説明

イオン発生素子及びその製造方法

【課題】印加電圧を低くし、耐久寿命を長くする。
【解決手段】イオン発生素子10は、放電電極1と、誘電体2と、誘導電極3と、プライマー層4及びハードコート層5からなる表面保護層7と、裏面保護層6とを有している。誘電体2の一方の表面には、放電電極1が配置されており、他方の表面には、誘導電極3が配置されている。誘電体2の放電電極1が配置された表面には、プライマー層4が形成されており、プライマー層4の表面には、ハードコート層5が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除電機能、帯電機能及び環境改善機能を有するイオン発生装置のイオン発生素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、イオン発生装置は、イオン発生素子からイオンを発生させ、除電機能、帯電機能及び環境改善機能を有している。イオン発生素子は、誘電体を間に介して放電電極と誘導電極が表と裏に配設されており、両電極間に高周波の高電圧を印加することにより、放電電極において沿面放電を起こし、プラスイオンやマイナスイオンを発生させる。
【0003】
イオン発生素子の誘電体には、集成マイカ、ガラス、セラミックなどが使用され、放電電極及び誘導電極には、金属箔や導電性塗料が使用される。また、誘電体の放電電極が形成された表面及び放電電極には、放電電極の放電劣化による損傷、酸化防止や誘電体の吸湿防止のために、保護層となる絶縁性の樹脂材料がコーティングされている。保護層には、放電やオゾンによる劣化に強いガラス系やシリコン系のハードコート材を材料としたハードコート層が使用され、これにより長期に安定した放電が行われる。
【0004】
ここで、放電電極となる金属箔である導電性金属や導電性塗料は、自由電子が多く存在し、電子が飛び出しやすいが、ハードコート層となる樹脂材料は絶縁性であり、電子が飛び出しにくい。そのため、ハードコート層が使用されていると、印加電圧を高くして電子を放出させる必要があったが、印加電圧が高くなると保護層表面が放電劣化しやすくなるとともに、消費電力及びイオンとともに発生するオゾンが増加する。保護層の耐久寿命向上のため、保護層の膜厚を厚くすると、放電空間の電位差が小さくなるので、さらに印加電圧を上げなければならなくなってしまう。
【0005】
また、このようなハードコート層は、層内部や放電電極と接触する界面にピンホール、ボイド、クラックなどの欠陥が生じやすい。これらピンホール、ボイド、クラックなどの狭小空間には空気などが存在することになるが、空気のような誘電率の低いものが存在すると部分放電が生じてしまう。このため、この部分放電によって電力が余分に消費されてしまう。また、この部分放電によって放電劣化が促進され、イオン発生素子の耐久寿命がさらに短くなってしまう。
【0006】
そこで、特許文献1では、ハードコート層を複数回塗布することにより、ハードコート層に生じる厚みのムラ、ピンホール、ボイド、クラックなどの欠陥を修復し、ハードコート層を均一な厚みに形成して、イオン発生素子の耐久寿命を長くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−31606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のイオン発生素子では、複数回の塗布でハードコート層が厚くなる傾向があり、イオン発生を行うには、印加電圧を高くする必要があった。また、複数回塗布してハードコート層を形成したとしても、ハードコート層内部の修復しか行われず、放電電極とハードコート層の接触する界面の修復は行われないため、部分放電を防止することは困難である。すなわち、部分放電によって放電劣化が促進され、イオン発生素子の耐久寿命が低下するのを抑制するのは困難である。
【0009】
そこで、本発明の目的は、印加電圧が低く、耐久寿命が長いイオン発生素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のイオン発生素子は、誘電体と、前記誘電体の一方の表面に形成された放電電極と、前記誘電体の他方の表面に形成された誘導電極と、前記誘電体の一方の表面及び前記放電電極を覆う、絶縁性の保護層と、を備えている。前記保護層は、前記放電電極から発生したイオン、電子及びオゾンによる前記放電電極及び前記放電電極近傍の前記誘電体の劣化を防止するハードコート層と、少なくとも前記放電電極と前記ハードコート層との間に介在するプライマー層と、からなる。
【0011】
本発明のイオン発生素子によると、放電電極がハードコート層により覆われているため、放電電極から発生したイオン、電子及びオゾンによる放電電極の損傷、酸化及び放電電極近傍の誘電体の劣化を防止することができる。また、少なくとも放電電極とハードコート層との間にプライマー層が介在し、放電電極に接触するプライマー層の界面にボイドやクラックなどが形成されにくく、部分放電を低減することができる。これらより、印加電圧が低く、耐久寿命が長いイオン発生素子を提供することができる。
【0012】
また、前記プライマー層は、アクリル系またはエポキシ系の樹脂からなることが好ましい。
【0013】
加えて、前記プライマー層の粘度は、100cP以下であることが好ましい。さらに好適には、10cP以下であることが好ましい。これによると、放電電極の微細部及び放電電極と誘電体の界面部分の微細部までプライマー層が浸透し、放電電極とプライマー層との間に、より隙間が生じにくくなる。
【0014】
また、前記ハードコート層は、ガラス系またはシリコン系の樹脂からなることが好ましい。
【0015】
さらに、前記ハードコート層及び前記プライマー層の厚みは、それぞれ1〜10μmであることが好ましい。
【0016】
加えて、前記ハードコート層は、耐放電性、耐湿性、耐水性、耐候性、耐酸化性、耐オゾン性及び機械的強度に優れた補強剤を含むことが好ましい。これによると、イオン発生素子の耐久寿命をさらに長くすることができる。
【0017】
また、前記放電電極は、前記誘電体の面方向に突出した微細突起を有していることが好ましい。このような放電電極は、微細突起部に電界集中をより効果的に起こさせる利点がある一方、他箇所よりボイド、クラックなどの欠陥が生じやすい。これによると、プライマー層によりボイド、クラックなどの発生を抑制して、電極間への電圧印加時に微細突起に電界を効率よく集中することができ、低い印加電圧で効率よくイオンを発生することができる。
【0018】
本発明のイオン発生素子の製造方法は、誘電体と、前記誘電体の一方の表面に形成された放電電極と、前記誘電体の他方の表面に形成された誘導電極と、前記誘電体の一方の表面及び前記放電電極を覆う保護層と、を備えたイオン発生素子の製造方法であって、前記保護層は、前記放電電極から発生したイオン、電子及びオゾンによる前記放電電極及び前記放電電極近傍の前記誘電体の劣化を防止するハードコート層と、少なくとも前記放電電極と前記ハードコート層との間に介在するプライマー層と、からなり、前記プライマー層及び前記ハードコート層を、前記誘電体を溶液に浸漬した後、乾燥させることで順次形成する。
【0019】
本発明のイオン発生素子の製造方法によると、スクリーン印刷などにより保護層を形成する場合に比べて、放電電極と接触する界面、特に放電電極のエッジ部分においてもボイド、クラックなどの欠陥が生じにくく、部分放電を低減することができる。これらより、印加電圧が低く、耐久寿命が長いイオン発生素子を提供することができる。
【0020】
また、前記放電電極を、前記誘電体の前記一方の表面にエッチングにより形成することが好ましい。エッチングによる放電電極は、そのエッチング面に微細な凹凸が生じるため、ボイド、クラックなどの欠陥が発生しやすい。しかしながら、本発明のイオン発生素子の製造方法によると、ボイド、クラックなどの欠陥が生じにくく、また、誘電体に放電電極を確実に接着させることができ、電極間への低い印加電圧で効率よくイオンを発生することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のイオン発生素子によれば、放電電極から発生したイオン、電子及びオゾンによる放電電極の損傷、酸化及び放電電極近傍の誘電体の劣化を防止することができる。また、本発明のイオン発生素子によれば、放電電極に接触するプライマー層の界面にボイドやクラックなどが形成されにくく、部分放電を低減することができる。これらより、印加電圧が低く、耐久寿命が長いイオン発生素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るイオン発生素子の縦断面図である。
【図2】本発明に係るイオン発生素子の平面図である。
【図3】印加電圧と除電時間の関係を示すグラフである。
【図4】耐久試験の結果を示すグラフである。
【図5】走査型電子顕微鏡によるイオン発生素子の縦断面の写真であり、(a)は比較例2の場合であり、(b)は実施例1の場合である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図1及び図2を参照しつつ説明する。図1及び図2に示すように、イオン発生素子10は、放電電極1と、誘電体2と、誘導電極3と、プライマー層4及びハードコート層5からなる表面保護層7と、裏面保護層6とを有している。誘電体2の一方の表面には、放電電極1が形成されており、他方の表面には、誘導電極3が形成されている。誘電体2の放電電極1が形成された表面には、表面保護層7が形成されている。誘電体2の誘導電極3が形成された表面には、裏面保護層6が形成されている。
【0024】
誘電体2は、硬質マイカと接着剤とからなる集成マイカシートであり、厚さ70μmである。なお、誘電体2の厚さは、60〜90μmであることが好ましい。
【0025】
放電電極1及び誘導電極3は、ステンレス箔からなり、誘電体2の両面にステンレス箔を接着し、不要部分をエッチングにより除去することで、所望の形状に形成した。
【0026】
放電電極1は、厚さ20μmであり、図2に示すように、線状電極1aと、線状電極1aから誘電体2の面方向における長手方向と直交する短手方向に突出した複数の微細な三角形状の微細突起1bとを有している。複数の微細突起1bは、長手方向に沿って等間隔に線状電極1aの短手方向両側に2列の千鳥状に配置されている。なお、放電電極1の厚さは、15〜25μmであることが好ましい。
【0027】
誘導電極3は、厚さ20μmであり、誘電体2の放電電極1が形成された面と反対側の面に放電電極1と平行に2本形成されている。なお、誘導電極3の厚さは、15〜25μmであることが好ましい。
【0028】
裏面保護層6は、シリコン系樹脂からなり、誘導電極3が形成された誘電体2の表面に、誘導電極3を完全被覆するように厚さ30μmに形成されている。なお、裏面保護層6の厚さは、誘導電極3の厚さの1.5倍程度であることが好ましい。
【0029】
誘電体2の放電電極1が形成された表面には、厚さ4μmのプライマー層4が形成されている。本実施形態においては、プライマー層4は、アクリル系樹脂をコートして形成されている。例えば、プライマー層4の材料であるアクリル系樹脂としては、アクリルポリオールと多官有機イソシアネート化合物からなるプライマー組成物が挙げられる。具体的には、プライマー塗料であるアクリル系樹脂PH91(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)やプライマー塗料である99S−2(動研社製)が用いられる。
【0030】
プライマー層4は、ハードコート層5と放電電極1の間やハードコート層5と誘電体2の間に介在する層である。プライマー層4と放電電極1との間、及び、プライマー層4と誘電体2の表面との間には隙間がなく、ボイドやクラックやピンホールなどが形成されにくくなる。
【0031】
プライマー層4の表面には、厚さ4μmのハードコート層5が形成されている。本実施形態においては、ハードコート層5は、ボイドフリーのシリコン系樹脂をコートして形成されている。例えば、ハードコート層5の材料であるシリコン系樹脂としては、オルガノアルコキシシラン及び/またはその加水分解物からなるコーティング組成が挙げられる。さらに、場合によってはこれにコロイダルシリカからなる粒子成分を加えてもよい。具体的には、シリカ系ハードコート剤であるNSC−2000(日本精化社製)やガラス系コーティング材料であるスカイミックス(大阪有機化学工業社製)やガラス質ハードコート剤であるトスガード510(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)が用いられる。
【0032】
プライマー層4とハードコート層5は、各層毎に誘電体2へのデッピング塗布、乾燥を繰り返して成膜される。また、プライマー層4の粘度は100cP以下となっており、特に10cP以下が好適である。
【0033】
次に、具体的な実施例を比較例と合わせて図3及び図4を参照しつつ説明する。図3は印加電圧と除電時間の関係を示すグラフであり、縦軸に除電時間を示し、横軸に印加電圧を示している。図4は耐久試験の結果を示すグラフであり、縦軸に印加電圧を示し、横軸に除電時間を示している。
【0034】
厚さがともに4μmのプライマー層4とハードコート層5が形成されたイオン発生素子10を実施例1とする。また、プライマー層4とハードコート層5がどちらも存在せず、放電電極1が露出しているイオン発生素子を比較例1とし、プライマー層4が存在しておらず、放電電極1が形成された誘電体2の表面に、実施例1と同様のボイドフリーのシリコン樹脂からなるハードコート層を直接2μmコートしたイオン発生素子を比較例2とし、同ボイドフリーのシリコン樹脂からなるハードコート層を10μmコートしたイオン発生素子を比較例3とする。
【0035】
まず、実施例1及び比較例1〜3における印加電圧と除電時間との関連性について図3を参照しつつ説明する。なお、除電時間とは、イオン発生素子から5cm離れた位置に1,000Vに帯電させた15cm角のプレートを置いた後、イオン発生素子から放出されたイオンがこのプレートの電位を100Vに除電する時間である。
【0036】
図3に示すように、比較例1は、一番低い印加電圧で除電することができる。これは、比較例1は、放電電極1の上にプライマー層4とハードコート層5がどちらも存在しておらず、放電電極1は露出し、空気に直接触れており、放電電極1から空気へ電子が放出されやすいためである。例えば、比較例1において、1秒の除電時間でプレートの電位を100Vに除電するのに必要な印加電圧は、1.85kVpと実施例1及び他の比較例に比べて一番低い電圧である。
【0037】
しかしながら、詳しくは後述するが、比較例1では、電子やイオンが放電電極1に直接衝突するため、放電電極1及び放電電極1近傍の誘電体2に損傷が生じやすい。また、イオンの衝突などにより、放電電極1が酸化しやすい。これらの理由により、放電電極1及び放電電極1近傍の誘電体2が早く劣化してしまい、耐久寿命が短くなってしまう。
【0038】
次に、耐久試験について図4を参照しつつ説明する。これは、除電時間が1秒となるようにフィードバック制御した場合の印加電圧の推移を示しており、この印加電圧が3kVp以上となるとイオン発生素子の耐久寿命に到達したと判断する。図4に示すように、比較例1において、一番耐久寿命が短く、200時間程度となる。
【0039】
これらより、放電電極1の劣化を防止するためには、放電電極1の放電面に保護層が不可欠である。この保護層により、電子やイオンの衝突と、それに伴う酸化から放電電極1や放電電極1近傍の誘電体2を守ることができる。通常、保護層としては、ガラス系樹脂、シリコン系樹脂などのハードコート層が使用される。
【0040】
図4に示すように、比較例2は、比較例1に比べて寿命が延びており、500時間となる。しかしながら、図3に示すように、比較例2では、1秒の除電時間を得るのに2.26kVpの電圧を印加する必要があり、比較例1より約0.4kVp印加電圧を高くしなければならない。さらに、比較例3のように、ハードコート層5を厚くすると耐久寿命の延びは期待できるが、印加電圧をより高くする必要がある。
【0041】
そこで、実施例1のように、放電電極1とハードコート層5の間にプライマー層4を介した場合、図3に示すように、比較例2より低い印加電圧でイオンの発生が可能となり、1秒の除電時間を2.04kVpの印加電圧で達成できた。また、図4に示すように、耐久寿命も一番長く、2,000時間以上である。
【0042】
さらに、実施例1よりプライマー層4の厚さを厚くした例も検討した。厚さが10μmのプライマー層4と4μmのハードコート層5が形成されたイオン発生素子10を実施例2とする。実施例2の場合においても、比較例3より低い印加電圧でイオンの発生が可能となり、1秒の除電時間を2.3kVpの印加電圧で達成できた。
【0043】
このように、放電電極1とハードコート層5の間にプライマー層4を介在させることで、低い印加電圧でイオンの発生が可能となり、且つ、耐久寿命も長くなる理由について説明する。
【0044】
図5(a)に示すように、比較例2における放電電極1とハードコート層5の間には、プライマー層4が存在しないため、数百nm程度の隙間(点線で囲んだ領域の黒い部分)が生じている。この隙間には空気やハードコート層5の硬化後、ハードコート層5から染み出した残留溶剤ガス成分が存在することになり、この空気や前記ガスは放電電極1やハードコート層5より誘電率が低いため、電界が集中し電圧降下が生じ、この電圧降下の分だけ、イオン素子全体に余分な電圧を印加しなければならない。
【0045】
さらには、この隙間において部分放電が発生し、電子やイオンが隙間に放出または発生するため、ハードコート層5からの電子の放出、イオンの発生に悪影響を及ぼす。これにより、比較例2ではイオンを発生するために必要な印加電圧が高くなる。また、印加電圧が高くなると、耐久寿命が低下してしまう。
【0046】
さらに、部分放電により発生した電子やイオンが放電電極1、放電電極1近傍の誘電体2及びハードコート層5に損傷や酸化をもたらすため、耐久寿命が低下する。また、損傷が大きくなるにつれて、放電電極1とハードコート層5の間の隙間が大きくなることになり、部分放電がさらに発生する原因となり、耐久寿命がより低下する。
【0047】
実施例1においては、図5(b)に示すように、放電電極1とハードコート層5の間にプライマー層4が介在しており、放電電極1との界面、すなわち、放電電極1とプライマー層4の間には、図5(a)に示すような顕著な隙間が生じていない。また、プライマー層4が存在するため、ハードコート層5内部に生じるクラック、ピンホールが放電電極1まで連通することがない。これにより、部分放電によるイオン素子の損傷が避けられ、イオンを発生するための印加電圧を低く抑えることができ、耐久寿命を長くすることができる。
【0048】
図3の結果を実施例2と併せて表1にまとめる。表1中の除電電圧とは、イオン発生素子から5cm離れた位置に1,000Vに帯電させた15cm角のプレートを置いた後、素子から放出されたイオンがこのプレートの電位を100Vにする除電時間が1秒を示すイオン発生素子の駆動電圧である。比較例1が、一番低い除電電圧を示すが、放電電極1の保護に不可欠である保護層が存在しないため、耐久寿命が短くなってしまう。保護層が存在する、実施例1、実施例2、比較例2、比較例3間で比較すると、実施例1での除電電圧が一番低い。
【0049】
例えば、実施例1において、プライマー層4とハードコート層5から構成される保護層の厚みの合計が8μmであり、比較例2の保護層すなわちハードコート層の膜厚2μmより厚いのにかかわらず、実施例1での除電電圧の方が低い。これは、放電電極1に接触するプライマー層4の界面にボイドやクラックなどが形成されにくく、部分放電を低減することができ、印加電圧が低く、耐久寿命が長くなるためである。さらに、実施例2において、プライマー層4とハードコート層5から構成される保護層の厚みの合計が14μmであり、比較例3の保護層すなわちハードコート層の膜厚10μmより厚いのにかかわらず、実施例2での除電電圧の方が低い。
【0050】
なお、プライマー層4の厚みは1〜20μm、より好ましくは1〜10μmであることが好ましい。また、ハードコート層5の厚みは1〜10μmであることが好ましい。厚みがこれらの範囲では比較例3の場合より低い除電電圧を達成できた。プライマー層4の厚みが1μmより小さいと、電圧印加時の電気的、物理的な耐衝撃性が不十分であり、20μmより大きいと、プライマー層4形成時のレベリングが低下してしまうとともに、印加電圧を上げなければならなくなってしまう。
【0051】
【表1】

【0052】
なお、図2に示すように、放電電極1が特に微細突起をもって形成される場合、そこに電界が集中され、印加電圧が低くともイオンを発生することができる。しかしながら、このような微細突起は、プライマー層4がない場合、すなわち、ハードコート層5のみの場合は、図5(a)に示すように、放電電極1とハードコート層5の間にボイド、クラックなどによる隙間が放電電極1の他箇所より生じやすい。プライマー層4があれば、プライマー層4と誘電体2及び微細突起1bの間におけるボイド、クラックなどの発生を抑制でき、微細突起での電界集中がより効果的に起き、印加電圧を低下させることができる。放電電極1の形成方法としては、貼り付け後、エッチングを施す方法が、誘電体2に放電電極1を確実に接着させることができ、所望の形状を形成しやすい。
【0053】
また、プライマー層4の粘度は100cP以下と低いため、エッチング後の放電電極1の微細部分にまでプライマー層塗液が入り込み、放電電極1に接触するプライマー層4の界面にボイド、クラックなどが発生するのを低減し、部分放電を抑制することができる。これにより、放電電極1の微細突起1b近傍においては、低電圧駆動が顕著に向上することになる。プライマー層4の粘度が10cP以下の場合、前記微細部分までプライマー層塗液がより入り込みやすく、低電圧駆動がより顕著にあらわれる。
【0054】
本発明におけるイオン発生素子では、ハードコート層5及びプライマー層4を、これらの樹脂溶液に順番に誘電体2を浸漬して液を塗布した後、乾燥して形成している。本製造方法を用いることにより、プライマー層4内部、ハードコート層5内部、プライマー層4とハードコート層間の界面、プライマー層4と放電電極1間の界面、及びプライマー層4と誘電体2間の界面のボイド、クラックなどの欠陥をより効果的に防ぐことができる。特に、放電電極1の側面エッジ部分は微細な凹凸形状を有しており、ボイド、クラックなどの欠陥が生じやすい箇所であるが、樹脂液への浸漬による塗布後、乾燥による保護層の形成は、さらに界面におけるボイド、クラックなどの発生を抑制できる。
【0055】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0056】
保護層は、一層のプライマー層4と一層のハードコート層5から構成されていなくても、それぞれが複数の層であってもよい。
【0057】
また、誘電体2は、集成マイカシートに限らず、セラミックス、ガラス、ポリマーなどであってもよい。
【0058】
また、放電電極1を構成する材料は、ステンレスでなくても、銅やカーボンブラックなど導電性を有するものであればなんでもよい。また、図2の寸法、形状の微細突起でなくとも電界を集中できる構造であればなんでもよい。さらには、電界を集中することができる構造を有していなくとも、該放電電極から電気力線を発するまたは吸収する構造であればよい。電極を形成する方法においても、マスクを用いた真空蒸着法やスパッタリング法であってもよい。
【0059】
さらに、本実施形態では、プライマー層4としてアクリル系樹脂を用いたが、エポキシ系樹脂やナイロン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂など、ハードコート層5のプライマーとしての働きを持つ材料であれば何でもよい。
【0060】
加えて、本実施形態では、ハードコート層5としてシリコン系樹脂を用いたが、ガラス系樹脂やアクリル系樹脂、フェノール系樹脂など、放電電極から発生するイオン、電子やオゾンによる放電電極自身の損傷、酸化を防止するものならば何でもよい。
【0061】
また、ハードコート層5には、微粒子やフィラーなどの補強剤が混入されていてもよい。この補強剤は、ハードコート層5の耐放電性、耐湿性、耐水性、耐候性、耐酸化性、耐オゾン性、機械的強度を良好にすることを目的としており、この補強剤を混入することで、イオン発生素子の耐久寿命を延ばすことができる。補強剤の材料としては、酸化セリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、フッ素系微粒子などが挙げられる。具体的には、T−1(三菱マテリアル社製)や低分子4フッ化エチレン(PTFE)粉末であるルブロンL−5(ダイキン工業製)が用いられる。
【0062】
本実施形態では、裏面保護層6としてシリコン系樹脂を用いたが、誘導電極3ではほとんどイオン発生が行われないため、裏面保護層6は、素子のハンドリング、取り付け時の電極破損防止、高湿時の誘電体への水分の浸透防止ができ、誘導電極を十分被覆できる材料であればよい。例えば、アクリル系樹脂やポリイミド系樹脂であってもよい。
【0063】
さらに、プライマー層4は、デッピング法に限らず、スピナー法やスプレー法などの公知の方法で適宜形成可能である。
【0064】
また、微細突起1bの形状と配置は、図2に示すようなものでなくても、イオン発生可能な形状と配置であれば特に制限されるものではない。微細突起の形状は、波状、円状、櫛形、格子状などでもよく、微細突起の配置は、図2に示すような2列の千鳥状でなくてもよく、例えば、一列に配置されていてもよい。また、微細突起1bの例として、底辺の長さL及び高さHは、0.01mm以上10mm以下であることが好ましい。形状は上述のように、波状、円状、櫛形、格子状など、その他の形状でもよいが、これらの長さや高さは上記に準ずることが好ましい。
【符号の説明】
【0065】
1 放電電極
2 誘電体
3 誘導電極
4 プライマー層
5 ハードコート層
6 裏面保護層
7 表面保護層
10 イオン発生素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体と、
前記誘電体の一方の表面に形成された放電電極と、
前記誘電体の他方の表面に形成された誘導電極と、
前記誘電体の一方の表面及び前記放電電極を覆う、絶縁性の保護層と、を備えており、
前記保護層は、前記放電電極から発生したイオン、電子及びオゾンによる前記放電電極及び前記放電電極近傍の前記誘電体の劣化を防止するハードコート層と、少なくとも前記放電電極と前記ハードコート層との間に介在するプライマー層と、からなることを特徴とするイオン発生素子。
【請求項2】
前記プライマー層は、アクリル系またはエポキシ系の樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載のイオン発生素子。
【請求項3】
前記プライマー層の粘度は、100cP以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のイオン発生素子。
【請求項4】
前記ハードコート層は、ガラス系またはシリコン系の樹脂からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオン発生素子。
【請求項5】
前記ハードコート層及び前記プライマー層の厚みは、それぞれ1〜10μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のイオン発生素子。
【請求項6】
前記ハードコート層は、耐放電性、耐湿性、耐水性、耐候性、耐酸化性、耐オゾン性及び機械的強度に優れた補強剤を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のイオン発生素子。
【請求項7】
前記放電電極は、前記誘電体の面方向に突出した微細突起を有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のイオン発生素子。
【請求項8】
誘電体と、前記誘電体の一方の表面に形成された放電電極と、前記誘電体の他方の表面に形成された誘導電極と、前記誘電体の一方の表面及び前記放電電極を覆う保護層と、を備えたイオン発生素子の製造方法であって、
前記保護層は、前記放電電極から発生したイオン、電子及びオゾンによる前記放電電極及び前記放電電極近傍の前記誘電体の劣化を防止するハードコート層と、少なくとも前記放電電極と前記ハードコート層との間に介在するプライマー層と、からなり、
前記プライマー層及び前記ハードコート層を、前記誘電体を溶液に浸漬した後、乾燥させることで順次形成することを特徴とするイオン発生素子の製造方法。
【請求項9】
前記放電電極を、前記誘電体の前記一方の表面にエッチングにより形成することを特徴とする請求項8に記載のイオン発生素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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