが、基板を構成する質量数M2,原子番号Z2の原子と相互作用して伝達するエネルギーT2f、散乱角度をΦ、相互作用後のイオンの速度をν1i、基板原子の速度をν2i とすると、
T2f/T1i=2M2ν2i2 sin2 (Φ/2)/〔(1/2)M1ν1i2 〕
=(4M2/M1){〔M1v1i/(M1+M2)〕2 /ν1i2 }
×sin2 (Φ/2)
=〔4M2M1/(M1+M2)2 〕sin2 (Φ/2)・・・(1)
と表現される。
【0009】
ここで、イオンと基板原子の距離をr、衝突パラメータをb、ポテンシャルエネルギーをV(r)とすると、伝達エネルギーT2fは、下記の式(2)として求まる。
【数1】
つまり、注入されたイオンは、核との相互作用により、
ΔEn=T2f
のエネルギーを失う。
【0010】
また、相互作用に伴う散乱角度Φは、下記の式(3)で表される。
【数2】
ここで、半径bの円周上の位置、即ち角度θは、Rand(n)をnが0から1の間の乱数とすると、
θ=2πRand(n)
の関係から求まる。
【0011】
また、ポテンシャルエネルギーV(r)として、例えば、下記のZiegler−Litmark−Biersak(ZLB)のポテンシャルエネルギーを用いる(例えば、非特許文献2参照)。
V(r)=(e2 Z1Z2/r)f(ρ) ・・・(4)
但し、
【数3】
なお、ρ=r/auである。
【0012】
これにより、衝突後のエネルギーと方向が決まる。次に、新たに注入エネルギーで同様の計算を繰り返し、イオンの軌跡をトレースしてイオンの分布プロファイルを取得する。
このMonte Carloシミュレーションは、粒子の各軌跡を追うため、統計誤差を減らすためには数万個以上の計算をする必要がある。
【0013】
このようなMonte Carloシミュレーションにおける重要な物理パラメータに上述のイオンと基板原子の電子との相互作用に対応する電子阻止能Seがあり、これに対する標準モデルとしては、下記の式(6)で示すLindhard(リントハルト)のものが知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【数4】
【0014】
このようなLindhardモデルによると、注入エネルギーが数10keVの範囲では比較的良好な予測が可能である。なお、この式(6)においては、各原子に対応するフィッティングパラメータとしてreを加えているが、Lindhardのオリジナルな電子阻止能SeLはre=1に相当する。
【0015】
このLindhardモデルにおける電子阻止能SeLはイオンの電子雲と基板原子との相互作用を仮定している。しかし、高エネルギー領域ではイオンに付随する電子雲がはぎ取られてしまうので、仮定が成り立たず、したがって、高エネルギー領域においては近似が非常に悪くなるという問題がある。
【0016】
このようなモデルの適用限界に対応する臨界速度vcは、v0をボーア速度とすると、
vc=Z12/3v0 ・・・(7)
で表される。したがって、モデルの適用限界に対応する臨界エネルギーEは、
E=(M1/2)vc2 =(M1/2)(Z12/3v0)2 ・・・(8)
となる。因に、B、P及びAsに対する臨界エネルギーは、それぞれ、2MeV、10MeV及び29MeVとなる。近年、ウエル領域の形成のためにMeVオーダーのエネルギーでイオン注入が行われているが、このようなエネルギー領域においてはLindhardモデルは適用できないことになる。
【0017】
一方、高エネルギー領域の専用モデルとして、Bethe(ベーテ)のモデルが知られている(例えば、非特許文献4参照)。このBetheのモデルにおいては電子阻止能SeBは、Nを基板原子の密度、meを電子の質量、Iを平均電子励起エネルギーとすると、下記の式(9)で表される。
【数5】
但し、平均電子励起エネルギーIは、経験的に下記の式(10)で表される。
【数6】
【0018】
このBetheモデルにおいては、注入イオンは電子雲が完全にはぎ取られていることを仮定しており、イオンの注入速度が上記の式(9)で表される臨界速度vc以上の場合に有効となる。
【0019】
そこで、Ziegler(ジーグラー)は、低エネルギー領域ではLindhardのモデルの形式のものを、高エネルギー領域では線形応答理論でBetheのモデルに近いモデルを提案し、それらを繋ぎ、多くの組合せに対して多くのパラメータを設け、幅広いエネルギー領域での電子阻止能モデルを提案している(例えば、上述の非特許文献3参照)。
【0020】
Zieglerは水素イオンを各種の基板に注入した場合の電子阻止能をSe1 とした場合、この電子阻止能Se1 を、経験的に下記の式(11)で表している。
【数7】
なお、式(11)における係数C1,C2,C3,C4は、各基板種毎にテーブルに与えられている。
【0021】
また、原子番号がZ1のイオンに対する電子阻止能Seは、下記の式(12)で表される。
【数8】
なお、式(12)におけるζZ12 は、電子雲の剥奪の程度を表している(必要ならば、上述の非特許文献3参照)。
【0022】
また、Zieglerは低エネルギー領域における電子阻止能SeZ1(E)として、下記の式(13)で表される関係を設定している。
【数9】
なお、式(13)におけるEcはモデルを切り替える臨界エネルギーであり、
Ec/M1=25keV/amu ・・・(14)
で表される。したがって、臨界エネルギーEcにおける電子阻止能SeZ1(Ec)は、式(12)から、下記の式(15)で表される。
【数10】
【0023】
式(13)から明らかなように、Zieglerのモデルの電子阻止能SeZ1は、低エネルギー領域では、E0.45に比例しており、これは、Lindhardのモデルの電子阻止能SeLと同様なエネルギー依存性を示している。
【非特許文献1】SRIM−2003,http://www.srim.org/
【非特許文献2】J.F.Ziegler,J.P.biersack,and U.Litmark,The stopping and range of ions in solid,Pergamom,1985
【非特許文献3】J.Lindhard,and M.Scharff,Phys/Rev.,Vol.124,No.1,1961,p.128
【非特許文献4】H.A.Bethe,Ann.Phys.(Leipzig)Vol.5,1930,p.325
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかし、Zieglerのモデルは、その取扱が複雑であるという問題があり、且つ、実験データで定量性が検証されていないという問題がある。後述するように、SIMSによる実験データと照合した場合には、高エネルギー領域において、SIMSによる実験データからの乖離が大きくなる。
【0025】
また、近年、浅い接合を形成するために1keV程度の低エネルギーにおいてイオン注入が行われているが、このような低エネルギー領域におけるLindhardモデルの精度の信頼性について検証がなされていないという問題がある。これは、1keV程度の低エネルギーにおけるイオン注入に物理的な問題があるのではなく、検証に必要なSIMSにおける解像度限界が影響を与えるためである。
【0026】
したがって、本発明は、1keV程度の低エネルギー領域から数MeVの高エネルギー領域に渡って、実際のイオン注入分布を精度良く再現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の一観点からは、注入イオンの軌跡をモンテカルロ法によって計算してイオン注入分布を発生させるイオン注入分布発生方法であって、前記注入イオンに対する電子阻止能Seを、reをフィッティングパラメータ、Z1を注入イオンの原子番号、Z2を基板を構成する原子の原子番号、M1を注入イオンの質量数、Eを入射エネルギーとした場合、下記の式で表されるリントハルトモデルの電子阻止能SeLと、ベーテモデルの電子阻止能SeBを修正した修正電子阻止能Se-mBとの組合せにより表すことを特徴とするイオン注入分布発生方法が提供される。
【数11】
【0028】
また、本発明の別の観点からは、注入イオンの軌跡をモンテカルロ法によって計算してイオン注入分布を発生させる機能を備えたシミュレータであって、前記注入イオンの電子阻止能として、上述の電子阻止能Seを採用していることを特徴とするシミュレータが提供される。
【発明の効果】
【0029】
開示のイオン注入分布発生方法及びシミュレータによれば、1keV程度の低エネルギー領域から数MeVの高エネルギー領域に渡って、実際のイオン注入分布を精度良く再現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
ここで、図1乃至図11を参照して、本発明の実施の形態のイオン注入分布発生方法を説明するが、その前に、フィッティングパラメータreを伴うLindhardの電子阻止能SeLを用いたモンテカルロシミュレーションの適性を検討する。なお、核阻止能Snとしては従来のモンテカルロシミュレーションで用いられている核阻止能Snを用いる。
【0031】
まず、モンテカルロシミュレーションの適性を検討するために、試料を作成してイオンを注入し、その分布をSIMSによって測定した。試料としては、単結晶Si基板上に減圧化学気相成長法(LPCVD法)により550℃で約1μmの厚さのα−Si膜を成膜してイオン注入用試料とした。また、Geを結晶Siにイオン注入してアモルファス層を形成した試料も用意した。
【0032】
このようなα−Si膜におけるイオン注入分布は、表面及びピーク値近傍における分布が、単結晶Siにおけるイオン注入分布とほぼ同じであるので、イオンのチャンネリングを影響を受けるテール部の分布の相違を無視して、アモルファス膜に対するシミュレーション結果と比較するために単結晶Siにおけるイオン注入プロファイルも利用した。
【0033】
また、SIMSによる測定は、一次イオンをラスタースキャンして放出される二次イオンの内、エッジ効果を回避するために電子的なゲート機構を設けて中央の狭い領域からの二次イオンのみを検出してイオン注入プロファイルを作成した。なお、測定したイオン注入プロファイルは、表面形状測定器(4 Dektak 2A:ULVAC社製商品名)を用いて較正し、また、濃度の尺度は実際のイオンドーズ量で調節した。
【0034】
最近、基本的なSIMSの測定メカニズムが解明され、従来疑念のあった1keV等の低加速エネルギーでのイオン注入による浅い接合のイオン分布プロファイルの精度が改善されており、今回の測定結果も精度の高いものである。
【0035】
図1は、α−Siに80keVの加速エネルギーによりB,P,Asをイオンを注入した場合のSIMSによる測定結果とモンテカルロシミュレータによるシミュレーション結果の説明図である。なお、このシミュレーションにおいては、re=1.0として、Lindhardのオリジナルな電子阻止能SeLを用いている。図1に示すように、AsとPの場合には、SIMSデータとシミュレーション結果の良好な一致が見られるが、Bの場合には、SIMSデータとシミュレーション結果に大きな乖離が見られる。
【0036】
図2は、BイオンにおけるSIMSデータとシミュレーション結果の乖離をなくすために、フィッティングパラメータreを変動させた場合のイオン注入プロファイルの説明図である。図2に示すように、フィッティングパラメータreが大きくなるほどイオン注入プロファイルは浅くなり、re=1.5とした場合に、SIMSデータとシミュレーション結果がプロファイル全体で良好な一致が見られた。
【0037】
図3乃至図8は、各種のイオンに対してフィッティングパラメータreを最適化した場合のイオン注入プロファイルの比較を示したものである。図3(a)は、1×1015cm-2のBイオンをそれぞれ40keV、80keV、160keVでα−Siに注入した場合のプロファイルを示している。Bイオンの場合には、re=1.55が最適値となる。図3(b)は、1×1015cm-2のCイオンをそれぞれ40keV、80keV、160keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Cイオンの場合には、re=1.5が最適値となり、テール部での乖離が見られるが全体的には良好な一致と言える。
【0038】
図4(a)は、1×1015cm-2のNイオンをそれぞれ40keV、80keV、160keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Nイオンの場合には、re=1.4が最適値となり、テール部での乖離が見られるが全体的には良好な一致と言える。図4(b)は、1×1015cm-2のFイオンをそれぞれ40keV、80keV、160keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Fイオンの場合には、re=1.0が最適値となり、テール部での乖離が見られるが全体的には良好な一致と言える。
【0039】
図5(a)は、1×1015cm-2のSiイオンをそれぞれ20keV、40keV、80keV、160keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Siイオンの場合には、re=1.25が最適値となり、テール部での乖離が見られるが全体的には良好な一致と言える。図5(b)は、1×1015cm-2のPイオンをそれぞれ40keV、80keV、160keVでα−Siに注入した場合のプロファイルを示している。Pイオンの場合には、re=1.2が最適値となる。
【0040】
図6(a)は、1×1015cm-2のGaイオンを20keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Gaイオンの場合には、re=1.0が最適値となり、テール部での乖離が見られるが全体的には良好な一致と言える。図6(b)は、1×1015cm-2のGeイオンをそれぞれ20keV、40keV、80keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Geイオンの場合には、re=1.0が最適値となり、テール部での乖離が見られるが全体的には良好な一致と言える。
【0041】
図7(a)は、1×1015cm-2のAsイオンをそれぞれ40keV、80keV、160keVでα−Siに注入した場合のプロファイルを示している。Asイオンの場合には、re=1.0が最適値となる。図7(b)は、1×1015cm-2のInイオンをそれぞれ10keV、20keV、40keV、80keV、160keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Inイオンの場合には、re=1.0が最適値となる。
【0042】
図8(a)は、1×1015cm-2のSbイオンをそれぞれ10keV、20keV、40keV、80keV、160keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。Sbイオンの場合には、re=1.0が最適値となる。
【0043】
図8(b)は、各イオンにおけるフィッティングパラメータreの最適値を周期律形式で纏めたものである。図8(b)から明らかなように、reは同じ周期では原子番号が大きくなるにつれて、したがって、図において右に行くにつれて小さくなり、また、同じ属では原子番号が大きくなるにつれて、したがって、周期が大きくなるにつれて小さくなることが分かる。
【0044】
この結果から、数10keV〜百数10keVの範囲では、各イオン毎にフィッティングパラメータreを最適化することによって、モンテカルロシミュレーションによりα−Si中のイオン注入プロファイルを得ることができることが確認された。
【0045】
次に、1keV近傍の低エネルギーイオン注入による浅い接合におけるイオン注入プロファイルの再現性について検討する。図9(a)は、1×1015cm-2のBイオンをそれぞれ0.3keV、0.5keV、1keV、3keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。ここでも、re=1.55とした場合に、SIMSデータとシミュレーション結果の良好な一致が見られる。
【0046】
また、図9(b)は、1×1015cm-2のAsイオンをそれぞれ1keV、3keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。ここでも、re=1.0とした場合に、SIMSデータとシミュレーション結果の比較的良好な一致が見られる。
【0047】
以上の結果から、フィッティングパラメータreは、注入エネルギー依存性を持たず、イオン種固有の値を取ることが分かった。したがって、0.3keV〜百数10keVのエネルギー範囲においては、フィッティングパラメータreを最適化することによって、Lindhardの電子阻止能SeLを用いたモンテカルロシミュレーションにより精度の高いイオン注入プロファイルの予測が可能になることが分かる。なお、各イオンのフィッティングパラメータreの最適値は、SIMSの測定結果から取得して、予めモンテカルロシミュレータにデータベースとして格納しておく。
【0048】
次に、1MeV近傍の高エネルギー領域におけるシミュレーションの妥当性について検討する。図10(a)は、各モデルにおけるBイオンのイオン注入プロファイルを示したものであり、図10(b)は、各モデルにおけるPイオンのイオン注入プロファイルを示したものである。なお、ここでは、便宜上、本発明の提案によるモデルのイオン注入プロファイル(θ=1.45)も併せて示している。
【0049】
上述のように、高エネルギー領域においては、Lindhardのモデルによるプロファイルは、Betheのモデルによるプロファイルから大きく乖離している。Zieglerのモデルによるプロファイルは、元々、Zieglerのモデルが2つのモデルを折衷させたものであるので、低エネルギー領域においてLindhardのモデルに近く、高エネルギー領域においてBetheのモデルに近くなっている。
【0050】
しかし、このZieglerのモデルは後述するように、高エネルギー領域においてはSIMSデータからの乖離が大きいので、精度の高いプロファイルの予測ができない。そこで、本発明者は、注入イオンに対する電子阻止能Se を、上記の式(6)で表されるLindhardモデルの電子阻止能SeLと、Betheモデルの電子阻止能SeBを修正した修正電子阻止能Se-mBとの組合せにより表すことを提案する。
【0051】
この場合の修正電子阻止能Se-mBとしては、Betheモデルの電子阻止能SeBのピーク値以下における値をピーク値と等しい一定値とした下記の式(16)で表される修正電子阻止能Se-mBを用いる。
【数12】
【0052】
或いは、修正電子阻止能Se-mBとして、下記の式(17)で表される修正電子阻止能Se-mBを用いる。
【数13】
なお、この修正電子阻止能Se-mBは結果的に、Biersack(ビールザック)が提案しているモデルを簡略化した式になっている(必要ならば、J.P.Biersack,and L.G.Haggmark,Nuclear Inst.And Meth.,vol.174(1980),p.257 参照)。
【0053】
次に、この修正電子阻止能Se-mBとLindhardモデルの電子阻止能SeLとを、θをフィッティングパラメータとして下記の式(18)で表される形で結合する。
【数14】
【0054】
このように、修正電子阻止能Se-mBとLindhardモデルの電子阻止能SeLとを結合することによって解析的にシミュレーションを行うことができる。また、この場合の結合した電子阻止能Seは、低エネルギー領域においてはLindhardモデルの電子阻止能SeLとなり、高エネルギー側では、Betheの修正電子阻止能Se-mBとなる。
【0055】
図11(a)は、式(16)で示す修正電子阻止能Se-mB、Lindhardモデルの電子阻止能SeL、及び、本発明の電子阻止能Seを比較して示した図である。ここでは、本発明の電子阻止能Seとしては、フィッティングパラメータθを1、1.45、2にした3つの場合を示している。なお、このθは経験的には、LindhardモデルからBetheモデルへの移行の程度を表している。
【0056】
図11(b)は、本発明の電子阻止能SeをBイオンのイオン注入プロファイル予測に適用した場合を示している。ここでは、1×1013cm-2のBイオンを2000keV(=2MeV)で単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示しており、フィッティングパラメータreは、上述のように1.55としている。
【0057】
図11(b)から明らかなように、θが1の場合には実測値より深いプロファイルになり、θが2の場合には実測値より浅いプロファイルになり、θ=1.45で良好な一致が見られた。なお、θ=1の場合は、上述のBiersackのモデルに相当するものであり、したがって、高エネルギー領域においてはBiersackのモデルによるプロファイルの予測精度が本発明より劣ることになる。
【0058】
このように、本発明においては、修正電子阻止能Se-mBとLindhardモデルの電子阻止能SeLとを解析的なシミュレーションが可能なように結合するとともに、パラメータの数が少ないので、簡便なシミュレーションにより精度の高いイオン注入プロファイルを発生させることができる。
【実施例1】
【0059】
以上を前提として、次に、図12乃至図14を参照して本発明の実施例1のイオン注入分布発生方法を説明する。本発明の実施例1においては、上記の式(18)において、θ=1.45及びθ=1.55としてBイオン、Pイオン及びAsイオンについてフィッティングパラメータreを1.55に設定してシミュレーションを行った。なお、各図においては、LindhardモデルによるプロファイルとZieglerモデルによるプロファイルも併せて示している。
【0060】
図12(a)は、θ=1.45とした場合のBイオンのイオン注入プロファイルであり、ここでは、1×1013cm-2のBイオンをそれぞれ400keV、1200KeV、2000keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。図12(a)から明らかなように、400keVにおいてはいずれのモデルもSIMSデータとの一致性は良好である。
【0061】
しかし、Lindhardモデル及びZieglerモデルは、1200keV及び2000keVとエネルギーが高くなるにつれてSIMSデータからの乖離が大きくなる。なお、LindhardモデルとZieglerモデルとの比較ではZieglerモデルの方が若干SIMSデータに近いが、実際のプロファイルを予測できないことが分かる。一方、本発明のモデルによるイオン注入プロファイルは、テール部の分布を除けば各注入エネルギーにおいてSIMSデータとの良好な一致が見られた。
【0062】
図12(b)は、θ=1.55とした場合のBイオンのイオン注入プロファイルであり、ここでは、1×1013cm-2のBイオンをそれぞれ400keV、1200KeV、2000keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。この場合も、θ=1.45とした図12(a)の場合と同様な結果となっている。
【0063】
図13(a)は、θ=1.45とした場合のPイオンのイオン注入プロファイルであり、ここでは、1×1013cm-2のPイオンをそれぞれ400keV、1200KeV、2000keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。ここでも、上述のように、フィッティングパラメータreを1.2に設定してシミュレーションを行った。
【0064】
図13(a)から明らかなように、400keVにおいてはいずれのモデルもSIMSデータとの一致性は良好である。しかし、Zieglerモデルは、1200keV及び2000keVとエネルギーが高くなるにつれてSIMSデータからの乖離が大きくなり、Pイオンの場合にはLindhardモデルより劣ることになる。一方、本発明のモデルによるイオン注入プロファイルは、テール部の分布を除けば各注入エネルギーにおいてSIMSデータとの良好な一致が見られた。これは、上述のように、Pに対する臨界エネルギーは、10MeVであるため、2MeV(=2000keV)では臨界エネルギーに達していないためである。
【0065】
図13(b)は、θ=1.55とした場合のPイオンのイオン注入プロファイルであり、ここでは、1×1013cm-2のPイオンをそれぞれ400keV、1200KeV、2000keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。この場合も、θ=1.45とした図13(a)の場合と同様な結果となっている。
【0066】
図14は、θ=1.55とした場合のAsイオンのイオン注入プロファイルであり、ここでは、1×1013cm-2のAsイオンをそれぞれ300keV、600KeV、1000keVで単結晶Siに注入した場合のプロファイルを示している。ここでも、上述のように、フィッティングパラメータreを1.0に設定してシミュレーションを行った。
【0067】
図14から明らかなように、Asの場合には、いずれのモデルもSIMSデータとの一致性は良好であった。これも、上述のように、Asに対する臨界エネルギーが29MeVであるため、2MeVでは臨界エネルギーに達していないためである。
【0068】
このように、本発明の実施例1においては、電子阻止能Seをθをフィッティングパラメータとして上記式(18)のように結合しているので、0.3keV〜数MeVの広いエネルギー領域において、イオン種によらず精度高いイオン注入分布を発生することが可能になった。
【0069】
なお、この実施例1においては、フィッティングパラメータθを1.45或いは1.55としているが、この値は絶対的なものではなく、今後各種のイオンについて多くのデータを蓄積し、フィッティング精度を高めることによって多少変更される可能性があるものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】α−SiにB,P,Asをイオンを注入した場合のSIMSによる測定結果とモンテカルロシミュレータによるシミュレーション結果の説明図である。
【図2】フィッティングパラメータreを変動させた場合のBイオンのイオン注入プロファイルの説明図である。
【図3】Bイオン及びCイオンのイオン注入プロファイルのSIMSデータとシミュレーション結果との比較図である。
【図4】Nイオン及びFイオンのイオン注入プロファイルのSIMSデータとシミュレーション結果との比較図である。
【図5】Siイオン及びPイオンのイオン注入プロファイルのSIMSデータとシミュレーション結果との比較図である。
【図6】Gaイオン及びGeイオンのイオン注入プロファイルのSIMSデータとシミュレーション結果との比較図である。
【図7】Asイオン及びInイオンのイオン注入プロファイルのSIMSデータとシミュレーション結果との比較図である。
【図8】Sbイオンのイオン注入プロファイルのSIMSデータとシミュレーション結果との比較図と各イオンにおけるフィッティングパラメータreの最適値の説明図である。
【図9】Bイオン及びAsイオンの低エネルギー領域におけるSIMSデータとシミュレーション結果との比較図である。
【図10】各モデルにおけるBイオン及びPイオンのイオン注入プロファイルである。
【図11】各電子阻止能の比較図と本発明の電子阻止能SeをBイオンのイオン注入プロファイル予測に適用した場合の説明図である。
【図12】各モデルによるBイオンのイオン注入プロファイルの比較図である。
【図13】各モデルによるPイオンのイオン注入プロファイルの比較図である。
【図14】各モデルによるAsイオンのイオン注入プロファイルの比較図である。
【図15】計算モデルである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入イオンの軌跡をモンテカルロ法によって計算してイオン注入分布を発生させるイオン注入分布発生方法であって、
前記注入イオンに対する電子阻止能Seを、reをフィッティングパラメータ、Z1を注入イオンの原子番号、Z2を基板を構成する原子の原子番号、M1を注入イオンの質量数、Eを入射エネルギーとした場合、下記の式で表されるリントハルトモデルの電子阻止能SeLと、
ベーテモデルの電子阻止能SeBを修正した修正電子阻止能Se-mBとの組合せにより表すことを特徴とするイオン注入分布発生方法。
【数1】
【請求項2】
前記注入イオンの電子阻止能Seを、θをフィッティングパラメータとして、下記の式で表すことを特徴とする請求項1に記載のイオン注入分布発生方法。
【数2】
【請求項3】
前記修正電子阻止能Se-mBとして、qを素電荷、ε0 を真空の誘電率、meを電子の質量、Iを平均電子励起エネルギーとした場合、前記ベーテモデルの電子阻止能SeBをエネルギー位置eErより低エネルギー側で一定の値に置き換えた下記の式で表される修正電子阻止能Se-mBを用いることを特徴とする請求項1または2に記載のイオン注入分布発生方法。
【数3】
【請求項4】
前記エネルギー位置eErが、前記ベーテモデルの電子阻止能SeBにおけるピークエネルギー位置であることを特徴とする請求項3に記載のイオン注入分布発生方法。
【請求項5】
注入イオンの軌跡をモンテカルロ法によって計算してイオン注入分布を発生させる機能を備えたシミュレータであって、
前記注入イオンに対する電子阻止能Seとして、reをフィッティングパラメータ、Z1を注入イオンの原子番号、Z2を基板を構成する原子の原子番号、M1を注入イオンの質量数、Eを入射エネルギーとした場合、下記の式で表されるリントハルトモデルの電子阻止能SeLと、
ベーテモデルの電子阻止能SeBを修正した修正電子阻止能Se-mBとの組合せにより表した電子阻止能Seを採用したことを特徴とするシミュレータ。
【数4】
【請求項6】
前記リントハルトモデルの電子阻止能SeLにおけるフィッテングパラメータreについて、各イオン種毎に二次イオン質量分析法により取得した実測データから最適化した値をデータベースとして格納していることを特徴とする請求項5に記載のシミュレータ。
【請求項1】
注入イオンの軌跡をモンテカルロ法によって計算してイオン注入分布を発生させるイオン注入分布発生方法であって、
前記注入イオンに対する電子阻止能Seを、reをフィッティングパラメータ、Z1を注入イオンの原子番号、Z2を基板を構成する原子の原子番号、M1を注入イオンの質量数、Eを入射エネルギーとした場合、下記の式で表されるリントハルトモデルの電子阻止能SeLと、
ベーテモデルの電子阻止能SeBを修正した修正電子阻止能Se-mBとの組合せにより表すことを特徴とするイオン注入分布発生方法。
【数1】
【請求項2】
前記注入イオンの電子阻止能Seを、θをフィッティングパラメータとして、下記の式で表すことを特徴とする請求項1に記載のイオン注入分布発生方法。
【数2】
【請求項3】
前記修正電子阻止能Se-mBとして、qを素電荷、ε0 を真空の誘電率、meを電子の質量、Iを平均電子励起エネルギーとした場合、前記ベーテモデルの電子阻止能SeBをエネルギー位置eErより低エネルギー側で一定の値に置き換えた下記の式で表される修正電子阻止能Se-mBを用いることを特徴とする請求項1または2に記載のイオン注入分布発生方法。
【数3】
【請求項4】
前記エネルギー位置eErが、前記ベーテモデルの電子阻止能SeBにおけるピークエネルギー位置であることを特徴とする請求項3に記載のイオン注入分布発生方法。
【請求項5】
注入イオンの軌跡をモンテカルロ法によって計算してイオン注入分布を発生させる機能を備えたシミュレータであって、
前記注入イオンに対する電子阻止能Seとして、reをフィッティングパラメータ、Z1を注入イオンの原子番号、Z2を基板を構成する原子の原子番号、M1を注入イオンの質量数、Eを入射エネルギーとした場合、下記の式で表されるリントハルトモデルの電子阻止能SeLと、
ベーテモデルの電子阻止能SeBを修正した修正電子阻止能Se-mBとの組合せにより表した電子阻止能Seを採用したことを特徴とするシミュレータ。
【数4】
【請求項6】
前記リントハルトモデルの電子阻止能SeLにおけるフィッテングパラメータreについて、各イオン種毎に二次イオン質量分析法により取得した実測データから最適化した値をデータベースとして格納していることを特徴とする請求項5に記載のシミュレータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−103402(P2010−103402A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275342(P2008−275342)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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