説明

イオン移動度分光計

イオン移動度分光計は、静電ゲート(21)によってドリフト領域(20)から分離された反応領域(5)を有する。ドーピング回路(8)が、反応領域(5)にドーパントを供給するが、ドリフト領域(20)はドープされない。2つの高電場イオンモディファイア(30、31)が、ドリフト領域(20)に前後して設けられている。ドリフト領域に入ったイオンからドーパント付加体を除去するために、一つのモディファイア(30)を用いることができ、又は、両方のモディファイア(30、31)を用いて、イオンをフラグメント化することができる。このようにして、幾つかの異なる反応を生じさせることで、測定物質の性質に関し、追加の情報を提供し、干渉物質から識別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリフト領域と反応領域を有するイオン移動度分光計に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン移動度分析は、火薬や、有害な化学薬品や、その他の気体の存在を検出するために一般的に用いられる技術である。イオン移動度分光計(IMS)は、一般的に被測定物質又は検体を含んだ空気のサンプルがガス又は蒸気として連続的に供給される検出セルを備える。このセルは、大気圧近傍で動作し、セルに沿って電圧勾配を生成するために電圧が印加される電極を有している。例えば放射線源、紫外光源、又はコロナ放電等によって大気サンプル中の分子がイオン化され、セルの一端に設けられた静電ゲートによってセルのドリフト領域へ移動させられる。イオン化された分子は、セルの反対端に向かってイオンの移動度に依存した速度でドリフトする。セルに沿った飛行時間を測定することによって、イオンを同定することができる。
【0003】
非ドープ型IMSシステムにおいて、高い電場によってイオンが変化するような環境下で、特定の神経ガスが、同定可能な絶縁破壊ピークを生成することが明らかになっている。これが、スペクトルから得られる情報を増加させ、検体検出の信頼性を高めている。
【0004】
類似のスペクトル出力を生成する干渉物質を識別するために、ドーパント物質を検体物質に加えることで検出感度を高めることは、一般的な方法である。非ドープとドープした検体物質に対して、同定可能なスペクトルピークのペアが生成されるように、対象物質と組み合わせるためのドーパントが選択される。ドーパントは、また、干渉物質と組み合わされないように、又は、対象物質と異なる容易に識別可能な出力を生成するような組み合わせとなるように選択される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドープするシステムにおいて、イオン変化が不可能であることが明らかになっている。その代わりに、イオン変化プロセスは、イオン自身に変化を生じさせることなく、特定のイオンからドーパント付加体を除去する。これは、イオンがモディファイアを通過する場合にのみ、イオンからドーパント付加物が除去され、さらにイオンを変化させるには不十分な距離しかモディファイアに残っていないためである。イオンモディファイア領域にはドーパントが存在しない場合のみ、付加物が除去されたイオンはその状態を維持するが、さもなければ、再結合が生じる。
【0006】
本発明の目的は、代替的なイオン移動度分光計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様では、分光計は、反応領域をドープし、ドリフト領域をドープしないように設けられ、また、分光計は、イオン流路に沿って前後に設けられた少なくとも2つの選択的に動作可能なイオンモディファイアを有し、少なくとも1つの前記モディファイアが、ドーパント付加物をイオンから除去するために働くことを特徴とする上記で特定した種類のイオン移動度分光計が提供される。
【0008】
好ましくは、少なくとも1つのイオンモディファイアが、イオンをフラグメント化するのに十分な高電場を生成できるように設けられている。代替的に、少なくとも1つのイオンモディファイアが、イオンをフラグメント化するのに十分な温度にまで上昇させるように設けられていても良い。好ましくは、分光計は、あらゆるドーパントをドリフト領域から除去するための、ドリフト領域を通るフィルタ処理をしたガス流路を備える。分光計は、
ドーパント蒸気をドリフト領域に隣接した反応領域に供給し、ドーパントがドリフト領域から流れ去るように、反応領域の対向端でドーパントを除去するように設けられたドーピング回路を備えることができる。分光計は、反応領域とドリフト領域の間に設けられた静電ゲートを備えることができる。既知の干渉物に相当するピークの検出に対応してイオンモディファイアを動作させ、その後ドーパント付加物を除去するように分光計を設けることができる。両方のイオンモディファイアがオフの時に第一出力を得て、1つのイオンモディファイアのみがオンの時に第二出力を得て、両方のイオンモディファイアがオンの時に第三出力を得るように、分光計を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る分光計の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
分光計は、左手端に注入口2を備えた筒状のドリフトセル1を有し、サンプル検体ガス又は蒸気が、注入口2を通り、例えば薄膜又はピンホール等の選択的なバリア(図示せず)を介してセル1に進入する。注入口2は、例えばコロナイオン化点や放射線源、紫外線光イオン化源といった従来型のイオン化源4を備えたイオン化領域3に向かって開いている。イオン化領域3は、イオン化源4によって生成されたイオンが検体分子と反応する反応領域5に向かって開いている。反応領域5は、領域に沿って分けられ、電圧源7によって駆動されて、イオンを右に向かって引き出すように領域に沿って電圧勾配を生成する、いくつかの電極対6を有する。反応領域5は、従来型のドーパント源9とポンプ10とを備えたドーピング回路8と、反応領域5は接続されている。ドーピング回路8の排出口11は、反応領域5の右手端でドリフトセル1と接続されている。ドーピング回路8の注入口12は、反応領域5の左手端に接続されており、ドーパントガスが右から左へ反応領域5に沿って流れるようになっている。
【0011】
反応領域5の右手端は、従来型の静電ゲート21を経由してドリフト領域20と連通しており、静電ゲート21によって、反応領域5からのイオンがドリフト領域に進入したり、ドリフト領域から排除される。静電ゲート21の動作は、処理ユニット22によって制御されている。ドリフト領域20は、イオンコレクタ又は検出器プレート23を備え、そのコレクタプレート23の出力は、処理ユニット22の入力と接続されて、通常の方法において、コレクタプレート23に入射したイオンの出力スペクトルを生成する。出力はディスプレイ24又は他の利用手段に供給される。ドリフト領域20に沿って隔てられた電極対25は、電圧源26に接続されて、イオンを左から右のコレクタプレート23に向かって引き出すためのドリフト領域20の長さ方向に沿った電圧勾配を供給する。
【0012】
2つのイオンモディファイア30、31がドリフト領域20の内側の静電ゲート21に直接隣接して設けられており、それぞれがドリフトセル1の軸方向に沿ったイオン流路の横断方向に延在する一対の平行な電極グリッドの形状をしている。イオンモディファイア30、31のグリッドの構造は、イオンがそれらを自由に通過できるようになっており、この点において、グリッドは好ましくはイオンが流れるための空間を有する電気伝導性ワイヤのメッシュからなる。イオンモディファイア30、31は、処理ユニット22と接続されて、処理ユニット22は、例えばイオンのフラグメント化のような、グリッド間の空間に存在するあらゆるイオンの性質を変化させるのに十分な高電圧を、グリッド間に加える働きをする。この高電場のもう1つの効果は、ドーパント付加物をイオンから除去することである。代替的なイオンモディファイアとしては、例えば加熱や、輻射や、放電や、磁場又はレーザーを用いることができる。図示のイオンモディファイア30、31は互いに接近しているが、互いに隔てられていても良く、下流になる右手側モディファイアは、ドリフト領域20に沿って距離をおいて設けられても良い。
【0013】
コレクタプレート23に隣接してセル1に注ぐ流出口33を有する空気流入システム32によって、清浄で乾燥した空気がドリフト領域20に沿って循環している。この空気流入システム32の流入口34は、静電ゲート21の左に位置している。この空気流入システム32は、ポンプ35と、流入口34と流出口33とに直列に接続されたモレキュラーシーブ36からなるフィルタと、を有している。従って、空気はドリフト領域20に沿って左から右に向かって流れるように循環し、モレキュラーシーブ36の作用によって乾燥され、清浄化される。この空気流入システム32は、反応領域5から浸入してきたあらゆるドーパント蒸気を除去するのに効果がある。このようにして、反応領域5はドープされ、ドリフト領域20はドープされないようになっている。
【0014】
動作中、検体サンプル蒸気が流入口2を通ってドリフトセル1に進入し、反応領域5においてドープされ、イオン化される。得られたイオンは、次に電極対6によって形成された電場によって静電ゲート21に向かって移動させられる。ドープされたイオンは、処理ユニット22の制御の下で、静電ゲート21によって移動させられ、ドリフト領域20に入る。通常の動作において、イオンモディファイア30、31が電圧を印加されていない状態で、ドープされたイオンはドリフト領域20に沿ってコレクタプレート23まで移動し、対応した応答が処理ユニット22で生成される。しかし、もし出力が既知の干渉物のピークを含んでいた場合、イオンモディファイア30、31がオンされて、動作可能の状態になる。この効果としては、上流において左手のモディファイア30がそこを通過するイオンからあらゆるドーパント付加物を除去する。次に、いまやドープされていないイオンが、下流のモディファイア31を通過し、そこでイオンはフラグメント化又は他のイオン化学的変化を生じさせられる。ドリフト領域20はドープされていないので、ドープされていなくて変化させられたイオンは、いかなるドーパントにも晒されることなくドリフト領域20に沿って移動する。これが、コレクタプレート23における出力応答の変化をもたらし、対象物の検体物質によって生成された応答と、干渉物の応答とが、イオンモディファイア30、31がオンの時に、一般的に異なって現れる。従って、検体物質とその干渉物を用いる前に、装置を特徴化することによって、検体物質とその干渉物を識別することが可能である。
【0015】
コレクタプレート23の出力が初期的に1つのモディファイア30のみをモニタすることで、変化のみをドーパント付加物から取り出すようにシステムを設定することが出来る。次に、第二のモディファイア31をオンする。このようにすることで、3つの異なる出力を生成することができる。第一は、どちらのモディファイアもオフの時の、ドープされたイオンに由来する出力であり、第二は、1つのモディファイアをオンした時の、ドープされず、変化もしていないイオンに由来するものであり、第三は、両方のモディファイアをオンした時の、ドープされず、変化したイオンに由来するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパントでドープされた反応領域(5)と、ドープされないドリフト領域(20)がそれぞれ設けられ、かつ、
少なくとも2つの選択的に動作可能なイオンモディファイア(30、31)がイオン流路に沿って前後に設けられたイオン移動度分光計であって、
前記イオンモディファイア(30、31)の少なくとも1つが、イオンからドーパント付加物が除去されるために、動作されることを特徴とするイオン移動度分光計。
【請求項2】
前記イオンモディファイア(30、31)の少なくとも1つが、イオンをフラグメント化するのに十分な高電場を生成させるように、設けられていることを特徴とする請求項1に記載のイオン移動度分光計。
【請求項3】
前記イオンモディファイア(30、31)の少なくとも1つが、イオンをフラグメント化するのに十分な高温を生成させるように、設けられていることを特徴とする請求項1に記載のイオン移動度分光計。
【請求項4】
前記イオン移動度分光計には、前記ドリフト領域(20)を流れるフィルタ処理したガス流路(32)が設けられて、前記ドリフト領域(20)からあらゆるドーパントが除去されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のイオン移動度分光計。
【請求項5】
前記反応領域(5)に供給されたドーパント蒸気が、前記ドリフト領域(20)に流れ込まないように、前記反応領域(5)の対向端で除去するドーピング回路(8)が、前記イオン移動度分光計に設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のイオン移動度分光計。
【請求項6】
前記イオン移動度分光計が、前記反応領域(5)と前記ドリフト領域(20)との間に設けられた静電ゲート(21)を有していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のイオン移動度分光計。
【請求項7】
前記イオンモディファイア(30、31)が既知の干渉物に対応したピークの検出に応じて動作して、ドーパント付加物が除去されるように、前記イオン移動度分光計が設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のイオン移動度分光計。
【請求項8】
前記イオンモディファイア(30、31)の両方がオフの時に、第一出力が導出され、前記イオンモディファイア(30、31)の1つのみがオンの時に、第二出力が導出され、かつ、前記イオンモディファイア(30、31)の両方がオンの時に、第三出力が導出されるように、前記イオン移動度分光計が設けられていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のイオン移動度分光計。

【図1】
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【公表番号】特表2010−521043(P2010−521043A)
【公表日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552270(P2009−552270)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際出願番号】PCT/GB2008/000759
【国際公開番号】WO2008/110754
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(507235789)スミスズ ディテクション−ワトフォード リミテッド (25)
【Fターム(参考)】