イオン源
【課題】 小型化が可能であり、かつイオンビーム生成効率の高いイオン源を提供する。
【解決手段】 このイオン源2は、プラズマ生成室22と、その内部に配置された熱陰極10と、その内部導体14に原料ガス8を供給するガス供給パイプ28と、プラズマ電極38を有していてプラズマ20からイオンビーム50を引き出す引出し電極系36とを備えている。熱陰極10は、中空の外部導体12と、その内側に同軸状に配置された中空の内部導体14と、両導体12、14の先端部を電気的に接続する接続導体とを有しており、原料ガス8は内部導体14の先端からプラズマ生成室22内へ放出される。プラズマ電極38は、陽極を兼ねていて、プラズマ生成室22の一端部に、熱陰極10の先端部に対向するように配置されており、かつ熱陰極10の内部導体14の先端の正面にイオン引出し孔を有している。
【解決手段】 このイオン源2は、プラズマ生成室22と、その内部に配置された熱陰極10と、その内部導体14に原料ガス8を供給するガス供給パイプ28と、プラズマ電極38を有していてプラズマ20からイオンビーム50を引き出す引出し電極系36とを備えている。熱陰極10は、中空の外部導体12と、その内側に同軸状に配置された中空の内部導体14と、両導体12、14の先端部を電気的に接続する接続導体とを有しており、原料ガス8は内部導体14の先端からプラズマ生成室22内へ放出される。プラズマ電極38は、陽極を兼ねていて、プラズマ生成室22の一端部に、熱陰極10の先端部に対向するように配置されており、かつ熱陰極10の内部導体14の先端の正面にイオン引出し孔を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、筒状(中空)の外部導体内に内部導体を配置した同軸構造の熱陰極を備えているイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ生成室の一方側内に、熱電子を放出する熱陰極(具体的にはフィラメント)を設け、他方側内に、電子を反射させる反射電極を熱陰極に相対向させて設け、かつ熱陰極と反射電極とを結ぶ線に沿う方向に外部から磁界を印加する構造をしている、いわゆるバーナス型イオン源が従来から種々提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
上記プラズマ生成室の一つの壁面には、熱陰極と反射電極とを結ぶ線に沿う方向に伸びている細長いイオン引出し孔が設けられており、このイオン引出し孔に対向する壁面または当該壁面に直交する壁面には、プラズマ生成室内へ原料ガスを供給する原料ガス供給口が設けられている。
【0004】
上記バーナス型イオン源においては、プラズマ生成室の壁面が陽極を兼ねていて、それと熱陰極との間のアーク放電によって原料ガスが電離されて、熱陰極と反射電極とを結ぶ線に沿う方向を長軸(密度の高い部分を長手方向に結ぶ軸)とするプラズマが生成され、このプラズマから、その長軸とほぼ直交する方向に上記イオン引出し孔を通してイオンビームが引き出される。
【0005】
また、特許文献2には、筒状の外部導体と、その内側に同軸状に配置されている中実(中が詰まっていて中空でないこと)構造の内部導体と、両導体の先端部間を埋めて当該先端部間を電気的に接続する接続導体とを有している同軸構造の熱陰極、およびそれを備えているイオン源が記載されている。この熱陰極に対する加熱電流は、接続導体を通して折り返されて、外部導体と内部導体とで互いに逆向きに流される。
【0006】
この特許文献2に記載の熱陰極によれば、(a)外部導体と内部導体とが同軸状であり、かつ両導体で加熱電流が互いに逆向きに流されるので、両導体に流れる加熱電流が発生させる磁界が相殺し合い、当該熱陰極全体として見れば、加熱電流を流すことによって発生する磁界を小さく抑えることができるので、熱電子を放出しやすくなる、(b)熱陰極の先端部等の体積を、線材(棒材とも言える)によって形成されている公知のフィラメントに比べて大きくすることができるので、陰極寿命を長くすることができる、等の効果を奏するとされている。
【0007】
特許文献2には、バーナス型イオン源については言及されていないけれども、それに記載の熱陰極を、フィラメントに代わるものとして、バーナス型イオン源にも適用することができることは当業者にとって明らかであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記バーナス型イオン源においては、熱陰極としてフィラメントまたは上記同軸構造の熱陰極のいずれを用いるにせよ、熱陰極から放出された電子は、プラズマ生成室壁面との電位差によって加速されつつ飛行するが、このとき、外部の磁石から印加される磁界中で螺旋運動を行う。それによって、プラズマ生成室内において電子と原料ガス分子との衝突回数を増加させて、プラズマ生成効率を高めている。このような機能を実現するために、プラズマ生成室は、電子がガス分子と衝突するのに十分な大きさを持つ必要がある。
【0009】
また、プラズマ生成室の壁面に設けた原料ガス供給口から原料ガスを供給するために、プラズマの長軸とガス放出方向とは互いにほぼ直交した方向となる。その結果、プラズマの長軸に沿う方向におけるガス圧分布が不均一になり、ひいては、プラズマ密度分布が不均一になるので、この不均一を緩和するために、プラズマ生成室の体積を大きくする必要がある。
【0010】
更に、プラズマ生成室の壁面はプラズマにとっては損失面となるために、熱陰極の反対側に電子反射用の反射電極を設ける必要があり、そのための空間がプラズマ生成室内に必要である。
【0011】
以上のように、バーナス型イオン源においては、ある程度以上のプラズマ生成室の体積を確保する必要があるので、これが制約となって、当該イオン源を小型化するのが難しいという課題がある。
【0012】
また、プラズマ生成室の体積が大きいと、プラズマ生成のために投入する放電電力の利用効率が低下するので、そのぶんイオンビーム生成効率が低下するという課題もある。
【0013】
そこでこの発明は、小型化が可能であり、かつイオンビーム生成効率の高いイオン源を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係るイオン源は、(a)プラズマを生成するためのプラズマ生成室と、(b)前記プラズマ生成室内に配置されていて、加熱電流が流されて前記プラズマ生成室内に熱電子を放出する熱陰極であって、中空の外部導体と、この外部導体の内側に同軸状に配置されている中空の内部導体と、この内部導体の先端部と前記外部導体の先端部との間に設けられていて両先端部間を電気的に接続する環状の接続導体とを有していて、前記加熱電流は、前記接続導体を通して折り返されて、前記外部導体と前記内部導体とで互いに逆向きに流されるよう構成されている熱陰極と、(c)前記プラズマ生成室外の部分から前記熱陰極の内部導体内に原料ガスを供給して、当該原料ガスを前記内部導体内を通して前記内部導体の先端から前記プラズマ生成室内へ放出させるガス供給手段と、(d)前記熱陰極との間で放電を生じさせる陽極を兼ねる電極であって、前記プラズマ生成室の一端部に、前記熱陰極の先端部に間隔をあけて対向するように配置されており、かつ前記熱陰極の内部導体の先端の正面にイオン引出し孔を有しているプラズマ電極を有していて、前記プラズマ生成室内のプラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系とを備えていることを特徴としている。
【0015】
このイオン源においては、熱陰極(より具体的にはその内部導体)の先端が原料ガス供給口を兼ねており、原料ガスは熱陰極の先端からプラズマ電極のイオン引出し孔に向けて放出される。従って、熱陰極の先端付近とプラズマ電極のイオン引出し孔付近との間に、プラズマ生成室内で最もガス圧の高い領域が形成され、しかもその領域に、当該領域に近接している熱陰極から熱電子が放出されるので、熱陰極の先端付近とプラズマ電極のイオン引出し孔付近との間に柱状で高密度のプラズマが生成される。この高密度のプラズマから、当該プラズマに近接しているプラズマ電極のイオン引出し孔を通して、当該プラズマの軸に沿う方向にイオンビームを引き出すことができる。
【0016】
その結果、大きな体積のプラズマ生成室を設ける必要がなくなり、プラズマ生成室の体積を小さくすることができるので、当該イオン源を小型化することができる。しかも、プラズマ電極のイオン引出し孔の近傍に生成された高密度のプラズマからその軸方向にイオンビームを引き出すことができるので、高いイオンビーム生成効率を実現することができる。
【0017】
前記熱陰極は、前記接続導体を有する代わりに、前記外部導体の先端部と前記内部導体の先端部とを電気的に直接接続していて、その接続部で前記加熱電流が折り返されるよう構成されていても良い。
【0018】
前記熱陰極の内部導体は、前記外部導体よりも融点の高い材料で形成されていても良い。
【0019】
前記プラズマ生成室内に前記熱陰極の内部導体の先端部の中心と前記プラズマ電極のイオン引出し孔の中心とを結ぶ線に沿う方向に磁界を発生させる磁気コイルを備えていても良い。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、熱陰極の先端が原料ガス供給口を兼ねていて、熱陰極の先端付近とプラズマ電極のイオン引出し孔付近との間に柱状で高密度のプラズマが生成され、このプラズマからプラズマ電極のイオン引出し孔を通して当該プラズマの軸方向にイオンビームを引き出すことができるので、大きな体積のプラズマ生成室を設ける必要がなくなり、プラズマ生成室の体積を小さくすることができる。従って当該イオン源を小型化することができる。しかも、プラズマ電極のイオン引出し孔の近傍に生成された高密度のプラズマからその軸方向にイオンビームを引き出すことができるので、高いイオンビーム生成効率を実現することができる。
【0021】
また、熱陰極の先端付近で生成される熱電子は、プラズマ生成室内で最もガス圧の高い領域に放出されることになるので、熱陰極から放出される熱電子とガス分子との衝突回数が増加してアーク放電を維持しやすくなる。その結果、放電電圧を低くすることや、熱陰極の加熱温度を低くすることが可能になり、それによって熱陰極の消耗量を小さく抑えて熱陰極の寿命を長くすること等が可能になる。
【0022】
更に、熱陰極の内部導体が中空であるので、中実の場合に比べて、内部導体の質量や断面積が大きくなるのを抑えつつ、内部導体の太さを大きくすることができる。その結果、内部導体の単位表面積当たりの熱の集中を抑制して、内部導体の温度上昇を抑制することができる。従って、内部導体の寿命ひいては熱陰極の寿命を長くすることができる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、熱陰極の外部導体の先端部と内部導体の先端部とを、接続導体を用いずに電気的に直接接続しているので、接続導体を用いる場合に比べて、熱陰極の先端部の体積を小さくすることができる。その結果、熱陰極の熱容量を小さくし、温度制御時の時定数を小さくして、温度制御の応答性をより良くすることができる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、熱陰極の内部導体は外部導体よりも温度が高くなるけれども、内部導体は外部導体よりも融点の高い材料で形成されているので、内部導体の耐熱性が高く、従って内部導体の寿命ひいては熱陰極の寿命をより長くすることができる。また、熱陰極の運転範囲をより広くすることもできる。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、上記のような磁気コイルを備えていると、当該磁気コイルが発生する磁界の強度を制御することによって、熱陰極の先端付近とプラズマ電極のイオン引出し孔付近との間に生成される柱状のプラズマの直径方向の大きさを変化させることができる。それによって、当該プラズマ内での電子とガス分子、電子とイオン、イオンとイオン等の衝突の平均回数を変化させてプラズマ中のイオン種の比率を変化させ、イオンビーム中に含まれるイオン種の比率を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明に係るイオン源の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1中の熱陰極周りの拡大断面図である。
【図3】図1に示すイオン源の放電電流−引出し電流特性の測定結果の一例を示すグラフである。
【図4】図1に示すイオン源の放電電圧−放電電流特性の測定結果の一例を示すグラフである。
【図5】従来のバーナス型イオン源の放電電圧−放電電流特性の測定結果の一例を示すグラフである。
【図6】この発明に係るイオン源を構成する熱陰極の他の例を部分的に示す断面図である。
【図7】この発明に係るイオン源を構成する熱陰極の更に他の例を部分的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、この発明に係るイオン源の一実施形態を示す断面図である。図2は、図1中の熱陰極周りの拡大断面図である。
【0028】
このイオン源2は、プラズマ20を生成するためのプラズマ生成室22を備えている。プラズマ生成室22は、この実施形態では、真空容器24、プラズマ電極38、両者24、38間を絶縁する筒状の絶縁物31および真空容器24内に設けられた陰極ホルダ26によって区画されている。プラズマ生成室22内は、プラズマ電極38のイオン引出し孔40を通して真空排気される。これはイオン源の一般的な方法である。
【0029】
プラズマ生成室22内に、陰極ホルダ26によって保持されて、熱陰極10が配置されている。熱陰極10は、中空の外部導体12と、この外部導体12の内側に同軸状に配置されている中空の内部導体14と、外部導体12の先端部と内部導体14の先端部との間に設けられていて両先端部間を電気的に接続する環状の接続導体16とを有している。従ってこの熱陰極10は、特許文献2に記載の熱陰極と違って、その内部(より具体的には内部導体14の内部)に後述するように原料ガス8を通すことができる。外部導体12および内部導体14は、共に筒状(但し以下に述べるように、横断面が円形に限られるものではない)をしていると言うこともできる。
【0030】
内部導体14のプラズマ生成室22外の端部に、ガス供給パイプ28が接続されている。このガス供給パイプ28は、プラズマ生成室22外の部分から熱陰極10の内部導体14内に原料ガス(蒸気の場合を含む)8を供給して、当該原料ガス8を、内部導体14内を通して当該内部導体14の先端からプラズマ生成室22内へ放出させるガス供給手段と、内部導体14に加熱電源52からの加熱電流IH を流す電流導入端子とを兼ねている。
【0031】
加熱電源52からの加熱電流IH は、真空容器24、陰極ホルダ26、熱陰極10の外部導体12、接続導体16、内部導体14およびガス供給パイプ28の経路で流される。32は筒状の絶縁物である。
【0032】
即ち、この熱陰極10においては、加熱電源52から供給される加熱電流IH は、先端部の接続導体16を通して折り返されて、外部導体12と内部導体14とで互いに逆向きに流される。この加熱電流IH によって、熱陰極10は、より具体的にはそれを構成する外部導体12、内部導体14および接続導体16は発熱してプラズマ生成室22内に熱電子を放出する。
【0033】
加熱電源52は、この実施形態では直流電源の場合の例を示しているが、それに限られるものではなく、交流電源でも良い。
【0034】
熱陰極10の外部導体12および内部導体14は、この実施形態では、横断面が共に円形をしているが、それに限られるものではなく、横断面が共に楕円形や多角形等をしていても良い。
【0035】
接続導体16は、この実施形態では円環状をしているが、それに限られるものではなく、要は外部導体12および内部導体14の横断面形状に合わせれば良い。
【0036】
接続導体16は、この実施形態では、外部導体12の先端部と内部導体14の先端部との間に嵌合して結合している。この接続導体16と外部導体12および内部導体14との結合は、例えば、嵌合による結合のみでも良いし、嵌合と溶接を併用しても良い。溶接を併用すると、結合の信頼性が向上する。
【0037】
外部導体12、内部導体14および接続導体16は、それぞれ、例えば、モリブデン(融点2896K)、タンタル(融点3290K)、タングステン(融点3695K)、レニウム(融点3459K)、イリジウム(融点2739K)のような高融点金属またはこれらの金属の内の二つ以上を含む合金等の高融点材料で形成するのが好ましい。
【0038】
プラズマ生成室22の一端側には、プラズマ生成室22内で生成されたプラズマ20から電界の作用でイオンビーム50を引き出す引出し電極系36が配置されている。引出し電極系36は、この実施形態では、上記プラズマ電極38と、その下流側に設けられた接地電極42とを有している。両電極38、42間には、前者38を正極側にして、直流の引出し電源56から引出し電圧VE が印加される。30は筒状の絶縁物である。
【0039】
プラズマ電極38は、プラズマ生成室22の一端部を区画しているので、プラズマ生成室22の一端部に配置されていると言うことができる。このプラズマ電極38は、熱陰極10との間で放電(具体的にはアーク放電。以下同様)を生じさせる陽極を兼ねており、熱陰極10の先端に所定の(例えば数mm〜数cm程度の)間隔をあけて対向するように配置されている。
【0040】
プラズマ電極38は、熱陰極10の内部導体14の先端の正面にイオン引出し孔40を有している。より具体的には、内部導体14の先端部の穴の中心とイオン引出し孔40の中心は、実質的に同じ軸46上に、即ち実質的に同軸上に位置している。接地電極42のイオン引出し孔44も同様である。イオン引出し孔40および44は、例えば円形の孔であるが、それに限られるものではない。
【0041】
引出し電極系36の、プラズマ電極38よりも下流側の電極構成は、この実施形態以外の構成でも良い。即ち引出し電極系36は、この実施形態では2枚の電極で構成されているが、それに限られるものではなく、目的等に応じて、3枚や4枚等の電極で構成されていても良い。
【0042】
プラズマ電極38と熱陰極10(より具体的にはこの実施形態ではその内部導体14)との間には、前者38を正極側にして、直流のアーク電源54から放電電圧VD が印加される。
【0043】
この実施形態のように、熱陰極10の周囲に熱シールド34を設けておいても良い。それによって、熱陰極10の温度上昇の効率を高めると共に、周囲の真空容器24、絶縁物31等への輻射熱の伝播抑制を図ることができる。熱シールド34は、この実施形態では2重の筒状をしているが、1重でも良い。
【0044】
必要に応じて、プラズマ生成室22の周りの構造物を冷却する冷却機構を設けておいても良い。例えば、真空容器24、プラズマ電極38、接地電極42、ガス供給パイプ28等を、冷却水等の冷媒によって冷却する冷却機構(例えば冷却パイプ)を設けておいても良い。
【0045】
このイオン源2を相手機器に取り付けるための取付けフランジ48を必要に応じて設けておいても良い。
【0046】
また、図1に示すイオン源2は、仮想線(二点鎖線)で示すように磁気コイル58を有していない場合の例であるが、それを有していても良い。これについては後述する。後述する図3、図4は、磁気コイル58を有していないイオン源2についてのものである。
【0047】
このイオン源2においては、熱陰極10(より具体的にはその内部導体14)の先端が原料ガス供給口を兼ねており、ガス供給パイプ28から供給された原料ガス8は、熱陰極10の先端からプラズマ電極38のイオン引出し孔40に向けて放出され、プラズマ電極38のイオン引出し孔40から排気される。従って、熱陰極10の先端付近とプラズマ電極38のイオン引出し孔40付近との間に、即ち上記軸46付近に、プラズマ生成室22内で最もガス圧の高い領域が形成される。
【0048】
しかもそのガス圧の高い領域に、当該領域に近接している熱陰極10から熱電子が放出され、この熱電子が上記放電電圧VD によって加速されて原料ガス分子と衝突してそれを電離させるので、熱陰極10の先端付近とプラズマ電極38のイオン引出し孔40付近との間にアーク放電が発生する。それによって、原料ガス分子が更に電離されて、熱陰極10の先端付近とプラズマ電極38のイオン引出し孔40付近との間に柱状で高密度のプラズマ20が生成される。このプラズマ20の軸21は、上記軸46とほぼ一致している。
【0049】
そして上記高密度のプラズマ20から、当該プラズマ20に近接しているプラズマ電極38のイオン引出し孔40を通して、引出し電極系36によって、当該プラズマ20の軸21に沿う方向にイオンビーム50が引き出される。従ってイオンビーム50は、上記軸46、21とほぼ同軸上に軸51を持つことになる。
【0050】
以上のようにこのイオン源2によれば、熱陰極10の先端が原料ガス供給口を兼ねていて、熱陰極10の先端付近とプラズマ電極38のイオン引出し孔40付近との間に柱状で高密度のプラズマ20が生成され、このプラズマ20からプラズマ電極38のイオン引出し孔40を通して当該プラズマ20の軸21に沿う方向にイオンビーム50を引き出すことができるので、大きな体積のプラズマ生成室22を設ける必要がなくなり、プラズマ生成室22の体積を小さくすることができる。従って当該イオン源2を小型化することができる。
【0051】
熱陰極10の先端が原料ガス供給口を兼ねているので、プラズマ生成室22の壁面に原料ガス供給口を設ける必要がないことも、プラズマ生成室22の体積を小さくすることに寄与している。また、この実施形態では、真空容器24の一部分が加熱電流IH の経路を兼ねており、これもプラズマ生成室22の体積を小さくすることに寄与している。
【0052】
この実施形態では、プラズマ生成室22の寸法を、直径が約2cm、長さが約3cmと、非常に小さくすることができた。それに伴ってイオン源2全体も非常に小型化することができた。
【0053】
しかもこのイオン源2は、プラズマ電極38のイオン引出し孔40の近傍に生成された高密度のプラズマ20からその軸21に沿う方向にイオンビーム50を引き出すことができるので、高いイオンビーム生成効率を実現することができる。これを補足説明すると、このイオン源2では、イオン引出し孔40付近のプラズマ20中のイオン電流密度は、アーク放電電流密度と大して変らず、このような高密度のプラズマ20からその軸21方向にイオンビーム50を引き出すことができる。その結果、従来のバーナス型イオン源に比べてイオンビーム生成効率はかなり高くなる。
【0054】
この実施形態のイオン源2において、イオンビーム生成効率が高くなる効果を確かめた結果を、図3に示す放電電流−引出し電流特性を参照して説明する。放電電流ID はアーク電源54の出力電流である。引出し電流IE は、引出し電源56の出力電流であるが、これはイオンビーム50のビーム電流にほぼ等しいと言うことができる。この図3の測定では、原料ガス8をアルゴンガスとし、ガス圧は、イオン源2を取り付けている真空容器内の圧力をイオン源2の近傍において電離真空計で測定したものである(これは図4、図5においても同様)。アーク電源54の出力電圧である放電電圧VD は60V、引出し電源56の出力電圧である引出し電圧VE は1kVにした。
【0055】
この図3の例では、引出し電圧VE は1kVという低いものであったが、例えばガス圧が0.2Pa、放電電流ID が500mAで、約1mAの引出し電流IE が得られている。このイオン源2のプラズマ電極38のイオン引出し孔40の直径は4mmであるので、引出し電流密度は約8mA/cm2 であり、イオンビーム生成効率を表す一つの指標である放電電流効率(=引出し電流密度÷放電電流ID )は、約0.016cm-2である。これは一般的なバーナス型イオン源の約2.5倍という高い効率である。
【0056】
また、このイオン源2においては、熱陰極10の先端付近で生成される熱電子は、上述したように、プラズマ生成室22内で最もガス圧の高い領域に放出されることになるので、熱陰極10から放出される熱電子とガス分子との衝突回数が増加してアーク放電を維持しやすくなる。その結果、放電電圧VD を低くすることや、熱陰極10の加熱温度を低くすることが可能になる。
【0057】
放電電圧VD を低くすることによって、プラズマ20から受ける熱陰極10のスパッタリングを低減することができるので、熱陰極10の消耗量が減り、熱陰極10の寿命を長くすることができる。また、低い放電電圧VD で運転を行うことによって、電離電圧や解離電圧の低い分子イオンやクラスターイオンの生成効率を向上させることもできる。即ち、イオンビーム50中に含まれる分子イオンやクラスターイオンの割合増加を図ることもできる。
【0058】
熱陰極10の加熱温度を低くすることによって、熱陰極10の消耗量が減るので、熱陰極10の寿命を長くすることができる。
【0059】
この実施形態のイオン源2において、放電電圧VD を低くすることができることを確かめた結果を、図4に示す放電電圧−放電電流特性を参照して説明する。この図4の測定では、原料ガス8(即ちアルゴンガス)の圧力は0.01Paとした。この図4から分かるように、上記ガス圧では、熱陰極10に流す加熱電流IH が50Aで放電が可能となっている。また、加熱電流IH が50A〜55Aの範囲で、アルゴンガスの第1電離電圧に近い約18Vという低い放電電圧VD で放電が可能になっている。
【0060】
比較のために、従来のバーナス型イオン源の放電電圧−放電電流特性の測定結果の一例を図5に示す。この測定に用いたバーナス型イオン源は、熱陰極としてフィラメントを有している。この図5の測定では、原料ガスをアルゴンガスとし、そのガス圧を6.3×10-3Paとした。この図5から分かるように、バーナス型イオン源では約30V以上の放電電圧からでしか放電が可能にならない。
【0061】
また、この実施形態のイオン源2においては、熱陰極10の内部導体14が中空であるので、中実の場合に比べて、内部導体14の質量や断面積が大きくなるのを抑えつつ、内部導体14の太さ(例えば外径)を大きくすることができる。その結果、内部導体14の単位表面積当たりの熱の集中を抑制して、内部導体14の温度上昇を抑制することができる。従って、内部導体14の寿命ひいては熱陰極10の寿命を長くすることができる。
【0062】
より具体的には、内部導体14の外径が外部導体12の内径よりも小さいと内部導体14の温度は外部導体12の温度よりも必ず高くなるけれども、内部導体14の外径を大きくすることによって、例えば外部導体12の内径に近づけることによって、内部導体14の温度を外部導体12の温度に近づけることができる。
【0063】
熱陰極10は、例えば図6、図7に示す例のように、前記接続導体16を有する代わりに、外部導体12の先端部と内部導体14の先端部とを電気的に直接接続して、その接続部18で前記加熱電流IH が折り返されるよう構成しても良い。
【0064】
より具体的には、図6に示す熱陰極10では、外部導体12の先端部を内側に絞っておくことによって、内部導体14の先端部と接触させて、両先端部を互いに電気的に接続している接続部18を形成している。
【0065】
図7に示す熱陰極10では、内部導体14の先端部を外側に広げておくことによって、外部導体12の先端部と接触させて、両先端部を互いに電気的に接続している接続部18を形成している。
【0066】
上記接続部18における両導体12、14の先端部の接続は、嵌め合いによる接続だけでも良いし、それと溶接を併用しても良い。溶接を併用すると、接続の信頼性が向上する。
【0067】
熱陰極10の温度制御の応答性の観点から、図2、図6、図7に示した各熱陰極10を比べると、図6、図7に示した熱陰極10では、外部導体12の先端部と内部導体14の先端部とを、接続導体を用いずに電気的に直接接続しているので、接続導体16を用いた図2の熱陰極10に比べて、熱陰極10の先端部の体積を小さくすることができる。その結果、熱陰極10の熱容量を小さくし、温度制御時の時定数を小さくして、温度制御の応答性をより良くすることができる。
【0068】
上記いずれの例の熱陰極10においても、内部導体14を、外部導体12よりも融点の高い材料で形成しておいても良い。その一例を挙げると、外部導体12をタンタルで形成し、内部導体14をタングステンで形成しておいても良い。前述したように、内部導体14は必ず外部導体12よりも温度が高くなるので、内部導体14を外部導体12よりも融点の高い材料で形成しておくことによって、内部導体14の耐熱性を高くして、内部導体14の寿命ひいては熱陰極10の寿命をより長くすることができる。また、熱陰極10の運転範囲をより広くすることもできる。
【0069】
再び図1、図2を参照して、イオン源2は、プラズマ生成室22内に、熱陰極10の内部導体14の先端部の中心とプラズマ電極38のイオン引出し孔40の中心とを結ぶ線に沿う方向に、換言すれば前記軸46に沿う方向に磁界60を発生させる磁気コイル58を備えていても良い。この磁気コイル58は、直流の励磁電源62によって励磁されて磁界60を発生させる。磁界60の向きは図示とは逆でも良い。
【0070】
上記のような磁気コイル58を備えていると、当該磁気コイル58が発生する磁界60の強度を制御することによって、熱陰極10の先端付近とプラズマ電極38のイオン引出し孔40付近との間に生成される柱状のプラズマ20の直径方向の大きさを変化させることができる。それによって、当該プラズマ20内での電子とガス分子、電子とイオン、イオンとイオン等の衝突の平均回数を変化させてプラズマ20中のイオン種の比率を変化させ、イオンビーム50中に含まれるイオン種の比率を制御することができる。
【符号の説明】
【0071】
2 イオン源
8 原料ガス
10 熱陰極
12 外部導体
14 内部導体
16 接続導体
18 接続部
20 プラズマ
22 プラズマ生成室
28 ガス供給パイプ
36 引出し電極系
38 プラズマ電極
40 イオン引出し孔
50 イオンビーム
58 磁気コイル
IH 加熱電流
【先行技術文献】
【特許文献】
【0072】
【特許文献1】特開2001−236897号公報(段落0001−0008、図3)
【特許文献2】特開2006−54108号公報(段落0020−0023、図1、図2)
【技術分野】
【0001】
この発明は、筒状(中空)の外部導体内に内部導体を配置した同軸構造の熱陰極を備えているイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ生成室の一方側内に、熱電子を放出する熱陰極(具体的にはフィラメント)を設け、他方側内に、電子を反射させる反射電極を熱陰極に相対向させて設け、かつ熱陰極と反射電極とを結ぶ線に沿う方向に外部から磁界を印加する構造をしている、いわゆるバーナス型イオン源が従来から種々提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
上記プラズマ生成室の一つの壁面には、熱陰極と反射電極とを結ぶ線に沿う方向に伸びている細長いイオン引出し孔が設けられており、このイオン引出し孔に対向する壁面または当該壁面に直交する壁面には、プラズマ生成室内へ原料ガスを供給する原料ガス供給口が設けられている。
【0004】
上記バーナス型イオン源においては、プラズマ生成室の壁面が陽極を兼ねていて、それと熱陰極との間のアーク放電によって原料ガスが電離されて、熱陰極と反射電極とを結ぶ線に沿う方向を長軸(密度の高い部分を長手方向に結ぶ軸)とするプラズマが生成され、このプラズマから、その長軸とほぼ直交する方向に上記イオン引出し孔を通してイオンビームが引き出される。
【0005】
また、特許文献2には、筒状の外部導体と、その内側に同軸状に配置されている中実(中が詰まっていて中空でないこと)構造の内部導体と、両導体の先端部間を埋めて当該先端部間を電気的に接続する接続導体とを有している同軸構造の熱陰極、およびそれを備えているイオン源が記載されている。この熱陰極に対する加熱電流は、接続導体を通して折り返されて、外部導体と内部導体とで互いに逆向きに流される。
【0006】
この特許文献2に記載の熱陰極によれば、(a)外部導体と内部導体とが同軸状であり、かつ両導体で加熱電流が互いに逆向きに流されるので、両導体に流れる加熱電流が発生させる磁界が相殺し合い、当該熱陰極全体として見れば、加熱電流を流すことによって発生する磁界を小さく抑えることができるので、熱電子を放出しやすくなる、(b)熱陰極の先端部等の体積を、線材(棒材とも言える)によって形成されている公知のフィラメントに比べて大きくすることができるので、陰極寿命を長くすることができる、等の効果を奏するとされている。
【0007】
特許文献2には、バーナス型イオン源については言及されていないけれども、それに記載の熱陰極を、フィラメントに代わるものとして、バーナス型イオン源にも適用することができることは当業者にとって明らかであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記バーナス型イオン源においては、熱陰極としてフィラメントまたは上記同軸構造の熱陰極のいずれを用いるにせよ、熱陰極から放出された電子は、プラズマ生成室壁面との電位差によって加速されつつ飛行するが、このとき、外部の磁石から印加される磁界中で螺旋運動を行う。それによって、プラズマ生成室内において電子と原料ガス分子との衝突回数を増加させて、プラズマ生成効率を高めている。このような機能を実現するために、プラズマ生成室は、電子がガス分子と衝突するのに十分な大きさを持つ必要がある。
【0009】
また、プラズマ生成室の壁面に設けた原料ガス供給口から原料ガスを供給するために、プラズマの長軸とガス放出方向とは互いにほぼ直交した方向となる。その結果、プラズマの長軸に沿う方向におけるガス圧分布が不均一になり、ひいては、プラズマ密度分布が不均一になるので、この不均一を緩和するために、プラズマ生成室の体積を大きくする必要がある。
【0010】
更に、プラズマ生成室の壁面はプラズマにとっては損失面となるために、熱陰極の反対側に電子反射用の反射電極を設ける必要があり、そのための空間がプラズマ生成室内に必要である。
【0011】
以上のように、バーナス型イオン源においては、ある程度以上のプラズマ生成室の体積を確保する必要があるので、これが制約となって、当該イオン源を小型化するのが難しいという課題がある。
【0012】
また、プラズマ生成室の体積が大きいと、プラズマ生成のために投入する放電電力の利用効率が低下するので、そのぶんイオンビーム生成効率が低下するという課題もある。
【0013】
そこでこの発明は、小型化が可能であり、かつイオンビーム生成効率の高いイオン源を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係るイオン源は、(a)プラズマを生成するためのプラズマ生成室と、(b)前記プラズマ生成室内に配置されていて、加熱電流が流されて前記プラズマ生成室内に熱電子を放出する熱陰極であって、中空の外部導体と、この外部導体の内側に同軸状に配置されている中空の内部導体と、この内部導体の先端部と前記外部導体の先端部との間に設けられていて両先端部間を電気的に接続する環状の接続導体とを有していて、前記加熱電流は、前記接続導体を通して折り返されて、前記外部導体と前記内部導体とで互いに逆向きに流されるよう構成されている熱陰極と、(c)前記プラズマ生成室外の部分から前記熱陰極の内部導体内に原料ガスを供給して、当該原料ガスを前記内部導体内を通して前記内部導体の先端から前記プラズマ生成室内へ放出させるガス供給手段と、(d)前記熱陰極との間で放電を生じさせる陽極を兼ねる電極であって、前記プラズマ生成室の一端部に、前記熱陰極の先端部に間隔をあけて対向するように配置されており、かつ前記熱陰極の内部導体の先端の正面にイオン引出し孔を有しているプラズマ電極を有していて、前記プラズマ生成室内のプラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系とを備えていることを特徴としている。
【0015】
このイオン源においては、熱陰極(より具体的にはその内部導体)の先端が原料ガス供給口を兼ねており、原料ガスは熱陰極の先端からプラズマ電極のイオン引出し孔に向けて放出される。従って、熱陰極の先端付近とプラズマ電極のイオン引出し孔付近との間に、プラズマ生成室内で最もガス圧の高い領域が形成され、しかもその領域に、当該領域に近接している熱陰極から熱電子が放出されるので、熱陰極の先端付近とプラズマ電極のイオン引出し孔付近との間に柱状で高密度のプラズマが生成される。この高密度のプラズマから、当該プラズマに近接しているプラズマ電極のイオン引出し孔を通して、当該プラズマの軸に沿う方向にイオンビームを引き出すことができる。
【0016】
その結果、大きな体積のプラズマ生成室を設ける必要がなくなり、プラズマ生成室の体積を小さくすることができるので、当該イオン源を小型化することができる。しかも、プラズマ電極のイオン引出し孔の近傍に生成された高密度のプラズマからその軸方向にイオンビームを引き出すことができるので、高いイオンビーム生成効率を実現することができる。
【0017】
前記熱陰極は、前記接続導体を有する代わりに、前記外部導体の先端部と前記内部導体の先端部とを電気的に直接接続していて、その接続部で前記加熱電流が折り返されるよう構成されていても良い。
【0018】
前記熱陰極の内部導体は、前記外部導体よりも融点の高い材料で形成されていても良い。
【0019】
前記プラズマ生成室内に前記熱陰極の内部導体の先端部の中心と前記プラズマ電極のイオン引出し孔の中心とを結ぶ線に沿う方向に磁界を発生させる磁気コイルを備えていても良い。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、熱陰極の先端が原料ガス供給口を兼ねていて、熱陰極の先端付近とプラズマ電極のイオン引出し孔付近との間に柱状で高密度のプラズマが生成され、このプラズマからプラズマ電極のイオン引出し孔を通して当該プラズマの軸方向にイオンビームを引き出すことができるので、大きな体積のプラズマ生成室を設ける必要がなくなり、プラズマ生成室の体積を小さくすることができる。従って当該イオン源を小型化することができる。しかも、プラズマ電極のイオン引出し孔の近傍に生成された高密度のプラズマからその軸方向にイオンビームを引き出すことができるので、高いイオンビーム生成効率を実現することができる。
【0021】
また、熱陰極の先端付近で生成される熱電子は、プラズマ生成室内で最もガス圧の高い領域に放出されることになるので、熱陰極から放出される熱電子とガス分子との衝突回数が増加してアーク放電を維持しやすくなる。その結果、放電電圧を低くすることや、熱陰極の加熱温度を低くすることが可能になり、それによって熱陰極の消耗量を小さく抑えて熱陰極の寿命を長くすること等が可能になる。
【0022】
更に、熱陰極の内部導体が中空であるので、中実の場合に比べて、内部導体の質量や断面積が大きくなるのを抑えつつ、内部導体の太さを大きくすることができる。その結果、内部導体の単位表面積当たりの熱の集中を抑制して、内部導体の温度上昇を抑制することができる。従って、内部導体の寿命ひいては熱陰極の寿命を長くすることができる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、熱陰極の外部導体の先端部と内部導体の先端部とを、接続導体を用いずに電気的に直接接続しているので、接続導体を用いる場合に比べて、熱陰極の先端部の体積を小さくすることができる。その結果、熱陰極の熱容量を小さくし、温度制御時の時定数を小さくして、温度制御の応答性をより良くすることができる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、熱陰極の内部導体は外部導体よりも温度が高くなるけれども、内部導体は外部導体よりも融点の高い材料で形成されているので、内部導体の耐熱性が高く、従って内部導体の寿命ひいては熱陰極の寿命をより長くすることができる。また、熱陰極の運転範囲をより広くすることもできる。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、上記のような磁気コイルを備えていると、当該磁気コイルが発生する磁界の強度を制御することによって、熱陰極の先端付近とプラズマ電極のイオン引出し孔付近との間に生成される柱状のプラズマの直径方向の大きさを変化させることができる。それによって、当該プラズマ内での電子とガス分子、電子とイオン、イオンとイオン等の衝突の平均回数を変化させてプラズマ中のイオン種の比率を変化させ、イオンビーム中に含まれるイオン種の比率を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明に係るイオン源の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1中の熱陰極周りの拡大断面図である。
【図3】図1に示すイオン源の放電電流−引出し電流特性の測定結果の一例を示すグラフである。
【図4】図1に示すイオン源の放電電圧−放電電流特性の測定結果の一例を示すグラフである。
【図5】従来のバーナス型イオン源の放電電圧−放電電流特性の測定結果の一例を示すグラフである。
【図6】この発明に係るイオン源を構成する熱陰極の他の例を部分的に示す断面図である。
【図7】この発明に係るイオン源を構成する熱陰極の更に他の例を部分的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、この発明に係るイオン源の一実施形態を示す断面図である。図2は、図1中の熱陰極周りの拡大断面図である。
【0028】
このイオン源2は、プラズマ20を生成するためのプラズマ生成室22を備えている。プラズマ生成室22は、この実施形態では、真空容器24、プラズマ電極38、両者24、38間を絶縁する筒状の絶縁物31および真空容器24内に設けられた陰極ホルダ26によって区画されている。プラズマ生成室22内は、プラズマ電極38のイオン引出し孔40を通して真空排気される。これはイオン源の一般的な方法である。
【0029】
プラズマ生成室22内に、陰極ホルダ26によって保持されて、熱陰極10が配置されている。熱陰極10は、中空の外部導体12と、この外部導体12の内側に同軸状に配置されている中空の内部導体14と、外部導体12の先端部と内部導体14の先端部との間に設けられていて両先端部間を電気的に接続する環状の接続導体16とを有している。従ってこの熱陰極10は、特許文献2に記載の熱陰極と違って、その内部(より具体的には内部導体14の内部)に後述するように原料ガス8を通すことができる。外部導体12および内部導体14は、共に筒状(但し以下に述べるように、横断面が円形に限られるものではない)をしていると言うこともできる。
【0030】
内部導体14のプラズマ生成室22外の端部に、ガス供給パイプ28が接続されている。このガス供給パイプ28は、プラズマ生成室22外の部分から熱陰極10の内部導体14内に原料ガス(蒸気の場合を含む)8を供給して、当該原料ガス8を、内部導体14内を通して当該内部導体14の先端からプラズマ生成室22内へ放出させるガス供給手段と、内部導体14に加熱電源52からの加熱電流IH を流す電流導入端子とを兼ねている。
【0031】
加熱電源52からの加熱電流IH は、真空容器24、陰極ホルダ26、熱陰極10の外部導体12、接続導体16、内部導体14およびガス供給パイプ28の経路で流される。32は筒状の絶縁物である。
【0032】
即ち、この熱陰極10においては、加熱電源52から供給される加熱電流IH は、先端部の接続導体16を通して折り返されて、外部導体12と内部導体14とで互いに逆向きに流される。この加熱電流IH によって、熱陰極10は、より具体的にはそれを構成する外部導体12、内部導体14および接続導体16は発熱してプラズマ生成室22内に熱電子を放出する。
【0033】
加熱電源52は、この実施形態では直流電源の場合の例を示しているが、それに限られるものではなく、交流電源でも良い。
【0034】
熱陰極10の外部導体12および内部導体14は、この実施形態では、横断面が共に円形をしているが、それに限られるものではなく、横断面が共に楕円形や多角形等をしていても良い。
【0035】
接続導体16は、この実施形態では円環状をしているが、それに限られるものではなく、要は外部導体12および内部導体14の横断面形状に合わせれば良い。
【0036】
接続導体16は、この実施形態では、外部導体12の先端部と内部導体14の先端部との間に嵌合して結合している。この接続導体16と外部導体12および内部導体14との結合は、例えば、嵌合による結合のみでも良いし、嵌合と溶接を併用しても良い。溶接を併用すると、結合の信頼性が向上する。
【0037】
外部導体12、内部導体14および接続導体16は、それぞれ、例えば、モリブデン(融点2896K)、タンタル(融点3290K)、タングステン(融点3695K)、レニウム(融点3459K)、イリジウム(融点2739K)のような高融点金属またはこれらの金属の内の二つ以上を含む合金等の高融点材料で形成するのが好ましい。
【0038】
プラズマ生成室22の一端側には、プラズマ生成室22内で生成されたプラズマ20から電界の作用でイオンビーム50を引き出す引出し電極系36が配置されている。引出し電極系36は、この実施形態では、上記プラズマ電極38と、その下流側に設けられた接地電極42とを有している。両電極38、42間には、前者38を正極側にして、直流の引出し電源56から引出し電圧VE が印加される。30は筒状の絶縁物である。
【0039】
プラズマ電極38は、プラズマ生成室22の一端部を区画しているので、プラズマ生成室22の一端部に配置されていると言うことができる。このプラズマ電極38は、熱陰極10との間で放電(具体的にはアーク放電。以下同様)を生じさせる陽極を兼ねており、熱陰極10の先端に所定の(例えば数mm〜数cm程度の)間隔をあけて対向するように配置されている。
【0040】
プラズマ電極38は、熱陰極10の内部導体14の先端の正面にイオン引出し孔40を有している。より具体的には、内部導体14の先端部の穴の中心とイオン引出し孔40の中心は、実質的に同じ軸46上に、即ち実質的に同軸上に位置している。接地電極42のイオン引出し孔44も同様である。イオン引出し孔40および44は、例えば円形の孔であるが、それに限られるものではない。
【0041】
引出し電極系36の、プラズマ電極38よりも下流側の電極構成は、この実施形態以外の構成でも良い。即ち引出し電極系36は、この実施形態では2枚の電極で構成されているが、それに限られるものではなく、目的等に応じて、3枚や4枚等の電極で構成されていても良い。
【0042】
プラズマ電極38と熱陰極10(より具体的にはこの実施形態ではその内部導体14)との間には、前者38を正極側にして、直流のアーク電源54から放電電圧VD が印加される。
【0043】
この実施形態のように、熱陰極10の周囲に熱シールド34を設けておいても良い。それによって、熱陰極10の温度上昇の効率を高めると共に、周囲の真空容器24、絶縁物31等への輻射熱の伝播抑制を図ることができる。熱シールド34は、この実施形態では2重の筒状をしているが、1重でも良い。
【0044】
必要に応じて、プラズマ生成室22の周りの構造物を冷却する冷却機構を設けておいても良い。例えば、真空容器24、プラズマ電極38、接地電極42、ガス供給パイプ28等を、冷却水等の冷媒によって冷却する冷却機構(例えば冷却パイプ)を設けておいても良い。
【0045】
このイオン源2を相手機器に取り付けるための取付けフランジ48を必要に応じて設けておいても良い。
【0046】
また、図1に示すイオン源2は、仮想線(二点鎖線)で示すように磁気コイル58を有していない場合の例であるが、それを有していても良い。これについては後述する。後述する図3、図4は、磁気コイル58を有していないイオン源2についてのものである。
【0047】
このイオン源2においては、熱陰極10(より具体的にはその内部導体14)の先端が原料ガス供給口を兼ねており、ガス供給パイプ28から供給された原料ガス8は、熱陰極10の先端からプラズマ電極38のイオン引出し孔40に向けて放出され、プラズマ電極38のイオン引出し孔40から排気される。従って、熱陰極10の先端付近とプラズマ電極38のイオン引出し孔40付近との間に、即ち上記軸46付近に、プラズマ生成室22内で最もガス圧の高い領域が形成される。
【0048】
しかもそのガス圧の高い領域に、当該領域に近接している熱陰極10から熱電子が放出され、この熱電子が上記放電電圧VD によって加速されて原料ガス分子と衝突してそれを電離させるので、熱陰極10の先端付近とプラズマ電極38のイオン引出し孔40付近との間にアーク放電が発生する。それによって、原料ガス分子が更に電離されて、熱陰極10の先端付近とプラズマ電極38のイオン引出し孔40付近との間に柱状で高密度のプラズマ20が生成される。このプラズマ20の軸21は、上記軸46とほぼ一致している。
【0049】
そして上記高密度のプラズマ20から、当該プラズマ20に近接しているプラズマ電極38のイオン引出し孔40を通して、引出し電極系36によって、当該プラズマ20の軸21に沿う方向にイオンビーム50が引き出される。従ってイオンビーム50は、上記軸46、21とほぼ同軸上に軸51を持つことになる。
【0050】
以上のようにこのイオン源2によれば、熱陰極10の先端が原料ガス供給口を兼ねていて、熱陰極10の先端付近とプラズマ電極38のイオン引出し孔40付近との間に柱状で高密度のプラズマ20が生成され、このプラズマ20からプラズマ電極38のイオン引出し孔40を通して当該プラズマ20の軸21に沿う方向にイオンビーム50を引き出すことができるので、大きな体積のプラズマ生成室22を設ける必要がなくなり、プラズマ生成室22の体積を小さくすることができる。従って当該イオン源2を小型化することができる。
【0051】
熱陰極10の先端が原料ガス供給口を兼ねているので、プラズマ生成室22の壁面に原料ガス供給口を設ける必要がないことも、プラズマ生成室22の体積を小さくすることに寄与している。また、この実施形態では、真空容器24の一部分が加熱電流IH の経路を兼ねており、これもプラズマ生成室22の体積を小さくすることに寄与している。
【0052】
この実施形態では、プラズマ生成室22の寸法を、直径が約2cm、長さが約3cmと、非常に小さくすることができた。それに伴ってイオン源2全体も非常に小型化することができた。
【0053】
しかもこのイオン源2は、プラズマ電極38のイオン引出し孔40の近傍に生成された高密度のプラズマ20からその軸21に沿う方向にイオンビーム50を引き出すことができるので、高いイオンビーム生成効率を実現することができる。これを補足説明すると、このイオン源2では、イオン引出し孔40付近のプラズマ20中のイオン電流密度は、アーク放電電流密度と大して変らず、このような高密度のプラズマ20からその軸21方向にイオンビーム50を引き出すことができる。その結果、従来のバーナス型イオン源に比べてイオンビーム生成効率はかなり高くなる。
【0054】
この実施形態のイオン源2において、イオンビーム生成効率が高くなる効果を確かめた結果を、図3に示す放電電流−引出し電流特性を参照して説明する。放電電流ID はアーク電源54の出力電流である。引出し電流IE は、引出し電源56の出力電流であるが、これはイオンビーム50のビーム電流にほぼ等しいと言うことができる。この図3の測定では、原料ガス8をアルゴンガスとし、ガス圧は、イオン源2を取り付けている真空容器内の圧力をイオン源2の近傍において電離真空計で測定したものである(これは図4、図5においても同様)。アーク電源54の出力電圧である放電電圧VD は60V、引出し電源56の出力電圧である引出し電圧VE は1kVにした。
【0055】
この図3の例では、引出し電圧VE は1kVという低いものであったが、例えばガス圧が0.2Pa、放電電流ID が500mAで、約1mAの引出し電流IE が得られている。このイオン源2のプラズマ電極38のイオン引出し孔40の直径は4mmであるので、引出し電流密度は約8mA/cm2 であり、イオンビーム生成効率を表す一つの指標である放電電流効率(=引出し電流密度÷放電電流ID )は、約0.016cm-2である。これは一般的なバーナス型イオン源の約2.5倍という高い効率である。
【0056】
また、このイオン源2においては、熱陰極10の先端付近で生成される熱電子は、上述したように、プラズマ生成室22内で最もガス圧の高い領域に放出されることになるので、熱陰極10から放出される熱電子とガス分子との衝突回数が増加してアーク放電を維持しやすくなる。その結果、放電電圧VD を低くすることや、熱陰極10の加熱温度を低くすることが可能になる。
【0057】
放電電圧VD を低くすることによって、プラズマ20から受ける熱陰極10のスパッタリングを低減することができるので、熱陰極10の消耗量が減り、熱陰極10の寿命を長くすることができる。また、低い放電電圧VD で運転を行うことによって、電離電圧や解離電圧の低い分子イオンやクラスターイオンの生成効率を向上させることもできる。即ち、イオンビーム50中に含まれる分子イオンやクラスターイオンの割合増加を図ることもできる。
【0058】
熱陰極10の加熱温度を低くすることによって、熱陰極10の消耗量が減るので、熱陰極10の寿命を長くすることができる。
【0059】
この実施形態のイオン源2において、放電電圧VD を低くすることができることを確かめた結果を、図4に示す放電電圧−放電電流特性を参照して説明する。この図4の測定では、原料ガス8(即ちアルゴンガス)の圧力は0.01Paとした。この図4から分かるように、上記ガス圧では、熱陰極10に流す加熱電流IH が50Aで放電が可能となっている。また、加熱電流IH が50A〜55Aの範囲で、アルゴンガスの第1電離電圧に近い約18Vという低い放電電圧VD で放電が可能になっている。
【0060】
比較のために、従来のバーナス型イオン源の放電電圧−放電電流特性の測定結果の一例を図5に示す。この測定に用いたバーナス型イオン源は、熱陰極としてフィラメントを有している。この図5の測定では、原料ガスをアルゴンガスとし、そのガス圧を6.3×10-3Paとした。この図5から分かるように、バーナス型イオン源では約30V以上の放電電圧からでしか放電が可能にならない。
【0061】
また、この実施形態のイオン源2においては、熱陰極10の内部導体14が中空であるので、中実の場合に比べて、内部導体14の質量や断面積が大きくなるのを抑えつつ、内部導体14の太さ(例えば外径)を大きくすることができる。その結果、内部導体14の単位表面積当たりの熱の集中を抑制して、内部導体14の温度上昇を抑制することができる。従って、内部導体14の寿命ひいては熱陰極10の寿命を長くすることができる。
【0062】
より具体的には、内部導体14の外径が外部導体12の内径よりも小さいと内部導体14の温度は外部導体12の温度よりも必ず高くなるけれども、内部導体14の外径を大きくすることによって、例えば外部導体12の内径に近づけることによって、内部導体14の温度を外部導体12の温度に近づけることができる。
【0063】
熱陰極10は、例えば図6、図7に示す例のように、前記接続導体16を有する代わりに、外部導体12の先端部と内部導体14の先端部とを電気的に直接接続して、その接続部18で前記加熱電流IH が折り返されるよう構成しても良い。
【0064】
より具体的には、図6に示す熱陰極10では、外部導体12の先端部を内側に絞っておくことによって、内部導体14の先端部と接触させて、両先端部を互いに電気的に接続している接続部18を形成している。
【0065】
図7に示す熱陰極10では、内部導体14の先端部を外側に広げておくことによって、外部導体12の先端部と接触させて、両先端部を互いに電気的に接続している接続部18を形成している。
【0066】
上記接続部18における両導体12、14の先端部の接続は、嵌め合いによる接続だけでも良いし、それと溶接を併用しても良い。溶接を併用すると、接続の信頼性が向上する。
【0067】
熱陰極10の温度制御の応答性の観点から、図2、図6、図7に示した各熱陰極10を比べると、図6、図7に示した熱陰極10では、外部導体12の先端部と内部導体14の先端部とを、接続導体を用いずに電気的に直接接続しているので、接続導体16を用いた図2の熱陰極10に比べて、熱陰極10の先端部の体積を小さくすることができる。その結果、熱陰極10の熱容量を小さくし、温度制御時の時定数を小さくして、温度制御の応答性をより良くすることができる。
【0068】
上記いずれの例の熱陰極10においても、内部導体14を、外部導体12よりも融点の高い材料で形成しておいても良い。その一例を挙げると、外部導体12をタンタルで形成し、内部導体14をタングステンで形成しておいても良い。前述したように、内部導体14は必ず外部導体12よりも温度が高くなるので、内部導体14を外部導体12よりも融点の高い材料で形成しておくことによって、内部導体14の耐熱性を高くして、内部導体14の寿命ひいては熱陰極10の寿命をより長くすることができる。また、熱陰極10の運転範囲をより広くすることもできる。
【0069】
再び図1、図2を参照して、イオン源2は、プラズマ生成室22内に、熱陰極10の内部導体14の先端部の中心とプラズマ電極38のイオン引出し孔40の中心とを結ぶ線に沿う方向に、換言すれば前記軸46に沿う方向に磁界60を発生させる磁気コイル58を備えていても良い。この磁気コイル58は、直流の励磁電源62によって励磁されて磁界60を発生させる。磁界60の向きは図示とは逆でも良い。
【0070】
上記のような磁気コイル58を備えていると、当該磁気コイル58が発生する磁界60の強度を制御することによって、熱陰極10の先端付近とプラズマ電極38のイオン引出し孔40付近との間に生成される柱状のプラズマ20の直径方向の大きさを変化させることができる。それによって、当該プラズマ20内での電子とガス分子、電子とイオン、イオンとイオン等の衝突の平均回数を変化させてプラズマ20中のイオン種の比率を変化させ、イオンビーム50中に含まれるイオン種の比率を制御することができる。
【符号の説明】
【0071】
2 イオン源
8 原料ガス
10 熱陰極
12 外部導体
14 内部導体
16 接続導体
18 接続部
20 プラズマ
22 プラズマ生成室
28 ガス供給パイプ
36 引出し電極系
38 プラズマ電極
40 イオン引出し孔
50 イオンビーム
58 磁気コイル
IH 加熱電流
【先行技術文献】
【特許文献】
【0072】
【特許文献1】特開2001−236897号公報(段落0001−0008、図3)
【特許文献2】特開2006−54108号公報(段落0020−0023、図1、図2)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)プラズマを生成するためのプラズマ生成室と、
(b)前記プラズマ生成室内に配置されていて、加熱電流が流されて前記プラズマ生成室内に熱電子を放出する熱陰極であって、中空の外部導体と、この外部導体の内側に同軸状に配置されている中空の内部導体と、この内部導体の先端部と前記外部導体の先端部との間に設けられていて両先端部間を電気的に接続する環状の接続導体とを有していて、前記加熱電流は、前記接続導体を通して折り返されて、前記外部導体と前記内部導体とで互いに逆向きに流されるよう構成されている熱陰極と、
(c)前記プラズマ生成室外の部分から前記熱陰極の内部導体内に原料ガスを供給して、当該原料ガスを前記内部導体内を通して前記内部導体の先端から前記プラズマ生成室内へ放出させるガス供給手段と、
(d)前記熱陰極との間で放電を生じさせる陽極を兼ねる電極であって、前記プラズマ生成室の一端部に、前記熱陰極の先端部に間隔をあけて対向するように配置されており、かつ前記熱陰極の内部導体の先端の正面にイオン引出し孔を有しているプラズマ電極を有していて、前記プラズマ生成室内のプラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系とを備えていることを特徴とするイオン源。
【請求項2】
前記熱陰極は、前記接続導体を有する代わりに、前記外部導体の先端部と前記内部導体の先端部とを電気的に直接接続していて、その接続部で前記加熱電流が折り返されるよう構成されている請求項1記載のイオン源。
【請求項3】
前記熱陰極の内部導体は、前記外部導体よりも融点の高い材料で形成されている請求項1または2記載のイオン源。
【請求項4】
前記プラズマ生成室内に前記熱陰極の内部導体の先端部の中心と前記プラズマ電極のイオン引出し孔の中心とを結ぶ線に沿う方向に磁界を発生させる磁気コイルを備えている請求項1、2または3記載のイオン源。
【請求項1】
(a)プラズマを生成するためのプラズマ生成室と、
(b)前記プラズマ生成室内に配置されていて、加熱電流が流されて前記プラズマ生成室内に熱電子を放出する熱陰極であって、中空の外部導体と、この外部導体の内側に同軸状に配置されている中空の内部導体と、この内部導体の先端部と前記外部導体の先端部との間に設けられていて両先端部間を電気的に接続する環状の接続導体とを有していて、前記加熱電流は、前記接続導体を通して折り返されて、前記外部導体と前記内部導体とで互いに逆向きに流されるよう構成されている熱陰極と、
(c)前記プラズマ生成室外の部分から前記熱陰極の内部導体内に原料ガスを供給して、当該原料ガスを前記内部導体内を通して前記内部導体の先端から前記プラズマ生成室内へ放出させるガス供給手段と、
(d)前記熱陰極との間で放電を生じさせる陽極を兼ねる電極であって、前記プラズマ生成室の一端部に、前記熱陰極の先端部に間隔をあけて対向するように配置されており、かつ前記熱陰極の内部導体の先端の正面にイオン引出し孔を有しているプラズマ電極を有していて、前記プラズマ生成室内のプラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系とを備えていることを特徴とするイオン源。
【請求項2】
前記熱陰極は、前記接続導体を有する代わりに、前記外部導体の先端部と前記内部導体の先端部とを電気的に直接接続していて、その接続部で前記加熱電流が折り返されるよう構成されている請求項1記載のイオン源。
【請求項3】
前記熱陰極の内部導体は、前記外部導体よりも融点の高い材料で形成されている請求項1または2記載のイオン源。
【請求項4】
前記プラズマ生成室内に前記熱陰極の内部導体の先端部の中心と前記プラズマ電極のイオン引出し孔の中心とを結ぶ線に沿う方向に磁界を発生させる磁気コイルを備えている請求項1、2または3記載のイオン源。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2010−267504(P2010−267504A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118264(P2009−118264)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
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